高坂京介は落ち着かない05

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高坂京介は落ち着かない05」(2011/11/24 (木) 07:30:06) の最新版変更点

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時の流れは早いもの。月日は瞬く間に過ぎた。 春四月。 地元の志望校へ無事合格を果たした俺は、あと何日かで晴れて大学生になる。 新生活の節目を迎えようという今日、俺と加奈子は―― じつはケンカしてたりする。 いや、ケンカってほど大した事じゃない。あいつがちょっとヘソを曲げてるだけなんだが。 これがまた、微笑ましくも手強くて参ったもんだ。 「おっす、加奈子、お前のが早く来てるなんて珍しいな」 「……はよ」 これである。 可愛くねー!と言ってやりたい気持ちと、そんな不景気な面も可愛いなとからかってやりたい気持ちが相半ばする。 こうしてデートに繰り出すのも何回目だろう。 いちいち数えてられんくらいには二人一緒に居るのが馴染んできた。 いまの加奈子のご立腹がどれだけか正確には測れないが、今日も小洒落た格好で来てるところからすると、出掛けるのを楽しみにしてくれてはいるようだ。 もしかして拒否られるんじゃ…と、恐る恐るの内心をひた隠しに小さな手を取る。 僅かな静止。 のち、加奈子はチラと視線を寄越して普段通りに俺の手を握り返した。 自然と安堵の溜め息を漏らしていると、ご機嫌ナナメの姫君から叱責のお言葉。 「なに安心してんのよ。言っとくけど、加奈子まだ怒ってんだからね」 拗ねた様子にもかかわらず、俺たちは全くもっていつも通りの距離感で歩む。 申し合わせた訳でもないが、たまたま二人とも朝は抜いていたためカフェで軽食タイムに。 日曜であり、さらに春休みとあって、俺らと同年代の客が多く入っている。 「さてと、じゃぁ聞かせてもらおうじゃない。なんでこないだはアタシの誘い蹴ってあやせと街にいたワケ?」 「話せば長いことながらだな…」 「余計なボケはいらないから。」 「つれねぇやつー」 そんなシリアスにとるような中身でもないんだ。そう前置くと、無言で先を促された。 「前からの約束で買い物に行っただけだって。疚しいことはございません、だ」 「でも…」 ? 適当な言葉が浮かばないのか少し言い淀んで、加奈子は続ける。 「聞いてない。言ってくんなかった」 どうも、ただ買い物に行くだけなら何故一言断らなかったか、自分も一緒じゃ不都合だったのかと言いたいらしい。 やけにたどたどしく主張して、加奈子、怒ってるというより沈んでいる……んだろうか。 さすがに悪い事をしたと胸が痛む。 話さなかったのは、今日のために加奈子への贈り物を買いに行っていたから。 ただ俺のセンスだけでは不安でアドバイザーをあやせに頼んでいた、というのが事の顛末である。 恥ずかしながら事情を加奈子に打ち明けた。 あの程度でここまで凹まれるとは思いもよらなかったが、 怒らすならまだしも悲しませたとあっては俺の配慮が足りなかったと反省する他ない。 「というわけだ。スマン!」 思い切りよく頭を下げる。 馬鹿の一つ覚えと言うなかれ。いや言われても仕方無いが。 加奈子は幾らか溜飲を下げたようで、それでもまだ眉を八の字にしてツンツンしている。 「それにしたってさあ、加奈子本人をほっぽってあやせといくことなくない?」 「あぁ、悪かったよ。ホワイトデーの時みたく当人同士でって考えなくもなかったんだけどな…」 つい先日の回想が脳裏に浮かぶ。 あの日、俺がツッコミ役をしなきゃ、こいつはどんな「お返し」を用意してきたことか。 物思いに耽っていると、今度は正面の加奈子から盛大な溜め息。 「そ、そこまで責めんでも。