418 名前: ◆qPOxbu9P76[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 01:02:12.90 ID:XvKveT.o [2/11]
桐乃と再び冷戦状態に突入してから、一週間が経った。
冷戦状態と言っても以前のようにお互いに無視を決め込んでいるような状況とは少し違う。
こんなことになった原因はというと、我が家が抱える構造的欠陥が原因だった。
「きゃあっ!」
「うおっ!」
いつものように階段を下りてすぐ、玄関付近で桐乃とぶつかった。
ここまでなら以前もあったし、そう騒ぐことでもなかったのだが、今日は少し運がなかった。
「いてぇ……だ、大丈夫か?」
「いったぁ……何すんのよ!」
どこがどうなってこんな体勢になったのかはわからないが、俺達は、今からまさに合体しかからんとするカップルのような体勢になっていた。
ぶっちゃけると、騎乗位だ。
「桐乃~、なんかすごい音がしたけど…だいじょう…ぶ……」
不運なことに今日はあやせが遊びに来ていたようで、俺達の見られてはいけない場面を目撃したあやせは手に持っていた雑誌をバサッと落とし、そのまま固まってしまう。
「こ、これは違うの!」
必死に誤解を解こうとする桐乃。
俺も普段なら全力でそうするところだったのだが、この日の俺はどこかおかしかったらしい。
以前、似たような場面を目撃されたこともあってか、変に余裕があったのもまずかったんだと思う。
ちょっと桐乃をからかってやろうかという気になっちまったんだ。
今思えばなんであんなこと言ったのか、俺でもわからねえよ。
「はっはっは、何が違うんだ?お前の初めての人生相談の時も、この体勢だったじゃないか。
そうだ、今度はあやせも俺に人生相談するか?」
419 名前: ◆qPOxbu9P76[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 01:03:55.17 ID:XvKveT.o [3/11]
一瞬、桐乃は大きく目を見開いたかと思うと、すぐさま怒りをあらわにする。
「あんた、いきなり何言ってんの!?こんなときにふざけんな!!」
「う…なにもそんなに怒ることねえだろ……事実じゃねえか」
「き、桐乃……う、嘘だよね?」
あやせに事の真偽を問われ、言葉を失ってしまう桐乃。
それも当然か。
この場合、どちらの答えを選んでもあやせの機嫌を損ねてしまう危険がある。
仮に桐乃が、「嘘だ」と言えばそれこそが嘘であり、ばれた時が怖すぎる。
反対に、本当だと言えば、それこそ問答無用でアウトである。
我ながら素晴らしい切り替えしだな。
普段虐げられている分、小さな仕返しくらいは許されてもいいよね。
……ちょっとやりすぎた感じもするけどさ。
「うん?どうした桐乃。返事しないのか?」
俺はにやけながら桐乃の顔を見上げ……そして、ぎょっとした。
桐乃はその瞳に涙を浮かべ、今にも泣きだしそうになってしまっていたからだ。
「あ…」
やっちまった。
ちょっとおふざけが過ぎた。
しかし、一度口に出した言葉を取り消すことなどできるはずもなく、今さら後悔したところで遅かった。
「あんたなんかに相談したあたしが馬鹿だった!!もう話しかけないで![ピーーー]っ!!」
そう叫んで階段を駆け上り自分の部屋に戻ってしまう。
俺は桐乃を追いかけることもできず、あやせにさっきのは冗談だったんだと説明するのが精いっぱいだった。
それからというもの、桐乃とは話すことができずにいた。
せめて一言謝らなくてはいけないと思うものの、話しかけるなと言われた手前中々話しかけづらい。
それに、どことなくではあるがさけられているような気がする。
桐乃の方も俺を許す気がないようで、桐乃から話かけてくるなんてことはなかった。
420 名前: ◆qPOxbu9P76[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 01:04:55.62 ID:XvKveT.o [4/11]
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「やばい………言い過ぎたかも」
あの一件以来、兄貴に元気がない。
あれだけ世話になった兄貴に、いくらからかわれたからとはいえ、あんな言い草はないだろう。
