無題:3スレ目35

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35 名前:設定は7巻開始時の告白騒動から 2010/12/03(金) 05:57:08.57 ID:1130UnU20 ―――あんた、あたしの彼氏になってよ。 そのとんでもない台詞を聞いた俺は、自分の耳が信じられず、咄嗟に返事ができなかった。 驚愕に目を見開き、全身を硬直させ、困惑するばかり。 そんな俺を見た桐乃は、 「……えと……」 かぁっと頬を紅潮させたまま、もごもごと言葉をさまよわせていた。 弱気な上目遣いで俺を見上げ、 「あの……だ、ダメ?」 「いやっ……」 俺は思わずたたらを踏んだ。 「駄目っつうか……言ってる意味が……!?」 反射的に、様子のおかしい妹から距離を取ってしまう。 最初の人生相談で『桐乃が妹ゲームにはまっている理由』を考え、最悪の想像をしてしまったあのときと、似たような心境だ。 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/03(金) 06:01:38.20 ID:1130UnU20 「お、おお、俺はおまえの兄貴だぞ? ていうかなに? おま……俺のこと好きだったの!?」 妹モノのエロゲーみてえな台詞だった。 まさか自分で言うハメになろうとは……。 「!」 俺がドン引き気味の返答をすると、桐乃は目を見開いて固まった。 真っ赤だった顔が一瞬にして蒼白になり――― 一転、ギリッと歯を食いしばった。 再び顔を紅潮させて怒鳴る。 「違う! ッ……違う! あんたのことなんか……好きなわけ……好きな、わけ……」 だが、言葉は段々尻すぼみとなって消えていった。 違う、と否定したということは、何かしらの事情があるのか? まったく、ホントに焦ったぜ、いきなり告白みたいなことをしてくるもんだから……。 「……やっぱり、違わない」 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/03(金) 06:07:20.05 ID:1130UnU20 だが、ポツリと漏らした桐乃の台詞によって、再び俺の時間は止まっちまった。 「違わない……私は、あんたのことが好き。もう、誤魔化したりしない」 「え……ちょ、おま……ほっ、本気で言ってんのか……?」 「ほ、本気、よ……」 オイオイ、若干声が震えてやがるじゃねぇか。 なんていうか、ぐらぐらと意思が揺れてることが手に取るように分かるんだが。 それでも、俺の口もカラカラに乾いちまって、上手い言葉が出てこない。 結果として、どうにも居心地の悪い沈黙が二人の間に流れてしまった。 「な、何か言ったらどうなのよ……」 こういうとき、やはり桐乃は凄い。 明らかにテンパっていることが見て分かるぐらいだったというのに、俺より先に回復してやがるうえに、先に会話を振ってきてくれた。 「ぅ……え、とな……ちょっと待ってくれ」 桐乃が、俺のことを好き……? 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/03(金) 06:15:08.92 ID:1130UnU20 「それは、いつからなんだ……?」 相変わらず頭の中はぐちゃぐちゃだったが、とりあえずテンプレートみたいな質問を捻り出すことはできた。 「いつから……分かんない。気が付いたら、あんたが他の誰かと話してるのを見るだけでイライラするようになってたし。それが、あの黒いのでも、大きいのでも」 黒いの……は、黒猫のことだよな。 大きいの、は、沙織か。 俺が黒猫や沙織と話してるのを見ただけで、イライラしてた……。 「マジか……」 思わず口から呟きが漏れちまったけど、これは、そうそう簡単に結論が出せるような類の話じゃねぇ。 桐乃が、あの桐乃が、だぞ? オタク趣味がバレることを、世間体のことなどの理由から極端に恐れていた桐乃が。 実の兄である俺に、形振り構わず告白してきたんだ。 「そ、そうだ。先にもう一つ質問してもいいか?」 「なに?」 煮え切らない態度の俺に、イライラしている様子の桐乃。 そりゃ分からんでもないが……少しくらい待ってくれても、罰は当たらんだろうよ。 