献身のエンジェル・パラディン:11スレ目753


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753 名前: ◆36m41V4qpU[sage] 投稿日:2011/10/07(金) 16:35:09.75 ID:Ov8bE+oV0

"1"

加奈子のライブから帰ってきた後どっと疲れたが出た。
自宅のベットにうつぶせに倒れ込みしばらく考える。

あ~あやせのばか、バカ、馬鹿…わたしは何をやってるんだろ。
お姉さんを人が良いとなんて言ってわたしも結局一緒なんだ。
ため息を何度かした時にピピピ
誰でしょうか、こんな時間に…ベットに顔を伏せたまま
携帯を取り出す

「はい、もしもし」

『おう、あやせか』
わたしのため息の原因…相変わらずののんきな声

「お、お兄さん…なんのご用ですか?こんな時間に」

『用がなかったら電話しちゃ駄目だったか?』

「え?、だ・・・・駄目に決まってるじゃないですかっ!」

積極的にわたしに迫るかと思えば、どっかの泥棒猫といきなり付き合って、
別れたかと思えばもう消極的で・・・・・
でもわたしのお願いはちゃんと聞いてくれて、結局、何考えてるんでしょうね。

『はは、何か俺の勘違いだったかな、なら良いんだけどさ。
まぁ用ってほどの事はないんだ。なんかさ桐乃と戻ってきて
おまえに会った時に元気なさそうだったんでな』

「ど、どういう意味でしょうか?それ」

『いやだから俺の勘違いなら良いんだって』
全然良くない…でもどうせ気付かない癖に!

「ド・・・ン・・カン」
お兄さん、わざとですか?故意じゃないから余計に悪質…な人

『何か言ったか?』
2,3ターン思い通りにならないとわたしの中の破壊衝動が抑えられなくなる。
(しね、死ね、死んじゃえ、用がないならかけてくるな、この変態、馬鹿)と
息を吸い込んで言おうとした時

『まぁ着拒否は解除してくれたみたいだしさ。
それにおまえと話すのは緊張するけど別にイヤじゃないんだわ。
だから何か悩みごととかあるなら話を聞く事くらいは出来るからさ』

お兄さん…受験生ですよね?
その受験生を呼び出してマネージャーをさせたわたしが言うも変だけど。
優しく無自覚にわたしに語りかける―――これならセクハラしてるお兄さんの方が
まだ・・・って、ううん何言ってるんでしょうね、わたし。

「わたしは何の悩みもないですよ。お兄さんが桐乃に悪戯しないかが
悩みというか一生の懸念です」
相変わらず大嘘つきのわたし。

『おまえ、まだその誤解解けてないのかよ』

「・・・・・・冗談ですよ。本気にする所が何か妙にリアルでもの悲しいですね」
人の夢と書いて儚いですよ、、、お兄さん

『いい加減心臓に悪いからその話題は辞めてくれよ。それで何の話だっけ?』

「・・・お兄さん、悩みがあるんですよね?
わたしで良ければ何でも言って大丈夫ですよ。
え、エッチなのは駄目ですけど」

わたしは話題が尽きるのがイヤで電話を切りたくなくて
もっと話がしたくて軽い冗談のつもりでこう聞いてみた。

『………………………………エロ以外?!』




セクハラですよ、お兄さん…フフフ
「セクハラですよ、お兄さん…フフ?…ふざけるな!」

『おまえのノリ突っ込み風味の突っ込み鋭いな。まぁ悩みか?悩みね…』

あれ?
本当に悩みがあるのかな?
わたしはちょっぴり嬉しくなってお兄さんの次の言葉を待つ。

『そういえば、おまえって麻奈実と仲良かったよな?』

「は、はい、仲良くさせて貰っています。お姉さんがどうかしたんですか?」

『別に悩みってほどじゃないんだが、
最近麻奈実の様子が変わってる気がするんだが、おまえ何か知らないか?』

「え?お兄さん、お姉さんと喧嘩してるんですか?」

せっかく励ましてくれたのに結局微妙な気分にしてくれる鬼畜なお兄さん
そして様子と聞いただけで直感出来てしまうわたし。

『喧嘩はしてないと……思うんだが』

わたしと喧嘩してる時はわたしが呼び出さない限りは来てくれない癖に
お姉さんと少しでも疎遠だとすぐに気になるんだ…。

喜怒哀楽どれでもない…あの時と同じ気分になってしまう。
わたしは自分がどうしたら良いのか?
いいえ、やる事は多分もう決まっている。
お姉さんは自分の事は後回しにしてお兄さんとわたしの為にわざわざ仲直りする
キッカケを作ってくれたのだ。
お姉さんに負けたくない--だから二人を仲直りさせる、矛盾してる
けどこれが大嘘つきのわたしの唯一のプライドだった。

