グラハム「私の妹がこんなに可愛いわけがないっ!」:1

1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 02:51:21.52 ID:Q5SLxTCE0

 第1話 『私が妹と恋をするわけがないっ!』

彼の乗る蒼いMSは既に金属異性体に侵食されつつあった。
もはや長い時間戦うことは出来ないだろう。それでも彼は阿修羅ように戦場を舞う。
この戦いの先に未来があることを信じて……

「少年!!」
巨大な球体状の金属異性体の本体を前にして、切り札の超大型ビームサーベルを拡散され
次の一手を思案している青と白の機体に届くように彼は言った。

「未来への水先案内人は、この私グラハム・エーカーが引き受けた!」
赤い流星となった彼――グラハム・エーカーと愛機ブレイヴは巨大な球体状の金属異性体の
裂傷に向かって、血反吐を吐きながら、しかし、その顔には笑みを浮かべながら一直線に駆け抜ける。
「これは死ではない!!人類が生き残るための…!!」
そうこれは犬死などでは無い。
きっと少年は彼の押し開けた最後の扉を進み
その手に未来を掴むだろう。

この世界においてのグラハム・エーカーはその人生を一分の後悔無く全うした。
しかし、生と死の交わる狭間、彼の意識はまだ消えてはなかった。

幸か不幸かグラハム・エーカーの物語はまだ終わってはいなかったのである。



5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 02:55:29.54 ID:Q5SLxTCE0

学校からの帰り道。青空が眩しい。
かつての私はあの空を飛び回るフラッグファイターだった。
敢えて言わせて貰おう、私の名は高坂京介……かつてグラハム・エーカーと呼ばれた男であり、ごらんの通り学生だ。
自分で言うのも何だが、こことは違う世界での戦いの記憶を持つ事以外はごく平凡な男子高校生であると断言しよう。
興が乗らなかったため所属している部活は無いし、趣味も特筆する程では無いだろう。
今の私は空を奪われてしまったのだから。我が愛機に匹敵する機体が生まれるのは果たしてこの世界では何時になるか。
だが、そんな日が来るのを待ちながらも、普通の学生とやらの平凡で無難な日々という物も私は謳歌している。
かつては孤児であった私だが、今、この世界においては父と母……そして妹に囲まれて暮らしている。
それなりに裕福で不自由の無い暮らし、物足りなくないと言えばウソになるが、人は順応していくものだ。


「えー!うっそー!?何それキャハハハ!」
学校から帰宅し喉を潤すためリビングに向かった私を出迎えたのは
ソファーに寝転がり電話に夢中になっている我が妹の姿であった。
妹の名は高坂桐乃。年は14になり近所の中学に通っている。
ライトブラウンの顔にピアス、今時の少女とでも言うのか。

「帰宅の挨拶!ただいまという言葉を送らせて貰おう!」
私は礼儀にならい帰宅の挨拶を述べたが、妹からの返事がないどころか一向にこちらを見る気もないようだ。
「ただいまと言った!!」
言っておくが私は挨拶をしている!!

「あーもう……うっさいなぁ……うん、うん、ごめんね。ウチのバカがさ。
 落ち着いて話せないし…うん、これから行くね――」
「何度でも言おう!!ただいまであると」
「……チッ……おかえり……」

妹は3度目の挨拶にしてようやく口を開いた。
フッ、気難しいお姫様だ。



10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 03:11:15.85 ID:Q5SLxTCE0

妹と爽やかな挨拶を交わした事に満足した私は自室のある2階へと歩を進めるべくリビングを出た。
しかし、そこで私はそもそもリビングに行った目的は、妹との対話のためでは無く
この喉を潤すための麦茶を手に入れるためだと言う事を思い出し、再度リビングに戻ろうとした刹那……

「なんとっ!」
「きゃっ!!」
出かけようとリビングから出て来た妹と接触した。
不意をつかれた私と桐乃はその場に倒れ込んだ。
その拍子に桐乃の持っていたバッグから荷物が散らかる。
「あっ……」
「すまなかった。」
私は素直に謝罪の意を述べ、散らかった荷物を拾おうとした。
「さわんないでっ!」
「断るっ!!!」
私は全力で妹の申し出を無視すると
荷物を拾いバッグに詰めていった。
「な、何のよ……」
恨めしそうな目で私を桐乃が見ている。
だが、そんな事は私の知った事ではない!