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/03(金) 06:23:04.31 ID:1130UnU20 「そういう答えを出したってことは、血の繋がった兄妹で付き合うっていう障害とか、世間体とかも、よく考えたんだよな……?」 「……当たり前でしょ。そんなの、まず最初に突き当たるコトだし」 ってことは、やっぱり桐乃は本気で俺のことを……。 「……そんなにすぐに返事はできねぇから、少し待ってくれ」 悪いな、桐乃。 俺はこの場でちゃんとした回答ができない、どうしようもなくチキンな野郎だ。 それでも、桐乃は初めからそうやって答えるということを予測していたんだろう、すぐに、 「3日」 「え?」 「3日以内に答え出して。それ以上は待てない」 そう言い残して、俺をその場に残したまま、さっさと家に向かって行ってしまいやがった。 いや、この状況で俺と一緒に帰るとか、そんな選択肢はありえねーだろ…… 俺もかなり動揺してるみたいだな。 「ハァ……こうなるんだったら、人生相談を受けてたときの方が、よっぽど楽だったな……」 空を見上げながら呟いたその言葉は、誰に聞かれることもなく消えていった…… なんて小説みたいな展開にはならず、その呟きを聞いていたのだろう、脇を通りながらヒソヒソ喋ってるおばさん二人組の視線に気付いた俺は、そそくさと退散しましたさ。 42 名前:>>39 たまにさるさん防止してくれると嬉しいな 2010/12/03(金) 06:29:07.01 ID:1130UnU20 「きょうちゃん、最近なんだか様子が変だよ?」 今日は、桐乃から告白された日の3日後。 つまり、告白に対する返事の期限の最終日ってわけだが。 「ん? あぁ……まぁ、いろいろあってな」 やっぱり幼馴染ってのは気付くもんだね。 普段通り生活しようと思っても、違和感はそこかしこに転がっていたんだろう。 「ん~……また桐乃ちゃんのこと?」 違和感どころか、バレバレだった。 なんてこった……! 俺は一生、麻奈実に隠し事ができねー気がするぜ。 「あー、確かに桐乃のことではあるんだが……悪い、今回は相談とかできる内容でもねぇんだよ」 「そうなの? ふ~ん……何かあったら相談してね?」 「あぁ、ありがとな」 麻奈実とのやり取りは、本当に癒されるぜ……この3日間、余裕のない生活を送っていたせいか、余計にそう思えるもんだ。 そうやって、麻奈実との会話を終えた直後。 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/03(金) 06:35:18.71 ID:1130UnU20 『ピピピッ、ピピピッ』 ん? この音は、俺の携帯にメールが届いた音だな。 どれどれ……。 『From 新垣あやせ Sub  Re:    今日、放課後の時間に会えませんか?』 「会、い、に、行、き、ま、す、っと」 見たか、この凄まじいほどのスピードの返信スピードを! 着信が来てから、およそ15秒しか経ってないぜ! 「あやせからのお誘いかぁ~……今回こそ嬉しい展開が待っててくれたりしないかなぁ~……」 今まで何回も悪魔みたいな性格に騙されてきた経験があっても、どうしても向こうからお誘いがあると断れないんだよな。 なんつーのかな、魔性の魅惑? みたいなものがあるんだよ。 そんなわけで、マイスイートエンジェルあやせちゃんとの約束を取り付けた俺だったけど…… 分かってるさ、こんなのはただの現実逃避でしかないってことくらいはな。 48 名前:>>44 すまん、原作も玄関だったか 勘違いしてたから、見送りで空港にいるとでも思ってくれ 2010/12/03(金) 06:39:10.03 ID:1130UnU20 「単刀直入に聞きます。桐乃と何かあったんですか?」 そんなわけで公園であやせと対面中なんだが、俺は公園に着いたとき、即座に来たことを後悔したね。 なんたったって、公園の中で待ってたあやせの目が怖いのなんの。 明らかに俺のこと非難してたし、何よりも“今からあなたのことぶち殺します”みたいな雰囲気だったんだからよ。 それでも、あやせの最初の一言から、今回は今までと少し違うんだってことが分かった。 「……初めっから俺のせいって決めつけてるわけじゃないんだな」 “何をしたんですか”じゃなくて、“何かあったんですか”という質問の仕方。 こういうのを鑑みると、俺も少しはあやせから信頼されるようになったのかね? 