「俺が妹と夫婦なわけが無い」05


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今、桐乃はなんて言った?
あんたのことが好きだから?
誰が誰を好きだって?

「・・・・・気付いてなかったでしょ?あんた鈍いもんね」
「・・・・・すまん」
「・・・・・」
「・・・・・」
気まずい沈黙が続く。というかこんな時なんて言えばいいんだよ!?
大体桐乃は妹だぞ!?

「なんか言ったらどうなの?」
「いや・・・なんて言えばいいんだよ、いきなりそんなこと言われても何も出てこねえよ・・・」
「・・・じゃ、あたしに聞きたいこと聞けば?一番言いにくかったことはもう言っちゃったし」
「ん・・・、そうか」
聞きたいこと、聞きたいこと、ああダメだ!さっきのセリフが邪魔をする。
こいつが俺のことを好きだなんて何の冗談だ!?
そりゃ家族なんだから嫌われてるより好かれてる方がいいけど、
こいつが今言った「好き」はそういう意味じゃないんだぜ!?

「いつからだよ?」
「・・・関係あるの?今のあたしがそうなんだからそれでいいじゃん」
「いや、関係あるだろ。俺が黒猫と付き合いだした時はどうだったんだよ?」
「・・・・・その頃はもう好きだった」
なんてこった。それじゃ、こいつはどういう気持ちで俺たちと一緒にいたんだろう?

「黒猫は知ってるのか?その・・・お前の気持ち」
「知ってる・・・本気にしてるかどうか知らないけど」
「・・・何て言ったんだ?どう伝えたんだ?」
「・・・・・『兄貴と別れて欲しい』って言った」
「本気かよ・・・。じゃ、何で去年は付き合うことに反対しなかったんだ?」
俺と黒猫が付き合いだして一年くらいになるが、その間も俺たち4人の関係は良好だった。

「・・・仕方ないじゃん。あの頃はあんたのこと“兄貴”だって思ってたから」
「今は違うのかよ?」
「違うよ・・・全然違う。望めば結婚だって出来るってわかったから」
実際結婚してるけどさ、俺は血が繋がってなくたってこいつの兄貴だと思ってたのに。

「あんたが『血が繋がってなくても俺たちは兄妹だ』って思ってるのは知ってる。
 でもね、あたしは『血が繋がっててもあたしは兄貴が好き』って思ってた」
初めて聞く桐乃の言葉にただただ混乱する。
そもそも結婚してからもこいつはそんな素振りを一切見せず、
それこそ以前と同じような態度をとり続けていたじゃないか。

「・・・・・お前、結婚した後も全然態度が変わってなかったじゃねーか」
「だってあんたショック受けてたでしょ?」
「は?俺が?何に?」
「自分が実の子どもじゃなかったことに」
そりゃあ驚いたさ、でもそんなショックを受けたつもりはない。
だって俺はあの時までそんな事に気付かなかったし疑問すら抱かなかった。
親父とお袋は文字通り死ぬまで俺を実の息子として育ててくれていたんだ。
感謝こそすれ、それ以外に思うことなどない。

「・・・そんなことは無いさ、それよりお前の方がショック大きかったんじゃないか?」
「なんで?」
「なんでって、俺と違って実の両親が亡くなったんだし」
「・・・それはあんたも一緒でしょ?でも、あたしは?」
「お前?」
「血が繋がってないって聞いて“妹”まで失くしちゃったワケじゃん」
「――!」
「家族全員なくしちゃったようなもんじゃん・・・」
桐乃は続ける――
「二人だけになってからあんた結構変だったよ?
 お父さんとお母さんの部屋は片付けようとしないし、無理して前と同じように暮らそうとしたり、
 何より『あたしとあんたは“家族”だ!』って態度が不自然に多かった」
「・・・それは、お前が心配しないようにって思って・・・」
桐乃は黙って首を横に振る――
「あたしはむしろ嬉しかった、あんたと血が繋がってなかったこと。だからわかる。
 あんたは昔に戻りたがってたみたいだった。
 だからあたしも出来るだけ今まで通りにしようと思ったの」

「あんたが、壊れちゃいそうに見えたから・・・」

それを言うなら今はお前の方こそ壊れちまいそうな様子じゃねーか・・・
桐乃はこんなになるまで無理をして俺を支えようとしていたのか?
まだ16の女の子なのに・・・・・

