25/24

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「遅い、遅すぎ」 「あー…すまん。でも今日は用事が出来たって連絡したろ。帰ってもよかったのに」 部屋で一人待たせちゃ悪いと、随分前にメールしといたんだが。 「そういうこと言う、フツー? 可愛い彼女が健気に待ってたんだから他に言いようがあるじゃん」 カバンを置き上着を脱いでいるところへ加奈子が絡んでくる。 ご立腹であるような口調の一方で、期待をちらつかせつつ。 「可愛いとか健気とか臆面もなく自分で言うかよ普通」 すこし意地悪をしたくなってかわしてみると、堪えかねた加奈子に捕まった。 「もう、まだるっこしい、ただいまの挨拶はー!?」 「わかった。わかったから。引っ張るな。倒れちまうっての」 改めてただいまを言い、抱き寄せる。 おかえり。待ってた。呟いて加奈子は俺の胸に顔を埋める。 こうなるとしばらく離してくれそうにないんで、自然と加奈子の髪を撫でたりして過ごす。 黙ってても間が持たなくなるなんてことはないが 今日はマジでいい時間になってるのが気にかかり、語りかけてみる 「本当に帰りが何時になるかわからなかったから、まさかずっと待ってるとは思わなかったよ」 「……またそゆコト言うし。アタシが好きで待ってたの、野暮言うなよなー」 続けてわからずや呼ばわりして、俺の背中に回された腕に力が込められた。 「そか。まぁ俺も照れくさくてあんな態度しちまったけど、白状すると結構嬉しかったぜ」 家族と住んでた自宅に帰るのと違って、一人暮らしのアパートにそれも夜遅く疲れて帰りついたとき。 明かりの灯された部屋に、俺を迎えるためだけに待ってくれてた加奈子を思う。 これが家庭の温かみってやつかと、年不相応にも染々実感されちまうのだった。 そういえばこいつ、飯は済ませてんのか? ようやく思い至って訊ねてみると。 さすがに空腹には抗えなかったらしく「一人で食っちった、悪ぃ」とのこと。 「いやいやいや。謝るなって。むしろそこまで待たれたら俺立つ瀬なくなるっつの」 普段ならもっと早くに待ち合わせてダベるなりDVDで映画見るなりの後、 夕飯どうしようか…なんてやりとりをかわすのが常だったが 「さて。会ったばっかで名残惜しいが、そろっと家に帰る時間だろ。送ってく」 「え゛~」 ことさらに渋面を作る加奈子に、むず痒さを禁じ得ない。 「ウチけっこー放任だし、まだ大丈夫だって」 「そりゃ俺だって本意じゃないけどな。もう九時だ、観念しとけ」 「ぶーぶー」 またぶーぶー言ってやんの。お子様か。 都合のいい時だけ幼ぶってもアピールとして成立する、女子ってずりぃ。 「あんまり駄々こねるなよ、俺をケジメのない彼氏にしてくれるな」 「泊まってくか、とか言ってくんねーの?」 上目遣いががががが ぐぅ… 「ダメだ。今日のとこはな。週末まで我慢するように」 「わかった。土日は空けとくんだぞ、約束な?」 こうして今週末も泊まりの予定が組まれるのだった。 うーむ、うまいこと誘導された気がしないでもない。 言葉少なに夜の通りを行く。 足の運びが次第にゆっくりになり、それでも歩みは止まらず ほどなく来栖家に到着する。 「はぁ…もうついちゃったか」 門前で最後の別れを惜しむ俺達。 と言うとやや大袈裟だが、ここまで来たらあとは「じゃあな」と口にすればそれまでだから 逆にもうちょっとくらい喋っててもいいだろうって気安さも湧く。 「あ~あ。1日がもっと長かったらなー」 「お定まりだな。同感だ」 「48時間とか贅沢言わないからさ、せめて25時間になってくんねーかな~って」 割と謙虚なことを言う。 「なかなか魅力的な絵図だと思うが、実現は難しそうだ。社会の在り方がひっくり返っちまう」 規模的にサマータイムとはわけが違う 「京介、頭かてーよ。そんなマジな話じゃなくて……24時間で25時間過ごせるような感覚があったら、とかさ」 「それはそれで実生活が破綻しかねないぞ。単純に1時間得できるってだけじゃ済まないだろ」 我ながらくどい性分と自覚しちゃいるが、気が付くとついついツッコミをはさんでしまう。 「そうだけど。そーいうんじゃなくて、二人で一緒にいる時間が1日1時間だけ伸ばせたらなー、とか」 言わんとするところはわかる。わかりすぎるほどだ。 体感時間を任意で引き伸ばせたら、か。マンガなんかだとよく見るな。ただあれって 「寿命縮みそうじゃね?」 「かも」 有り得ないことを真面目に語ってしまい、同時に苦笑を漏らした。 「でもこれから先、京介と過ごす24日が25日に、24週が25週に、…24年が25年になるなら、   そんなフツーじゃない感覚と寿命と引き換えにするのも悪くない気がする」 「は、ずいぶん大胆発言だな」 今一度、クスリと小さく笑いを交わす。 「じゃあ俺としちゃ『時間が経つのが早すぎる足りなすぎる』って、どんだけ思わせられるかで真価が問われるわけか」 その決意はしかしまたも加奈子の笑いを誘う結果に。 「なにそれ、おっかしーの」 潮時のようだ。 別れの挨拶に代えて、背伸びした加奈子にあわせて屈んで、いつもより気持ち長めにキスをする。 離れた唇から溢れる吐息が、一瞬ふわりと互いの間にとどまり、霧散した。 「オヤスミ、京介」 「おう。おやすみ」 <終>

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