神無月:11スレ目727


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

727 名前: ◆Neko./AmS6[sage saga] 投稿日:2011/10/02(日) 01:43:53.03 ID:0mQJ8Nn9o [2/5]

神無月――
いにしえより十月のことを別名で神無月と言う。
全国津々浦々の神様が縁結びの会議を開くために出雲へ集まるそうだ。
だから出雲の他のところじゃ神様が留守になるらしい。

俺と黒猫を結びつけた神様も、今頃は出雲へ向かっている頃かもしれん。
今更文句を言ったところで仕方のないことだが、こうもアッサリと縁が切れたんじゃ
適当に結びやがったんじゃねえかと疑いたくもなる。
もっと丈夫な何かで、一度結んだら二度と解けないような……

「たとえば手錠とかさ……」

「えいっ!」

「痛っ! あにすんだよっ」

秋晴れの空の下、他愛もない妄想に耽っている俺の足に激痛が走った。
驚いて辺りを振り返ってみると、そこにはラブリーマイエンジェルあやせたん……。

「何でこんなところにあやせがいるんだよ」

「それはわたしの台詞です、ロリコンのお兄さん。
 どうしてお兄さんが幼稚園の運動会を観戦してるんです。
 彼女に振られて、一気に守備範囲を幼稚園児にまで拡大したんですか?」

「俺はロリコンじゃねーし、つーか、幼稚園児じゃペドになっちまうだろうが」

俺がロリコンなのかペドなのか、それともギリギリでセーフなのかで小一時間。

「……なあ、この不毛な議論をいつまで続けるつもりだ?」

「お兄さんがなぜ幼稚園児の父兄に交じって運動会を見ていたのか、
 わたしが納得するよう正直に話してくれるまでです」

あやせの目を見れば正直に話すしか俺が助かる望みはないようだった。
なぜならあやせは防犯ベルの紐を指でつまみ、今にも引き抜こうとしていたからな。
俺は静かな場所で話したいと思い、あやせをいつもの公園へと促した。

728 名前: ◆Neko./AmS6[sage saga] 投稿日:2011/10/02(日) 01:44:28.44 ID:0mQJ8Nn9o [3/5]

「……そういうことだったんですか。
 でも、それならそうとおっしゃってくれればよかったじゃないですか」

演技の欠片もない、何の誇張もない淡々とした俺の説明にあやせは納得した。
そして何か物思いに耽るように口を閉ざすと、寂しそうに俯いた。

「……何だか年上の兄妹がいるっていいですね。
 自分の小さかったときのことを憶えていてくれるなんて、ちょっぴり妬けちゃいます。
 わたしにもお兄さんかお姉さんがいてくれたら……」

明るい笑顔が印象的なあやせには珍しい寂しげな表情。
こんな時、俺はどうすりゃいいんだ? 
適当なことを言って誤魔化しても、余計あやせを傷付けちまうだろうし……。

「わたしって馬鹿みたいですよね……。
 親友のお兄さんなのに、まるで自分のお兄さんのように我がまま言ってこき使ったり……
 理不尽にも叩いたり蹴ったり……今まで、本当に申し訳ありませんでした」

あやせのような一人っ子の寂しさを俺は知らない。
桐乃のような生意気な妹でも、ときには満更捨てたもんじゃねえなと思うこともあるし、
かと言って煩わしいと思ったことも一度や二度じゃきかない。
しかし、それもこれもあやせから見れば贅沢な悩みなのかもしれん。

「もし、生まれ変わることがあるなら……わたしは、お兄さんの妹に生まれ変わりたい。
 いっぱい我がまま言って、いっぱい甘えて……えーと、それから……」

兄妹のいないあやせにとって、兄妹に対する思いも一層なのかもな。
照れて顔を真っ赤にしながらあやせは『えーと、えーと……』と繰り返す。

「あ、そうだ。……心が折れそうになったときは、ポン! と頭に手を置いてもらいたい。
 そうしてもらえたら、まだ頑張れそうな気がする――あっ、ちゃんと頑張れたときもですよ」

