俺の妹が身長180cmなわけがない:第九話


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263 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/11(金) 22:12:48.83 ID:XdHsMWa0o [1/8]
当たり前のことだが、冬の廊下は寒い。
吐く息は白く、暖かさを持たないフローリングの床は容赦なく俺から体温を奪っていく。目は半分涙目で、足の痺れもそろそろ限界だ。
俺はかれこれ30分ほど廊下で正座していた。それが俺に与えられた量刑である。

この判決を下した人物は、決して俺のことが憎くてやったわけじゃない。
そして、俺が涙目なのもその人物が怖かったからじゃない。決して。
俺のことが嫌いでやってるわけじゃないのはわかる。それはわかるが、いくらなんでもこれはひどい。
沙織がブラコンなのは今に始まったことではないが最近のあいつは少しおかしい。
なんというか、少し常軌を逸している。
年下の異性の友人が増えたくらいで、なぜ俺は罰せられなくてはいけないのか。

「……エロゲだと定番の嫉妬イベントなんだけどな」

そう言葉を漏らし、思わず苦笑する。いつから俺の脳はこんな思考を辿るようになってしまったのか。
これはきっと……いや、絶対にあいつのせいに違いなかった。

だがこれは現実で、妹ルートは存在しないし、妹にフラグは立たないし立ててはいけない。沙織だってそれはわかっているだろう。
桐乃が妹に云々の時は、てっきり自分が除け物にされたみたいで拗ねているのだと思った。
だから、あいつは単純に俺に構って欲しいんだと思ってたんだ。
俺はあれ以来、沙織との時間を意識的に多くとるようにしてきた。シスコンだと言われれば反論のしようもない。

だが、それでもあいつの嫉妬ともとれる異様さは、消え失せてはいなかった。
現にこうして刑に服している最中である。もはやヤンデレと言っても差支えないレベルだ。
もし俺の認識が間違っているとしたら、あるいは…………あるいは不安なのだろうか。
沙織は黒猫のように二次元と三次元の境界が曖昧なやつではない。
いくら沙織がブラコンで俺がシスコンであったとしても、いつかは独り立ちしなければならない。そんなことはわかっているはずだ。
でも……だからこそ、今、甘えることが許される間だけは、貪欲に兄を――俺を必要としてくれるのかもしれない。


264 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/11(金) 22:14:34.75 ID:XdHsMWa0o [2/8]
「どうしたもんかな」

片手で頭をぼりぼりとかきむしりながら、途方に暮れる。
俺は以前沙織に向かって、『俺は何があってもお前の兄貴だよ』と言った。
その言葉に嘘はないし、これからも相談に乗ったり、一緒に遊んだりしたいと思っている。

でも兄だからこそフラグは立たないし、俺があれこれと世話をやいてやれる時間は限られている。
だから、あいつは兄貴離れをしなくてはならない。今すぐにする必要はないが、心の準備は必要だ。
沙織はきっとこれから恋をして、結婚をして、俺とすごした時間よりも長い時間を旦那と歩んでいくことだろう。
そう考えると胸が少しちくりと痛んだ。しかし、そこから目をそむけることはできない。

「俺がなんとかしないとな」

沙織が本格的にヤンデレ化する前に。
妹が道を外れようとしたとき、叱って道を正すのが親の役目ならば、そんなことしちゃダメだろ? と親には内緒でこっそり諭してやるのが兄の役目だと思っている。
もちろん怒られるときは道連れにされてしまうわけだけど。俺はそれでもかまわない。
俺はあいつの兄貴なんだよ。



『…………自業自得ね』
「いやいや、どこをどう考えたらそんな結論が出て来るんだよ」

刑期を満了し、晩飯を食べた後、沙織の脱ブラコンについてさっそく黒猫に相談をもちかけた。
ちなみに今の黒猫の言葉は、俺が犯した罪とそれに対する罰に対する感想である。

『ブラコンの妹がいるというのに、どこの馬の骨とも知らない女を自室に連れ込むなんて……あなた、死にたいの?』
「馬の骨って……あのなぁ、別に俺はそういうつもりじゃ――」
『関係ないわ』

一応の言い訳を試みるが、それを黒猫の言葉が遮った。

『あなたがどういうつもりかなんて関係ない。知らない女があなたの傍にいた。それだけで不快になるには十分よ』
「…………」

黒猫は強い口調で俺を攻め立てる。まるで沙織の気持ちを代弁するかのように。
……俺よりよっぽど沙織のことをわかってやれているみたいだ。
でも、どうしてそこまで沙織の気持ちがわかるんだ? 同じ性別だから? 親友だから?
色々考えてみるが、どれもピンとこない。


