「高坂京介は落ち着かない」05


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「海が見たい。」


そう彼女が主張したので、今日は海の日になった。
なにを言ってるのかわから(ry



「こんな冬の真っ只中に、よりによって海とか、物好きというか酔狂というか…」
「いやそれ意味同じだから。そんなんで本当に試験大丈夫だったわけ?」
「ほっとけ。まぁ、心配には及ばん」


そう。長きに渡る受験闘争も先日のセンター試験を終え、ようやく一山越えた感なのだ。
自己採点の結果は、ここらで休息日を取ってもいいだろうと思えるものではあった。


「にしても、なんで海かね。寒い景観しかないだろに」
「いいじゃん、加奈子は京介と海に行きたいの。つべこべ言わずに連れてけよー」


押しきられてしまった。
とはいえ、このくらいなら我が侭って程でもない。
何だかんだで一月の間コイツなりに俺を気遣って接してくれてる。そこには報いよう。


「仕方ない、どうしてもって頼むなら付き合わなくもないぞ。ん?」
「う……お、おねがぃ……ってなんでアタシがこんなん言わなきゃなんだよ。何か違くねっ」


見事単純な誘導に引っかかって。まったく楽しいやつ。
しかし、これ以上話を引っ張って加奈子の機嫌を損ねては面倒か。


「よし、じゃあ決まりだ。明日駅前で待ち合わせでいいな」
「うん。時間とかは後でメールするから、ちゃんと起きてろよ?」


翌日の天気予報を確認して、その場はそれで解散する。



そして約束の時間。
待ち合わせ場所に制服姿の加奈子がやって来る。
そういやぁ俺はもう自由登校になってるが、中学にはそういうのはないんだっけ…


「おっす。待たせた?」
「おはようさん。待っちゃねーけど、それ、今日は普通に登校日だったりするのか」
「まーね。サボるにしても家出るときは着とかないとだったから」


桐乃は朝練かなにか、もう見かけなかったんで気付けなかった。不覚。


「制服だと目立つって顔してる。心配性だな~京介。そこいらのトイレで着替えるから」
「俺はむしろこういうサボりに慣れた感じのお前の出席日数とか心配なんだがな」
「あーはいはい。きちんと計算してるから平気」


図星かよ。あっけらかんとした態度に、ツッコミを入れる気も失せた。


「目立つ云々を気にするなら、着替えても大して変わらないかもしれん」
「そう? ま、この可憐さはどうしたって人目を引くかもね」
「お前、可憐とか自分で言うなって」


俺が思ったのは、平日の昼間にこんな一目で生徒と見えるちんまいのが歩いてりゃ私服でも訝しがられる可能性が高いと…いったところだが。敢えて訂正することもないか。ここまで来て「やっぱ学校行け」とも言えない。


「じゃあ着替えて来る。何か適当に飲みもの買っといてくんない」


小走りに去っていく後ろ姿に声を放る。


「別に急がなくていいぞ、コケるなよー」


振り返った加奈子は余計な世話だと言わんばかりに、あっかんべーと舌を出して見せた。



「……遅い」


つい独り言がこぼれる。
飲みものを頼まれたついでに道中つまむものでも…と買い物にやや時間を取ったが、
加奈子を待たせる事はなく、どころか既に10分以上も経っている。
そろそろ電話かけてやろうか。でも気の短い男と思われるのは癪だな。
など迷ううち横合いからトントンと突っつかれた。


「おい、お前どれ…だけ……」
一瞬我が目を疑う。
こちらにおわすは誰あろう、加奈子にあらせられる…んだよな?


