無題:8スレ目41


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41 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 投稿日:2011/03/03(木) 03:09:02.09 ID:RA85mHvdo [3/7]
寒さと暖かさが行ったり来たりしながらも、花粉症やらなんやらで着々と春の気配を感じる三月の頭。
俺は特に考えもせずCDショップに入った。
受験勉強はどうした?もちろんやってるよ。
前期日程が終わった後は多少なりとも気が抜けたが、それもほんの少しだ。
翌日からはきちんと中期・後期に向けて麻奈実と一緒に勉強している。
今日も午後からは図書館で勉強会の予定だ。まったく、受験生も楽じゃねえ。
というわけで午前中は、たまたま早く起きちまったので春の陽気を感じるために散歩してたところだ。
爺臭い?ほっとけ。
とは言ったものの、やはり目的もなく店に入ったため、少し歩き回っただけで飽きちまった。
「あ、このバンド、まだ活動してたんだ」とかぐらいの感動があったけど、そのために足を止めるような俺じゃない。
冷やかしになっちまうが、もう出よう。そう思って店の入り口に向かう俺の目に、一枚のCDが目に留まった。



昼前に自宅に戻った俺は、部屋に入ると手に持っていたビニール袋を机の上に置き、勉強会に行く支度を始めた。
麻奈実との約束の時間は午後1時。まだ出かけるには余裕はあるが、たった今買ってきたコイツを聴いてるほどは無い。
帰ったときのお楽しみというわけだ。
必要なものを鞄に詰め込み終わると、俺は昼食を食べるために部屋を後にした。



夜―――。
夕食を食べ終わった俺は、今は自室で勉強中だ。
耳にはヘッドフォンを付け、午前中に買ってきたCDを流しながら英語の長文を読み解いている。
頭の中では長文を訳しながらも、耳から入ってくる音に少しだけ懐かしさを感じていた。
だからさ、いきなりあの妹様が入ってきてもさ、気付かなかくても仕方ないよな。

ゴンッ!

視覚と聴覚を一方向にだけ集中させていた俺の後頭部に、唐突に痛みが走った。
ヘッドフォンを外し、少し涙目になりながら、て自分の背後に目を向ける。
案の定、不機嫌な面を貼り付けた桐乃が立っていた。

「いきなり何すんだよっ!」
「うっさい!アンタがアタシの呼びかけに応じなかったからでしょ!」
「そりゃ悪かったよ。……だからって、いきなりゲンコツは無いだろ」
「フン!痛い思いをしたくないなら、次からはすぐに気付きなさいよ!」

おーおー、今日も絶好調ですねぇ。コイツの理不尽さには多少慣れたと思っていたが、どうやらそいつはとんだ思い違いだったらしい。
だからと言ってコイツに抗議したところで、簡単に治る訳じゃねぇんだよなぁ。

「で、何か用か?」
「……これ」

桐乃がなにやらもじもじしながら差し出してきたのは、湯気が立ち上るマグカップだ。中には光沢のある黒い液体が入っている。

「その……、夜はまだ、冷えるから。差し入れ……」
「お、おう。ありがとな」

若干赤くなりながら盆に載ったマグカップを差し出してくる桐乃を見て、俺も釣られて顔が赤くなる。
こんな些細なことでさっきの理不尽行為を許してしまう俺は、誰がどう見てもシスコンだよなぁ。ま、いいけどさ。
マグカップを受け取った俺は、コーヒーを一口含み、それを机の上に置く。なんだか、俺が淹れたのより美味く感じるな。
俺がもう一度礼を言おうと顔を上げると、桐乃はとあるCDケースを手に持って、それを繁々と眺めていた。

「なんだ?そのCDがどうかしたか?」
「へ?……いや、なんでもない」
「そうか」

42 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 投稿日:2011/03/03(木) 03:10:01.69 ID:RA85mHvdo [4/7]
桐乃が今持っているこのケース、コイツは俺が朝に買ってきたCDのものだ。
タイトルは『-MYTH- The Xenogears Orchestral Album 』
その名の通り、15年ほど前に発売された『ゼノギアス』というゲームのアレンジアルバムだ。
リアルタイムではないが、俺もこのゲームを友人から借りてプレイしたことがある。
当時小学校低学年だった俺だが、このゲームのことは今でも記憶にある。
最初は劇中に出てくるギアのかっこよさに目が行ったものだが、次第にシナリオや音楽にも目を向けるようになった。
当時のPSは今の主流ハードとは違い、グラフィックは向上したものの音に関してはまだチープだった、と記憶している。それより前のハードに関しては知らんけどな。
それでも、このゲームの音楽は素晴らしいものであり、プレイしてから10年以上経っても、俺の記憶に残っている。
しかし、今思い返すと、小学生がやるには結構重いシナリオだったな。
ソイレントシステムとかさ。ベッドシーンもあったし。
天帝とか、エレメンツとか……。あれ?これって厨二病の一種か?

