「高坂京介は落ち着かない」10-1


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京介――
京介――


俺の名を呼ぶ声に、眠りの淵から意識が引き上げられる。
あと少し…もう少しだけ寝かせてくれ…。
などと思いつつ同時に、こんな感想が浮かぶからには半ば目醒めてきているんだなと自覚される。


どうにか開いた目を擦ろうとするが腕が動かない。
なんだ、麻痺?寝違えたか?
途端に眠気が飛び、痺れた腕を確認すべく体勢を変える。
と…何の事はない。すぐ隣でスヤスヤと眠る彼女が俺の腕を枕にしていた、という有りがちなオチだった。



起こさないよう、なるべく慎重かつ迅速に腕と枕(本物)とを入れ換える。
このまま眠る加奈子を観察していたくもあるが…
生理的欲求に衝き動かされ、そそくさと寝床を後にする。


用を足し、顔を洗うと、続いて喉の乾きをおぼえた。
昨日は殆ど体を動かしてないとはいえ、寝てた時間が長かったから逆に水分不足になってるのかもしれん。
結構な量、汗もかいたしなぁ……加奈子が目を醒ます前にシャワー浴びてきちまうか。
などと考えつつ冷蔵庫から麦茶を、否、今日はスポーツドリンクを手に取った。
思えば俺がこいつを消費するのって珍しいんじゃねーの?
誰の目もないのをいいことにコップは出さずそのままペットボトルをあおる。
くはー! 沁みるわ……


瞬間、なぜか加奈子のことが気にかかった。
特に起きた気配はないようだが…ドリンクを戻して、布団へとって返す。


そこにはやはり寝こける加奈子の姿があった。
変わらない眺めに、不思議と強い安堵が湧きあがる。
別に何も不安要素なんて無かったハズだ。
胸の内を満たす安らぎの理由がよくわからないまま、加奈子に触れてみる。
ふにふに。


「んん…きょうすけ…らめぇ…」


案外眠りが浅いのか、加奈子は僅かに身じろぎして反応した。
らめぇ、ってな。お前はどこのエロゲの出だ。
夢の中で御満悦らしく、だめと言いながら嬉しそうにニヤけている。
洩らす寝言にすらエロちっくを滲ませるとか、まったく困った娘だ


……うん、シャワー浴びて来よう。そうしよう。



ざっと汗を流すと随分スッキリした。
昨日の不調も、丸一日休んで回復しているように思える。
おかげで貴重な連休を潰しちまったけどな。
まぁ仕方がない。これを教訓に体調管理にはもっと気をつけるとしよう。


戻ると加奈子はやはり起きていない。
寝返りをうってるんで、じきに起きる見込みはあるんだろうか。
休みだからって寝すぎじゃねえの?と思ったものの、確認したら時刻は7時。
昨夜は遅かったのを考慮すれば、まだ夢の中なのも無理はない。
俺のほうは昨日昼間も寝ていたため睡眠充分。で、さっき加奈子の寝言で起きたって訳だ。


現状把握して改めて加奈子に向き直る。
この間にも京介京介と二度三度寝言を発していて、
夢の中の俺は良い彼氏でいるかと心中で語りかけてしまったりもした。


ふと、シャツがはだけているのが目に止まる。
捲れた裾からヘソが覗いてやんの…


巾着にでもしてやろうか、そんな悪巧みを思い付いたが流石に自重する。
恋人にする悪戯じゃない。っていうか小学生みたいな発想してしまった自分を恥じる。
それでも露知らず眠る加奈子に先程の悪戯心を拭いきれず、ヘソにキスをくれてみた。
一丁前の変態だな俺。


正直リアクションが無いのが寂しい。一方的で悪いが起こしちまうとしよう。
しかし、呼び掛けても、頬をぺちぺちと叩いても、一向に目を醒ましてくれない。
これでどうだ!とばかり鼻を摘まんで待つことしばし……加奈子の表情がようやく苦味を帯びてきた。