「ごめんな、気付いてやれなくて。―――――ありがとう」

今まで気付けなかった桐乃の気遣いが、俺はただただ嬉しかった――







「それで?話というのはなんなのかしら?」
「ああ、だけどその前に聞いておきたいことがあるんだ」

なつかしの母校の思い出の場所で恋人との会話――
状況だけ見ればとてもロマンティックなものだろう。
だがこれから話す内容はそんな甘酸っぱいものとは無縁のものだ。

「桐乃が俺のことを好きだっていうのはもう知ってたんだよな?」
「・・・その質問が来るという事はついに告白でもされたのかしら?」
「ああそうだ、だから瑠璃からも聞いておきたい。知っていたのか?」
「ええ、そうよ。以前も言ったでしょう?『あなたの妹があなたを好きなくらいには』って」
「ああ、覚えてるさ。でもそれとは別に瑠璃は桐乃から直接聞かされたんだろう?」
「直接・・・と言っていいのか微妙だけど――」
両親の事故の後、あいつはあやせにすら報告しなかったことを黒猫には伝えたのだ。
実の兄妹じゃなかったこと、そして婚姻届を出した事。

   『あんたなら、あたしが言いたい事、わかるでしょ』
   『・・・別れろ、とでも言いたいのかしら?』
   『やっぱわかってんじゃん』


「・・・俺たちが付き合いだした時は、何か言ってこなかったのか?」
「『あんたと友達だったこと、初めて後悔した』って言われたわ」
「――はっ!マジかよ!?」
つまり俺と黒猫を引き合わせてしまった事を後悔したって意味か。
でもその言葉には桐乃の黒猫への思いがよく現れている。
“その時”まで桐乃は黒猫と友達で良かったって思ってたってことだろ?

「お前らほんとに仲いいな」
「な、なにを――!・・・そ、そうね大事な友人だわ」
否定しかけて止める。ここで変に意地を張っても意味がないのは黒猫も承知だ。

「ベルフェゴールに渡すくらいなら私に、とも言ってくれたし・・・」
「あいつどこまで麻奈実を嫌えば気が済むんだ・・・」
「あなたとあの子が一時期疎遠になっていた原因を思えば仕方ないと思うけれど」
「ああ、まあ確かにそうかも知れねーけどさ・・・」
“自分から兄貴を奪った女”より“自分が兄貴と引き合わせた女”の方がマシ――
つまり、そこに桐乃の意思や存在があるかないかの違いだ。
麻奈実と俺の関係は桐乃なしでも成り立つが、俺と黒猫の関係は桐乃なしでは成り立たない。
まあ他にも俺と黒猫との付き合いを許容できた理由には、桐乃と黒猫の友情もあっただろうが。

「――それが沙織のパーティの時はどうなったんだ?」
「・・・・・同じよ、ただ沙織の前で言った、というだけ――」
「そんでそれ以来お前ら会ってもいなけりゃ話もしてねーのか」
「―――そうよ」
やっぱりそうか。しかしそれなら頼み事が2つになっちまうな。

「悪いとは思うんだけどさ、瑠璃に2つ頼み事があるんだ」
「・・・・・何かしら?」
「まず1つめだけど桐乃と仲直りしてくれないか?
 桐乃が瑠璃を避ける分は仕方ないけど、瑠璃から桐乃を避けるような事は必要ないだろ?」
「それは、あの子が納得すればの話ね」
「それは俺が説得するさ。だからあいつから話しかけてきた時は昔みたいに仲良くしてくれ」
「・・・・・あなたの説得が上手くいけば、そうしてもいいわ」
「ああ、説得するさ。ありがとう」
なんだかんだでこの二人は仲の良い友人だしお互いの理解者でもある。
桐乃だって黒猫とケンカしたままで平気なはずがない。
あやせとケンカした時もあいつは相当へこんでたんだ――

「それで、もう1つの頼み事というのは何なのかしら?」

来た――。決心していたにもかかわらず躊躇してしまう。
ただでさえ黒猫を傷つけるようなセリフだ。さらにその理由も―――

「どうしたのかしら?私はまだ1つしか聞いていないわ」

視界が暗くなる、喉が渇く、鼓動が激しい――
あの時の黒猫とのやりとりを思い出す。
初めて涙を流せたあの日、あの時の黒猫の優しさがなければ俺はとっくに潰れていただろう。
その恩を仇で返すような真似を――

「・・・・・早く言いなさいよ」

大事なものがある。“今”大切にしなければならないものが――
その為に――


「俺と別れてくれ」








目を大きく開いてこちらを見つめる黒猫――
それを見つめながら俺は桐乃との約束を思い出していた。

  『ありがとうって、オッケーってこと?』
  『え?』
  『だから、その・・・、あたしの気持ちを受け入れてくれるのかってことよ!』
  無理だ。今まで妹としてしか見てなかったのに、いきなりそんなこと出来るはずがない。
  だけど桐乃の気持ちを知ってしまった以上、何もしないわけにはいかない。

「それは、あの女に言われたから?」
「いいや、違う。でも桐乃の為だということは間違ってない」
「―――――つまり、あの女の告白を受け入れたということ?」
「それも違う。桐乃と・・・、お前の為だ」