「これ、何のCDなの?」

俺がゼノギアスの思い出について振り返っていると、桐乃がそんな質問を投げかけてきた。
まぁ、コイツが生まれる前に発売されたものだしな。ゲームのタイトルぐらいは知ってても、プレイはしたこと無いだろう。

「ん?ああ、『ゼノギアス』ってゲームのアレンジアルバムだ」
「ぜのぎあす?」
「昔発売されたRPGだよ。懐かしくて、つい買っちまった」
「へぇ~。って、ゲームのサントラとか買うなんて、アンタも立派にヲタ街道をひた走ってるわね」
「ほっとけ」

それからは桐乃がそのゲームについて聞いてきたので、俺はおぼろげな記憶を頼りに簡単に説明した。
ま、検索でもかけりゃ今でも情報は手に入るだろうし、ほんとに簡単な事だけだ。
10分ぐらいその話をして、桐乃は俺の部屋から出て行った。この時のことを、俺は少しだけ後悔している。




「ただいま~」

あれから数日経った。俺と麻奈実は二人揃って志望校に合格し、この春から大学生だ。
これまでの受験勉強で鬱屈した思いから解放された俺は、部活に顔を出したり、すでに合格を決めた友人達と遊んだりして、残り少ない高校生活を楽しんでいた。
そんなある日、飲み物を求めてリビングに入ると、桐乃がゲームをしていた。今日は両親はいないし、こいつも受験は終わったからな。ま、いいだろう。
また大画面でシスカリでもしているんだろうと思ってテレビ画面を見た。そこには黒い細身の機械人形が拳法の構えを取って敵と戦っている姿が映されていた。

「おい、これって……」
「あ、兄貴。おかえり」

どうやら桐乃は俺が帰ったことにたった今気付いたらしく、こちらに顔を向けて挨拶をした。それも一瞬で、その顔はまたすぐにテレビに向けられてしまった。

「これ、ゼノギアスだよな?どうしたんだよ」
「ん~。沙織から借りた」

マジかよ……。アイツも桐乃と一つしか歳が違わないのに、なんで持ってんだよ。いや、沙織なら不思議でもねーか。
それより、まさか桐乃がプレイしているとはな。これはアイツの嗜好には合わないと思っていたんだが。試しに感想を聞いてみるか。

「で、どうだ。プレイした感想は?」
「まだ始めたばっかだから、何も言えないかな。でも、悪くないかも」
「そっか」

どうやら感触は悪くないようだ。それに、自分が好きだったものを良く言われると嬉しいもんなんだな。
俺は懐かしさを覚えながら桐乃のプレイを眺めていた。





それから2日後。俺は今、アキバに来ている。
というのも、俺の大学合格を沙織たちもささやかながら祝ってくれるらしく、皆の都合が合う今日、集まることになったのだ。
んで、今はいつものメイド喫茶で休憩中というわけだ。

「それでは改めまして。京介氏、この度はおめでとうでござる」
「おめでとう」
「おう。ありがとな、二人とも」

合格が決まったその日、メールでこの二人にもその事を知らせ、その時にもおめでとうと言われたが、やはりじかに言ってもらえると嬉しいもんだよな。
それからはいつものようにやいのやいのと少し騒がしくも、楽しいひと時を過ごした。その途中、桐乃が沙織にあるケースを差し出す。

「沙織、これありがとね」
「いえいえ。拙者もたまたま持っておりましたゆえ、どうということはござらん。しかし、きりりん氏からゼノギアスのことをお聞きしたときは、少々驚きましたぞ」
「あら、それは?」

43 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 投稿日:2011/03/03(木) 03:11:33.45 ID:RA85mHvdo [5/7]
黒い紙に赤色のスプレーで大きく×を描いたようなジャケットのケースを見て、黒猫が声を掛ける。やっぱり、普通は知らないよな。

「黒猫氏はご存知ないようですな。これは『ゼノギアス』というゲームでして、発売から15年ほど経った今でも、非常に評価の高いゲームなのですよ」
「名前くらいは聞いたことがあるわね。で、それを何故あなたが持っているのかしら?」
「兄貴から話を聞いてさ、少し興味が湧いて沙織に聞いてみたのよ。そしたら"持ってる"って言うから、借りてみたの。結構面白かった」
「黒猫氏も如何ですかな?」
「せっかくだけど、遠慮しておくわ」
「それは残念ですな。しかし、言ってくださればいつでもお貸ししますぞ」
「ありがとう」

沙織は桐乃からゲームを受け取ると、いつも背負っているリュックにそれを収めた。そして、新たなゲームケースを三つ、取り出す。

「では、これが約束の品です」
「ありがと」
「なんだ、そりゃ?」

沙織が新たに取り出したゲームを桐乃が受け取る。一番上に置かれていたパッケージには『Xenosaga』と書かれていた。

「これは『ゼノサーガ』と申しまして、ゼノギアスの主だった製作スタッフが別会社で発売したゲームです」

まさかそんなモノが発売されていたとは・・・・・・。このことは俺も知らなかった。

「続編、ってことか?」
「いえ、正式な続編ではありません。しかし、ゼノギアスと通ずるところもありますので、ファンにとっては押さえておきたい作品ではありますな」
「そうなのか。しかし、なんで三つもあるんだ?」
「このゼノサーガはこの三つで一つの作品なのですよ。映画でもあるでしょ?前後編に分かれていたり、三部作のものだったり。これも、言うなれば三部作品なのです」
「へぇ」
「これ以外にも『ゼノブレイド』という作品がありまして、こちらは関連性は無いものの、新たなゼノシリーズとしてなかなかの評価を受けております」