「ナニすんだよ、ばかぁ…」


俺の悪戯を察知したのか、手首を掴み、それにしてはのそのそと起き上がる。目の焦点があっていない。


眠そうな半目で瞬きを繰り返すと、捕まえた手首と俺の顔とを交互に見やる。
文字通り悪戯がばれた子供のような立場の俺。内心恐る恐る声をかけた。


「お、おはよう、加奈子」
「…ん~…おはよ」



「でさあ、聞いてよね。京介ってば加奈子がまだかまだかって待ってるのに鼻摘まみやがったの!信じらんない!!」
「そ、そうかー、そりゃ怒るのも無理ないな、HAHAHA…」


どうやら現実での感覚を夢の内容と混同して御立腹だ。
助かった、と言っていいのか。夢の中の俺には無実の罪を被ってもらうことにした。


「ホントあったま来るな~。張り倒してやろうとして捕まえたら夢だったとか……ヘンな感じ」


釈然としないらしく尖ったままの加奈子、一度は放した俺の手を掴み直し


「ん。」
「え? なんだよ、ん、じゃわからねえ」
「わかれって…責任もって、ちゃんと続き…」


ふむ、ややこしい言い方してくれる。
目を閉じた加奈子のちょっと面白いキス待ち顔を1,2秒堪能して、今度は普通にマウストゥマウスで口づけを交わす。
起きぬけの不機嫌も何処へやら、しどけなく俺に寄りかかる加奈子の吐息はひどく甘かった。



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――――――――
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余韻に浸っていると、最中は鈍っていた感覚が正常に働きだす。
そういや腹が減ってきた……何気に時計を見れば既に8時を回っている。
どおりで。


最近思い知った事だが、Aだけの絡みでも時間が経つのを忘れるくらいのめり込むと結構消耗感あんだよな。
すぐ隣で未だ息を整えている加奈子も似たようなものじゃなかろうか。
額や首筋にうっすら汗を浮かべているのでシャワーを促す。
と同時に脳裡に閃きが走った。このシチュエーションは…


「じゃあ京介も一緒に」
「入りません。俺はおまえ起こすより前に済ませたよ」
「そっか、なんか良い匂いするなーって気がしてた」


つーかコイツはどうしてこうも俺を風呂に誘いたがるんだ?
前にもほぼ同じ様な会話があったし、何らかのこだわりでもあるのか。
にしても貞操観念薄すぎだろ。そう思って訊いてみる。


「テイソーカンネン??」


だめだコイツ…俺は先生として悲しいッ


「つまりだ。恋人同士とはいえそうも簡単に男を風呂に誘うのは軽はずみじゃないかってこった」
「そ、かな…彼氏の背中流してやるとか、洗いっこしたりとか、アタシ憧れだったんだけど」


そりゃ別に否定はしない、むしろ好ましく思える。
ただ問題なのは男女の仲になってない二人がそれで済むかって点だ。
エロゲならまず例外なくHシーン突入だしな。


「え゛っ」
「えっ、て何だ。そんな意外なことかよ」
「だって京介、キスより先しようとする素振りも無いし。アタシの体型じゃムラムラこねーのかなぁって…」
「やせ我慢してるだけだ。胸がなくたって欲情くらいするわ」


恥を忍んで心情告白する。
加奈子が自分に魅力がないと思い悩んでいたなら、そんなのは誤解だとわからせたい。


「む、胸がないは余計だっての!」
「…ぉぅ」


また怒られてしまった。
素直なだけじゃダメってことだな、懲りない俺である。
気を取り直して。


「そういう訳だから。気持ちは嬉しいが一緒に風呂はやめとこう。
 加奈子だって、その状況の勢いで俺に…その、抱かれるのは、望むところじゃないだろ」
「そう言われると、そうかな……よくわかんないや」
「とりあえず納得しとけよ。お前がシャワー浴びてる間に俺は何か食べるもん用意しとくからさ」
「ん。サンキュ」


