名探偵あやせ:12スレ目698

「名探偵あやせ:12スレ目698」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

名探偵あやせ:12スレ目698」(2012/06/17 (日) 17:56:44) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

698 名前: ◆Koneko/8Oc[sage saga] 投稿日:2012/06/17(日) 17:00:16.78 ID:4ZBc2X6so [1/13] 「真犯人は、お兄さんです」 俺の顔を見るなり、あやせは真っ直ぐに突き出した人差し指を俺に向けて断言した。 約束した時間よりも大幅に遅刻して来た癖に、その顔には悪びれる様子など微塵もない。 昨夜、あやせが電話で指定した場所はいつもの児童公園ではなく、意外にも植物園だった。 待ち合わせの相手があやせなら、その場所がたとえ地獄であっても俺が出向くことに変わりはない。 しかしそうは言っても、いきなり真犯人呼ばわりされたんじゃ堪ったもんじゃない。 「何で俺が真犯人なんだよ」 「わたし、どう考えても真犯人はお兄さんをおいて他にないと決めてたんですが……。  そうじゃないと、お話を初めから練り直さなくてはいけないんです」 「だったら練り直すなり叩き壊すなりすりゃあいいじゃねーか。  あやせも桐乃みたいな小説が書きたい、だから俺に相談に乗ってくれってことだったろ。  それが何で俺が犯人役で登場なんだよ。つーか、恋愛物じゃねえのかよ」 「どうして恋愛物だなんて勝手に決め付けるんですか。  女から振られた人に、わたしが恋愛物についてご相談するとでも思いますか?」 期待した俺が馬鹿だった。 俺が黒猫と別れてから随分と日が経っているというのに、未だに根に持っていやがる。 何よりも、あやせの知らないところで俺が女と付き合っていた事実がお気に召さないらしい。 「わたしが書きたい携帯小説の内容はこうです。  とある中学校に通う女子中学生が、実は警察もびっくりするような凄腕の名探偵なんです。  どんな難事件でも、その女の子に掛かればたちまち解決してしまうんです」 699 名前: ◆Koneko/8Oc[sage saga] 投稿日:2012/06/17(日) 17:00:53.18 ID:4ZBc2X6so [2/13] どこかで聞いたような気がしないでもなかった。 有名な漫画の高校生探偵が女子中学生に代わっただけで、結局のところパクリじゃねえか。 真実はいつもひとつ! ってか。 「犯人役がご不満なら、お兄さんは死体の役でもいいんですよ」 あやせに迂闊なことを言うと、死体の役どころかリアルで死体にされかねない。 何にしても書くのは俺じゃねえし、あやせなら途中で飽きて投げ出すのが関の山かもしれん。 仕方がねえ、今日はあやせと話が出来るだけでも良しとするか。 「犯人役っていうのも考えようによってはいいかもしんねーな。  女にモテモテの二枚目の知能犯とか――でさぁ、登場人物の名前とかは考えてあんのか?」 「もちろんです。  主人公は“新垣あや乃”と言って、小説の中では中学三年生の女の子なんです。  犯人は高坂京介、高校三年生で……」 「“あやせ”をもじって“あや乃”ってのはわかる。  何気に桐乃が混じってるようだが……まぁ、この際それは置いておくとしてだな。  ……犯人の高坂京介って、まんまじゃねーか」 「細かいことはあまり気にしないでください……犯人の癖に。  わたしの処女作なんですから、少しは大目に見てくれてもいいじゃないですか」 700 名前: ◆Koneko/8Oc[sage saga] 投稿日:2012/06/17(日) 17:01:31.43 ID:4ZBc2X6so [3/13] 正真正銘の処女が書く処女作、てか。 あやせの水着姿のDVDでも付録につければ、売上アップは間違い無しだろうな。 俺ならDVDだけ頂いたら、後はゴミとして捨てちまうんだけど。 