「願い」破3

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                   【破】 3章  秋葉原中央病院 403病室 AM 8:00 「京介さん、どうでしたか?  ここの食事の味は?」 「そこそこでしたよ……?」 「はは。そんなに緊張して答えなくても大丈夫ですよ。  テストはさっきので全て終わりましたしね。  恐らく流動食は初めて食べられたんじゃないですか?  正直おいしくなかったでしょう?」 「………半端なくまずかったです。」 「そうですよねー。私も1度試しに食べた時なんて……。」 今、病室では先生が食事の話を京介に振って、緊張を上手くほぐしている。 私達は、先生から呼ばれるまで病室の外で待機するよう言われたので、 廊下から聞き耳をたてている。 外から聞いているだけでも、先生と話す京介の声が段々と落ち着いていくのがわかる。 少しすると軽い笑い声さえ聞こえてきて、先生の人を安心させる話術に尊敬の念さえ覚える。 もしかしたら京介の笑い声を聞かせることで、 私達の緊張をもほぐそうとしているのかもしれない。 「……それでですね、京介さん。  少し京介さんに会って頂きたい人達がいるんですよ。  今ちょうど部屋に来てもらっているところなので、  呼んじゃってもいいですか?」 「…はい、大丈夫です。」 そして、ある程度雰囲気が出来上がったところで、 先生が私たちを呼んでもいいか京介に尋ねる。 京介は一瞬だけ躊躇するが、すぐに問題ないと告げる。 「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。  取って食おうってわけではないですからね。  …それでは高坂さん、どうぞお入りください。」 DVDでもちゃんとついてくるよ まぁ、無理に勧めるつもりはないけどね。都合ってモノもあるだろうし ガララッ その先生の言葉を合図に、私達は京介の病室へと足を踏み入れる。 「「「「…………。」」」」 沈黙。 どちらとも口を開くことができずに、 先生が築いた雰囲気が即座に硬いものへと変わっていく。 「…高坂さん。どうぞこちらの方へ。」 先生もある程度、雰囲気が硬くなるのは仕方なしと判断したのだろう。 先生に促され、まずお父さんとお母さんがベッドの側に近寄っていく。 「京介さん。もし気分が悪くなったらいつでも言ってくださいね。  …このお2人のことはわかりますか?」 「……すいません。」 「――――っ。」 京介は本当に申し訳なさそうに俯き、謝罪の言葉だけ告げる。 その姿を見て、私は一瞬息が詰まりそうになるが、 決して表情にだけは出さないように歯を食いしばる。 「謝らなくても大丈夫ですよ。  無理に思い出そうとしても、体に毒ですからね。  ……こちらはですね、京介さんのお父さんとお母さんです。」 「……父さんと母さん。」 先生は再度無理をしないようようにと前置きをして、お父さんとお母さんを紹介する。 紹介された2人のことを自分の中で噛み締めるようにゆっくりと口に出す。 「とっ!?ああ。そうだぞ!  お前の父さんだぞ!!///」 「――すいません。やっぱり思い出せなくて……。」 「いいのよ!あんたが無事ならそれでっ。」 「お母さんのおっしゃるとおりです。今すぐ思い出す必要はありませんよ。  ゆっくりと思い出していきましょう。」 やはり2人の記憶が無いことで謝る京介に、お母さんと先生が励ましの声を投げかける。 なぜかお父さんの顔が少し赤い気がするが、私の気のせいだろう。 その後、お父さんとお母さんは先生の助けを借りつつ、探り探りで会話を進めるが、 京介の記憶が戻る気配もなく、どこかぎこちない雰囲気に終始してしまう。 「では、桐乃さんもどうぞこちらへ。」 ――――私の番だ。 心の準備をしていたつもりだったが、先生に呼ばれた途端、 心拍数が限界まで跳ね上がる。 京介の方へと歩を進める毎に、心臓がどんどんと早鐘のように鳴り響く。 先程のように知らない人を見るような目を京介から向けられたら、 正直平常心でいられる自信なんてなかった。 「京介さん。こちらの方は思い出せますか?」 「えっと……。」 先生にそう尋ねられると、京介は少し思案顔になり間ができる。 もしかすると…。 全員の心に、そんなありもしない期待と不安が過る。 病室の空気もより一層ピリピリと緊張していき…… 「…………俺の彼女?」 「「「「……………は?」」」」 バカの一言で、全てが粉々に砕け散った。 「いやー、さっきからずっとそんな感じがしてたんですよね?  顔とかすごい俺の好みだし、目が覚めたら抱きついてくるし。  こんなかわいい子が俺の彼女なんて、自分でも正直信じられないですよ。」 タハッ~と照れ隠しで頭をかきながらも、 勘違い100%全開フルスロットルのままで口を滑らせ続ける京介。 どうやら京介の中では完全に、私のことを彼女として認識されてしまったらしい。 先生とお父さんは、京介の発言にどこからツッこんだらいいのかわからず、 唖然としてしまっている。 お母さんは、  < ● >  < ● > といった感じの目で、京介を睨みつけている。 かくいう私も…… 『かっ…かわっ…かわいいって!京介が私のことかわいいって!!//////』 京介の一言で、頭の回線が完全にショートしていた。 「…あ、あれ?俺なんか変なこと言っちゃいました……?」 ようやく、自分の発言で周りの空気がおかしくなっていることに気づき、 慌てた様子で問いかけてくる。 