俺たちのすれ違いがこんなにベタなわけがない:8スレ目269


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269 名前:『俺たちのすれ違いがこんなにベタなわけがない』[sage] 投稿日:2011/03/07(月) 23:39:22.49 ID:i6qCzY5k0 [3/19]

付き合い始めて2週間ちょい。
今現在、俺と黒猫の仲は早くもギクシャクしている。
早すぎる?
気にしてるんだから言わないでくれ。
これでも結構仲良くやってたんだぜ!?
ほんの数日前までは―



『俺たちのすれ違いがこんなにベタなわけがない』



正直、最初の原因はよく覚えてないんだ。
きっと相当ちっぽけなことだったに違いない。
まあ、俺の視点から経緯を説明させてもらうとこういうことだ。


ことが起こったのは先週の金曜日の帰り道だった。
普通の高校生なら、1週間の学業から解放される喜びを噛み締められる至福の帰り道・・・・・・なのになぁ。
とりあえずアイツがいつもの厨二調子で俺をからかってきたんだよ。
普段なら俺がほどよくツッコんで受け流して談笑になるはず、だった。
でもあの時は・・・・・・なんかさ、途中で感じたんだよね。
いつもと風向き違うなぁ・・・ってさ。
しかも俺自身もその変な風に乗っかっちゃってるんじゃないか、ってさ。


ん?俺らっていつもこんなに言い合ってたっけ?こっからどうやって丸く収めりゃいいんだ?


なーんてことをもう少し早くに考えてればよかったのかもしれないが、少し遅かった。
疑問に思った時には、すでに俺の家に行く道とアイツの家に行く道の分岐点に来ていたんだ。


アイツは最強に不機嫌な様子で、
「声も聞きたくないから着いて来ないで頂戴」とか何とか言って怒って一人で帰っちまったってわけさ。
いつもはアイツの家まで送って帰ってたんだけどな。
まあ・・・・・・追いかけようと思えば追いかけられたし、止めようと思えば止められたかもしれない。
でもあの時は俺も何となくムシャクシャしてたから、
「おい!ちょっと待てよ!」っていうありきたりなことを叫んだだけで、すぐ反対方向に歩き出しちゃったんだ。


もちろんその後、家に帰ってからすごく後悔した。



だから次の日の土曜日、
俺は昼過ぎに自転車を飛ばしてアイツの家まで行った。
本当は朝早くから行こうかとも思ったけど、休みの日だし。ほら、下のおチビちゃんを起こしても悪いだろ?
・・・まあ、結果はありきたりな展開だったけどな。

「ルリ姉なら朝早くからアキバに行くってメモが・・・・・・あれ?高坂くんと一緒じゃなかったの?」

俺だって薄々わかってたよ?いじけたアイツが俺を避けて出かけることくらい予想してたよ?
でもさ、ここまで教科書通りにやるこたぁねえだろ。

俺は家に帰ってからも時間を空けて何度か電話をかけた。
・・・ああそうだよ!お察しの通り、1回も出てもらえなかったよ!

でも・・・着拒されてなかっただけマシ、かな?

って違うだろ!何で俺はこんなに下手に出てるんだ!?

「そりゃあ俺も悪かったかもしれないけどさ・・・・・・でも、アイツだって・・・・・・」
一回そんなことを考えると、何か俺にも変な意地っつーか対抗心が芽生えてきて。



日曜日?
日曜日は特に連絡をとろうとはしなかった。
朝からずーっと学生の本分に打ち込んでたよ。俺も一応受験生のはしくれだぜ?
まあ、その・・・・・・変な意地があったってのも否定はしないけどよ・・・・・・・・・・・・。


270 名前:『俺たちのすれ違いがこんなにベタなわけがない』[sage] 投稿日:2011/03/07(月) 23:40:37.49 ID:i6qCzY5k0 [4/19]


こうして迎えた今日は月曜日。

普通は月曜の朝ってのは何となく元気がない。
休み明けってのはテンションがどうも上がらん。
・・・・・・特に、あんな土日を過ごした今日の俺は尚更な。

いやー。それにしてもいい日差しだ。最近雨が多かったから余計にすがすがしい。
『雲ひとつない青空』ってこういう日のことを言うんだろうな。

この天気のおかげでテンションも若干晴れたところで、俺は校門をくぐった。
月曜がダルいっていうのは俺だけじゃなくてみんな共通のことらしく、
普段の月曜の朝は何となく眠そうな雰囲気が漂っているもんだ。

だが、ここ最近はその法則が崩れている。
理由は・・・・・・おっと、今日も早朝の校庭から楽しそうな声がしてるな。
おーおー。朝早くから元気だねえ。

今は体育祭の丁度2日前だ。
1・2年生はもちろん、受験を控えた俺ら3年生も、体育祭1週間前くらいからは休み時間に練習で汗を流している。
さすがに身分をわきまえてるから、学校終わってから集まったりはしないけど。
俺のクラスも例外ではない。多少男女間で温度差はあるが。

あの校庭にいる人たちは朝練してんのか?随分とやる気あるな~。
うちのクラスも今日の休み時間は運動系部活のメンバーを中心に練習すんのかなぁ。

でも、みんなには悪いが今日はパスだ。
そろそろ俺も決着つけねえと。

昼休み。
俺はサッカーの誘いを断って、怒れる夜魔の女王が待ち受ける教室へと向かった。
いくら下級生の教室だからと言って、やっぱり他のクラスの教室に一人で行くのは少し緊張する。
しかもそれが、自分の彼女がいるクラスの教室となると尚更だ。

教室の前まで着くと、俺はちょっとだけ気合を入れて、開けっ放しになっている扉からやや遠慮がちに教室を覗く。

・・・だが、アイツは教室にはいなかった。
というか殆ど人がいなかった。
いるのはいかにもぼんやりしてておとなしそうな女子が数人。あ、一人だけ居眠りしてる男子がいるな。

もしかして・・・アイツ、体育祭の練習しに行ったのか?
アイツの性格上、絶対参加なんてしてるわけないと思ったのに・・・。
まあ、それほどアイツもクラスに馴染んできたってことなのかね?
しょうがねえ。放課後にでも待ち伏せするか。

そんなことを考えながら1年生のフロアを歩いていると、突然聞き慣れた声に呼び止められた。

「あっ!高坂先輩っ!こ、こんにちはっ!あの、ちょっと・・・・・・」

声の主は俺の後輩・赤城瀬菜だった。なにやら俯きながら、誰もいない階段の方へ俺を手招きしている。

「おう。どした?何か用か?」
今日の瀬菜はなんだか顔が赤い。そしてやけに周りの人目を気にしている。
うーん、なんつーかその、不覚にも・・・・・・・・・ちょっと可愛い。
べ、別に瀬菜が巨乳+眼鏡だったからじゃねえぞ!?ホントだぞ!?

「先輩。今日はウチの部が休みだってこと、知ってますよね?」
「え!?そうなのか?なんで?」

・・・・・・せっかく、アイツと話すチャンスだと思ったのに。

「なんでって・・・・・・先週部長が言ってたじゃないですか」

へ?部長が?
ああ、言われてみれば・・・・・・




271 名前:『俺たちのすれ違いがこんなにベタなわけがない』[sage] 投稿日:2011/03/07(月) 23:41:19.77 ID:i6qCzY5k0 [5/19]



『どうしてだ!?どうして俺が体育祭の練習なんかに駆り出されなきゃならんのだ!』
『そうですね。部長が練習したって絶対戦力になんかならないのに』
『たとえ一時でも、ファナたんに会う時間を削られるなんて耐えられん・・・・・・・・・』
『まあまあ部長。部長なんかが練習に誘ってもらえただけ奇跡じゃないですか。諦めて参加してきたらどうです?』
『誘われたんじゃない!ありゃ強制だ!徴兵令だ!』
『なに訳のわからないこと言ってるんですか。何にせよ僕らには関係ないんで。とりあえず、ご愁傷様です』
『こうなったらお前らも道連れにしてやる!月曜と火曜は休みだ!更に各々、家に帰ってからもPCでお気に入りのキャラに会う事は禁止する!』



・・・こんな感じの部長と真壁君のやり取りがあったような気がしなくもないな。
部長・・・。そういうの八つ当たりって言うんですよ?わかってます?



