「加奈子の友達がキモオタのわけがない:12スレ目870」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
あたしの名前は来栖加奈子。
ちょー可愛い未来のスーパーアイドル。
いまはその下積みとしてアニメキャラのコスプレをやってる。
加奈子ってばこーゆーセイカクだから、口では「キモオタうぜー」な~んて言ってるけど、心の中ではなんてゆーか上手く言えないんだけど……まあアレだ。
って、言わせんなよ、恥ずかしい。
そんなワケで、いま加奈子は、姉貴の仕事部屋にいる。
姉貴のこと? あー見た目はかわいいし、けっこう加奈子に似てるかな?
ムネも無いし。
んでもって漫画家ってゆーの? それやってる。
加奈子がやってるコスプレって「星くず☆うぃっちメルル」の主人公のメルルだったりするんだけど、姉貴がそのメルルのエロいの描いてたのを見た事があるから、姉貴に部屋に呼ばれた時は、やべ、バレた? と思って、ちょっとビビリ入ってたんだよね。
それにしても姉貴の部屋っていつ見てもいろんな意味であっとーされる。
アニメキャラの人形、フィギュアってゆーの? そんなのとか、プラモデルとか、アニメのDVDやブルーレイとか、漫画の本とか、あと本屋では売ってないようなみょーに薄い本とかがたくさんあって、いつも「うわ……」ってゼックしてしまう。
んで、今日姉貴に部屋に呼ばれたのは──
「いまメルルの同人誌作ってるんだけど、ポーズの研究したいからちょっとモデルになって?」
「なんでンなこと加奈子がやらないといけないわけ? 意味わかんないんですケドー」
「そう言わないでさー、お願い」
「加奈子っていちおープロのモデルべ? ジムショに言えよジムショに」
姉貴とこんな言い合いしながらも、加奈子は「メルルのコスプレしてるの、完全にバレてる?」ってドキドキしていた。
……まあ、バレたらバレたでいいやって思ってたのもジジツだけど。
「──ったくしゃーねー……」
結局、最後は姉貴に言い負かされる加奈子であった。
「ありがとっ。お礼に、この部屋にあるもの、なんでも一つあげるよ?」
「いらねーよ! ……あれ?」
なんか見覚えのある絵が見えて、あたしはイッシュン固まってしまった。
姉貴は加奈子の視線をたどって、その先にあるブツを手に取る。
「ああ、これ? テレビアニメで『maschera~堕天した獣の慟哭~』っていうのがあったんだけどね、一応アニメオリジナルなんだけど、これの原案って実はあたしなんだ! これはその元となったあたしの漫画! ちょっと変更されてる部分もあるけど原作本と言ってもいいよ! プロの漫画家としてマスケラの原作描いて、同人作家として同時刻の別チャンネルでやってるメルルのパロ描いてるなんて、あたしも節操無いよね、あははっ」
あいかわらずしゃべり出したらとまんねーな。正直うぜー。
この後も、マスケラファンやメルルファンに刺されたらいけないからペンネームも絵柄も変えているとか言ってたけど、全く聞いてない加奈子であった。
加奈子が注目してたのは、アニメの話、ではなくそこに描かれていた女の絵だ。
なんだっけ、どっかで見たよーな気がするんだけど─―。
「話は変わるけど加奈子ってメルルにちょっと似てるよね? メルルもどき? なんちゃって」
──メルルもどき──
『だ、黙りなさいメルルもどき』
「──誰がメルルもどきだこらァ~っ」
「あっ、ゴメン、まさか加奈子がそんなに怒るなんて思わなかったから」
「あ、いや、姉貴じゃなくて」
そう、その姉貴の描いた女はあの頭がイッてしまってる電波女と同じ服装をしていた。
この絵とあの電波女とでは、顔とかスタイルとかがかなり違ってたから気付くのに時間がかかったワケだ。
同じ「メルルもどき」という言葉でも、いま姉貴が言ったのは、妹かわいがりのおちょくりだったし、姉貴自身もメルルというキャラクターが好きみたいだから、別にいい。
けどあの電波女~……。
加奈子だけでなくメルルまでバカにした言い方だったよな~、アレは!
あ、いや別にアニメのメルルなんてぶっちゃけどーでもいいんだけど、公式コスプレイヤーとして……な?
「あ・姉貴? そのマスクなんとかってアニメ、ゲンサクシャだから持ってるよな?」
「むっ。マスケラだって。もちろんあるよ」
「それ貸して!」
「! そっか、加奈子もとうとうこっちの世界に足を踏み入れる気になったのね!?」
「ちげーよ! いーから貸して!」
「いいよー。DVDとブルーレイ、どっちがいい?」
桐乃の家ってブルーレイ見えたっけ?
「……どっちも!」
「一期と二期、どっちにする? それとも話数の指定とかある?」
なにそれ。イッキとかニキとかわけわかんねー単語言いやがって。
「……全部!」
どさっ。
「はい!」
げ……。こんなにあるの……?
