無題:6スレ目126


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 一悶着が収まり、改めて赤城に加奈子の紹介などしていると、ややあって今度は赤城の携帯に着信があった。
 案の定その連絡は瀬菜からで、すぐこちらへ向かえなくなったので合流場所を変更したいとの旨。
 赤城のやつは「急で悪いな」と挨拶もそこそこに手荷物を抱えて、混んでない出口を探す。

「自慢の妹によろしくな。また何かあればメールする」

 投げかけた言葉に軽く手を挙げて、参拝客の間を縫うように去っていく後ろ姿を見送った。
 呼びつけをくらったにもかかわらずやけに楽しげな様子が、理解に苦しむところだ。

「見ての通り、妹煩悩っぷりが少々イタイが、基本清々しくていいやつさ」

 そう言って我が悪友の加奈子への紹介を締め括ろうとするや、

「それをあんたが言う? 兄馬鹿っぷりは似たり寄ったりなんじゃねーの?」

 などと宣う。ハハハこやつめ。
 事実無根を訴えたい。何を根拠に……

「だってよぉ。桐乃から聞いた感じだと京介こそ、妹が好きで仕方ない、妹の頼みは何だかんだ言っても聞く、妹と離れると寂しがる、なんだろ?」

 ……あ、あんにゃろう。

 そう言われてしまえば、シスコンを自認しつつある俺としては否定できるわけがないんだが、そこらへんの事情を知らない友達に吹聴して回るこたーないんじゃないか。
 桐乃のやつは何のつもりで兄の恥態を晒したりすんのかしら……
 妹様の動機と、俺の社会的信用の失墜とに頭を悩ませていると、

「まー、つい話して聞かせたくなる気持ちはわかんなくもないけどね」

 ほど近くのお焚き上げの方向から舞い上がった灰が飛来した。あと、あたりめの匂いも。
 風に乗って届いたそれらを意識の片隅にとらえて問う。

「わからなくもない、というと?」
「どんだけ自覚してたかは知んないよ。たぶん桐乃は自慢したかったんでしょ。
 自分のこと凄い気にかけて、愛してくれてる兄貴をさ」

 愛して、って……。
 突然耳に滑り込んだ衝撃的な響きに思わず絶句する。

「『聞いてよバカ兄貴ったらさぁ』とか言ってあんたの話する桐乃ってば、さっきの、赤城ってったっけ? あんたのダチと同じよ~な顔してたし。
 カレシをノロケるバカップルの片割れかって、正直ウザく思うこともあったりした」

 妹の周りでの俺の評は既に赤城に引けを取らないレベルのシスコンです。
 本当にありがとうございました……残念ッ!

「え~と、とにかく。京介が思うほど、あんたのソレは恥ずかしがるばかりじゃないってコト」

 そういうものかね。
 他でもない当の桐乃に恥ずべきシスコンというからかいを受けすぎたせいか、どうも俺は妹相手にあるべき距離を保てない、兄妹離れから遠い関係に落ち着かなさを覚えるんだが、

「アタシからしたら、あの日『糞マネ』が」

 ふと語りを止めて加奈子はほんの小さな笑いを挟む。

「さんざん話に聞いた桐乃の兄貴だったってわかって、すげー納得っていうか……
 あぁ、そういう事なら桐乃がお馬鹿になるのも頷けたっていうか」

 お馬鹿とか言っちゃったよこいつ? 人の妹を、よくまぁ。
 それを言ったらお前も大したお馬鹿だろうに、と喉まで出かかった台詞を飲み込む。
 言えば俺も含めて愚にもつかない馬鹿ばかりという実態が哀しくなりそうでな。

「別にあんたみたいな兄貴がほしいってんじゃないのね。
 ただ近頃は桐乃のこと羨ましく感じたりもしたから……
 アタシもいつの間にかお馬鹿になっちゃったかーって、思う」

 桐乃とおんなじに。
 そう付け加えて、加奈子は一息ついた。

「京介はどう思う、こんな話聞いてさ。
 我が侭で世話のかかる妹分が二人になって面倒が増えるとか。当たり?」

 こいつにしては珍しい婉曲的な物言いをする。
 そうだな、面倒が増えるに違いない予感はある。

「うーむ……あたり、めでも焼きに行かないか」



 それから俺たちは、炙ったあたりめをどう食い進めるのがうまいか意見を戦わせたり、餅つきに参加して甘酒を振る舞われたり、参道から外れた入口辺りの屋台を冷やかしたりする。
 二人とも文字通りの意味での初詣は済ませているとはいえ、こういった楽しみを味わえるのは正月ならではと実感された。