せめて一言謝らなくてはいけないと思うものの、話しかけるなと言ってしまった手前中々話しかけづらい。
それに、どことなくではあるがさけられているような気がする。
兄貴の方もあたしに関わりたくないようで、兄貴から話かけてくるなんてことはなかった。
しかし、あんな状況でもあやせにはしっかり事情を説明していてくれたようで、翌日あやせに問い詰められるなんてことはなかった。
「どんだけお人好しなのよ…」
自分の沸点の低さに辟易し、ついつい壁を殴ってしまう。
「どうしたら仲直りできるかなぁ…」
421 名前: ◆qPOxbu9P76[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 01:05:45.10 ID:XvKveT.o [5/11]
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「やべぇ………超怒ってらっしゃる」
俺がなんとかして仲直りする方法を模索していると、それを察したかのように壁を叩く音が響いた。
こういう時、沙織なら、どうすればいいかの答えを簡単に教えてくれる気もしたが、俺は聞かずにいた。
たかが兄妹喧嘩で沙織に泣きついたら、今度会った時になんと言ってからかわれるかわかったもんじゃない。
「いっそ土下座でもするか?………駄目だな、多分スルーされて終わりだ」
俺が半ば絶望していると、不意に携帯が鳴った。
「うおおおおう!?」
勢いが付きすぎて、盛大に頭を壁にぶつけてしまう。
携帯の着信音程度でもビビっちまうほどに衰弱しているのか、俺は。
自分でもびっくりだ…。
「いてぇ……ったく、誰だよ」
携帯の画面には沙織と表示されていた。
「これは…もう四の五の言ってられないか……こうなったらからかわれるくらいなんでもねえよ」
422 名前: ◆qPOxbu9P76[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 01:06:27.27 ID:XvKveT.o [6/11]
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「ひっ!?……やばい…ちょー怒ってんじゃん」
完全に無意識とはいえ、結果的に壁ドンをしてしまったわけだが、その返事が兄貴にしては珍しいものだった。
妙な奇声を発しつつ、しかも思い切り壁を殴りつけたようで、やたらと大きな音が響いた。
いつもなら、小言の一つや二つを言いながらなのだが、今回はそうではない。
兄貴を怒らせてしまった現実を、改めて突き付けられたことで涙が溢れそうになる。
「やば……あたし、こんなブラコンじゃないはずなのに……」
ちょっとケンカしたくらいで泣きそうになるほどブラコンだったなんて。
このまま昔みたいになるのは絶対いや。
もっといっぱい人生相談したい。
「……あの黒いのに相談するのは癪だけど……仕方ないか……」
確か、妹がいるって言ってたし、いい仲直りの方法も知っているだろう。
あたしは意を決して、黒いのに電話をかけた。
423 名前: ◆qPOxbu9P76[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 01:07:38.09 ID:XvKveT.o [7/11]
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『事情はわかりました』
「で、俺はどうしたらいいんだ?」
今の俺なら何でもやってやるぜ。
まさか、桐乃とケンカしただけでこんな寂しくなるなんて思わなかった。
これじゃあ、シスコンと言われても全く反論できないな。
『簡単です。きりりん氏を信じてあげてください』
「えっ?」
『京介氏ときりりん氏の絆はそう簡単には壊れません。だから、勇気をだして一言声をかければ全て上手くいきますよ』
まるで全てを知っているかのような沙織の言い分。
「しかしなぁ…」
『では、言い方を変えましょう。私を信じてくださいませんか?』
ぐ…それは卑怯というものだろう。
沙織にそう言われたら信じないわけにはいかない。
「…わかったよ。今から桐乃に会ってくる。ありがとな、沙織」
『いえいえ。では京介氏、御武運を!』
沙織に礼を言って電話を切り、桐乃の部屋へと向かう。
きっと電話の向こうで沙織はこんな口ωしてニヤニヤと笑っていたに違いない。
