沙織「タイが曲がっていてよ」:315

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315 : 以下、名無しにか - 2010/11/13(土) 17:16:29.39 ID:k+Q07ESh0 異常気象だのなんだのと言っても暑いものは暑い。 寝苦しくて目が覚めると時計はまだ6時。 ただでさえ昨夜も暑くて寝付けなかったと言うのに これじゃ疲れも取れねーっての。 「あー……シャツ汗だくだぜ……」 ちなみに俺の部屋には空調がない。 正確にはこないだ壊れた。 暑さか。暑さのせいか。暑さのバカ野郎。 「……麦茶でも飲むか」 ため息混じりに階段を降りてキッチンへ。 ぷはあ。うめえ。 ……寝直そう。あんま寝れる気はしねーけど。 重い身体を引きずり俺は自分の部屋へと戻り、 再び夢の中へと戻っていった。 316 : 以下、名無しにか - 2010/11/13(土) 17:17:33.53 ID:k+Q07ESh0 ―――――― ―――― ―― ……今、何時だ? 時計を見ればすぐ分かる事なんだけどさ。 もう時計は10時を過ぎている事を示していた。 「……ちょっと寝すぎたか」 2度寝ってさ、寝ても余計疲れてたりするよな。 うん。今まさにそんな感じ。 ……麦茶飲もう。 家の中はやたら静まってて、世界に俺しかいないみたい。 なんてそんなバカな事はねーんだけどさ。 親父はお袋と東京に買い物行くって言ってたし、桐乃は部活。 そういう訳で世界ではないが、家には正しく俺1人って訳だ。 ここんとこ大学のレポートやらサークルの飲み会やらで 忙しかったからたまにはのんびりするのも良いだろう。 317 : 以下、名無しにか - 2010/11/13(土) 17:18:20.06 ID:k+Q07ESh0 なんて今日を気ままに過ごす算段を立てていたら玄関のチャイムが鳴った。 ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。 うるせえ。なんだ? 勧誘か? うーん、面倒くせえな。 しかも俺今、シャツとトランクスだけだしなあ。 ガチャ。 ……え? 今ガチャッて言った? まさか勝手にドア開けたのか? っていうか鍵閉めてなかったのかよ! 誰だよ最後に出て行ったの! じゃなくて、そんな事考えてる場合じゃねえ。泥棒だったらどうすんだ! 勢い良くドアを開けて廊下に飛び出た俺の目の前にいたのは、 誰だ? 「キョウスケおにいちゃん!」 え? どちらさま? てか日本語? 瑞々しい褐色の肌。しなやかに伸びた手足。艶やかな髪は腰まで伸ばしている。 肩から、胸、腰、ヒップ、そして太ももへの流れるようなそれでいてメリハリのある曲線は 芸術と呼べるまでに美しく、整った目鼻立ちは到底日本人のそれではないと誰の目にも分かる。 際立って、匂い立つような美少女だった。 318 : 以下、名無しにか - 2010/11/13(土) 17:19:05.19 ID:k+Q07ESh0 生まれて20年ちょい。日本から出た事は1度だけあるが外国人の友達などいない。 あ、でも待てよ。1人だけ知り合いっぽいヤツはいるけど、いるけどさあ。 「キョウスケおにいちゃん……まさか」 「お前、リアか?」 たった1つの心当たりを口にすると少女は一層弾けるような笑顔を見せて抱きついてきた。 「キョウスケおにいちゃん、超好きッ!」 「うわっ、こ、こら……ていうか、お前本当にリアなのか?」 「そうだよ。リアはリアだよ! あ、もしかして、  リアがあんまりイイ女になってるもんだからすぐには分かんなかったのかな?」 ぶっちゃけその通りだった。はっきり言って記憶の中のリアとは姿形が違いすぎた。 もう4年前になるのか? あの当時のリアはまだ12歳とかそんなもんだったはず。 確かに可愛かったが、まだまだお子様だったんだ。