838 名前: ◆qPOxbu9P76[sage] 投稿日:2010/12/17(金) 21:36:03.21 ID:.ShKSPso [2/11]
「あんたさ、また私の彼氏になってよ」
以前ならドキリとさせられたこのセリフも、2回目ともなると桐乃の真意にはある程度予想がつく。
「……今度はどんな理由だよ」
「前と一緒。美咲さんがあたしのこと諦められないって」
ふふん、と鼻をならし上機嫌な様子の桐乃。
厄介事が飛び込んできたというのになんで上機嫌なんだ?
そりゃ自分の才能や人気を再確認できるような出来事だけどさ。
「それなんだけどさ、俺とおまえが恋人じゃないってこと、美咲さんには最初からばれてたらしいぞ?」
「えっ?だ、誰からそんなこと聞いたの?」
「御鏡から」
そう、あの時あいつは確かにこう言った。
「お二人が兄妹だってことは、美咲さん、とっくに気づいてたみたいなんですよ」
御鏡が言っていたことが本当なら、もはやこの偽装デートに意味はない。
ようやく彼氏役なんて馬鹿な真似をさせられることもなくなると安心したところだったのだ。
「だから偽装デートの意味はなくなっちまったんだよ」
無意識にではあるが、少し残念な感じのニュアンスになってしまったことが悲しい。
おかしいな。確かにシスコンであるのは認めるが、あんなデートはこりごりだと思ってたってのに。
839 名前: ◆qPOxbu9P76[sage] 投稿日:2010/12/17(金) 21:36:52.14 ID:.ShKSPso [3/11]
「そ、それも油断させるための嘘かもしんないじゃん!」
「俺には御鏡は嘘をつくような奴には見えなかったけどなぁ」
「な、なんでもいいでしょ!で、やるの?やらないの!?」
正直かなり怪しいが、ここでこれ以上桐乃の神経を逆なでしても俺にメリットなど存在しない。
それにしても、頼み事をしているのは向こうのはずなのに、相変わらずの上から目線である。
チッ、こいつには礼儀というものを教えてやらねばなるまい。
俺は桐乃に向き直ると、こう言い放ってやった。
「やるよ!やらせていただきます!」
別にへたれたわけでも、桐乃とのデートが楽しみなわけじゃないよ?
ちょっと御鏡の一件での出来事を思い出しただけなんだから、勘違いしないでよね。
そう、俺はあの時、あろうことか
「桐乃と付き合いたいってんなら、てめえ!この俺に認めさせてみろ!」
「おまえより俺の方が桐乃を大切にする!ぜってーだ!だからおまえに桐乃はやらん!」
なんてことを大声で叫んでしまったのだ。
あぁ…今思い出しても恥ずかしい。
なんであんなことしちゃったんだろ俺。
忌まわしい記憶をさっさと頭から排除すべく、新たな話題を求めて桐乃に声をかける。
「…ひょっとして美咲さんまた監視にくんの?」
「当たり前じゃん。じゃなきゃこんなこと頼まないっての」
それもそうか。
でも、そのわりに前回はそれらしき人なんて全然見なかったぞ?
ほんとに監視してんのか?仮にも社長だろうに。
「み、見つけられなかったのはあんたが鈍いからでしょ!?」
「いきなり怒鳴るなよ!?」
一体今のどこにキレる要素があったんだ……
あたしに意見すんなってこと?