「DVDを付録に付けるなんてのはどうだ?」 「DVDを付録にって……ブチ殺されたいんですか?  お兄さんが考えているようなこと、わたし、死んでも絶対にやりませんから。  それとも、お兄さんが血だらけになって死んで行くDVDでも付録に付けますか?」 「……言ってみただけじゃねえか」 あやせもここへ来るまでにそれなりに考えてはあるらしい。 犯人が残した僅かなミスを手掛かりに、名探偵が次々とトリックを暴いていく。 よくあるパターンとも言えるが、そうやって最後には真犯人を自白に追い詰めていくんだとさ。 「トリックや推理に重点を置きすぎると女の子は敬遠しがちですし、読者も限られると思うんです。  なので中学生の女の子らしく、少しだけ恋愛要素も入れてみることにしたんです」 恋愛なら俺の得意分野じゃん。……ただし、失恋専門だけどな。 「中学生探偵の“あや乃”は、事件解決のために犯人と頻繁に接触する必要があるんですが……。  犯人と何度も会っている内に、いつしか犯人に好意を抱くようになってしまうんです」 「ストックホルム症候群みたいなもんか?」 「……って、何ですか? 小説の舞台は、外国じゃなくて日本なんですよ」 701 名前: ◆Koneko/8Oc[sage saga] 投稿日:2012/06/17(日) 17:02:07.55 ID:4ZBc2X6so [4/13] 「まあいいや、じゃあ好きになるってことは、その犯人がイケメンとか?」 「いいえ、どこにでも転がっていそうな地味で鈍感な男子高校生という設定です。  でも、“あや乃”にとっては特別な存在で、誰よりも格好よくて素敵な人に見えるんです」 「地味で鈍感でどこにでも転がっていそうなヤツが、何で素敵に見えるんだよ」 「それは、“あや乃”が犯人の本当の姿に気付いているからなんです」 俺は、今でもあやせにとって近親相姦上等の鬼畜兄貴なんだろうか。 あやせに本当のことを言ってしまえば、俺の汚名はすぐにでも返上できる。 しかし、そんなことをすれば……。 「どうかされたんですか? 何だか、元気がないように見えますけど」 「いや、何でもねえよ。……ちょっと、な」 あやせが身振り手振りを交えて小説の内容を説明している横で、俺は適当に突っ込みを入れる。 コスモスの花が風に揺れる広場の小路を歩きながら、俺たちは時の経つのを忘れた。 「お兄さん、ここでわたしと手を繋いでください。あっ、でもでも、変な勘違いをしないでくださいね。  これは、“あや乃”がさり気なく犯人の指紋を採取するためなんですから」 さり気なくって、素手でどうやって指紋を取るんだっつーの。 手にラップでも巻いてあんのかよ!? 「どうしたんですか? わたしに、協力してくれるんじゃなかったんですか?」 702 名前: ◆Koneko/8Oc[sage saga] 投稿日:2012/06/17(日) 17:03:04.73 ID:4ZBc2X6so [5/13] 今日のあやせはテンションが高めで、それにどことなく落ち着きがない。 そうかと思えば、ときおり不安そうな表情で俺の顔を覗き見る。 俺と手を繋いで歩きながら、今もしきりとあちこちに視線を彷徨わせていた。 「あっ、お兄さん、ちょっと待ってください。  犯人はあのお店で、偶然にも“あや乃”にソフトクリームを買ってあげていたんです」 あやせが目を輝かせて指を差す先には、植物園の中に設けられた小さな売店があった。 もう秋だというのに、軒下の“氷”の文字が入った暖簾がいかにも寒々しい。 その場所だけ、夏のまま時間(とき)が止まっているかのようだ。 「あやせ、おまえの頭がおかしいのはいつものことなんだけどさぁ……。  最近、日本語の使い方もおかしくなってねーか?」 「そんなことはありません。くだらないこと言ってないで、早く買ってください」 俺はあやせにせがまれて売店でソフトクリームを買ってやり、また手を繋いで歩き始めた。 何となく既視感を覚える光景に、妙な寂しさと罪悪感を覚える。 あの夏の日の想い出が甦りかけたそのとき、あやせが俺の手を強く引っ張った。 