263 名前: ◆Neko./AmS6[sage saga] 投稿日:2011/01/25(火) 02:56:21.56 ID:NnllwPeO0 [2/3]
エピローグ――
俺はその日、黒猫からメールで呼び出され、いつもの公園に来てゴスロリに戻ってしまった黒猫と向き合っていた。
クリスマス・イヴ、俺は結局あやせの策略に嵌められタイムリミットまでに黒猫に連絡できなかった。
あやせから開放されたあと、すぐに黒猫に電話したんだが……幾ら謝っても取り付く島がなかった。
そのあとは着信拒否され、今日に至った。
「私は黒猫、闇の眷属に生きる……。先輩、あなたはこの私を裏切ったのよ!」
「黒猫、本当に申し訳なかった。頼むから俺の話を聞いてくれ」
電話は着拒されてるし、黒猫の家に直接行って謝ろうとしたが黒猫のヤツ……
一番下の妹を使いやがって……『姉さまは、兄さまにはお会いしません』なんて言わせやがった。
「私は黒猫、闇の眷属に生きる……。先輩、私はあのイヴの日……ずっと先輩からの連絡を待っていたのよ」
「俺はお前に連絡しようとしたんだ。本当だ、信じてくれ」
俺があの時、黒猫に連絡しようとしたのは事実だった、しかし、連絡できなかったのも事実。
「私は黒猫、闇の眷属に生きる……。先輩、あんな小娘にいい様にたぶらかされて、恥を知るべきだわ」
すべての始まりは俺の鈍感で優柔不断な性格にある。
しかし、黒猫が怒っている最大の原因は、俺が安易にあやせに相談し、その策略にまんまと嵌まっちまったことだ。
あやせが権謀術数に長けていることは、加奈子の件で俺はよく知っていたはずなのに……。
「私は黒猫、闇の眷属に生きる……。大体なんなの、あのあやせって娘は……ちょっと美人だからって、
この私に……こんな破廉恥な物を送り付けてきたのよ」
あやせが黒猫に送りつけたのは、一通のメール……それも画像添付のヤツだった。
その画像は俺があやせに無理やりキスされている場面だ。
しかし、画像を見ただけじゃ誰だって恋人同士のキスシーンと思っちまうよな……。
「黒猫、それは違うんだ。
写真だけ見れば俺があやせにキスしてるように見えるけど……
俺は気を失った挙句にそんとき手錠をされてたんだよ……たのむ、信じてくれ黒猫。
抵抗しようにも抵抗できなかったんだ」
あやせが俺にタイムオーバーを宣告したあと、すかさず俺のみぞおちに肘鉄を食らわせるもんだから、
油断していた俺はうっかり意識をなくしちまった。
気が付いたときには手錠を嵌められベンチに座らせられていた。
俺が意識を失っている間に例の写真を撮られたわけだ。
「私は黒猫、闇の眷属に生きる……。先輩、あのあやせって娘とともに、この報いは必ず受けれもらうわ。
いまから覚悟をしておくことね」
264 名前: ◆Neko./AmS6[sage saga] 投稿日:2011/01/25(火) 02:56:57.57 ID:NnllwPeO0 [3/3]
黒猫は俺の言い訳なんか聞いちゃくれなかった。
でも事実なんだからしかたがねぇ。
あとであやせに聞いたらお台場のホテルなんかでパーティーなんかやっちゃいなかった。
事務所のある新宿区のホテルだって言うじゃねーか。
お台場は港区だっつーの。
「あんた、さっきっから黒いのと何やってんの?」
その声に俺は驚いて後ろを振り返ると、桐乃があっけに取られたように突っ立ていた。
「私は黒猫、闇の眷属に……出たわね、スイーツ女」
「……それにさー、クソ猫! なんであんたは木になんか登ってんのよ! パンツ丸見えだっつーの」
「私は黒猫、闇の……こ、これは見せパンだからいいのよ。さっき先輩にも説明したし……」
俺は事情が分からないといった表情の桐乃に、これまでの経緯をザックリと説明してやった。
「ふーん、で、これがそのネックレス? へー、けっこう洒落てんじゃん。
クソ猫なんかにはもったいないから……あたしがもらっといたげる」
「私は黒猫、ちよっと! そのネックレスは先輩が私に買ってくれたものよ! 汚い手で触らないで頂戴」
桐乃は木の上で怒鳴っている黒猫を無視して、ネックレスについている商品タグを熱心に読んでいた。
「あーなるほど、確かに『叶』って文字になってるジャン」
「私は……先輩、下りるから手を貸して頂戴……」
運動オンチのくせに木になんか登るから……。
きっと怒りに任せて登ったんだろうが、木登りってやつは登るより下りることの方が難しい。
黒猫は枝の上でしゃがみ込んだまま動けなくなっちまった。
なんとか俺の肩に片足を掛けさせ、次にもう片方の足を……。
その瞬間黒猫はバランスを崩し、俺は何とか彼女を抱きとめるようにしたが、
結局、俺達二人ともすっ転んじまった。――俺がちゃんと下敷きになったけどな。
黒猫の手を取って起こしてやり、服に付いた泥を払ってやった……。
「お、おい、大丈夫か!? 怪我しなかったか? お前はほんと無茶すっから……」
「私は……先輩、あなたのことが好きです」
その言葉に俺は、黒猫を思い切り抱きしめることで応えた。
気が付くと、桐乃はいつの間にか俺達の傍からいなくなっていた。
黒猫が登っていた木の根元に、ペンダントがギフトボックスに入ったままそっと置いてあった。
もしかすると……あいつは俺と黒猫が仲違いしているのを知って……。
まさかな、俺はきょうほど自分の目と耳が信じられねぇ日はなかったよ。
だから、俺がこう思ったのも当然だろ。
俺の妹が、こんなに可愛いわけがない――ってな。
(完)
最終更新:2011年01月25日 03:33