「わかりました、聞いてみます。」と言って
「ホントお兄さんはヘタレで鬼畜でもうきっと死んでください」
お兄さんの返事を聞かずに切った。

数日後、わたしは、お姉さんの家に向かって歩いていた。
相変わらず気は重かったが自分で決めた事なのだ。
そんな事を考えながら歩いていると・・・・・・

目線の先で長い黒髪の女の子が泣きそうになりながら前に立っている男の子に
何やら話していた…何となく耳に入ってくる内容はどうやら告白している様子。
男の子は苦笑しながら何度か頭を下げると真剣さの無い表情で
わたしの進行方向に走り去って行った。
女の子は虚空を見てその場に立ちつくしていた・・・イヤな物見てしまった。


ますますブルーな気持ちで歩いているとさきほどの男が今度はショートカットの
メガネの子と何やら親密に話していた。
別にわたしには全く全然関係ないのだけど・・・こいつは女の敵なんだと
漠然的なイメージが頭に思い浮かんだ。
そしてまたわたしの進行方向に走り出す女の敵。

そろそろお姉さんの家の目の前まで来た時にまたさっきの男に出くわす。
男はライトブラウンの髪の小さな女の子に近づくとおもむろに抱き上げて
抱擁しようとしていた。

わたしはその女の子がお茶を煎れようとしてない事だけを確認すると
こいつは女の敵ではなく人類の敵なんだと納得しながら重心を下げ右足で
地面を叩き相手の懐に踏み込みながら天罰の裡門頂肘を相手の顎に叩き込む・・・
同時に女の子を抱き寄せ、男から引き離す。
相手は不意打ちのせいで地面に倒れ込んだ。

「死ね!変態いぃぃィィィ!!」

ついでにさっきの件も何となくイラっと来ていたのでダウン攻撃を二発ほど入れた。

「もう大丈夫だからね」

天使の様な優しい顔のつもりで女の子に問いかけたのだが
女の子は一瞬唖然とした後、気が付いた様に泣き始めてしまった・・・・。

そうかそんなに怖かったんだ・・・・本当に最低の男。
女の子は近くに居たお母さんらしい女性の元に駆け寄っていき騒ぎを聞きつけた
何人かがこちらの様子をうかがっている。
もう大丈夫そうなのでわたしは人類の敵を睨め付けると

「次にまたこんな事をしたら死ぬよりも辛い目に遭わせて、
その後必ずぶち殺すから」

と言い残しその場を去った。



人助けをしてちょっぴり気分が回復した後、目的地に着いてお姉さんがわたしを
出迎えてくれた。

わたしの尊敬してやまない田村麻奈実さん。
かなり手強いわたしのもう一人のライバル。

「いらっしゃい、あやせちゃん」

「いきなり連絡した上にお邪魔しちゃってすいません」

「ううん、あやせちゃんならいつでも大歓迎だよぉ~」

死んだふりをしたおじいさんとそれを本気で叱るおばあさんに
出迎えられた後にお姉さんの部屋に案内された。
お兄さんはもうお姉さんの家族の間で公認という仲みたい
手錠で拘束しながら部屋に入れていた自分を思い出して苦笑した。

お姉さんのお部屋は由緒正しい和室と言う感じでとても整然としていた。
調度品もどれも大人っぽく落ち着いた感じが麻奈実さんの印象そのままだった。
ただベットに置いてある縫いぐるみらしきものだけが…違和感がある印象。

「良い香りがしますね、アロマですか?」

「あ、あろま?ああ~はは」
麻奈実さんはとても奥ゆかしく笑った。

それから
「お、お姉さん、お姉さんから電話を貰った後にお兄さんと話したんです」

「うん、うん」と肯くお姉さん

「それで色々誤解はあったけど、これからは前向きに仲良くして行こうと言う話で
桐乃やお姉さんの大切な人ですし」

「うん…そか、そか」
さも自分の事の様に満面の笑みで喜んでくれるお姉さん。

「だからお姉さんのお陰でちゃんと仲直りする事が出来ました。ホントに…
有り難う御座いました」

「良かったぁ…本当に良かったよぉ…頑張ったね、うふふ」

『自分の事はどうなんですか?お姉さん』
と言おうとして言葉を飲み込む。

桐乃の考えている事は痛いほど分かる、理解じゃなくて実感として・・・。
それはきっと自分自身がそうだから。
だけど麻奈実さんが考えている事はどうしても理解も納得もできない。
だから桐乃やお兄さんの前での嘘よりもこの人に嘘をつく方が何倍も怖い。
お姉さんの前ではどうしても毒気が抜かれるのも多分それのせい。

「あやせちゃん、難しい顔になってるよぉ、ほら笑顔、笑顔」
今、今言わなきゃ…

「…………………………」
頭に?を乗せてわたしをのぞき込むお姉さん
お兄さんに負けず劣らずヘタレみたい…です、結局わたしって。

「お、お…お菓子美味しそうですね。あはは」

「あやせちゃんが来るから新しいお菓子作ってみたんだ。
もし良かったら感想聞かせて欲しいな、えへへ」

「あれ…?お口に合わなかったかな…ちょっと自信作だったんだけどな…しょんぼり」
しょんぼりしてしまうお姉さん

「い、いえ…凄く美味しいです。味はもちろん見た目も食べる人の為にちゃんと
気が遣われてて」

『まるでお姉さんみたい』
と言うとお姉さんは花が一斉に咲く暖かい春の太陽の様な笑顔を
わたしに見せて喜んでくれた。
そしてますます言いたい言葉を言いにくくなってしまう・・・・わたし。




