「高坂京介は落ち着かない」02


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 年の瀬も押し迫り……なんて常套句が毎日のように浮かぶ12月末。


 沙織が「京介氏の慰問会を開きませう」とか言って、控えめながらクリパの場を設けてくれたり、
(アイツの心遣いには頭が下がるぜ本当)
 黒猫が「邪魔にならないといいけれど」と腕の通しやすい上着を拵えてくれたり、ゲー研の連中は、冬コミは申し訳程度しか参加できないと伝えたんだが、暖かい励ましで迎えてくれた。
(代わりとばかりに武勇伝をせがまれもした。ないから、そんなん)
 麻奈実やあやせたんも「手伝える事があれば気兼ねなく言って(ください)」と宣う。
 俺ってば思ったより愛されてんのかしら…と感慨も大きい。


 そんなこんなで早30日。
 親父もようやく休みに入ったかと思えば、年末年始の警ら体制がどうこうと助力を請われたようで、完全にリラックスする訳に行かない様子だ。
 そんなこんなを配慮してか、お袋はさっさと正月休みに要ると思われる買い物をリストアップ、俺に渡して自分は夫婦水入らずと決め込んでいる。


 車も無しに面倒な任務だが…まあ、たまにはいいだろう。
 二人とももう今年中にすべきつとめは果たしたんだし。
 かくして俺はカートを引き摺り出して玄関に立つ。


「桐乃、もうそろそろ出掛けるぞ?」
「いま行くからちょっと待ってってば~」


 なんてやり取りを数回経て、小綺麗なジャケットを羽織った妹が下りてくる。
 少し軽装な印象なんだが、昼間だし、あんなんでも足りるのかな。行ってきますの一声をかけ、買い出し行の始まりだ。


「なぁ桐乃」
「うん?」
「昨日にも言おうとしたんだけどな。お前、冬コミのほうはいいのか」


 筋金入りのオタである妹にとって一大イベントなのは確かだし、それ以外に黒猫のサークルの件もある。
 俺が参加を見合わせるのはともかく、今回桐乃には俺のぶんまで遺憾無く楽しんで来てもらうか……という想定はあっさりスカされた。


「別に問題ないって。店舗で委託販売するとこは抑えてあるし、何ヵ所かは沙織に頼んだし」
「そりゃ…あとでキチンと礼しとけよ?」
「もちろん。当たり前じゃん。
 黒いのの方は、朝から付き合えないのはゴメンだけど、陣中見舞いに顔出すつもり」


 なるほどね。ちゃんと話をつけてあるならいらん心配だったか。
 おそらく現場主義に見える桐乃がこうして残ったのは俺を気遣ってなのだろう。
 こうも気にかけられると何ともこそばゆい心境だよ全く。


 関東でもことに千葉は暖かいほうだ。この時期なのに10℃以上になるくらいだもん。
 ただ、今日はやや風が冷たい。首にかけたマフラーを気持ち内側に巻き直す。


「……結構使ってくれてんだね、それ」


 チラッと視線を寄越して妹は言う。
 去年麻奈実にもらったのは、それはそれで重宝していて。今年も早くに箪笥から出したところ、桐乃のやつが「こっちの柄のが合う」と渡してきたのが今巻いている物なのだった。
 以来は交互に着回している。


「ああ。突然『兄貴に受け取ってほしいものがある』なんて言われた時は何かと身構えちまったけど桐乃にしては実用的だよな、これ。ありがとよ」
「桐乃にしては、が余計だっての」


 クスリと笑う俺の妹様である。
 コイツ、ここしばらくで随分態度が軟化したんじゃね?
 理由はわからないが、喜ばしくもあり、反面どうも落ち着かない感じもある。


 世にある普通の仲が良い兄妹という枠に収まるには、俺たちの間にはこう…しこりのようなものが残っていたはず、なんだが……?