礼を言いつつ寝間着を脱いで、無造作にホイと放って行く。
……まあ(俺が居る)部屋で下着まで脱いでかなかっただけよしとしておこう。


頃合いを見計らってバスルームへ「温度設定熱めにしてあるんで気をつけろ」と声をかける。
すると扉が少し開き、漏れ出る湯気と水音の向こうで加奈子は言った。


「悪いんだケド、何も持たないで来たからタオル用意しといてくんない?」


お安い御用だ。


「あと着替えも頼むわ。パンツの柄は京介の好みで選んでいいからさ~」


オーケィ…仰せのままに。



さて。
ハプニングエロス的な一悶着はあったが、ここは食欲の優勢に任せてメシの用意を。


もし朝起きてすぐメシを食ったなら、そして満腹になった後でさっきみたいな絡みになってたなら…
そう考えると危ないとこだったのかもしれん。
三大欲求の微妙なバランスに感謝して、食材を確認する。


ふむ、今朝はパンだな。時間もかけないほうがいいだろ。
例によって大雑把に切り分けた野菜でサラダをでっち上げ、見た目がやや寂しいのでハムをのせる。
インスタントスープの素にワカメやらネギやらを散らして出来上がりだ。
この間数分。
トーストは加奈子が風呂あがってからのがいいな、予熱だけに止めておく。


そして残すは承った指令である。
タンスの加奈子用の引き出しに手をかけ…無論ここに俺が触れるのは初めてだ…一思いに、開くっ!
随分買い込んでやんの。
さっきああ言った手前パンツ選びごときで興奮するのは癪だし、目移りする間も置かず一枚を手にする。
ブラが別の棚でなかったのは幸いだった。
ついでに上着も持ってってやろう。
テキトーに持ってきたので俺の好みかどうかはなんとも言えないが…
アイツ自身の好みで買ったものには違いない、ダメ出しをもらう心配はないはずだ。



「上がったよー」
「ああ、ちょうど今からパン焼い…て…


あんでシャツしか着てないのおまえ!!?
下も履けください?


「この組み合わせはイマイチっしょ。それに、家の中で誰の目があるでもないんだし、いいじゃん」
「」
いやいやいや俺の目があるし。
それこそ家の中なんだから部屋までそれ履いてくりゃいいじゃねえか


「そんな固いこと言うなって。あ、そうそう、京介の好みってこういうのだったんだ。憶えとく」


薄黄色の下着にかろうじて覆い被さっていたシャツの裾を摘まみ上げ(!)
パタパタと風を送りながら「ひゃー涼しー」とか言って、加奈子は部屋に戻っていく。


チクショウ……アイツわかってねぇ…


あーもう。
あーもう!
何なんだあの無頓着さは。


泣けそうになってきたのはネギを刻んだのが理由ではなかった



焼きあがったトーストにマーガリンを塗り、
一応加奈子がジャムを食べたいと言うのに備えてあとは火を通さずにおく。
サラダにドレッシングをまぶして、菜箸で和え続ける。
無心だ。無心になれ京介。



そうこうしているうちに加奈子が着替えを終えてやってくる。
そう、それで良いんだ、まいはにー。
仮にまた破廉恥な格好でこっちに来たら、ひん剥いて押し倒してワッフルワッフルだったね。間違いない


「わ、今日も美味そう。やるなぁ京介」
「ンな大したもんじゃねえって。ほら、座れよ」


小さな折り畳みのテーブルは二人ぶんの食器でたちまち埋まる。
加奈子がいただきますと手をあわせるのを見届けて、ようやく俺も人心地ついた。


ムシャムシャと景気よく食う姿が、なんか良いなと思う。
食い方が汚かったりしたら論外だが、あまりお上品でも食卓を同じくするには気が引ける。
口の周りについたドレッシングを指で拭い、チロッと舌で舐めとる加奈子につい笑いが零れた。