その時・・・・だった

                 ベン!ベンベンベン♪

三味線らしき音の後…

『Get on shower what now! Can you know to call when』
『ギ オン ショウ ワャノ カァ ネ ノ ツゥ コゥ ウエ』?
『祇園精舎の鐘の声』

『She goes new joy now he`ill be already 』
『シィ ゴー ニュ ジョゥ ナゥ ヒィ ビィ ルゥ アルディ』?
『諸行無常の響きあり』

平家物語と英語をそれぞれ足して良いところを全て台無しにした
謎の絶叫と音だけはしっかり弾けている三味線の音が目の前のドアまで近づいてくる。
あれ・・・・・このイラっと来る感じ、どこかで?

「あ、ロックが帰ってきたみたい」
お姉さん、この騒音源の名前ですか?それ

『The O shall hit swing now! Call it why Who!!』
の時にお姉さんがドアを開けた。

「ロック、おかえり。
お母さんが指輪とかイヤリング勝手に持って行ったって怒ってたよ?」

「姉ちゃん、ただいま!…ロックの為には見た目が肝心なんだぜ」

「…酷い怪我…どうしたの?ロックは喧嘩はしないよね…?」

「そうそう聞いてくれ、姉ちゃん…変な女に殴られたんだよ。
ヤバいくらいの超美人だったんだけど、あれってストーカーだぜ!
だって俺の後ずっと尾行してたからなぁ…マジヤベ…もしかして痴女とかだったら
超緊張する」

「バカ…ほら手当してあげるからおいで。それにお客さん来てるから騒いだら駄目だよぉ?
おじいちゃん達言わなかったのかな」

「じいちゃんまた正座させられてたぜ、だからスルーしてきた。
あんちゃんか?マジ久しぶりだなぁ。あんちゃん!!!」

「「あ!!!!」」

と人類の敵ロックとわたしは同時に声を出した。
痴女呼ばわりされたわたしは立ち上がって鉄山靠を入れようとしたが
お姉さんが居た為に残念ながら断念。

「あれ?
こちらはあやせちゃん………きょうちゃんや桐乃ちゃん、わたしのお友達だけど
ロックは知り合いだったのかなぁ?」
わたしがお姉さんの言葉で逡巡していると・・・・

「田村いわお…ソウルネーム(魂の名)はロック!よろしくね、あやせちゃん」

と性犯罪者とは思えない屈託の無い笑顔と元気の良い声で挨拶をしてきた。
―――よく見たら笑った顔がお姉さんに少し似ているんだ。
それでも変態と挨拶するつもりは毛頭なく怪訝な顔を崩さないわたしに対して
―――表情上はお姉さんに対して変態は独り言を言い始めた。

「いや、今日は参ったぜぇ。
最初は俺のバンドのメンバーを好きな女の子が居てさ…………
そいつが彼女いるのかどうか聞かれててさ。
次はそのメンバーのヤツだろ…あいつ女みたいな顔してモテ自慢を俺にしやがるしさ。
最後はうち(田村屋)を贔屓にしてくれてるお客の娘さんに挨拶してた時に、
ちじょ…可愛い女の子にちょっとぶつかったのは…」

「ぶつかったの?さっきと言ってる事違うじゃない…痴女のストーカーに…
やられたって。そもそもぶかった傷じゃないみたいだよぉ」

「いや!あれは非常に不幸な事故なんだぜ…」

と独り言の様に肩をすくめながら言う。
多分このロックって子はわたしの為に言わないでおいてくれたのだ。

「初めまして・・・・炉喰う・・・じゃなかった田村君
お姉さんにはいつもお世話になってます。新垣あやせです」




「あやせちゃんはあんちゃんの友達なんだよな、それなら今日から
俺らも友達みたいなもんだね」

そして延々とお兄さんの武勇伝や素晴らしさ、"賢者の石"の件は
褒めているのか貶しているのかは分からなかったけれど・・・彼がお兄さんの事を
本当に尊敬しててわたしにそれを伝えようとしている情熱だけは凄く感じた。

「しかしあんちゃんも冷たいよな、たまには顔見せろっての。
でも別にここで顔見なくたって姉ちゃんは毎日あんちゃんと学校で会ってるんだろ?」

思わぬ所からわたしがここに来た理由の確信に迫ろうとしていた。
わたしは一言も聞き逃さないようにお姉さんを見つめる。

「きょうちゃんはきょうちゃんだよ。ずっと…何も変わってないよ。
あれ………あやせちゃんどうしたの?」

「え?何でも無いですよ…お姉さん…」

露骨に動揺してしまいました…。
きょうちゃんはきょうちゃんのまま…か。

「ま!そっか。前なんか姉ちゃんと一緒に風呂入ろうとしてたもんな…
あんちゃんを崇めてるけどあれはハード過ぎて未だにちょっと引くよな…
ま!あんちゃんはあんちゃんのままならそれで良いや」

「お、ふふふお風呂?」もう周りの反応を関係なく絶叫してしまう
わたし・・・・お兄さん、あなたをもう何と形容すれば良いのか分かりません!

