俺の妹が身長180cmなわけがない:第三話

17 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/12(水) 23:06:54.53 ID:KZdJ5BByo [17/20]
とある日曜日の朝。
俺は数年ぶりに麻奈実を連れて自宅までやって来た。
スーパーで待ち合わせて買い物をしてきたので二人とも手には買い物袋を提げている。
今日は両親が出掛けるため、麻奈実がメシを作りに来てくれることになっていたのだ。

「よし、あがれよ」
「お、お邪魔しま~す」

と、俺たちが靴を脱いで玄関に上がったところで――

ばったり沙織と出くわした。

「あら……」
「あ……」

リビングから出てきた沙織と、玄関に上がったばかりの麻奈実の眼がぴたり、と合う。
両者とも、いや、俺も含めた三人ともがぽかん口を開けて、目を丸くしている。
そりゃそうなるよ。沙織の恰好が、例のオタクファッションだったんだからな!
こ、これはまずいぜ……今の沙織はどこからどうみても変な子だ。
ど、どうなるんだこれ? 俺は自分が招いてしまった展開に恐れをなしたが、

「あ、沙織ちゃん……だよね? こんにちは。雰囲気変わったね~」

一方、空気を読めない麻奈実は、ぱたぱた手をふり、とても友好的にあいさつをした。

「久しぶりだね。私のこと覚えてる? 昔はよく……」
「ひっ……」

沙織は、何かに怯えたような声を出したかと思うと、俺の襟首を引っ掴み、

「ちょっとこちらへ」
「ぐえ。んだ……お、おいっ」

俺は、妹に引っ張られるがまま麻奈実から引き離され、リビングの中に引きずり込まれてしまう。
ぐいぐいぐい――バタン! 沙織の手によりリビングの扉が閉まる。

「ど、どういうことでござる!? な、なんであの人が家に!?」
「……いや……俺が呼んだから……だけど……」
「聞いておりませんぞ!」
「そりゃ……言ってねーし」
「と、とにかく今日はまずいのです! 今はひとまずお引き取りを願いたい!!」
「そんなわけにいくか。ちょ、落ち着けって――」

俺は妹の勢いを押し止めるように片手を突き出し距離を取る。

「なんだってんだよ。……なに? ひょっとしておまえ、麻奈実が嫌いなの?」
「そうではありません! ですがこのままでは――」


18 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/12(水) 23:07:31.65 ID:KZdJ5BByo [18/20]
ピンポーン。

唐突に鳴るインターホン。
ここに来てようやく気付いた。あぁ、沙織が焦ってたのは、ひょっとして“あいつら”が来るからなのか。沙織もあいつらと会うとき用の恰好だしな。
こんな簡単なこと、なんでもっと早く気付かなかったんだ。
恐らく沙織が異常に慌てていたせいだ。こいつがこんなに取り乱す所、久しぶりに見た気がする。

だが、仮にそうだとすると、どうしてもわからない疑問が湧いてくる。

「……あぁ…………もう手遅れ…………でござる」

全てを諦めたのか、がっくりと項垂れる沙織。
いったい何がそんなにまずいんだ? あいつらと麻奈実を会わせちゃいけない理由でもあるの?

ピンポーン。少し間を置いて再びチャイムが鳴った。

「あ、あのぉ……? お客さんだよぉ~……?」

かちゃり、と音を立ててリビングの扉が開き麻奈実が顔を覗かせた。
えらく控えめに開けたところを見ると、俺たちが喧嘩でもしていると勘違いしていたのだろうか。

「お、おう。すぐ出るよ」
「あ! お兄様! せめて麻奈実さんをどこか――」

後ろから俺を呼びとめる声が聞こえたが、それを振りきり玄関へ向かう。
あいつらをこれ以上待たせたらどうなるかわかったもんじゃねえからな。

「悪い、待たせたな。いらっしゃい」
「ふん、出て来るの遅すぎ。ちゃんと玄関で待っとけっての」
「ふ……危なかったわね。出て来るのが後少し遅ければ――今頃この家は灰と化していたわ」

ほらな。すぐに出てきてよかったろ?