「へへっ、鳩が豆鉄砲くらった顔」


そこには先日家で見たように髪を下ろした彼女がいた。


「あ、あぁ。前も思ったけど髪結んでないと大分印象違うな」
「そっかー? それにしたって何度か近く通ってみても気付かないとか、鈍ちんだな京介」
「面目ない」


普段は身長と相まって実年齢より下に見える髪型の加奈子だが。
ロングにした姿を改めて眺めると、子供っぽさも抜けて少しばかり目を奪われる。


「ちょっと気合い入れてみたんだー。どうよ、惚れたかww」


うーむ、服装も普段会うときより少しばかり大人びている。


「そうだな。正直驚かされた。見違えたと言えなくもなう」
「噛んだ?」
「…ない。」


変身が予想通りに功を奏したのが嬉しいらしく、加奈子は俺の手を取ってはしゃいで回る。
俺はといえば、場所を弁えろと止めるのも忘れ、その嬉しげな様子にただ振り回されるのだった



「ほらぁ。あんましモタついてんなってば」


やたら楽しげな様子で急かされ、ついつい苦笑が漏れた。


「お前な、遠足に浮かれる子供じゃあるまいに…」
「いーっしょ別に。加奈子中学生だし、浮かれたってさ。それに」


ん、それに?


「遠足じゃなくてデート。全然違うじゃん」


言い放ち俺の手を握り直す加奈子に、一瞬不覚を取る。


「ま、そうまで楽しみにしてくれるなら光栄なこった」
「何だよノリが悪くね。もっとアゲてこうぜ~」


その口調からひょっとして水を差しちまったかと危ぶまれたものの、
気分を害した訳ではないらしく安堵する。


改札を抜けると上り電車は発車間際だった。


「次のでいいだろ、すぐ来るさ。 朝から階段駆け上がるのはダルいし」
「そうしよっか。あ…次の電車ももう着くんじゃない?」


言われるままアナウンスに耳を傾けると、確かに折り返しの電車が到着するところのようだ。
座る席が選び放題だとまた喜びを顕にする加奈子を生暖かく見守りつつ、ついには手を引かれてホームへ向かう。
この調子じゃ俺もいつこの空気に当てられるかわからないな。
そうなったら……それはそれで特に問題ないのか、などと変に理屈っぽい思考に身を任す。



「京介、こっちこっちー」


通勤通学の乗客の波も引いてきた時間帯だけあって、加奈子は首尾よく席を確保して見せる。


「ドア脇か。ボックス席のがよかったんじゃないか?」


別の駅に着くたびドアから滑り込む寒気にさらされるかと思うと、それだけで鳥肌が立ちそうだ。
しかし加奈子は俺の提案を一顧だにせずチチチと大仰に舌を鳴らし、いいから早く座れと促す。
他の乗客が入ってくる手前突っ立ってるのも何なので、ここは譲歩して腰を下ろした。


「わかってないなぁ京介。こうやって身を寄せあうのがカップルの醍醐味じゃねーの」


醍醐味と来たか。大袈裟なやつ。
どうにも気恥ずかしく、反射的に照れ隠しを口にする。


「そもそも俺達カップルでもな―
「ダメっ」


刹那、シリアスな顔をした加奈子に遮られた。
それも一瞬のことで、すぐに元の調子に戻った加奈子は言う。


「男が細かいこと気にすんな。くっついてたほうが温かいだろ?」
「それもそうか。ああ、わかったよ」


俺達の関係が恋人ではないという事実を、改めて念押しされるような言葉は聞きたくなかったんだろう。
とどのつまり俺が無神経だった。
意を汲んだと伝えるため、隣の加奈子の手を取る。


「『今日はデート』なんだもんな」
「わかればいいよ、うん」


少々ぎこちないやり取りを挟みはしたが、許してくれたようだ。
へへ……とはにかむ彼女に愛らしさを禁じ得ず、握った手に微かに力を込めてしまう俺だった。



発車までまだ随分待ち時間があるなあ。
時計に目をやり、この後の過ごし方でも話しとくかと思案していると


「ふあぁぁ…ぁふ…」


隣から盛大な欠伸が。


「お見事。なんだ寝不足か?」
「う。わりぃ、中が暖かかったから、つい」
「構わないさ。いいから質問に答えなさいっつの」
「え~と……ぶっちゃけ今日のことが楽しみで昨夜は全然寝付けなくて」


やっぱり遠足を前にした子供じゃねえか!
瞬時に浮かんだツッコミを辛うじて押し止め、別の言葉を探してみる。
今日くらいはこいつの望むように振る舞えるよう努めるとしよう。


「そういうわけなら少し寝ておけよ。着いたら起こしてやるから」
「そんなんダメだって、時間が勿体ないじゃん」
「無理すんな。それに今日1日は始まったばっかだろ。肩貸してやるから、ホラ」


