「高坂京介は落ち着かない」10-2


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  *  *  *  *  *  *


ああ、了解だ


で、お前は来られないのか


そっか。伝えとくわ


…は?


わーってるって。言われるまでもねーよ!
どんだけ信用無いんだっちゅうの、自分の兄貴に


じゃあな。応。


  *  *  *  *  *  *


思いのほか長くなった通話を終えると、携帯を耳から離した途端に待ちわびた加奈子が口を開く。


「桐乃なんだって~?」
「それがだな、手短に言うと、俺たちがこれから向かう先を提案してくれた」
「どゆこと??」



親愛なる我が妹いわく。都内某所でオタ関連のイベントが催されているそうな。
即売会の類いか、はたまたライブとかだろうか。
あんたたちでも楽しめるだろうからと力強く請け負っていたんで、ものは試しに行ってみようか…という


「斯斯然々だ。構わないか」
「や、カクカクシカジカじゃわかんないって。あとそのギャグ古すぎ」


あらら、ダメ出しもらっちったぜ。



「それじゃあ、先ずは駅に向かうでOK?」
「ちょっと待った。家に寄ってからにしよう」
「あぁ、桐乃は家から合流するって言ってんの」


普通そう聞こえるわな。
もっともな質問だ。


「あいつはあいつで別に用があるらしい。後から来れるようなら連絡するってよ」
「ふーん……もしかして、気ぃ使ってんのかな?」
「まさか。ねーだろ」


一緒に行きたがってるのがありありと見てとれたし。
電話口で「見てとれた」も可笑しいが。
わかっちまうもんなんだな。そっち方面に関しては。あいつ自分の欲求を隠しきれないタイプだから。


「だったらさ、なんで京介の家に寄ってくわけ」


これまたもっともな疑問に対して、妹からの説明を簡潔に伝える。
要するに、オタ関連のイベントに参加するとなるとひょっとして加奈子がメルルバレして騒ぎになるかもしれない。
それを避けるために、ぱっと見メルルの公認レイヤー「かなかな」とはわからない格好をしたほうが無難だろうと。


「こんなところは妙に細かく気がつくやつだよ、まったく」
「『メルルバレ』って…」


加奈子、ツボにはまったようで、プルプル震えながら苦笑を抑えきれないでいる。



「よし。出発しようじゃないか。進路、懐かしの我が家へ」


とか何とか、それっぽい台詞で決めてみたが普通にスルーされた(´・ω・`)


「懐かしのだなんて大袈裟じゃね? 京介、こう見えてホームシックだったり?」


ンなこともないけどな。
ごく近所なのにここ一月余りで指折り数えられる回数しか実家に帰ってないものだから……
感慨らしきものに浸っていると


「でも、アタシのが京介んちには結構馴染んできてるから、余計にそう思うのかもね」


馴染んでいる、と?


「桐乃と学校あがりに話すのに寄ったりとか。だいたい週に1,2回ぐらい」


なるほど。そりゃ間違いなく俺より多いな。
仲良きことは美しき哉
…ってゆーか、お前ら。俺の知る限り中学の頃は今ほど付き合いよくなかったんじゃないか、実際のとこ。
何気なく言ってみたのが運の尽き。
加奈子はお決まりのニヤケ顔を浮かべる


「そりゃね。こんな身近に、格好の共通の話題があるんだし?」


ネタは俺かよ。
二人して本人の居ないのをいいことにヤイノヤイノ盛り上ってやがんのか。


その場面を想像してみる。


――不思議と、悪い気はしなかった



二人で部屋を出るとき、鍵をかけるのは大抵が加奈子だ。


カチリ。
ドアノブに施錠音がすると僅かな間やわらかい笑みをたたえた。
いつもその瞬間の空気が俺にはひどく照れ臭く、同時にひどく愛しくてならない。


歩き始める前に、特に意味もなく玄関先で引っ付いてみたり。


ちなみに今日の加奈子は桐乃の忠告を受けて髪をおろしている。
いつか海に行った日のように、ちょい気合い入った服をチョイス。
やや短いスカートからスラリとのびた脚が眩しい。
うん、やっぱり俺的には部屋で見る半裸よりもこっちのがいいわ。
健康美っての?


