ラブリーマイエンジェル:11スレ目818


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818 名前: ◆Neko./AmS6[sage saga] 投稿日:2011/10/14(金) 21:11:04.88 ID:BOwqrdO5o [2/9]

秋晴れの空の下、縦横に白線が引かれたグラウンドは歓声に包まれていた。
毎年この時期になると、俺の高校では恒例の体育祭が開催される。
これといった特色のある体育祭でもないが、今年はいつもと違うところが一つだけあった。
春に赴任してきた校長の鶴の一声で、今回は地元住民にも公開するんだとよ。

ホームルームでも家族や知り合いになるたけ声を掛けるように言われたんだが、
今時、高校生の体育祭に興味を持つヤツなんか知れたもんだろうが。

俺も一応はお袋に声を掛けたけど、俺の学校の体育祭なんて端から興味も無いとさ。
桐乃にいたっては、素人が走るのを見たって時間の無駄と鼻で笑いやがった。
俺にだって我が家の長男としての意地もプライドもある。
家族がダメなら、将来の俺の嫁……。

「お兄さんが何を言いたいのか、わたしにはまったくわかりませんけど」

「まぁそう言うなって、あやせが怒るのも無理はねえけど、
 俺にもプライドってもんがあるんだからさぁ」

「お兄さんのプライドはどうでもいいんですが……」

いつもながら、あやせは普通なら言い難いことをさらりと言いやがる

「それにしても、午後からでも良かったんですか?
 本当は朝から来られたら良かったんでしょうけど、ちょっと用があったものですから」

「午前中の俺の大活躍を見てもらえなかったのは残念だけど、
 こうして見に来てくれただけでも十分さ。それに、午後も俺が出る競技があるし」

あやせは校舎や体育館を物珍しそうに眺めながら俺の後を付いてきた。
二階建ての体育館や、部室専用の建物なんかも珍しいのかもな。

「……地元の人に体育祭を公開するという趣旨はわかりますけど、
 でも、そんなことをして変な人が紛れ込んだりしたらどうするんですか?」

「あやせが心配してんのは、盗撮とかそういうことだろ?」

盗撮に関しては学校側とPTAとの間でも何かと議論があったと聞いた。
ブルセラ趣味の方々が、ビデオやカメラ片手に大挙して来るんじゃねぇかとな。
結局、学校側が厳重な対策を講じる方向で話は落ち着いたらしいが……。

819 名前: ◆Neko./AmS6[sage saga] 投稿日:2011/10/14(金) 21:11:37.40 ID:BOwqrdO5o [3/9]

「ほら、あやせにもあれが見えるだろ、あれは高性能集音マイクさ。
 別室に放送部の精鋭が詰めてて、そこで体育祭に不釣合いな音はすべて傍受してるらしい。
 もし不審な音が聴こえたら、各所で警戒してる別働部隊に警報を出すことになってる」

どこから調達してきたのか知らねえが、デジカメのシャッター音はもちろんのこと、
ビデオカメラの中で回る微かなモーター音まで拾えるらしい……かどうかは分からねぇけど。
まるで、ハンドバッグの留め金を外す音を拳銃の撃鉄を起こす音と思い反応するゴルゴ……