840 名前: ◆qPOxbu9P76[sage] 投稿日:2010/12/17(金) 21:37:44.88 ID:.ShKSPso [4/11]
「わ、わかったわかった。だからちょっと落ち着けって」
「ふ、ふん…わかったならいいケド」
そう言ってホッと一息をつく桐乃。
気のせいか少し顔が赤くなっている。
ホッとしたいのはこっちだ。
「デ、デートは今度の日曜日だから。前みたいなことにならないように気をつけてよね」
桐乃はそう言い残しリビングを出ていった。
恥ずかしがるくらいならデートなんて単語使うなよ…
くっ…なんだかこっちまで意識しちまうだろうが。
前回みたいにならないようにとは、以前の偽装デートで挙げられた不満点を反省しとけってことだろう。
「チッ……何て言ってたかな、あいつ」
もはや、妹の頼みだから渋々……
という体面は御鏡の一件で既に崩れ去っているが、中々そう簡単に割り切れるものじゃあない。
それでも俺は、妹の頼みごとの下調べを行うべく渋々自室のPCを立ち上げに行くのだった。
「お、おまたせっ」
前回同様早く着きすぎた俺が時計を見ながらぼやいていると、これまた前回と全く同じセリフで桐乃が声をかけてきた。
「別に待ってねえよ。―――行くか」
「うん」
嬉しそうに頷いて、自然に腕をからめてくるところまでいっしょだ。
グーグル先生によると、デートプランってのはマニュアル通りのものよりも相手が、もっと言えばお互いが喜びそうなデートプランを考えた方がいいそうだ。
だから俺は、桐乃の質問にもさらっと答えることができた。
「今日は……どこ行こっか」
「そうだな、今日はまずは秋葉でも行くか」
「は?」
桐乃も、まさか俺がまともなデートプランを提示してくるとは思っていなかったようで、驚き固まっている。
ふっ、俺が本気を出せばこんなもんさ。
841 名前: ◆qPOxbu9P76[sage] 投稿日:2010/12/17(金) 21:39:13.30 ID:.ShKSPso [5/11]
「いってえ!」
唐突に悲鳴をあげる俺。
なんのことはない、いつも通り足を踏まれただけさ。
…ちくしょう、一体何が不満だったんだ。
「あんた、本気で言ってんの?馬鹿じゃないの!?」
「本気で悪かったな………だっておまえは秋葉が一番喜びそうだと思ったからさ……」
俺はこいつが『表』の友達と普段どんなことをしてすごしているのかわからない。
まぁ、それでなくてももっとお洒落なところに連れて行けという気持ちはわかる。
美咲さんに監視もされてるわけだからな。
だけど、こいつが一番喜びそうな場所は秋葉じゃないかなって思ったんだ。
俺が桐乃の彼氏だってのは嘘だけど、二人で出かけるのは嘘じゃない。
だから、俺達が二人で楽しめるような場所にしたかったんだよ。
「……わかった。そこでいい」
俺の心中を察したのか、単に諦めたのか桐乃は意外と簡単に了承し、ぷいっと向こうを向いてしまう。
兄妹間でのアイコンタクトが伝わらないことは経験済みなので、恐らく後者だろうけどな。
しかしそれでも桐乃は俺の腕を離すことはなく、むしろ絡められた手にはより力が込められているようだった。
「くぅ…これ………やっぱり買っちゃおうかな………」
読モ兼作家様も海外留学の費用を自力で捻出したということもあってか、さすがに台所事情は少々厳しいようだった。
いつもは悩むまでもなく即決で買ってしまうわけだが、今日に限っては30分ほどフィギュアとのにらめっこを続けていた。
「いつまで悩んでんだ?」
「……う~ん……でも……しかし」
聞いちゃいねえ。
842 名前: ◆qPOxbu9P76[sage] 投稿日:2010/12/17(金) 21:40:01.27 ID:.ShKSPso [6/11]
「お~い、そんなに悩んで何を買う気なんだ?」
しびれを切らした俺は桐乃の頭にぽんっと、手を置きつつそう尋ねた。
「えっ?…あ…ちょ、ちょっと何勝手に触ってんの!?」
「なんだ?彼氏が勝手に触っちゃまずいのかよ?」
「え!?………くっ………………」
いつもならこの辺で罵倒が飛んでくるのが通例だが、今日は美咲さんに監視されていることもあって、さすがの桐乃も俯きがちにくやしがることしかできない。
ははは、監視されてるってのは嫌なもんだと思ったが中々いいこともあるじゃないか。
「で?何を見てたんだ?」
「………これ」
桐乃が指差した先には、『メルル(ダークウィッチVer.)』が置かれていた。
いつものメルルと違って赤を基調とした衣装から黒い衣装へと変更されている。
髪の色まで変わってしまっているのでパッと見ではメルルだと気付かない。
「確かメルルの3期で新しく出てきたんだっけ?」
「そうなの!3期ではメルルがダークウィッチ化しちゃって…」
「お、おまえのメルルへの愛情はわかった!わかったからそんなにはしゃぐなって」
桐乃は相変わらずアニメのこととなるとテンションが異常に高くなる。
こんだけ夢中になれるもんがあるってのは幸せだよな。
……ふ~ん、『メルル(ダークウィッチVer.)』ね。覚えておくか。
あくまで覚えておくだけで深い意味があるわけじゃないけどね。
「あんまりはしゃぐと、監視してる美咲さんにオタだってばれるぞ?」
「………うん」
実は、今回は俺にも美咲さんの姿が確認できていた。
やっぱりこれって御鏡が嘘をついてたってことなのか?