「ん? どうしたあやせ、何かあったのか?」 あやせは少し唇を尖らせ、抗議するような口振りで俺に言った。 「お兄さん、わたしの口に、ソフトクリームが付いていませんか?」 703 名前: ◆Koneko/8Oc[sage saga] 投稿日:2012/06/17(日) 17:03:42.32 ID:4ZBc2X6so [6/13] 「付いてんのはさっきから知ってたけど、それがどうかしたのか?」 「もうっ、知っているなら拭いてくれてもいいじゃないですか。  お兄さんは、女の子の口にソフトクリームが付いてても恥ずかしくないんですか?」 「恥ずかしいっつーより、あやせの場合、何かの罠なんじゃねーかと思ってな」 「――なわけないじゃないですか。さあ、お兄さん、遠慮なく拭いてください」 俺はハンカチを取り出すと、口の周りに付いたソフトクリームを丁寧に拭いてやった。 あやせは心持ち顎を上げて目を瞑り、おとなしく俺にされるがままだ。 この隙に俺がチューでもしたら、それは強制わいせつ罪……いや、死刑だな。 「ほらっ、綺麗になったし、これでもう気が済んだろ」 「うふっ、これで犯人のハンカチには、ソフトクリームと一緒に“あや乃”のDNAも付着したんです」 してやったりといった満足そうな笑顔であやせは、再びソフトクリームを舐め始めた。 俺には事件の概要がまったく見えねえ。 しかし、あやせが俺をモデルにしたということは、どうせロクでもないことだけは確かだ。 「DNAとかって、何か殺人とか性犯罪に絡んでるみたいにも聞こえんだけど……。  あやせの小説の中で、高坂京介は一体何をやらかしたんだ?」 「申し訳ありませんが、それはまだ秘密です」 704 名前: ◆Koneko/8Oc[sage saga] 投稿日:2012/06/17(日) 17:04:18.50 ID:4ZBc2X6so [7/13] 「それじゃあ、登場人物の性格付けとかは決めてあんのか?」 「犯人の高坂京介は、一見するとぶっきらぼうなんです。  でもそれは単なる照れ隠しであって、実は女の子にはとっても優しい人なんです。  それから、妹思いなんですけど……馬鹿が付くほどの鈍感と言うか……」 「ちょっ、ちょっと待った、犯人に妹がいるなんて俺は聞いちゃいねえぞ!」 「妹がいたら、そんなにおかしいですか?  お兄さんだって桐乃がいるんですから別にいいじゃないですか。  細かいこと言っていると、段々と罪が重くなって、最後には死刑になっちいますよ」 あやせが死刑執行人なら俺は火炙りの刑か、さもなくば生き埋めの刑かもしれん。 俺は後世に名を残すこともなく、呆気なくあの世へ旅立つことになるのか。 それならいっそのことあやせにお願いして、俺がこの世にいたという証だけでも……。 「お兄さん、顔がにやけていますけど……どうかしたんですか?」 「いや、自然の摂理と人類の歴史について、俺なりに考察を深めていたところさ。  何にしても、思ったほど犯人は極悪人っつーわけでもなさそうだな」 「お兄さんがモデルですから、そのあたりは配慮してあげました」 「礼を言うべきか迷うとこだけど、じゃあ……“あや乃”の方はどうよ」 「それは……」 705 名前: ◆Koneko/8Oc[sage saga] 投稿日:2012/06/17(日) 17:04:57.43 ID:4ZBc2X6so [8/13] 小説の中の“あや乃”、それはあやせ自身がモデルだ。 自分で自分の性格を言うのは難しいことだし、あやせもそれはわかっているようだ。 俺に言わせれば、あやせは稀なほど純真で素直な心の持ち主だと思う。 勝手な思い込みからときには暴走することもあるが、それはあやせの魅力の一つでもある。 「ふーん、お兄さんは、わたしのことをそんな風に見ていたんですね。  わたしも自分が思い込みの強い性格だというのは認めます。  でも、わたしはお兄さんが思っているほど純真ではありませんし、普通の女の子ですよ」 「普通であり続けるって、けっこう大切なことだと思うぜ」 「そうですか? まあ、お兄さんはかなり変わっていますからね」 俺が変わっていると言うなら、あやせは狂って―― まあいい、今日はあやせの小説家ごっこに適当に付き合っていればいいわけだし……。 