「俺が妹と夫婦なわけが無い」02

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本文:いつもの公園で待ってます 勘のいい奴じゃなくてもわかるだろ?これはあやせからのメールだ。 新垣あやせ――妹の表の親友だ。と言っても桐乃のオタク趣味の事はもう知ってる。 ああいう趣味を毛嫌いするあやせが桐乃の趣味を知ったときは大変だったが、 二人の友情は壊れることなく続いているし、常に桐乃のことを気遣ってくれるいい友人だ。 だからこれは桐乃のことで相談があるってことで間違いない。 「で、今日は何があったんだ?」 公園についてさっそく話を切り出すと虹彩の消えた瞳で恐ろしい事を言い出しやがった。 「わたし、桐乃に手を出したらぶち殺しますよって言ってましたよね?」 まてまてまて!!その手に持ってるものはなんだ!? 「おお、お、落ち着け!一体何の話だ!?」 「とぼけないで下さい!!  桐乃のご両親にあんな事があって、お兄さんと二人暮ししているってだけでも心配なのに、  よ、よりによって こ、こ、婚姻届を出したって・・・何を考えてるんですか!!?」 「え?あれ?その事を何で今更・・・?桐乃から聞いてなかったのか?」 そう尋ねると急に沈み込んだ様子で動きが止まった。 あやせと桐乃は親友だ。 裏の親友とも言える黒猫に話してたんだから当然知っていると思っていたが・・・ 「お姉さんから聞いたんです。桐乃には――、桐乃からはまだ何も・・・」 これは意外だ。てっきりあやせには話をしてあると思っていた。それは麻奈実もだろう。 麻奈実はあやせとそれなりに付き合いがあるし、あやせが桐乃の親友という事も知っている。 だから当然知っているものと思って俺から聞いた話をしたんだろう。 「なあ、本当に桐乃からは何も聞いてなかったのか?  その・・・俺達が実の兄妹じゃなかったってことも?」 「・・・・・はい」 力なくうなだれる様子に俺はこの前の黒猫のことを思い出した。 「そうか・・・そりゃ腹立つよな。」 「わ、わたしは怒ってなんかいません!!  ただ、桐乃がわたしに何も話してくれなかったのが・・・」 わかる、今の俺ならわかるよ。大切な人の力になれない、頼ってもらえない歯痒さは、 この前黒猫が俺にぶつけてきた気持ちそのものじゃねーか。やっぱりいい友達だよあやせは。 「なあ、学校での桐乃の様子はどうなんだ?」 「―――怖いくらいいつも通りなんです。部活で以前より時間をかけられなくなったからって、  代表を辞退したことがあるくらいで、他は何も・・・」 「そうか・・・」 「お家ではどうなんですか?」 「何も。それこそ以前とほとんど変わらねーで俺に悪態ついたりしてるぜ。  強いて言うなら二人で家事を分担してやるようになったくらいだな。」 「―――お兄さんも凄く落ち着いてますよね?どうしてそんな平静でいられるんですか?」 「どうしてって言われてもな・・・」 人間ってキャパ以上のことが起きると逆に冷静になったりするんじゃねーかな。 パニックになるだけじゃ何も解決しないし、平静を維持するのは間違いじゃないだろ。 きっと桐乃も努めて平静に、出来るだけ以前と同じように暮らせるようにしてるんだと思う。 「本当にそうなんでしょうか?」 「・・・・・わからん」 そう言えば俺には黒猫と言う感情を吐露できる相手がいた。 桐乃の友人は多いが、全てをさらけ出せるような気の置けない友人はいるのだろうか? 俺の知る限り桐乃の一番の親友であるあやせにさえ話していなかったなんて・・・ ふと、この前沙織が言っていた言葉が頭をよぎる ―おそらくきりりん氏の心中は京介氏の比ではないほどに混乱されていると思われますし― 「桐乃には俺から言っておくよ、あやせが心配してたって。」 「―――はい。」 「学校での桐乃を頼む。あいつは素直じゃないところがあるからな」 「お兄さんに言われなくたってわかってます!」 「ははは、頼もしいな。それじゃ何かあったら教えてくれ――」 言うが早いか俺は家へと向かい始めた。 自然と足は早足になる。 