「すまねぇけど、俺はあやせの兄貴になるのだけは勘弁してもらいてぇな」

あやせの顔が、一瞬にして狼狽の表情に変わった。

729 名前: ◆Neko./AmS6[sage saga] 投稿日:2011/10/02(日) 01:45:08.12 ID:0mQJ8Nn9o [4/5]

「……調子に乗ってしまってすみませんでした。
 わたしみたいな女の子のお兄さんなんて、誰だってなりたくないですよね」

唇を噛み締め、今にも泣き出しそうなあやせ。
別に、俺はそういう意味で言ったんじゃねえんだけど……

「なぁあやせ、誤解の無いようによく聞いてくれな。
 俺が兄貴だったら、俺はおまえのことを四六時中考えてる変態兄貴になっちまう。
 今だってシスコンだの何だのって言われてんのに、あやせが俺の妹なら……
 これ以上は言わせねぇでくれ、恥ずかしい!」

あやせの顔から狼狽の色は消えたが、その瞳から光彩も一緒に消えた。

「今でも十分に変態のお兄さんだと思っていますけど……
 まさか、桐乃に対してもいやらしい目を向けてるんじゃないんですか?
 もし桐乃に手を出したりしたら、速攻でぶち殺しますよっ!」

うん、よしよし、そうこなくちゃいつものあやせじゃねぇよ。
やっぱ、あやせは普段の笑顔のときと、俺を罵ってるときが一番輝いてるよ。
何とか妙な雰囲気からは抜け出せたが、しかし解決ってわけじゃねえ。

「あやせ、俺がおまえの実の兄貴になることは現実的にも不可能だ。
 そこで一つの解決策を思いついたんだが……」

「わたしがお兄さんの彼女になるなんて太陽が西から昇るよりあり得ないことですが、
 一体どんな解決策を思いついたんでしょうか?」

「――ちょっと待ってくれ、もう一度俺の解決策を自己検証してみっから」

おまえは超能力者かっつーの。
どう考えても無理の無い良策だと思ったけど、先手を打たれちまったら仕方がない。
でも、あやせが俺の彼女になってくれれば四方八方丸く収まるじゃねえか。
あやせは兄貴が欲しい、俺はあやせが欲しい……人間、ときには妥協が必要なんだよ。

「あの……お兄さん、それじゃあわたしのほうから提案してもいいですか?」

730 名前: ◆Neko./AmS6[sage saga] 投稿日:2011/10/02(日) 01:45:57.03 ID:0mQJ8Nn9o [5/5]

あやせは俺から目を逸らすと、ゆっくりとその提案とやらを話し始めた。

「わたしがお兄さんの彼女になることは出来ません。
 あっ、でもでも、嫌いだとかいうんじゃありませんから誤解しないでください。
 わたしはまだ中学生だし、男の人とお付き合いするのはまだ早いと思うし……」

「無理しなくてもいいって、俺のことを嫌いじゃないって言ってくれただけで十分だから」

一向に話が進まねぇな。
俺だってあやせが彼女になってくれるなんて本気で思っちゃいねえし、
あやせのようないいヤツには、俺なんかより相応しい彼氏がいつかは現れるだろうしな。
こうして悩み事を話してくれるだけで、俺にしてみれば十分に贅沢なもんさ。

「お兄さんそうじゃなくて、わたしが言いたいことは……」

言いよどむあやせの口が再び開かれたとき、俺はこの日を一生忘れないと心に誓った。
俺の目を真っ直ぐに見据え、はっきりとした口調であやせは俺に言った。

「……お友達から始めさせてください。
 親友のお兄さんとしてではなく、わたし自身の仲のいいお友達として……。
 呼び方は……今までどおり、お兄さんになってしまいますけど」

「そっか、そういうことなら俺も……今までどおりあやせって呼ぶわ。
 これからもよろしくな、あやせ」

「はいっ、わたしこそよろしくお願いします、お兄さん」

いにしえより十月のことを別名で神無月と言う。
全国津々浦々の神様が縁結びの会議を開くために出雲へ集まるそうだ。
当然のように俺の地元の神様も留守ってことだろう。

俺は秋晴れの空の下、西の空に向かって叫びたい気持ちだった。
おいっ! 疫病神! 二度と地元へ帰って来んなっ――てな。


(完)
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。