265 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/11(金) 22:16:03.05 ID:XdHsMWa0o [3/8]
『聞けば、その女にお兄さんと呼ばせていたそうじゃない』
「なぜおまえがそれを知っている!?」
『沙織から聞いたのよ。チャットで怒りをぶちまけていたわ』

そういうことか。恐らく俺が正座している間にしていたのだろう。
黒猫が沙織の心情を理解できていたのは、きっとチャットでぶちまけていたのが怒りだけでなく自分の想いをもぶちまけていたからだ。

『知り合う女みんなに兄さんと呼ばせるなんてどんな変態なのかしら。シスコンもここまで来ると笑えないわ』
「ちょっと待て、俺は呼び方を強制したことなんて一度もないよ! 全員向こうが勝手に呼んでくるんだよ! そういうお前だってそうだろうが!」

降りかかる変態疑惑を全力で否定。
桐乃にしろ黒猫にしろあやせにしろ、勝手にそう呼びだしたんだから仕方ねえだろ!?

『………………………』

急に黒猫の返事が途絶えた。
あ……しまった。ちょっと強く言い過ぎたか? 今のはいくらなんでもひどかったかもしれん。

「く……黒猫? 俺は別におまえらに兄さんと呼ばれるのが嫌なわけじゃなくて……なんというか、言葉のあやというか」

しどろもどろになりながらも黒猫の機嫌を窺う。

『あ……気にしなくていいわ。ちょっと考え事をしていただけだから』
「そ、そうなのか?」

話し方から察するに、黒猫はどうやら本当に気にしていないみたいだった。
となると、どうしても気になってしまうのが人間の性というもの。

「考え事って?」
『あなたに言うとでも思っているの?』

ばっさり。
あまりにも綺麗に切られた場合、切られたことに気付かないことがあるという。今の俺はまさにそんな感じだった。

「え? あ……そ、そうか。…………すまん」

ここまであっさりと拒絶されるとは思わなかったぜ。なんだか、ちょっと寂しくなってしまう。


266 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/11(金) 22:17:39.44 ID:XdHsMWa0o [4/8]
『あ……別にあなたが頼りにならないとかそういうわけではなくて』

すると、俺の気持ちを察したのか黒猫がフォローをしてくれた。普段つんけんしてはいても根は優しいやつだからな。
だから、俺は気にしていないよ、というニュアンスも込めてわざと意地悪に言ってやったんだ。

「じゃあ、是非教えてもらいたいもんだな。頼りにならないわけじゃないんだろう?」

数瞬の間が空く。うつむきがちになり視線をさまよわせて、言うかどうかを迷っている姿が容易に想像できる。
どうにもいたたまれなくなった俺が、言いづらいなら別にいいんだぜ? そう言おうと思った時のことだった。

『…………あなたにあんなことを言っておいて自分はどうなのか、と思ったの』

あんなこと?

「自業自得ってことか?」
『もっと前よ』

もっと前? 俺ってこいつに何か言われたっけ?

『私が言えるのはここまでよ。ところで――』

これ以上追及するなと言うように、黒猫は話題を変えた。

『さっきから鳴っているこの騒音はなんなのかしら』
「ああ、これな。沙織がプラモの塗装してるんだよ」

実はさきほどから、沙織の部屋からドルルルルという音が響いている。
学校でボールに空気入れる機械があったろ? ちょうどあれみたいな音だ。

『塗装って、要は色を塗るのでしょう? なのになんでこんな騒音が出るのよ。なにか妖しいことでもしているのではないの?』
「なんでもコンプレッサーとかいうやつの音らしいぞ。エアブラシってのを使うにはそれが必要なんだと」

俺も、以前沙織に教わって塗装に挑戦したことはあったが、その時は筆を使った塗装だった。
エアブラシについても多少教えてもらったが、如何せんめんどくさそうで、俺の性に合わなさそうだった。
エアブラシの方が綺麗に塗れるらしいが、俺は地道に筆で塗り塗りしている方が性に合っている。

ちなみに沙織が塗装している間は、俺の部屋の窓は全開にする必要がある。あいつが使う塗装ブースの排気口が俺の部屋に通じているせいだ。
一時期は消臭力を買い込んでみたりしてみたが、シンナー系の匂いの前には無力だった。
気付けば、コンプレッサーの音がするのと同時に窓を開けるのが習慣となっていた。

だが、最近はこの匂いもまんざらでもないような気がするから不思議だ。
これが親父が言っていた“本物のシンナーなど比べものにならん中毒性”というやつだろうか。
だとしたら、親父が塗装に反対していた理由もちょっとわかるよ。


267 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/11(金) 22:18:50.69 ID:XdHsMWa0o [5/8]
『あなたも意外と苦労してるのね』
「慣れればそうでもないよ。あと、意外とは余計だ」

俺ってそんなにのんびり生きているように見えるんだろうか。

『まあ、いいわ。私の話はこれで終わり。おやすみなさい』

ピッ、と無機質な機械音をたて電話が切れた。

「私の話……ねえ」

あいつが“俺に言ったこと”は気になったが、どうにも思い出せないし、心当たりがない。
毒舌こそ日常茶飯事だが、何か悪口を言われた記憶もないし……あいつが悩むようなことあったっけ?