「ろ、ロック!!!のバカぁ…!」
お姉さんも絶叫してた。


「それに…同じ…へやで…」

「わあはははぅぅぅ」
お姉さん?


「どうした?姉ちゃん??」

「ロックは今日はバンドの練習なんでしょ?!
町内会で演奏するって言ってたじゃない!」

「あ、ヤベ…町内会じゃないぜ、ギグだよギグ…せめてライブと言ってくれよ?
姉ちゃん。
じゃぁまたな、あやせちゃん…ゆっくりしてくれよ!」

三味線をギターケースに入れながら彼は走っていった。


お姉さんの家に来る前よりも色々な事を悩む結果になってしまう。
その後も色々な話をお姉さんとしたけれどわたしが一番確かめたかった話題には
最後までならなかった。

お姉さんの家族に挨拶して帰ろうとしている時に店先が少し騒がしい

             …べん!べん!べん!

お姉さん曰く
「あ~あれか…あれもね、ロックのぎぃぐぅらしいよぉ」

ギグ?
お姉さんの話ではどうやら彼が調子に乗って店先で三味線を演奏していたところ
思いの外好評で、特に田村屋に来る若い女性には人気があるらしい。
お店の正面に回ると確かに女子大生や女子高生が何人か集まって
手拍子したりリクエストしたりしてて彼自身も満更ではないドヤ顔で三味線をかき鳴らしていた。

その場面だけみるとご当地のちょっとした有名人の様でもあり
音だけなら確かに楽しめるレベルなんだろうと漠然と感じた。

わたしが帰るところを目撃した刹那

「あやせちゃん!帰るんだ…また来てくれよぉ。バイバイ」
とドヤ顔のままわたしに叫んできた。

                          べんべん♪

そこに居た女の子達は一瞬沈黙のちわたしの顔を見て

『え~ロックって彼女いたの?』とか『青春だね』とか
勝手な妄想でキャッキャいってるし。
デレデレしてる…大ダウン攻撃すれば良かったかな・・・・この人。
別に今日会ったばかりの人に本来は恨みはないんだけど・・・・・・。

誰かさんのせいでわたしを可愛いとか綺麗言う癖に他の女の子にも親しくしてる
同年代の男の子を見るとムカムカししまうのだ。
モデルなんてやってるのにわたしって褒められ慣れてないのかな?

「吉田兄弟みたいでカッコイイですね」と言うとグハっと彼はズッコケていた。




"2"

何の成果も無いまま来た道を戻っていると彼が息をきらして
追っかけてくる来る・・・・・・

「どうかしましたか?」

「はい…これ」
と手渡わたされたのはお姉さんが作ったものをはじめ色々なお菓子が
詰まった箱だった。どうやらお姉さんがお土産を渡し忘れたらしい。

「アディオス」と言って走り去ろうとする彼。

「あの…ちょっと待って。あの時は本当にごめんなさい!」

「え?
ああ…良い肘だったよね、はは。まぁでも事故だし、気にしないでくれよ!
それにあんちゃんが言ってた…女の子に殴られたらご褒美だと思えって!」

ハァ・・・・・・・・。

その後もお兄さんの名言、迷言、奇行、蛮行を称揚し続ける彼・・・・・

「あなたは本当にお兄さんの事が好きなんですね」

「ああ、滅茶苦茶好きだぜ!もう愛してるんだ」
お兄さん・・・・・いくら変態でもわたしは信じてますからね。

「・・・・・・・ちょっとお話したい事があります」

わたしは最後まで迷ったのだけど、結局この子に相談する事にした。
ヘタレのお兄さんの相談は勇気の出ないわたしから結局お兄さんを英雄だと
思っている彼に伝わった。

「よっしゃ!
何だか俺燃えてきたぜ…あやせちゃんは俺の上に乗った気分で安心してくれ」

はぁ~、本当にこれで良かったのでしょうか、わたし。



後日、桐乃と帰宅している時に電話が鳴る
ピピピ

「そいでさぁ…うちの兄貴ったらね…本当にさぁバカでさぁ」

「ごめん、桐乃ちょっと…」

「あ、うん…」

「はい…もしもし」

『よーっす!あやせちゃん、今大丈夫か?』
相変わらず大きくて元気な声。

「はい・・・・・どうかしましたか?」
チラと桐乃に視線を向けると目が合ってしまう

『前に相談されてた件だけど、多分謎は全部解決したぜ。
だからもうあやせちゃんは心配しないで良いから!えへへ』

「そ、そうですか・・・・それってどういう」

と聞いた所で桐乃がニヤニヤしてるのが分かる。
彼が何か語り始めようとするの牽制して後でメールすると言って
電話を切った。

「あれ~?男の人の声じゃん。あせやって、、、そういう人いたんだ?」

「ち、違うよ。と、友達・・・・そうお友達なんだ」

「へぇ~。今度紹介してよ!あやせにそういう人いるの知らなかったしぃ、、、
超興味あるんだよね」

超興味ありそうな顔でわたしの顔をのぞき込む桐乃
あ~何でそんなに嬉しそうなの、もうっ!