「音だけで、誰が盗撮したかまでわかるんですか?」

「それは心配ない。校舎の四階の窓を見てみろよ……」

校庭が隅からすみまで見渡せる校舎の四階の窓には、迷彩服を着た一団がうごめいていた。

「同好会の連中なんだけど、野鳥研究会のメンバーが双眼鏡で監視してんだよ」

「双眼鏡って……逆にあの人たちが盗撮するようなことはないんですか?」

「あいつらの中にも同じクラスのヤツがいるけど、人間の女の子には興味がねえんだよ。
 もっぱら仲間内の話題といやぁ、どの野鳥の色彩がそそるかってことだし」

「………………」

「野鳥研のメンバーがあの窓から見てて盗撮犯を特定すると、捕獲部隊に連絡が入って……
 捕獲部隊ってのは柔道部と剣道部の連中な――」

「何もそこまでするなら、一般公開なんてしなければいいじゃないですか」

「体育祭実行委員会の顧問が年季の入ったサバオタらしくてな、
 そのうえ学年主任も兼ねてっから、もう誰にも止められなかったらしいよ」

俺が沙織から聞きかじった程度のサバオタ知識を披露したところで、
その手の世界にまったくと言って無縁のあやせには何一つ理解できないだろうし、
あやせには、そういうオタクが世の中にはいるってことで納得してもらった。

820 名前: ◆Neko./AmS6[sage saga] 投稿日:2011/10/14(金) 21:12:08.89 ID:BOwqrdO5o [4/9]

体育祭実行本部が設けられたテントでは、ゲー研の後輩である真壁くんが来賓にお茶を出したり、
各クラス毎の得点を集計したりと忙しそうに動き回っていた。
今回の体育祭では、二年生の真壁くんもクラスを代表して実行委員の一人だ。

「おうっ、真壁くん……来賓席って、まだ一つくらい空いてっかな?」

「えっ、ああ、高坂先輩じゃないですか。
 席ならまだ余裕がありますけど――って、こちらの方は?」

「こいつは俺の知り合いで、あやせ――新垣あやせって言うんだ」

真壁君は簡単な自己紹介を済ませると、来賓席の一つをあやせに勧めてからお茶を出した。

「何だか、高坂先輩の性癖っていうか……女性の好みに共通点があるようですが、
 もしかしたら僕の気のせいですか?」

いや、真壁くんの気のせいでもなんでもねぇよ、俺は黒髪ロングの美人が大好きなんだよ。
ほっとけっつーの。

「高坂先輩、午後はどの競技にエントリーしてるんですか?
 そういえば、何だか午前中も先輩の姿が見当たらなかったんですけど……」

俺の学校の体育祭は一、二年生がメインで、三年生は裏方に回ることが多い。
とはいえ、三年生も一応は競技に参加することになっていて、
午前中と午後の競技にそれぞれ一つ以上エントリーすればいいんだ。

「何言ってんだかなぁ、午前中の三年生の綱引きには俺も出てたろうが。
 ちなみに、午後は借り物競争にエントリーしてるんだぜ」

「高坂先輩の出る競技って、どれもこれも他人任せって言うか……
 手を抜いても分からないものばかりじゃないですか」

あやせが横で可笑しそうに笑っているのに気付いた真壁くんは、

「新垣さん、後輩の僕から言うのもなんですけど……
 高坂先輩のような人を彼氏になんかしてると、将来が思いやられますよ」

821 名前: ◆Neko./AmS6[sage saga] 投稿日:2011/10/14(金) 21:12:45.02 ID:BOwqrdO5o [5/9]

なっ! 何を言い出すんだ真壁くん! 
あやせにそんなことを言ったら、俺がこの場で土下座しなきゃなんねぇだろうが。

土下座ならまだしも……

どっちにしろ、俺は卒業までの残り数ヶ月を超有名人で過ごすことに変わりはない。

「真壁さん、お兄さんはこんな人ですけど、わたしには結構優しいんですよ。
 いつもわたしのことを気にかけていてくれるんです」

想定外のあやせの言葉に思わず顔を見ると、目が笑っていなかった。
このままだと真壁くんが地雷を踏み、あやせが爆発するのは時間の問題かもしれん。
吹っ飛ぶのはいつだって俺じゃねえか。

「あっ、俺、そろそろ借り物競争の準備しなくちゃなんねぇからさぁ……」

「お兄さん? 借り物競争にどんな準備があるんですか?」

「そうですよ先輩、借り物競争なんて封筒に入ったお題を見て、
 書いてある物を会場にいる人から借りてくればいいだけなんですから」

「そうは言うけどな、借り物競争で借りられる物なんて高が知れてっだろ。
 例えば眼鏡だったら誰が掛けてるとか、帽子だったら誰に借りようとか……
 んなわけで、今のうちに目星を付けとくのが借り物競争で勝つための鉄則なんだよ」