「さて、帰る前に形だけでもまた拝みに行っとくか?」

 何の気なしに訊ねてみたところ、頓狂なものを見たような顔を向けられる。

「なに言ってんの。そんな次々願い事したらご利益減っちゃうじゃん」

 ご利益ねぇ。
 神仏に何かを叶えてほしいと切に祈願してるでもない俺としては、こいつが神頼みを当てにするタイプだというのが新鮮に思える。
 いや、神頼みに限らず、大抵の女子はこういう願いをかける類いに思い入れる傾向あんのか。
「それもそうだ、やめとこう」と無難に返事して神社めぐりは切り上げとなった。



 加奈子が桐乃にも会っておきたいと言い、例によって家へ寄ることに。
 コンパスの違いがあるのでやや遅めに歩く。
 しばらくは何を話すでもなく、話題のひとつも振るべきかと気になり出したとき、

「なぁ、ちょっといいか」

 おずおず……といった風に下から声がかかる。
 加奈子は正面に向いたまま、心持ち俯くように続けた。

「こないだのさ、アレ、桐乃がやってたみたく……してみていい?」

 この間ってーと……何だっけ。俺が思い出せないままでいると、「ん~」とでも言ってただろうか、肯定の合図にとったらしい加奈子が横から上着を摘まんだ。
 それのことだったか。
 ちんまいコイツがやると桐乃と違って微笑ましいんだが、自分でしといて桐乃以上に恥ずかしがってる様子に当てられ、むず痒い事この上ない。

「普通に手ぇ繋げばいいだろ。ほら」
「うぇ、ちょっ」

 年下のガールフレンドと手を繋ぐくらい普通普通と思い聞かせ、手を取る。ままよ!

「加奈子、おまえ随分手が冷えてんな。今日そんなに寒いか?」

 照れ隠しに気付かれないよう聞いてみる。

「う~、わっかんない。
 けど……京介の手は温かいよ」

 それきり両方口を閉ざしたまま家路を辿る。
 何か喋るようせっつかれるかと思ったが、杞憂のようだ。

 これなんてエロゲ? って思考がちらつくのを努めて振り払う。
 いやいやいや。エロゲに限らないし。冷静に、KOOLになれ。
 こんな時は素数を数えるんだ……
 変に意識しまくりなのがバレないか必死な俺である。

 我が家の門が視界に入ると、加奈子がスルリと手を離す。

「このままってわけにいかないっしょ。惜しいケド」

 そ、そーですね。
 家族に大仰なリアクションされても困るもんな。
 そう言うと、加奈子も苦笑を浮かべた。

 玄関をくぐってただいまの声を発した途端、居間の方からドタタ……と誰かさんが駆けてくる。
 そいつは体当たりするような勢いで俺の手に抱きつき開口一番に叫ぶ。

「遅~い!! 兄貴どこほっつき歩いてんのっ」

 妹のあまりの敏捷さに、連れはどうやら面食らって、唖然としている。

「あれ、加奈子も一緒だったんだ? あけましておめでとう」
「あけおめー。てゆーかいくら家ん中でもソレは……ヒクわぁ」

 さもありなん。

「あーヤダヤダ。元日から見せ付けてくれちゃってさー」

 加奈子は呆れのポーズを強調した。
 しかし、ちょっと考えれば解る。桐乃のこれは見せつけとかではないんだ。
 俺が帰宅するや否やなんだから、加奈子の目の有る無しは関係ないわけで……
 最近だいぶキャラ変わってきてんのね、コイツ。

「なにそれ、そんな言うなら加奈子もくっつけば? 兄貴イヤがったりしないよ?」

 断定すんのかよ。せめて推奨はしないでくれ。
 ニヘへ~としながら俺にまとまりつく桐乃を一瞥、ぐぬぬ……って顔をした加奈子は、一時迷いを見せた後「やったろうじゃん」と反対の腕に絡む。
 こんなんで対抗意識燃やすなと言いたいのは山々だが、聞きやしないだろう。

 こうして俺たちの新年は騒々しく始まったわけさ。先が思いやられるっつーの。





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