「ま、まぁとにかく上がれよ。沙織の部屋で待っててくれ。沙織もすぐ行くから」

そして俺は、桐乃と黒猫を我が家へと招き入れたのだが――

「あ、沙織ちゃんのお友達かな? きょうちゃんの幼馴染の田村麻奈実です。よろしくね?」

麻奈実を見た途端、桐乃の表情ががらりと変わった。
両目がクワッと吊り上り、鋭い視線が麻奈実を射抜く。
一方、黒猫はというと、

「クッ、出たわね……ベルフェゴール……」

と、わけのわからない事をのたまいながら戦慄の表情を浮かべている。
誰だよ、ベルフェゴールって。


19 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/12(水) 23:08:10.02 ID:KZdJ5BByo [19/20]
「……おい、おまえら……おい、ちょっと耳貸せ」
「は? な、なに……?」
「……? な、なによ……?」

俺は、渋々近寄ってきた桐乃と黒猫の耳に口を寄せる。
リビングへと繋がる扉の脇できょとんとしている麻奈実の顔を、ちらっと一瞥してから

「えっと、もしかしておまえら……まさかとは思うけど…………麻奈実のこと嫌いなの?」
「「……………………別に」」

二人して同じ台詞を言いやがった。
なにこれどういうこと? おまえらと麻奈実との間に、接点なんてなにもねーじゃねーか。
そもそもおまえらと麻奈実は初対面だろうが。なんで揃いも揃って好感度マイナスからスタートすんだよ。

「お二人ともよくいらしてくれました! 早速、わた……いえ、拙者の部屋へ行きましょうぞ!!」

玄関の空気を察したのか、沙織がリビングから飛び出してきた。
ここら辺はさすが沙織だ。桐乃と黒猫の背中を押して、せっせと二階へと連れて行く。

「あ……ちょ、ちょっと」
「ま、待ちなさい」

二人はまだ何か言いたげにしていたが、沙織が有無を言わさず連れ去ってしまう。
結果、玄関には俺と麻奈実が取り残される形となった。

「……なんだったんだ?」

まぁ、いいか。

このときの俺は、あいつらが突然不機嫌になった理由も考えず麻奈実とのんびりすることを優先したんだ。
不機嫌なあいつらを放置することがどれだけ危険か、ちょっと考えりゃわかりそうなもんなのにな。

32 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/13(木) 18:40:37.62 ID:Z9ITKrREo [3/8]
俺と麻奈実がリビングでお茶を飲んでいると、ほどなくして二階からバタバタと騒がしい足音が響いてきた。
同時に誰かが何か叫んでいるようだが、聞き取れない。

「なにやってるんだ? あいつら」

今までは騒ぎこそすれ、ひとんちで走り回るなんてことはしなかったってのに。

「沙織ちゃんたち、楽しそうだね~」
「……ああ、そうだな」

どうやらおばあちゃんは、子供たちが元気なのが嬉しいようだ。
その台詞、孫が遊びに来たときのおばあちゃんそのままだぞ。

「と、ところでね……きょうちゃん」

しばらく、バタバタとうるさい天井を見つめていた俺だったが、麻奈実に呼ばれ振り返る。
見れば麻奈実は、なにやらもじもじとしていた。

「どうした麻奈実? トイレならリビング出て真っ直ぐ行ってから右だぞ?」
「と、といれじゃないもんっ! きょうちゃんったら、でりかしーなさすぎっ!」
「そりゃ悪かった。で? じゃあなんだよ」
「その……きょ、きょうちゃんの部屋……見たいなぁ……なぁんて…………だめ?」
「あ? そりゃ構わんが……たいしたもんはねーぞ?」
「やった」

ぱん、と両掌を合わせて、嬉しそうにする麻奈実。
とまぁそんなわけで、俺は麻奈実を自分の部屋に招くことになったのだが――
なんだろう。この妙に居心地の悪い――落ち着かない感じ。
何かを忘れている気がする。俺の人生を左右しかねない、重要な何かを……。
くそっ、喉元まで出かかっているんだけどなあ。


33 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/13(木) 18:42:40.14 ID:Z9ITKrREo [4/8]
麻奈実を自分の部屋に案内するため、リビングの扉を開ける。
すると、音を遮る障害物が消えたためか、今まで聞きとれなかった沙織たちの声がはっきりと聞こえてきた。

「いいじゃん、これくらいなら。あんただって内心はムカついてるんでしょ?」
「そ、それとこれとは話が別です!」
「あっはっはっは! 闇の力を思い知るがいいわ!!」
「ああっ、後生ですから、それだけはお許しを~!! お兄様の趣味が疑われ――ええい、ここまでくれば一蓮托生でござる! もうどうにでもな~れ」

…………あいつら、いったい何して遊んでるんだ? 悪代官ごっこでもやってんの?
騒ぐのはいいけど、あんまり俺の妹をいじめないでくれよ?