「それで・・・あのう・・・・・・先輩にお話したいことがあってですね・・・。放課後、部室に来ていただけませんか?
そんなに長くはお時間いただきませんから・・・・・・」


おどおどした瀬菜の言葉で俺はハッと我に返った。

瀬菜が俺に話?
しかもこのシチュエーション、二人きりでってことか?
でも、放課後は―-


「ああ、えーと、放課後は―-」

いや・・・待てよ。
こう言いかけてから俺は考えた。

1年生のほとんどのクラスは校庭に放課後集まって、ドッヂボールだのソフトボールだのを練習している。
そんでもって今は本番間近だ。
アイツのクラスの女子が練習してるのも見かけたことあるし、きっと今日の放課後も練習するに違いない。
アイツも今日の昼休みは練習に参加したみたいだし、だとしたら普通は流れ的に放課後練にも出るだろう。
それを俺が会いに行って邪魔するのも・・・・・・なんかねえ。
それにそんなに時間かからないって言ってるし・・・・・・ぶっちゃけ、瀬菜が俺に話したい内容も若干気になる。


よーし、整理しよう。
放課後は瀬菜の話を聞いてから、アイツの練習が終わるのを待つ。
そして今度こそ、面と向かって誠意を込めて謝る。
これで決まりだ。
アイツが帰ってきたら「お疲れ」とでも声をかけてやろう。
なんか飲み物でも買って待っててやろうかな。


「・・・わかった。放課後に部室、だな。」
「あ、ありがとうございます!じゃあそういうことで宜しくお願いします!」



俺は瀬菜の頼みを快く了承した。

だがこの時の俺はまだ知らない。
この後、過酷な試練が待ち受けていることを・・・。




272 名前:『俺たちのすれ違いがこんなにベタなわけがない』[sage] 投稿日:2011/03/07(月) 23:42:01.15 ID:i6qCzY5k0 [6/19]

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


・・・・・・少し、言い過ぎてしまったかしら?

で、でも、元はと言えば先輩がいけないのよ!?
素人のくせにマスケラのことで私に意見するなんて。
それに・・・・・・・・・それに、あの程度であんなにムキになることないじゃない!
確かに、私の口が悪かったということもあるのだけれど。



土曜日の早朝。
私はまだ寝ている妹たちにメモを残して一人で秋葉原に行った。
最近はテスト期間だったり、あの子や沙織と予定が合わなかったりしたから、私にとっては久しぶりの秋葉原。
勿論、思う存分堪能してきたわ。
今回の一番の掘り出し物は、限定デザインの漆黒の仮面かしら。その再現度はまさに素晴らしいの一言。
・・・・・・・・・彼がつけたら、とてもよく似合いそうね。

どうして急に秋葉原に行ったのか、ですって?
愚問ね。私は常闇の住人・夜魔の女王よ?
私は私の本能が赴くままに行動するだけ。理由なんて必要ない。
やがて私の魔力によって天は暗黒に染め上げられ、私の忠実な隷属である闇の獣たちによって地上は・・・・・・・・・今日はこの辺でやめておこうかしら。

でも、否定は出来ないわ。
変な意地を張っていて彼に会いたくなかった、という理由もね。


ただ・・・・・・・・・電話に出なかったのは少しやりすぎてしまった。
昼の13時から23時まで、計12回もかけてくれたというのに。
妹の話だとやっぱり家にも来てくれたみたいだし・・・・・・。
それを避けてしまったのは他でもない私自身だけど。


―-明日は、ちゃんと話をしよう。
そう思って私は、深くて高貴なる眠りについた。



しかし日曜日、彼から連絡は来なかった。

こ、こちらから電話をかけてみようかしら?
でも・・・出てもらえなかったら・・・・・・。

もしかして、昨日のことで怒っているのかな・・・?

いいえ、違うわ。きっと勉強しているのね。きっとそうよ。
勿論、私に一切の連絡がないのは残念なことだけれど・・・・・・仕方がないことだわ。彼は受験生だもの。
邪魔をしてはいけない。


一瞬不安に落ち込みそうになった心のバランスを保って、
私はその日、ずっと創作活動に力を入れた。



今日は月曜日。
とても日差しが強い日・・・・・・。永遠の暗闇を寝床とする私にとってはあまりよくない天気だわ。
私達夜の貴族は光に力を吸い取られてしまうのよ。
・・・心なしか身体がだるいような気もするわね。

学校に着くと、校庭からは体育祭の朝練をしている人たちの声が聞こえてくる。
朝早くから御苦労なことだわ。



今日こそは彼と話をしなくては。
土曜日は私のつまらない意地で彼には多大な手間をかけさせてしまったわけだし。
だからその・・・・・・今日はわ、私から会いに行ってあげようかしら?
夜魔の女王である私自らが出向くなんて、こんなことはもう二度としないわ。と、特別よ?


273 名前:『俺たちのすれ違いがこんなにベタなわけがない』[sage] 投稿日:2011/03/07(月) 23:42:50.25 ID:i6qCzY5k0 [7/19]



昼休み。
勇気を出して、3年生の彼の教室に行ってみた。
上級生の教室には独特の威圧感のようなものがあるから、本当はあまり気が進まなかったのだけれど。
私は開け放たれたままになっている扉からおそるおそる中を覗いて、彼の姿を探す。

でも、案の定教室に彼の姿はなかった。
教室にいるのはいかにもぼんやりしていておとなしそうな女子生徒数人と、一人だけ居眠りしてる男子生徒一人。
確か私の教室も同じような風景だった気がするわ・・・。どこのクラスにも似たようなタイプの人間はいるものね。


教室にいないとなると、彼はどこに・・・・・・・・・。


その時、目の前を彼と同じクラスの人たちがサッカーボールを持って通っていった。
・・・読めたわよ。おそらく彼も体育祭の練習に連れ出されたのね?
まったく・・・・・・さすがヘタレ先輩だわ。一時の感情に任せて遊びに行くなんて。
貴方は受験を控えているのでしょう?もう少し強い意志を持ちなさいな。

大勢でスポーツをしている場で先輩の名前を呼ぶなんて私には絶対出来ない。
でも・・・彼のことだから・・・・・・。きっと、私の姿を認めたら駆け寄ってきてくれるわよね?



早速校庭に出て先輩を探した。
この学校の校庭はまあまあの広さだ。
ソフトボール、ドッヂボール、サッカー、・・・・・・。色々な人が色々な種目に勤しんでいる。
あら?あそこで大縄に引っかかったのは田村先輩かしら?
でも、こんなに大勢の人がいるのに、先輩だけが見当たらない。
先輩のクラスの集団の中にも彼はいない。



一体あの人は、私を放っておいてどこをほっつき歩いているの?



そして放課後。

彼が来やしないかと少し教室で待ってみた。
でも、とっくに帰り時間を過ぎているのに彼は来ない。
しびれを切らして彼の教室に行ってみた。
やっぱりいない。



もしかして・・・・・・私を置いて帰っちゃったの・・・・・・・・・?