勘弁してくれ、反省はしてる」 「……今のは別に、京介を責めてるとかじゃなくて……」 まだ何か言い切れない部分があったらしく、やりづらそうな顔でワシワシと頭を掻いている。 ついぞ見たことのない雰囲気。 このさき発せられる言葉に俺は姿勢を新たにする。 「前にもちょっと話したけど、アタシって自分で思ったより重い女かなぁ、…なんて、実感しちゃったり」 「んなことはないと思うぞ。前にも言ったけど」 「京介があやせと二人で買い物にいくだけで耐えらんない、短気な女だけど」 「まぁ、そういうものなんじゃねえの、一般的に。好いた惚れたってのは」 かく言う俺も、仮に加奈子が俺の知らないところで他の野郎と親しくしてたら取り乱すろうしな。間違いなく。 「でも、彼氏でもない男相手にだよ…?」 言わんとするところはわかるつもりだ。 だが、俺はそこに引け目を感じてほしくなかった。だから 「ok,ちょっと黙れ。こいつを受け取ってもらおう。せっかく買ってきたんだ」 カバンから小さな包みを取り出す。 プレゼントっつーにはやや大袈裟なぐらいの、あまり飾り気のない腕時計。 「俺のとペアなんだけどな。危うく男物の買っちまうとこだった。連れのお陰で寸前で回避したもんさ」 「連れとかー」 「おまえ今日は神経質すぎ。他意はねぇって。ホラ、着けて見せてくれ」 「うん」 加奈子が腕時計の包装を開ける間に、自分の腕に巻いたソレに一瞥をくれる。 『11:55am』 「わりと好みかも」 「そいつぁ良かった」 渡した時計に柔らかな笑みを浮かべる加奈子に、充足感が胸を満たす。 「でだ。さっきの、あやせのことだけどな」 「…うん」 「お前がそこまで抵抗あるなら、無断で二人で買い物とかは控えるから。安心しる」 「(しる…?)そんな言っちゃっていいの?」 「約束するよ」 「でも京介って、あやせのこと滅茶苦茶タイプって聞いてるけど。結構しつこくからんでたらしいじゃん」 誰が話したんだ、そんなん。まさか…あやせ本人か…? 「まぁ、確かにあやせたんはマジ天使だと今でも思ってるが」 「うへぇ……それ引くって、本気で。しかも結婚してくれとか言ったりもしたんでしょー」 い、一番聞かれてはならん人間の一人に伝わってたなんてな… いや気を取りなおせ。今はそれどこじゃない。 「撤回する、二度と言わない」 「ふーん。どうだか」 加奈子がヤレヤレの仕草で苦笑するので、満を持して俺は言う。 「結婚してくれなんていう相手は一人いれば充分だ。だろ?」 「ふぇ?」 「加奈子。俺の彼女になってほしい。結婚を前提に付き合わないか」 加奈子が固まった。 10秒が経ち、20,30……たっぷり一分以上オブジェのように硬化している。 そして時は動き出す。 「えぇと――エイプリルフール?」 「ん、今日は四月一日に違いないが、ネタでこうは言わないっつの」 それにだ 「だいいちエイプリルフールのドッキリが通用するのは正午までって決まってる」 告げると加奈子は素早くさっき腕に巻いたばかりの時計に目を走らせた。 「午後、だ」 「ああ」 我ながらなんちゅー滑稽なやり取りかと思う。 思うが、愛の告白なんてのは必ずしもロマンチックとは限らない。これくらいサバサバしててもいいだろう。 でないと俺自身あまりに恥ずくて耐えられんっ 「その、だいぶ待たせた……いつかの返事はもう決めてたが、やっぱしこういうのは俺から改めて言うべきかってな」 「ホントだよ、正直待ちくたびれて切なかったぞー」 「…泣くなって」 「ばか。こんなときくらい好きに泣かせろ」 泣き笑いの加奈子に、テーブル越しに小突かれる。そうこなくちゃな。 ちっと人目を集めすぎた、俺たちは飲み食いもそこそこに店を後にする。 「ついては今後の付き合いに関して話しとくことがある」 「あ、ん、なに」 ふわふわとした足取りで加奈子。こいつ大丈夫かぁ? 「これも言わないままにしててスマンが、大学通うのに家出ることにしたんだわ、俺」 「マジで?」 