沙織「タイが曲がっていてよ」:285

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285 : 以下、名無しにか - 2010/11/13(土) 12:33:51.67 ID:k+Q07ESh0 「ただいまー」 大学から帰ってくるとなぜか玄関には桐乃が仁王立ちしていた。 それもすげー不機嫌そうな顔でこちらを睨んでいる。 なんだよ? 俺、何かした? 思い当たるフシはないんだが。 「……い」 「えっ?」 ボソッと言われてもわかんねーよ。 「遅いっつってんの!」 くわっと効果音が付きそうなくらい目を見開いて俺を叱る。 「まだ明るいだろ?」 「……チッ」 強烈な舌打ちである。なんだよ、本当に何かしたのか? 「来て」 「はい?」 「良いから来いっつってんのよ!」 286 : 以下、名無しにか - 2010/11/13(土) 12:34:37.46 ID:k+Q07ESh0 俺の手を握り、家の中に引きずり込まれそうになり 慌てて靴を脱いで、なんとなく揃えた。 いや、こうしとかないと親父がうるさいんだよ。 駆け上がるって程じゃないがそれでもやけに早足で階段を昇っていく桐乃に 俺は戸惑いながらもついていく。一体なんだってんだ? 「入って」 「あ、ああ」 桐乃の部屋に通されるなり、桐乃は机へ向かい、 電源を引っこ抜いたラップトップを持ってきた。 俺の目の前の液晶画面に表示されていたのは 『星くず☆うぃっちメルル 第4期決定!!』 の文字と、見覚えのある女の子。いや、ちょっと成長してるか? チラッと桐乃の顔を見ると、ああ、なるほど。すげーウキウキしてる。 もしかしてこれを誰かに言いたくてウズウズしてたってのか? 「どう!?」 「いや、どう? って言われても……こういう時は、良かったなって言えば良いのか?」 「はァ!? アンタ全然分かってない!」 「ええっ?」 「全っ然! 分かってない!!」 うわーテンションたっけえ。 287 : 以下、名無しにか - 2010/11/13(土) 12:35:18.73 ID:k+Q07ESh0 「良い? まずアニメで4期なんて相当ないのよ?  精々やっても2期が限度。3期ですら稀なの。  なんでかって言うと、どんどん新しいコンテンツが出てくるから。  どうしたってそっちに目移りしちゃうのが消費者だし、制作側もそれを分かってる。  それにどうしたって演出やストーリーのクオリティも下がってくるのが常だし。  スタッフのモチベだってそう長続きしないわよ。  だから4期なんてフツーのアニメじゃありえない訳。  でもサザ○さんとか、ドラ○もんとか、名探偵バーローとかあるじゃん。  あーいう国民的人気を誇るコンテンツはそんなのお構いなしに続いてる。  逆に言うとメルルも、不朽の名作的な? 国民的? あるいは世界的な?  セールスと人気がいまだに根強く残っているっていう明確な証なのよ!」 ………………さいですか。 288 : 以下、名無しにか - 2010/11/13(土) 12:36:01.20 ID:k+Q07ESh0 こんなにテンションたけえのいつぶりだろう。 ぶっちゃけ言ってる事は分かったが、理解はあんましできてなどいない。 ただまぁ、3期が終わった時にはすげー凹んでたもんな。 この終わり方は完結するって演出だよ、とか言って2日くらい飯が喉を通ってなかったぐらいだ。 それを考えるに、この4期発表は嬉しいんだろうねえ。 さすがにちょっと怖いくらいのテンションだが、まぁ兄としては一緒に喜んでやるべきか。 「よ、良かったな。メルルもなんかちょっと大きくなってるみたいだし  成長したメルルと再会できるって訳だ。おめでとう、桐乃」 「……」 え? なんで? なんでそこで黙りこくる? 「問題はそこよ」 「へ?」 「メルルちゃんが成長してるってどういう事なの? 魔法少女が成長なの?  アタシたちの可愛いメルルちゃんはどこにいっちゃうの?  ババァになったメルルちゃんとか誰得なの?」 …………あるぇー…………? 「い、いや。