・・・そうだわ。
あの人のことだから、今日はゲー研が休みだということを聞き逃しているのかもしれない。
先輩はいつも連絡事項を全然聞いていないんだもの。彼は本当にヌケているんだから。
受験生である彼が部室で一人待ちぼうけているなんて滑稽・・・いえ、時間の無駄だわ。
そ、そうね・・・・・・・・・同じ部員として教えてあげるのは、し、自然なことでしょう?

一旦折れそうになった心を再び繋ぎとめて教室を出ようとした時、突然クラスメイトに声をかけられた。


「五更さん。今日の放課後、ウチのクラスの女子でソフトボールの練習しようと思うんだけど、一緒にどう?」
「・・・ごめんなさい。今日は少し頭が重くて・・・・・・。足元がふらふらしているから貴女たちに迷惑をかけてしまうかもしれないわ」

我ながら何の捻りもない、下手すぎる言い訳だったわね。
でも今はそれどころじゃないの。悪く思わないで頂戴。


274 名前:『俺たちのすれ違いがこんなにベタなわけがない』[sage] 投稿日:2011/03/07(月) 23:44:36.80 ID:i6qCzY5k0 [8/19]


部室のドアの近くに行くと、案の定誰もいないはずの部室から声が聞こえてきた。

「・・・かぎ・・・れは・・・・・・えを・・・」

部室の中から聞こえてくるのは間違いなく先輩の声だ。
ようやく見つけたわよ、先輩。やっぱりここにいたのね。
使い魔の分際で主である私にここまで手間をかけさせるなんて、あとで裁きを受けてもらうからそのつもりでいて頂戴。
それにしても、この人は何訳のわからないことを言っているの!?
それと・・・・・・一緒に話しているのは誰かしら?

「高坂先輩、もう少し大きな声ではっきりとお願いします」


瀬菜?


まったく・・・・・・。
いくら連絡がとれないからって、仮にもか、彼女である私を放っておいて他の女と談笑しているなんて・・・・・・。
あの人はどういう神経をしているの?
先輩にはキツいお仕置きが必要のようね。


・・・また少し、からかってみようかしら?

悪戯心半分、話すきっかけを見つけた嬉しさ半分。
私は、彼に対する軽めのからかい文句を考えながら部室のドアノブに手をかけた。



「赤城。俺は・・・俺は・・・・・・・・・俺はお前を愛してる!」
「きゃあああああああああああああ!!!せんぱぁぁぁぁぁぁい!!!!!」

急に中から聞こえてきた大声にビクッとして、思わず手を離してしまう。
勿論わかっている。
私が驚いたのは、声の大きさなんかじゃなくて・・・・・・・・・


「お、おい!声を落とせ!誰か来たら色んな意味で二人ともヤバいだろ!」

色んな意味で?貴方達は男女二人っきりで何をしているの?



「・・・す、すみません。私としたことが取り乱しちゃいました・・・・・・・・・・・・・・・。」

この後瀬菜は声をひそめ始めたから全部は聞き取れなかったけれど、私ははっきり聞いてしまった。



「こ・・・の後・・・・・・じゃな・・・・・・・・・“京介”。・・・・・・が・・・・・・・・・えへへ・・・」

彼女が、『京介』と先輩を名前で呼んでいたのを。
それもかなり熱のこもった口調で。
あの子は、BLのカップリングの話をしている時でさえあんなに色っぽい声色は使わないのに。
そ、それに、わ、私だってまだ彼のことを名前で呼んだことはないのに!


275 名前:『俺たちのすれ違いがこんなにベタなわけがない』[sage] 投稿日:2011/03/07(月) 23:45:30.58 ID:i6qCzY5k0 [9/19]


その後も二人は話し続けている。
小声で内容は全然わからないけれど、心なしか先輩の声も熱を帯びているような・・・。
一体二人は誰もいないはずの部室で何を話しているの?
それにさっきの会話は・・・・・・・・・?
先輩、瀬菜に向かって『愛してる』ってどういうこと?
ドアを開ければわかるのかもしれないけれど、そんな勇気は私にはない。
いつもは平然と出入りしている部室のドアを開けるのが、怖い。


「あっ、あのさぁ~。えーと、お、俺さ!そろそろ、勉強するから帰るわ!わりぃな!」
「ええ~、もう帰っちゃうんですか~?じゃあ、続きは明日にしましょう。明日もよろしくお願いしますね。高坂先輩」

まずい。足音がこっちに向かってくる。
このまま二人と鉢合わせなんて気まず過ぎるわ。
私が慌ててドアから離れようとしたその時-


「な、なあ。このことはさ、その・・・アイツには内密に・・・・・・」
「アイツって・・・・・・五更さんですか?」

不意に自分の名前が聞こえてきて、思わずまた聞き耳を立ててしまう。


「そうだ。お前も知ってると思うが・・・・・・俺とアイツは、つ、付き合ってるんだ」
「ああ・・・・・・・・・ええ、そうでしたね。そんなことは知っています」

今の先輩の発言で、明らかに彼女は機嫌を損ねた様子だ。
どうして?私と先輩が付き合っていると何か不都合なことがあるの?


「だからさ、その・・・俺が・・・・・・その・・・こんなことをやってるってアイツが知ったら・・・・・・・・・」
「・・・わかりました。この件は五更さんには『まだ』内緒にしておきます」

どうして私には内緒にしようとするの?
仲間外れにするつもり?
それとも・・・私には言えないの・・・・・・・・・?


「おい!『まだ』って何だよ!?いずれはバラすってことか!?」
「ええもちろん。五更さんには、二人の禁断の愛の完成版を見せ付けちゃおうかなぁなんて思ってまして。うへへへへ・・・」

もう嫌だ。これ以上二人の会話を聞きたくない。


「わかってねえ!お前全然わかってねえだろ!」

最後に聞いた先輩のこの言葉の直後に、ガチャッと音が聞こえた。

ドアノブに内側から手がかけられたのがわかって、私は急いで駆け出した。
後ろから焦った様子の先輩の声が聞こえたような気がしたけど、そのまま走った。
校門を出るまで、後ろは振り返らなかった。

276 名前:『俺たちのすれ違いがこんなにベタなわけがない』[sage] 投稿日:2011/03/07(月) 23:46:21.10 ID:i6qCzY5k0 [10/19]

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「・・・かぎ・・・れは・・・・・・えを・・・」
「高坂先輩、もう少し大きな声ではっきりとお願いします」

んなこと言ったってな、俺にだって恥じらいってもんがな・・・


「あ、かぎ、お、れは・・・お、お、おまっ」
「先輩!」

怒るなよ!人の気も知らないで!
えーい!!!こ、こうなりゃヤケクソだ!


「赤城。俺は・・・俺は・・・・・・・・・俺はお前を愛してる!」
「きゃあああああああああああああ!!!せんぱぁぁぁぁぁぁい!!!!!」


ぐぁああああああ~!!!!!恥ずかしすぎる~!!!!!!


「お、おい!声を落とせ!誰か来たら色んな意味で二人ともヤバいだろ!」
「・・・す、すみません。私としたことが取り乱しちゃいました・・・・・・・・・・・・・・・。」

慌てて瀬菜は声のトーンを落としたが、その口調からは興奮が一切拭いきれていなかった。


「こ、この後、『“赤城”じゃなくて・・・“浩平”だろ?“京介”。』っていうお兄ちゃんのセリフが入ります。
えへへ・・・ですから次の高坂先輩のセリフは・・・・・・」

なあ瀬菜、頼むから赤城のセリフをそんなにエロティックに言わないでくれ・・・さすがに気持ちわ(ry



ってだあぁぁぁ!!!何なんだこの羞恥プレイは!!!!!



