「俺が妹と夫婦なわけが無い」01


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俺、高坂京介は混乱している
大学進学を決めて、ようやく大学生活に慣れたという頃に
両親が、否、今まで俺を育ててくれた夫婦が突然交通事故で亡くなった

葬儀屋、親戚、親父の同僚などに連絡をして葬儀を済ませたら
今度は悲しむ暇も無く相続だの後見人だのといった話が出て来て
さらにその中で俺が実の子じゃないという事実まで飛び出してくるんだから
頭の中はまさに混乱のキワミだ
それは16才になったばかりの妹(と思っていた)桐乃もそうだろう

「えーと、それでつまりどういうことなんでしょうか?」
役所の人や司法書士さん、遠い親戚といった人達から色々話や
これからとり得る進路などを言われてもイマイチ頭に入ってこない
「あ、あたしはそんなの絶対イヤ!!」
桐乃は何か激しく怒鳴っている
後見人とか財産管理だとか相続だとかそういうややこしい話がぽんぽん飛び出してきてんのに
お前は理解できたのか?やっぱすげぇな桐乃は・・・
「ようするに兄貴にはこの家を出て行ってもらうってことでしょ!?そんなの認められない!!」
――え?そんな話も出てたの?
親戚の人と司法書士さんが実子でないことがどうのとか相続権が云々とか言ってたが

「もういい!!それならアタシが兄貴と結婚する!!夫婦なら家族なんだから問題ないでしょ!?」
「は?」

その後もやいのやいのと話し合いが続いていたが俺の頭の中は
いや、俺たち兄妹の頭の中は両親の死で大混乱だったんだろう
うん、きっとそうだ―――

「そ、それじゃあ桐乃ちゃんと夫婦になっちゃったの!?」
「ああ、もうほんと最近混乱しっぱなしだぜ・・・
 ――麻奈実は俺が養子だって知ってたのか?」
「ううん。おじいちゃんとかお母さんとかは知ってたんだとおもうけど・・・」
「ま、俺が知らなかったんだから当然だよな――」

大学の学食で幼馴染の田村麻奈実と昼食をとりながら、報告をする。
普段はサークルのメンバーとかとも一緒なんだが、
さすがに付き合いの浅い連中の前でこういう話をするのには抵抗がある。
かといって外で二人で会うのも“恋人”に悪いからな。
いくら幼馴染で友人とはいえ、女性と二人きりで食事をするなんて、
恋人からしたら許せない行為だろう。
もっとも、さらに許せないようなことをしてしまったわけだが・・・

「そ、それでこれからどうするの?」
「どうするもこうするも今は先のことなんて想像つかねーよ、
 まあ、今までの生活を続ける為の方法だったことには間違い無いしな。」
「そ、そうなの?」

住む場所や財産相続、管理、さらには様々な手続きに至るまで、
未成年の俺たち兄妹の意思で決める為には
実状などとは無縁の書類上の資格が必要だったのだ。
家族であることや、後見人を必要としない成人であること等がそれだ。
実年齢が二十歳に達していなくても、結婚すれば民法上成人として扱ってもらえる。

「そ、そっか、そうなんだ・・・」
「ただ、まあ俺も桐乃も大人になったらそれぞれ一人立ちしなけりゃならないから
 その時には―――離婚ってことに・・・なるかな?」

声に出して言うとそのあまりの内容に顔が引きつっていくのが自分でもわかる。
まだ結婚した実感すら無いというのに(あってたまるか!)
離婚する時のことを考えねばならんとは何の冗談だ。

あの事故で、今までの俺の平和な日常は壊された
どんなに嘆いてもその事実は変わらない

――だが全てを無くしたわけじゃない

心配してくれる友人や幼馴染、―――それに恋人
両親の知人に至るまで俺たちをバックアップしてくれる人達がいる
悲しみを分かち合い、共に生きていく“家族”も――

「ま、なるようにしかならんさ」
仮に実の兄妹だったとしても
アイツが成人するまでは俺が守らなきゃならなかったことに変わりはない

「今はアイツの前向きさを見習ってみるよ、
 やり方はしっちゃかめっちゃかだけどな。」

そして、俺は“妻”の待つ家へと向かうのだ――

「――それで?話というのはなんなのかしら?」

こえぇぇええーーーー!!!!

今、俺の目の前にいる俺の恋人、黒猫(本名、五更 瑠璃)は怒っている。
口調こそ丁寧なものの、その態度から強烈な怒りのオーラを感じ取る事が出来る。
いまコイツが
「私は夜魔の女王(クイーン・オブ・ナイトメア)・・・」
とか言い出したら信じてしまいそうだ。
だが、この様子からすると―

「ひょっとして・・・もう知ってるのか?」
「・・・ええ。あなたの“奥さん”から聞いたわ」

地の底から響くような声で、しかもはっきりと“奥さん”・・・だと・・・?
「す、すまん!!お前が怒る気持ちもよくわかるがこれには深い訳が・・・」
「言ってごらんなさい。理由次第では許してあげなくも無いわ」