あれ? お前、メルルの4期が決まって喜んでたんじゃねーの?」 「それとこれとは別! まるっきり別物なの!」 め、めんどくせぇー! 何? ファンってこういうもんなの? 289 : 以下、名無しにか - 2010/11/13(土) 12:37:03.40 ID:k+Q07ESh0 「で、でもさ。まだ詳細な情報はないんだろ? もしかしたらすげえ可愛いかも……」 「は? キモ。どう考えたっておかしいじゃん。中学生のメルルとかありえないでしょ」 「で、でもほら。なんつーの? 動いて喋るトコ見たら意外と、みたいなさ」 「ないない! ありえないから! 一応スタッフとか声優は3期と同じだけどー。  何考えてんだろって。ネットではもう喧々囂々、侃々諤々の議論なの!」 なんでファンでもない俺が制作スタッフのフォローしなきゃならんのだ……。 「なんだよ……じゃあ、メルル4期が決まったの嬉しくないのか?」 「バッカじゃないの!?」 もう、俺、泣いて良いかな。 「嬉しいに決まってるじゃん! でもそれとこれとは別。ご飯とスイーツぐらい別腹。  メルルが帰ってくるんだから盛大に祝ってやるのがファンってもんでしょ?  けどその内容、っていうか設定がありえない。おかしい。頭おかしい」 頭おかしいのはお前だ。何がスイーツだよ。デザートって言え。 その後もお袋から晩飯のお呼びがかかるまで、実に1時間半ほど。 延々とテンションのタガが外れた桐乃の説教(なんで?)を聞かされるハメになったのだった。 あやせからメールが来たのはその後のこと。 マイラブリーエンジェルからのメールは嬉しいのだが、大抵やっかい事になるんだよな。 今回も、やっぱし、ちょっとやっかいそうな事案だった。 290 : 以下、名無しにか - 2010/11/13(土) 12:38:14.61 ID:k+Q07ESh0 翌日。学校が終わってだらだらと店に入ったりして時間を潰した後、俺はとある公園に来ていた。 いまだに交番裏のこの公園でしか会ってもらえない俺はどれだけ信用がないのかね。 軽く泣きそうになるぜ。昨日とはまた違った意味で。 「お兄さん、お待たせしました」 「よう。久しぶり」 そう。あやせとの待ち合わせ。うーん。字面だけだと素敵シチュエーションなんだけどなあ。 これからの事を考えると気が重くなるのは止むを得ない。 「面倒な事になったな……」 「は、はい……すみません」 「いや、あやせが謝る事じゃないけどさ」 別にあやせは何も悪くないし、誰も悪くない。 ただいくつかの小さな事が積み重なって起きただけの話。 「またマネージャーの真似事をしなきゃならないとはな……」 事の発端はメルル4期。桐乃が大騒ぎしてたアレだ。 どうやら4期開始にあたり、大々的にイベントを行う事になった制作会社が 来栖加奈子――あのクソナマイキなチビ――に打診を入れたらしい。 今までに2回ほどお披露目されたメルルのコスプレはいずれも大好評大絶賛の嵐で 3期が終わってからもコスプレ愛好家の間では『メルルコス=かなかな』、 ついでに『アルファコス=ブリジット』という公式が成り立っている程の人気ぶりなのだった。 291 : 以下、名無しにか - 2010/11/13(土) 12:38:57.83 ID:k+Q07ESh0 「まさかあの子がこんな事言うなんて、思いもよらなかったんですけどね」 問題は、何故か加奈子が付き人として俺を指名してきた事。 『メルルのコスプレって言えば、あのド新人マネージャーってクビにされたの?』 『まぁアイツ無能だったから仕方ねぇかもしんねぇけどぉ?』 『でもこの加奈子様に付いてたヤツがクビなんてまるでアタシがサゲマンみてーでムカつくし』 『ちょっと呼んで来い』 ……どんな指名だよ。 で、『あの時』の顛末を知っているあやせと事務所スタッフが協議した結果、 件の新人はちょっと地方に飛ばされているから当日には呼び戻すって事になったらしい。 「あのさ。アイツはもう正式な事務所のモデルなんだろ?  前は確か禁煙できてるかどうかの確認をするためには俺がうってつけだったって事で  引き受けたけどさ。