「………いってきます」
私の手からバッグを奪い取ると桐乃は忌々しげに義務を果たすかのように呟くと
バタンと強く扉を閉めた。
「怖い顔だ」



12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 03:19:41.26 ID:Q5SLxTCE0

ご覧のとおりこれが私と妹との関係だ。

私が『高坂京介』である以上はガンダム以上の難敵と言えるだろう。
直接戦闘が出来ない以上は、私に分が悪いかもしれないな。
自嘲じみた嗤いしか出てこない。
「ん?」
そんな事を考えている私の目に1つの物体が飛び込んだ。
それが落ちていたのは玄関の隅っこ。先ほどは気付かなかったが…

「これはっ!?」
それは恐らくDVD……アニメのパッケージと私は認識した。
しかし、この家には似つかないものだな。 

私はこの家には不似合いなパッケージを拾い上げる。
「ほしくずウィッチメルル。破廉恥だな。」
やたらと扇情的な衣装に身を包んだ桃色の少女に対して私が持った感想はその程度であった。


しかし…我が家で発見されたこの異物……果たして所有者は誰なのか?
私とて人の子だ。謎の異物を目の前にすれば興味も沸こうというものだ。
ガンダムを始めて見た時の高揚感に近いと言えば判って貰えるだろうか



15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 03:30:47.45 ID:Q5SLxTCE0

しばし、私は思案にふける。
父上……いや、彼がこういった物を所有する事は有り得ないだろう。
まさに堅物である父がこういった物を購入するとは思えない。
声だけで言えば持っていてもおかしくないマダオなのだがね。
では母か!……これもまた有り得ない妄想だと言わせて貰おう。
妹……まさにナンセンスだな。

順番に家族の顔を思い浮かべたが我が家でこのアニメを所有しているに足る人物が居ない事に気付く。
思案にくれながら私はケースを開いた。

「なっ!!まさか他にもDVDが有ったとは……聞いていないぞメルルっ!!」」
更なる衝撃が私を襲う。

【妹と恋しよ♪】
結論から言えばこのメルルのDVDケースに収められていたのは
『ほしくず☆ういっちメルル』では無くR18と表記されたゲームであった。
つまりこの所有者は『メルル』と『妹と恋しよ♪』の2本を確実に持っている事になる。
我が家に落ちていた以上は、所有者は私・父・母・妹の4人に間違い無いのだろうが……
果たしてこの2本を持っていて一番違和感が無いのが……

「『魔法の少尉ブラスターマリ』と『ガンダム(少年)と恋しよ♪』ならば確実に私なのだがな」
もちろん冗談だ。



21:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 03:43:07.13 ID:Q5SLxTCE0

考えれば考えるほど判らなくなる。
しかし、既に私の好奇心はこのブツに対して興味以上の物を抱いてしまっている。
ならば、見つけ出さねばなるまい。どのような手段を取ったとしても。

「ここにグラハム・エーカーが宣誓しよう。このゲームの所有者を必ず見つけ出すと!」

その日の夕方。
私が夕食を得るためにリビングに向かうと
玄関の近くに帰って来た桐乃の姿を発見した。
呆然と佇んでいる姿は可憐では有ったが、生気を感じない。

「おかえりなさいだな!桐乃!」
取り敢えず挨拶をしてみるが

「………は?」

まさに阿修羅のような顔で睨まれてしまった。
どうやら我が妹はご機嫌斜めなようだ。
フッ、だがその反応……答えは見えたかもしれないな。
もっとも確証を得るには足りない。
私の信条では無いが、少し策を弄する事も必要だろう。



24:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 04:00:11.82 ID:Q5SLxTCE0

今夜の夕食はカレーであった。
ララァ・スン少尉の好物(?)とは、流石だな母上。

それは置いておいて作戦を始めよう。多少強引な作戦ではあるが
そうでなくては、この件の犯人は口説けまい。
「私は食事が終わった後に、コンビニへと向かうつもりだが、何かあるかね?」
「じゃあ、アイスお願い」
何でもない母上との会話を挟みながら私切り出す。

「そう言えば、頼りになる友であるカタギリが、最近女児向けアニメに嵌っているらしいのだが……」
正確に言えばカタギリが嵌っていたのは、ソレスタルビーイングの戦術予報士と声がそっくりな少女が
出てくる「ふたりはプリなんちゃら」であったが大差はあるまい。その名借りさせて貰うぞカタギリ!!

