俺の妹が身長180cmなわけがない:第一話

2 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage] 投稿日:2011/01/12(水) 22:51:42.86 ID:KZdJ5BByo [2/20]
容姿端麗、成績優秀、有名なお嬢様学校に通う自慢の妹、それが沙織だ――
だがこいつには、他人には言えない秘密があった。

深夜、突然の平手打ちで起こされた俺は、暗闇の中、馬乗りになっている沙織の姿に驚いた。

「お兄さま、お話があるので沙織の部屋までお越しください」ノシッ
「がっ…はっ…!お前……重い…苦しい!」



妹がふすまを開けると、ツンとシンナーの匂いが鼻につく。
あれ?なにこの匂い。まさかやばいものに手を出してるんじゃないよね?

「さきほどまでエアブラシを使って塗装していたものですから…これは溶剤の匂いです」

エアブラシ?溶剤?なんのこっちゃ?
妹の部屋で見せられたのは、大量のプラモデルとガンダムグッズの山だった。

「お前、ガンヲタだったのかよ」
「そうなのです、キャスバル兄さん」
「……誰がキャスバル兄さんだ」

ぼとっ

「ん?なんか落ちたぞ?」

俺は転がり落ちたDVDケースを手に取った。

「ガンダム……ゼロゼロ?」
「ダブルオーです!」

うお!?いきなり大声だすんじゃない!

「それは一番最近放映されたTVシリーズですね。劇場版ありきのエンディングですが、
戦闘シーンもSEEDに比べてヌルヌル動きますし初心者が初めて見るにはにはおススメです」

なんだ初心者って。おまえはプロか?プロなのか?

「SEEDといえば世間では駄作と言われていますが……モデラー的には、いわゆる種ポーズを生み出した良作なのです。お手軽でかっこいいポーズといえば今まではカトキ立ち等がありましたが、あれでは物足りないと思うような方が……」

だ、誰か通訳を用意してくれ……。

それにしても押し入れの中は見事にガンダムグッズだらけだ。
あのヘルメットと仮面とか何に使うの?

「こっちの……これらは何なんだ?」
「それはDVDボックスですわ。こちらにあるのは全て特製ボックス仕様です」
「DVDボックス?特製ボックス仕様?」

3 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage] 投稿日:2011/01/12(水) 22:52:14.81 ID:KZdJ5BByo [3/20]
情けないがオウム返しに問い返すのが精一杯だ。

「そうですわ。本編に修正を加えたり、ボーナスディスク等が付属するんです。ふふふ、すごいでしょう?」
「その、ガンダム00とかも?」
「はい」

沙織のテンションは何故か上昇気味だった。

「こういうのって……結構高いんじゃねえの?」
「ええ、そうですわね。こちらが41,790円、これは55,000円。あ、プラモの方はお安くなってまして、最高でも20,000円くらいですわ」
「たっけえええええええ!」

どっからそんな金が出てくんの!?
中学生だろおまえ!なんで15歳にしてそんなに金もってんだよ!?

「それは……涙なしには語れないのですが……」
「え?」

やべ。この質問、もしかしたら地雷かもしれない。答え聞くのがすげー怖い。
いや、こいつに限ってそれはないだろうけど……。

「完成したガンプラをオクに出品していますの。もちろんお気に入りは手元に残しておきますが、置いておけるスペースがこの押し入れしかありませんので」
「え?あ、あぁ、確かにかさばりそうだもんな……」

押し入れ内のプラモ達は皆それぞれにアクションポーズをとっている。
……直立させておけばもっとスペースとか稼げるんじゃないの?
っていうか、そもそも作った後のプラモとか売れるの?
よくわからないけどプラモって自分で作るのが楽しいんじゃないのか?

「完成度の高いものはオクでも盛んに取引されます。住環境から塗装ができない、これだけのものを作る時間や腕前がない方等が買っていかれるんですよ?……できることなら手放したくはないのですけれど」

さりげなく自分の作品の完成度が高いと自慢している……。
沙織ってこんな性格だったっけ?

「だ、だいたいいくらくらいで売れるんだ?」
「そうですね元のキットにもよりますけど、マスターグレードならだいたい数万円くらいでしょうか?」
「嘘だろ!?」

なんでそんな高く売れるんだよ!
あれか?それだけこいつの作ったガンプラの完成度がやばいってことなのか?
……まじか。ほとんどプロじゃねえか。

はぁ……。俺は一息ついて気を取り直してから、こう言った。

「ところでさ、なんでおまえこんなにガンプラグッズ集めてんの?」
「……………………………」

お、おい……なぜそこで黙る?