 いつかの偽装デートの時のように、あるいはあのとき以上に自然に俺と妹は隣り合った距離を保ち、歓談しながら街路を行くのだった。
 買出しと言っても、任されたのは嵩張らないものだけだ。
 そごうの中だけで大抵の用は足りるっぽい。
 ほかダイソーやパルコにも寄る予定だが、さして時間も食わないだろ。


 入口前の椅子に、一足先に来ていた彼女がケータイと睨めっこしているのが見えた。
 皆まで言うこたないよな。加奈子だ。


「よう、待たせたか」


 遠めから声を投げかければ、ハッとこちらに向き直り、トテテ……と駆け寄ってくる。
 何とも子犬ちっくなヤツである。
 マネージャーやってた頃とは随分な態度の違いだ、そう思うと苦笑も浮かんだ。



「桐乃も来るなら言ってくれりゃよかったのによ。
 てゆーかぁ、お前ら兄妹なのにソレは無くない」


 ???
 ソレとは?
 今日はいつかみたいに手を繋いだり、まして腕を組んだりもしてない。
 はて…と桐乃を見やると、小さい子がするように指先で俺の上着を摘まんでいた。


「いつの間に、ってか何やってんのお前?」
「い、いいじゃん別に、兄妹だって、これくらい」


 心なしか照れた様子で裾から手を離す。
 何でそんなと訊きたくはあったが、加奈子がからかうでもなくへぇ~と呆れてたので、いつもこうじゃないのよとフォローせざるを得なかった。


「それより加奈子、見ちまったぜ、お前なにまたタバコくわえてんだよ」


 そう、待ってるあいだ手持ち無沙汰だったのか、それらしきモノを口にしてるのが伺えた。
 あやせも俺も口を酸っぱくして止めるよう言ってたのにな。
 火は着けてなかったから口寂しさを紛らわしてただけにせよ、体面ってもんがある。


「ちょっ、誤解すんな! あれはタバコじゃないって。これこれ」


 ん……前に言ってた電子タバコか?
 甘ったるくて嫌だと言ってたから、てっきり習慣に抗えず…と思い込んでしまった。
 果たして加奈子が懐から取り出したのは、


「チョコシガレットだぁ!?」
「そそ。結構イケんだよコレが」


 あまりの意外性に吹き出しかけた。
 隣で成り行きを見ていた桐乃も呆然としている。そりゃそうだろう。


「大体さ。いくら今は外れたからって、あんたがマネージャーのころクドクド言ったろ。
 アイドルするなら務めのうちだの、あと、ヤニの臭いが残ってたら好印象も台無しだの…」


 確かに言った。たぶん一言一句違わなかった。一応頭に置いてたのね。


「京介があんまりしつけーから、やめてやった。見直したか」


 へへんと無い胸を張る。


「あれ、兄貴、京介って……?」


 そういえば、加奈子が俺を名前呼びしてるのは、桐乃には初耳だったか。
 ほんのちょっと前まで糞マネ糞マネ言ってたんだから、急な違いに面食らうのも無理ない。
 俺自身ですら初めはそうだったもの。


「こないだの件から妙に仲良いみたいとは思ってたけど……加奈子、どんな心境の変化?」


 桐乃のやつが珍しい戸惑いの面持ちで問う。


「ん~、そもそもコイツが加奈子のマネージャー外れるって言い出すからさぁ」


 本来ならあの日…俺は加奈子にそう伝えて、我侭娘と雑用係の関係は円満終了。
 ひいては二人の繋がりも希薄になり……という流れが当然だったんだろうが。
 今となっちゃそんなアッサリとした幕切れは全然現実味が無い。不思議なもんだ。


 その辺りの経緯に軽く触れてから、


「マネージャーはもう止めになっちゃったんだし、じゃあ京介でいいっしょって」
「じゃあ、ってのがコイツらしいよな。いきなり呼捨てかよ? とツッコミ入れるか迷ったぜ」


 まぁ、実のところ加奈子が俺を呼ぶ時は未だに「なあ」とか「おい」とかが多いんだけどさ。
 うん、これと似たケースを既に身近で経験してたな。


「ふーん……うちの兄貴が加奈子のメガネにかなうなんて、思わなかったケド」


 そ、その言い草はないんじゃないかマイシスター。
 確かにあんな劇的なイベントが無ければ、加奈子が俺への接し方を改める事もなかったろう。
 あの件を切っ掛けに、以前と比べて険の取れた加奈子は、そのちんまい容姿とも相まって、ときに可愛らしく見えるのだった。
 恥ずかしいから本人には言ってやらないが。


「桐乃は辛口だねー。普段は冴えない男だけど、やるときゃやってくれんよ、お前の兄貴」


 なぁ? と俺に振られても。
 ニシシと歯を覗かせて笑う加奈子。頼むから、あまり過大評価はしてくれるな。


 桐乃は一瞬こちらへ目を向け、かと思ったらすぐに逸らし「そんなこと……」とかゴニョゴニョ呟いた。
 たぶん、助けられたって贔屓目が一時的に俺を頼りになる男に見せてるだけだの、そんな風に言いかけたのかと察するが。さすがに飲み込んでくれた。兄さん喜んでいいんかしら。