「その名は……ほしくず☆ういっちメルル!」
「なーに突然」
「非常に面白いと勧められたので気になってね」
「やあだー、そういうのってオタクって言うんでしょ。ほら、テレビとかでやってる。
 そういう事ばっかやってると38歳童貞とかになっちゃうわよー、ねぇ、お父さん」
「ああ、わざわざ自分から悪影響を受けに行く必要もあるまい」

やはり、そういう認識か。だが友の名誉のために言わせて貰うと
カタギリは伴侶を得たようだ。直接祝福出来なかったのは心残りではあるが。
しかし、この様子から推察するに、母も父もシロなのは間違いあるまい。



27:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 04:26:09.90 ID:Q5SLxTCE0

私はそっと横にすわっている桐乃に眼を向ける。
「……………………」
桐乃はきつく唇を噛み締めている。手にした箸が震えているのも確認出来た。

「桐乃…?」
妹の異常に母上が呼びかけるも
「ごちそうさま!」
忌々しげに呟くとバタンと強く扉を締め桐乃はリビングから出て行った。
「どうしたのかしら、あの子」
「フッ、あの年頃の子には良く有ることだと認識している」
「そうかしら…」
どうやら私の戦士の第6感は錆びついてはいなかったようだ。
尻尾は掴ませて貰った。しかし、隠し事の出来ない妹には好意すら抱くよ。

もはや9割9分私の中では答えは出ている。
しかし、100%の確信には至っていない。
ならば、ここで畳み掛けさせて貰おう。

【オペレーション・メルル】

5機のガンダムの降下作戦に準え命名した作戦を私は決行した。
作戦内容は、これを読んでいる諸君には説明するまでもあるまい。
私は敢えて妹に聞こえるように部屋の前で叫んだ

「さてと、コンビニへ……グラハム・エーカー!出る!!」
これでは道化だな。少年ほどの演技の才覚は私には無いようだ。



32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 04:37:54.83 ID:Q5SLxTCE0

家から出ると私は自分の部屋を見上げた。
私は我慢弱い。早く動いてくれる事を所望する。
そんな我慢弱い私であっても、ここまで早く事態が動くとは予想していなかった。
部屋を見上げること数秒、誰もいないはずの私の部屋に明りが点灯したのである。



【オペレーション・メルル】の成功を確信した私は雷すら凌駕する程のスピードで階段を駆け上がる。
そして、勢い良く自分自身の部屋のドアを開ける。

「よもや、こういう形で君に出会おうとはな……」
「……っ………!!」
まさかと思ったが、ここまで素直に動いてくれるとは。
部屋の中心で四つん這いになっていた桐乃は、青ざめた顔で私の方を振り返った。
怯えたように見えるが、その目には私を侮蔑するかのような色が見える。

「感心しないな。君のその行動は」
「……ど、どうだって良いでしょ!」
「感心しないと言った!君が同じことをされたらどう思うか、考えたほうが良い」
「……………」
桐乃は無言で立ち上がると私が背にしている扉の方へ近づいてくる。
怒りのせいかその顔は紅潮し始めている。

「どいて」
「断固拒否する。私の質問に答えて頂くまではな」



35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 05:11:29.37 ID:Q5SLxTCE0

「どいて」
「拒否すると言った。君の捜し物はコレだろう?」

私は懐より『ほしくず☆うぃっメルル』を取り出す。
「そ、それは!」
「当たらんよ!」
何とかソレを取り返そうと物凄い剣幕でつかみ掛ってくる我が妹。
しかし、その程度の機動ではソル・ブレイヴスの精鋭には遠く及ばない!
私は手際よくその攻撃を回避すると、DVDケースを掲げ、逆上している妹に語りかける。

「やはりコレは君の物だったのだな!」
「そんなわけないでしょ!!」
「その言葉ナンセンスだな。君の行動そのものが矛盾している!」

私の言葉を聞いて妹の顔には更に怒りがにじむ
「絶対違う!あたしのじゃない。そ、そんな子供っぽいアニメなんか……あたしが見るわけ……無いでしょ」
なおも必死さを増す妹には憐憫の情を覚えざるを得ない。