「なに、急に?」
「んにゃ。お気に召したようで良かった」
「? ん、美味いよ。おかわり」
「ほい」


椀にスープをよそってやると、加奈子のやつ、箸先をくわえてカクンカクンさせてやがる。


「おい、よせよ」
「痛ゃっ」


間髪入れず箸を引き抜き、少しばかり低い声を作って注意する。


「イテテ…ちょっち行儀よくなかったか。そんな怒るなってば」
「怒るわ。もうするな」
「むぅ」


拗ねかける加奈子に、説いて聞かせておく。


「何も行儀とか作法とかそんなこたぁ言ってねえ。
 あのまま手や皿が当たったり、あるいは倒れたりしたら、箸が貫通しちまうだろ。危ねんだ、単純に」


ジェスチャーをまじえて話すと加奈子にももしもの場合が想像できたようで、渋面を見せた。


「あんな仕草ひとつでも一生ものの怪我とかなりかねん、俺の目の黒いうちは見過ごさねーぞ?」
「あ……うん」


自分の不明を反省しているのか、持ち直した箸でサラダの皿をトントンと突っついている。


「あのさ、それってさ…」
「おう」
「この先ずっと、ってことだよな?」
「当ったり前だ。一度ついた癖はなかなか抜けないって言うし、キッチリ見張ってるから覚悟しとけ」
「……うん、わかった」


珍しく聞けた殊勝な返事に満足して、食事を続ける。
それから加奈子が何度かチラチラとこっちに視線を送ってたが、ありゃ何だったんだろうな??



腹が減っては戦はできぬ。
でもって今まさにその空腹が満たされた。
戦とは言わないが、どっか出掛けよう…というアバウトな方向性で同意する。


「改めてすまんかった。GWの初っ端から貴重な休みを不意にしちまって」
「いいよ、そんなん。長引かなかったんだからノープロブレムでしょ」
「なん…だと…加奈子が自然に英語を…」
「ちょっと、そこまでオーバーアクションすることないんじゃね」


とか何とかバカっぽい応酬をしつつ食器の片付けに取りかかる。
そんな中、いきなり加奈子の動きが止まった。うぅ…と辛そうに呻く。


「おい、どうした、しっかりしろ。腹痛か?それとも咽に詰まったりしたか?」


何しろ急のことで俺が取り乱しかけると、加奈子は震えながら眉間に皺をよせて告げた。


「足がしびれて動けない……京介たすけてぇ…」



人騒がせな恋人に手を貸し、足を崩して楽な姿勢を取れるようにする。
あーあーあ、涙目になってやんの。
これは笑っちゃまずいな。根にもたれそうだ。
片付けは俺に任せろー(バリバリ)と行きたいとこだったが、


「待ってって。こんな状態で置いてくなー」


可愛い駄々をこねられてしまい、隣についてることにした。


「俺が傍にいても、してやれる事なんてないだろうに」
「いーの。傍にいるだけで」


かなり恥ずかしい台詞をさらっと言い放ち、
でもやっぱり本人も恥ずかしかったらしく明らかに紅潮した顔を隠すように俺の胸にポスンともたれかかる



「……ただくっついてるだけでこんな幸せなんて、おっかしいよね」
「奇遇だな。俺も同じこと言おうとしてた」
「きょうすけ、…すき」
「ちょっ、そこスリスリするなwwくすぐってえwwww」



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――――――――
――――


再びいくらか時が過ぎた。
といっても、スイッチ入った加奈子の好き好き攻勢に終始圧倒されるばかりの俺には時計を確かめる余裕などなく
…ってゆーか加奈子は御満悦のようで安らいだ顔を無防備に晒してるが、
俺はこのいきり立ったリヴァイアサンとどう折り合いをつければいいのかテルミーハウ…


あんだけ熱烈にイチャついてなお劣情を催さないってんだから、男と女の違いの神秘的なことよ。
正しくは「俺と加奈子の」か。
それは身体構造的なものなのか、それともメンタルなものなのか…
なんて理屈っぽい思考を敢えて組み立てて、荒れる海がおさまるのをジッと待った。


さっぱりした顔しやがって。うらやまけしからん。
一矢報いるのも許されない俺の身にもなってよね
いや、加奈子のことだから、その一矢を受け容れようとするかもしれない……
そんな想定もまた本意でないのだ。甚だ厄介。


この後どうするかは決めてないものの、
今日加奈子を家に帰したら部屋に戻って加奈子ブリッジ大佐しかないな。うん、よし。


自己完結しているうちに、あらぶるリヴァイアサンは次第に鎮静化していた。
これで今しばらくは加奈子との物理的接触も賢者のように(あるいは修験者のように)やり過ごせるだろう。


