無題:11スレ目959

「無題:11スレ目959」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

無題:11スレ目959」(2011/11/29 (火) 22:27:50) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

959 名前: ◆Neko./AmS6[sage saga] 投稿日:2011/11/20(日) 23:02:36.85 ID:Lo9WU8Kro [2/6] 俺は河原の土手に腰を下ろし、河川敷で草野球に興じる小学生たちを眺めていた。 時を忘れたかのように夢中で遊ぶ子供たち。……ふと、俺も幼かった頃のことが胸に甦る。 この季節、うかうかしていると、立ちどころに日が暮れちまう。 いつまでも遊んでいて帰らねえと、家で子供の帰りを待っている親が心配するだろうが。 俺の場合は、親父に怒鳴られ、逆に家を飛び出してきたわけだが……。 親父との衝突は以前からもしょっちゅうあったし、今更珍しいことでもない。 しかし、親父が今日みたく本気で怒ったことなんか、俺の記憶を遡っても無い気がする。 強いて言えば、桐乃のオタク趣味がバレたとき以来のことかもな。 あのときは俺も身体を張って踏ん張ったんだが、今度ばかりは堪らずに逃げ出してきたってわけ。 どうも自分のこととなると、イマイチ腰が引けちまっていけねえ。 「やっぱ、ここだったんだ。多分、ここじゃないかなって思ってた。  ……あんたはお父さんに怒られると、決まってここに来てたもんね」 「つまんねえこと憶えてんじゃねえよ」 「――ほらっ、少しはあたしに感謝しなさいよね。  寒いだろうと思って、あんたのジャンパー持って来てやったんだから」 桐乃は俺の鼻っ面にジャンパーを押し付け、さも得意げに俺を見下ろして笑いやがる。 俺と親父の怒鳴り合う声が二階にも聴こえたんだろうが、桐乃がリビングに入ってきたのは、 親父の剣幕に矢も盾も堪らず、俺がソファーから立ち上がったときだった。 顔を真っ赤にして仁王立ちになった親父の顔と、無言でリビングを出て行く俺の顔を交互に見て、 桐乃のヤツは目を白黒させてたっけか。 960 名前: ◆Neko./AmS6[sage saga] 投稿日:2011/11/20(日) 23:03:14.05 ID:Lo9WU8Kro [3/6] 「――座ってもいいかな」 「座りてぇなら、勝手に座ればいいじゃねえか。  別に、俺の河原ってわけでもねぇし……おまえの好きにすればいいさ」 「聞いてみただけなんですケド。  ……なんか、隣りに座ったら、あんたとデートしてるみたいに見えてヤじゃん」 何だかんだと文句を付けながらも、桐乃は俺の隣りに腰を下ろした。 そして、辺りを少し窺うような仕草を見せたかと思うと、俺との間合いを少しだけ詰めて、 「か、勘違いしないでよね! 少し寒くなってきたし、あんたでも風除けくらいにはなるし……」 「はっ、そりゃどうも。……おまえの風除けくらい、俺はいつだってなってやるさ」 「な、何だか、いつもの態度と違ってて、調子が狂うんですケド……。  そんなことより、お父さんから話は聞いたんだけどさぁ……  やっぱ、今回の件は、お父さんの言ってることの方が正しいと思うんだよね」 「俺だって、馬鹿なこと言ったってのは分かってるさ。……売り言葉に買い言葉ってヤツ?」 「それにしたって、高校卒業したらサーカスに入るだなんて……馬鹿じゃん」 親父と喧嘩になったのは、俺の将来について話をしている最中だった。 取り敢えずそこそこの大学に入って、取り敢えずそこそこの企業に就職して……。 明確な将来の展望なんか俺にあるわけもねえし、それこそ俺の取り敢えずの将来設計だ。 厳格な親父にしてみれば、そんな行き当たりばったりの生き方が癇に障ったようだ。 「ほんと、あんたって呆れるほどの馬鹿だよね。  お父さんの性格を知ってて、そんなこと言えばお父さんが怒るに決まってるじゃん。  ――で、あんたも怒りに任せて、サーカスに入りたいと……」 「俺みたいなのは大学へ入っても無駄だから、就職して世間の風に晒されて来いって。  俺も頭に血が上っちまって、だったら俺はサーカスに入って世界を股にかけてやるって……。  ……面目ない」 961 名前: ◆Neko./AmS6[sage saga] 投稿日:2011/11/20(日) 23:03:56.14 ID:Lo9WU8Kro [4/6] 桐乃は呆れたような顔をしただけで、黙ったまま子供たちの草野球を見ていた。 一年と半年くらい前なら、こうして俺たち兄妹が河原の土手に並んで座っている光景なんて、 多分、想像もできなかっただろうな。 もっと、ずっと昔なら……こんな光景も珍しくなかったような気もするんだが。 「ねぇ、あんたって小さい頃から、あの子たちみたいに野球とかってしなかったよね。  興味が無かったの? それとも只の運動オンチだったとか」 「ばーか、俺は小学生の時は忙しかったんだよ」 「忙しいって、小学生のくせに――あっ、そうか……」 世の中に忙しい小学生なんか、ごまんといるんだよ。 塾の掛け持ちで忙しいヤツもいるだろうし、俺みたいに家庭の事情で忙しかったヤツとかな。 「……あんたは、あたしの面倒を見なくちゃいけなかったから、そんな暇なかったんだね。  