それがこうなるとはねえ。 容姿の成長も、行動パターンも。全然予想できないヤツだ。恐れ入ったわ。 「それもあるけどさ、なんでこんなトコにいるのか、って方が分かんねえよ」 「えっへっへー」 蕩けるような笑顔を見せるな。この純真さは変わっていないようだ。 いや、中身が変わっていないからこそ、この外見とのギャップがやべえ。 語彙が貧弱だから月並みな言葉しか思い浮かばねえがとにかく可愛い。 加速的に可愛い。短距離ランナーだけに。あんま上手くねえ。 319 : 以下、名無しにか - 2010/11/13(土) 17:19:46.75 ID:k+Q07ESh0 「キリノはいないの? お出かけ?」 「多分部活だよ。今日は日曜だけど、部活はあるんだ」 「あークラブかあ。じゃあ走ってるのかな?」 「今度全国大会があるらしいぜ。その調整だろ」 ふーん。と、リアは気にした割りに気のない返事だ。 「じゃあ、キョウスケおにいちゃんはせっかくの日曜に何してんの?」 「うぐっ」 そこを突かれると痛いな。 「最近いろいろ忙しくてな……今日はだらだら休もうかと思った」 「えー。つまんなーい。じゃあリアと遊びに行こう!」 「は、はぁ!?」 断れる訳もなく。いや、お前ムリだろ? 褐色美少女に『遊んでよー』とちょい悲しげな目で迫られてみ? 喜んでだろうが渋々だろうが絶対断れないから。 そんで、来たのはココ。 「おー、久しぶりのアキバだー」 前回桐乃と3人で来た秋葉原。あの時は散々だったな。 「なんだか前来た時とちょっと違うね」 「良く覚えてんな。確かこのビルは建て直したし、アッチは駐車場になったし。  いろいろ変わっちまったよ、この辺も」 「そうだね。変わっちゃったね」 320 : 以下、名無しにか - 2010/11/13(土) 17:20:29.27 ID:k+Q07ESh0 そう零したリアの背中が思いのほか寂しそうで。 「よし、リア。なんか食べに行こうぜ!」 慌てて俺は声をかけ、その手を取って駆け出した。 こういう場合って、女の子が「はや~い」みたいな展開になるじゃん。 全然ならなかった。そりゃそうだよな。桐乃が敵わないって言い切ったヤツなんだ。 「キョウスケ! 何食べるのー?」 ナリはこんななんだけどな。天は二物を与えたわ。 「そうだなあ。まずはおにぎりでも食べるか」 仮にも女の子と2人きりの、デートとも言えなくない状況で握り飯を食らう。 はっは。こんなんだから俺は彼女と別れたのかもな……はは、ははは。 「ん!」 「ん?」 途端にリアが顔を近づけてきた。 うお、近くで見るとホントに綺麗な顔してやがんな、コイツ。 「今、リア以外の誰かの事、考えてたでしょ!」 す、鋭い。女の勘が良いってのは万国共通か。男頑張ろうぜ。 322 : 以下、名無しにか - 2010/11/13(土) 17:21:18.72 ID:k+Q07ESh0 「キョウスケと今一緒にいるのはリアなんだよ。  だから今はリアの事だけ考えてよねー」 「分かった。悪かった。んじゃ飯食うか」 「おー」 おにぎりは割と好評だった。日本オリジナルの物だから、という事と カロリーが高すぎないから、だそうで。特に後者はアスリートのリアらしい考えだと思った。 「あ、何あれ」 「んー?」 リアの指差す先にあったのはクレープ屋だった。 「クレープって知らん? クリームとかフルーツを小麦粉練って焼いた皮で包むんだ」 「……よく分からないけど、美味しいの?」 「日本の、リアと同い年くらいの女の子には人気かな」 じゃあ食べる、と。さっきおにぎりがカロリー高くないという理由で気に入った人間に こんなもの食べさせて良いのか判断に迷ったが、リアの好奇心に満ちた顔を見ると とてもじゃないがそんな事は言い出せなかった。 美味しそうにクレープをついばむリアと一緒に秋葉原の街を歩く。 間違ってもエロ漫画屋には入らんし、エロゲショップにも入れさせんよ? 