それから俺は必死で言い訳をした。
あの混乱の中で出来うる限り、家を、「家族」を守る為にしたことであり、
瑠璃への愛情が無くなったりしたわけでもない。
さらに情けない言い訳をするなら、
もっと良い方法があったかもしれないが、あの時の俺は頭が正常に働いてなかった、と。
出来うる限り黒猫の怒りを静めようとあれやこれやと説明した。


「―――で?」
はいダメでした。
何でだ?俺このまま振られちゃうの?グスン

「あなたは私がなぜ怒っているかという事すら理解していないようね」
「・・・何の、ことでしょう・・・?」
「事情はもう一人の当事者から既に聞いて知っているわ。
 あなたが今述べたような理由も聞いている。」
「じゃ、じゃあなんで・・・」
「何故?何故ですって!?それはこっちのセリフよ!!」

何でだ?なぜ黒猫はこんなに怒ってるんだ?
 、、、、、、、、、、、、、、、、
「私はあなたの恋人でしょう!?
 それなのに何故私は今更になってそんな話をあなたから聞かされてるの!?」
「――あっ・・・!」

バカだ俺は。
そうだよ事故の話はとっくにコイツにも伝わってるし、両親のことも知っている。
俺と同じくらい――いや、ヘタすると俺以上に悲しんで
俺たちのことを心配してくれていたに違いない。―――なのに

「すまん・・・」
「謝らないで、これは私の我侭よ。
 あなたに何かあった時、私をもっと頼って欲しい。ただ、それだけなの。」

俺はコイツに余計な心配をかけたくなかったから、弱音や愚痴を吐くことを避けるため
落ち着くまではと思い連絡をほとんどしてなかった。
それが余計コイツを悲しませることになるなんて、
一年近くも付き合っておきながらなにやってんだ俺はよ!

「お願い、辛いなら辛いと言って。悲しいなら悲しいと言って。
 こんな時に助けを求める事は、悪い事ではないはずよ」
「そうだな・・・ありがとう」

そっと抱き寄せて感謝の言葉を述べる。
でもやっぱ泣き顔なんて見せたくねーよ

「あなたも・・・あなたの妹も強がり過ぎよ」
「うん」
「恋人と親友が両親を亡くしたって言うのに、心配しないはずが無いでしょう?」
「そうだな」
「力になりたい、そう思っているのよ、私も沙織も・・・」
「うん」
「きっとあなたやあなたの妹の友人だって・・・」
「うん」

恋人の優しい言葉を聴きながら俺はあの日以来初めての涙を流し続けた・・・

「―――――そうか、ありがとう」
『なんの!拙者と京介氏の仲ではござりませぬか。礼には及ばぬというものです』

今、俺が電話で話している相手は沙織・バジーナと名乗る妹の友人だ。
本名は槇島沙織といって、かなりいいとこのお嬢様でもある。
妹がオタクの友達が欲しいと思い立って参加したコミュニティ
「おたくっ娘あつまれー」の管理人であり、今では俺の大事な友人の一人だ。
妹のオタク友達としてずっと付き合って来たので、沙織の素顔を見たときには皆仰天したもんだが、
今は沙織のその素顔の部分に救われているところが多々ある。

「いや、本当に助かるよ。相談できる専門家がいるってだけで相当心強い」
そうなのだ――
今、俺たち兄妹は普通だったら経験しないような事もやらねばならない状況にある。
保険の契約などを筆頭に、諸々の財産管理などは、はっきり言って荷が重い。
そもそも困った時誰に相談すればいいのかもわからない状態だった。

『ええ、彼は場数を踏んでいますから頼りになりますぞ』
「ははは、それもそうだけど、信頼できるっていうのが何より有難い」
沙織は俺たちを大切に思ってくれている。これは自惚れじゃ無く事実だと胸を張って言える。
そしてその沙織が信頼できる人物、特にそういう事に詳しい人物を、
そのお嬢様としての人間関係の中から紹介してもらったのだ。

「ま、出来るだけ自力で頑張ってみるけどな」
『無理や過信は禁物ですぞ』
「わかってるよ」
『そうでござるか?』
「?――何の話だよ?」
『一人で全部背負い込もうとするのは、京介氏の美点でもありますが
 恋人にすら何も話さずにいるというのは――』
「まてまてまて!!」
こいつ一体どこまで知ってるんだ?
まさか黒猫に泣きついた話まで知ってるんじゃないだろうな?

『黒猫氏が言っておられましたよ?
 彼からではなく、彼の“奥様”から事情を聞かされた、と』

ああ、そういうことね
桐乃は俺より先にこんな事になってしまった経緯を黒猫に説明したんだ。
ま、あの二人は親友同士だからそんなことをしても不思議じゃない。
問題は、俺が黒猫に報告するのが遅かったことだ。
よくよく考えれば沙織よりも遅かったんだから愚痴る気持ちも湧くだろうな・・・

「その件は非常に反省してるから“奥様”だなんてからかうなよ・・・」
『事実ではありませぬか』
「違わねーケド違えーよ!!」

わけわからんと思うだろ?俺だってわかんねーもん
ま、さっくり説明すると俺はつい最近妹と結婚したんだよ。
余計わかんなくなりそうな説明だが気にするな!

