「高坂京介は落ち着かない」01


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こんな年の瀬に、夜の街路をダバダバ走るのは誰だろう。
それは俺と加奈子だ。俺は喚く加奈子を追い立てながら駆ける。

「お前な、悪態ついてる暇があるなら足動かせ!」
「ったくアイツらしつこすぎだっつーの、最悪最悪ー」
「酔っ払いに絡まれたくらいで挑発的に返すからだろ…」

その酔っ払い連中は執拗に後を追ってくる。
よぅよぅお嬢ちゃん俺たちと遊ばない?とか、こんなちんちくりん相手に絡むとは奇特な奴らだ。
俺の存在なんかガン無視だったしね

「チクショー調子こきやがって。なんで加奈子があんなのに逃げなきゃなんねーのよっ」
「そりゃお前、そんなカッコで迎え撃ちも何もないだろ」

イベントの打ち上げとやらで例によってコスプレ姿のままじゃあ
さすがの加奈子も分が悪いと理解はしているだろうに。
つーか酔ってる連中と並べても遜色ないくらい口汚いコイツってば……

「糞マネ、まじぃ。この先いま通れなくなってんじゃん?」
「冗談ぶっこけ!!いや…金網張ってても蹴破りゃいいだけだ!」

この間にも連中は下卑た笑い声を上げながら迫っている。
普段はまともなのかもわからないが、このイカれた状況には危機感が募った。
押し寄せる奴らが力づくで来たなら、マズイな確かに

破った網の隙間をどうにか抉じ開けて、それでも加奈子は通るのに苦戦している。
どうやら……腹を据えるしかないようだ。

「糞マネ!なにやってんだ、ぐずぐずしてないでアンタも早く潜って来いよ!洒落になんねぇぞ!?」

一際大声で喚く加奈子に背を向けて、俺は金網の隙間を塞ぐ位置に立ち止まる。

「いいから一足先に行け。こんな時にお前を逃がせなくて何のマネージャーだ。たまには格好つけさせろ」

けど急いで助け呼んでくれよと付け加え、問答の時間はそこまでだった。連中が俺の眼前まで駆けつける。
獲物を逃した怒りの矛先が突きつけられるのは火を見るより明らかだ。
さて…どうする、どうなるよ俺?


1.運良く加奈子が近くを警ら中の警官を連れてきてくれる
2.ハンサムな京介はこの場を切り抜ける良いアイデアを思い付く
3.連中にボコられる。現実は非情である

結果から言うと、腕に覚えもない俺がのされないわけがない。
話し合いの余地も無かったしな。
アイツを逃がせただけでも最低限の面目は保てただろう

……何分か、あるいは十数分は経ったろうか。
まだ俺に辛うじて意識のあるうちに加奈子が助けを呼んできた。
中には警官もいたらしく酔っ払い連中の二人三人は捕まり、残るは三々五々逃げだした。
やれやれだぜ、と嘯くのも億劫なところへ加奈子が歩み寄ってくる。

「アンタ、あんな啖呵きるようなこと言っといてさ。何そんな、ボロボロ」

おいおい、酷ぇな。体張って荒くれから逃がしたんだ。他に言い様が…
そう軽口で返そうとしたが、意外にも加奈子は割りとマジで心配の表情をのぞかせた。
コイツのこんな顔見るの初めてなんじゃなかろうか。

「糞マネ、もう加奈子の担当降りるって言ってたじゃん。なのになんでそこまでするワケ…?」
「ばーか。今日でおしまいだから、面倒の見納めってことだ。そんな面は似合わないぜお前」

まったく、しおらしい様子の加奈子は見てられなかった。現にこうして俺も無事だったんだしいいじゃないか。
そう言うと、加奈子が半ば憤然とまくし立ててくる。

「バカはアンタだっつーの! 気付いてねーの!その……腕」

ん、腕??
指差されるままに視線をやれば、何ともはや。金網の一部が刺さって貫通していた。
驚き咄嗟に指を動かすと支障はなかったんで、そこは一安心だが。抜くときの出血が恐いな。

「なに、見た目ほど大したことないさ。そんなに心配してもらえるとは光栄だ」
「茶化すなよ……アンタ普段はあんだけあたしのこと我が侭だのガキだの言っといて…」

こんなの反則じゃん、と弱々しく呟く加奈子に、瞬間なぜか胸を打たれるような感じがした。
感謝してくれるのは結構だが、涙を見せられるのは本位じゃない。
気がつくと俺は、震える加奈子を抱き寄せて「泣くなよ」などと声をかけてたりするのだった。