ちょっと強引に引き寄せてやると、加奈子も渋々ながら観念した。


「…はぁ。折角めかしこんで来たのに眠りこけるとか、抵抗あるんですケド」
「そう堅く考えるなよ。そりゃ電車ん中で無防備に寝ちまうのは、ってのはわかるが」
「じゃなくて。デート行くぞ!って格好で、他でもない京介に寝顔晒すのがさぁ」
「それこそ今更だ、眠り姫を拝む機会はこないだもあったんだし。起きるまでずっと隣に居てやるから安心しろ」


ふと、俺の肩に頭を預けていた加奈子が俯き加減になる。
ようやく寝に入るかと思いきや、何やらモジモジした気配。


「どした? あぁ、トイレなら隣の車両に
「違うっ、アンタが素でいきなり眠り姫とか…ずっと隣にいてやるとか…ハズイ台詞連発するから…」


そういうのは好きな相手にかける台詞でしょと宣うので、言って返してやったね


「大丈夫だ、問題ない。俺はこれでもお前のこと好きだぜ」



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――――


何となく二人とも恥じ入ってしまい沈黙が降り、間もなく隣からスヤスヤと寝息が伝わってきた。
こうして寄り添うような位置から窺うと、コイツの整った顔立ちはなかなか来るものがある。
慕われてる事からの贔屓目もあるかもしれん。


目覚めた時に跡が残っちゃ気の毒だ。そう思い、腕を少しばかり動かして顔位置をずらす。
やぁ…とか妙な寝言を漏らしつつ未だ眠りの淵にいる加奈子に一安心


やがて電車は幕張を過ぎ、津田沼、船橋、と順調に通過していく。
この時点でとっくに約束を反故にしちまってる訳だが。
降車駅を過ぎてしまったらもうすっかり開き直りで、連れの愛らしい寝顔を堪能すると決め込む。


車内の暖かさとテンポの良い揺れから、じきに俺にも睡魔が近づく。
しかしここで俺まで正体なく眠りに落ちることは許されない。
気紛らわしにその柔らかな頬をフニフニと突っついては反応を見たりした。
我ながら現金なもので、今が平日の昼間で良かったと切に思う。
さすがに人目に囲まれた中こうも破廉恥な真似は出来そうにない。


車中の人となって一時間弱、県境を越え、電車は都内へと進んで行く



「起こしてやるって言ったじゃん。ばかぁ」


予想されたとおり起き抜けの加奈子に叱られる(´・ω・`)


「スマンっ、俺もちょっとウトウトしてたみたいだ」


口から出任せだが、真実を明かすのは…
お前の寝顔がチャーミング過ぎて起こすに忍びなかったなどと打ち明けるのは…無理だ。


「東京近くまで来て引き返すとか、どんだけ間抜けなのよ」
「だが電車の移動をゆっくり楽しめるぞ。ものは考えようだ。…何か食べるか?」
「ったく。これで誤魔化せたと思わないこと。減点1だかんな~?」


言ったところで、差し出された袋を受け取りガサゴソとまさぐりだす。
何種類かある中からポッキーの類いを手に取ると、素早く開封して摘まんだソレを俺に向けてきた。


「はい。あーん」


なん……だと……


にやにやとした表情を浮かべつつも、有無を言わさぬ空気を伴い迫り来る加奈子。
いくら乗客が多くないとはいえ、これは……
しかし俺に退路はなく、この羞恥プレイにも似た状況を甘受するほかないのだった。


せめて一矢報いるべく袋からポッキーを取り出して今度は加奈子に「あーん」と試みるも、
当の彼女は待ってましたという様子で、むしろ心持ち幸福感を滲ませている風にも見える。


ちょっとした悪戯心の代償は存外高くつくことになるらしい。
冗談で姫君の騎士を気取ってみても、実態は従者が関の山かよ。
まぁそれも似合いか。とどうにか自分を納得させて、頼まれていた飲み物を渡した。