『言わんとすることは伝わりますが、
 出来ればもう少し真剣に考えていただきとうござりまする。
 ―――おそらくきりりん氏の心中は京介氏の比ではないほどに
 混乱されていると思われますし・・』
「・・・」
『京介氏はこういう時自分の事は後回しにしてでも周りの人のことを気にかけるお方ですので、
 逆にあまり心配はしておりませぬ。
 それよりも黒猫氏ときりりん氏のお気持ちを想像すると居ても立ってもおられないのですよ』

「―――――そうだな」
『ざっくりいうと京介氏は今、不倫をしているわけですし』
「おい!!」
『黒猫氏にさせているとも言えます』
「―――!!」

『・・・・・拙者の頼みはひとつだけでござりまする』
「なんだよ」
『拙者の大事な友人たちを悲しませたりしたら承知しませぬよ?』
「わかってるよ、俺だってサークルクラッシャーなんて呼ばれたくないしな」
『それを聞けて安心しました、では!』

電話を切ったあと俺は宙を見つめながら、
今、自分の置かれてる現状のややこしさにあらためて困惑していた。

「人生相談・・・俺は誰にすりゃいいんだ?」

誰に、というわけでもなく尋ねてみるのだった―――

「えーと、牛乳と豆腐と・・・あ、麦茶もだな」
俺は今近所のスーパーで買い物をしている。
何故なら今日の食事当番である妻からメールで頼まれたからだ。

本文:豆腐と牛乳が切れてるんだけど、どういうこと?

どういうことなんだろうねー、はっはっはー

こんなメールが来たら買い物してから帰る以外に選択肢は無いだろ?
ちょっと尊大な態度も眉目秀麗でスタイル抜群の若妻なら許せるだろ?
料理はまだまだ俺の方が上手いくらいなのが珠に瑕だが、
頑張り屋の妻のことだ、すぐに上達するだろう。

「ただいまー」
ドアを開けると玄関にはエプロンをつけておたまを持った妻が立っていた。

「遅い!!」
そう言うなりすぐさまスーパーの袋を俺からふんだくる。

「悪かったよ、ちょっと用事があってさ」
「まさか浮気してるんじゃないでしょうね?」
「何でそうなるっ!?」

妻はカバンからはみ出した和菓子の箱を睨みつける。

「それ、田村屋のお菓子じゃん。地味子のところに行ってたんでしょ?」
「ただ買い物しただけだっつーの!大体この時間はアイツは店にいねーよ!!」
「へ~、詳しいのね」
「そりゃご近所さんで友人だからな、知っててもおかしかねーだろ」
「ふ~ん、ま、イイケド?
 ご飯はもうすぐ出来るからさっさと着替えておりてきなさいよね!」
「わーったよ」

やれやれ・・・
麻奈実の影が見えるとすぐ不機嫌になるのはどうにかならんもんかね?

「「いただきます」」

夕飯は絶賛するほど美味しいというわけではないが、中々の出来だと言って良いだろう。
最近、料理の本が頻繁に移動しているのは使っている証拠か。

「美味いじゃん」
「当たり前でしょ」

ぐ・・・ここは「ホント?嬉しい!」とか言って笑顔を見せる場面だろ?
マジで結婚しても以前と態度がかわらねーな!

「ご馳走さま、片付けは俺がやっとくわ」
「ほんと?それじゃあたし先にお風呂入るね」
「おう」
「のぞいたらコロすから」
「のぞかねーよ!!!」
「言っとくけど夫婦間でも強姦罪は成立するんだからね」
「だからしねーって!」
「どうだか?アンタシスコンだし」
「もういいからさっさと入って来い!」

桐乃をリビングから追い出して片付けを始める。
今までこんな家事なんてしたことも無かったが、今や家族は俺と桐乃の二人だけだ。
掃除、洗濯、炊事、買出しと二人で手分けして、あるいは協力してやる以外にない。
家事代行のサービスというものもある世の中だが、よく知らない人間を家に上げたくない。
これは桐乃の強い要望でもあった。

「ま、そりゃそうだ」
桐乃には、学校の友人どころか家族にも秘密にしていた「オタク趣味」がある。
ちょっとした弾みで俺の知るところとなり、その後親からも黙認という形になった。
オタクの友達も出来て、以前よりその趣味はオープンになったともいえるが、
やはり秘密にしておきたい気持ちもまだあるだろう。

「そのせいかな・・・」
両親が不慮の事故で唐突にこの世を去った時、親戚の人の世話になる選択肢もあった。
だが桐乃はそれを頑なに拒んだ――俺と結婚するという荒業を用いてまで。
その甲斐があって俺たちは今まで通り「家族」として一緒に暮らす事が出来ている。
それ自体に不満なんて無い。だけど・・・

「いつまでなんだろうな・・・」

独り言が増えたのは寂しいからじゃない。これは悩み事が増えたせいだ―――
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