メールや電話で用件を済ませても良かったのだがこちらから相談してる以上はちゃんと
顔を合わせるのが礼儀だと思い、もう一度彼に会う約束をした。
それに彼の話すお兄さんの話を聞く事はそんなにイヤじゃなかったのも理由かも知れない。



「よーっす!」
待ち合わせた公園に彼はもうすでに待っていて、
ギターケースを抱えながら声と同様に元気に手を振っていた。

「お呼び立てしてすいません、お時間とか大丈夫ですか?」

「いやあ、全然!
女の子に呼び出されたら台風でも行けってあんちゃんが言ってた。
それに可愛い子と話せるのは嬉しいぜ」

ちょっと良い気分になりそうになったが、例のギグを思い出して結局イラっと
来てしまった。

「さっさと用件言って貰えませんか?」

「え?あ、はい…ご、ごめん」

わたしの煙幕に押されてさっきの勢いは消えてしまう。
お兄さんを尊敬してるならお兄さんの罪も背負ってくださいね。

「けんかしちゃだめ!だよぉぅ」

わたし達の目の前にライトブラウンの髪の子供…この子って確か…
あ、裡門頂肘の時の女の子だ。


「ロック、よーっす!」と元気に挨拶する女の子
「おう!よーっす!」と元気に返す彼。


「こ、こんにちわ!おねぇちゃん!」

「は、はいこんにちわ・・・・け、喧嘩なんてしないよ・・・ね?」

「このまえロックにきいたの…おねぇちゃん、ロックのかのじょさんなんだよねぇ?
この前はごめんなさい…しっとさせちゃってぇ」


「ちょっ・・・・・・こ、これはちょっとどういう事なんですかっ?!」

「あ、この前聞かれたから…つい」

「ついって何勝手に幼女に大嘘吹き込んでるんですか?!」

「いや…いきなり知り合いが殴られて踏まれてるのを見て、トラウマになったら
不味いかなと思って………その言い訳を」

「ちょっと・・・・いい加減にしないとぶち殺しますよ!」

「おねぇちゃん、ロックをぶちころさないで」

結局…女の子がお母さんに呼ばれるまで演技を続けましたよ。
今度から問答無用で裁くのはやっぱりお兄さん限定にしておきましょう…
こんな恥ずかしい思いをさせられるなら。

よくも恥をかかせてくれましたね
そこになおりなさいと言おうとしたら機先を制されて

「ごめん、ごめん…いやぁ助かった。有り難う、あやせちゃん」
と何度もぺこぺこ頭を下げる彼。

「はぁーもう良いですよ。
そもそも勘違いで殴ってしまったのはわたしのミスですし、これでおあいこにしましょう」

女の子がお母さんと帰る時にまた『仲良くね』と言ったのでしょうがなく二人で
全力の仲良いアピールをするわたしたち。

「いや………あやせちゃんってやっぱ良い子だよな。
姉ちゃんがいつも褒めてるんだ。
今回の事だって姉ちゃんとあんちゃんの事を心配してくれたんだろ?
…………本当に有り難う」

この人本当にお兄さんとお姉さんが好きなんですね。

ほんとうは微笑ましい光景の筈なのに・・・・・・。
わたしに感謝を述べて頭を下げて笑顔を向けられている事にとても息苦しさを感じる。

「そ、そんな事無いですよ・・・・・・・・・ほんとうに」

「謙遜しないで良いってば!
俺分かるもん………あやせちゃんはホント優しい人だってこと」




違う・・・・・本当はそうじゃない。
誠実な言葉の前にわたしは嘘をつくことがとても苦しく辛くなってきていた。
それでも何度もわたしを天使の様に褒める彼。

「・・・・・・・・ち、ちがう」

「ど、どうしたんだ?あやせちゃん」

「違う、違う、違う…ちがう、ちがう、ちがう!」

「だって二人を仲直りさせたくて色々を気を遣ってくれてるん…」

「わ、わたしの事を何も知らない癖に、わたしの事を何も分からない癖に・・・・・
勝手に勘違いして納得してお礼なんて言わないでっ!」

「……………」

「可愛いとか言うくせに、結婚してくれとか言ったくせに、
それなのに他の女といちゃついて・・・・いつも本当のわたしは見てくれないくせに
目にも写ってないくせにっ!!」

わたしは誰に向かって言ってるの?
―――・・・・・・・罪悪感、怒り、悲しみ、諦観
わたしは自分の気持ちを吐露して、何か求めているわけではないんだ
ただもう嘘をつく事が出来なくなっていた。

「上辺だけはいつもわたしに優しくしてくれても・・・・
でも、でも、でも本当は、本当は!!!
桐乃やお姉さんの方しか見てないくせに!
わたしのことは全然見てないくせに!」

