「俺が妹と夫婦なわけが無い」06

「お兄さん、質問があります」
「お、おう。桐乃のことで、だよな?」
「はい、少し気にかかる事があるので・・・」

あやせに呼び出されたいつもの公園――
前回呼び出された時は桐乃と結婚したことについての追求だったが今回はなんだ?

「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「何か言えよ」
「その・・・、桐乃がお兄さんの事を好きだって本当ですか?」
「あっ!?ああ、そのことか?まあ俺も信じ難いんだがそうらしい」
「くっ・・・桐乃はどうしてこんな変態を・・・!」
「誰が変態だっ!!」
そもそもあやせが俺を変態と評するのは、桐乃のオタク趣味がバレた時に
二人を仲直りさせる為に俺がやらかしたことが原因ではあるが・・・

「もういいかげん誤解するのはやめてくんねーか?
 あやせが桐乃の趣味を快く思っていないことはわかるけど、
 桐乃の趣味は俺の影響じゃなくてあいつ自身がそれを好いてるからなんだよ」
「・・・・・」
今更こんなことを言わなくてもあやせはとっくに知ってるはずだ。
ただ、それはあやせには受け入れがたい事実だった。でも桐乃と仲直りはしたい――
葛藤の末、俺達は『桐乃の趣味は変態兄貴のせいだ』という理由を付けたのだ。
憎む(とまで言うと行き過ぎかも知れないが)対象を、桐乃の趣味から俺に変えることで
二人の関係は一応の決着を見せた。それ以来、これは俺たちの暗黙の了解となっていたが――

「もうそろそろいいだろう?この役目から解放してくれ」
「ダメです」
「なんでだよっ!?大体お前メルルはもう許容してただろ!?
 それにあいつは最近エロゲには手を出てないみたいだし、もういいだろ!?」
桐乃が言うには実際は金の問題らしいが、ここは言わない方がいいだろう。

「それが問題なんです!!」
なんですと―――――!?

「・・・お前、桐乃のエロゲ趣味が汚らわしいって嫌ってたよな?
 なんでそれが『エロゲに手を出してないのが問題』になるんだ?」
「だってそれってわたしのことも大事じゃなくなったって事じゃないですか・・・」
お前は何を言っているんだ?
エロゲを大事にしない=あやせを大事にしない?

「すまん、言ってる意味がさっぱりわからん」
「あの時わたしのことをその・・・そういうのと同じくらい好きで大事って言ってました・・・」
なるほどそういうことか。驚いたことにあやせはあの時のセリフを後生大事に覚えていたらしい。
だがそれでさっきみたいな結論を出すのは飛躍しすぎだろ。

「あやせ、それは飛躍しすぎだ。そもそもあやせとエロゲーは全然別のものだから
 桐乃がエロゲーに興味を失くしたからってあやせへの興味を失うわけじゃないだろ?」
「その!そういういかがわしいモノへの興味がなくなるのは構わないんです!!
 いいえ、むしろ喜ばしいです!でも最近の桐乃はそれだけじゃないんです!!」
「それだけじゃない?どういうことだ?そういえば最近桐乃は学校じゃどんな様子なんだ?」
「わたしくらいしか気付いてないですけど、変なんです。妙に寛容というか・・・」
「寛容?いいことじゃないのか?」
「良く言えば、です。桐乃はある意味凄く貪欲なんです。
 勉強も部活も凄く頑張ってて、負けると悔しがってたんです。表には出さないですけど」
「ああ、そういう奴だよな」
「でも、最近は“勝ちたい”って意欲が薄れてるみたいで・・・不安なんです」

あやせの発言に黒猫のセリフがフラッシュバックする――
つい先日、黒猫に言われたことだ。
『それにしても解せないわ、あの強欲な女が友人と想い人を比べて“片方を捨てる”なんて』
あの時は結局こう結論付けた――『そんぐらい参ってたんだろう』――

「お兄さん?顔が物凄く紅いですよ?どうしたんですか?」
「え?あ、いや。そうか?そんなことはないと思うぞ?」
あわてて誤魔化すも顔の赤みは消えない。くそ!!思い出すとどうしてもダメだ!!
実は黒猫にそのことを指摘された後、桐乃に直接確かめてみたんだ。

『お前らしくねーよ、“好きなものは全部諦めない”のが高坂桐乃だったろ?』

陸上、友人、さらに最近はエロゲも――かつての“全てを一番大事にする”姿が見えない。
優先順位など付けず、興味を持ったものや好きなものに全力で取り組む姿勢は
嫉妬や劣等感を感じる要因でありながらも、妹の魅力でもあった――

どうでもいいじゃんとはぐらかす桐乃を問い詰めたことを今の俺は後悔している。

『だ、だってそれは・・・、あんた以外の他のは全部2番だったからだし・・・』

なあ、あんなこと言われて俺は誰に相談すればいいんだよ?