「返そう。私はただ所有者に興味が有っただけだ。奪うつもりは無いさ」
「だ、だからあたしのじゃ……」

この後に及んでも否定するか。
ならば彼女には言い訳を与えなければなるまい。



41:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 08:04:07.56 ID:Q5SLxTCE0

「理解した。それでは、この所有者不明のアニメDVDは私が持つに相応しいものでは無い。
 出来る事ならば処分したいのだが……私は我慢弱く面倒が嫌いな男だ!
 君にこのアニメの処分を頼もう。」
「あ、あんた……ん……別に良いけどさ……

私と言えど空気くらい読む時もある。
私が道を開けると、桐乃は入れ替わりに部屋から出て行く。
世話のかかるお姫様だ。しかし、これだけ彼女と会話したのも久方ぶりだ。
『高坂京介』にとっての来るべき対話の日と言うわけか。

「ね、ねぇ」
まだ居たのか。
「やっぱ……おかしいと思う?」
「その言葉の意図が、私には理解出来ない」
「だから……例えばの話……あたしがこういうの持ってたら……おかしいかって聞いてるの」
「人の趣味趣向に貴賎は無いと私は考えている」
「そう……思う?本当に……?」
「ならばここに宣誓しよう。この私、グラハム・エーカーは
 君がどんな趣味・趣向を持っていたとしても、絶対に嘲笑したりしない事を!!」
「何でそんな芝居がかってるのよ……でも……そうなんだ…ふーん…」

私の見事な宣言に安心したのか妹は何度か頷くと
後生大事に「ほしくず☆うぃっちメルル」を打き抱えて自分の部屋に戻っていった。

【オペレーション・メルル】はこうして終わった。
ならば戦士にもしばしの休息が必要である。眠らせて頂く!



47:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 08:24:52.62 ID:Q5SLxTCE0

「少年……ハァハァ……少年が一人……青年のような少年が一人………メタルな少年が一人……フフフ」

パァン!!
最高の夢を見ていた私の頬に衝撃が走った!
「何者っ!!」
深夜の襲撃者に私は飛び起き迎撃体制を取ろうとする。
しかし、そこにいたのは、襲撃者では無く、久方ぶりに長時間の会話をかわした妹であった。

「静かにして……」
「堪忍袋の緒が切れた!!絶対に許さんぞっ!!」
妹の言葉を無視して私は叫んだ。
何故ならば私は、今世紀最高とも言える夢を邪魔されて
不機嫌にならざるを得ないのだから。

「静かにしろって言ってるでしょ……今何時だと思ってんの?」
「その台詞、慎んでお返ししよう」
何度も言うが私には不機嫌になる理由があるのだ。
何時かと言われれば深夜2時を回っている
そのような時間に実の妹とベッドの上で向い合うなどと!
このシーンだけ取り上げればインモラルな関係すら連想出来るだろうが
生憎にも私にはそういう趣味は無い。

「取り敢えず、降りて頂きたいものだな」
私の怒りを殺した言葉に、桐乃はムッとしながらも従った。



57:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 08:50:46.71 ID:Q5SLxTCE0

「それで、これは何のつもりか聞かせて頂こうか」
「は、話が有るからちょっと来て」
「明日にして頂こう!」
私には夢の続きを見るという崇高な使命があるのだ。
子供の遊びには付き合っていられない。
「駄目!」
真剣な顔で妹は私の言葉を拒絶した。
その真剣な眼差し……良いだろう。
ならば、瞳に免じて私は矛を収める事にした。
少年との夢の続きはまた何時でも見ることは出来る。
分かってくれるな少年!今の私に与えられた役目……
いや、宿命はどうやら、この我侭なお姫様をエスコートする事のようだ。
正直言って、叫んだりしたせいで私の目も冴えてしまっている。
しばし、彼女に付き合ってみる事にしよう。

「それで、私はどこに行けばいいのかな?」
「あたしの部屋……」
妹の部屋は私の部屋のすぐ隣にある。
私の記憶が確かならば一昨年、元々あった和室を
中学に上がった彼女のために父がリフォームしたものであったはずだ。
よもや、私が彼女に導き入れられる事になるとは思っていなかったが



67:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 09:26:47.43 ID:Q5SLxTCE0

「入っても良いよ……」
「立ち入りごめんっ!!」
「だから大きな声出さないでってば…!」
多少ではあるが私の部屋よりも広いな。
内装自体は私の部屋とそうは変わらないようだ。
全体的に赤っぽいカラーリングである。違うところと言えばパソコンデスクがある所くらいか。
「あんまジロジロ見ないでよ」
「失礼」
どうやら私の熱視線を見透かされたようだ。

「それで話を聞かせて頂こうか」
私は話題を本題に持ち込む。
「ふう……」
桐乃は一大決心をするかのように息を飲み込んだ。
「さっき言ったよね……あたしがああいうの持ってててもバカにしないって……」



68:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 09:27:17.32 ID:Q5SLxTCE0

「その旨を肯定しよう」
「本当に本当!?絶対にバカにしない!?」
「男の誓いに訂正は無い」
「ウソだったら殺すから」
フ――妹に殺されるような結末は避けたいものだな。
しかし、私の言葉に桐乃は多少安心したようだ。
やがて、すうはぁと深呼吸を何度かすると呟いた。

「…………あるの」
「もう一度いって頂こう」
妹の言葉は残念ながら私の耳には届いていない。
「だ、だから人生相談があるのっ!」
「人生相談……?」
妹からの突然の聞きなれない単語に私は思わず聞き返してしまう。
「そ、そう……人生相談」

『人生相談』
この言葉におとめ座の私はセンチメンタリズムな運命を感じずにはいられない。
そう、まさに私の感じたとおりこの言葉は今後の私を運命づける事となる。



83:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 15:47:13.35 ID:Q5SLxTCE0

桐乃は、意を決したように本棚の前まで歩いて行った。
ガラッ そこから現れたのは本棚の裏の隠し収納スペースであった。
なるほど。元々は和室だった故のカラクリというわけかっ!

「元々和室じゃん……ココ。リフォームした時の名残だと思う。そんでこういう事になってるの」
桐乃は現れた押入れをさらに開く。そこで私が最初に目にしたものは………『妹と恋しよっ♪ 妹めいかぁ EX vol.4』

「更に援軍だとっ!?聞いてないぞ妹めいかぁっ!!」
「あ、それは最初はPS2から出たんだけど、パソコンに移植されてから別シリーズ化されたの。
 名作だけど、ちょっと古いし内容もハードだから初心者にはお勧めしない」
「くっ!まさか私をルーキー扱いとはな……!」
「えっ?だって……あんたまさかプレイした事あるの……?」
「無い!」
「あんたと話となんか疲れるわ……」

またも妹にげんなりとした顔をされてしまった。
だが言わせて貰えば、私も予想以上の事態に疲れている!
もちろん、現れた敵はこれだけでは無かった。押入れからは次から次へと新たなる刺客が登場していく。
さながらELSの大群を連想させる。果てる事の無い敵にどう立ち向かうか……



86:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 16:08:06.66 ID:Q5SLxTCE0

「ちなみにこっちがシリーズ3の「超義妹」、シリーズ2「妹たちとあそぼ」シリーズ9「天元突破十二姉妹」シリーズ16「最終兵器妹」」
テンションの高揚した妹が並べていくR18のゲームはさながらバベルのように積み上がっていく。

「敢えて言おう……何故こんなに箱が大きい!?」
「小さいのもあるよ」

更にDVDケースほどのサイズのR18が登場する。
今度は小型ELSと言うわけか!
「でも、やっぱメインストリームはコッチなのよね、平積みでのインパクトが違うもん」
大は小を兼ねると言うことだろう。

「なるほど理解した。こちらの物は」
私の視線の先にはPCのゲームより更に大きい箱が見られた。
描かれているイラストは……また会ったなメルル!!
「それはDVDBOX!そんでこれがバラでしょ。これが廉価版、こっちが北米版。北米廉価、BD」
妹は嬉しそうに私の説明を求めた箱以外の物も私の目の前に持ち出してくる。