と言おうとして、多分言葉にならない言葉を発した後に・・・
目の前の彼が悲しそうな笑顔をわたしに見せて何かを言ってた

「すげぇぇぇえ!!!!!
めちゃくちゃあんちゃんの事嫌いだった!んだ……ぜ、俺」

わたしよりも大きな声を出して絶叫する様に言う・・・・・彼。

「昔はさ……俺とあんちゃんって凄く仲悪かったんだぜ!
もうあんちゃんが許せなくてすげぇ憎くて親の、いや
俺の姉ちゃんの………敵って気分だった。
まぁそれくらい俺も姉ちゃんの事が大好きだったわけだけどさ」

「だからあんちゃんと姉ちゃんが仲良くし始めたらもう邪魔しまくってやったんだ。
でもさ、それでも結局どうにもならないわけじゃんか……そういう時って。
だから姉ちゃんとは口を聞かないし子供っぽかったけど飯とか食べない
なんて事もやってたんだ…へへ」

「そしたらどうしたと思う?
これがあんちゃんのロックな所なんだけどさ
毎日うちに来てずっと俺の真似してんの。
姉ちゃんとも口聞かないし、夕食出されても全然食べねぇし。
最終的にはあんちゃんと二人で親には怒られるわ、
姉ちゃんもすげぇキレて二人で土下座して謝ったりもしたんだ。
別にそれでさ、いきなりあんちゃんの事が好きになったわけじゃないんだ、多分。
でもさ、あんちゃんの事が好きな姉ちゃんなら
別に俺は多分嫌いにはならないよな?俺って…
って……だから」

「・・・・・・だから?」

だからわたしに諦めろという意味…だと思った。
お姉さんが好きなお兄さんなら嫌いにはならないだろ?
と言いたいのは分かる何よりも彼はお姉さんの弟なのだ。

「だから…姉ちゃんもあやせちゃんなら応援出来るのかなって。
あやせちゃんとあんちゃんが仲良くなってくれたら本当に嬉しいんじゃないかって
思ってさ」

「・・・え?」

「うちの姉ちゃん菩薩様みたいだからな。
だから俺はあんちゃんとは違う意味で尊敬してて、正直に言えば、
何考えてるのか俺も全部分かってるわけじゃないだけど。
あやせちゃんの事を大好きなのは保証するぜ!
だから!弟としては微妙な立場だけどさ……出来るだけだけど
俺も応援するぜ、俺もあやせちゃん好きだしなー」

「なっ・・・えと・・うん・・・・あ、ありが・・とう」

本当に人の良い姉弟なんだ…
でもこの時わたしは彼に対する疑問がだんだん頭の中に拡がるのを感じた。
何となく結局お兄さんに似てるのだ・・・・・この子
まぁ本人が尊敬しているから、そうなるのは自然なのかも知れないけれど。

それとも優しい男の子はみんなこうなのかな?




"3"

黄昏時、俺は黒猫と歩いていた。
例の騒動以来久しぶりにうちに集まって今は解散して
何故か黒猫と沙織を途中まで送る事になった。
今は沙織と別れて黒猫と二人になった所だ。
久しぶりに集まって分かった事…それは桐乃と沙織が異常に機嫌が良いなってこと。

沙織は"ですの"と"ござる"の配分がどうも変だし、
――――こんな事を本当に言って良いのか分からないのだが
前よりも美人になった気がする。
まぁ前から素顔は超美少女だったわけだが…。

そして一方我が妹は痛チャリ騒動以来、いつもニコニコ笑顔で
ちょっと気味が悪い。
別に用もなく俺の部屋に入ってきては雑誌を読んだり音楽を聴いたりして
くつろいでたりするし、
逆に例の人生相談でもないのに部屋に呼ばれて
これ美味しいから食べな、と言われてお菓子ご馳走してくれたりもする。

そして黒猫達を送ってこいと言ったのは桐乃本人だったりするのだがあいつは
何を考えているのやら……。
俺はずっと俺ら兄妹って険悪で仲悪いと思ってたけど………実はもうとっくに

そんな事をぼんやり考えていると黒猫は
「どうしたの?先輩」
と大きな眼をパチパチさせながら俺の顔を覗き込む。

こいつは転校してしまったが話を聞く限りではどうやら上手くやってるらしい。
逆に黒猫の方が俺の近況が気になるらしく………
『先輩は ~ かしら?』
の質問攻めをされている。

まぁ女子に嫌われて土下座させられそうになったり、麻奈実とも色々あるなんて
言えないよな、適当に誤魔化すしかない。

ふと……こんな姿またクラスの女子に見つかったらどうなるんだろうかという
恐怖で寒気がした。
その恐怖が現実に伝染したかの様に見知った顔が俺の前方にあって
その光景が俺に電流を流すかの如く衝撃を与える。

あれってもしかしてあやせ……なのか?
し、しかも男連れてるし………何か楽しそうに話してるよ。
何でこんなにドキドキするんだろう、ついでにかなりばつも悪い。

黒猫は俺の横顔と正面を何度か見て何かを言いかけていたが…
俺はとっさにヤバイと思い黒猫の手を引いて隠れようとした。
何でそんな事をしようと思ったのか?
何故一瞬呆気に取られていた黒猫がすぐに蠱惑的な顔になり
手を握ったまま動こうとしなかったのか?
……………その時の俺には分からなかった。