「え…えっとですね、京介さん?  この方は京介さんの妹さんの桐乃さんなんですよ。  ……思い出されました?」 「え”っ………!?」 「ふん、バカ息子が!」「本当にこの子は…。」  先生に間違いを指摘され、恥ずかしさから顔が一瞬で真っ赤になる京介。 あたふたとする息子の姿にため息をつくお父さんとお母さん。 先程までのシリアスな雰囲気は、一体どこにいったんだろう……。 「……。////」 「あー、あの、桐乃…ちゃん?ごめんな?  俺、なんか勘違いして変なこと口走ってたみたいだ。  えっと……大丈夫か?」  「……別に…いいよ。///」 「ほんと、ごめんな。  気分悪くさせちまったよな?(クシャッ)」 「―――――!!///////(ボッ」 完全にのぼせ上がって言葉数が少なくなってしまった私に、 京介は自分の言葉で不快な気分にさせたと謝ってくる。 だけでなく、顔を近づけた京介から頭をクシャクシャと優しく撫でられて、 私の顔は耳まで真っ赤に染め上がる。 「……えっと。本当に妹さんですよね?」 「ええ。そのはずです。」 「  < ◎ >  < ◎ >  」(←凍てつく瞳) どこからどう見ても恋人同士のピンク色の空気に当てられ、 先生がちょっと引き気味にお父さんとお母さんに尋ねる。 それに毅然と答えるお父さん(内容は曖昧だが)と、 もはや視線だけで射[ピーーー]勢いのお母さん。 「な、仲の良いご家族ですね。ハハハ……。」 先生の乾いた笑いが病室に空しく響いていくのだった。 「それでは、私は検査の依頼をしてきます。京介さん、少しの間待っていてくださいね?  あ、あとお母さんには京介さんの入院と退院の手続きがありますので、  一階の事務室までお越し頂けますか?」 「はい、わかりました。」 なんとか先ほどのカオス空間から立ち直り、 先生とお母さんが手続きのために部屋を後にした。 先程の騒動のおかげ(?)で、 私達の間には最初のどこか張り詰めた空気は無くなっていた。 「…父さん?」 「ん?なんだ、京介。」 「えっと、…その、ごめんなさい。」 この和んだ空気の中で、京介が伏し目になりつつ、謝罪の言葉を漏らす。 「なぜお前が謝ることがある?」 「…すごい心配かけたと思うし。  それに、みんながこんなに俺のことを心配してくれてるのに、  俺…、みんなのこと、何も思い出せなくて……、それが悔しくて!」 理由を問われ、京介は自分が記憶を無くしたせいで私達を悲しませていると悔しがる。 少し泣いているのか、京介の声は掠れており、 布団の上に置かれた手がきつく握り込まれる。 「そんなっ!京介は何も悪くないじゃんっ!?」 「……けど。」 「京介、桐乃の言う通りだ。お前が謝る必要などどこにもないぞ。  もちろん俺も母さんも、お前が事故に遭ったと聞いたときは血の気が引く程心配した。  今だから言うが、心の中ではお前が死ぬことさえ覚悟した。  だから、お前たちが無事だったのなら俺は他に何もいらんさ。  それにな……。」 京介の泣き顔を見て遣る瀬無い気持ちになり、私は精一杯否定するが、 やはり京介は納得ができないのか、口ごもってしまう。 すると、お父さんが京介の肩に手をかけて、 真っ正面から目を見つめて語り出した。 「記憶が無くなったからといって、それがどうした?  記憶が無くなれば、お前は京介じゃなくなるのか?  そうじゃないだろう?お前は正真正銘、俺の息子だ。  記憶を無くそうが、どうなろうが、お前は俺の息子の京介なんだからな。  だから、お前はそんなことを気にする必要なんて無いんだ。」 「父さん…。」「お父さん…。」 お父さんの言葉はどこまでも真っ直ぐだった。 京介を、家族を愛する気持ちがそのまま言霊となり、 私たちの心の中にじんわりと広がっていく。 「それに、先生も言っていただろう?  無理をして記憶を戻そうとしなくてもいい。  みんなでゆっくり記憶を戻す方法を探していけばよかろう。  お前の傍には俺だけじゃない、母さんも桐乃もいるんだからな。」   「父さんっ…。」 お父さんの熱い言葉に感極まった京介は、目を潤ませて今にも泣きそうになる。 「ありがとう…父さん。  俺、父さんの息子で本当によかった……。」 「京介、こういう時くらい親を頼れ。  でなければ、親の甲斐性が無いだろう?  ……京介も桐乃も喉が乾いただろう?  下の売店で何か飲み物でも買ってこよう。」 京介の感謝の言葉にそう言い残すと、 お父さんは何故か少し足早に部屋を後にして、売店に向かっていった。 さっきのお父さんの熱い想いが余韻として残っているのか、 部屋にはどこか暖かくて心地よい空気で包みこまれる。 「すごい人だな…。」 「当たり前じゃん。だって〝私たちのお父さん〟だよ?」 「…そうだな。俺達の父さんだもんな。」 私と京介が、改めてお父さんへの尊敬の念を強くしていると、 お母さんが入れ替わりに病室に入ってくる。 「ねえ、あの人どうかしたの?  怖いくらいの笑顔で廊下をスキップして行ってたけど……?」 「「…………………。」」 お母さんが、何か不気味なものを見たというように、 後ろを訝しげに見つめながら問いかけてくる。 そのお父さんの姿を想像し、私達は何とも言えない気分になってしまった。 「……おもしろい人だな。」 「…えっと、私たちのお父さんだから…かな?」 「……そうなのか?」 私のお父さんがこんなにかっこいいわけがない。                    【破】 3章 完

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