「俺が妹と夫婦なわけが無い」08

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緊張の面持ちのまま家に着いた。走ってきたわけでもないのに心臓はバクバクいってる。 帰宅するのにこれほど落ち着かない日は後にも先にも無いかもしれない。 俺の人生は今日、大きな分岐点を迎える―― 「ただいまー」 鍵も開いているし家の明かりは点いてるので桐乃が居ることは間違いない。 二階の自室?リビング?どこに居るのだろうか? とはいえ帰って先ず最初にすることはいつも同じだ。リビングに向かい水分補給―― 「あ、おかえりー」 「おう、ただいま。ここに居たのか・・・ってなんか少し散らかってないか?」 「うん、お祝いにあやせと加奈子が来てくれてたからサ」 「人気者は大変だな」 苦笑しながら軽く茶化す――普段と同じように話しかけることが出来て若干落ち着いた。 しっかしまあ、昼はオタク仲間の沙織と黒猫、夕方にはモデル仲間のあやせと加奈子、 パーティを開いてまで誕生日を祝ってくれる友人が二組もいるっていうのは流石だな。 「片付け手伝おうか?」 「うん、ありがと」 クラッカーでも鳴らしたのか小さな紙屑とかも落ちてるな。 他にも色々食べた後などが見受けられる―― 加奈子はともかく、あやせが桐乃の家をこんな状態のままにして帰るとはどういう事だ? 「ひょっとして桐乃が片付けはしなくていいって二人に言ったのか?」 「ああ~、うん。そう。実はついさっきまで居たんだよね~」 「なるほど、そういう事ね・・・」 あやせはともかく加奈子にまで居られたら大事な話なんてできないからな。 この配慮は素直にありがたい・・・・・ん?ちょっと待てよ? 「そろそろ俺が帰ってくるってなんでわかったんだ?」 「黒猫と沙織からメールもらったの」 「そっか・・・」 「ってかさ、あんたあたしの誕生日にあの二人とナニしてたワケ?」 「え?」 「メールと帰るタイミングがばっちりって、どう考えても直前まで一緒に居たって事でしょ?」 「あ、ああ、そういう事か」 あの二人は俺が喫茶店を出た時に桐乃にメールを送ってくれたって事か。 「で、あたしに隠れてこそこそとなに話してたの?」 「今日の約束のことだよ」 「約束?」 「忘れたフリすんなっての」 「・・・・・」 「一応、これだけはケジメつけたいんだけど」 「・・・・・そっか」 桐乃は掃除の手を止めて立ちすくむ――やっぱり勘違いするよな。 だけど物事には順序ってもんがある。だから一つずつ話していかないと。 「書類・・・今どこに置いてるの?」 「もう、持ってきていいのか?」 「うん、覚悟はしてたから」 黒猫と同じセリフに驚きつつも、用意していた離婚届を取りに部屋に戻る。 そしてもう一つ――あの日見つけたもう一つの指輪を持ってリビングに戻る。 「・・・もう自分の分は書いてたんだ。準備いいね」 どこか辛そうな様子で桐乃の書くべき欄を埋めていく。これであとは提出するだけだ。 書き終えた桐乃の目は潤んでいるように見えた―― 「明日、これを出せばお前の兄貴役もお役御免だな」 「嬉しいの?」 「・・・少し寂しいな」 これは本音だ。俺が桐乃のことを好きな気持ちに嘘は無い。 だけど桐乃は好きな女の子であると同時に、大事な妹だったことも確かなんだ。 だから、わかっていても兄貴じゃなくなることが少し寂しい・・・ 「・・・財産分与は前に決めてた通りでいいの?」 「ああ。もともと親父とお袋の物だし、二人だけになってからの稼ぎもお前の方が多かったからな。  不動産は全部お前に任せるよ」 「・・・・・あんたこれから住む場所はどうするつもりなの?  家賃入れるならこのまま住まわせてやってもいいけど?」 「是非っ、お願いします!!」 俺はこのありがたい申し出に間髪入れず飛びついた―― が、当の桐乃は驚いた様子で呆気にとられている。 書類を書く桐乃の様子から、まだ俺を好いていてくれていることは期待できそうなんだが・・・ 「なんだその鳩が豆鉄砲くらったような顔は」 「だ、だってあたしてっきり出ていくんだと思ってたし・・・」 まあ、そうかもしれないな。だが安心しろ桐乃。ちゃんと全部伝えるから・・・俺の気持ち。 「黒猫とは、今日ちゃんとケリをつけてきた。もう一度って言われたけど・・・断ったよ」 目を大きく見開いた桐乃のその表情が、誰かさんと被る―― よく似てる、意地っ張りなところとか・・・いや、黒猫が桐乃に影響されて似てきてたのかな・・・ 「ごめんな、お前の友達泣かせちまった」 「・・・そ、そうじゃない!!