対面した二組のカップルがすれ違おうとしている………。
俺は隠れる事を諦めてあやせといる男は誰か確かめる事に意識を集中する。
―――他に何をして良いかなんて、やっぱり俺に分かるわけも無かった。

だが結局、俺のその誤魔化しもすぐに出来なくなった。

「おお!あんちゃんじゃないかよ!よよよーっす!!あんちゃん」

見た目は幾分変わった様だがその男の顔は明らかに
麻奈実の弟、ロックの元気な笑顔と声だった。
こいつ、あやせと仲良かったのか………全然知らなかったわ。

だがそう分かった後でも居心地の悪さは何故か変わらない。




「よーっす!ロックか、久しぶり!おまえ背伸びたんじゃねぇか?」

次の俺の誤魔化しは黒髪の美少女二人をスルーして
何とかロックとたわいない話をする事だったが
自分の握っている右手に圧力を感じて引っ張られる。

「先輩、紹介して貰えますか?」

「ああ…あやせとロック…あやせは知ってるよな?」

そう言って黒猫に二人を紹介してやる。
当然、あやせも自己紹介すると思っていた………のだが

「お兄さん・・・・・・彼女とは別れたと聞いてましたが?」

「へ?」

「お兄さん、わたしの言った事聞こえませんでしたか?」

「…………」

完全に存在を無視されている形の黒猫が突然笑い出した

クク…フフフ『お兄さん』…ね、懐かしい響きだわ。
私も久しぶりに言ってみようかしら……」

「兄さん、この人達に私達がどれだけ仲良いか見せつけてあげましょうよ?
ほらねぇ……兄さん」

神猫の時は手を繋ぐだけでも緊張しまくってた癖に今は手を握たまま腕まで
絡ませようとする。

「おまえ………"兄さん"は卒業したんじゃなかったのかよ?」

「………それはあの女の前だけの話よ。他の誰かに呼ばれるくらいなら
私が…ねぇ兄さん」

完全に何かに酔っている顔
―――たしかに桐乃といる時は絶対に見せない筈の闇猫だった。

黄昏に俺を兄と呼ぼうとする黒髪の美少女が二人
もう悪い予感だけが―――瘴気が拡がってる様な錯覚すら覚える。

もし仮にこの状況で儀式するとしたなら今この状況で呼び出されるものは
"とてつもなく恐ろしい何か"だろう。


『・・・・桐乃も、お兄さんも全部、全部、ぜんぶっ・・・・わたしから・・・取・・・』

あやせは何か呟いていた―――本当にまるで召喚する呪文の様に
瞳に光彩がない。
夏コミの時に一回だけ見せた冷たい表情
………あの時は多分桐乃しか見てなかった。


「……フフ
あなたこそ田村先輩の弟さんと随分仲が良いように見えるのだけど?」

黒猫はなおも空気を読まずにたたみ掛けようとする
―――と思ったが…握られた手は震えていた………。
何で今………おまえはそんなに強情なんだ?

「だ、だったら・・・・もしそうだったらどうなんですか?!
お兄さん・・・・・・。
わたしが彼と仲が良かったら、お兄さんは・・・・?」

あやせはロックの手を無意識に握って俺に問いかける
その双眼はあの時の桐乃を見る様な眼で俺を睥睨する。

俺は夏コミの後、桐乃を抱きしめて好きだと言って事態を納めた。
でも今は黒猫の手を振りほどいて、他の誰かを抱きしめるわけにはいかなった。
俺はもう無力だった……何も出来なかった。

『・・・もう・・うそ・・・つきたくない・・・・・・・つかない』

とあやせが言った様な気がしたのと同時に

            『ばぃぃぃちぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!』

何が起こったのか?
―――ロックは強引にあやせの手を振りほどき、ニコニコしながら言った。

「へへへ…冗談キツイな!新垣さん…さっき初めて会ったばっかじゃん」

と一人ロックがこの雰囲気に不釣り合いの声で続ける。




「あんちゃん、俺と新垣さんは単なる知り合いだよ!
分かってるよな?な!」

「…………ああ」

「黒猫さんもね!」  「…ええ」

あやせだけが黙っていた。顔を伏せているで表情も分からない。

「あんちゃん…俺はさ…。
あんちゃんを尊敬してるんだ!俺の目標なんだよ!
だからさ………俺にあんちゃんの事をあんまり見損なわせないでくれ……よ?」

俺は無言で黒猫から手を離すとロックに近づくと服の胸ぐらを掴んで強引に引き寄せた。
―――黒猫は一瞬だけ表情を強ばらせた。
―――あやせも伏せていた目をこちらに向ける。
多分、彼女達は圧倒的な暴力の予感がしていたのかも知れない………。
―――それほど雰囲気が悪かったのだ。

俺はそのままヘッドロックするとロックをくすぐった…………

「ぎゃはっはは…辞めてくれよ。
あんちゃん冗談だって…ひひひ…いやぁ…やめて」

最初にロックが笑った、次は俺が笑う…やっと黒猫も笑ってくれた
があやせは笑わなかった。
結局………ロックを抱きしめたって状況がよくなるわけがない。
俺は顔では笑っていたがあやせの事が気になり続けていた。