俺の人を見る目もあてになんねえな。
843 名前: ◆qPOxbu9P76[sage] 投稿日:2010/12/17(金) 21:40:42.71 ID:.ShKSPso [7/11]
当の美咲さんはと言うと、帽子を目深にかぶり、サングラスをかけているという尾行するにしてはありきたりすぎる恰好なのだが、そこはさすが元モデルの凄腕デザイナー。
服装が一々お洒落だ。
しかし、新宿や池袋のような所なら目立たない恰好なのだろうが、ここは秋葉原。
そんな恰好では目立つことこのうえない。
美咲さんの姿が、『オタクっ娘あつまれー』のオフ会に初めて参加したときの桐乃の姿とだぶる。
あのとき桐乃は一人孤立しちゃってて…沙織の気遣いによって黒猫と知り合って……
………やべ、なんか涙でてきた。
美咲さん、この雰囲気の中ずっと一人で大丈夫かな?
「…あんた何涙目になってんの?」
「なんでもねえよ」
これ以上美咲さんをこの雰囲気の中ずっと尾行させるのも気が引ける。
美少女フィギュア売り場にたたずむ成人女性……通報こそされないものの、奇異の目で見られていることは間違いない。
あれ?俺達も危なくない?
……ま、まぁ俺達はまだ男の俺がいるからまだいいとしよう。
もっとも、俺達の場合、俺が彼女を変態の道に引き込もうとしている悪役に見えるんだろうけどな。
「まくか」
「えっ?」
桐乃の手を取り一目散に階段に向かって駆け出す。
美咲さんもこれは予想外のできごとだったようで、尾行する側であるにもかかわらず思わず身を乗り出し、追いかけてこようとしていた。
していたのだが……なれない場所のためか、そのヒールの高い靴のせいか一歩目を踏み出した際にバランスを崩し派手に転倒してしまった。
「あっ」
やりすぎたか?とも思ったが、そもそも尾行する方が悪い。
…が、一応は無事を確認しとかないとな。怪我でもされてたらなんだか申し訳ないし
無事だけ確認したらすぐさま逃げ出すつもりだったのだが、結局俺は走り去ることはできなかった。
それは美咲さんが怪我をしていたから…というわけではなく、そこにあったのが見知った顔だったからだ。
844 名前: ◆qPOxbu9P76[sage] 投稿日:2010/12/17(金) 21:42:32.68 ID:.ShKSPso [8/11]
「ふぇ…フェイトさん?」
「え、えへ。ばれちゃった。ごめんね」
そう言って舌をぺろっと出したとぼけた表情をするフェイトさん。
え?なんでこの人が美咲さんのかっこしてんの?
「え…桐乃?これは一体……」
「う……こ、これは」
桐乃が言いよどんでいるとフェイトさんが口をはさむ。
「桐乃ちゃん?もういっそ白状したら?」
二人でなにやら企んでいたことを匂わせるフェイトさん。
「…桐乃、一体どういうことだ?」
「…………」
ここへきてだんまりである。
別に怒っているつもりはないんだけどなぁ……
「桐乃?別に怒っちゃいないから正直に言ってくれよ。じゃないと俺もどういう対応したらいいのかわからねえよ」
桐乃とフェイトさんが何を企んでいたのかはわからない。
だが、そのおかげでフェイトさんは派手に転んで危うく怪我するところだった。
それに関しては俺にも責任があるとはいえ、こんなことをした理由は聞いとかないとな。
「………」
「まさか俺をからかいたかったわけじゃないんだろ?」
「……あ……とデ……ったの」
「あぁ?なんだって?」
しまった、桐乃があまりにぼそぼそ喋るもんだからちょっと怒ってるみたいな口調になっちまった。
べ、別に怒ってるわけじゃないんだ……だからそんな泣きそうな顔をしないでくれ。お願いだ。
「あ……兄貴と……デートがしたかったの」
そう告白すると、ついに桐乃の目から涙が溢れた。
あまりの衝撃的な展開に脳みそがついていかない。
デートしたかった?桐乃が?誰と?あ、俺か…えっ?俺?
845 名前: ◆qPOxbu9P76[sage] 投稿日:2010/12/17(金) 21:43:56.18 ID:.ShKSPso [9/11]
頭が真っ白になって思考が停止している俺にフェイトさんが事情を説明してくれた。
「あのね、京介くん。桐乃ちゃんはあなたにかまってほしかったのよ」
「えっ?」
「あなた…最近他の女の子とばっかり遊びまわってるって聞いたわよ。それも女の子をとっかえひっかえで」
おい!なんて嘘をつくんだ!!