「これは同じものでは無いのかっ!?」
「お布施よ」
「つまり、00ガンダム、00ライザー、00ライザーデザイナーズカラー、00ライザートランザムエディション
 00ライザーGNソードⅢ付属、00ガンダム7ソード/G、00ライザー粒子貯蔵タンク型などと同様と言うわけか」
「な、なんで急にそんな例えを」
ガンダムで解説してくれという天の声に応えたまでだ。
ちなみに私の愛機ブレイヴはHGで好評発売中と言わせて頂く。



91:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 16:31:21.76 ID:Q5SLxTCE0

「しかし、私が訝しく思うのは、こういう物は高いのでは無いかと言う事だ」
特に詳しい知識が有る訳では無いが、そういう物であると言う認識はある。
ちなみに劇場版機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer- COMPLETE EDITION【初回限定生産】は
12月25日に10,500円で発売であると言う事を諸君にも熟知して頂きたい。

「まぁ、割とね。こっちが41,790円でしょ。これは55,000円。そんでこっちは――」
「その値段は高いのではないかっ!?割とでは無いっ!」
「そう?服一着か二着でしょ、これくらい」
「しかしながら、君はまだ学生だ。それだけの資金源……まさか……私は兄として君を全力で止めなければならないようだ!!」
「な、何を勘違いしてるのよ!勝手に暴走するなっ!ギャラよギャラ!」
私の想像とは違った回答が帰ってきた。
ギャラ……それならば問題は無いと判断するべきか?しかし……
「それはどういった理由で出ているのか聞かせて貰いたいものだな」
「あれ?言ってなかったっけ?あたし雑誌のモデルやってるから」

そう言うと桐乃は私に一冊の雑誌を差し出してきた。
私とは縁遠いティーン紙と呼ばれるものだ。なるほど。
これならば私の目に入ることがこれまで無かったのも納得がいくというもの。

「理解した。君は、私の想像すら超越していたようだ」
「大したことないよ……別に……」
どうやら私の褒め言葉でもそれなりに効果はあるようだ。彼女の表情は満更でも無いと断言する。



96:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 17:25:28.20 ID:Q5SLxTCE0

「で、どう?」
「どう…とは?」
「感想!私の趣味を見た」
「感想か……率直に言おう。驚いた」
「そんだけ?」
「誇っても良い。私のこの驚きはガンダムと刃を交えた時に匹敵する」
「何言ってるのか全然判らないし……やっぱりあたしがこういうの持ってるのっておかしいかな……」
なるほど、彼女の人生相談とはつもりこういう事なのだな。
確かに私も想定を超える数の品々を見せられて驚いたのは事実だ。
しかし、だからと言って数時間前に宣誓した言葉を簡単に曲げる私ではない。
「言ったはずだ。私は君がどんな趣味・趣向を持っていても嘲笑したりはしないと……
 自分の力で得た賃金で、自分のための物を買う。その行為を否定出来るものなどはいないさ。」
「そっか……そうだよね。ハハッ、いっつも変な事ばっか言ってるけどたまには良い事言うじゃん!」
失敬だな。私は『変な』と言われるような事を言っているつもりは無い。
何はともあれ、私の言葉に妹は満足してくれたようだ。

しかし、一つの疑問が私の胸の中に残留していた。
この疑問だけは解決しておかなければ、今後の健やかな兄妹生活にも支障をきたすであろう。

「一つだけ問いたい」
「な、何よ……改まって……」
「何故に君は、妹者のR18なゲームばかり持っているのかと言う事だ」
「なんでだと思う……?」
何故か桐乃はそこで頬を赤く染めている。なるほど、理解した。
「その気持ち愛かっ!?」
しかしながら、私は君のその気持ちには応えられない!
私の趣味とは違うものでな!ここははっきりと告げておかなければなるまい。



100:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 18:20:06.59 ID:Q5SLxTCE0

「は、はぁっ!?何言ってるのよキモッ!!!マジでキモいんですけどっ!!」
頬を染めながら桐乃は気持ち悪いと言う旨の言葉を連呼している。
どうやら私の早合点だったようだ。

「まるでピエロだな」
「勝手な妄想したのあんたでしょ!ホントキモい!!」
私自身への自嘲の言葉のつもりだったが、どうやら間違って伝わってしまったようだ。

「何なのよ……ホントに……私がこういうのばっかやるのは……」
そういうと桐乃は私の鼻先に「妹と恋しよっ♪」のパッケージをつきつけてきた。
「このパッケージ見てるとさ……ちょっといいとか思っちゃうでしょ?」
「君の言動が今一つ、私には理解できないのだが」
「だぁかぁらー、すっごく可愛いじゃない?}