「そらよ、ドロリッチ」
「ん、サンキュー」



下りの列車が住み慣れた千葉の町へと去っていくのを見送る。
遠回りしたおかげで予定より随分と時間を食った。やっと当初の目的地、稲毛に到着だ。


でも最初から稲毛海岸で降りられるようにした方が良かったか。
いやいや、京葉線の千葉駅はいかにも遠いしなぁ


「なにブツブツ独り言いっちゃってんの?」
「え、マジで。声に出てたのか」
「マジもマジ。こんな可愛い連れをほっといて、どんな考え事してたのよー」
「むくれんな。特にどうってことはないさ。海まで少し距離があるか、ってな」


言うと、この辺りに土地勘の無いらしい加奈子は地図と睨めっこを始める。


「そんなに遠くなくない? 一本道みたいだし」
「それにしても歩くにはちょっとな。近場ってなら、どうしてチャリンコじゃなく電車で来たかって話だ」


徒歩にはまだ肌寒いのだ、要するに。


「ここからはバスにしとこう。敢えて移動に時間かけることもないだろ」
「それをあんたが言う…?」
「うぅ、申し訳ない」


とまぁ下手なコントじみたやり取りを交わしながら、駅前ロータリーに出る。
バスの待ち時間を潰せるような施設は此れといって見当たらない。
だがそれがいい。
この拓けているとはとても言えない、それでいて風光明媚にも程遠い、言っちゃ悪いが適度な田舎感が海目当てでやってきた人間には丁度シックリくるじゃないか。


「話には聞いてたけど、全然店とか無いんだ」


なかば呆然とした加奈子に苦笑しつつ、反対側はこうでもないらしいぞと返す。
市街地にあたる部分は駅を挟んだむこうで、こちら側とは様相が違ってるんだと。
まぁ俺も稲毛の町には詳しくない。これから向かう海岸方面の話にしよう。


「さっきお前の言った通り海まで道は真っ直ぐだし、この時期でなきゃのんびり歩いてくのもいいかもな」


何気なく呟いてみると、存外の食い付きを見せてきた。


「うん、それ乗った。厚着しなくてもよくなった頃にまた来よう。忘れないでよね?」
「そりゃ構わないが。まだ肝心の海に着いてさえないのに、気が早いやつ。鬼が笑うぞ」


俺のからかいが聞こえているのかいないのか、次の来訪を取りつけた加奈子はやおら腕を絡めとる。
そしてほんの少し神妙な顔を覗かせて囁いた


その時にはさ、本当の……


果たしてその台詞が俺に語りかけたものだったのか判断しかねるが。
そうだったらいいという言葉に代えて、加奈子の手を引きバス停へと歩を進める。



バスの時間は短い。
発射すると程なく陸橋にかかり、傾斜のある坂を下ったあとは何とか団地の一角を経て海沿いの通りに辿り着く。
この間数分。車窓からの眺めは特に刺激的でもなかったが、初めて目にする加奈子には物珍しかったようだ。


横道と交差したところで「ここを進めば幕張メッセだ」とか「マリンスタジアムがそう遠くない」とか話してやると、およその地理が飲み込めたらしく、そっかそっかと如何にも納得いったリアクションをしてみせる加奈子だった。
昔のマンガか、お前は。


そんなこんなでバスを降りる。海岸はまだ先だが、ゆるく吹く風に微かに潮の香りがした。


「さっきも思ったんだけど、今日は曇りのわりに大して寒くないんじゃない」
「そらそーだ、未明から晴れてた方が冷えるんだよ。放射冷却っつってな」
「し、知ってるもんそれぐらい。馬鹿にするなー」


ホントかよ。ともあれ、震えがくるような寒さでなくて一安心だ。
冬の海を見に行って風邪引きましたじゃ笑えないからな。
ましてコイツは登校サボってるわけだし。
思い付きで来たはいいものの、不用意に長居しないよう気にかけとかないと。



海浜公園の入口あたりともなると、思いのほか高い頻度で人が見かけられた。
中には犬連れ、子供連れ、そしてアベックもいる。
わざわざ冬の海辺に来る物好きは少ないだろうと踏んでいたが、ジョギングや散歩コースに適しているらしい。


公園の敷地は広く、ざっと見て廻るだけでもそれなりに楽しめそうだ…もうちっと暖かけりゃな。
具体的に当てもなくやって来た俺たちはというと、茫洋たる海原を前に何をするでもなくベンチに腰掛けていた。
水際を歩く海鳥が時折近くを通ると、持ってきた菓子を細かくして投げかけ気を引く加奈子だったが、
やつらもそう単純ではないらしく距離を置いてこちらを窺うにとどまる。
それでも加奈子はご満悦のようで、風になびく髪を押さえながら「可愛いー」と連呼していた。


オマエモナー
とはさすがに言えず、無邪気に戯れる彼女をただ見つめるだけの俺である。



ブシュンッ!