あやせとこうして仲良く歩けるなら、俺にしてみれば何の文句もない。 「また顔がにやけていますけど……。  そうやって、お兄さんはいつもいかがわしいことばかり考えているんですか?」 「俺の頭は一年中そんなことばっか考えてるとでも思ってんのかよ。  いや、あながちそうでもないか……。  正直なところ、今日はあやせとデートしてるみてえだなとも思ったしな」 「こっ、これはデートなんかじゃありませんから!  お電話でもお話ししたように、今日はお兄さんに小説の内容について……」 706 名前: ◆Koneko/8Oc[sage saga] 投稿日:2012/06/17(日) 17:05:36.03 ID:4ZBc2X6so [9/13] 「……だよな、あやせが俺みたいなヤツとデートしてくれるわけがねえもんな。  後輩に告白されて有頂天になったはいいけど、付き合い始めたらすぐに振られちまうし。  あやせから呼び出されたらホイホイと出掛けて行くような男だし。  デートどころか、こうしてあやせに口を利いてもらえるだけでも俺は感謝しねえと……」 「な、何もそこまで自分を卑下しなくても……。  それにわたし、別にお兄さんのことを嫌っているわけでもありませんから。  別れた彼女のことは……少しだけ気にはなっていますけど」 俺とあやせの間には、明らかに気まずい雰囲気が漂っていた。 あやせの口を拭くときに一旦離した手は、そのあと繋ぐタイミングを失ったままだ。 今さら、俺の方から手を繋いでくれとも言えねえしな。 「お兄さんはわかっていると思いますが、わたしは嘘が嫌いです。  ……でも、人は優しさから嘘をつくこともあると、以前わたしはある人から教わりました。  お兄さんを振った彼女も、お兄さんには言えない理由があったのかもしれません」 「なぜ、あやせから黒猫の話が出るんだ?」 「別にいいじゃないですか。  ……コスモスの花を見ていたら、ちょっと思い出しただけです」 淡々と話すあやせの顔には、苛立ちと不安が浮かんでいるように見えた。 707 名前: ◆Koneko/8Oc[sage saga] 投稿日:2012/06/17(日) 17:06:17.60 ID:4ZBc2X6so [10/13] 「あ、あの……“あや乃”が犯人を捕らえて警察へ連行するシーンなんですけど……」 俯き加減でボソボソと言うあやせ。 「どうしてもイメージが湧かないので、ちょっとだけ試してみてもいいですか?」 「えっ? 俺――じゃなくて、犯人が捕まるシーンだな。  すまねぇ、ちょっと考えごとしてたもんだから……で、俺は何をすりゃいいんだ?」 あやせはおもむろに右手で俺の左腕を掴むと、もう片方の左手を軽く添えた。 俺はこれといって抵抗することもなく、まったく呆気ないほど簡単に捕まったわけだ。 「それでは、これから署まで連行します。  わたしの言うことをよく聞いておとなしくしていれば、罪を軽くしてあげてもいいですよ」 刑罰を決めるのは裁判所の仕事だ。 何の権限も持っていない一介の私立探偵が、犯人と司法取引するなんて出来るわけがない。 探偵小説を書こうとしているヤツなら、そんなことも知らないでどうするよ。 しかし、あやせは事件を無事に解決したつもりなのか、楽しそうに笑っていやがる。 「なあ、犯人はこのまま大人しく連行されて行くのか?   探偵をいきなり張り倒すとか、そうじゃなくても隙を見て逃げたりはしねえの?  何だか呆気なく捕まっちまって、盛り上がりに欠けるような気がしないでもねえけど」 「暴力は反対です。それから、そういうことはわたしだってちゃんと考えてあるんです。  犯人の高坂京介は、“あや乃”のご機嫌を伺って食事に誘うんです。  “あや乃”は犯人に惹かれていましたし、まんまとその誘いに乗ってしまうんです」 708 名前: ◆Koneko/8Oc[sage saga] 投稿日:2012/06/17(日) 17:07:13.19 ID:4ZBc2X6so [11/13] なるほど、“あや乃”はアホの子だったと。 