277 名前:『俺たちのすれ違いがこんなにベタなわけがない』[sage] 投稿日:2011/03/07(月) 23:48:02.28 ID:i6qCzY5k0 [11/19]


――話は30分前くらいに遡る。


授業が終わってから、俺は瀬菜との約束通りまっすぐゲー研の部室に行った。
ん?俺に放課後練なんてないぜ?
さっきも言った通り、さすがに3年で放課後練習してるようなクラスはほんの一部だけだ。


「赤城~?いるか?」
「あっ、高坂先輩!わざわざ来ていただいてありがとうございます!」

瀬菜は部室のPCで何かのゲームを起動している。
・・・ってなんだ。またBLゲーか。男二人が半裸で抱き合ってるよ・・・。
あれ?でもなんかこの二人のキャラ、どっかで見たことあるような・・・・・・・・・?
これってまさか・・・・・・・・・・・・・・・いや、どう見ても。


「俺と赤城・・・・・・だよな!?」

確か瀬菜は以前にもゲー研部員をモチーフにしたガチホモゲーを作っていたが、なんか前よりもリアルになってるんだが。


「やっぱりわかりますか?そうです。このキャラは高坂先輩とお兄ちゃんをイメージして作りました。ちなみに、お兄ちゃん×高坂先輩です」

もうなんか嫌な予感しかしねえ。
でも、一応聞かなきゃダメか?


「それで・・・俺に話っていうのは・・・・・・・・・」
「あ、それは・・・・・・その・・・・・・お話っていうかお願いで・・・」

なんかモジモジしてるお前を見てると益々いやな予感がしてきたな。
そしてその予感は見事に的中することとなった。


「そ、その、高坂先輩に、先輩モチーフのキャラの声優をやって欲しいん・・・・・・です」
「ええええええええええ!?」

ちょっと待ってくれ。いつもと雰囲気の違う後輩に呼び出されたと思ったら、
『ガチホモゲーの声優をやってください』だとぉぉぉぉぉぉ!?
とんでもねえ飛び道具だろ!
いや、だがむしろ相手が瀬菜って時点で俺も予測しておくべきだったのかもしれないが・・・。


278 名前:『俺たちのすれ違いがこんなにベタなわけがない』[sage] 投稿日:2011/03/07(月) 23:48:39.28 ID:i6qCzY5k0 [12/19]

「これはサンプルみたいなものなんですけど・・・・・・。
うまくいったら部長と真壁先輩にも協力してもらって・・・本格的に作ってみようかな、なんて考えてまして・・・・・・うへへへ・・・」

完成版計画まであるのか!
しかもお前、腐女子だってことは隠しておきたいんじゃなかったのかよ!?
完全に自滅に向かってるぞ!それともアレか、ついに欲望に負けちまったのか!?


「えっ!?いや、ま、待て待て待て待て!俺にも一応メンツっていうか世間体っていうもんがだな!」

だいたいにして俺が声をあてるってことは赤城もってことだろ?
赤城だってこんなのOKするわけが・・・・・・・・・


「お願いします!お兄ちゃんはいいって言ってくれたから、あとは高坂先輩の声だけなんです!」

ですよねー。赤城が妹からの頼みを断るわけがないか・・・。


「あ・・・・・・いや・・・・・・あ~・・・・・・」

まずい!なんとかして、なんとかして言い訳を探すんだ!俺!


「そ、それにお前さ!今朝、『そんなに長くはお時間いただきませんから』って言ってただろ!
これメチャクチャ時間かかるんじゃないのか!?」
「安心してください。フルボイスにするつもりはありません。重要なシーンだけちょこちょこっと生ボイスを・・・・・・」

瀬菜が慌てて補足を付け加える。
そうか。フルボイスじゃないのか。それなら少しは安心だな。
・・・ってそういう問題じゃねえ!


「いや・・・・・・でも・・・・・・それはさすがにさ・・・・・・」

明らかに戸惑っている(というか嫌がっている)俺の様子を感じ取ったのか、
瀬菜の顔が段々と曇ってきた。


すると突然、

「やっぱりダメ・・・・・・ですか?・・・・・・ううっ・・・・・・・・・ふえっ・・・・・・ひぐっ・・・・・・・・・」
「うおっ!ちょ、待てっ!」

・・・瀬菜の天気予報は曇りのち雨だったようだ。


「お兄ちゃんがぁ・・・せっかく・・・・・・ぅえっ・・・応援ッ・・・してくれたのにッ・・・・・・ううう・・・」
「泣くなって赤城!泣かないでくれ!」

女の子の涙ってなんかズルいよな。
なんかこう、言うこと聞いてあげたくなっちゃうだろ?


瀬菜が相当気合を入れて作ったであろうBLゲー。
自分が協力したのに俺が断ったなんて赤城が知ったら・・・・・・。
しかもそのせいで瀬菜を泣かせたなんて知られたら・・・・・・俺が赤城にガチで殺されかねん!
たとえ命が助かったとしても修羅場は避けられないだろう。
・・・よし、俺も男だ。ココは覚悟を決めるしかねえ!・・・・・・・・・のかよ!?誰か他に方法があるなら教えてくれ!頼むから!
男だからこそやりたくねえんだよ!!!



「わ、わ、わ、わかった!や、やる!やらせてください!だからもう泣き止んでくれ!」

結局、俺は折れた。心の中で一筋の涙が流れたような気がしたのは気のせいじゃないはずだ。


「ほ、ホントですか高坂先輩!?ありがとうございます!!えへへ・・・よかった~」

瀬菜はさっきまでの泣き顔が嘘のようにパッと目を輝かせている。
お前、まさか本当に嘘泣きしてたんじゃねえだろうな?


279 名前:『俺たちのすれ違いがこんなにベタなわけがない』[sage] 投稿日:2011/03/07(月) 23:50:13.37 ID:i6qCzY5k0 [13/19]


・・・とまあ、こうして俺は人生初となるBLゲーのアテレコに挑戦することになったわけだが・・・・・・・・・



「先輩、次はちょっとエッチなシーンのセリフなんですけど・・・・・・うへへ・・・」

瀬菜・・・・・・・・・。耳元でハアハアすんのやめてくれないか?


もうヤだ!とりあえず今日はもうムリ!
よし、どうにかしてこの場から逃げ出さねえと・・・・・・・・・。

「あっ!お、俺さ!そろそろ、勉強するから帰るわ!」
「ええ~、もう帰っちゃうんですか~?じゃあ、続きは明日にしましょう。明日もよろしくお願いしますね。高坂先輩」

はあ~。ようやく解放されたぜ。
ってまた明日だと!?
うう。とりあえず今夜は全力で明日の対策を練ろう。


・・・・・・アイツ、もう練習終わったかな?


・・・・・・・・・ん?
って待った待った!
帰る前にこれだけは絶対言っておかないとダメだろ!?

「な、なあ。このことはさ、その・・・アイツには内密に・・・・・・」
「アイツって・・・・・・五更さんですか?」
「お前も知ってると思うが・・・・・・俺とアイツは、つ、付き合ってるんだ」
「ああ・・・・・・・・・ええ、そうでしたね。そんなことは知っています」

急にそんな機嫌悪そうにすんなよ・・・
悪かったな!俺と赤城のイチャイチャを妄想してる最中に現実に引き戻すようなこと言っちゃってさ!