次の日、ガッコが終わってから加奈子は大荷物をバッグに詰めて桐乃の家の前に来ていた。
チャイムを押して待つ事しばし。
パタパタとドアの向こうからスリッパの音が近付いてきて、そして、ドアが開く。
桐乃だ。
「はーい、どなた……加奈子!? どうしたの? 今日来るって言ってたっけ?」
「んー、ちょっとカクニンしたいことがあってね。京介いる?」
「……いるけど。なに? あいつに何の用があるの?」
急に不機嫌になる桐乃。
こいつもたいがいブラコンなんだよな。
女が会いに来たってだけでこうまであからさまにクラスメートに対してこんな態度を取るんだから。
「京介もだけど、桐乃にも用事があるんだよね」
「あたしはついでね、へ~、そう」
「いーから呼んでヨ」
「どうでもいいケド、人の兄貴を呼び捨てするなんて、加奈子、あんた何様?」
「そりゃ、加奈子ってぇ、京介と付き合ってっからぁ」
「それ、前に聞いた」
そこに京介が階段を下りてやってきた。
「桐乃、お客さんか……。げっ」
「レディに向かってげってなんだヨ、げって!」
「おー悪い、なんだクソガキか。桐乃に何か用か?」
「桐乃もだけど京介にも用事が……痛っ」
「だから人の兄貴を呼び捨てするな!」
「だったら、その兄貴にも親友をクソガキって言ったことにつっこめヨ!」
「おいおい、桐乃、友達を足蹴にするなよ」
「京介まで加奈子の味方するの!?」
「──で、あらためて、何の用?」
リビングで桐乃は聞いてきた。
この場には京介も同席している。
どうでもいいけど桐乃ってばトゲのある言い方だよな。
「これなんだけどさ」
あたしは言いながらバッグの中からマスケラのDVDを取り出した。
「え? こんなのわざわざ持って来なくてもウチにあ……むぐっ」
京介が妙に慌てて桐乃の口を塞いだ。
なんなんだ?
「なんだ、それは。アニメかなにかのDVDか?」
と京介。
「んー、ちょっとコレ見て聞きたいことがあるんだよね」
「今日は木曜だし、親は習い事でいないから、別にいいケド、あまり遅い時間まではだめだよ?」
「なんで?」
「だって、夕方からメルルがあるか……むぐっ」
また京介が桐乃の口を塞いだ。
なんなんだヨ、いったい。
「まー加奈子も長居するつもりは無いけど。今日はメルルがあるから見ないといけないからさー」
がたっ。
桐乃が顔を突き出してきた。
「加奈子、メルルってあの子供向けアニメの?」
「そーだよ、他に何があるんだヨ?」
「加奈子って、……オタクだったの?」
そういう桐乃の目は、なぜからんらんと輝いていた。
「ちげーよ! 加奈子ってメルルの公式コスプレイヤーだべ? キャラ作りの一環ってヤツ? そうでなかったら誰がこんなアニメ見るかってーの!」
「なんだって!? 加奈子、いまの言葉、もう一度言ってみな……むぐっ!!」
……だからいったいなんなんだヨ、この兄妹は。
「そ・そうだ、加奈子、この前のライブ、加奈子の出番、見れなかったから、良かったらここでちょっと歌ってみてくれよ」
京介が何かを取り繕うような感じで言った。
「えー? でもアニメソングだべ?」
「それはそうだけどさ、アニメとかは関係なく、桐乃も友達がどんなショーをやったか興味あるだろ? な?」
「み、見──み、」
なぜか桐乃は「み」を繰り返し、そしてすーはーすーはーと深呼吸した。
「見てあげてもいいけどぉ……! あくまでクラスメートとしてね!」
「ほらな。頼むよ、加奈子」
「えー、でも、オケとか無いしー」
「加奈子くらいの実力あったらアカペラだって全く問題無いだろ?」
京介のこの言葉で、あたしの中のなにかが切れた。
「しょーがねーなぁ、トクベツだべ?」
「よっ、待ってました!」
「テンポ取るから手拍子頼むヨ」
「おっけー、ほら、桐乃も!」
ぱん、ぱん、ぱん、ぱん。
めーるめるめるめるめるめるめ~ めーるめるめるめるめるめるめ~
宇宙にきらめ~く流れ星~☆ まじーかるじぇーっとで、てーきを撃つ~
…………
「さっすが加奈子! 良かったよな、桐乃?」
「よ、良──よ……(すーはーすーはー)ま・まあまあ良かったんじゃない?」
「とゆーワケで、このDVDなんだケド見てみ?」
あたしが出したディスクを桐乃が受け取って、プレイヤーにセットした。
再生スタート。
本編が始まり、しばらくして、夜魔の女王(クイーン・オブ・ナイトメア)が登場した。
「あ、ちょっとストップ!」
「え? う・うん」
桐乃が慌ててリモコンで一時停止した。
「どうしたんだ?」
あたしは画面を指差し、
「この女、誰かに似てね?」
…………
どーしたんだヨ、急に二人とも固まって。
「だ・だだだだ誰に、ににににに似てるって?」
「ほらぁ、あん時のパーティーにいただろ? このアニメの女とおんなじカッコしたやつがさー?」
いまの仕事のほとんどはアニメのコスプレだったりする加奈子だけど、いちおープロのモデルだし、一度見たファッションなんて見間違えるワケがねーべ。
「あ・ああ、黒猫ね」
「そーそーそいつ」
「その黒猫がどうした?」
「そいつとこのアニメの女、おんなじカッコだけどよー、これって偶然? それともコスプレ?」
「さ・さあ、黒いのがマスケラの大ファンで同人誌とかも作ってるって聞いてないしー?」
「おいバカ、桐乃!」
「あっ……」
言質は取れた。
「なるほどー。このアニメのコスプレなんだー?」
なぜか正座になって頷く兄妹。
「ってことはあいつはオタなんだー?」
「ま・まあ……」
「そうとも……言うかな……」
「んで、あのパーティーにあいつがいたって事は桐乃や京介もあいつと友達だってことだべ?」
「……だとしたら……?」
「おまえらにあいつの居場所吐かせて見つけ出してブッ殺す!」
そもそもあいつさえいなければ、あのパーティーで誰が京介の食事の世話をするかなんて騒ぎは起きなかったワケだし、騒ぎが起きなければあやせが京介のアパートに通うことも無かったワケで、全ての元凶はあいつってワケだ!