今日は日曜という事もあって、人が多く、 そこかしこにメイドやコスプレをした人が立ち客引きしている。 途中で記念撮影なんかもしたりして。割と楽しい時間だった。 323 : 以下、名無しにか - 2010/11/13(土) 17:21:59.85 ID:k+Q07ESh0 「キョウスケ~、ちょっと疲れたよ~」 この人の多さは日本特有のものだし、慣れてないリアが目を回すのは当然かもしれないと思った。 「んじゃこっち行こう。小さいけど公園があるんだ」 「うん」 リアがするりと俺の左腕に右腕を絡ませる。 ちょっと驚いた顔でリアを見ると、リアはなんだか嬉しそうな顔をしていた。 ……振り解ける訳なんて、なかった。 「はー。落ち着いたー」 「悪いな。人ごみって疲れるだろ?」 「そだね。いろいろみてたり行ったりしたけど、今日みたいのは初めてかも」 「はは。もう少しゆっくりしたら帰ろうぜ。桐乃もそろそろ」 「ううん」 リアは、首を横に振った。 「キリノには会っていかない」 「そう、なのか?」 もしかして喧嘩でもしたとか? いや、それならウチを訪ねて来たりはしないよな。 「キリノの事は今でも好きだよ。手紙もたまに書くし。  でもね、今日はキョウスケに会いたかったの」 「……リア……?」 そういやいつの間にか『キョウスケおにいちゃん』じゃなくなってた。 324 : 以下、名無しにか - 2010/11/13(土) 17:22:41.56 ID:k+Q07ESh0 「今日はすごい楽しかった。だからリアはこのままロスに帰るよ」 「えっ、もうか!?」 「うん。今日の最終便。実は元からそのつもりだったの」 急すぎる。いや、昔コイツが日本に来た時も目的を果たしたら即帰っちまったけどね。 ってことは、本当に俺に会うために、わざわざロスから来たってのか? 「キョウスケに会えて本当に良かった。  しかもこんな風に遊べるなんて思ってなかったから。すごく嬉しいよ」 「リア……」 そうして本当に、リアはロスへ帰っていった。 「ただいまー」 「あら、お帰りなさい。アンタ今日は1日家にいるんじゃなかったの?」 「いや。ちょっとな。いい年した若いモンが不健康だろ?」 「まぁねー」 麦茶を飲んで、他愛のない会話。 部屋に戻った俺はPCを起動し、ブラウザを立ち上げた。 「んーと、リア……ハグリィだっけ」 リアのフルネームを検索にかけると、まぁ出るわ出るわ。関連サイトがゴミのようだ。 天才少女。その肩書きはいまだ健在のようだった。 が、しかし気になる記事を見つけた。 「……期待の超新星リア・ハグリィ スランプか?」 328 : 以下、名無しにか - 2010/11/13(土) 18:08:00.15 ID:k+Q07ESh0 記事によるとこの1年ほど記録が伸びず、思わしくない成績が続いているようだ。 将来の五輪女子100メートルの金メダリストを嘱望された天才少女に黄信号、みたいな内容。 まぁ、そりゃいくらリアが生活の全てを短距離に賭けていても、 そしてどんだけ才能があったとしても、そう簡単に世界の頂点になんてなれないよな。 知り合いが金メダル取れるほど、世界は狭くねーっての。 でも、頑張れよ。 応援してっからな。 一ヵ月後。テレビでは世界陸上の生中継を放送していた。 で、どうやらリアがエントリーしているらしく、 応援も兼ねて桐乃とテレビの前に陣取って視聴しているのだ。 『さぁー、トラック女子の花形、100メートルが始まりますよ!』 『アメリカからは期待の新星リア・ハグリィ選手が登場です』 『いやあ、ここのところ調子を落としているそうなんですが、大丈夫ですかねえ』 『若いんですねえ! ええっ!? まだ16!?』 解説や司会がいろいろ言っているが、横の桐乃は真剣そのものの表情で画面を見ている。 一応かつてのライバルだもんな。