「マジです。この機に自立性を養うとかいう名目が半分、あと半分は言わなくてもわかってくれんだろ」 「え~と……」 「わかれよ、そんぐらいは。いつまでも親元で暮らしてちゃ逆に不自由もあるってこった。色々と、な?」 「色々と……!!……そっか、そういう…」 ようやく理解が及んだっぽい。慌てるさまがなんとも加奈子らしい 「お前のそんな鈍いとこも好きだぞ、うん」 「なにそれ微妙に喜べねー」 じゃれてくる加奈子を軽く制して、取り出したるは…… 「本日のプレゼント第二段だ。まだ引越しは済ませてねーけど、落ち着いたら遊び来いよ」 ありふれた形の、それでも特別な意味を持つ、銀色の鍵。 「ありがと……ぜってー行くから。もう毎日通うから」 「いや毎日はさすがに」 「え~~」 弾む足取りの加奈子をどうどうと宥めつつ、何となく通りの公園に寄った。 「とうとう恋人かぁ」 「そだな。つっても、ここしばらくの俺たちって実質付き合ってるようなもんだった気もするが」 「でも、だって『ようなもん』とじゃ大違いじゃん」 そりゃまあ。 「強いて言うと、もっと流れとか場所とかこだわるべきだったかもしれん。そこまで余裕がなかったわ」 「あの、プロポーズ?」 「プロポーズ、になるか。やっぱ」 「それ以外の何でもないって。心臓が飛び出るかと思ったもん」 まだ興奮冷めやらぬ様子で、加奈子は言う。 「京介。アタシのほうこそ改めてヨロシク。重い女だけど、そこは覚悟しろーってことで」 「まぁだ言ってんのか。重かないって……言ってる、だろ!!」 「うひゃっ」 あまりしつこいから、抱き上げてやる。 「どうよ、軽い軽い~」 「こらぁ、まーわーすーなー」 実のところ加奈子をどうこう言えないくらい浮かれていた俺は、所謂お姫様だっこのままグルグル…グルグルと… 二人揃って多幸感に笑いを張り上げ、 じきに回りすぎて気持ち悪くなって、また笑った。 俺をその気にさせたんだ、覚悟するのはお前のほうだ。 言ってやろうとしたんだが、ま、そのうち… おしまい
時の流れは早いもの。月日は瞬く間に過ぎた。 春四月。 地元の志望校へ無事合格を果たした俺は、あと何日かで晴れて大学生になる。 新生活の節目を迎えようという今日、俺と加奈子は―― じつはケンカしてたりする。 いや、ケンカってほど大した事じゃない。あいつがちょっとヘソを曲げてるだけなんだが。 これがまた、微笑ましくも手強くて参ったもんだ。 「おっす、加奈子、お前のが早く来てるなんて珍しいな」 「……はよ」 これである。 可愛くねー!と言ってやりたい気持ちと、そんな不景気な面も可愛いなとからかってやりたい気持ちが相半ばする。 こうしてデートに繰り出すのも何回目だろう。 いちいち数えてられんくらいには二人一緒に居るのが馴染んできた。 いまの加奈子のご立腹がどれだけか正確には測れないが、今日も小洒落た格好で来てるところからすると、出掛けるのを楽しみにしてくれてはいるようだ。 もしかして拒否られるんじゃ…と、恐る恐るの内心をひた隠しに小さな手を取る。 僅かな静止。 のち、加奈子はチラと視線を寄越して普段通りに俺の手を握り返した。 自然と安堵の溜め息を漏らしていると、ご機嫌ナナメの姫君から叱責のお言葉。 「なに安心してんのよ。言っとくけど、加奈子まだ怒ってんだからね」 拗ねた様子にもかかわらず、俺たちは全くもっていつも通りの距離感で歩む。 申し合わせた訳でもないが、たまたま二人とも朝は抜いていたためカフェで軽食タイムに。 日曜であり、さらに春休みとあって、俺らと同年代の客が多く入っている。 「さてと、じゃぁ聞かせてもらおうじゃない。なんでこないだはアタシの誘い蹴ってあやせと街にいたワケ?」 「話せば長いことながらだな…」 「余計なボケはいらないから。」 「つれねぇやつー」 そんなシリアスにとるような中身でもないんだ。