どこのエロゲの主人公だ……そんなやつがいたら会ってみてえよ。
「いやそれは嘘ですし、そもそもそれとこれと何の関係が……」
「鈍いわねぇ。桐乃ちゃんは超がつくくらいのブラコンなのよ」
「フェ、フェイトさん!」
「あっ……」
桐乃にたしなめられ、ごめんねと舌を出すフェイトさん。
……ちょっと歳考えた方がいいんじゃないかなと思います。
しかし、フェイトさんが言ったことが事実とするなら……
「おまえ、スカウトの話は嘘だったのか?」
「あ、あれはほんとだって!美咲さんは最初にスカウトされたときに断ったらちゃんとわかってくれて……」
最初?ひょっとして桐乃が帰国した直後に受けた電話での話のことか?
「……ってことは…まさか前会った社長もフェイトさんなの!?」
「うん、実はそうなの。どう?さまになってた?」
うそ…だろ…?
桐乃が加奈子がメルルコスをしていることを見抜けなかったことに対して、俺なら知り合いの変装なぞ一発で見抜くと内心思っていただけにこれは悔しい。
しかも、フェイトさんが煽り方が超うっとうしい。
「ねえ?今どんな気持ち?私の変装を見抜けなくて今どんな気持ち?」
「くっ……フェイトさんは就職したんですか?」
苦し紛れにちくりと苦言を呈する俺。
「………」
いきなり無言になり鬱状態に突入するフェイトさん。
あ、あれ?俺何かまずいこと言ったかな?
「私、そろそろ帰るわね。後は将来が希望で満ちている若者同士でやってちょうだい……」
いかん、どうやら押してはいけないスイッチを押してましったようだ。
……まさか自殺なんてしないよねあの人。
846 名前: ◆qPOxbu9P76[sage] 投稿日:2010/12/17(金) 21:44:27.71 ID:.ShKSPso [10/11]
ん?じゃあ御鏡が言ってた、美咲さんには兄妹だったことばれてたって言葉の意味は?
あの時の電話の会話内容によれば、本物の美咲さんの方は普通に説得したら納得してくれたんだよな?
なんでそこで彼氏とか兄妹とかの話題が出て来るの?
駄目だ…思考を巡らせても答えは出てきそうにない。
俺が眉間にしわをよせて考え込んでいるところに桐乃から声がかかる。
「ね、ねえ…」
今までのような高圧的な物言いとは違い、こちらの機嫌をうかがうような弱々しい声だった。
「うん?あぁ、すまん、どうした?」
「お、怒ってないの?」
そんなことを気にしてたのか。
俺が女の子とっかえひっかえで遊んでるという嘘を言っていたのは気にかかるが、怯えているような目の桐乃にこれ以上何を責められるだろうか。
はっはっは。もうこうなったらとことんやってやるぜ!
桐乃の真意がどうだったかなんてこの際意識の外に放り出してしまおう!
「怒ってねえよ。今日の俺は桐乃の彼氏だからな。彼女の嫉妬くらい受け入れてやるのは当たり前だろ?」
そう、今はまだ俺がこいつの彼氏役。
もっとも、この役目だけは当分誰にも譲る気はないけどな。
すると桐乃は照れくさそうに微笑んでこう告げた。
「あ、ありがと…きょ、京介。……京介のそういうところ大好き」
俺は大口開いて、目ぇ見開いて唖然とするしかなかったね。
だってよ、幾らなんでもありえねぇだろうが……
自分の目をと感情を盛大に疑いながらこう思ったのさ。
俺の妹がこんなに愛しいわけがない――――ってな。
おわり
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
※ここから追加分
875 名前: ◆qPOxbu9P76[sage] 投稿日:2010/12/18(土) 21:18:11.06 ID:pbnclDUo
秋葉デートを終え、俺達が地元の駅まで帰ってきたところで事件は起きた。
「あ、あやせ……違うんだ。これには深いわけがあってな……」
「ふふふ、お兄さんったら。私言いましたよね?桐乃に手を出したらどうなるかって」
今、俺達の目の前にはあやせが立っており、その瞳からは光彩が消失している。
秋葉で桐乃から予期せぬ告白を受けた俺はすっかり舞い上がってしまい、地元に着いても手を繋いだままだった。
で、案の定そのラブラブっぷりをあやせに見られたというわけだ。
くそっ…なんていうお約束……
「ご、誤解なんだ。俺は桐乃に手を出してないし、これからも出すつもりなんてないって」
無駄かもしれないが一応の説得を試みる。
下手をすれば、「海がいいですか?それとも山がいいですか?」という究極の二択を迫られる結果となってしまう。
「そうだよ、あやせ。今日だって普通にデートしてきただけだもん。ねっ?京介」
あうとおおおおおおおお!!