「だからさ、その・・・俺が・・・・・・その・・・こんなことをやってるってアイツが知ったら・・・・・・・・・」
「・・・わかりました。この件は五更さんにはまだ内緒にしておきます」

ふう・・・・・・。瀬菜、空気読んでくれてありがとよ。・・・って『まだ』だと!?


「おい!『まだ』って何だよ!?いずれはバラすってことか!?」
「ええもちろん。五更さんには、二人の禁断の愛の完成版を見せ付けちゃおうかなぁなんて思ってまして。うへへへへ・・・」

だ、ダメだこの腐女子・・・・・・・・・・・・・・・。

「わかってねえ!お前全然わかってねえだろ!」

もういい!こうなったら何としてでもこのBLゲーの完全版は阻止してやる!
ま、まずはコイツの兄を何とかして味方にしねえと・・・・・・・・・。

悲壮な決意を胸に、俺は部室のドアノブに手をかけた。


すると、それとほぼ同時に、ドアの向こう側で誰かがスタートダッシュした音が聞こえた。

俺は一瞬で自分が冷や汗かき始めたのがわかったね。
どこのどいつだよ!?聞き耳なんて立ててやがったのは!?
お前相当な悪趣味だぞ!?・・・・・・・・今の俺が言えた義理じゃないけどよ・・・orz

俺は急いでドアを開けて、足音が遠ざかっていく方に目を向けた。
盗聴犯はこっちを振り返りもしないで逃げていく。


・・・・・・ってあれ?あの後ろ姿って―


「アレって・・・・・・五更さんですよね?もしかして・・・・・・全部聞かれちゃってたんでしょうか・・・?」

あー。なんかもう冷や汗も引いちゃったよ。うん。



280 名前:『俺たちのすれ違いがこんなにベタなわけがない』[sage] 投稿日:2011/03/07(月) 23:51:48.93 ID:i6qCzY5k0 [14/19]



瀬菜は黒猫に聞かれていたことを気にかけてくれたが、俺は強がって平静を装い一人で帰路についた。

辺りはすっかり夕方。
朝はちょっとだけすがすがしく思った道も、今は全然魅力を感じない。
それは急に蒸し暑くなった気温のせいだけじゃねえ。

やっちまった・・・・・・最悪だ・・・・・・・・・・・・・・・。
ただでさえ喧嘩して向こうは俺を拒否してんのに、人生初となるホモゲーの声優デビューを聞かれちまった・・・・・・・・・・・・・・・。
おまけにわりとガチなテンションの時に。
しかもアイツはBLに結構抵抗あるみたいだし。
こりゃもう全速力で逃げられたのも全然納得できるレベルだ・・・・・・・・・・・・。



家に着いて自分の部屋で寝転んでからも考えることは同じ。

はあ~。
俺は何度目かの大きな溜息をついた。
いや、溜息というよりは唸っていると言ったほうがいいのかもしれない大きさだ。
まさかよりによってこんな形で彼女に愛想つかされるなんて、俺はこれからどうすればいいんだろう?

それによくよく思い出してみれば、そもそもアイツが機嫌悪くなった原因も、俺がマスケラのことで出しゃばったからだったような・・・。
アイツに勧められてDVD漁りだして、ちょっと詳しくなったからって得意げに話合わせようとしたから・・・。
だいたい何で俺は怒って帰っていくアイツを止めなかったんだよ!?
つまんない意地張ってねえで追いかければよかっただろ!!!
結局、こうなったのも全部俺のせいか。もう自分が嫌になってくるな。


ドッドッドッドッド・・・・・・


ん?足音か?


バタン!

「うっさい!何でさっきから溜息ばっかりついてるワケ!?部屋の外まで聞こえてるっつーの!」

突然部屋のドアが開いて妹様が攻め込んできた。

だから毎回毎回ノックくらいしろってんだよ。
それにしても、ドア一枚挟んだくらいじゃ溜息まで聞かれちまうのか。
じゃあやっぱりさっきのも部室の外まで聞こえてる・・・よな・・・・・・

「な・・・何の用だよ?」
「別に。あんたのデカすぎる溜息がうるさかったから文句言いに来ただけ」
「ああ、そうか。そいつは悪かったな」

普段とは違う俺の様子に気がついたのか、意外なことにあの桐乃が食いついてきた。


「それにしてもあんた・・・・・・どうしたのよ?なんか尋常じゃないくらいテンション低いじゃない」

俺はひたすら黙りこくっていた。
こいつに相談しても盛大に爆笑されて終わるだけだ。

「わかった。この間の模試の結果サイアクだったんでしょ?」
「それとも・・・お父さんに殴られるようなことやらかしたとか?」

突然『俺のテンションが低い理由当てクイズ』を始める桐乃。
桐乃よ、確かにその二つは幾度となく経験したことあるけど間違いだぜ。


「黙ってないで何とか言いなさいよ!せ、せっかくこのあたしが話しかけてやってんのよ!?
じゃあ・・・黒いのと喧嘩でもしちゃったとかぁ?」

桐乃がイタズラっぽくにやけながらモロに俺の心の傷口に踏み込んできた。

ああそうだよ!その通りだよ!
おまけに状況は更に悪化しちまったよ!(泣)



281 名前:『俺たちのすれ違いがこんなにベタなわけがない』[sage] 投稿日:2011/03/07(月) 23:53:01.92 ID:i6qCzY5k0 [15/19]


明らかに動揺した俺を見て察したのか、桐乃の表情も少しだけ変わったような気がする。

「えっ・・・もしかして・・・・・・図星・・・なワケ?」
「・・・・・・ああそうだよ。ご名答だ」

「なっ、何で!?も、もしかしてエロ本!?ベッドの下のエロ本がバレたの!?ねえそうなの!?」

コイツ何でこんなにエロ本に食いつくんだ?

「ちげーよ」

そう言うと桐乃は若干安心したかのような素振りを見せた。
一体なんだってんだよ?

「あ、あっそ・・・。そ、それじゃあ、あの邪気眼厨二病に愛想つかされるとかどんだけイタいことしたのよ?」
「・・・・・・・・・・・・。」

そうだよなぁ・・・・・・。
付き合いたての彼氏がホモゲーの吹き替えなんてしてたら、さすがにヒクよなぁ・・・・・・・・・。

「な、何よまた黙り込んじゃって!・・・・・・心当たりあるんだ。キモッ」
「結局お前は何が言いたいんだ?他に用がないなら出てってくれよ」

別にカッコつけるわけじゃないけど、今は一人にして欲しい。

しかし、俺の願いとは裏腹に、桐乃はいきなり中で何かが爆発したかのように一気にまくしたててきた。

「あーもうウザい!
そんなに黒いのと仲直りしたいんだったらウジウジしてないで電話するだの家に行くだの、何でもすりゃいいでしょ!?
と、隣の部屋にそんな死人みたいなのがいたらこっちまでテンション下がってくんのよ!」


・・・そうだ。
あれ以来、俺はまだ黒猫と一回もちゃんと話してない。
ましてや喧嘩のことを謝ってすらいねえ。
例のことだってちゃんと説明すれば・・・・・・・・・。
どんよりするのは面と向かってフラれてからでも遅くはないはずだ。


「桐乃・・・・・・・・・あ、ありがと・・・な。」
「は、はあ?な、何であんたから礼なんて言われなくちゃならないのよ?キモッ!ウザッ!」

妹様はその後もかなりひどい罵声を俺に浴びせながら俺の部屋から出て行った。
どうやら、愛すべき妹達が待っている自室へと帰っていったようだ。


・・・あいつって、何だかんだでいいとこあるよな。
桐乃、ホントにありがとよ。今度なんか奢ってやるからな。


心の中で桐乃への礼を済ませた後、俺は少し緊張しながら携帯電話を取り出した。

今度こそ、黒猫にちゃんと伝えよう。


282 名前:『俺たちのすれ違いがこんなにベタなわけがない』[sage] 投稿日:2011/03/07(月) 23:54:25.28 ID:i6qCzY5k0 [16/19]