「今日も可愛いな、加奈子」


ついそんなこっ恥ずかしい言葉のひとつも零れる。


「あったりまえ。おだてたって、何も出ないかんね」


紛れもない本音なんだがな。


「そう言う京介は…いつも通りイマイチ冴えない」


オイ。


「ジョークジョーク。冴えなかろうがパッとしなかろうが、人間中身だかんね」
「それ大してフォローになってないからッ」


加奈子はクックッと笑いながら続けた


「いいんだって。外見までイケてたら年中へんな虫がつく心配しないとじゃん」


幾分含みのある言い方をして、自然に腕を絡める。



――――――――――――
――――――――
――――


「コスプレイベント??」
「らしいぞ」


だから桐乃のやつ、あれだけ普段と違う格好してくよう言ってたわけだ。
特徴的な背格好してるし、知ってる人間から見ればモロバレだもんなぁ。


「って…このままでもよくない? イメチェンって意味なら、加奈子が『かなかな』だってわかりゃしないっしょ」
「ふむ。それも一理ある」


何よりまずツインテールでないってだけで、メルルを連想させる一大要因が消えているし。
割と落ち着いた配色の服装は、加奈子の素の子供っぽさを随分カモフラージュしてもいる。


「今なんか失礼なこと考えてなかった」
「唐突になに言ってんだ、俺は潔白だ」


コイツ、テレパスかっ
というか俺の考えが顔に出やすいだけかしら。


そんなやりとりを交わすうち我が家に到着。
桐乃はやっぱりいないようで、今度は加奈子のほうが電話をかけている。
正直ちっとまだるっこしい気がしないでもない。



――――――――――――
――――――――
――――


待つこと数分。
ようやく妹の部屋のドアが開かれる。


「お待たせー」
「遅い。ってかお前1日に何度着替…え……えぇ??」
「えっと、こんなん出ました、みたいな。ヘン、かな」
「いやそんなこたないが。ああ、似合ってるよ」


しかし。よりによって何故なんだ、


その猫耳フードは


導師たんかッ!?
桐乃のやつめ……グッジョブ。


「なんかさー。桐乃が言うには、普段着の延長ぐらいの軽めのコスのが紛れ込みやすいだろうって」
「さ、さよか」
「それにこれなら顔が割れにくいって…ねぇ京介、さっきから目が泳いでるんだケド?」
「気のせいだ」


説得力ねーな。
だが考えてもみてほしい。
加奈子のキャラとあまりにミスマッチな猫耳導師たんコス。
まさか自分の身近な人物にギャップ萌えをおぼえるとは。思いもよらなかったぜ。


なんだよー、やっぱホントは似合わないって思ってんのかよー、ハッキリ言えよー
とか何とか、加奈子が纏やりついてくる。ヤバイ。


このナリでイベント行ったら、正体バレなくても人目を集めちまうだろ。
連れとしては困ったような誇らしいような、複雑な心境だ。




ふたり手を取りあって住宅街を歩く。
移動は自転車でもよかったんだが
前々から加奈子の曰く、歩きのほうがくっついていられていいとのこと。
(ちなみに自転車の2ケツは俺が却下した)


いわゆる恋人繋ぎも馴れたもの。
すこし歩きづれーけど、久しぶりのデートで横顔も見るからに機嫌良さげだ。
生暖かい視線に気付いたか、加奈子はこちらに向き直り疑問符を浮かべた。


「どーかした?」
「や、どうって事もねえよ。こうして人目を憚らず外でベタベタできるぐらいには、お前に毒されたなあ…と」
「ナニソレ。ずいぶんな言い草じゃん。今日に限って急に恥ずかしくなっちゃったとか」


棘のあるような台詞と裏腹に、ニヤケ顔で握った手にやや力を込めて大きく振り回してみせる。
一瞬よろけそうになり、どうにか踏みとどまった。


「もちろん俺だって恥を忍んで付き合ってるってんじゃないから、そこは誤解せんでくれ。ただな」
「ただ…?」
「普段は突っ張った喋りのお前が、家でも外でもちょっとでもくっついてたいってウブなこと言うのが、な」