あの頃は、お母さんもパート勤めしてたし、あたしの面倒を見るのはあんたの役目だったもんね」 「別に俺の役目ってわけでもねえけど、二人きりの兄妹だしな。  俺は兄貴だし、おまえは妹なんだから、気が付いたら自然とそうなってただけさ。  それに、あの頃のおまえって、今と違ってけっこう人見知りが激しかっただろ」 「ふ~ん。まあ、あの頃は人見知りが激しかったのは本当のことだけど……  実は、あたしのことが可愛くて、心配で心配で仕方がなかったんじゃないの?」 「ば~か」 桐乃の面倒を見るのは別にイヤじゃなかった。 あの頃の俺にとって、桐乃は親父とお袋からもらった大切な宝物みたいなもんだったし、 俺の言うことなら何でも素直に聞く家来でもあったしな。 「お母さんが、あたしの奴隷としてあんたを差し出してくれたわけだけど……」 「ざけたこと言ってんじゃねーよ、桐乃が俺の家来だったろーが」 「ばかじゃん」 962 名前: ◆Neko./AmS6[sage saga] 投稿日:2011/11/20(日) 23:04:39.29 ID:Lo9WU8Kro [5/6] 桐乃がまだ保育園へ通っていたとき、桐乃を迎えに行くのはいつも俺の役目だった。 当時は保育園が終わる時間と学校の授業が終わる時間が同じだったから、 俺は授業が終わると、友だちからの遊びの誘いを振り切って保育園へ走って行ったもんさ。 それでも、たまには誘いを断り切れないことだってあったんだ。 保育園には色々と家庭の事情ですぐに迎えに来られない親もいるわけで、 そんな園児のために居残りクラスが設けられていた。 俺が遊びの誘いを断り切れなかったときは、桐乃も当然その居残りクラスにいるわけで……。 桐乃は他の園児のように絵本を読んだり、積み木で遊んで待っているわけでもなく、 窓ガラスに張り付いて、俺が迎えに来るのをひたすら待っていた。 「あの頃、おまえにも今みたいに友だちがいれば、俺だって野球くらいやってたかもな」 「し、しかたないでしょ。……あの頃は、あたしもどっちかっていうと人付き合いが苦手だったし、  遊び相手なんて、あんたがいれば……十分だったし」 桐乃は俺が迎えに来たのが分かると、決まっていつも怒ったような顔で玄関から飛び出してきた。 俺があと五分でも遅れていたら、怒った顔は泣き顔に変わっていたかもしれんけど。 保育園の帰り道、桐乃は、俺のシャツの裾をしっかりと握ったまま離すことはなかった。 文句を言いながら俺のシャツを握っていたときの姿は、あの夏コミのときとまったく変わらねえ。 「あんた、小さい頃あたしと一緒によくやった、かくれんぼって今でも憶えてる?」 「ああ、俺がいっつも鬼で、おまえが隠れる役ばっかだったのは憶えてるさ」 「あたしは早く見つけてもらいたいんだけど、あんたって、かくれんぼやらせてもダメじゃん?  そのうちに、あたしはいつも眠くなっちゃって、気が付くとソファーの上で寝かされてて、  ちゃんと毛布も掛けてもらってて……あれって、あんたがやってくれたんだよね」 「俺以外だったら怖いわ。……おまえは、いっつもとんでもねえ所に隠れてっから、  捜す俺だって大変だったんだよ。  ひとりかくれんぼやってんじゃねーよって言いたかったぜ」 963 名前: ◆Neko./AmS6[sage saga] 投稿日:2011/11/20(日) 23:05:27.88 ID:Lo9WU8Kro [6/6] 家の中で、それも妹と二人きりのかくれんぼってのは、けっこう辛いもんさ。 俺が桐乃を見付けても、幼い桐乃が鬼をやるわけもなく、鬼はいつまで経っても俺なわけだ。 しかし、考えてみれば今も俺は桐乃とのかくれんぼで、鬼を続けているのかもしれない。 目を離した隙に俺の元から居なくなってしまう桐乃と、そんな桐乃をいつも捜し続けている俺。 永遠に終わらないかくれんぼだが……それは、俺が望んでることなのかもな。 「ねぇ、もしも、もしもだけどさぁ……あたしが、あんたに……  兄貴に、『もう~いいよ』って言ったら、兄貴は今よりももっと自由になれるんだよね」 「何を馬鹿なこと言ってんだか、俺はおまえが思ってるよりも、結構自由気ままに生きてるさ。  そんなことより、親父が怒ってる件、何とかなんねぇかなぁ」 「ばかじゃん、自分のことは自分で何とかしなさいよね。  妹が兄貴に頼るのは可愛いけど、兄貴が妹に頼るなんて、只のヘタレにしか見えないって。  お父さんも、今頃は少し言い過ぎたって後悔してるかもしれないじゃん」 何となく俺の方からはぐらかしちまったけど、俺は、桐乃が何を言いたかったのか分かっていた。 いつの日にか桐乃が、この俺に、『兄貴、もういいよ』と言ってくる日が来るかもしれない。 その日は明日かもしれないし、もっとずっと先のことかもしれねえけどな。 「なぁ桐乃……もう~いいかい?」 桐乃は立ち上がってスカートの裾に付いた土埃を軽く払うと、 「まあ~だだよ……ってね。  あんたは生まれたときからあたしの兄貴なんだし、そう易々と御役御免になんかしないっつーの。  ほらっ 、いつまでも馬鹿なこと言ってないで――」 桐乃が、少しだけ照れたような仕草で俺に向かって右手を突き出した。 俺は、桐乃の手をしっかりと握って立ち上がった。 今、桐乃の顔が赤くなっているように見えるのは夕陽のせいかもしれねえけど、 お蔭で桐乃にも、俺の顔が赤いのは分からねえだろうな。 (完)

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。