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

自然と急ぎ足で家に着いた頃には周りはもう薄暗くなっていた。

少し息切れして帰ってきた私を心配してくれた妹達には、
「体育祭の練習に付き合わされていたの。それに、今日は特別日差しが強かったから魔翌力の消耗が激しかっただけよ」
と、半ば無理にごまかした。
信じてもらえたかどうかはわからないけれど。

そして私は自分の部屋に入って机の椅子に腰掛けると、少しずつさっきの出来事を思い出してみた。


でもあれだけじゃ・・・その・・・・・・だ、断定は出来ないわ!何かの間違いかもしれないじゃない!
そ、そうよ。そんなこと有り得ない。

だって先輩と瀬菜がそんな・・・・・・・・・・・・・・・。


『ねえねえ。リア充になったあんたに、兄貴の秘密教えてあげよっか?』

その時不意に、頭の中にニヤッした彼の妹の声が響いた。

・・・そういえばあの子が言っていた。
先輩のベッドの下にある“お宝”には、『巨乳で眼鏡をかけた女性』ばかりが写っていると。
『両方ともあんたには無縁じゃんww大丈夫なの?wwwwww』
なんてからかわれたことを思い出す。


眼鏡はともかく、きょ、巨乳・・・・・・・・・


ここで私は、頭の中で自分の裸体を思い描いて小さな溜息をつく。
・・・残念ながら、どちらの要素もやはり私にはないものね。

今までは田村先輩にばかり嫉妬していて、瀬菜も条件に十分合致しているということを忘れかけていたわ・・・。
それに・・・・・・。今までの行動から見ても、彼はどうも年下を好んでいる傾向があるような・・・・・・。


私の中で状況がどんどん悪い方に進んでいく。

思い返してみれば、彼は妹の影響で今でこそオタク文化を理解し始めているけれど元々そういうものとは無縁な人間。
その・・・・・・恋人ととまではそんな話はしたくないのかもしれないし、恋人が重度の厨二病だったら嫌悪感を抱くかもしれない。
もしかしたら、私のアニメの話題やアニメキャラの口調にだって今まで無理をして付き合ってくれていたのかもしれない・・・・・・・・・。


で、でも、それを言うなら瀬菜だって―
彼女だって・・・・・・・・・彼女も・・・・・・・・・・・・・・・。

――いいえ、彼女は一応腐っていることを周りには知られないように努力しているのよね・・・。



283 名前:『俺たちのすれ違いがこんなにベタなわけがない』[sage] 投稿日:2011/03/07(月) 23:56:04.78 ID:i6qCzY5k0 [17/19]

~♪♪♪

急に机の上の自分の携帯が鳴り出して、私はビクッと一瞬身を固めた。
この音楽は漆黒のテーマ。
私のお気に入りのBGMの一つ。
そして・・・。


着信:『高坂京介』


そして、彼専用の着信音。

早く出なければ。
これはチャンスよ。
彼から直接聞いてみるのが一番早いはずだわ。
ぐずぐずしていたらまた話す機会を失ってしまうわよ。

・・・でも、電話に出るのが怖い。
勿論、彼がそんな不誠実な真似をするとは思っていない。
彼はただでさえ嘘が下手だし、ましてや悪意のある嘘をつくような人ではないもの。
私は彼を信じたい。いいえ、信じてる。

でも・・・
もしもアレが私の勘違いなんかじゃなかったら?
もしも本当に彼に嫌われてしまっていたら?
もしも私の不安を彼の口から決定付けられてしまったら?
そんなの絶対に厭だ。
これ以上、彼との関係を崩したくない。
新しい情報が入ってくるのが怖い。


私が躊躇しているうちに、漆黒のテーマはぷつりと鳴り止んでしまった。


今度は大きな溜息をついた。
いつもはあれだけ強がれるくせに、自分は肝心な時になんて臆病なんだろう。
しばらくの間机から動く気にはなれなかった。


「ルリ姉ぇ~。ご飯まだぁ?お腹空いちゃったよ~」

妹の声にハッとして時計を見た。
いけない、もうこんな時間―

私は気を持ち直し、慌てて夕食の支度をするために台所へ向かった。


夕食の準備は上の妹も手伝ってくれたので無難に済ませることが出来た。
ありあわせで急遽作った食事だったのだけれど、わりと好評のようね。
下の妹は「ねえさま、とってもおいしいです」なんて言ってお代わりもしてくれた。
慰める、という意味でも自分を少し褒めてあげたいわ。

食事が終わって一気に睡魔に襲われたのか、下の妹がウトウトし始めている。
完全に眠ってしまう前にこの子をお風呂に入れようかと考えたその時、


ピ~ンポ~ン。


突然インターホンが鳴った。

両親が帰ってくる時間にしては早すぎる。
こんな時間に誰かしら?
夜の来客は何となくドキドキするものね。


「・・・・・・はい。」

しかし相手の声を聞くと、私のドキドキは一気に加速した。


「高坂・・・です。」



先・・・・・・輩・・・・・・・・・?



284 名前:『俺たちのすれ違いがこんなにベタなわけがない』[sage] 投稿日:2011/03/07(月) 23:58:15.78 ID:i6qCzY5k0 [18/19]

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


俺は今、五更家の前に来ている。
決死の思いでかけた電話はまたまたスルーされちまって正直へこんだが、俺はさっき決めたんだ。
黒猫にちゃんと伝えよう、ってな。
そう思って気持ちに任せて家を飛び出した。
こんな時間に親に断りもせず勝手に家を出たわけだから、帰ったらパンチを覚悟しなけりゃならんかもしれんが。

とてもいい感じの風が吹いている。
夕方は蒸し暑く感じた気温も、今はむしろ半袖の俺には涼しすぎるくらいだ。
こんな好条件も手伝ってか、自転車をすっ飛ばすと普段は歩いて30分くらいのところを10分くらいで着くことが出来た。
勇気付ける、っていう意味でも自分をちょい褒めてやりたい。

俺は軽く深呼吸した後、インターホンを押した。
初めてこの家に遊びに行った時より緊張してるかもしれない。
―今度は、ちゃんと出てもらえるかな?


ピ~ンポ~ン。


「・・・・・・はい。」
少々の間があった後、応対してきたのは間違いなくアイツの声。

「高坂・・・です。」
自分の中では精一杯無難な感じを装ったつもり。しかし向こうは何も言ってこない。
また応対拒否されるんだろうか?
そう思って俺が若干不安に駆られたその時―


「何の・・・御用かしら」

ようやくだ。ようやく会ってくれた。
見慣れた五更家の玄関から、若干俯きながら黒猫が出てきた。
月明かりに照らされたこいつの黒髪と真っ白な肌はとても綺麗だ。
思わずここに来た目的を忘れて見とれちまってたくらいだよ。

「それで?何の御用かしら、と聞いているのだけれど」

こいつなんか疲れてるのかな?いつもより覇気がなくて声が小さいような・・・。
それとも怒ってるんだろうか・・・?

