ぺドと言われて泣いたから:13スレ目141

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「ふう、まだ寒いな・・・」 何度目かの家庭教師を終え帰路につこうとしたその時、 「おにぃちゃん」 掛けられた声に振り向くと、五更珠希――――日向の妹が玄関からちょこんと顔を出していた。 「ん?どうしたの珠希ちゃん?」 俺がそう声を掛けると、珠希はててててっと俺のすぐ傍まで走ってきた。 相変わらず可愛らしい擬音の似合う娘だな。 「あのですね・・・」 「うん、なに?」 「どうしておねぇちゃんとちぎりをむすんでいたのですか?」 「・・・ごめん珠希ちゃん。ちょっとお兄ちゃんにもわかるように言ってくれるかな?」 俺は視線を合わせるようにしゃがみこむと、意味不明の単語に疑問符を浮かべる。 契り?結ぶ? 以前黒猫と付き合ってる時に聞いた言葉だが・・・ん?いや、いやいやちょっと待てよ!? あれは確か初めて黒猫の家にきて、日向と珠希に会って・・・そんで・・・ああっ!! 「ちょちょっと待った珠希ちゃん!」 「えーと・・・どうしておねぇちゃんと、ちゅーしていたのですか?」 やっぱりだーっ! 「み、みてたの?」 「はい」 にっこりと笑いながら無邪気に答える珠希。 ・・・そういや俺の家庭教師中、この子どこに居たんだ? 「珠希ちゃん?」 「はい?」 「お兄ちゃんと日向ちゃんがお勉強してる時、珠希ちゃんはどこに居たのかな?」 「おねぇちゃんに言われておへやにいました。おねぇちゃんが『こうさかくんはあそびにきてるわけじゃないんだから、たまちゃんはおへやから出ちゃだめだよ?』ていいました」 あーいーつー! 追い出し方がまるっきり黒猫とおんなじじゃねーか!! それで失敗した姉の姿をお前は知ってるだろう張本人! 「でもやっぱりおにぃちゃんにあそんでもらいたくて、え本をもっておへやをでてしまいました」 悪いことをしたんだと思ってるのだろうか、珠希は少ししゅんとしているようだった。 まったく。 「ごめんな珠希ちゃん。これからは一緒に居ていいからね?」 「・・・いいですか?おねぇちゃんおこりませんか?」 「怒るわけないだろ?今まで日向ちゃんが怒ってるとこ見たことあるか?」 「・・・ないです」 だよな。 日向はなんだかんだで珠希には大甘だからな。 「だったら平気だ。なんなら俺から日向ちゃんに言っておいてやる」 「ほんとですか!?」 「ああ」 笑いながら頭をなでてやると、パアッと顔を明るくして珠希が抱きついてきた。 「うれしいですー」 「はは、これからよろしくな」 しかし本当にうちの妹とは別もんだな・・・。 なんか悲しくなってきた。 「それでおにぃちゃん?」 「ん?なんだ?」 「どうしておねぇちゃんとちゅーしてたんですか?」 忘れてたーっ!! 今それ聞かれてたんだよ俺っ! 「あー・・えーっと・・・」 なんて言う!?考えろ俺っ!! 「えーっと・・・こ、これからも仲良くしようねっていう意味でしてたんだよ?」 「?」 「ほら今、俺は日向ちゃんに勉強教えてるだろ?だから喧嘩しちゃったらできないだろ?だから仲良くしようねって意味でしてたんだぞ」 どうだこの言い訳! 一瞬で考えたとは思えないだろ!? 伊達に理不尽な妹や電波の元彼女、ちょっとヤンでる中学生に鍛えられてないっての! ・・・ろくな奴いねーな俺の周り・・・。 「へええ」 「わ、わかってもらえたかな?」 「はい!」 珠希はぐっと拳を上に突き出して全身で肯定を表した。 はは。ホントに可愛いなこいつは。 「じゃあわたしにもちゅーしてくださいおにぃちゃん」 「なんでそうなる!?」 えーっ!?なに言っちゃってんのこの子!? 「ど、どうしてかな珠希ちゃん?」 「わたしもおにぃちゃんとなかよくしたいです」 ニコッと珠希が笑って言った。 あーそっかそっかそーきたかー。 なるほどな―そりゃそうなるか―・・・って俺のバカー!! 「えーとえーと・・・」 「・・・なかよくするのいやですか?」 泣きそうな顔やめてっ! ・・・あーもう。 これ一回だけ・・・これ一回だけ・・・。 「・・・おねぇちゃんには内緒にできる?」 「?ないしょなんですか?」 「そう。できる?」 「んーと・・・はい!ないしょにできます!」 「よし。じゃ・・・目瞑って・・・」 「はい!」 ん、と素直に目を瞑る珠希。 ・・・こうして見るとやっぱ似てんだよなこの三姉妹。 やっぱ可愛い・・・って、さすがに珠希はヤベーだろ!? いかんいかん・・・変な気持になる前に・・・。 ちゅ。 「・・・はい。もう目、開けてもいいよ」 「はい・・・えへへ」 少し照れくさそうに笑う珠希はギュッと俺に抱きついてきた。 「えへへ、おにぃちゃんだい好きです」 「はいはい、俺も大好きだよ」 「・・・なにをしているのかしら?」 後方からの声に、ポンポンと珠希の頭を叩いていた手が一瞬で硬直する。 ちょ、ま、このタイミングで・・・? 「あ、姉さま」 黒猫登場かよ!? 「よ、ようおかえり・・・」 俺はギギギッと油の切れた人形のような動きで首を後ろに向けた。 「ええ、ただいま。で?もう一度聞くわ。なにをしていたのかしら?」 「た、珠希ちゃんとスキンシップ?」 「・・・アパートの廊下で?」 「か、帰ろうとしたら、珠希ちゃんが出てきちゃって・・・」 「へえ・・・そうなの珠希?」 「はい!」 「・・・嘘じゃないわね?」 「はい!姉さま」 黒猫の言葉に元気よく返事する珠希。 「ふぅん、そ」 珠希の言葉に、不承不承といった体で納得する黒猫。 やっべー! 間一髪だったよ今俺! 見られてたら完全にアウトだったよ!! ありがとう珠希! 「おにぃちゃんにチューしてもらいました!」 「うおおおい!言っちゃうのかよ!?」 さっきお兄ちゃんと約束しただろ!? 「?・・・おねぇちゃんには言ってませんよ?」 頭にはてなを乗っけたまま珠希は、間違ってないよね?てな風情で聞いてきた。 あーそっかー、そうだよねー。 おねぇちゃんは日向であって、黒猫は姉さまだもんねー。 そっかそっかーあははは。 「・・・先輩?」 「はいぃ!!」 「・・・ちょっと・・・お話をしようかしら?」 やばい。 これ俺死んだね。 だって黒猫の目に・・・光彩がねーもん 「珠希は先に帰っていてちょうだい」 「はい姉さま」 ててててっと、出てきたときと同じように走り去ると、玄関に入る直前俺を振り返って珠希はこう言った。 「またですおにぃちゃん」 ほわんとした笑顔で手を振ると、パタンと扉を閉めた。 ふるふると手を振り返しながら、俺は心で呟いた。 珠希ちゃんごめん・・・。 「・・・さ、先輩?行きましょうか・・・?」 次は・・・ないかもしれん。

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