なんで!?どうして!?」 「どうしてって・・・お前は俺が黒猫とまた付き合い始めると思ってたのか?」 「―っそ、そう!!」 「なんでそう思ってたんだ?」 「だ、だって最近のあんたの態度とかがさ・・・」 「なんだよ」 改めてはっきり言うのは恥ずかしいのか口篭ってごにょごにょ言うだけだ。 んー、まあ確かにこいつの行動を口で説明するのはちょっと憚られるな。 酒の勢いを借りながら赤城に相談したことも、今思い返すと恥ずかしい・・・ とは言え、桐乃の言わんとすることくらいわかる。 「正直に言うと、お前の誘惑に耐えながら兄貴面するのは相当な苦行だったぞ」 「ちょ、ちょっと何よいきなり!?誰もそんなこと言ってないし!!」 「じゃ、言い方変えるわ。俺がずっと兄貴としての態度を崩さないように出来たのはな、  お前の兄貴をやるのは今日までって決めてたからだよ」 なんで?とか、どういうこと?って聞きたそうな顔してるな。 そんなに上手に隠せてたとは思ってなかったが、桐乃の奴も結構鈍いんじゃねーのか? 「あの日、お前言ったよな?家族全員失くしたようなもんだって。  当たりだよ。俺、気付いてなかったけど相当ショック受けてたみたいだったんだ」 「・・・うん」 「んでさ、気付いたんだよ。お前が俺を守ってくれてたことに」 「べ、べつにあんたを守ってたわけじゃ・・・」 「はは、まあいいさ。桐乃がどう思ってたとしても結果的にそうなってたんだよ」 それこそ、桐乃の方が参ってしまうまで気が付かないくらい俺はパニくってたんだ。 「親父やお袋に顔向けできねー気がしたよ・・・  あれだけ良くしてもらったのに、桐乃に頼りっぱなしじゃ恩返しもできない」 あんな状態の俺に、大事な娘を任せるなんて言ってくれたとは思えない―― 「そんで情けなくなってさ・・・兄貴のクセに妹に守られてさ・・・  昔、御鏡の奴にあれだけタンカ切ったってのにどうしようもねーと思った」 俺を安心させてみやがれって言っておきながら、自分の方がよっぽど信用ならねーザマだった―― 「だから決めてたんだよ。お前が二十歳になるまでは兄貴としてしっかりお前を守るって。  そして俺自身が、こいつなら桐乃を任せられると思える奴になろうとしたんだ!」 離婚届と一緒に持ってきた指輪を出す――これはお袋の形見だ。 あの日見つけたもう一つの指輪――かつて親父がお袋に贈った思いの結晶―― 「借り物で悪い。だけどちゃんと予約してる、今月の給料が出たらその足で買いに行く。  だからそれまではこれをつけててくれないか?親父がお袋に贈った――婚約指輪だ」 桐乃の手を取って指輪を渡す―― 本当は自分で買った物を渡したかったが、今の俺は一日だろうとこいつを手放したくなかった。 「俺と、結婚を前提に付き合ってくれ」 桐乃は心ここにあらずって感じで固まってるが、俺の心臓はもう破裂しそうだ。 「な・・・んで・・・?」 「なんでって・・・お前が好きだからだよ」 「す、好きだからって・・・!い、いつから?」 「今の俺が桐乃を好きなんだからそれでいいだろ?・・・お前のセリフだぜ」 「そ、そうだっけ?」 「それにこれから先もずっと好きでいる自信もある。だから・・・俺と付き合ってくれ」 大事なことなので二度言いました。さあ、答えてくれ―― 「ウソじゃない・・・?」 「こんなことで嘘つくかよ」 「ほ、本当に本気?」 「冗談でお袋の指輪なんて借りれるか」 「じゃ、じゃあなんで離婚・・・?」 「・・・・・黒猫は大事な友人だろ?俺にとってもお前にとっても。  だから、あいつとの約束は絶対守んなきゃいけないって思った」 「それだけ・・・?」 黙って首を振る。もちろんそれだけじゃない。 今までの延長じゃダメなんだ。新しく関係を築き上げるために―― 「兄妹でも夫婦でも家族でもない関係に・・・。離婚して・・・俺の恋人になってくれ」 目に涙を浮かべ俺の体に飛び込んできた桐乃をそっと受けとめる―― 見慣れたはずのこのライトブラウンの髪の毛がとても輝いて見えた―― 「あ、あ、あに・・・」 「おっと、これからは京介って呼んでくれ。その方が恋人っぽいだろ?」 まさかここまでしておいてNOとは言わねーよな? 俺はそのまま黙って桐乃を抱きしめてその唇にキスをした――    俺と妹が夫婦なわけがない―――――だって恋人なんだからな。 <おわり>

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