本来、無関係の素人である俺にやらせるのは無理があるんじゃねーの?」 「それは……私もスタッフも同感なんですけど、ブリジットが……」 「あん? ブリジット?」 なんでそこでブリジットの名前が出てくるんだ? いや待てよ。そういやあの子もあやせや加奈子と同じ事務所に所属したんだっけか。 そして今回、メルルシリーズ4期。……当然アルファも出る訳か。 「いや、やっぱ繋がらん。ブリジットがどうして」 「ですから。ブリジットも、お兄さんの事をご指名なんです」 「……なん……だと……」 292 : 以下、名無しにか - 2010/11/13(土) 12:39:39.14 ID:k+Q07ESh0 『加奈子とブリジットから指名なんて、お兄さんモテモテですね~』 ……なんであの時のあやせは若干怒ってたんだろうねえ。 つーかこれモテモテとかそういうんじゃないだろうに。 そんなこんなで事前に打ち合わせを済ませ、いざ当日。 『星くず☆うぃっちメルル エターナルフォース 4期制作決定記念イベント』(長い)である。 いつもの如くサングラスにオールバック、スーツで一応の変装は済ませた。 ……変わり映えのしない格好だが、別に俺が出演する訳じゃないんだ。良いさ。 そういやあの2人と会うのは……かなり久しぶりだな。 そんな事を思って現場に着くと、既にそこには、それらしき2人がいた。 「おはようございます」 「お、おはようございます、高山さん」 「おっせぇぇぇぇぇ! マネージャーの方が遅く現着するって何様なんだよ。  そんなんだから地方巡業とかやられんだっつーの。マジ超ウケる」 「……悪かったな」 ご挨拶だぜ。これでも予定の待ち合わせ時間より1時間は早く来たってのに。 ちなみに『高山』というのはもちろん偽名。地方云々は俺が左遷されていた地方から 今日は2人のご指名のおかげで中央に栄転したという設定だからである。 「か、かなちゃん……私たちだって早く来ちゃったんだから……」 「はァ!? そんなんカンケーねぇし。マネージャーなら最低でも2時間は早く着いて待ってろって話しだろ」 ブリジットはともかく、加奈子はDQNっぷりがちっとも改善されてねえじゃねーか。 コイツの言葉遣いは何とかすべきじゃね? まぁ? まぁまぁ? 見た目は2人ともえっらい可愛くなってるけどな? 297 : 以下、名無しにか - 2010/11/13(土) 13:05:12.77 ID:k+Q07ESh0 ブリジットは小学生から中学生になっても金髪さらっさら。 ハリウッド映画にだってこんな子見ねーよってくらい。 しかも目とか大きくて色もすげー綺麗だし。宝石? 宝石なの? 中学生の頃の桐乃より手足長そうだし、白人ってやっぱすげーわ。 一方の加奈子も相変わらず背ぇちっさいし、ロリーな体型だけど良く言えばスレンダー? でも昔に比べてやっぱちょっと大人びてんじゃん。 あと髪ツヤすげえしな。天使の輪っかとかあるもん。 桐乃やあやせとは違ったベクトルで可愛いかもしんない。黙ってれば。 でもそれはあくまで、女の子として、あるいはファッションモデルとして、だ。 アニメキャラのコスチュームを着て可愛い、だけでは公式のコスプレイヤーとしては物足りない。 あくまで以前、絶賛されていたのは2人の可愛さではなく、2人が超絶に似ていたから。その1点に限る。 「オラ、いつまで立たせてんだよ。早く控え室に案内しろ、このボケマネ」 「だ、だから、かなちゃん。そんな言い方しちゃだめ……」 作画さえ変わらなければいつまでも変わらないアニメキャラ。 時間が経てば年を取り、外見の変化する人間。 あの時はたまたまそれが合致したが、今回それはうまく行くんだろうか? 「早くしろっつってんだろ! 何ボサッとしてんだ無能!」 「わ、分かってるよ!」 結論から言うと、それは杞憂に終わった。 298 : 以下、名無しにか - 2010/11/13(土) 13:06:11.87 ID:k+Q07ESh0 会場は異様な雰囲気だった。 以前来たイベントとは違い、歓声一色ではないのだ。 