321 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 投稿日:2011/07/12(火) 11:16:03.45 ID:4JxWekvc0 [3/8]
あやせに桐乃の料理について相談してから数日経った。
実はあれから今日まで桐乃の料理訓練は行われていない。
あやせから聞いたところによると、訓練はあやせと桐乃がお互いに用事がない日に行うことになったらしい。
あやせは読者モデルの仕事、桐乃は陸上にオタク活動もあることを考えるとそれが妥当なとこだろうな。
あれ?そういや桐乃っていつまで読モの仕事休止してるんだ?
アメリカから帰ってきたとき珍しく桐乃が敬語を使ってたから印象には残ってるんだが……。
っと、話がそれたな。
今日は桐乃もあやせも特に用事は入ってないらしいし、そろそろ特訓でも始めてんのかね。
桐乃があやせの家に行ってる間、俺は――
1.受験勉強に専念する
2.妹におすすめされた(押し付けられた)エロゲーをプレイする
3.妹×妹(シスシス)のりんこルートを攻略する
「……我ながら酷い選択肢だな」
本来なら1といきたいところだが、押し付けてきたくせして早くやらないと文句を言ってくるんだよな……。
仕方ない、今日は受験勉強は諦めるか。
数十分後――――
俺が息抜きに飲み物でも飲もうと一階のリビングへ向かうと
「ただいまー」
ちょうど妹があやせの家から帰ってきた。
「おかえり。なんだ、思ってたより早い帰りだな?」
「なんか予定してた分の材料を使い切っちゃったみたいで、今日はもう続けられないんだって。」
「ふーん……」
俺としては少な目に見積もった材料が切れたと信じたい。
いくら料理が壊滅的な桐乃でも、たくさんあった材料を数時間のうちに使い切ることはないだろう……たぶん。
「ところであんたは何をやってたの?」
「お前に押し付けられたエロゲーをやってて、喉が渇いたから飲み物を飲みにきたんだよ」
「ふーん、流石エロゲーマーの鑑。受験生なのに平日のこんな時間からエロゲーをやってたんだ?」
言うと思ったよ!チクショウ!
322 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 投稿日:2011/07/12(火) 11:17:06.35 ID:4JxWekvc0 [4/8]
こんなやり取りをした翌日、俺はあやせに呼び出されていた。
なんでも食材の買い出しに付き合って欲しかったらしく、今は近所のスーパーに向かっているところだ。
だけどよ……
「なぁ、あやせ。
買い出しに付き合うのは良いんだが、こんなに早くから買い出しに行く必要はあるのか?」
「そうですね、このタイミングで買い出しに行く必要はなかったかもしれません」
「なら、なんで昨日の今日で買い出しに行くんだ?」
「1つは日持ちする食材を買い込んでおきたいということです。
次の桐乃との特訓はまたすぐに行うんですけど、その時になって必要なものを買いに行くのでは手間がかかります。
それなら先に日持ちするものを買い込んでおいた方が効率が良いんです」
なる程な。俺は料理なんてしないからその辺がよくわからないが、あやせが言うならそうなんだろう。
「それと、もう1つはお兄さんを呼び出すための口実です」
俺を呼び出すための口実?もしかして……
「あやせ……お前……実は俺のことが好きだったのか!?」
「な!?なんでそうなるんですか!」
そう言いながら上目遣いで見上げてくるあやせ(←超かわいい)。
「そうじゃなくて、どうしてお兄さんは桐乃に料理を覚えてもらおうと思ったのかを聞きたかったんです!」
なんだそのことか……。
俺は“妹”に料理が上手くなってほしいと思ったんだが、あやせには誤解を解くわけにいかないし……。
「それは俺が桐乃を愛してるからだ!愛してる女には料理が上手くあってほしいって思ったからな」
結局、こういう方向性でごまかすしかないのである。
嘘が嫌いなあやせにこんなごまかしは正直に言えば心苦しいのだが、妹の桐乃のためにも
俺とあやせとの間にある“誤解”をバラすわけにはいかない。
そう思っていたんだが、あやせは優しい声色で―――
「お兄さんが桐乃を女として愛してるって、それ嘘ですよね?」
なんて言ってきた。