理解できないなりに彼女の言動からその真意を推察する。
「つまり……君が言いたいのは、『妹』と言う概念が好きと言うことかっ!?」
「うんっ!」
満面の笑みで頷く我が妹。その顔には誇らしさすら滲ませてる。
「ほんと可愛いんだよ!大抵ギャルゲーだとプレイヤーは男って設定だから
 お兄ちゃんとかおにいとか兄貴とか兄くんとか――その娘の性格やタイプに添って
 『特別な呼び方』でこっちを慕ってくれるのね。それがもう本当……グっとくるんだぁ」
「なるほど」

そういえば最後まで少年は私の事を名前で呼ばず『あの男』と呼んでいたな。
あれが彼からの特別な呼び方というわけか!理解したぞ少年っ!!
ちなみに目の前に居る私の妹は、私の事を「ねぇ」だの「おい」だの呼んでいた気がするが
あれも『特別な呼び方』と理解した。しかし、その棘多少は抜いても良いものだと思うのだがな。



105:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 19:31:17.49 ID:Q5SLxTCE0

「この中だと私はこの娘が一番のお気に入り!」
『妹と恋しよっ♪』のパッケージを見せつけながら妹はそう言った。
「やっぱね黒髪ツインテールじゃないと駄目だと思うの。清楚で大人しい娘ってこう守ってあげたくなると言うか
 ぎゅっと抱きしめてあげたくなると言うか……へへ……良いよねぇ」
君は茶色の髪をしているし、自分で自分を貶めるのは止めた方が良い。
「そうだな。私もMSならば抱きしめたくなるようなMSを所望する」
「は?何で急にMSの話になんのよ」

チィッ、自分のフィールドで話を展開はさせて頂けないと言う事か!
仕方あるまい、もう少々この話には付き合わねばならないようだ

「しかし、解せないのは。何故君がこういったゲームに興味を持ったのかと言う事だ。
 どちらかと言えば、これは男性向けであると判断せざるを得ない。そして言うまでも無く18歳未満には禁止されているものだ
 どういった理由があるのか、私は興味を抱いている」
「そ、それはその……」
ほう、動揺が見て取れるようだぞ!
「わ、わかんないっ!」
「あのね…あのね…自分でもわかんないの……」
恥らいつつそんな事を言う。普段からは想像出来ない姿だと言わざるを得ないだろう。
「しかし、それは君自身の事だ!」
「だ、だって…しょうがないじゃん!ホントにわからないんだから……。何時の間にか好きになってたんだもん……」
フッ、今の気弱な態度ならば君の好きな妹キャラと言っても過言ではないかもしれないな。
「あたしだって……こういうのが普通の女の子趣味じゃないって判ってる……だから今まで隠してたんだもん!
 でも、判ってても好きだからネットでググちゃって体験版とか落としてるうちにあーもう買うしか無いって気持ちになっちゃって!
 この可愛さがあたしを狂わせるの!買わせようと毎日情報を更新する情報サイトが悪いのっ!」
その姿に私はガンダムを日々追いかけていた自分を重ねていた。ガンダムの姿に心惹かれて狂わされていた頃の私。
妹の姿に心惹かれて狂わされている桐乃。似たようなものではないか?何?全然違う?そんな道理!私の無理でこじ開けるっ!!



112:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 21:32:50.13 ID:Q5SLxTCE0

「ねぇ、あたしさ……どうしたら良いと思う。やっぱお父さんとかお母さんにも話した方が良いのかな……」
「その行動を否定するっ!何がなんでも否定するっっ!!それは勇気では無く無謀と言うものだ。違いは弁えた方が良い」
「そっか……そうだよね……じゃ、やめとく」
「それが懸命だ。特に父上にはバレ無い方が良いだろう」

堅物な親父殿のことだ。この光景を見た際には、阿修羅が降臨するだろう。

「やっぱ……拙いよね……バレたら……」
「それは肯定しよう。……そして私としてもその展開は見たくは無い
 故にここに君に協力することを宣言しよう」
「きょ、協力……?いいの……?」
「言ったはずだ。男の言葉に訂正は無いと
 何か有ったら、私を頼るが良い。どんな問題も私の無理でこじ開けて見せるさ」
「逆に不安なんですけど……マジで……」