盛大なクシャミをかました加奈子が、しまった……という顔をする。


「やれやれ、言わんこっちゃない。やっぱり防寒が足りないんじゃねーか」


とはいえ俺だって、こんな時にこそ役立つカイロだとかの類いを今日は持ち合わせてなかった。悔やまれる。


「おーい、マフラー貸すからこっち来いよ!」
「あぅ…これしきの気温で情けない…」


鼻をかみながら戻ってくる加奈子。鞄から取り出され、手渡される編みの荒いマフラー。


「アホ。情けないとかそういう問題じゃねえだろ。生憎上着はないが、これ使っとけ」
「あんがと。いいの、京介は?」
「俺は大丈夫だよ。お前、洒落た服選ぶのもいいけど冬の海にはちょっと甘かったみたいだな」
「…そだね。ゴメン」


謝るこたーないが
もう引き上げる頃合いかと帰りを促したところ、もう少し残りたいとゴネられる。


「こら、こんな時にまで駄々こねるな。風邪はひきはじめが肝心だ。こじらせると怖いぞ」
「平気だって。もともと風邪で病欠ってことにしてあるから」
「どアホ。自分の体を労れないような子供じゃあるまい」
「ねえ、もうしばらくでいいから。こうしてれば寒くないから、さ」


言うと加奈子は襟元に巻き込んだマフラーをほどき、俺に寄り掛かって、二人を繋ぐようにマフラーを巻き直す。
そのままピタリと張りついて「うへぇ…」とだらしない声を漏らす。
ったく、仕方ないやつめ。


「京介」と俺の名を二度三度呼び、さんざ甘え倒してから、その甘やかな含みを帯びたままの声で続けた


「桐乃に恨まれちゃうかもね。学校ずる休みして、大好きな兄貴と逢い引きして、それに……このマフラー」


帰ったら今日のことは話した方がいい。伝えるタイミングはまかせるが、こんなんでこじらせたら風邪以上に厄介になるのは間違いないんだから。本来なら当事者の片割れの俺が口添え出来ればいいんだが。加奈子を差し置いて横から口を挟んで悪化させる可能性も鑑みると余計な事は言えない。


そう話してしばらく、ようやく加奈子も落ち着いたのか、俺の胸に埋めていた顔を上げた


「付き合ってくれてサンキュー、今日はホント楽しかったぁ」


晴れ晴れとした表情につられ、こちらも軽めに返す。


「まだ終わりじゃないだろ。家に帰るまでがデートだ、ってな?」



帰り道。
寒さが和らいできたため折り返しはのんびりと歩き、途中のサイゼで遅めの昼食に。
地元に戻ってからだと知り合いに遭遇しかねないしな。今日はそいつは勘弁だ。


適当に時間を見計らって電車に乗り、駅から家まで加奈子を送る。
姉が帰っているかもと制服に着替え直していたが、ほどいた髪はそのままだったので訊いてみると
「絡んだ砂が結び目でざらつく感覚がイヤ」なのだそうな。
伸ばした髪は綺麗な反面そんな厄介な面もあるのか……短髪の俺にはわからん感覚だ。
加奈子は「綺麗な」の部分に反応して少し照れていた。



そんな彼女を無事に送り届け、辿り着いた我が家。
出てたのはほんの八時間程度なのにやけに長く思えるのは、
あいつと過ごした今日一日がそれだけ充実していたからなんだろうか。
自室に上がってふと携帯を見ると、メールと通常着信が一件ずつ。
しまった。朝の電車でマナーモードにしてて気付かなかった。
桐乃からの連絡は案の定、加奈子の風邪のお見舞いについて。
本来の下校時間は今時分だから、そろそろ二人が顔を合わせている頃と思われる。
加奈子が事情を伝えてるところにタイミングかぶってはよくない。
俺はあえて返信を控え、帰宅後不機嫌になってるだろう妹にどう接するか頭を悩ませた