「あっ、そういえば……借り物競争は赤城先輩の担当なんですが、
 赤城先輩って高坂先輩とは同じクラスでしたよね。
 先輩なら、赤城先輩が出すお題の傾向が分かるんじゃないんですか?」

そういや、俺のクラスじゃ赤城が実行委員会のメンバーだったな。
赤城が借り物競争の担当かよ……最悪じゃねぇか。
あいつのことだ、まともな物を借りてこさせるような詰まらねぇ真似は絶対にしまい。

「いや、俺なんかよりメンバーの真壁くんのほうが知ってるんじゃねぇのか?」

822 名前: ◆Neko./AmS6[sage saga] 投稿日:2011/10/14(金) 21:13:20.86 ID:BOwqrdO5o [6/9]

「……それなんですが、赤城先輩は委員会のメンバーにも見せてくれないんですよ。
 昨日も体育倉庫に一人篭もってやってたみたいですから」

「お兄さん、わたしも出来るかぎり協力しますから頑張ってください」

「僕もゲー研の後輩として、微力ですが協力させてもらいます。
 借り物競争の時間はこの本部に詰めていますから、何でも持っていってください。
 パイプ椅子だろうと折りたたみ机だろうと、何でしたらテント一式とか」

パイプ椅子はともかく、テント一式なんて解体してる間に日が暮れちまうわ。
しかし、こうして協力を申し出てくれるあやせや真壁くんの手前、俺も頑張るしかねえな。

あやせを交えて真壁くんと三人で談笑をしていると、
いよいよ俺が出場する借り物競走の開始を告げる放送が入った。

「じゃあいってくっから。……いざというときは、ここへ走り込んでくっからよろしくな」

クラス対抗戦で行われる借り物競争の出場枠は、各クラス五人だ。
一着から順位に応じた得点が入る仕組みで、俺の出番はラストを飾る五人目。
俺の格好いいところをあやせに見せる又と無いチャンスなのに、
待てど暮らせどなかなか順番が回ってこない。

注意深く見ていると、お題が入った封筒を開けるまでは何の問題もないようだ。
しかし、お題を見た途端、絶叫する者や途方に暮れて立ち尽くす者が後を絶たない。

それでもこの春に赴任したばかりの若い女性教師をおんぶしたり、
体育祭実行本部のテントから折りたたみ机を担いで運んでいるところを見ると、
赤城も初めっから不可能な物をお題に選んだわけではなさそうだ。

競技も終盤に差し掛かり、ようやく俺の出番が回ってきた。
俺はピストルの合図とともに駆け出し、箱の中のお題が入った封筒を摘み上げた。
体育倉庫に一人篭もっていたという赤城の顔を思い浮かべながら開封する。

823 名前: ◆Neko./AmS6[sage saga] 投稿日:2011/10/14(金) 21:14:02.61 ID:BOwqrdO5o [7/9]

  『妹(いもうと)』


ぶぁっかじゃねーの!?

同じ学校に妹がいる赤城ならともかく、桐乃がこの体育祭に来ているわけがねえ。
俺の隣りで同時に封筒を開けたヤツも途方に暮れている。
多分、コイツのお題も簡単に借りられるようなもんじゃねぇんだろうな。
しかしこうしちゃいられねえ。
俺はあやせや真壁くんのいる本部テントへと走った。

「高坂先輩っ! お題は何なんですか? ここにある物で間に合いますか?」

「ま、まぁ……間に合うといえば言えなくもねぇんだけど……
 とにかく、あやせっ! 俺と一緒に来てくれ!」

「わっ、わたしがですか? お題は一体何だったんですか?」

「いや、ちゃんと説明してやりたいんだけど……」

俺たちより少し離れたところで、お題の紙を手に先生と交渉しているヤツがいた。
『先生』がお題なのかと思いきや、テントのポールを両手で掴み懇願している。
まさかとは思ったが、『テント一式』だったとは……