「お兄さんが一番の容疑者であることには違いありませんけど?」 すんません、激しい勘違いでした。 「3日くらい前から、桐乃が妙にソワソワというか、フワフワというか……とにかく、落ち着きがないんです」 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/03(金) 06:47:32.49 ID:1130UnU20 とりあえず、あやせの言うことを片っ端から聞いてたら俺が犯人ってことになっちまうから、適当に反論しておかないとな。 「それくらいなら、俺と結び付ける要素がなくね?」 「えぇ、私も最初はお兄さんのことだとは思いませんでした。でも、様子が変だったのは確かなので、直接聞いてみたんです」 まぁ、普通の流れだな。 なんて聞いたんだ? 「普通に『何かあったの?』って。そうしたら、桐乃が『まぁ、ちょっとね……』って」 「ほう、それで?」 「だから、私は今回のことにお兄さんが絡んでると思ったんです」 「え!? ちょ、それは飛躍しすぎじゃねぇか!? どっから俺が出てきたんだよ!?」 誰かさんもビックリの論理的帰結だ。 「何かあったの?」→「まぁ、ちょっとね……」→「お兄さん(京介)が犯人」。 え? マジで俺はどこから出てきたんだっつーの。 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/03(金) 06:54:01.97 ID:1130UnU20 「桐乃が私に相談できないことっていうのは限られるんです。あぁやって誤魔化そうとすることは、2つしかありません!」 その桐乃から信頼されてるんだっていう自信は、どっから沸いてくるもんなんだ……? まぁ、そんなこと絶対に口に出さないけどな。 あやせに対してそんなこと言ってみろ、その瞬間血の雨が降ることになるぞ。 「……お兄さん、今失礼なこと考えていませんでした?」 「考えてません!」 麻奈実なら納得できるが、あやせにまで思考を読まれかけているっていう現実はどうしたもんかね。 そんなに俺って表情に出るのかな? 「……とりあえず話を続けますけど、桐乃が私に相談できないことは、1つは……桐乃の趣味のこと」 「まぁ、そうだろうな」 あやせにしてみれば、今でも可能ならやめさせたいくらいだろうし。 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/03(金) 07:01:09.33 ID:1130UnU20 「もう一つは……お兄さんのことです」 「は? 俺?」 そこでどうして俺が出てくるのだろうか? 「はぁ……お兄さんは、桐乃のことなんにも分かっていませんね」 その言葉に少しカチンときた俺だったが、つい最近まで一言も喋らなかった状態だった俺に何が言えるんだって話だよな。 「確かに、俺はあまり桐乃のことを分かってやれてないのかもしれねぇけど……どうしてだよ?」 俺の質問に対して、あやせは諭すような口調で俺に語りかけてきた。 その喋り方に少しだけときめいたのは、俺の心の中に閉まっておくとしよう。 「私の口から言われても説得力がないかもしれませんが、桐乃にとってお兄さんはとても大切な存在なんです」 「っ……」 突然あやせの口から放たれた言葉は、俺に現状を再度認識させるには十分だった。 そうだよな、アイツは俺に告白してくるぐらい、俺のことが好きになっちまったんだ。 54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/03(金) 07:08:28.08 ID:1130UnU20 「前はそんなこともなかったのに、というか、桐乃にお兄さんがいるということも知りませんでしたが、今は桐乃との話題の中に、お兄さんのことがちょくちょく出てきます」 「いつも憎まれ口を叩いていますけど、その節々に隠しきれてない感情があるのを、この私が見逃すはずがありませんし」 桐乃も桐乃で、あやせには隠し事できねーな、こりゃ。 っていうかぶっちゃけ怖ぇよ、なんで自信満々に“隠しきれてない感情があるのを見逃すはずがない”とか言っちゃってんだ…… 「それでも、桐乃が趣味を隠そうとしていたのと同じです。世間には、仲の良過ぎる兄妹がどうやって映るのか」 「……まぁ、好意的には受け止められないだろうな」 「はい。