4 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage] 投稿日:2011/01/12(水) 22:52:41.37 ID:KZdJ5BByo [4/20]
「……なぜだと思いますか?」
「さ、さぁ……なんでなんだろうな?」

ま、待て待て。なぜそこでうっとり頬を染める!?
なぜ四つん這いで這い寄ってくる!?

「なぜお逃げに?」
「に、逃げてねえよ」
「うそ、逃げてるじゃありませんか」
「それはおまえが……あ」

し、しまった。背中が壁にはりついてしまい、これ以上逃げられない。
俺を壁際に追い詰めた沙織は四つん這いで俺に覆いかぶさるようにして――
俺の鼻先にDVDを押し付けた。

「は?」
「このパッケージを見ていると、こう……胸の奥から何かこみあげてきませんか?」
「な、何言ってんのおまえ?」
「だからですね……すっごくかっこいいと思いませんか?この百式とかガブスレイとか!いえ、サザビーも捨てがたいですけれど!!最近のだとマスラオなんかも!!」
「な、なるほど」

要はあれか。こいつはガンダムが大好きで色んなグッズを集めてるってことか。
いや、集めてるのがガンダムグッズでよかったぜ。
妹もののエロゲを集めてるとかじゃなくてさ。

「わ、私はどうしたらいいのでしょうか?」

いつのまにか沙織はペタンと座り込んでいて目に涙を浮かべている。

「自分の趣味が普通の女の子とかけ離れているのはわかってるんです」

そりゃそうだろうな。まぁ、中にはそんな子もいるかもしれないけどさ。

「や、やっぱりお父様やお母様に話した方がいいのでしょうか?」
「駄目に決まって!……なくはないな。だって別に18禁のとかを持ってるわけじゃないんだろ?」
「はい、同人では18禁の本もあったりしますけど、私はそういうのには興味がありませんから……」
「じゃあ問題ないんじゃねぇかな?」

むしろ今まで何で親にまで隠してたんだ?

「そ、そうですわね。では今度の日曜日、お父様とお母様に話してみます!」
「おう、頑張れよ」

両親の許しが貰えればプラモを部屋の中にも飾れるし、飾れるスペースも増えるってもんだ。
その分沙織の収入は減るのかもしれないがそこまでは面倒見きれない。
俺にできるのは、こいつの友達が遊びに来たとき、

『あれはお兄様の趣味でお兄様の部屋に入り切らない分をここに飾ってるんです』

という言い訳を用意してやるくらいだ。

5 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage] 投稿日:2011/01/12(水) 22:53:14.37 ID:KZdJ5BByo [5/20]
「ではお兄様、本日の人生相談の締めとして『この気持ちまさしく愛だ!』と叫んで下さい」
「……おまえ一体何言い出してんの?」
「お気に召しませんか?『今日の私は阿修羅すら凌駕する存在だ!』でも構いませんよ?」
「いや、そういうことじゃなくてね」

結局、この後、俺は沙織のガンダム談義に付き合わされることになった。
それにしても……こんなに夢中になれるものがあるなんて、少し羨ましいよ。



きたる日曜日の夕方、俺が図書館から帰宅すると家の中が異様に静まりかえっていた。
テレビの音も話し声も、物音すらしない。……不自然すぎる。

「……ただ……いま……?」

リビングの中に入ると沙織と親父がテーブルを挟んでソファに座り対峙していた。
親父は超無表情なので何を考えているかまったく分からないが、沙織はガチガチに固くなって、しょんぼり項垂れているようだった。

あれ?何この状況?なんで沙織が怒られてるみたいな状況になってんの?
品行方正、容姿端麗で成績優秀、さらに御近所様にも受けが良い沙織が怒られてるとこなんて初めて見たぞ。

「京介、ちょっと、京介……」

扉を開けた状態で固まっている俺にお袋が声をかけてきた。
振り返ると、袖を掴んで引っ張られる。

「あんたは部屋に戻ってなさい」
「その……なにがあったんだ?」

お袋から帰ってきた返事は意外なものだった。

「私もよくわからないんだけど……なんでもシンナーがどうとか……」
「はぁ?」

シンナー?あいつが?
そういえば、最近その匂いをどこかで嗅いだような……。

「あ」

沙織がふすまを開けた時の匂いだ。確かあの時、俺はシンナーみたいな匂いだなと思ったんだっけ。

ここまで分かれば後は想像がつく。
親父に趣味のことを話した沙織。しかしそこにはシンナーの匂いが充満していて……
あとは親父のことだ。問答無用で説教モードだろう。
まぁ、警官の娘がシンナー吸ってるとなっちゃ洒落にもならんし、親父の気持ちもわからんでもないけどな。

「京介、あたしちょっとお酒買ってくるからあんたは部屋に戻ってなさいね」
「へいへい。…………ふぅ、どうなることやら」


6 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage] 投稿日:2011/01/12(水) 22:54:03.51 ID:KZdJ5BByo [6/20]
「さ、沙織……?」
「どいてください!」
「ちょ、待てって!」

バタン!