「ただいまー」


桐乃が帰ってきた。
遂にと言うか…別に俺に疚しいところは無いはずなんだが、どうも気後れしてしまう。


「おかえり」
「ん、ただいま。下にいるなんて珍しいんじゃない。もしかして待ってた?」
「どうだかな。加奈子とは会ってきたんだろ、どうだった」
「どうって…クシャミとかしてたけど普通にしてたよ。質問の意図がわかんないんだけど?」


怪訝そうに返す桐乃に座り悪さをこらえきれない俺は、仕方なく直球を放った。


「あいつに話は聞いたろ。それでお前に思うところっつーか、言っときたい事でもあるんじゃねーか、ってな」


俺がどうにか思い切ってみたというのに、桐乃はヤレヤレのジェスチャーをして


「そんなん気にしてたんだ。兄貴のシスコンぶりには頭が下がるわ、皮肉じゃなくて」
「悪かったなシスコンで」
「そうは言ってないじゃん。それだけあたしのこと気にかけてたなら悪い気はしないし。
 ってか正直嬉しいけどさ……あの子の前でそんな態度見せなかったでしょうね?」
「そりゃあ、な」


俺らの間の少々入り組んだ関係からすると、もっとこう…糾弾でもされるかと身構えていたものを。


「加奈子がホントに風邪ひいちゃったみたいのはよろしくないけど。楽しめたようだし、いんじゃない」
「アッサリしたもんだな。俺はてっきり、抜け駆けとか、あたしも海に連れてけとか言い募られるかと」


そこまで白状したところ桐乃はプフーッと漫画のように吹き出した。


「なにそれカワイイ。あたしが加奈子に嫉妬して拗ねちゃうって心配だったんだ? 兄貴カワイイ~」
「男に可愛いとか言うな…」
「兄貴カワイイよ兄貴~」


調子に乗って人の頭を撫でてくる。その辺にしてくれマイシスター



「そーね、全然妬かなかったって言えばウソになるかな。話聞いて、いいなぁとは思ったし」


一呼吸おいて桐乃は続ける


「でも兄貴、あたしが頼めば買い物だってイベントだって大抵付き合ってくれるじゃない」


体よく振り回されてきただけの気もするが。


「だけど、そっか、抜け駆けかー」
クスリとあまり見ない笑みを浮かべる桐乃。


「それじゃあ想像を裏切らないように、あたしも連れてってもらっちゃおうかな、海」
「ぉぃ」
「あ、受験が落ち着いたらでいいよ。まだ人気のない春先の浜辺とか素敵かもね」


トントン拍子に予定が立っていく。まぁ、うん、予想はしていたんだ。
脱力していると、妹はややトーンダウンして語りかけてくる。


「言っとくけど。別に何もかも加奈子と同じに、差をつけないでってんじゃないから。あたしは加奈子と兄貴を取り合う気はないの。加奈子にするように恋人の接し方してほしいとは言わないから、さ。加奈子とキスしたり、その…先とかあっても、同じようにしてとは言わない。でも『約束』破ったのは兄貴なんだから。それは責めない代わりにしばらくはワガママ聞いてよね……?」


ダメ兄貴としては妹の要望に出来る限りこたえてやらねばなるまい。
あるいは俺達が兄妹でなかったら、などと不毛な考えがよぎりもする。
やめよう、そんな仮定は思うだけ無駄だ。
二人はちょっとばかり過剰に仲の良い兄妹。それでいいじゃないか。


こんなある種の後ろめたさは時間が解消してくれると期待したいが。
「加奈子にはあたしからまた話しておくから」という言葉にいまは甘んじる。


「黒いののときみたいなのは、もうゴメンだもんね」
弱々しく言う桐乃に無言の同意を示して、
今後加奈子との付き合いを進展させるんであれば黒猫にも報告はしなきゃならんかと、課題の重さが自覚された
ツールボックス

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