いやいやいやいや、京介がらみで無くっても──
「あいつはメルルをバカにしやがった! ゆるせるワケねーべ!!」
……思わず声に出してしまった。
慌てて視線を戻すと、桐乃も京介も口をポカンとあけている。
「どーしたべ? バカみたいなツラして?」
「あーいや、その、オタクの友達がいるって事で、あたしたちもオタクだって疑ってたんじゃなくて?」
「き・桐っ!」
なんで今日は桐乃の言葉に京介が慌てるシーンが多いんだ?
「あー? 桐乃みたいなのがオタなわけねーべ? それに、知り合いがたまたまオタだったってだけっしょ?」
がしっ。
いきなり京介が加奈子の手を取って握り締めてきた。
「加奈子……、おまえってマジでいいやつだな!」
「え? え?」
がばっ。
今度は桐乃が抱きしめてきた。
「加奈子と親友で本当に良かったよぉ!」
「あ? あ?」
いーから二人とも離せヨ、暑苦しーじゃん。
「もし、もしもだよ? もしあたしがオタクだったらどうする?」
「えー? 別にどーもしねーヨ」
「じゃあバカにしたりとかしない?」
「するヨ。決まってんべ?」
…………
あら?
なんでいきなり二人ともガクッとするの?
「……バカにするって例えばどんな?」
「あー?『桐乃オタなのかよキメェwww』ってからかったり、ライブイベントのチケットを餌にして肩揉ませたりするかなー」
前に京介に言ったまんまのセリフを桐乃にも言った。
「ふーん、そっかあ」
桐乃はうんうんと何度も頷いてから、いきなり立ち上がり、
「加奈子、悪いけど待ってて。京介、ちょっと来て」
「はいよ」
「おう」
リビングから出て行く兄妹。
そしてドアの向こうでごしょごしょと話している。
どうしよう言おうか、とか、取り合えずバレるまでこのままでもいいんじゃないか、とか聞こえてきたけど、いったい何のことだ?
しばらくして、二人は帰ってきた。
二人とも気持ち悪いほどニコニコしてて、特に桐乃なんかは今にも踊りだしそうなほどご機嫌だ。
「ゴメンねえ、待たせて。あ、ジュース飲む? お菓子もあるよ?」
……なんか急にすごいもてなしを受けてるんですケド?
いったい何があった?
「そういえば加奈子ってば、ブリジットちゃんと同じ事務所なんだよね? 仲良くなりたいからあたしもメルル見てアニメの勉強しようかな~? とらの……ナントカにも一緒に行ってみたいしぃ」
と言う桐乃に、なぜか吹き出しそうになる京介。
本当にこの兄妹はよく分からん。
そうこうしている内に、五時過ぎになった。
「あ、そろそろ急いで帰らないとメルルが始まっちゃうべ」
プレイヤーからDVDを出してもらってバッグに入れる。
「それじゃー桐乃、また明日ガッコで~」
「ウン、よかったらまた遊びに来てね、いつでもいいから~」
バイバイして高坂家をあたしは後にした。
ってやべー。ダッシュしないとマジで五時半に間に合わねー。
めーるめるめるめるめるめるめ~ めーるめるめるめるめるめるめ~
よかったー。間に合ったー。
それにしても、何か忘れてるような気がするんだよなー?
──あっ!
オタ電波女の居場所を突き止めるのを忘れてた!
あの時、言おうかとかバレるまでこのままとか言ってたのはオタ電波女の事を加奈子に言おうかどうしようか相談してたんだな!?
その後の急な歓迎ムードは、その件を忘れさせるためってワケかー!?
ちくしょー、ハメやがったなーっ!?
ぜってー今度聞き出してやる! ……っと、今のシーンのメルルのポーズ、今度のイベントのパフォーマンスにも取り入れようっと。
<了>