私の心強い言葉で何故か不安そうな顔をする妹。
どうやら照れているようだ。フッ、隠そうとしても無駄な事だ。
しかし、もう少し素直に感情を表現しても良いものだと思うのだがな。
久しぶりに話した「兄」に対してはこれが限界という事だろうか

「遠慮する事は無い!」
「うん……まぁ……気持ちだけは受け取っておくわ」

何故かやや引き気味な妹を部屋に残して私は部屋に戻る事にした。
妹の不安も取り除いた。これにて取り敢えずの人生相談は完了だろう。
フッ……ガンダムを相手にするのと同様にままらない相手だが
たまにはこうして付き合うのも悪くは無いだろう。それでは今度こそ私は寝るッ!



119:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 22:12:21.44 ID:Q5SLxTCE0

「……フラッグ……ガンダム……スサノオ……ブレイヴ……お前達が私の翼だ……」


パァン!

「なんとっ!!」
本日2度目の頬への衝撃で私は再び甘美な夢から現実に引き戻される。
そこに居たのは数時間前と全く同じ構図で私を見下ろす妹であった。
「人生相談……つづき」

どこまでも私の安眠を妨げてくれる。
しかし、つい先ほど私は宣言してしまっている。
私を頼れと。仕方あるまい。男の言葉は簡単には曲げられはしないものなのだから。

【GN妹と恋しよっ♪】
今、私の目の前のパソコン画面にはそう表示されている。
この手のゲームは初めてだが……上手くやってみせるさ。

 グラハム「うわっ……し、しおり……」
 私のベッドですやすや眠るしおりを、私は…

  1.抱きしめたいなしおりッ!!!
  2.起こさぬように、君の服の一部でも貰っていくっ!
ニア3.問答無用!!切捨て御免ッ!!! ピッ

 グラハム「ここで何をやっている!切捨て御免ッ!!」

ドガッッ!!
「何やってるのよあんた!!」



125:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 22:35:08.33 ID:Q5SLxTCE0

横からの突如の攻撃に私の反応が間に合わないとはっ!
ゲームをしている間に不意打ちとは卑怯だぞ桐乃ッ!!
「そういう君こそ何をしてくれるっ!」
「信じられない!無邪気に寝てる可愛い妹をぶった切ろうとするなんて!」
「その言葉!甘美な夢から私を覚醒させた君にそっくりお返しするッ!!」

しおり「ごめんね ごめんね お兄ちゃん」

ゲーム画面からは先ほど私が切り捨てようとした妹の謝罪が聞こえてくる。
「ほら!しおりちゃん謝っちゃってるじゃない!可哀想だとは思わないの!」
「先手必勝!まずは私の存在を心に刻む必要があった!」
「ま、また分けわかんない事を~~~!もう!さっさとマウス持ってつづき!」

倒れた椅子を起こしながら私は疑問を妹にぶつける
「ところで、何故私がこのゲームをプレイする必要があるのか問いたい」
「はぁ!?遠慮するなって言ったじゃん!」
迂闊な言葉だったか……あれは私としては秘密がバレないようにという意味だったのだが
このような受け取り方をされるなどとは……やはり一筋縄ではいかないようだな。



126: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/23(木) 22:39:05.37 ID:Q5SLxTCE0

「必要なことなの!私はこのゲームの客観的な感想が欲しいの!」
個人的には中々選択肢は好みだったと言わざるを得ないだろう。
「しかし、そういうのは私ではなく、友に聞くべきと思うのだがな」
「良いから!さっさとつづき」
「良いだろう!ならば!今日の私はエロゲすら凌駕する存在だッッ!!」


この後、そういったシーンが出てきたので素直に私が感想を述べると
我が妹は真っ赤になってノートPCと一緒に私を部屋の外に放逐した。
「これ宿題だからね!!ちゃんとコンプしておいてよ!」

運命の女神は私に随分と面倒な宿題を出してくれたものだな。
私の『高坂京介』としてのミッションはまだ始まったばかりのようだ。



第1話完

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最終更新:2011年03月08日 13:19
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