「お前に・・・・・・話があるんだ」
「・・・だからと言ってこんな遅くに訪ねてくるなんて、私の都合も考えてほしいものだわ」
「いや・・・・・・それは・・・すまん」

こころなしかお得意の嫌味にも勢いがない気がする。

「そ、それで?早く用件を話して頂戴。私だって暇じゃな・・・」

「ごめんっ!」
黒猫の言葉を遮り、俺は勢いよく深々と頭を下げた。
地面しか見えないから相手がどんな顔をしてるのかはわからない。でも続けた。

「全部俺が悪かった!つまんねえ意地張ってお前のこと怒らせて、しかもほったらかしたりしてホントにごめん!」

まだ黒猫は何も言わない。

「でも・・・あれは・・・・・・その・・・き、昨日のは、瀬菜に泣きながら頼まれたから仕方なくっ」
「・・・・・・・・・グスッ」

いきなりすすり泣きが聞こえてきて、今度は俺が言葉を遮られた。
おそるおそる顔を上げて黒猫の方を見ると、なんと涙目になってこっちを見ている。
・・・俺、なんかまずいこと言っちゃったか?


285 名前:『俺たちのすれ違いがこんなにベタなわけがない』[sage] 投稿日:2011/03/07(月) 23:59:37.22 ID:i6qCzY5k0 [19/19]


その時、黒猫が戸惑っている俺の胸に飛び込んできた。
俺の服をギュッと掴みながら完全に泣いてしまっている。
震えている声が何とも切ない。

「・・・・・・・・・私は厭・・・」
「・・・黒猫?」
「あなたが私の元を離れていくのが厭・・・・・・」

俺がお前から離れる?

「わ、わたしは、眼鏡もかけてないし、巨乳でもないけど」
「おい、お前どうしたんだよ?」
「あなたと一緒にいたいの!だから捨てないで!」
「俺がお前を捨てるわけねえだろっ!」

「あなたが気に食わないって言うならコスプレもやめる。アニメの話し方も直すわ。だから・・・。」
「そんなこと俺は思ったことねえよ!俺だってお前とアニメの話すんの何だかんだで結構楽しいし!だからそんな風に言うな!」

俺は思わず大声を出していた。
正直こいつが何でいきなりこんなことを言い出したのかはわからない。
でも、こんなことはもう言ってほしくなかった。


「本・・・当・・・・・・?」

涙を浮かべた顔でおそるおそるこっちの様子を伺う黒猫。
それを見て俺は我慢出来なくなり、黒猫を強く抱きしめて叫んだ。
近所迷惑?知るかそんなもん!


「俺は・・・俺はありのままのお前が好きだ!
すげえ厨二病でイタいことばっか言うし、言い方もキツいけど・・・・・・
でもホントは誰よりも素直で優しくて頑張り屋で!俺や、桐乃のこともめちゃくちゃ大切に思ってくれてる!
俺は!そんなお前が大好きだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


黒猫は一瞬驚いたように固まっていたが、すぐに最高の返事を返してくれた。


「わ、私も・・・・・・・・・。へタレで鈍感でデリカシーの欠片もないけど・・・・・・そんな先輩のことが好き。大好き!」



286 名前:『俺たちのすれ違いがこんなにベタなわけがない』[sage] 投稿日:2011/03/08(火) 00:01:15.94 ID:gs4qd4nG0 [1/5]


街灯に照らされた五更家の真ん前で、俺達はしばらくの間抱き合っていた。
黒猫の体はとても温かくて心地いい。
こいつを抱いてるとすげえ安心出来る。
トータルたった3日くらいとはいえ、空白の時間があったから尚更なんだろうか。

・・・どのくらい時間が経ったんだろう?
なんか1時間くらいこのままでいる気がするけど、こういう時って案外そんなに経ってないんだよな。
我に返って見るとこの状況が急に恥ずかしくなってきた。
後々これは、『思い返すと死ぬほど恥ずかしくなる思い出ベスト3』に入るんじゃないだろうか?
俺は照れ隠しの意味も込めてさっきさり気なく感じた疑問をぶつけてみることにした。

「な、なあ・・・。お、お前さぁ、さっき・・・その・・・巨乳だの眼鏡だの言ってたけど・・・・・・」

いきなり話しかけられてビクッとしていたが、黒猫は俺の胸に埋めていた顔を上げて恥ずかしそうに答える。

「だって・・・あ、貴方の妹が・・・・・・。」
「なっ!?桐乃が!?」


あの野郎・・・・・・。
だからさっきベッドの下のエロ本に異常に食いついてたのか!
もしかしてアイツ、自分のせいで俺らが喧嘩したんじゃないかって気にしてたんじゃ・・・?
ってそりゃねーよな。いやいや、アイツに限ってそんな・・・・・・。
ちなみに同時刻、何故か桐乃が盛大なクシャミをしていたということを俺は知らない。


それからまた俺たちはずっとそのままの体勢から動かずにいたが、しばらくして、

「ね、ねえ先輩・・・。その・・・瀬菜のことは・・・・・・」
何故か少し思いつめた様子で黒猫がこう切り出してきた。

そうだった!そのことすっかり忘れてたぜ。
だがこうなった以上、瀬菜には悪いが・・・・・・。

「あ、ああ。悪かったな。嫌な思いさせちゃって・・・。
俺、アイツにちゃんと言うよ。『やっぱあの約束なかったことにしてくれ』ってさ」

「わ、私も!私も一緒に行くわ!」
「え゛!?な、なんで!?」

何でお前そんなに必死なんだ?

黒猫は消え入りそうな、そしてどこか寂しそうな口調で言った。

「その・・・・・・貴方が彼女とか、関係を持ってしまった責任の一端は、私にもあるのだから・・・・・・」

「い、いやいやいやいや!お前は来なくていいよ!ホモゲーの吹き替えごときでそんな大袈裟な・・・・・・・・・って、え!?関係!?」

「ホ、ホモゲーですって!?」

「・・・・・・・・・え?」

「・・・・・・・・・え?」


287 名前:『俺たちのすれ違いがこんなにベタなわけがない』[sage] 投稿日:2011/03/08(火) 00:04:13.67 ID:gs4qd4nG0 [2/5]


・・・こうして無事に黒猫の多大な勘違いが明らかになった。
全てが上手く繋がって、そのあまりにベタすぎる勘違いに俺は思わず吹き出してしまった。

「えっ、お前そんな風に思ってたのかよ?あっはははははははは・・・」
「な、何が可笑しいというの!?少しはこっちの苦労も考えて頂戴!」

だってさ・・・ホモゲーのアテレコと浮気現場を勘違いしてたなんて、なあ?

「でもよ・・・。だいたいにして真っ先に浮気を疑われるなんて、俺ってそんなに信用がないのか?」
「あ、あれは状況が状況だったし!そ、それに貴方だって!」

必死になって言い訳してるお前も可愛いな。


ニヤニヤしている俺に気がついたのか、黒猫は怪訝そうな顔でこっちを睨んだ。

「先輩。何を余裕ぶっているのかしら?話がこれで落ち着いたと思っているなら、それは大きな過ちだわ。」
「えっ?それってどういう・・・・・・」
「私と正式に主従関係を取り戻したいと願っているなら、条件があるわ。」

なっ、なに!?これでハッピーエンドじゃねえのかよ!?
しかもあえてツッコまんが主従関係だと!?

「目に見えてうろたえているようね。さすが人間風情は甘いわ。それでよく18年もの間生きてこられたものね・・・・・・。」

俺は確かにさっき言ったぜ?『ありのままのお前が好きだ』ってさ。
でもこれは開き直りすぎだろ!?