心配するのは当然だろ!? 血が繋がっていなくたって、俺はアイツの兄貴なんだよ―― 「本当にいいんだな?後悔しないか?」 これが最後通牒だと言わんばかりに語尾を強めて確認する。 ――コクリ、とゆっくり、しかしはっきりと頷く。 「じゃあ、もう遠慮はしねぇ」 俺は自分の欲望を隠すことなくそのままぶちまけた―― 「―――ごちそうさま」 人間の三大欲求の1つが完璧に満たされた瞬間だった。 「食いすぎだ、お前は!!」 今、俺の目の前で怒鳴っている男は赤城浩平――同級生の友人だ。 今日はバイトの帰り、珍しく奢ってくれると言うのでありがたくその申し出に乗った。 「ふん、男に二言は無いんだろう?  大体この店でどんだけ頼んだって、たかが知れてるだろうが」 味よりもまず値段が売りの大衆居酒屋チェーン店だ、遠慮はしない。 だがこいつがこういう気遣いをしてくれるなんて珍しいっちゃ珍しい。 一体どういう風の吹き回しだ? 「お前とメシ食いに来たのも久しぶりだよな」 「そりゃそうだ。最近はほとんど家で食うようにしてるからな」 妹を一人ほったらかして俺だけ外食なんて出来るわけが無いだろ。 そんなことをしたら、自他共に認めるシスコン兄貴のコイツは俺を責めるだろう。 そういう奴だ。――だから俺が誘いに乗ったのは赤城にとっても意外だったらしい。 「今日は妹さんはいいのか?」 「友人の家に泊まりに行くって言ってたからな、大丈夫だ」 今ごろ桐乃はあやせの家にお邪魔してるハズだ。 この前の事もあるし、二人でゆっくり話す事も必要だろう。 「彼女はどうした?あの瑠璃ちゃん・・・だっけ?」 「ぐ、気安く呼ぶんじゃねーよ」 痛いところを突かれてつい棘のある口調になるが、赤城の疑問ももっともだ。 久しぶりに桐乃の心配をしなくて済む日だから、今日は黒猫と会うつもりだった。 「・・・・・なんか用事があるんだとさ、断られた。」 「あらら・・・」 「なんなんだよ?」 「いや、瀬菜ちゃんが心配してたんだよ」 「なんだって?」 瀬菜というのは赤城の妹で、腐女子だが巨乳メガネの可愛い子だ。 それが俺の心配だと?ふっ、モテる男は辛いぜ・・・。 「何か勘違いしてるみたいだが瀬菜ちゃんが心配してたのはお前の彼女の事だ」 「なんだよ、それ」 瀬菜と黒猫は部活の仲間で、共同でゲームを作ったりもした仲だから 気にかけないわけがないんだが、俺への心配はゼロかよ。まあいけど。 「お前あれから彼女と連絡取ったりしてるのか?」 「当たり前じゃねーか」 「そうか?瀬菜ちゃんが言うには彼女相当辛そうだって話だぞ?」 「そうなのか?」 「いや、俺が直接見たわけじゃないからハッキリ言えないけどさ、  瀬菜ちゃんあの子と結構仲良しだから心配なんだと思う」 「・・・・・・・・・・」 俺と黒猫が付き合い始めたのは去年の夏。 そろそろ一年近く経つが、その間恋人らしい事をした回数は意外と少ない。 俺の受験勉強も理由の1つだが、沙織と桐乃を加えて四人で会うことが多かった。 事故の後はそもそも時間的な余裕が無かったから、ほったらかしにしていたのも事実だが、 公園での一件以来、わりと頻繁に連絡は取り合ってるんだが・・・ ぐいっと残っていた日本酒をあおる。 そもそも黒猫は桐乃の友人でもあるんだから、家に来てくれたっていいはずなのに―― 「まあ、大変なのはわかるけどよ。言うべき事はちゃんと言って吐き出した方がいいぜ」 「ああ、そうだけどな・・・」 ――だけど何を誰に言えばいいんだ?誰に何を聞けばいいんだ? 「これ以上飲んでも悪酔いしそうだし、そろそろ帰るわ。妹によろしくな」 出来るだけ今まで通りの平和な日常を過ごしたい―― 俺も、――アイツもきっとそう思って暮らしてるに違いないはずだ。 だけど新たに露呈した血の繋がりが無いという事実が、 それを蝕んでいるような気がしてきた―― 同じことを繰り返しながら違う結果を求めるのは、愚か者のする事だ。と、 どっかの偉い人が言ってた気がする。つまり違う事をしたら違う結果が返ってくるという理屈だ。 