424 名前: ◆qPOxbu9P76[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 01:09:10.29 ID:XvKveT.o [8/11]
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『事情はわかったわ』
「ならさっさといい方法教えなさいよ」
今なら多少のことは我慢できる。
この邪気眼電波女に相談する以上の屈辱がそうそうあるとは思えないし。
『あなた、いままで何を見てきたの?』
「えっ?」
『あなたの兄はその程度のことで怒るような人間だったの?優柔不断でにぶくて、でもいつも優しくて、お人好し……それがあなたの兄ではなかったの?』
黒いのに言われてハッとする。
黒いのが兄貴をべた褒めしているのが妙にむかつくけど今はそんなことはどうでもいい。
『少しは自分の兄を信じてあげなさい』
そう言われて、決心する。
兄貴に謝ろう。
『まぁ、邪眼を持たな…』
ピッ。
なんて言って謝るかなんて、後で考えればいい。
黒いのとの電話もそこそこに、急いで部屋のドアを開け、兄貴の部屋へ向か…
ガンッ
「いってえ!」
「え?」
425 名前: ◆qPOxbu9P76[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 01:10:20.01 ID:XvKveT.o [9/11]
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桐乃の部屋の前まで来たのはいいものの、俺は悩んでいた。
「いったいどうやって切り出そう」
中々いい言葉がうかばず、いよいよもって土下座が現実味を帯びてきた所に、急に桐乃の部屋のドアが開く。
ガンッ
「いってえ!」
「え?」
ドアの目の前で棒立ちしていた俺は不測の事態に対応できず、顔面でもろにうけてしまった。
「ぐう……」
俺がまいた種とはいえ、なんという仕打ち。
だが、これくらいでへこたれてはいられない。
なぜなら俺はシスコンなのだから。
「あ…き、桐乃」
俺が桐乃を引き留めるために、何とかして言葉を発しようとすると、桐乃がそれを遮った。
「ご、ごめんねっ!」
「えっ……」
「あぁ、もう、どこか怪我とかしてない?大丈夫?」
あれ?なにこれ?最後の晩餐的なイベント?
桐乃が俺の心配をするなんて…俺は明日処刑でもされちゃうの?
「…よかった。赤くなってるけど、大丈夫みたい」
426 名前: ◆qPOxbu9P76[sage] 投稿日:2010/12/11(土) 01:12:33.61 ID:XvKveT.o [10/11]
桐乃の言う通り、大事には至らなかったようで、次第に痛みも引いてきた。
そこでようやく目を開き、桐乃の顔を見る。
桐乃は目に涙を浮かべて、今にも泣きだしてしまうそうな表情で俺のことをまっすぐ見つめていた。
その顔は肉親の俺でさえ、虜になってしまいそうな、とてもかわいいものだった。
泣きそうな女の子を見てこんなことを思ってしまう俺は、性癖に問題があるのかもしれない。
「桐乃…俺が悪かった」
「えっ?」
桐乃も、まさか俺がこんな素直に謝ってくるとは思わなかったようで、いまいち事態を把握しきれていないようだった。
「俺は冗談のつもりだったんだが…いや、これは言い訳だな。悪かったよ。この通りだ」
「えっ?」
「えっ?」
え?ここまで言ってわかんないの?
あれ?ひょっとして怒ってたわけじゃないの?
「あ、あんた何言ってんの?」
「だ、だって、俺があやせにいらねぇ冗談言ったから怒ってたんじゃないの?」
「ち、違うって。い、いや違わないけど、怒ってたのはそこじゃなくて!」
もう、わけがわからん。
「…一体どういうことなんだ?俺にはさっぱりわからん」
「……わかんなくていい」
桐乃はそこまで言うといきなり俺を突き飛ばし、即座に馬乗りになる。
「いてっ!やっぱりおまえ、おこっ……」
「やっぱり、何事も初心が大切だよね」
桐乃はわけのわからないことを言いながら、涙を俺の服で乱暴に拭う。
そして、どことなく懐かしさを感じさせる笑顔でこう言った
「怒ってないって言ってるでしょ。それよりも、また人生相談があるの。聞いてくれるよね兄貴!」
おわり
最終更新:2011年01月10日 04:00