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281 名前: ◆NAZC84MvIo[sage] 投稿日:2011/07/08(金) 20:20:09.77 ID:L4qz/PaU0 [1/2]
「七夕か・・・」
言わずと知れた有名な催しである。短冊に願い事を書いて笹に飾り、神様に願い事をする。
その神様とは織姫と彦星で、恋人でありながら一年に一度、この日しか会えないという話である。
七月七日の夜、晴れればその願いをかなえてくれるという。
なぜ曇りや雨だとダメかというと、晴れていないと二人は会えないらしく、
そんな時に願い事をされても、腹立たしくて叶えてやる気になれないからだそうだ。
逆に晴れたら叶うといっても、叶えてくれるのは今日以外の364日間のどこかでというで、
どうやら下界の人間の願いをかなえてやりながら一年に一度の逢瀬の日を待ってるらしい。
「つまりは神様の暇つぶしってことだ」
詳しいエピソードを知ってから、俺はこの日を楽しめなくなった。
もうそんな年じゃないっていうのも大きいが、
小さいころ真剣に願ったあの気持ちをバカにされたような気がするのだ。
「いくらなんでもあんまりじゃね?恋人に会えない時の退屈しのぎって」
大体この梅雨時、晴れることの方が珍しいんだから無駄だろう。
そう思うならやらなければいいだけの話だが、お袋がわざわざ皆の分の笹と短冊を買ってきたんだ。
各自部屋の窓に飾れとのお達しだ。
「どうしたもんかね」
バカバカしいとも思いながらも、いざ願い事を書くとなると悩むな。
しかもいつ叶うともしれぬ願い事だ。
「昔はなんて書いてたっけ・・・」
小さい頃――小学校の低学年の頃か、家族で何かやったな、そういえば――
―――――
「家族みんなが健康で幸せでありますようにっと」
「お前がそれを書いてしまったら、俺の書く事がなくなってしまうではないか」
「あら、いいじゃないですか。同じ願い事でも」
「む・・・」
「同じ願い事するなんてもったいないよ!」
「そーだよ!せっかくの“ちゃんす”なのに!」
「いいのよ、お父さんもお母さんも本当にそれが一番の願いなんだから!」
「そーなの?」
「そうよ、それに二人で同じ願い事をしておけば、どっちかの願いが叶ったら両方の願いが叶うでしょ」
「ああ!そっかーっ!!」
「京介はどんな願い事をしたの?」
「ん~考え中」
「あら?書き直すの?」
「うん。きりのはなんて書いたの?」
「ひみつだよ~」
「ケチ!教えろよ!」
「やーだよ~、おんなにはひみつのひとつやふたつくらいあるもので~す」
「それじゃおれが願い事かけないだろ!」
「え~?なんで?」
「そ、それは・・・、いいよ!きりのが秘密にするんならおれだって秘密だ!」
「な~に二人とも、どんな願い事をするつもりなの?」
「それは・・・」
―――――
今思い返せば、大切な願い事をあんなものにするとは呆れたシスコンだな・・・
だが、まあいい。それこそ今さらだ。今の俺だって同じ願い事をするだろう。
あいつのことが嫌いだろうと、あいつが俺のことを嫌いだろうと、
兄貴として妹の悲しむ姿なんて見たくない。ただそれだけだ。
あいつが何を願い、何を望み、何を思っているかなんて知ったこっちゃない。
それでも、いや、それだからこそ俺の願い事は変わらない。
今の俺は、あいつを面と向かって応援する自信なんて持ってない。
だから俺は神頼みするしかないんだろうな・・・
さっさと書いて飾ってこんなイベントは終わらせよう。
叶ったかどうかも判断できない願い事だ。だけどそれでいいさ。どうせ俺の事じゃない。
短冊にペンを走らせ、昔と一字一句たがわぬ願い事を書く。
「頼むぜ、神様」
――桐乃の願いが叶いますように
京介――