「ぶへっ!」

思いっきり顔面をドアに挟んじまう俺。
ふらつきながら外に出た時にはもう妹の姿は見えなくなっていた。

「くそっ!」

ぶんぶんとかぶりを振って気を取り直し、夕焼けの中、妹を探して当て所もなく駆け出す。

「くそっ、どこ行ったんだあいつは……」

闇雲に街を走り回ってみるがまったく見つからない。
美麗な上にやたらとでかくて目立つ妹の姿は、どこにもない。

「さっきのやたらでかい女の子すごかったな。30連勝だってよ」
「しかも大半パーフェクトだろ?とんでもねえな」

やたら……でかい……だと?

「ちょ、ちょっとその話詳しく教えて下さい!」



教えてもらったゲーセンに辿り着くと、対戦型ゲームの筐体に座った沙織が対戦相手をぼこぼこにしていた。
もちろんゲームでだぞ!
まるで相手の行動が全てわかっているような動きだ。おまえは超能力者か何かか?

「こら、何やってるんだ」
「お、お兄様!?」

俺の声に反応し、バッとこちらを振り向く沙織。
しかし、ゲームを操作する腕は止まらず、そのまま相手のロボットを爆散させる。
お、おまえ……エスパーか?

「と、とりあえず場所変えようぜ。おまえ目立ちすぎだろ」

実は俺が到着した時点で既にギャラリーに囲まれていて、声をかけるのも一苦労だったくらいだ。

7 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage] 投稿日:2011/01/12(水) 22:54:45.17 ID:KZdJ5BByo [7/20]



俺達は近くのスタバへと場所を変えた。
初夏とはいえそろそろ暗くなってくる時間。
客入りはそこそこで、大学生風のにーちゃんや、仕事帰りのサラリーマンがメインの客層。
そんな中、俺達はどう見えているのだろうか。
沙織は怒りのオーラを纏って、充血した目でずーっと俺を見ている。
やっぱりどう見ても、年上の彼女に浮気がばれて修羅場中のカップルだよな。

「なぁ、沙織。おまえはこれからどうするんだ?」
「……分かりません………………どうしたらいいと思いますか?」

沙織は悲しげな顔をしてコーヒーを一口飲みそう呟いた。

「そうだな……その前におまえに確認しておきたいことがある」
「なんでしょうか?」
「親父になんて言われたんだ?けっこう話し込んでたみたいだったけどよ」

俺の問いを聞いた瞬間。沙織は顔を真っ赤に染めて、全身をぶるぶると震わせ始めた。
片手で胸を押さえ、もう片手はテーブルの上で固く握りしめている。

「…………って言われたんです」
「な、なに?」

あまりにか細い声だったので聴き取ることができず問い返す。

「塗装は駄目だって言われたんです!」
「……………………え?」

沙織の言うことが理解できず、思わず、まばたきを高速で連射する。
え?なにが駄目だって?塗装?

「お、おまえのコレクションを捨てろって話じゃないの?」
「え?違いますけれど……なんて恐ろしい事を言うんですか、お兄様」

え、だっておまえ……今にも泣きそうな顔して飛び出してったじゃねえか。
俺はてっきりシンナー吸ってたと誤解されたとか、コレクション全部廃棄とかそういう話だと思ってたんだけど?