ですから、私にもお兄さんのことは相談することができない。それに、もし万が一趣味の方で悩んでいたんだとしても、結局は私はお兄さんに聞くしかありませんから」 それで俺のことを呼び出したってわけね。 あやせも、本当に俺の妹のためにいろいろやってくれてるもんだよ。 普通、いちいち誰かの様子がおかしいからって、こんな風に原因突き止めて解決しようとするか? 桐乃はマジでいい友達を持ったもんだよな、感心するぜ。 まぁ、そんなわけで我が妹のために苦心してくれてるあやせのためだ、少しくらい触れても構わないよな。 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/03(金) 07:15:53.06 ID:1130UnU20 「……結論を言っちまうなら、俺が原因なんだろうな」 穏やかに切り出した俺の言葉を聞いたあやせは、一瞬目を見開いたあとで、キッと目を細め、 「やっぱりお兄さんなんですか!! でしたら、こんなところで油を売ってないで、早く桐乃に謝ってください! そもそも、何があったんですか!?」 一気に捲し立てるように吐き出した。 だが、今回ばかりはあやせの出る幕はないと言ってもいいだろう。 「悪いが、あやせ。今回のことは、俺が悪いわけでもないし、すぐに結論を出していいようなものでもなかったんだよ」 「っ……どういうことですか? 何か事情でもあるのなら、弁解を聞きますけど」 “弁解”って……明らかに俺を悪にしようとしてやがるなぁ、ここまでくると、逆に笑えるくらいだぜ。 「それも込みで、『悪い』って言ったんだ。今回は、誰かに話していいような……いや、相談することくらいはできるかもしれないけど、それでも、俺と桐乃の二人の問題だからな」 あやせが怪訝な顔で俺を見ているが……すまんな。 「俺はこの問題については、自分で考えるべきだと思ったから誰かに相談するつもりはないし、桐乃にしても、相談するっていうタイミングをとっくに越してるからな」 56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/03(金) 07:21:37.07 ID:1130UnU20 「……何が言いたいのか、さっぱり分かりません」 そうだろうな、わざと抽象的な言葉を使ってるし……それでも。 「とにかく、安心しろ。どうせ期限は今日なんだ。今日中に解決する話だ」 「……? と、とりあえず、その話は本当なんですね?」 「あぁ」 俺が力強く肯定すると、あやせは少し考える素振りを見せたあと、ゆっくりと首を振った。 「はぁ……仕方ありませんね。私が桐乃の力になれないことは非常に残念ですし、本当に、ほんと~~~うに不本意ですが、今回はお兄さんにお任せします」 そんなに強調しなくてもいいだろ!? 流石にそれだけ信頼されてないみたいな言い方だと、俺だって傷付くぞ!? 「嘘です、気にしないでください。これでも、お兄さんのことは信頼していますから」 「え、マジで?」 「えぇ、マジです。だから、ちゃんと解決してくださいね? 明日もまだ桐乃の様子が変だったら、少しお仕置きしちゃいますから♪」 怖ぇぇぇぇぇぇぇ!! 顔はすっごいエンジェルスマイルなのに、言ってることが超怖ぇんですけど!? こりゃ桐乃に対して下手なことできなくなっちまったな…… 「それじゃあ、お兄さん。期待して待っていますから、桐乃のこと、お願いしますね」 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/03(金) 07:27:15.62 ID:1130UnU20 俺が家の玄関の扉を開けると、桐乃の靴が綺麗に並べてあるのが見えた。 「……帰ってるか」 まぁ、当然だよな。 俺はあやせと長々と話してたんだ、俺よりも帰宅が遅くなることは、まずないだろう。 さて…… 「どうしたもんか……」 実を言うと、俺の中でまだ答えは決まっていない。 というか、そもそも俺の中に“桐乃と付き合う”という選択肢が残ってたこと自体、俺自身がビックリだ。 あいつのことは大嫌いだし、今でもそれは変わりない、はず…… 「ったく、いつまで俺は小さな見栄を張ってるんだってな」 俺の部屋に着いてドアを閉めたと同時、小さく漏らした今の言葉は、隣の部屋にいるだろう桐乃にも聞こえてないはずだ。 