「ぎゃはっは…ちょっ…もう辞めろよ…姉ちゃんの…教えて…」

「麻奈実がどうした?」
俺はやっとロックを解放してやった。

「へへ…プレイボーイのあんちゃんに姉ちゃんから伝言だぜ!」

『きょうちゃんが女子に虐められてるのを見るのが可哀相なので
なるべくみんなを刺激しない様にそっけない態度を取ってたけれど
きょうちゃんが淋しいならいつも通りで大丈夫だから。
それにきょうちゃんがどうしても辛いなら言ってね!
わたしも一緒に女子に謝ってあげるから♪
PS今年は受験!一緒に頑張って合格しようね(ハート)』

そうか……あいつは別に俺にムカついたから無視してたわけじゃないんだ
麻奈実の行動は全部、俺の為に……我ながら情けない。
ちゃんとする――なんて多分麻奈実の前では当分しばらく言えそうにない。

「ぎゃははは…あんちゃん、相変わらずダッセな、ぷぷぷ…」

ロックが大爆笑してると………となりであやせは

「・・・・きょうちゃんはきょうちゃんのまま何も変わらないか、ふふ」

今度は狂気じゃなく本当に美少女らしく可愛らしく笑っていた。

あやせが笑い出すと今度は黒猫が何か深く考え込んでる様子。
どうやら黒髪の美少女はお互い笑うツボが違うらしい。

「お兄さん・・・・・・・わたし決めました!
今日は何が何でもぶっ殺すつもりだったけど、特別に執行猶予にしますっ!」

「へ?」
一応命拾いは出来そうで嬉しいが執行猶予とは?

「・・・・・それにわたし思ったんです。
お兄さんをすぐ楽にするのは生ぬるいのかなって。
死ぬよりも辛い後悔の方がお似合いなのかも知れないって」

可愛いらしい笑顔で鬼畜な文言……いつものあやせに戻った様だ。

「さようなら・・・・・お兄さん、黒猫さん。
あ、それと黒猫さん・・・・・あなたとは当分お友達にはなれそうにないので
暗い夜道では気を付けてくださいね♪」

「フフ…良いでしょう…ヒロインは、黒髪美少女キャラは、二人も必要ないわ」

と黒猫も物騒な事を言ってたが実は声も身体も震えていた。


ロックと俺は、相手の顔の引きつった表情をお互いに
鏡の様に確認していたのだが

「ロックさん・・・・・もう帰りませんか?」
とあやせが言った。



ロックは一瞬何を言われたのか分からない様子で俺の顔を見た。
しばらくあやせはその様子を見ていたのだが…………


「あーそうでした。
私たちは全然他人でしたね。すっかり忘れてました。
ロックさんも夜道に気を付けて帰ってください・・・・・さようなら」

と物騒な事を言ながら俺らを通り過ぎていった。

「待ってくれよ、あやせちゃん!
男は女の子の帰り道を送るのは国民の三大義務の一つだって
あんちゃんが言ってたんだから!」

とあやせを追っかけて行った。

俺は…………そんな事言った覚えねぇぞ?

―――と思ったらロックが速攻で戻ってきた。

「忘れてた。
黒猫さん…黒猫さんはあんちゃんの友達なんだよな?」

「…ええ、一応」
ちょっと眉毛をピクピクさせながら黒猫は言った。

「ならあんちゃんの友達は俺や姉ちゃんの友達だ!
気が向いたらうち遊び来てくれよ!二人共、アディオス」
と言って今度こそ消えていった。


『いつまで待たせるんですか?
わたし、今凄く機嫌が悪いんです。
それに・・・・・・わざわざ泥棒猫に一体どういうつもり?!
もうあなたからぶ・・・ち・・・こ』

みたいな怒号の幻聴が遠くから聞こえた気がしたのだが
………気のせい、気のせい

「なんだよ、あいつら結局、仲良いんじゃねぇか」

ほっとした気分と寂寥感。
でもまぁ………良かったのかもな、多分。
あれがロックじゃなかったらもっと違う気分だったのは間違いない。

「あら…先輩、ちょっと淋しそうな顔ね」

「よせよ、それにしても…やっと兄さんごっこは終わりか?」

「あら、もっと呼んで欲しかったのかしら?」

「全力でお断りします」全力でだよ!

「そう言えば…先輩は厳密には私の学校の"先輩"ではないわね?」

と独り言の様に呟いて黒猫が何か考えている表情。

「どうしたんだよ、黒猫?また兄さんと呼ぶつもりか?」

「……………………きょうちゃん」

「グハ……………お、おまえ…次は何ごっこだ?」

でも黒猫が桐乃の真似をした時の様には、麻奈実の真似をしてる感じは全くしなかった。



「ベルフェゴール……本当は…ごっごで済めば良いのだけど……」


『でもそうはいかないでしょう?』と俺に顔を向ける黒猫


―――俺もからかって瑠璃と呼ぼうとしたが

何だか黒猫の真剣な表情を見て勇気がなくなり、

麻奈実の顔も浮かんで恥ずかしくなり結局辞めた。







おわり
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