  『お前さ、黒猫と仲直りしろよ。友達だろ?』
  『ムリ、兄貴の彼女となんか・・・仲良く出来ない・・・』
  そうは言ってもこの桐乃の状態、いつかあやせに絶交された時と同じものを感じる。
  あの時と違うのは俺のせいだってことと、絶交したのが桐乃の方ってこと。
  でも、あの時のあやせも本当は仲直りしたがってた。なら桐乃も黒猫も本当は――

「私の為?ふざけないで!」
「怒る気持ちはわかる。だけどお前が桐乃と仲直りしたいって思ってることもわかる」
「勝手な男ね」
「重々承知だよ」

  『なら黒猫と別れる。それだったら仲直りできるだろ?』
  『は!?あんた何いきなり―――――本気?』
  『その、お前の告白を受け入れるのは無理だ。とても今はそういう風に考えられない』
  『・・・・・うん』
  『それに俺はお前が・・・、お前とあいつが喧嘩してるところなんて見たくねえんだ』

「でも根拠なしに言ってるわけじゃない。付き合い始めたすぐの頃がそうだったろ?」
俺たちが恋人同士という関係になっても、なんだかんだで4人セットで遊ぶことが多かったのは、
結局、黒猫も桐乃とギスギスした状態で平気でいられる奴じゃないってことだ。

  『だから約束しろ。黒猫と仲直りするって』
  『あんたはそれでいいの?』
  『お前にばっかり無理させるわけにもいかねーだろ。俺とあいつはまた友達に戻るだけだ』
  『戻れると思ってるの?』
  『思ってるさ』
  仮に戻れなくても、新しい関係を築くことは出来るはずだ。

「それに桐乃もお前との喧嘩が応えてるんだよ。・・・・・助けてやってくれ」
「本当・・・勝手な兄妹よ。憎らしいくらいそっくりだわ」
「そう言ってくれるのお前だけだよ」
似てない似てないと言われてきた回数の方が圧倒的に多い俺たちだ。
実際に血の繋がりが無かったのだから当たり前かもしれない。
でも、両親のことを思うと黒猫のその言葉が嬉しかった――

「あなたの妹も同じことを言ったのよ!私に・・・沙織の前で!」
「へっ?そ、それってどういう意味だ?」
「前言撤回するわ。
 パーティーの時に言われたことは、別れて欲しいという事だけではないの。
 あなたと別れなければ、もう友達ではいられないと付け加えてきたのよ。」
「な、なんだって?」
「いけしゃーしゃーと自分だけではなく沙織まで人質に取るような言い回しで・・・!」
な、なるほど。どうりでサークルクラッシャーと呼ばれたわけだ・・・

「いいわ、百歩譲って別れてあげる!でも別れるだけよ!」
「お、おう。俺もお前と友達までやめるのはちょっと寂しくていやだ」
「それと、あの女にあの約束をはっきり伝えて頂戴。」
「約束?」
「二十歳になったら離婚するということよ!それまであの女に貸しておいてあげるわ!」
「わ、わかった」
黒猫の迫力に押され返事をする。
正直なところ桐乃がすんなり了承してくれるとは考え難いが、
二十歳で離婚は前々から言っていたことだし、何とかなるだろう。

「仲直りはあなたからの頼み、でも別れるのはあなたに言われたからじゃない。
 あの女に頼まれたから別れてあげるの、だから嫌とは言わせないわ!!」
な、なるほど。そういう交換条件にすれば桐乃もそうそうゴネる訳にいかない。

「じゃ、じゃあ俺に何か頼むことは?」
桐乃の頼みを聞くことに条件があるなら、俺の頼みにも付けてもらわないとフェアじゃない。

「・・・・・4年は長いわ、でもお願い。私があなたを好きだということを忘れないで。」
「そ、そんなの当たり前だろ」


この一年の思い出を振り返りながら、去ってゆく黒猫の後姿を眺めていた――






「遅いわね」
「だから言っただろ、あいつは今日撮影で遅くなるって!」
「全く・・・冷めちゃうじゃない」
我が家のテーブルに並ぶ手の込んだ食事――これは黒猫が作ってくれたものだ。
こちらの予定も聞かず唐突に現れて仲直りに来たと言い、あっという間に夕飯を作ってしまった。

「・・・先に食うか?」
「あら、あなたにそんな事が出来るのかしら?」
まあ無理だよ、うん。桐乃の帰宅が遅くなる日に黒猫の手料理を二人っきりで?
しかも別れた直後にだぜ、何のフラグだよ。死亡フラグにしか見えないっつーの。
さっさと食べ終えて帰らせるのも、この時間だともう無理だ。