それにつけても、好いた惚れたの一筋縄で行かないこと。
加奈子に気付かれないよう注意しつつ、溜め息を吐いてしまうのだった。



♪~~♪~


もういい加減外に出ようぜと促し、ようやく支度にかかる。
あいつもようやく切り換えができたようで今は鼻唄まじりで鏡に向かっていた。



髪止めをくわえ(横着者め…)結び目を迷う風に顔の向きを細かく変えては房を作り直している。
手入れが面倒だと言うだけあって綺麗な髪だ。気付けばひとすくい手に取っている俺がいた


「? どったの?」


いきなり支度を妨げたことを咎められるかと思ったが、心配無用だった。
というか鏡で後ろの俺も視界に写ってるわけだから文字通り見え見えだったのか。
気恥ずかしさから少しのあいだ口ごもってしまうと


「なによー、黙っちゃって。ひょっとしてアレ? 加奈子の可愛さに思わず手が出ちゃったってやつ?」


鏡越しに、ニシシと得意げに笑いを覗かせる。
甘ちゃんな面を見せる機会も増えたが、容姿に関して自信家なとこはコイツの本質らしい。
まぁ…認めないではない、うん



「お前の髪があんまり綺麗に見えて、つい、な」
「そ、そう? 面と向かって言われると照れるってば」///


こんな何気無い一言に反応してわずかに俯き頬を赤らめる。
彼氏としての贔屓目を抜きにしても加奈子の髪は綺麗だから、
俺以外に褒められたりチヤホヤされたりすることもあったろうと察するが…
今この場でこいつの浮かべている表情は、そこに窺える感情は、
俺に対してだけのものと自惚れてしまっていいんだろうか。
胸熱というやつが実感される


さっきの姿勢で加奈子の髪を手にしたままだった。
柄にもなく高鳴る鼓動に身を任せて妙なことを口走ってしまう


「なあ。髪結ぶの、やってみていいか…?」


一拍置いて、戸惑いを滲ませた返事が戻る。


「い、いーよ、京介がそんなにしたいなら。でもあんまり強くしたらダメだかんね」
「わかってる。なるべく優しくするさ」
「……なんかその言い方、エロい」


…オモエモナー



加奈子、やたら座りが悪そうにそわそわモジモジしている。
そんなにか?勘弁してくれ、こっちにまで伝染しちまうじゃねーか。
鏡越しの会話は続く


「んな固くなるなって。別に、後ろからとって食おうってわけじゃないだろ」
「そーかもだけど」
「かもってww お前の期待するような悪戯心はもってねーよ。残念だったな」
「期待なんかしてないしっ……ふーん、無いんだ…」


一転、明らかに拗ねてみせる。
いやわざとじゃないんだろうな。
いかんぞ。せっかく苦心して落ち着いて接せられるように自制したってのに。
そういう男心を煽る仕草は見せてくれるな


「場所は、このあたりでいいのか?」
「ん、もうちょい下……イタッ」
「え。悪ぃ」


引っ張っちまってたか。思ったより解らないもんだな、長い髪の感覚って。


「痛くしないって言ったじゃん…うそつきー」
「面目ない」


向き直り手の甲をつままれる。どうやらお怒りを買ってしまった。


「前に言ったっしょぉ。髪は女の命だっつーの。デリケートなんだから」
「あー、そんなやりとりもあったっけ。懐かしいなおい」
「コラ、誤魔化せると思うな~」


誤魔化そうなんて思っちゃいないが。
プリプリしている加奈子に、不思議と、その……嗜虐心が刺激された。


「んな眉間に皺寄せんな、許してくれよ、っと」


子供を叱るように俺の手を捻りあげようとする加奈子の腕を逆に取って、それを軸に再び後ろへ回り込む。
もう一度、手触りの良い長髪を掬い上げて
すかさずうなじにキスを食らわした。どうよ!


あー、あれ?
ナニやっちゃってんの俺。
『どうよ』じゃねーって



「…やっぱり京介はうそつきだ」


ですよねー
ツールボックス

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