感極まった加奈子をなんとかなだめて、
傷が治ればまた連絡すると約束させられ、この日は幕を下ろしたんだが。

その後、名誉の負傷のために何日か学校を休む羽目になったところへ
桐乃を訪ねて家へ来た加奈子と思ったより早い再会が待っていたのはまた別の話だ。

それからどんどこしょ

今年も残すところ僅か。もう大掃除もしないと。

などと勉強に身の入らない合間で考えていると、階下で呼び鈴が鳴る。
どうやら今日もアイツが…加奈子がやって来たらしい。
律儀に連日見舞いに通う必要はないと言い含めたつもりだが
なかなかどうして、義理堅いやつなのだった。

「来てやった。調子はどうよ?」
「どうって言ってもな。昨日今日で完治したり、逆に急に悪化したりはないさ」

経過良好ではある。例えば食事時なんかも不自由しない。すこし違和感はあるが

「折角の見舞いだ、有難く思うけどな。そんな大事じゃないんだぞ」

実際親だってケガの程度が知れたら、せいぜい無理するな云々で済ませたくらいだ。
あれは泣いてもよかったよね、俺
そういや桐乃だけが意外と親身に気を遣ってくれていた。
またゲームの影響か何かで甲斐甲斐しい妹像に入れ込んでるんだろうか

とにかく、そう足しげく通ってまで俺の顔を見ないと落ち着かんのかと。軽い揶揄を投げかけるものの

「……悪いかよ」

とまぁ、ご執心な加奈子なのだった。
借りを作ったと思ってるらしい。だから返さないと気がすまないってか。

「糞マネがさぁ」

一瞬間を置いて

「アンタが、不便してたり、変に塞ぎ込んでたりしたら悪いし…」

心配性なやつめ。俺からすれば、お前のが気に病みすぎて具合悪くしないか気になるっての。

「しかしあれだ。こうしてバレたから話せる。知っての通り俺は曲がりなりにも受験生の身でな」

だからケガのことを別にしても加奈子のマネージャー稼業を続けるには無理があるんだな。
稼業ってか、ギャランティのやり取りがあったでもなし、単なるごっこの延長とも言うが。
その点がどうも加奈子には納得しがたいようで、

「正規のが無理ってのはわかった。いくらアタシでも受験の邪魔して落第でもされたら寝覚めよくないかんね」

でもさー、と続けながら、いつの間にか持ってきていた果物を乗せた盆を差し出す。
俺、病人じゃないんですけど?
っていうかそれ見舞いの持ち込みでなくて下のリビングから持ってきたろ。
侮りがたい子……と思い知りつつ、蜜柑をひとつ手に取ってみる。
ほんの数日でやけに馴染んでるなぁコイツ。ただ、不思議とそこに抵抗感は無かった。

「でもさー、マネジは別のに引き継ぐにしても、加奈子としちゃアンタみたいな…何ちゅーのかな…
  ずけずけ物言うような、気心の知れた?やつが居てくれねーとやりづらくなりそうだし」

つまり加奈子の言わんとしてるのは、時々でいいから今後も愚痴や相談相手として協力してくれと。
そんなニュアンスみたいだった。
頼むとか、お願いとか、口には出来ないのがコイツらしくて。思わず苦笑を漏らす。

「いいぜ。それくらいなら」
「マジに?」
「何時でも、とは約束できないけどな。それだけ頼りにされて断ったら男が廃るってもんだ」

正直まんざらでもない自分がいる。
こないだまで結構辛口で諌めるように接してたから、もしか煙たがられてるかもと認識してたのに
それでもコイツは俺に居て欲しいと、そう言うんだ。偽とはいえマネージャー冥利につきる。

「…やっぱアンタって気前良いっていうか、痛い目みてまで加奈子に付き合ってくれんのは、なに?ロリコン?」
「馬鹿も休み休み言いやがれ」

チビジャリの頬をつねってやる。真似をした。
お互いに照れ隠しでやや乱暴なセリフを交わしたところで、加奈子がニヤリと笑って言う

「改めてヨロシクな、京介」


<終>
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