そう前置くと、無言で先を促された。 「前からの約束で買い物に行っただけだって。疚しいことはございません、だ」 「でも…」 ? 適当な言葉が浮かばないのか少し言い淀んで、加奈子は続ける。 「聞いてない。言ってくんなかった」 どうも、ただ買い物に行くだけなら何故一言断らなかったか、自分も一緒じゃ不都合だったのかと言いたいらしい。 やけにたどたどしく主張して、加奈子、怒ってるというより沈んでいる……んだろうか。 さすがに悪い事をしたと胸が痛む。 話さなかったのは、今日のために加奈子への贈り物を買いに行っていたから。 ただ俺のセンスだけでは不安でアドバイザーをあやせに頼んでいた、というのが事の顛末である。 恥ずかしながら事情を加奈子に打ち明けた。 あの程度でここまで凹まれるとは思いもよらなかったが、 怒らすならまだしも悲しませたとあっては俺の配慮が足りなかったと反省する他ない。 「というわけだ。スマン!」 思い切りよく頭を下げる。 馬鹿の一つ覚えと言うなかれ。いや言われても仕方無いが。 加奈子は幾らか溜飲を下げたようで、それでもまだ眉を八の字にしてツンツンしている。 「それにしたってさあ、加奈子本人をほっぽってあやせといくことなくない?」 「あぁ、悪かったよ。ホワイトデーの時みたく当人同士でって考えなくもなかったんだけどな…」 つい先日の回想が脳裏に浮かぶ。 あの日、俺がツッコミ役をしなきゃ、こいつはどんな「お返し」を用意してきたことか。 物思いに耽っていると、今度は正面の加奈子から盛大な溜め息。 「そ、そこまで責めんでも。勘弁してくれ、反省はしてる」 「……今のは別に、京介を責めてるとかじゃなくて……」 まだ何か言い切れない部分があったらしく、やりづらそうな顔でワシワシと頭を掻いている。 ついぞ見たことのない雰囲気。 このさき発せられる言葉に俺は姿勢を新たにする。 「前にもちょっと話したけど、アタシって自分で思ったより重い女かなぁ、…なんて、実感しちゃったり」 「んなことはないと思うぞ。前にも言ったけど」 「京介があやせと二人で買い物にいくだけで耐えらんない、短気な女だけど」 「まぁ、そういうものなんじゃねえの、一般的に。好いた惚れたってのは」 かく言う俺も、仮に加奈子が俺の知らないところで他の野郎と親しくしてたら取り乱すろうしな。間違いなく。 「でも、彼氏でもない男相手にだよ…?」 言わんとするところはわかるつもりだ。 だが、俺はそこに引け目を感じてほしくなかった。だから 「ok,ちょっと黙れ。こいつを受け取ってもらおう。せっかく買ってきたんだ」 カバンから小さな包みを取り出す。 プレゼントっつーにはやや大袈裟なぐらいの、あまり飾り気のない腕時計。 「俺のとペアなんだけどな。危うく男物の買っちまうとこだった。連れのお陰で寸前で回避したもんさ」 「連れとかー」 「おまえ今日は神経質すぎ。他意はねぇって。ホラ、着けて見せてくれ」 「うん」 加奈子が腕時計の包装を開ける間に、自分の腕に巻いたソレに一瞥をくれる。 『11:55am』 「わりと好みかも」 「そいつぁ良かった」 渡した時計に柔らかな笑みを浮かべる加奈子に、充足感が胸を満たす。 「でだ。さっきの、あやせのことだけどな」 「…うん」 「お前がそこまで抵抗あるなら、無断で二人で買い物とかは控えるから。安心しる」 「(しる…?)そんな言っちゃっていいの?」 「約束するよ」 「でも京介って、あやせのこと滅茶苦茶タイプって聞いてるけど。結構しつこくからんでたらしいじゃん」 誰が話したんだ、そんなん。まさか…あやせ本人か…? 「まぁ、確かにあやせたんはマジ天使だと今でも思ってるが」 「うへぇ……それ引くって、本気で。しかも結婚してくれとか言ったりもしたんでしょー」 い、一番聞かれてはならん人間の一人に伝わってたなんてな… いや気を取りなおせ。