97 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2011/06/21(火) 01:48:34.13 ID:yIC2+Vkno
「ところでさ桐乃ー、ちょっと頼みがあんだけどさー」
放課後、三人で帰ろうとしたとき、加奈子があたしに向かってそう言った。
「どうしたの加奈子?先に言っとくけど、お金は貸さないよ?」
「金の話じゃねーし!桐乃さー、前にスイーツショップで一緒だった彼氏いんじゃん?
そいつにちょっと用があんだけど会わせてくんねー?」
スイーツショップで一緒だった…ってことは、あのバカ兄貴の事か。
そういえば彼氏ってことにしてたんだっけ。…それにしても、ブリジットちゃん可愛かったなあ…
なんて考えていると、
「…桐乃?彼氏ってなんのこと……?」
瞳から虹彩の消えたあやせが、黒いオーラを纏いながら静かな口調でそう聞いてきた。
「いやあの…違うの!えっと…その…と、ところで加奈子!あいつに何の用があるの!?」
とてもじゃないけど、「あのバカ兄貴とデートしてました」なんて言えるわけがない。
あたしはなんとか誤魔化そうと、話題を加奈子の方に戻す。
「んー、なんていうか、ちょっと相談したいことがあんだよねー」
「相談したいこと…?相談ならあたしが乗るよ?」
「いや…ほら…女に聞くより男に聞いた方がいいことってあるじゃん?
それで、特に周りに相談できそうな奴いねーかなーって考えて、ふと思いついたのが
あいつだったんだよ」
「ふーん…?」
あいつとあたしの親友を合わせるなんてあいつに何されるかわかったもんじゃないけど、
加奈子の頼みとあっては仕方ないか…
それにしても、加奈子が「相談したいことがある」なんていうだけで珍しいのに、
男に聞いた方がいいことだなんて一体なんなんだろ?
98 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2011/06/21(火) 01:50:35.23 ID:yIC2+Vkno
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「……で、俺を呼び出して、いったい何の用なんだ?」
桐乃に言われて喫茶店へと出向いた俺は、目の前にいるチンチクリンを一瞥した後、
注文したコーヒーを啜り、加奈子は運ばれてきたパフェに口をつける。
まったく、桐乃が「あたしの友達がアンタに用があるから」なんて言うもんだから、
あやせたんが俺に会いたがってるのか なんて思って浮かれてたのに……
よりにもよって、俺に用があるのってこいつかよ!
「あん?『何の用なんだ』じゃねーだろーがよぉ。おめー、あの時の糞マネだよな?」
「ブッ!…気づいてたのか!?」
思わず口に含んでいたコーヒーを吹き出してしまった。ヤバい。バレてることがあやせに知られたら、
下手したら殺されるんじゃ…!?
「まぁ、あの時は喋ったらマズそうな感じだったし、気づいてないフリしてやったけどな。
ってゆーか気づいてないと思ってたのかぁ?加奈子様をナメんなヨ」
「そ…そうか…できればそのまま黙っておいてくれよ…?」
一応コイツにも気遣いとかできるんのか…
っていうか、マネージャーだってことは気づいてても、俺が桐乃の兄ってことには
気づいてねえんだな…
「それで、マネージャーだってことをわざわざ確認しに来たのか?」
「ちげーし。それもあるけど、それとは別に頼みがあって来たんだって」
「……頼みってなんだ?」
どうせコイツのことだから、黙っててやるからなんか買ってよこせよ、とか言うんだろ…
…と思っていたのだが、
「また加奈子のマネ―ジャーやってくんね?」
…なんて、予想外の事を言い放った。
99 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2011/06/21(火) 01:52:06.25 ID:yIC2+Vkno
「…はぁ?…なんで俺が?」
「それは…その…あれだ、他のマネージャー使えねーやつばっかなんだよ」
「……それは俺なら奴隷扱いできるってことか?」、
「そ、そーじゃなくて…んーっと……あー…なんていうかさ、ほかのヤツがマネージャーだと…
…なんか調子でねーんだよなー…気持ちが乗らないってゆーかさ…」
パフェを食べる手が止まり、加奈子の声のトーンが少し下がる。
コイツでも弱音を吐いたりすることってあるんだな…
「ふーん……?まあ、俺になんかできるってんなら協力してやるよ」
「ホントか!?やりぃ!もう約束したかんな!『やっぱやめた』なんてふざけたこと
言うんじゃねーゾ!」
「はいはい、わかったよ」
一転してテンションが高くなる。忙しい奴だな、なんて思ってたら、
モジモジしながら、小さめの声で、
「……ところでさ、おめー…桐乃と付き合ってん…だよな?」
なんてことを聞いてきやがった。
冗談じゃねえ。誰がアイツなんかと恋人になるか!
つーかそもそも常識的に考えて兄妹で恋人になるわけねーだろ!
と言おうと思ったが、ふと、それを言っていいのか迷う。
……まあ今更兄妹ってことを隠したところで特に意味ねーよな。
「いや、付き合ってねーよ。つーか兄妹だからそもそも付き合うとかありえねーって」
「はぁ!?じゃあなんであの時二人でデートしてたんだよ!?」
うっ!やっぱりそのことをツッコんできたか…
まあ、ある程度予想はしていたが…
100 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 2011/06/21(火) 01:53:35.61 ID:yIC2+Vkno
「あれはその…まあいろいろあったんだよ。いろいろと…」
「ふーん?…まあよくわかんねーけど付き合ってねーんだな?
ま、フツーに考えたら桐乃がおめーみたいな冴えないヤツと付き合うわけねーよな。
ってゆーか明らかに彼女いなさそーな顔だし」
「うっせえほっとけ!彼女居なさそうな顔で悪かったな!」
そんなやりとりをして、イヒヒと加奈子が笑う。
まったく、言ってくれるぜこの野郎。
……まあ実際彼女居ないから言い返せねえんだけどな……
「そっか、彼女いねーのかぁ。…それならまだ加奈子にもチャンスはあるってことだよな」ボソッ
「ん?なんか言ったか?」
「な、なんでもねーし!とにかくマネージャーの件頼んだからな!」
そう言って、赤い顔をしながらその場から立ち去る加奈子。
俺は「…変なヤツだな」と呟いた後、その加奈子の後ろ姿と、
テーブルの上に置いてある空のグラスを見て、こう考えるのだった。
(……やっぱり金は俺が払うのか…)
最終更新:2011年06月21日 02:34