警察にすぐに通報するわけでもなく、連行する途中で犯人からの誘いに乗っちまうとはな。 もしかして、最後は“あや乃”も共犯でしたっていうオチじゃねえのか? 「やっぱ、ずっと気になってたんだけど……犯人は、一体どんな罪を犯したんだ?」 「そ、それは……窃盗罪です。高坂京介は、とんでもないものを盗んだんです」 「俺が何を盗んだっつーんだよ。現金とか、宝石とかか?」 「高坂京介は、わたしのハートを盗みました……」 あやせの顔が一瞬にして真っ赤になった。 今の会話、いつだったかテレビで見たアニメのパクリじゃねえか。 あやせの言うことをまともに信じたら、窃盗罪が強制わいせつ罪に変わるかもしれん。 「何だかわからねえけど、何か企んでんじゃねーのか?」 「そんな、企むなんて……酷い。  わたしはお兄さんに……お兄さんに…………欲しかっただけなのに……」 あやせは俄かに顔を曇らせ、哀しそうな目で俺を見た。 しかし読モをやっているあやせのことだ、これくらいの演技は朝飯前だろう。 「日頃のおまえの態度を見てもだな、こりゃ何かあると疑ってみても……」 「疑うだなんて…………でも、そこまでおっしゃるのなら……わかりました。  わたしの考えていた筋書きと少し変わってしまいますけど……」 709 名前: ◆Koneko/8Oc[sage saga] 投稿日:2012/06/17(日) 17:07:59.27 ID:4ZBc2X6so [12/13] あれ? ちっとばかし、雲行きが怪しくなってきたかも。 俺の予想じゃこの辺であやせが怒るか、さもなくば茶化す筈だったんだが……。 「――なっ、あやせ、どうしようって……」 ブラウスの胸元から匂い立つ、香水の仄かに甘い芳香が俺の鼻腔をくすぐる。 俺の両肩に置かれたあやせの手が小刻みに震えていた。 瞼を閉じたあやせの顔が、ためらいがちに俺から離れていった。 甘く静かな余韻の中、ゆっくりと瞼を開け、不安げな瞳で俺を見つめるあやせ。 あやせの澄んだ大きな瞳から、大粒の涙が今にも溢れそうだった。 「桐乃には……内緒にしてください」 「あやせ、おまえ……」 「お兄さんは、わたしの気持ちになんか全然気付いてもくれない。  わたしはお兄さんに気付いて欲しかった、振り向いて欲しかったんです。  それなのに、いつもわたしのことを子ども扱いして……」 あやせの眼差しが俺の胸に痛いほど突き刺さる。 俺は、只黙ってあやせの顔を見つめていることしか出来なかった。 「わたし、後悔なんか……しません」 710 名前: ◆Koneko/8Oc[sage saga] 投稿日:2012/06/17(日) 17:12:40.62 ID:4ZBc2X6so [13/13] 他の男だったら、こんなときにどんな反応を示すんだろう。 気の利いた台詞のひとつも口にした後で、優しく彼女を抱擁したりでもするのか。 「えっと、俺は……俺は、もう逃げたりなんかしねえから。  おまえの気が済むって言うなら、手錠を掛けようが火炙りにしようが好きにしてくれ。  あやせに捕まるんだったら、俺はどんな罰でも受けるから」 何を馬鹿なこと言ってんだか、俺。 結局、あやせの筋書き通りに追い詰められて、俺から自白したようなもんじゃねえか。 「信じても、いいですよね。……でも、わたしにはもう手錠なんか必要ありません。  今日からお兄さんのことは、わたしの心で繋ぎとめて見せます」 あやせは手の甲で涙を拭いながら、俺に精一杯の笑顔を見せる。 「あやせの筋書きによると、俺はこれから探偵さんを食事に誘う予定なんだが……」 この先もずっと、俺はあやせに振り回されながら生きて行くのかもしれない。 空を見上げれば、澄んだ青空の彼方に真っ白いイワシ雲が細くたなびいていた。 俺にも新しい季節がやって来たと、そんな予感がした。 おしまい

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。