本邦初公開となるプロモーションムービーの出来栄え1つ取っても 予算や力の入れ方が計れる、と言うのは桐乃の弁である。 しかしやはりコイツらにとって一番気になっているのは『果たしてどうなのか』だろう。 つまり、大きくなったメルルちゃん&アルファちゃんは愛すべき対象なのかどうか。 ちなみに本日桐乃は来ていない。 あやせとモデルの仕事が入っている事に加え、 『アタシはまだ静観する』という立ち位置を取ったようだ。 あんだけ興奮しといて何が静観だよ笑わせんな。 そんな事を考えていると、フッと会場の照明が落とされる。静かなBGMが流れ出し、 巨大ビジョンには、黒を背景に白抜きのゴシックフォントが次々と現れては消えていく。 否が応にも高まる緊張感。相変わらずこういうの上手いよな、映像会社ってのはさ。 そして最後にデカデカと、ビジョンの中心に現れる『あの2人が帰ってきた』の文字。 次の瞬間、腹をえぐるように強烈な低音が会場に轟いた。 画面をところ狭しと飛び回るメルル、アルファの姿に会場のボルテージは 一気に最高潮へと達した。怒号、歓声、嬌声! 俺も久しぶりに味わう空気だが、やっぱこのエネルギーはすげえ。 ライブだからこそのこの震える感じには鳥肌が立つ。 流れるBGMは2期前半のOP曲をアレンジしたユーロトランス。 確か桐乃が『メルルのOP・EDは全部神曲だけど、そん中でも最高!』って ベタ誉めしてたやつだ。一時期毎日リピートで聞かされていたから このメロディラインには覚えがあったのだ。 299 : 以下、名無しにか - 2010/11/13(土) 13:06:53.32 ID:k+Q07ESh0 5分に及ぶプロモーション映像がメルルとアルファの抱擁で締められると 会場は誰からどこからともなく大きな拍手で包まれた。 おいおい、なんだか泣いてるヤツいんぞ。そんな繊細なハートで大丈夫か? 興奮冷めやらぬ空気の中、ステージの照明が付くと裾から出てきたのは司会進行の女性。 ここで一息つかせるのである。ずっとテンション上げっぱなしは辛いもんな。 紹介されて出てくる監督さん、プロデューサーさん。 彼らがメルルに対する思い入れを語ると、観客は呼応するように笑ったり拍手したり。 やっぱこういうコール&レスポンスがリアルタイムにあるイベントって良いな。 なんて思ったりしている間にキャラの声を担当する声優さんたちも登場し会場はまた熱を取り戻していく。 さて、そろそろ出番か。お前ら、度肝抜かれんなよな。 「それでは登場して頂きましょう! メルルコスのかなかなさん! そしてアルファコスのブリジットさんです!」 ステージの両端から中央目掛けて真っ直ぐ走る影が1つずつ。 一際大きいどよめきが観客の最前列から広がり―― 2人の杖が交錯したところでステージ上の声優さんがすかさず声を当てる。 『やっと会えたね、あるちゃん!』 『うん、会いたかったよ、めるちゃん!』 その時の会場、いや観客ったらなかったね。狂喜乱舞ってのはあーいうのを言うんだろう。 俺も年甲斐もなくちょっとクるもんがあったけどさ。 300 : 以下、名無しにか - 2010/11/13(土) 13:07:45.98 ID:k+Q07ESh0 いや何がすげえって。完全に一致。メルルとアルファの生き写しかよってくらい一致。 加奈子とブリジットの姿を見てデザイン起こしたって言われても納得するわ。 こんな再現度ありえねーだろ。リアルにメルルとアルファがいるならコイツらがそう。 衣装を着た2人を見た時の俺の衝撃ったらなかったね。 思わず口の悪いクソガキ加奈子に対して 「か、可愛い……」 と本音をポロリしちまったくらいだ。 もちろんブリジットも同じくらい可愛かったし、2人揃ってたから余計にそう思ったのかもしれん。 あの控え室が完全に非日常空間になってたもんなあ。 「あ、当ったり前だろ? このアタシが可愛いとか……あ、当ったり前だろ!」 「かなちゃん。同じ事言ってるよ?」 「う、ううううっせえええ! このマセガキ!」 「ひゃあっ、そ、そんなとこ触っちゃだめなのお!」 そんな2人を見ていた俺は、その時点でこのイベントの成功を断定していたのだが、 にしたってこの盛り上がり。