「いい加減認めないとな、俺が桐乃のことを好きだってことをよ」 よくよく考えれば分かることじゃねぇか。 誰が嫌いなヤツのために、自分の体を張れるような真似ができる? 俺は今まで兄貴らしいことなんてほとんどできなかったが、最近あった様々な出来事を通じてやったことは、そう簡単には他人にも真似できないことだと思う。 妹のために自分が泥を被るなんて、例え身内であろうと、そんな出来た人間がそう何人もいてたまるかよ。 だから、俺だって桐乃のことを憎からず思ってるんだろうさ。 61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/03(金) 07:35:05.51 ID:1130UnU20 だけど。それでも。 それとこれとは、話が違う。 桐乃と付き合うということは、実の妹と付き合うということだ。 近親相姦という文字が頭に浮かんでは消える、ということを、この3日間で何回繰り返しただろうか。 そのうち両親にバレることもあるかもしれないし、今は隠し通せたとしても、将来的に打ち明けなければダメだよな。 勿論その前に別れることだってあるかもしれないが、そんな無責任なことを考えるのは失礼ってもんだろ? 俺にだって、桐乃ほどではないにしても多少は気にしたい世間体ってもんもある。 そういうののせいで、思考があっちこっちいって全然考えがまとまらねぇ。 「ったく、こちとら受験生だってのに……いらん悩みの種を増やしやがってよぉ」 思わず愚痴が零れてしまうが、これぐらいは勘弁してくれ。 『コンコン』 「っ!!」 俺の部屋をノックする音が聞こえた。 今、家には俺と桐乃しかいないはずだ。 ってことは…… 「……いる?」 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/03(金) 07:40:47.24 ID:1130UnU20 ……きたか。 遂にこのときが。 まだ考えはまとまってないっていうのに。 「……あぁ、いるよ」 「入っていい?」 随分殊勝な態度じゃねぇか、普段からそういう風ならいいのによ。 ガチャリ、という音と一緒に、扉の向こうに桐乃の姿が見えた。 学校から帰ってきてこれから外出する予定もないだろうに、ピンクのキャミソールっぽいものを重ね着して、下は短めのスカート。 俺に会うためだけに、わざわざオシャレしてきたってのかね。 「……返事を聞かせてもらいに来たんだけど」 このタイミングだ、そりゃ他の用事なわけがない。 だけど、俺はまだ迷ってる。 「……まだ答え出てないの?」 待てども待てども返答がないことに痺れを切らしたのか、桐乃から再び声が掛けられた。 「……あぁ、悪い。まだ迷ってる」 正直にそう話すと、桐乃は顔を顰めてチッ、と舌打ちをした。 「ちゃんと3日待ったし、そろそろ答えが出ててもいいと思うんだけど?」 63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/03(金) 07:44:18.24 ID:1130UnU20 少し責めるような口調の桐乃に対して、俺は今回ばかりは申し訳ないような気持ちになっていた。 「それについては、本当に悪いと思ってる。それでも、もう少し俺たちのケースが特殊であることも考慮してくれてもだな……」 「あんたに期限も与えないで適当に考えさせたら、いつまで経っても結論なんて出ないでしょ。そんなことも分からないの?」 ぐっ……そう言われるとそうかもしれんけどな。 そこまで俺のことを優柔不断だとキッパリ言わなくてもいいだろうに。 「もういい。またあとで来るから」 そう言うと、桐乃はあっという間に部屋から出て行ってしまった。 ……ってか、本当にあれが告白した相手に取る態度なのか? 実は俺のことからかって遊んでるんじゃね? っていう疑問が頭に浮かんでしまうくらい、素っ気ないもんだったよ。 64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/03(金) 07:49:55.16 ID:1130UnU20 だけど、不思議と俺の中には怒りが込み上げてくることはなかった。 その理由は、考えなくてもなんとなく分かる。 桐乃の言葉遣いは前と同じだったが、ニュアンスがなんていうか……柔らかい? とにかく、言葉から刺々しさが抜けていたような気がするんだよ。 