でもコイツもなんだかんだ言いながら応援してるんだ。 まず予選。ここでリアは不安説を吹き飛ばす抜群のパフォーマンスを見せ付けた。 『速い速い速い! アメリカのリア・ハグリィ、大会新で予選突破です!』 「うお、マジかよ!」 「リアすっごい! 不調とかなんだったのよー」 桐乃が目をキラキラさせている。これはもう感動の域だ。 走りで誰かを感動させるとか、どんだけすげーんだよ、リア。 329 : 以下、名無しにか - 2010/11/13(土) 18:08:51.32 ID:k+Q07ESh0 「もしかしたら、今回優勝しちゃう?」 「アクシデントがなければ文句なしよ……」 そして少し時間を置いて、決勝だ。 予選タイムではリアがぶっちぎりのトップ。 後はフライングがない事を祈るしかないですねーとか言っちゃって。 スタートの号砲が鳴って、ランナーが飛び出した直後、 競技場にいた人、中継を見ていた人、誰もが確信した。 わずか4歩。 未来の金メダリストを確実視される事になるニューヒロインが、他を圧倒して置き去りにしていた。 観客席のあちこちがカメラのフラッシュを焚いて、女子短距離界を 今後引っ張っていくであろう1人の女の子の優勝と世界新を祝福している。 リアは嬉しそうに星条旗を両手に持ってトラックを一周していく。 ウィニングラン。勝者にのみ与えられた特権だ。 テレビ越しに見ても、勝ったリアはとても嬉しそうで、 俺たちはちょっとテレビが滲んで見えない。 すると、解説のオッサンが何かに気づいた。 『おや、リア選手は国旗以外にも何か左手に持ってますよ?』 「ん? そういえば、なんかあるな」 「なんだろ。写真? 家族の?」 330 : 以下、名無しにか - 2010/11/13(土) 18:09:35.32 ID:k+Q07ESh0 カメラがアップでリアを写す。大きさ的に写真のようだった。 そうしている間にリアが戻ってきて、インタビューが始まる。 『優勝、世界新。おめでとう』 『ありがとう。とっても嬉しいわ。トレーナーや家族、応援してくれた皆に感謝します。皆ありがとう!』 『ところで、その皆が気にしているのだけれど、星条旗と一緒に写真を持っていた?』 『ああ、そうよ。これは私に元気をくれた大好きな彼の写真なの』 そう言ってリアが写真を持ち上げた。 「ああああああああああああああああああああああああああっ!!!?」 「桐乃、うるさいぞ! 静かにせんか!」 「ご、ごめんなさい! で、でもでもでも」 「何よ、どうしたの?」 慌てふためく桐乃を横に俺は唖然としていた。 だって、その写真はさ。 「なんでリアとアンタが映ってる写真を、リアが持ってる訳!? 意味分かんないんだけど!」 先日秋葉原に行った時、客引き中のメイドさんにお願いして撮影してもらった写真だったのだ。 331 : 以下、名無しにか - 2010/11/13(土) 18:11:32.39 ID:k+Q07ESh0 「ねぇ、ちょっとこれどういう事? なんであの子がアタシの知らない写真持ってんの?  ええええ、意味わかんない意味わかんない意味わかんない!」 「京介、アンタこれはどういう事なの?」 「……京介、説明しろ。桐乃も母さんもうるさくてかなわん」 親父もそれなりに驚いているっぽい。 いや、桐乃より親父よりお袋より、一番驚いてるの俺だぜ? そして、そんな俺たちの事など何も知らないように。 『キョウスケのおかげで優勝しちゃった!  今度日本に行ったらまたデートしてね!  あ、次はチャペルでウェディングも良いよ!』 下げ止まりをみせない居間の温度。鳴り止まない電話。ついでに変な汗も止まらない。 あぁーもう。ったくさ。ほんっと、予測できないヤツだよ、リア。お前ってやつは。 『キョウスケ! 超好きッ!』 終わり

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