「だめだ、さっぱりわからねえ」

ぼやきながらベッドに仰向けで寝転がる。
ま、覚えてないってことはそんな大事なことじゃなかったってことだな、きっと。

「…………あいつにも相談してみようかな」

俺が思い浮かべたのは高坂桐乃。俺を兄貴と呼んで慕ってくれる女の子だ。黒
こう書けば聞こえはいいが、実際の所はわがまま放題の困ったやつ。
正直、まともな人生相談ができるとは思えない。だが、溺れる者は藁をも掴むというやつだ。
俺は意を決して、電話をかけた。他に聞きたいこともあったからな。

『……もしもし? 何か用?』

第一声から不機嫌な声。

「よ、よう。実はおまえに相談したいことがあってな」
『はあ? あたしがなんであんたの相談に乗らなくちゃいけないわけ? あたしは今からみやびちゃん攻略しないといけないんですけど』

イラッ。
お、抑えろ、抑えるんだ。


268 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/11(金) 22:19:59.92 ID:XdHsMWa0o [6/8]
「ま、まあそう言うなって。沙織のことでちょっと相談があるんだ」
『沙織の?』

桐乃の機嫌が一変したのがわかった。こいつはこいつで友達思いであることは間違いないんだよな。
沙織がこいつらと知り合えて本当によかったと思う。

「おう。だが、それに関してまず確かめておきたいことがあってな」
『え? なに?』
「おまえ、あやせって子知ってるか?」
『はあ!? あんたあやせに何かしたんじゃないでしょうね! あやせになんかしたらぶっ殺すから!』
「お、俺は何もしてねえよ! お、落ち着けって!」

あやせの名前を出しただけですごいキレようである。どうやらあやせが桐乃の友人であることは間違いないようだ。
自分のストーカーを「なんかしたらぶっ殺す」とか言って擁護するやつはいないだろう。

『ちっ……セツメイ。早く』
「いや、実はな――」

そこから俺は、あやせに桐乃との関係を問いただされたこと、そのうち人生相談に乗ってくれと頼まれたことを説明した。
ちなみに、お兄さんと呼ばれていることは伏せておいた。

『まさか……あやせが…………』

桐乃はどうやらショックを受けているようだ。電話越しなので顔は見えないが、驚いている様がありありと伝わってくる。

『だから最近やたらと詮索を…………あやせってば一体どういうつもりで』

何やら一人で納得し、そのまま考え出す桐乃。

「おーい、俺にもわかるように説明してくれ」
『あんたはちょっと黙ってて』

ここでもばっさりと切られ、言葉を失う俺。

『…………まさかオタク趣味がバレた? でもそんな感じはしないし……じゃあなんでこいつに』

どうやら桐乃はあやせの目的がわからないようだった。

『あ~っ、もう! わけわかんない! あんた何か知らないの?』
「そうだな……おまえのオタク趣味を探ると言うよりは、俺のことを調べに来たって感じだったな」
『は?』

これは決して自意識過剰なわけではない。なにせあやせ本人が言ったことだ。

「おまえ、俺たちと遊ぶようになってから学校の友達と付き合い悪くなったらしいじゃねえか。それを不審に思ったあやせが色々調べた結果俺に辿り着いたらしんだよ」

あえてあやせのストーキング行為については伝えることはしなかった。あいつはあいつで親友が心配で仕方なかっただけだろうからな。
俺たちのために時間を割いてくれるのは嬉しい事なんだけど、旧来の友達からすれば心配になるのもしょうがない。


269 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/11(金) 22:20:46.41 ID:XdHsMWa0o [7/8]
『……あ』

それを聞いて桐乃はなにやら思うところがあったらしい。

「ったく……沙織や黒猫と遊んでくれるのは嬉しいけど、あんまり友達心配させないようにな」
『ちっ……大きなお世話だっての』

桐乃が今ここにいるならば、むくれてそっぽを向いていたことだろう。あるいは電話の向こうでもそうしているかもしれない。

『でも…………ありがと』
「あいよ」

顔が見えない分、今日の桐乃は少し素直なようだった。
素直な桐乃が微笑ましくて、にやけてしまうのが止められない。

『じゃあ、あたしもう寝るから』
「おう。またな、おやすみ」
『…………おやすみ』

ピッ。
あいつも、いつもこうだとかわいいんだけどなあ……。

「あ、沙織のこと相談するの忘れた」



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