323 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 投稿日:2011/07/12(火) 11:17:43.17 ID:4JxWekvc0 [5/8]
「え?」
「わたし、気付いてたんですよ?お兄さんの嘘」
「い、一体いつからだ……?」
情けないことに思わず動揺してしまい、上手く言葉になっているかあやしいものである。
嘘を吐いていたにも関わらず、あやせの口調は相も変わらず優しいまま続く。
「あのメールを送ったときにはもう……。
なんとなく、あれはお兄さんが桐乃を庇うための嘘だったんだろうなって。」
『大ウソ吐きのお兄さんへ。』
そんな文面で始まるあのメール……。そうか……あの時にはもう気付いてたのか……。
「あの時、わたしは桐乃の趣味を受け入れられなくて、お兄さんをスケープゴートにしてしまいました……」
「……嘘吐いてて悪かったな。それと、あの状況で俺を悪者にするなって方が難しいだろ、気にするな」
「わたし……嘘は今でも嫌いですけど、人のために吐く嘘もあるんですね」
その後、なんとも言えない空気のまま買い出しを終え、今はあやせの家に来ている。
あやせがどう思っているかはわからないが、俺はなんとなく気まずい状態に陥っていた。
「そう言えば」
「へ、へ!?」
そんな状態のときにあやせに話しかけられたもんだから、思わず声が裏返ってしまった。
「さっき聞きたかった、お兄さんがどうして桐乃に料理覚えてもらいたい理由をまだ聞いてません。
どうして桐乃に料理を覚えてもらおうと思ったんですか?」
「あ、ああ、そのことか……」
ぶっちゃけ、どうしてかなんて聞かれても特に意味はないんだよな……。
ただ、強いて言うなら―――
「俺と桐乃のため、なんじゃねーかな?」
「お兄さんと桐乃のため……?」
324 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage] 投稿日:2011/07/12(火) 11:20:12.94 ID:4JxWekvc0 [6/8]
俺と桐乃は1年ほど前までお互いの存在を無視しあう冷めきった関係だった。
ところがふとしたことで桐乃の趣味を知ってしまい人生相談をされるようになり、それをきっかけにまた話をするようになった。
そして桐乃に偽の彼氏ができたとき、俺は自分では自覚してなかった“妹”への想いを気付かされ、
俺に彼女ができたとき桐乃の俺に対する“兄”への想いを教えられた。
要するに俺はシスコンであることを自覚させられ、桐乃は俺に“自分を一番に見てほしい”と伝えてきたのだ。
だから俺は今までとは打って変わり、妹の桐乃と仲良くしようと思い始めた。
今回の料理についてもそれの延長線にあたると言っても良いんじゃないだろうか。
あやせにそのことを伝えると
「やっぱり、お兄さんは優しい人ですね」
と言いながらなぜか複雑そうな顔をしていた。
「……本当に優しかったら妹と喧嘩すらできないほど冷めきった関係にはならないと思うぞ」
「桐乃とお兄さんの間に昔何があったかわたしは知りませんから、それについては何も言えません。
けど初めてお会いしたときとか、わたしの相談に何度ものってくれたりしたじゃないですか。
これってお兄さんが優しいからできたことだと思います。」
「そ、そうか……」
なんで俺は妹の親友に優しいって褒められる、恥ずかしい目にあってるんだ?
しかもあやせの部屋でだから余計に恥ずかしいぞ……。
俺は恥ずかしさから話を変えることにした。
「な、なぁ。ところで桐乃の料理はどうなんだ?
昨日、練習日だったんだろ?」
「それなんですけど……桐乃の場合、調味料を間違えるとかはしない代わりに、分量を全く計らなかったり
火を弱めるということをしないので、それが失敗の原因になってます」
「それだけを聞いてると、とてもあんなものができるとは思えないな……」
結局、この日は高坂家の夕食の時間に近いということで桐乃の料理に関する話はこれ以上はできず、俺は新垣邸を後にした。
何がきっかけと言われたらこの日のあやせとの誤解が解けたことがきっかけだったのだろう。
翌日以降からあやせは俺と桐乃を巻き込み、何かと理由をつけては3人で出かけることが増えた。
そして、あやせの口から桐乃に向かって
「お兄さんと恋人になることを認めて」と言われることを俺はまだこのとき全く想像していなかった。
最終更新:2011年07月13日 02:41