まだあるのかよ!
せっかく時間も出来たし、機会があればプレイしてみようかと思っていたが、流石にそんなにあるとやる気が起きないな。
しかし、桐乃はこの……ゼノサーガだったか?を借りたということは、プレイする気なんだよな。それと並行してメルルやエロゲもやるんだろうし。
いつ寝る気だ、コイツは。
桐乃は沙織から受け取ったゲームを鞄に入れ、その後はいつものように四人でのアキバ散策を楽しんでいた。



時間はまた経って、今は四月。
無事に入学を果たし、新たな生活に向けて意気揚々としていた俺に、桐乃は部屋に来るように言ってきた。
最初に人生相談を受けてからもう2年。随分と時間が経ったが、人生相談は相も変わらず継続中だ。
高校生になっても、うちの妹様は悩み多き乙女のようだ。まぁ、俺も頼られるのはイヤじゃない。去年の後半は、受験のことを気遣ってあまり相談には来なかったしな。
しょうがない。行ってやろうじゃないの。
桐乃の部屋の前まで行き、ドアをノックする。桐乃からお許しを貰い、俺はドアを開けて部屋に入ったんだが……。
あれ?なんか、前に入ったときと違う?いや、大きくは変わってないんだが、なにか違う。
俺はその違和感を突き止めようと、室内をくまなく見渡す。途中で桐乃から「なに見てんのよ。キモ」と罵倒が飛んできたが、今は気にしないでおこう。
そして、俺はその違和感の正体に気付いた。それは桐乃のヲタグッズが凝縮された押入れの中にあった。この時、なぜか桐乃はこのスペースを開放していたんだよな。
その中にはフィギュアがあった。そのこと自体は別に不思議でもなんでもない。
でもさ、いつもアイツが愛でているメルルや可愛らしい妹のものとは違うんだ。
褐色の肌に紫のような銀のような色の髪、扇情的なボディラインに機械的な衣装を身に纏った大人の女性、
それとは色違いの青っぽい髪に色白の肌、ドデカいガトリングを持った、扇情的なボディラインに機械的な衣装を身に纏った大人の女性のフィギュアとかが置いてあった。
そして押入れの下のスペースには、見覚えのあるパッケージのゲーム、それとは別に可愛い妹がはじけているようなパッケージじゃない、
さっきのフィギュアと同じキャラと思われる人物が印刷されたものや、どこかの草原に赤い剣っぽいものが突き刺さっているものがあった。

「あの、桐乃さん。このフィギュアとかは?」
「ああ、それ?沙織に借りたゼノサーガに出てくるKOS-MOSとT-elosのフィギュア」

オーケーオーケー。なんとかまだ理解できる範囲内だ。だがこれを買っているということは、思いのほかハマったということか。
俺は続けて、ゲームケースを一つ手にとって再度訪ねてみる。ちなみに桐乃に見せたのはどこかの草原に赤い剣っぽいものが突き刺さっているパッケージのヤツだ。

「これは?」
「それはゼノブレイド。ほら、先月集まったときに沙織が言ってたでしょ。あの後、ついつい買っちゃったんだよね」

おおう、やはりか。いや、おもいっきり『Xenoblade』って書いてありますからね。わかりましたよ。そして、桐乃がゼノシリーズに結構ハマってることもな。
そんなことを考えていると、桐乃は急に屈み、押入れの下のスペースをガサゴソと漁りだして、いくつかの小さいケースを取り出した。

「これはゲームサントラ、アレンジアルバム、ドラマCD。んで、こっちが……」

あらかたCDを取り出した後、次は何やらデカい本を数冊出してきやがった。まだあるのかよ……。

「シナリオブックでしょ。設定資料集。あと小説もあるよ。ゲーム本編とは関係ない話をしてたりするけど」
「それ、全部買ったのか?」
「うん!あのね、最初は意味がわからないこともあったんだけど、資料とか見たりしてたらさ、色々と深い設定があってね。それを理解したうえでプレイすると、また違った味わいがあってさ……」

なんというデジャヴュ……。一番最初にコレクションをお披露目したときと同じ展開じゃねーか。
しかもなんやら聞き覚えの無い用語をポンポン言ってきやがる。まるで黒猫と話しているようだ。
妹よ、気付いているか?今のお前は、常日ごろ厨二病と揶揄している黒猫と同じ状態になっていると。
まさか、懐かしさのあまり買ってしまったCDが発端でこんなことになろうとは……。
俺は今、昔の俺にすごく忠告したい気分になったよ。




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