今はそれどこじゃない。 「撤回する、二度と言わない」 「ふーん。どうだか」 加奈子がヤレヤレの仕草で苦笑するので、満を持して俺は言う。 「結婚してくれなんていう相手は一人いれば充分だ。だろ?」 「ふぇ?」 「加奈子。俺の彼女になってほしい。結婚を前提に付き合わないか」 加奈子が固まった。 10秒が経ち、20,30……たっぷり一分以上オブジェのように硬化している。 そして時は動き出す。 「えぇと――エイプリルフール?」 「ん、今日は四月一日に違いないが、ネタでこうは言わないっつの」 それにだ 「だいいちエイプリルフールのドッキリが通用するのは正午までって決まってる」 告げると加奈子は素早くさっき腕に巻いたばかりの時計に目を走らせた。 「午後、だ」 「ああ」 我ながらなんちゅー滑稽なやり取りかと思う。 思うが、愛の告白なんてのは必ずしもロマンチックとは限らない。これくらいサバサバしててもいいだろう。 でないと俺自身あまりに恥ずくて耐えられんっ 「その、だいぶ待たせた……いつかの返事はもう決めてたが、やっぱしこういうのは俺から改めて言うべきかってな」 「ホントだよ、正直待ちくたびれて切なかったぞー」 「…泣くなって」 「ばか。こんなときくらい好きに泣かせろ」 泣き笑いの加奈子に、テーブル越しに小突かれる。そうこなくちゃな。 ちっと人目を集めすぎた、俺たちは飲み食いもそこそこに店を後にする。 「ついては今後の付き合いに関して話しとくことがある」 「あ、ん、なに」 ふわふわとした足取りで加奈子。こいつ大丈夫かぁ? 「これも言わないままにしててスマンが、大学通うのに家出ることにしたんだわ、俺」 「マジで?」 「マジです。この機に自立性を養うとかいう名目が半分、あと半分は言わなくてもわかってくれんだろ」 「え~と……」 「わかれよ、そんぐらいは。いつまでも親元で暮らしてちゃ逆に不自由もあるってこった。色々と、な?」 「色々と……!!……そっか、そういう…」 ようやく理解が及んだっぽい。慌てるさまがなんとも加奈子らしい 「お前のそんな鈍いとこも好きだぞ、うん」 「なにそれ微妙に喜べねー」 じゃれてくる加奈子を軽く制して、取り出したるは…… 「本日のプレゼント第二段だ。まだ引越しは済ませてねーけど、落ち着いたら遊び来いよ」 ありふれた形の、それでも特別な意味を持つ、銀色の鍵。 「ありがと……ぜってー行くから。もう毎日通うから」 「いや毎日はさすがに」 「え~~」 弾む足取りの加奈子をどうどうと宥めつつ、何となく通りの公園に寄った。 「とうとう恋人かぁ」 「そだな。つっても、ここしばらくの俺たちって実質付き合ってるようなもんだった気もするが」 「でも、だって『ようなもん』とじゃ大違いじゃん」 そりゃまあ。 「強いて言うと、もっと流れとか場所とかこだわるべきだったかもしれん。そこまで余裕がなかったわ」 「あの、プロポーズ?」 「プロポーズ、になるか。やっぱ」 「それ以外の何でもないって。心臓が飛び出るかと思ったもん」 まだ興奮冷めやらぬ様子で、加奈子は言う。 「京介。アタシのほうこそ改めてヨロシク。重い女だけど、そこは覚悟しろーってことで」 「まぁだ言ってんのか。重かないって……言ってる、だろ!!」 「うひゃっ」 あまりしつこいから、抱き上げてやる。 「どうよ、軽い軽い~」 「こらぁ、まーわーすーなー」 実のところ加奈子をどうこう言えないくらい浮かれていた俺は、所謂お姫様だっこのままグルグル…グルグルと… 二人揃って多幸感に笑いを張り上げ、 じきに回りすぎて気持ち悪くなって、また笑った。 俺をその気にさせたんだ、覚悟するのはお前のほうだ。 言ってやろうとしたんだが、ま、そのうち…

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