 いつまでも入口でダベってちゃ埒があかない。
 他の買い物客の邪魔にもなるしと、三人で連れ立って移動する。
 適度に暖房の効いた店内では防寒具が余計になり、俺もマフラーを畳もうとしていると、


「なかなか洒落たマフラーだよな、それ。あんたのセンスにしてはさぁ」


 加奈子が興味を示してきた。言葉ほどに皮肉は込めてないんだろうが、


「俺にしては、が一言余計だっつーの」


 そりゃ、俺じゃなく桐乃が見繕ってくれたものだから、指摘は正しいんだが。


 と、隣でその桐乃が吹き出した。
 あぁ……そうだ。意識してなかったとはいえ、ついさっき同じやり取りをしてたっけ?
 ツボにはまったらしい妹様は放っといて、怪訝そうな顔の加奈子に説明をしてやる。


「そっか、桐乃が選んだなら納得。あんたならもっと凡骨なチョイスしそうだもんね~」


 待て待て。最近やっと口の悪さがなりを潜めてきたと安堵してたら、それかい。
 若干ヒクついてる俺を気にとめることなく、加奈子はマフラーを手に取りしげしげと観察する。


「ん~、柄はカッケーけど編み方は割りと荒いんじゃねーのコレ」


 おぃ、褒めてんのか貶してんのかハッキリしないな。
 ていうか編みがラフなのはそういう意匠なんじゃないか?
 決してみすぼらしい印象は無いし、むしろハンドメイド感ただよう所が気に入ってるんだ。
 そう言って返すと、


「めんご、別に貶すとかじゃなくて。これぐらいなら頑張ればアタシにも編めるかなぁ……って」


 加奈子は言外に含みを持たせて俺を見やる。
 それは、アレですか。感謝の気持ちを込めて俺に贈りたいという……いやぁ参るぜ。


 二人して場を弁えずに固まりかけていると、横合いから桐乃が控えめに割って入る。


「あのさ、チャレンジ精神に燃えてるところ言いにくいんだけどね。
 いまから編み始めると今シーズンは間に合わないんじゃないかなー、たぶん」
「そうでもなくない? 一月ぐらいかければどうにか形には出来そうじゃん」
「あたしもそう思ったんだけど。考えるのと実際やってみるのとじゃ大違いで」


 そこまで喋って、桐乃はしまったという顔で口をつぐんだ。
 えー……ちょっとした重大発言に出くわしちまったぞ。


「ブラコン」


 しばし間を置いて口を開いた加奈子いわく。


「何だかんだ言って、そっちこそ仲良いよねー。
 さっきのといい、よっぽど兄貴のこと離したくないんだ?
 可愛い妹にこんだけ慕われて、あんたも悪い気はしないだろ。この果報者。うりうり~」


 や、ちょ、やめれって。
 まくし立てられた桐乃は、黒猫にからかわれた時のように反発するかと思いきや、否定の言葉のひとつもなくモジモジとしていた。


 ……これなんてエロゲ?


 そんな様子を見て拍子抜けしたのか、加奈子も一歩引き、


「ちょっと前から何となく思ってた。やっぱ桐乃も京介のこと好きなんだぁ」


 も? 今『も』って言ったのお前?
 急展開に俺の脳が着いて行けずにいるうちに、


「こいつのことだからきっと妹のピンチを見かねて体当たりでどうにかして…ってとこでしょ。
 聞かなくても大体想像つくわ。そういう男だよ、こいつってば。
 それがただ善意や責任感からやってるってのがタチ悪ぃし。
 そんなされたらさ、他意は無くてもさ、ときめいちゃうじゃんね?」


 連帯感か共感かを滲ませて、加奈子は桐乃の手を取った。
 聞き間違えでなければ、三角カンケイ的なものが俺たちの間には成立している?? のか?