アンバランスっつーの?
何かにつけ子供扱いするなとムキになるくせに甘え方は無邪気な子供のそれみたいで、つい微笑ましく思える。
また怒られちまうかな?と心は構えつつ話すが、意外に加奈子は平然としたもんで


「べ、べつに何もおかしくなくね?
 誰だって好きで好きで仕方ない相手とはベタベタしてたいっしょ。年とか関係ナシにさ」


ときた。
多少の照れを含みつつ堂堂と言い切るストレートな愛の告白。
甘い痺れにも似た感覚が俺の脳髄を走る。


と同時に、自分がコイツにこうまで慕われるに足る彼氏であったろうかと自省の念も湧く。
安直かもしれんが…
今日からはもっと大事にしてやろう、恋人として充実した時間を持てるようにしようと心を新たにした。



「それ言うなら京介こそ」
「俺? 俺が、なんだって」


言葉を探すように少しの間を置いて加奈子は続ける


「何かとすぐ年の差意識したりさせたりして子供扱いするくせにさ…
 なんでもないやりとりの中で、すごい自然に、加奈子のこと大切にしてくれてる。ちゃんとパートナーと見てくれてる。
 チグハグなんだよね。アタシからしたら嬉しいし、刺激的で、なんも文句ないんだけど~」


『けど』来た。
何だ、この接続詞のあとにどう続く?
焦れる俺を実に楽しそうに見やり、加奈子は宣告を下す。


「アタシに毒されたってより、それが京介の地なんじゃない? ちょっとひねくれたロマンチスト、みたいな」


なん……だと……
返す言葉に窮しているうち、追撃が襲い掛かる。


「ある意味ひとのこと言えないぐらい入れ込んじゃうタイプなのかも。その…恋愛に。
 それで釣り合いが取れてるみたいだから、加奈子と京介ってばやっぱ相性良かったんだろーね」


そういうものかぁ?
さしあたって否定すべき指摘でもないんだが、
したり顔でヘヘッと笑う加奈子に何とも言い難い感情を覚える。


コイツの言うように、俺らって根本的には同類だったりすんのかしら



「あ、わかった」


??
まったりと、交わす言葉も少ない道すがら。
何かのメロディを口ずさみ並び歩いていた加奈子が、唐突に足を止めた。


俺は一瞬反応が遅れてしまい、結果として今度は加奈子が手を引かれる形でつんのめりかける。


「わ…!」
「おっと。あぶね」


二人して転ぶとか痛すぎだろ。
咄嗟に繋いだ手を離し、加奈子を受けとめた。ありがと。どういたしまして。
急のことでコイツも動転したらしい、うっすらと額に汗を滲ませて上気した顔を見せる。


オイオイ。何なんだ、このこっ恥ずかしいシチュエーションは。
浮かんだ思考がついそのまま口から出ると、
ベタスキーの加奈子もさすがに照れ臭かったようで苦笑をこぼした。



「――で、なにがわかったって?」


近くのベンチに腰掛けてペットボトルを一口二口含む。
ようやく落ち着いたところで、事の発端について訊いてみると


「そうそれ、聞いてよ」


待ってましたと言わん勢いで加奈子は語り始める。



「さっきから気になってたの。桐乃の部屋でこの格好に着替えたときにさ」


ふむ


「京介、言ってたじゃん。一日に何度着替えるんだーって」
「あぁ。そんな風に言ったな、確かに。なんか可笑しなとこあるセリフだったか?」


話ながら考えを巡らすが、思い当たる節はない。


「本気でわかんないのかよ~」


加奈子がいつの間にかまた繋いでいた手をブンブンと揺らす。
そういう仕草が子供っぽいってのに。まぁ、この際指摘はしないでおこう。


「降参だ、わからんものはわからん。なにしろあの後すぐ出てきたお前の格好に度肝ぬかれたかんな」
「度肝?」
「だから…すげー似合ってるって」


自分の彼女という欲目が混じってるかもしれない。それでもこうして改めて眺めると相当なものだ。
衣装がピッタリだってんでなく、普段着ないような格好で「似合ってる?」とか言う加奈子自身が、だな。
だから正確には「似合う」より「かわいいよ」と言うべき。
言ってやりたいのは山々なんだが、そう口にすると俺もあいつものぼせて出来上がっちまいそうで
そこに躊躇いをおぼえるわけだ。