「条件は・・・・・・。」
「お、おう」
またコイツのことだからとんでもないこと要求してくるんじゃ・・・。


「も、もう絶対に私に隠し事はしないで頂戴。隷属である貴方が、主人である私に隠し事なんて絶対に許さないわ。
これはその・・・・・・“契約”じゃなくて“約束”よ。」

か、か、可愛い・・・・・・。
こいつ・・・その気になりゃあこんなに素直になれるんだな。
よし、そんなら俺だって。

「ああ、わかった。約束する。もうお前に隠し事はしない。じゃあさ・・・俺からも一つお願いしていいか?」
「なっ、何を言っているの!?じ、条件を出しているのは私の方なのに、貴方からなんてっ」

お前こそ『目に見えてうろたえているようね』なんて人のこと言えた義理かよ。


「だって“俺たち”が関係を戻すんだから俺ばっかり言うこと聞くのは不公平だろ?」
「そ、それは・・・・・・そうだけど・・・。」

黒猫は少し悔しそうで、かつ心配そうな表情をしている。
そんな顔しなくても雰囲気ぶち壊すようなことは言わねえって!


「まあまあ落ち着けって。まずは聞くだけ聞いてくれよ。
えーっとさ・・・・・・あ、明日からは毎朝迎えに来てもいいかな?一緒に学校行こうぜ。」
「えっ!?」

俯いていても、こいつの顔が真っ赤になっているのがわかる。
・・・まあ、俺も人のことは言えないんだけどな。


「それで?聞き入れてもらえるのか?女王様?」
「え、ええ・・・・・・・・・いいわ。これで、交渉は成立よ。それじゃあ・・・。」

そう言うと黒猫は、ピンクに染まった頬をしながらゆっくり目を閉じた。


「“約束”の・・・・・・証を示して頂戴・・・・・・」


これは・・・そういうことでいいんだよな?

俺も静かに目を閉じた。
もっとも、心臓の鼓動はかなりうるさかったけどよ。



そうして俺たちは、長い長い“約束の証”を交わした。


288 名前:『俺たちのすれ違いがこんなにベタなわけがない』[sage] 投稿日:2011/03/08(火) 00:06:07.97 ID:gs4qd4nG0 [3/5]

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

昨夜、先輩が家に訪ねて来た時は正直とても驚いた。
同時にとても怖かった。
だから先輩に応対するのは、私の中では勇気を振り絞った行動だった。
心の準備なんて何も出来ていなかったから。
彼の口から私が恐れていた言葉が出てくるんじゃないかって不安だったから。
あの時の私は、事態を最悪な方向にしか考えられなくてネガティブな感情に押し潰されそうになってしまっていた。
そして、気付いたら自分の気持ちを抑えきれなくなっていた。

でも・・・・・・そんな私を彼は優しく抱きしめてくれた。

昨日は改めて彼の気持ちと自分の気持ちを確認することが出来て、とっても安心出来た気がする。


・・・少し、気恥ずかしさもあったのだけれどね。
家に帰った後の妹達のニヤニヤ顔といったら!
それに絶対にあれは近所に丸聞こえだわ・・・・・・・・・。


そして今私は、昨夜の約束通り先輩と一緒に登校している。


その・・・・・・ふ、二人で手を繋ぎながら・・・・・・・・・。


ご、誤解しないで頂戴っ。彼から私に頼んできたのよ。
も、勿論、最初は私は断るつもりだったわ?
公衆の面前でそんなことっ、は、ははは恥ずかしいじゃない!?

でも・・・・・・今の私はとても幸せだ。
顔が緩んでいくのを止めるのに精一杯なくらい。


・・・結局、すべてが私の取り越し苦労だったのよね。
そう考えると何だかドッと疲れてくるし、何だか屈辱的だわ・・・。
だ、だってあんなの完全に単なる私の被害妄想じゃない!
あんなにくだらないことであんなに取り乱していたなんて!は、恥ずかしい・・・。

・・・それにしてもあの魔眼遣い。無邪気で私をここまで狼狽させるなんて恐ろしい相手だわ。
この借りは大きいわよ?覚悟することね。いつか必ず貴女に不幸の星を落としてあげるわ・・・。フフフ・・・。


「高坂せんぱ~い!五更さぁ~ん!」
「げっ!?赤城!?」

丁度その時、瀬菜がこっちに元気よく走ってきた。
先輩、友人の妹相手にビビりすぎよ?
それにしてもなんという絶好のタイミングで現れるのかしら。

「・・・高坂先輩。この間のこと、五更さんは・・・・・・」
「ん?ああ・・・それならもう完璧に大丈夫だぜ!」

私の方をチラチラ見ながら遠慮がちに先輩に耳打ちする彼女に、彼はこっちを振り返ってから心底嬉しそうに答える。

「なーんだ。よかった!それだったら・・・・・・・・・。五更さん。ちょっと高坂先輩をお借りしても?」
「え、ええ。」

この子は本当にまったく無意識のうちに私達二人をあそこまで翻弄したのね。
さすがは魔眼遣い、油断のならない存在・・・・・・・・・。


「って何で逃げようとしてるんですか高坂先輩!今日も収録手伝ってくれるって約束したじゃないですか!?」
「あのなぁ・・・赤城・・・そのことなんだけどよ。悪いんだけど・・・・・・・・・」

先輩は申し訳ないようなホッとしたような調子で、なんとか彼女の御機嫌をとろうとしている。

「あら?手伝ってあげたら?先輩」
「へ?いや、でも」

先輩がさも意外そうな顔でこっちを見た。

「例えどんなに邪な“契約”でも、それを途中で破棄しようとするなんて、貴方のポリシーに反するのではなくて?」
「いや、まあそれはそうだが・・・・・・・・・」


『呆れるほどのお人好し』。
それが彼のいいところでもあるのだから、私に遠慮なんてしてほしくない。
本当は、私だけを見てほしい、という独占欲の塊のような気持ちも少しあるのだけれど。



289 名前:『俺たちのすれ違いがこんなにベタなわけがない』[sage] 投稿日:2011/03/08(火) 00:07:15.09 ID:gs4qd4nG0 [4/5]

「ふふ・・・。これで五更さん公認ですね。さあ、高坂先輩!今日はたっっっくさん喘いでもらいますからね!うへへへ・・・・・・」
「うげえっ!?そんなシーンまで録るのかよ・・・・・・」

・・・でも、この場合は逆効果だったかしら?悪いことをしちゃったわね、先輩。

「先輩、やっぱり私も一緒に行くわ」
「んなっ!?何でお前が来るんだよ!?そのことはもう誤解が解けただろ!?」
「随分とつまらないことを訊くのね先輩。そんなこと決まっているでしょう?」


何故って――


「も、もしかして・・・五更さんもお兄ちゃん×高坂先輩が好きに・・・」
「そ、そんなわけないじゃない!莫迦なことを言うのはそのくらいにしておいて頂戴!」


何故って――


「・・・追い込まれた先輩の醜態に興味があるからよ。ねえ先輩?せいぜい四苦八苦して私を楽しませて頂戴」
「!?五更さんって・・・かなりのSですね・・・・・・・・・」
「クソッ・・・彼氏のホモボイス収録風景見て何が楽しいってんだ!?この、ドS猫!!!」

私の方をいかにも恨めしそうな目つきで見る先輩。
それを見ると思わず自然と笑みがこぼれてしまう。


ねえ、先輩。本当はね。


何故って――

ほんの少しでも、貴方ともっと一緒にいたいからよ。

・・・なんてこと、今の私じゃ絶対に面と向かっては言えないわ。
や、闇の眷属である私は・・・その・・・・・・あ、あまり火照ると影に帰らなければならなくなってしまうのよ。


でも、もう少しだけ待っていて頂戴。
私が、あと少しだけ素直になれるまで・・・。






(終)
ツールボックス

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