「何すっとぼけた面してんのよ。二枚目半が台無しだぜー」
「……半とか、ひでぇな。好いた相手にそゆこと言うか?」
「言うね。ほれほれ、買い物済まさないとだろ」


 まるでいつも通りのように、空いたもう片方の手で俺を引っ張りながら加奈子は快活に笑った。


すっかり後延ばしになっちまった、当初の頼まれごとである買い出しをこなしていく。
 加奈子と桐乃は普段の調子で雑談に興じていて、やれ某が可愛いだの面白いだのといったやり取りに花を咲かせる。
 年も性別も違う俺は正直ついていけず、若干茅の外感をおぼえたりしつつ……
 休みに入ってからこっち、やっと心置きなく友達と盛り上がれている二人を微笑ましく見守った。


 一通りの買い物を済ませた頃には昼を回っていて、いい時間なんで飯を食っていく事にする。


「それにしてもお前ら、店冷やかすのもいいけどさ。
 いちおう一緒に買い出しするって建前なんだから、ちっとは手伝わんかね?」


 オーダーを伝えて席に腰を落ち着けたところで、少しばかり釘を刺しておく。
 別に話に加われなくて寂しかったとかじゃあない、勘違いしないでくれ。


「えー。だって兄貴だけでもテキパキこなしてたでしょ。買うものだって多くはないんだし。ねー?」
「ねー」


 ねー、じゃないよ。こいつらときたら……


「そんな露骨にガッカリすんなって。荷物運びは交代でもってやるから。
 桐乃も、そんなんでいいよな?」
「あたしは最初からそのつもりで来てるし」


 とまぁ、何とも頼もしいお言葉をいただいた。
 へーへー、お嬢様がたにおかれましては寛大なるお気遣い有り難く……


「でもよ加奈子、お前んちの方はいいのか。買い物とか大掃除とか」
「いいのいいの。ウチはあんたらの家ほど気合い入れて新年迎えるでもないし。
 そういうのは姉貴がどうにかしてくれるから。全面的に任せてきた」


 そうなんか。見も知らぬ来栖姉に、労いの一言も送りたい気がした。


「そういう訳だからさぁ、あんたの家に行ったらこのまま何か手伝ってってやるよ」


 邪魔でなければだけど? と付け足して加奈子は申し出た。


 我が家もあらかた片付いていることだし、普通に桐乃のとこに遊びに来るノリで構わないんだが。




 昼飯を食らって一息ついてから、大通りへ出て我が家への帰途を辿る。
 俺たちのような買い出しを終えた人間を目当てにしてか、通りにはタクシーが長蛇の列を作っていた。


「ぷは~、食った食ったぁ~」


 いっそ清々しいくらい開けっ広げに、加奈子が爪楊枝で食べ滓をつつきながら言う。


「お前ね……言っちゃ悪いが豪快すぎだって。食い方といい、それといい……」
「あ、あたしも同感かな……いかにも加奈子らしいんだけど、ちょっと……親父入ってると思う」


 あれだけ旺盛な食欲を見せておきながら、それが体型に反映されてないのは驚嘆に値するってのもある。
 珍しく兄妹一致した意見を受けて、さしものちんちくりんも多少たじろぎ、


「いーじゃんかこれぐらい、見逃せよー。
 こう見えて仕事関係じゃどうこう言われないように自重してんだ」


 要するにその反動でプライベートでは、特に飯時に完全に地が出てしまうらしい。


 そういうことなら、直すべきと強くは言えないものの。
 初見の奴には外見とのギャップが大きすぎて、損しちまうんじゃなかろうか。
 そう指摘してやったところ、


「ばっか、アタシだってそこまで迂闊じゃねーっての。
 よそさまの目があるとこなら、ちゃんと年相応の大人しく振る舞いも出来る……わよ」


 言葉尻が不自然に浮いちゃってんじゃん!?
 心配だこいつ……
 俺は既にマネージャーならぬ身ながら、一抹どころでない不安を禁じ得ないんだぜ。


 常人離れした集中力を持つ加奈子のことだ、体裁を繕うくらいわけないって自負があるのかもだが、取り繕う以前に、そのがさつな面を少しは改めていこうな?