「あやせっ! とにかく時間がねぇんだ! 後で何でも言うこと聞いてやるから、な」

渋るあやせの手を掴み、俺たちは借り物競争のゴールへと走った。
ゴールで待ち構えているのは、このふざけた借り物競争の発案者である赤城浩平。
俺たちは寸でのところで抜かれて二番目でゴールし、赤城の判定を待つ。

競技の前に聞いた説明では、お題と借りてきた品物が一致しない場合には、
こじつけだろうと何だろうと赤城の判定が最後にものを言うそうだ。

824 名前: ◆Neko./AmS6[sage saga] 投稿日:2011/10/14(金) 21:14:43.62 ID:BOwqrdO5o [8/9]

俺たちをゴール寸前で追い抜いたのは、先ほど本部で見かけた『テント一式』。
しかし、手にはポール一本どころか、お題の書かれた紙しか持っていない。
赤城はお題を確認してからそいつに問うた。

「お題は『テント一式』のはずだが……テントはどうした?」

赤城に問われると、そいつはおもむろにジャージのズボンの中に手を突っ込み、

「…………テントっ!」

「ごぉ――――かぁ――――――くっ!!」

――マジっすか!? 何それ……。
確かにテント一式なんて土台無理な話だし、懇願された先生だって困ったろうよ。
しかし、そんなもんで合格っていうなら話は簡単だ。
俺だって股間を股に挟み込んで、ジャージに両手を突っ込んで胸のふくらみを作れば
即席の桐乃が完成するじゃねえか。

「……お兄さん、何なんですかこの競技。
 まさか、お兄さんまでこんなふざけたマネはしないでしょうね」

「俺の場合は手ブラ――じゃなくて、あやせがいるから大丈夫だ」

あやせが俺の横にいることをすっかり忘れていた。

「ようっ、二番目は我がクラス期待の星の高坂じゃねぇか。
 おまえは確か午前中の綱引きと、この借り物競争にエントリーしてたんだよな。
 ……で、お題は何だった?」

俺は、お題が書かれた紙切れを赤城の目の前に突きつけた。

「……『妹(いもうと)』って書いてあんけど、その子はおまえの妹じゃねぇよな。
 いくら同じクラスのヤツでも、審判という立場上目こぼしするわけにはいかんぞ。
 さあ、高坂、この場はどうやって切り抜けるつもりだ?」

825 名前: ◆Neko./AmS6[sage saga] 投稿日:2011/10/14(金) 21:15:38.97 ID:BOwqrdO5o [9/9]

俺とあやせを交互に見やりながら、赤城はニヤリと不敵に笑った。
赤城はこれまで桐乃とは面識がないはずだが、俺たちも長い付き合いだし、
桐乃の顔くらい知っていたとしても不思議じゃない。

誤魔化しが利かないとなれば、この際こじつけだろうが何としてもこの場は凌いでやる。
俺はあやせを背後からしっかりと抱き締めると、自信満々で叫んだ。


「赤城っ! あやせはなぁ……あやせはなぁ――

 俺の……ラブリー “妹(マイ)” エンジェルなんだぁぁぁぁぁぁぁぁ――――っ!」


すべての競技が終了し、俺たち三年生に残された最後の仕事は撤収作業だけだ。
先輩達から脈々と受け継がれてきた我が校の伝統の体育祭。
次は、真壁くんたち今の二年生が裏方に回って体育祭を盛り上げていく番だ。

あやせは片付けが終わるまで、校門の外で俺を待っているという。
茜色に光り輝くいわし雲――その神々しいまでの美しさに思わず見惚れていると、
鼻に詰め込んだ血染めのティッシュがポロリと抜け落ちた。


(完)
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