麻奈実がついてきたのを確認してから、ばたん、とリビングの扉を閉める。
二階に上がると、そそくさと沙織の部屋に引っ込む沙織たちの後ろ姿が見えた。
あれ? あいつら沙織の部屋で遊んでたんじゃなかったのか?
まぁ、細かいことは今はいいか。

「ここが俺の部屋な。……ま、入ってくれ」

がちゃり。ノブを回して扉を開けると、真正面にある机の上に目線がいき――

「うおおおおお!」

俺は思わず取り乱しながら学習机までダッシュし、HGFCノーベルガンダムを麻奈実の視界から隠した。
そうだった! 忘れてたよ、ちくしょう! さっきの落ち着かない感じの正体はこれか!!
昨日、表面処理しようと思って机の上に置いといたんだ!めんどくさくて結局やらなかったけどさ!!

落ち着け――落ち着いて考えるんだ京介!
男子の部屋にガンプラがあることは大した問題じゃない。むしろ、なんの問題もないと言える。
だが、ノーベルガンダムはまずい。ノーベルガンダムだけはまずい。
だって、どこからどうみてもセーラー服で新体操してる女の子なんだもの!


34 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/13(木) 18:43:43.72 ID:Z9ITKrREo [5/8]
「ど、どうしたの……きょうちゃん……?」

額にじわりと冷や汗をにじませつつ振り返ると、部屋の入口のあたりで麻奈実がこちらを窺っていた。
俺の突然の奇行に、ぽかんと口を開けている。
ど、どうしたのと言われましても……。

「な、なんでもないっスよ?」
「……なんでもないって……言われても」

ですよね。

「いやっ! なんでもないんだってほんとに! いまのはちょっと……叫びながら走りたい衝動に襲われただけでな?」

しかしマズイな……。打開策が「ガンプラを窓から放り投げる」くらいしか出てこねえ。
なにか……なにかいいアイデアはないか? この状況から無事生還する打開策は!?

ピコーン! 頭上で、そんな音が聞こえた気がしたね。

「……待て! そうだよ……! これは……なんとかなるんじゃないか?」

追い詰められた俺は、学習机の一番大きな引出しを凝視した。
そう――タイムマシ……じゃなかった、単に引出しに突っ込めばいいのだ!
エロゲ起動中のPCじゃないんだから、ガンプラ程度なら引出しに簡単に隠すことができる。

というわけで――

「ふぅ~~」

手の甲で額を拭う。こ、これでOK……っ。
もはや俺の学習机は、凡庸学生の机そのものになっているはずだ。
俺は胸をなでおろしつつ振り返る。

「ハハ、驚かせて悪かったな!」

だが俺が爽やかな笑顔を向けた先では――

「……………………じい」
「麻奈実さん……どうして俺の机の上を見ていらっしゃるの……?」


35 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/13(木) 18:45:10.90 ID:Z9ITKrREo [6/8]
俺はみるみるわき上がってきた嫌な予感に浸食され、妙な言葉遣いになっていた。
だって麻奈実、なんか赤面しちゃってるし……。
ハアハアと嫌な予感に息を荒げながらも、麻奈実の視線をたどると、その先には机の隣に置かれたCDラックがあった。

「なん……らるれ!?」

錯乱した悲鳴を上げる俺。
そこに静置されていたのは――
魔改造を施されたノーベルガンダム――らしきものだった。
どこかのフィギュアからパーツを持ってきて使ったのか、所々に人間の女の子のような肌が見えている。
というより、フィギュアにプラモのパーツをくっつけた、という方がしっくりくる。

「ぜんぜん大丈夫じゃねえ!? なんだありゃ!!」
「きょ、きょうちゃん……これ……って?」

ちょっ、どういうことだよ!? いったい誰が俺の部屋にこんなトラップを仕掛けていきやがったんだ!?
いやいやいや! 考えるまでもねえ――よ! あいつらだ! クソッ、誰が主犯格かは知らないけどさあ!!

麻奈実はしばし、何とも言えない微妙な声色で、赤面しつつ言いよどんでいたが……

「……そっかあ」

やがて、ほんわかと慈愛の微笑みを浮かべた。
そっかあ。
そっかあって何!
何に対してどんな納得をしたんだおまえは! 知りたいけど聞きたくねえ――!?

俺は今後、この日のことを忘れないだろう。

「……えっと……きょうちゃん……その……せーらー服っていくらくらいで買えるのかな?」

俺はその場で、まさに膝から崩れ落ちた。


第三話おわり

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最終更新:2011年03月22日 19:15
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