 と、前々から妹に向けていたのと同じ感覚が胸に去来するのだった。




 家へ帰る途中で加奈子がケーキ屋に寄りたいと切り出して、いまは桐乃とやいのやいのとブツを選んでいる。


 この上ケーキまで食うとは……女子の言う「甘いものは別腹」の恐ろしさの片鱗を味わったぜ。
 まぁ、あいつら二人とも、片や生活習慣、片や体質で、脂肪が付きにくいみたいだけどよ。


 加奈子はもうちょい脂肪もつけたほうが良いと思われる。
 いや、ほら、寒そうじゃん。あの体型だと。他意は無い……



 帰宅。
 やけに長い時間が経った気がしたが、実際にはまだ三時ぐらいだった。
 荷物を手分けして運び入れて行くと、お袋がキッチンに立っている。
 夕飯の支度を始めるには早いし、コーヒーでも淹れてるのだろう。


「「ただいま」」「お邪魔します」
「お帰んなさい。あら加奈子ちゃん、今日も来てくれたのね~」


 お袋がにこやかに応対する。
 この数日の訪問で以前にも増して加奈子への心証は良くなったと見える。
 実際そこまでしなくても……ってほど連日見舞いに通って来てたし、俺たちと違って親に対しては最低限の礼儀は保って接してもいたし。


「寒かったでしょ、ご苦労さま。ちょうどコーヒーにするところだから、こっち来なさいな」


 お誘いに応えて、三人とも上着を脱いでリビングへ。
 親父がまた無愛想に「ゆっくりしていきなさい」と声をかける。
 その厳つさは娘と同じ中学生にゃ怖かろうよ……と思うも、肝の太い加奈子は動じてないようだ。あぁ、初対面でもないしな。


「お忙しい中、今日もお邪魔します。おじさま、おばさま」


 加奈子は居住まいを正して挨拶する。
 こういう姿勢を、見てくれだけじゃなく、明らかに気持ちを込めて出来るのがコイツのすげぇところだ。


 この親父をして「齢15にしてよく出来た娘さんだ。桐乃は良い友を持った」と言わしめていた。


 無論桐乃も同感で「意外だけど、ああいうところちゃんとしてんだよね……あの子」と。


 買ってきたケーキは年末の挨拶に、ということらしい。
 ご迷惑をかけて勝手ですけど今後も変わらないお付き合いをお願いします云々。
 定型とすらとれる文言ではあったが、台詞臭さを感じさせない語りで加奈子は締めくくった。




「うへ~……緊張したわぁ…」


 茶会を終え、二階の部屋に上がるなり、ヘナヘナと脱力する加奈子。
 いや大したもんだったから気を張ってたのは当然なんだろうな。
 もっと楽にしてくれて構わないと親は言ってた。
 全くだ。例の件で責任を感じて、ってのが拭えないのは仕方無いにしろ、もうそろそろ……そういった面は抜きで、俺ら兄妹共通の友達として家に上がって欲しい。


 前のように「オバサンお邪魔しまーす」「んだよ桐乃、兄貴はまた冴えねーツラしてんな」ぐらいでいい。
 やや大袈裟だが、そのほうが望ましいのは本音なんだ。
 うまい具合に言葉を選べたかイマイチ自信のないまま、俺の思いを伝えようと試みる。


「言いたい事は解ってっけど、ついこんなんなっちまうのは責任だけが理由じゃないってゆーか……」


 あれだけ凛とした姿を示したのとは一変、加奈子の様子はしどろもどろだ。


「わからないな、そういう自然な付き合いに戻ったら親父もお袋も喜びこそすれだ。俺だってさ」
「察しろよ、バカ……お前ホントに気が付かねーヤツな……」
「無理無理、兄貴にそんなデリカシー期待するだけムダなんだから」


 呆れ果てたと言わんばかりのふいんきを漂わせ、見計らったようなタイミングで妹様がやって来た。
 なんだ、その言い様だと加奈子が今みたいなかしこまった対応を続けちまう理由がわかるのか?


「悪いがニブチンな俺にも納得いくように説明してくんないか。頼むぜ」


「兄貴が思ってるように申し訳なさ一杯で徹底的に丁寧な対応してるんじゃなくてさ。
 加奈子はさ、兄貴のこと好きなわけじゃん?
 あたしがこんなん説明する義理は無いけど。
 よーするにこの子ってば……お父さんお母さんに、ふつつか者ですが」
「あー! あー!! やめぇ――――!!!!!」


 そ……そういう含みだったの?


 桐乃はヤレヤレとジェスチャーし、加奈子は突っ伏すような格好で固まっちまった。
 俺が今更ながら自分の不明を恥じ入っていると、


「話は聞かせてもらったわ!」


 意気揚々と、お袋が満面の笑みを湛えて部屋の扉を開いた。






<終>
ツールボックス

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