それが……なにこれ?モデラーにとって塗装ってそんなに大事なものなの?
っていうか親父も塗装くらい許してやれよ。
そもそも、なんでピンポイントに塗装だけが駄目なんだよ。わけわかんねえ。

「おまえ……そんな理由で飛び出したの?」
「そんな理由とはなんですか!?お兄様もモデラーを馬鹿にしてるんですね!?」
「し、してねえよ!落ち着け!!……おまえにとって塗装ってそんなに大事なもんなのか?」
「はい……」


8 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage] 投稿日:2011/01/12(水) 22:56:07.49 ID:KZdJ5BByo [8/20]
そっか。そうなのか。
相変わらず俺にはよくわからないけどさ、おまえにとってそれは泣いちまうほど大事なもんなんだな?
それだけは……俺にもわかったよ。

「沙織――俺に任せろ」



30分後俺はリビングの扉の前に立っていた。

「お、親父……話がある」
「沙織は見つかったのか?」
「ああ……話、してきたよ、あいつと」
「それで?」

俺に一瞥もくれずに、促してくる親父。
怒りが熟成されたせいか、元からの極道ヅラがさらにやばいことになっている。
く……この時点で超怖いがここで引くわけにはいかない。

「沙織の趣味を……認めてやって欲しい。親父は盛大な誤解をしてるんだ」
「誤解だと?……言ってみろ。話だけは聞いてやる」

ひいっ……お、恐ろしい。
威勢のいい口叩いたはいいけど言った本人はマジ泣き入ってるぜ。

「親父はあいつがシンナーでもやってんのかと勘違いしてんだろうが、そうじゃねえんだよ!
あれは溶剤の匂いで……確かにシンナーも成分としては入ってるが、あくまでもただの塗料で、親父が想像してるようなもんじゃねえんだ!」
「そんなことか……そんなものはよく知っている」
「え?」

あ、あれ?なんで知ってんの?
あ、ひょっとして沙織が説得してる時に話したとかかな?

「おまえは知らんかもしれんがな、あの匂いは本物のシンナーなど比べものにならん中毒性があるのだ。最初は窓を開けるなど換気に注意していても、気づけば自ら閉め切って塗装するようになる。娘をそのような奴にするわけにはいかん」

……なんでそんなに実感こもってんだよ。

「い、いや、だとしても全部駄目だってのはおかしいだろ!その匂いが発生しないやり方だってあるはずだ!!」
「……確かに方法がないこともない。水性塗料や筆塗りであればその匂いも比較的少ない。だがな、一度エアブラシに手を出したものはそれでは満足できんのだ」

親父超詳しいな!まるで自分のことみたいじゃねえか!

「そんなの窓開けてりゃいいだけだろうが!沙織が心配ってんなら俺が換気してるか責任もって確認するからさ!」
「単に窓を開けていればいいという話ではない。近隣の方たちへの迷惑も考えろ。それがしつけというものだ」

く……埒があかねえ。それに親父の言うこともたしかに正論っぽい。
だがな、俺はここで諦めるわけにはいかない。沙織に言ったんだよ、俺に任せろってな。


9 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage] 投稿日:2011/01/12(水) 22:57:17.61 ID:KZdJ5BByo [9/20]
そんな道理、俺の無理でこじ開けてやる!!

「よく聞けよ親父!あいつは家を飛び出して泣いてたんだ!……もちろん俺にゃあ、あいつの趣味はサッパリ理解できねえよ。できねえけど!夢中になるのってそんなに悪い事かよ!?そういうのってさ、大事なもんじゃねえのかよ!そんな簡単に捨てていいもんじゃねえだろ!いいか……!これでもあいつの趣味を認めねえってんほざくんなら……!沙織の代わりに俺が親父をぶっ飛ばすぜ!?」

親父は厳然と俺を見据えたまま、ほんのわずかに……目を見開いたようだった。
やがて感情をまじえない声で、こう返事が来た。

「…………おまえの言いたいことはわかった」
「ほ、本当か!?」
「同じことを言わせるな。だが、おまえにも協力してもらうぞ」
「え?」



「こ、これは塗装ブースではありませんか!」
「親父がこれ使えってよ。おまえが自分の部屋で、これ使って作業する分には許してくれるそうだ」

でも、なんでうちの親父はこんなのをすんなり用意できるんだ?

「ありがとうございますお兄様!あぁ、これで匂いを気にせず塗装ができるのですね!」

あまりの嬉しさに小躍りして喜ぶ沙織。

「はは、よかったな。後で親父にもお礼言っとけよ」
「はい!ふふふ、それでは早速塗装を始めるといたしましょう!」

まるで子供みたいだな。あんなに喜んじまって――
いやいや……みたいじゃなくて。沙織はまだ15歳じゃねえか。
あんだけ背が高いとついつい忘れがちになっちまうな。

「でも、この排気口……どこに繋がっているのでしょう?」
「……さあな。とりあえず家の外だろ」
「それもそうですね。あれ?お兄様はおでかけですか?」
「あぁ、近所のホームセンターまで――」

ちょっと消臭力買いに行ってくる。



第一話おわり

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最終更新:2011年03月22日 19:11
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