すげえ。すげえの一言だよ。 トークは相変わらず加奈子は上手いし、ブリジットも以前より場慣れしたのか上達していて なんの問題もなく進行した。名ゼリフを言いながらポーズを決める度に上がる歓声は 加奈子の自尊心を強くくすぐったようで、イベントが終わっても上機嫌であった。 「2人ともお疲れさん」 「あ、マネージャーさん。お疲れ様でしたあ」 「お疲れ様」 憎まれ口を叩かないもんね。普段なら槍か杖かメテオが降ってくるとこだろ。 301 : 以下、名無しにか - 2010/11/13(土) 13:08:47.49 ID:k+Q07ESh0 ブリジットがシッポを振る犬っころみたいな表情で聞いてきた。 「今日のイベントどうでしたか?」 「凄い良かったよ。感動したもん」 「まっ、アタシにかかればこれくらいチョレーっての」 「かもな」 「えっ」 なんだそのポカーンとした表情は。失礼な。俺だってたまには素直に人を誉めるぞ。 「ふ、ふん……」 そう言って加奈子はそっぽを向いてしまった。 ペットボトルを2人に手渡しながら俺は言ってやる。 「本当に感動した。久しぶりで実は心配だったけど、  2人のおかげで大成功だったしな。良かったよ」 「……成功、か」 「だろ?」 「……じゃ、じゃあさ。これってアンタの手柄だよな?」 んん? 何言ってんだ? どう考えてもスタッフさんと、 お前ら2人を含めた出演者さんの手柄だろ。 「加奈子……?」 「……」 あの加奈子が黙ってしまった。珍しいな本当に。 怪訝な顔をした俺を見て、横からブリジットがにこにこしながら言った。 302 : 以下、名無しにか - 2010/11/13(土) 13:10:00.59 ID:k+Q07ESh0 「かなちゃんは、お兄さんと一緒に仕事したいんですよ。  だから、今日成功して、無能じゃないって証明できれば地方から戻ってこれるかもって」 「ばっ、バァァァカ! ブリジットてめェェェェ! 言うなって言っただろうがよ!」 ……なんだって? 加奈子が、俺と? さっとブリジットは俺の背中に回って加奈子から逃げると更に続ける。 「私も、お兄さんがマネージャーさんになってくれたら嬉しいです。  他の人の時より、お兄さんが一緒にいてくれる時の方が落ち着きます」 「え……」 「な……ブリジット……」 加奈子がなんだかショックを受けたような、ちょっと怒ったような顔をしている。 「加奈子、そうなのか?」 「し、知るかよ。ケッ! 全部ソイツの妄想じゃねェの?」 あ、これ本当だ。もし嘘ならコイツはこういう態度は取らない。 そんなに付き合いが長い訳じゃないが、照れ隠しとそうでない違いくらい分かるつもりだ。 ていうか基本的にコイツって、隠し事できないタイプだし。だから、まぁ。 「悪いけど、また明日から地方なんだ」 「えっ……そうなんですか?」 「でも、そうだな。あと1年ぐらいしたら、必ず中央に戻ってくるよ」 口から出た言葉は自分でも驚くほど優しくて、でもハッキリしていた。 だから、分かったんだ。 あぁ、これ本音だ、ってな。 303 : 以下、名無しにか - 2010/11/13(土) 13:11:00.65 ID:k+Q07ESh0 「お兄さん……約束ですよ?」 後ろを見ればブリジットはなんだか涙をうるうるさせている。 ぽんぽんと頭を撫でてやりながら、あぁ、約束だ、と告げた。 「……」 「加奈子」 「……」 俯いたまま、無言の加奈子は、カツカツとヒールの音を立てて俺に歩み寄って、 何か言われるのかと思ったら、素通りされた。 なんだよ、と思って振り返ろうとした刹那。 「……待ってる」 ボソッと呟いた声は、そんな風に聞こえて。 加奈子は控え室へと入っていくのだった。 ブリジットはなんだかニコニコした顔でそれを見送り、次いで控え室へ戻っていった。 やれやれ。どうやら就職活動先の企業に、1社加えなきゃならなくなっちまたらしい。 終わり

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