おまえはなんてタイミングでデレてくるんだ!?「デート」もまずいが「京介」はもっとまずい!!
死を覚悟した俺はあやせの方を恐る恐る振り返り、そして……
ドンッ
「えっ?」
胸部に鈍い痛みを感じ、痛みを感じる場所に目をやるとそこからはおびただしい量の血が……
なんてことはなく、その場所にはあやせが顔をうずめるようにして抱き着いてきていた。
え?何これ?新手の死亡イベント?
「ちょ、ちょっとあやせ!?」
困惑する桐乃をよそに、俺の体に抱き着いたまま離れようとしないあやせ。
「あ、あんたも黙ってないでなんとかしなさいよ!」
「い、いや、そうは言うがな……」
876 名前: ◆qPOxbu9P76[sage] 投稿日:2010/12/18(土) 21:19:54.64 ID:pbnclDUo
さて、これは一体どうしたもんかな。
俺が対応に窮し、棒立ちになっていると、意外にもあやせの方が先に口を開いた。
「お兄さんの馬鹿…どうせ手を出すなら桐乃じゃなくて私に出してほしかったのに……」
えっ?
「お兄さんってば、ほんとに鈍いんですから…私の気持ちわからなかったんですか?」
えっ?桐乃に手をだすなってそういうこと!?桐乃じゃなくて私に手を出せってことなの!?
わかるわけねえだろそんなの!!
目に涙を浮かべながら上目使いで俺のことを責めるあやせ。
瞳にも光彩が戻り、その表情はめまいがしてしまいそうなほどかわいいものだった。
…だったのだが、俺の視界にはその言葉を聞き阿修羅の表情となる桐乃が映る。
あ、あれ?なんだか想像してたのと違うけど死亡フラグが見える。
まさか、こういう作戦なの!?だ、誰か助けて……
「あ、あなた達…こんなところで何をやっているの?」
声がした方を振り返って見ると、いつものゴスロリのかっこに身を包んだ黒猫が呆れるような目でこちらを見ているのを確認できた。
「い、いいところにきてくれた!ちょっと助けてくれ!」
「…まず事情を説明なさい、事情を」
「い、いやそれがな……」
…なんて説明すればいいんだ?
黒猫にこのありえない事態を説明しようとするが、中々うまく言葉にできない。
妹とデートしてたら妹の友達が嫉妬しちゃいました。
端的に言えばこうなのだが、そんなうぬぼれた台詞なんて言えるわけがねえ。
878 名前: ◆qPOxbu9P76[sage] 投稿日:2010/12/18(土) 21:21:17.59 ID:pbnclDUo
「ちょっと!京介はどっちを選ぶの!?」
「そうです!この際、はっきりしてください!!」
俺が頭を悩ましている間にも事態はさらに進展していたらしい。
どこをどう進んだらそんな会話になるの?
「……もういいわ。事態は把握したから」
黒猫は黒猫で今のやりとりを聞いて納得したようだった。
こいつってほんと空気読むのうまいよな…。
「事態を把握したならちょっと助けてくれないか?」
「………」
無言でこちらに歩み寄る黒猫。黒猫の瞳が赤く、怪しく揺らめいて見える。
今黒猫が何を考えているかはわからないが、こいつはこいつで何か考えがあるようだ。
やれやれ、これで何とかなるかな?
ドンッ
俺が一安心していると、今度は背中に鈍い痛みが走った。
俺が背中の方を肩越しに振り返るとそこには闇の力を解放した黒猫が………
なんてことはなく、そこには俺の背中に抱き着く黒猫の姿があった。
「あなたたちにこの人は渡さない」
黒猫、お前もか!!