思考を転がすうち自然と加奈子の頭を撫でていた。
加奈子はといえば、へへ…と頬を弛ませて俺にもたれかかる。


これって二人きりで部屋に居るときと変わらなくね?
節制のきかないダメダメな俺らなのだった




数分後。
このまま浸ってるのもまずかろうと気を取り直し、会話の続きを促す。


「だからさー、『何度着替えるんだ』は根本的におかしいんだって。加奈子たちどこに向かってんだよ」
「うん?……あぁ、そういうことか」


さっきはあやうく忘れそうになったが目的地はコスプレイベント会場だ。


「京介は、加奈子に普段着ないような服着せたり脱がしたりして楽しもうってつもりなんだろwwww」
「脱がしたりは余計だ…わざわざ人を変態的に言うなっちゅーの」


ただ、大概のニュアンス的には間違いないんで、強く否定しづらいのも事実だったりする。



会場につくと予想外の人出で思わず感嘆の息が洩れる。
眼前のこの催しは、レイヤーがいてカメコがいて…という普通のコスプレイベントと異なり、
素人でも気軽にコスプレを楽しめるようにと衣装を提供するサークルが結託して無料で貸し出してるのが特徴だ。


「結託とかいうと何か悪巧みみたいに聞こえる…衣装用意してるやつらが気ぃ悪くするって」


加奈子が珍しく至極まともな指摘をする。


「そうか結託の意味はちゃんと理解できてるか。先生一安心だ」


からかってやると、即座に肘を入れられた。
加奈子ェ……


「おまえ、可愛くなってきたと思ったら、そのすぐ手を出すのは相変わらずなのな」
「うっさい。なんでもかんでも可愛い連呼してれば収められるとか大間違いだかんね」


ってな感じでじゃれてる間にも手を繋ぎっぱなしなのが加奈子クオリティ
幸いと言うか、ここにはカップルもたくさん訪れている。
(どころか家族連れすら結構いるようだ)
おかげで今の一幕で俺たちが悪目立ちする羽目にはならずに済んだ。


もっとも加奈子のことだ、じきにその容姿や着こなしで注目を集めるのは避けられないだろう。
俺はどう対処するのが一番なのかと、そこばかりは悩ましい。
加奈子もこう見えて褒められるとそれに応えて無下にはできないタイプだ、最悪さらって離脱する覚悟はしとこう




「でだ。衣装を提供してるサークル連中にはレンタル料を取らなくてもいいメリットがある」
「ふぅん……それって、どんな?」
「一つは、あれだ」


手近で黄色い歓声をあげて盛り上がっている女子二人組へ視線を促す。
着終わった衣装を借りたサークルへ持っていくと、
そこで短いやり取りのあと丁重に袋におさめられた衣装を再び受け取っている。


「あれって、ひょっとして着た服が気に入ったら買えるの?」
「ご名答。って入り口で貰ったパンフに書いてあるんだけどな。おまえ貰ってないみたいだから」
「うぇ…ぜんぜん気付かなかった」



衣装の製作代より多少の色を乗せて掲示した値段で売れたなら、その収入が次の製作費に充てられるって寸法だ


んで、もう一点が、
コスプレに興味はあっても踏み出せないでいる人間に無料で試せる機会を提供することで新規層を望める。
ひいてはこのイベント以降も自分のサークルのお客になってくれる可能性につなげるって損得勘定も勿論あるだろ


着る側からしたって、自分で衣装を用意しなくてもいい、貸し衣装代もかからないとくれば気楽なもんだ。


「といった具合で両方に利害の一致したよくできている、それでいて野心的な催し物なんだよ。俺はそう思うね」
「へぇ……奥が深いんだな、コスプレ会」


こんな開かれたのはむしろ稀有な例だろうけどな。
主催者が余程有能か、強いコネを持ってるのか。そんな裏事情は知るところじゃない。


「まあ、俺たちはただ楽しめば良いさ。他と同じようにな。一回りしてみようぜ」
「ん。京介、あてにしてっからね」


にこやかに笑う加奈子、そのアテってのは……審美眼か。マネジメントか。それともまさか、財布じゃあるまいな
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