それくらいの違いが分かるくらいには、俺も桐乃と一緒の時間を過ごしてたわけだ。 そんな些細なことがとても微笑ましく思えて。 「あぁ、そうか……」 なんとなく、俺が今、一番桐乃に伝えたいことが分かった気がする。 俺にとって大切なことは、こんな取り留めもない日常を過ごしていくことなんだよな。 「うし……腹も括ったし、桐乃の部屋に突撃してやるか」 こういうのは、やっぱり勢いが大事だよな。 やると決めたら即行動! 俺はすぐさま部屋を出ると、桐乃の部屋の前まで行き、ドアを軽くノックした。 67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/03(金) 07:56:18.54 ID:1130UnU20 『……なんの用?』 中から、若干不機嫌そうな声色を“作っている”と思われる桐乃の声が届く。 ふはははは! そんな演技をしていられるのも今のうちだぜ? 「とりあえず、中に入っていいか?」 そう言って少し待っていると、ドアが開けられた。 桐乃は無言のまま、顎で入れと促してきた。 おいコラ、もうちょっと対応を考えたらどうなんだよ、なんて考える余裕すらもできた俺に、最早怖いものなどない! 「……で?」 「答えが出たから言いに来た」 間髪入れずにそう言うと、桐乃はその大きな目をいっぱいに見開いて驚いていやがった。 けけっ、ざまーみやがれってんだ。 「いいか、一度しか言わねぇからよーく聞いておけ。俺の出した答えはな」 「……答えは?」 震える声で、祈るような表情の桐乃に向かって、俺は言ってやった! 「俺は――――――――――」 69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/03(金) 08:03:10.85 ID:1130UnU20 翌日の朝。 俺はいつも通りの時間に起きて、いつも通り支度をし、いつも通り朝食を食べ、いつも通り家を出た。 だが、そこでいつもとは違う風景に出くわした。 「……とっくに家を出たんじゃなかったのか?」 「いつもと同じ時間に家を出ないと、お母さんとか不審に思うでしょ? そんなことにも頭回らないわけ?」 あーはいはいソウデスネー。 「で、家の前で突っ立って何してたってんだよ?」 「あんたのこと待ってたに決まってんじゃん」 ……こいつ、生意気なことしやがって。 不覚にも、ちょっとだけ、ちょっとだけだぞ? ドキッとしちまったじゃねぇか! 「そうかい。で、待ってたのはなんでだ?」 「途中まで一緒に登校するために決まってるじゃん。そういうの、エロゲではお約束なのに分かんないってありえないんだけど!」 エロゲの展開を現実に持ち込むなと強く言いたいぞ、俺は。 つっても、こうやって妹が待ってることにはそれなりの理由があるのは道理で。 70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/12/03(金) 08:09:48.85 ID:1130UnU20 「私ら、付き合ってるんだから当然でしょ」 どうしてそんなに偉そうに胸を張ってるのかサッパリ分からないが、その笑顔は素晴らしいと言っといてやるぜ。 それに、こうして目出度く(?)実の妹と付き合うことになった俺には、きっとエロゲの展開を現実に持ち込むな、なんて批判ができるわけないんだよな。 「何難しい顔してんのよ? 私と一緒に登校するのがイヤって言うの?」 なっ……!? 俺は今、ありえないものを目の当たりにしている! き、桐乃が……不安そうな表情で俺を見つめている、だと……!? や、ヤバい、それはヤバい、マジでヤバい、なんかむず痒くてしょうがねぇっ!! 「そ、そんな顔するな。別にそんなわけじゃねぇし、ちょっと感慨深くなっちまっただけだって」 「……そ、そう? ふ~ん、まぁ、そうよね! シスコンのあんたが、私と一緒に登校するのがイヤなわけないし!」 桐乃のヤツ、調子乗ってやがる…… でもまぁ、今日くらいは大目に見てやろうかとも思う。 なんたって、昨日の返事のあとに見せてくれた笑顔は、今までのどんな桐乃の笑顔よりも最高なものだったからな。  ~fin~

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