黒猫が抱き着いてきたことによって、あやせと黒猫に挟まれた状態となる俺。
前後に感じる柔らかい感触が俺のリヴァイアサンを刺激する。
くっ……ここではまずい。鎮まれ…鎮まるのだ。
「ふぅ…お前ら、ここじゃ目立つし場所変えようぜ」
さながら賢者のごとく妙案を提案する俺。
そしてこの言葉で3人とも我に返ったようで、すぐさま俺から離れていく。
880 名前: ◆qPOxbu9P76[sage] 投稿日:2010/12/18(土) 21:23:25.88 ID:pbnclDUo
しかし、
「あんたらには絶対負けないから。なんせあたしはもうデートもしちゃったんだし」
「桐乃には悪いけど、私も負けないよ。お兄さんが私にプロポーズしたの知ってる?」
「ふっ…あなたたち、私が先輩と付き合っていること知った上でそんな台詞を吐いているの?」
く、黒猫!それは今言っちゃだめえええええええ!!
こんなところで新たな火種を投下しないで!!
「はっ、当然でしょ!」
えっ?知ってるの?
……まだ桐乃には話してないはずなんだけど?
「残酷なこと言うようですけど、それってお兄さんに遊ばれてるだけですよ?」
あやせ?それって俺に対する悪口になってるのわかってるかな?
俺、ほんとに好かれてるんだよね?
「あれ?きょうちゃん、なにしてるの?」
「麻奈実!いいところに来た!こいつらの喧嘩を止めるの手伝ってくれ!」
こ、今度こそなんとかなる!
慈愛の精神の塊とも言える麻奈実ならばこの場を上手く納める方法も知っていよう。
頼るべきは、おばあちゃんの知恵袋だ。
「あ、桐乃ちゃんに、あやせちゃんに、五更さん。みんな揃ってるんだ~」
こんなときでもいつもの調子を崩さない麻奈実。
相変わらず空気の読めないやつだ。
だが、こいつのこういうぬるま湯みたいなところが、場を和ますのにはちょうどいいんだよなぁ。
881 名前: ◆qPOxbu9P76[sage] 投稿日:2010/12/18(土) 21:26:49.85 ID:pbnclDUo
「ふぅ…これでなんとか……さぁ、お前らいいかげんに……」
「いつも、わ・た・し・の!きょうちゃんがお世話になってまぁす」
えっ?今何て言った?
言葉に意味を問いただすべく振り返って麻奈実を見てみると、いつもののんびりとした雰囲気とは異なり、
大魔王もかくやというような禍々しいオーラを放っていた。
くっ、出たなベルフェゴール。
「お、お前!なんてオーラ出してやがる!?」
見ろ!三人ともすっかり怯えちまってるじゃないか!!
「くっ、ここは一時休戦よ」
「仕方ないですね。まさかお姉さんが一番の強敵だったとは」
「さすがベルフェゴール…私の邪眼をもってしても勝てるかどうか…」
なにやらヒソヒソと相談している様子の3人。
お前らがいつまでも喧嘩してるからいけないんだぞ?
しかし…まさか麻奈実にあんな一面があったとは……
もうこいつのことを変にからかったりするのはやめよう。あやせ以上におっかねぇ…
「さっ、きょうちゃん。一緒にかえろ?」
「えっ?お、おい!?」
麻奈実に右腕をとられ、半ば強引にこの場から連れ去られる。
882 名前: ◆qPOxbu9P76[sage] 投稿日:2010/12/18(土) 21:28:22.12 ID:pbnclDUo
「あ!待ちなさい!まだ話は終わってないわ!」
黒猫はそう叫ぶと麻奈実とは反対の腕に抱き着いてくる。
「そうですよ!ちゃんと誰を選ぶのかはっきりしてください!」
今度はあやせが俺の背中に抱き着き、俺の歩みを止めさせる。
「あんたら!あたしの京介にさわるなああああああああ!!」
桐乃は悪の帝王にとどめを刺す主人公のごとく叫ぶと、俺の前に回り込み正面から抱き着いてくる。
あ、そこにいらっしゃるのはお隣の奥さんじゃないですか。
ははは、今日はいい天気ですね。
くっそおおおおおおおおおおおおお!
「きょうちゃん?選ぶのはもちろん私だよね?」
「お兄さんのスイートエンジェルこと私ですよね?」
「彼女をさしおいて他の雌をえらぶわけないでしょう?」
「あんたらは京介のシスコンっぷりを知らないからそんなことがいえんのよ!」
へっ、こうなったら…こうなったらとことんやってやるよ。
どうせこのあと4股高校生として噂されるのは間違いないんだ。
えーっと…うろ覚えだが、確かちょっと前に見たアニメではこう言ってたんだっけ?
「よーし、いっそ全員で遊びに行くか!!なんせ……お前たちは俺の翼だからな!!」
おわり
最終更新:2010年12月18日 21:50