「何よ、その居心地悪そうな顔は」
「いや、だってさあ。こう言っちゃなんだが何故来たし!?」
「あなたの言う通りあの女と仲直りしに来てあげたのに随分な言い草ね?」
「それならあいつが居る時に来いよ!大体あいつにはもう別れた事話したんだろ!?」
「まったく何をそんなに焦っているのかしら?妹の機嫌を損ねるのがそんなに怖いの?」
「そんなんじゃなくてだな・・・」「ただいまー」
黒猫とそんなやりとりをしているうちに桐乃が帰ってきた――

「今日のご飯なに――って、何であんたが居るの!?」
「あなたに会いに来たのよ」
黒猫のきっぱりとした口調に桐乃は怒りのオーラを少し引っ込める。
でもこの状況ってヘタすると修羅場じゃね?

「ふ、ふ~ん。まあそうよね。別れた彼氏の家になんかフツー来ないし」
「そうよ、だから今日は“お兄ちゃんを盗られて落ち込んでる妹”を慰めに来たの」
「は、はあ!?誰も落ち込んでなんかないし、勝手なこと言わないでくれる!?」
「では浮かれてたのかしら?やがて捨てられる運命だと言うのに」
「誰が捨てられる運命だってのよ!?」
「ねぇ京介、いつ奥さんと別れてくれるのかしら?」
わざとらしく名前で呼びながら身をすり寄せてくる――
って桐乃を挑発してどうするんだよ!?仲直りしに来たんじゃないのかよ!?

「こ、こ、こ、この泥棒猫!!なに人の旦那盗る気満々なのよ!?」
「ど、泥棒猫!?しかも旦那って桐乃・・・」
「それで牽制のつもりかしら?勝手にひとの恋人と婚姻届を出すあなたこそ泥棒猫ではなくて?」
「フンッ!!きっかけはどうあれ今のこの関係は合意の上ですぅ!」
「ふふふ、では4年後の離婚も合意の上よね?可哀想に・・・
 あなたが二十歳になったその時は、姉として私が慰めてあげるわ」
「な、何ふざけたこと言ってんの!大体あたし、アンタの妹になった覚えはないんですけど?」
「あなたの兄さんとお付き合いするのだから、いずれそうなるでしょう?」
「兄貴じゃなくて夫だし!!」
「あらあら、そう言ってもあなたのご主人はあなたを妹としか思ってないそうよ?」
「ぐ・・・フ、フられた女が何を言っても負け犬の遠吠えにしか聞こえないんですけどぉ?」
「私はフられた訳ではないわ、フったのよ。」
「そうなの!?」
思いがけない黒猫のセリフにショックを受け、思わず首を突っ込むと、
片目でこちらを睨みつつこう告げてきた――

「――友人“3人”と恋人1人、天秤にかけて友人をとったのよ。
 恋人としてのあなたに友人3人分以上の価値は無かったわ」
「その言い方、凄くキツイです・・・」
確かに黒猫が俺と別れる事を選ばなければ沙織を含めた4人の関係は破綻してただろう。
でも、その言い方はひどくない?ねえ?やっぱりちょっと怒ってらっしゃる?

「それに“お兄ちゃんを盗られて落ち込んでる妹”を見てると
 友人としてとても不憫で可哀想だから、しばらく彼氏を貸してあげることにしたのよ」
「借りた覚えなんか無いし!そもそもこいつは、あ、あたしのだから!!」
「そうね、あなたのお兄さんよね」
殊更“兄”“妹”を強調する黒猫。お前ホントはケンカしに来ただろ!?

「全くこの女はいつになったら兄離れしてくれるのかしら?兄さんも大変よね」
こらっ!テメーこっちに話題を振るんじゃねーよ!ああ桐乃が睨んでる!!

「ふ、ふふ・・・そういやアンタの彼氏って、確か妹の為に彼女と別れたんじゃなかったっけ?」
「な、何を言うの?」
「べっつにー?“妹に彼氏を盗られちゃった可哀想な女”がいたなぁって思っただけ。
 シスコンと付き合うのって大変よねー、彼氏は恋人より妹を優先するんだから!」
おお・・・桐乃の奴、妹の立場を利用して反撃しやがった。

「兄離れを期待する前に、妹離れをさせないとまたフられるんじゃな~い?」
「だ、誰がフられるというの!!」
「一年くらい付き合った挙句、彼氏に妹の方が大事って思われちゃった可哀想な女かな~」
しっかしああ言えばこう言うって表現がピッタリだな、こいつら。
いつまで口喧嘩続ける気だよ、すっかり飯も冷めちまったじゃねーか。

――でも、昔からこいつらの会話っていつもこんな感じだったよな――

どこか居心地の良い懐かしさを感じ、そんなことを考えながら俺は二人の“ケンカ”を眺めていた。
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