ならば、普段では有り得ないような珍しい事があると、さらに珍しい事が引き起こされる―― 今の俺はそう言われると信じるかもしれない―― 「あれ、ブリジットじゃねーか?」 ブリジットとは桐乃の大好きなアニメ「星くず☆うぃっちメルル」に登場する アルファ・オメガとそっくりなイギリスの女の子だ。 公式のコスプレ大会で常に上位に入賞するほどで、 それを見込まれ今では本格的にタレント業をしているはずだ。 場所は秋葉原。やってる仕事を考えれば場違いではないが、仕事中って雰囲気じゃない。 「よっ!こんなところで何をやってるんだ?」 「ふぇっ!?どちら様ですか?」 以前、加奈子のマネージャーとして顔をあわせてから二年近く経つかな? 「ああ、覚えてないのも無理ないか。ほら結構前に・・・」 「――彼氏さん?」 「へっ?」 いきなり妙な呼ばれ方をして素っ頓狂な声を出してしまった。どういう意味だ? 「あ!やっぱりそうです!かなかなちゃんのお友達の彼氏さんですね!」 はっと思い出した。そういえば俺はこの子とは、加奈子のマネージャーとして以外に、 桐乃の彼氏として顔を会わせた事があった。――あの偽装デートの時に。 「そ、そうだ!よく覚えてたな、君と違って俺はただの一般人なのに」 「え?エヘヘ///」 なんて可愛らしい仕草で照れるんだ、この子は。思わずぎゅっとしたくなるじゃないか! 「今日はお一人なんですか?彼女さんは?」 「ああ、ちょっと用事があって今日は一人だ。君は?」 「かなかなちゃんに置いて行かれました・・・」 思わずぷっと噴き出してしまう。 ブリジットが加奈子を慕い、加奈子がそれをウザがる構図は変わってないらしい。 「せっかくだし何か食べていくか?」 桐乃にも黒猫にも沙織にさえ疎外されてた俺は、つい目の前の知人を誘ってしまった―― 「懐かしいです!」 以前、偽装デートの時に来た店だ。まさかこの子と二人で来るとは夢にも思わなかったな。 まあそれを言うなら、あの三人が揃って俺を置いていく状況も、考えたことは無かったが。 「どうして今日はお一人なんですか?」 「今日は女の子だけで遊びたいんだってさ」 沙織のガンプラが何かのコンテストで大賞をとったお祝いパーティ※ただし女性に限る。 あいつらから聞かされた理由はそれだが、ただの口実だろうな。 実のところ最近桐乃と黒猫の関係がかなりギクシャクしている。 沙織が「大事な友人二人に祝って欲しい」と言って、強引に引き合わせたってワケだ。 「寂しいですね」 「まぁな」 苦笑いを浮かべて素直に肯定する。この子に意地を張っても意味がない―― パフェを頬張りながらチラチラとこちらを見てくる。 「なんだ?何か付いてるのか?」 「あの、お二人はまだ恋人同士なんですか?」 「ん・・・、ちょっと違うかも。―――――実は結婚したんだ」 「えぇえーーーーーーーーーっ!!!?」 「バカ!声が大きいっ!!」 なんで!?いつ!?どうして!?と 興奮冷めやらぬ様子で矢継ぎ早に質問してくるブリジットをなだめながら話をする。 「こんなに早く結婚しちゃうくらいお二人は、その・・あ、愛し合ってたんですか?」 「う~ん、どうなんだろうな?」 「好きじゃないのに結婚したんですか?」 おいおい、とんでもない聞き方してくるなぁ。 「まぁ・・・、離れたくなかったんだよ」 あのままじゃ俺たち二人はきっと離れ離れになってしまっていた。 ただ、寂しかったのか、心細かったのか――それとも【俺と離れたくなかった】のか。 桐乃の真意は未だにわからない。――でも、それは俺も同じだ。 「まだ、もう少しアイツと一緒に居たかったんだよ・・・」 家族愛?兄妹愛?――大嫌いだったはずのあいつとの暮らしが放し難い理由は―― 「俺にも良く分かんないんだけどな」 ちょっと縁遠い第三者の方が本音を話しやすいのは本当みたいだ。 こんな桐乃より年下の女の子に、自分でもよくわからない悩みを言うなんてな。 「でも、わたしはお二人が羨ましいです!」 そう言って見送ってくれたブリジットの笑顔はとても眩しかった。

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