無題:10スレ目347


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347 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [saga] 2011/05/19(木) 18:17:54.78 ID:2QOS7MQI0

「すまん。あやせの気持ちは嬉しいが、それに応えてやることはできない」

「え……?」


その返事を聞いた時、私は自分の耳が信じられなかった。
あのお兄さんがこんなに真摯な表情をして、慎重に言葉を発したこと。
“あの”お兄さんが私を拒絶したこと。
そして。
告白をしてもいないのに振られたこと。


「何勘違いしてるんですかこの変態!!」

「え、ええ!!?? でも今付き合ってくれって……」

「買い物に、ですよ! 決まってるじゃないですか! 一体何を想像したんですかこの色情魔!」

「うう、まさかこんなベタな間違いをしてしまうとは……」


お兄さんは肩を落として項垂れている。
こんな恥ずかしい間違いをしてしまったのだから、当然の反応と言えるだろう。
しかしその落胆以上に。
私の胸には怒りが込み上げてきていた。


「本当にごめん! あっ、ところで買い物だって? あやせの頼みならもちろん行くよ。予定が空いてなくたって、その時はこじ開けてでも―――」

「何でですか」

「へっ?」

「何で私がお兄さんに振られなくちゃいけないんですか!!」

「あ、あやせ、何を……」


お兄さんは呆然とした表情でこちらを見ている。
何故私が怒っているのか分からないとでも言うのだろうか。
ならば教えてあげないといけない。


「いいですか、お兄さんは変態なお兄さんなんですよ!?」

「そこまで大きな声で確認しなくていいから!」

「シスコンで、え、え、エロゲとかも好きで、ヘタレで、いつもエロ目で、しかも女の人をたらし込んで憚らないような、そんな唾棄すべき存在なんです」

「お前俺が鋼のような精神を持ってるとでも勘違いしてるだろ! マジで凹むから、そういうの!」

「で、翻って私はどうですか?」

「超弩級の美人にしてモデルを務め、品行方正成績優秀と非の打ちどころもないまさにエンジェルと呼ぶべき存在です」

「な、なんですかそれ……気持ち悪いです」

「あやせが聞いてきたんじゃないか……」

「とにかく、そういうパワーバランスがあるんですよ、二人の間では。なら当然、私が告白をしたらお兄さんは二つ返事で快諾するはずじゃないですか」

「いやそのりくつはおかしい」

「なのに何で、何でお兄さんは断るんですか! 訳はともかく理由を言ってください!!」

「い、いやあ、理由と言ってもなあ……」

「このままでは私がすごいみじめです。だから、お兄さんは私に告白してください」

「はあ!? ど、どういう……」

「私はそれをこっぴどく振ります。そうすればおあいこですよね」

「何で振られると分かって告白しなきゃいけないんだよ!!」

「負けると分かっても戦うのが男というものでしょう」

「それが自分の意志ならな!」


しばらく問答を続け、諦めたのかようやく承諾するお兄さん。
そこまで嫌なんだろうか。
無性に腹が立つ。
お兄さんなんかにここまで煩わされるなんて、という意味で。
お兄さんは、深呼吸をし呼吸を整え、こちらを見る。
その表情はいつになく真剣で、私は―――。


「あやせ、俺の恋人になってくれ」


ズク、と胸の奥に刺さるものがあった。
それまで用意していた辛辣で残酷な返答はいつの間にか塵と消えていて。
私は、パクパクと口を開け閉めすることしか出来なかった。


「あ、あ、あの……えと……」

「なんか、気恥ずかしいなこれ、ハハッ」

「私は、お兄さんが、その……」

「ん?」


お兄さんが怪訝そうな顔をしている。
それはそうだろう。
私にも、何故こんなに返事に詰まっているのか分からない。
答えは初めから決めていたのに。
そもそもこれは告白なんかではないのに。
けれど、大事なものを失ってしまうような気がして。
素敵な夢が、覚めてしまうような気がして。


「わ、わた、私も……」

「あ、あやせ……?」

「私も、あの、その……」

「お前どうし」

「その顔と性格と嗜好と容姿が、生理的に受け付けません!! 生まれ変わってから出直してきてください!!」

「……ひっでええええええええええええええええええええええええ!!!!! お前自分から頼んでおいて、そんな言い方があるか! もっと優しくビブラートで言ってくれ!!」

「嫌いです嫌いです、お兄さんなんか大っ嫌いです!!」

「あやせに嫌われるなら、俺は死んだ方がマシだ!!」


結局、いつもの通り。
私とお兄さんの漫才が続いた。
お兄さんがボケで、私がツッコミ。
そんないつもの、パワーバランス。
それは、崩しちゃいけない、崩したら。
私はどうしようもなくなってしまう。
だって、あの人の本命は、あの人の本当の本命は、私じゃないから。


「今度また、次は私から告白してみてもいいですか?」

「……何でまた、そんなことを」

「バランスを保つためですよ、仕方ないことなんです」

「そうか。仕方ないなら仕方ないな」

「仕方ないんです」


お兄さんは、妹のわがままを聞いているような面持ちで、苦笑している。
お兄さんの私への対応というのは、おそらくそういう類のものなのだろう。
それでも、それでも私は。
数打てば、当たるだろうかと。
そんな馬鹿なことを考える。
的はこちらを向いていないというのに。


「だからその時は、二つ返事で快諾してください」


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