「「「「かんぱーい!!!!」」」」

なつかしのレンタルルームに明るい声が響く――
今回は『高坂京介様専属ハーレム御一行様パーティ会場』なんて恥ずかしい看板は無い。
代わりに『サークルクラッシャー高坂京介を囲む会御一行様パーティ会場』だ、ハハハ・・・

「それにしてもこうやって4人全員揃うのも久しぶりね」
「そうでござる!聞けば先日高坂家にてなにやら楽しげな食事会があったと聞きましたぞ!
 なにゆえその時拙者を呼んでくれなかったでござるか!?」
「べつにィ?あの時はコイツが勝手に来ただけだしぃ」
あの日、黒猫と桐乃はそりゃあもう派手に口喧嘩していったもんだ。
メルルとマスケラのアニメ座談会の比じゃないくらいの応酬だった。
だがそれは端で聞いていて――しかも自分が題材にされていたのに――微笑ましかった。
久々に会った友人同士が、長い間出来なかった友人との会話を楽しんでるように見えたし、
きっとそうだったと思うんだ――

「なに一人でにやけてんの?キモイんですけど」
「え?いやなんかこう、またこうやって皆で話が出来るのが嬉しくってさ」
「ふん、諍いの原因を作った男が何を他人事のように言ってるのかしら」
「そうでござる!きりりん氏と黒猫氏が冷戦状態になってからというもの
 拙者がどれだけ辛い思いをしてきたか・・・!」
「わ、わりー。それについてはマジで謝る!」
「それもこれも全部アンタが鈍すぎるのが原因なんですケド・・・」
「そうね、私の闇の波動にこれほど耐性がある人間も珍しいわ」
ねえ、なんかお前ら結託して俺を虐めてない?
仲直りしてくれたのは嬉しいんだけどお前ら俺のこと好きなんじゃなかったの?

「ふーむ・・・、拙者詳しい事情はまだ聞いておりませぬが、
 もしやきりりん氏と京介氏は既に結ばれてしまったのでござるか?」
「「「なっ!!?」」」

「何を馬鹿なことを言ってるの!」
「ンな事するわけねーだろ!?」
「そ、そうよ!まだそんな事してないし!!」
「まだって何だよ!?」
沙織のトンデモ発言に場は騒然とする。どっからそんな発想が出てくるんだ!?
しかも桐乃まで今のドサクサに紛れてなんか言ってなかったか!?

「いえ、様子を伺いますと京介氏にきりりん氏の気持ちは伝わっているようですし、
 黒猫氏がきりりん氏と仲直りされたということは、あの条件を呑んだともとれます。
 この二つの事柄を考えたらありえぬ話ではなさそうなのですが・・・」
「無い無い!それは無いって!」
「夫婦なのに?」
「一時的なもんだ!」
「新婚なのに?」
「しつこい!!」
必死で否定してんのにそのネタを引っ張るな!まったく。

「ふん、今はただ貸してあげてるだけよ。
 この兄妹がしっかり立ち直らないと次の次元には進めないと判断したの」
「ふーんだ!!余計なお世話ですぅ!」
口ではそういうものの、その態度からは本気でそう思ってる様子は受け取れない。
きっと桐乃もわかってるんだろう。

「ようするに仕切り直しということよ。この女にもチャンスを与えておかないと
 後からどんな言いがかりをつけて来るかわからないから」
「はいはい、強がり乙」
桐乃は否定するも実際は黒猫の言う通りだ。仕切り直し――、桐乃にもチャンスを――、
これらはつまり、4年後に桐乃と離婚した後で俺が誰を選ぶのか、それを暗に示唆している。
“その時”が来たら俺は決めないといけない――

「だから“そーゆーコト”はしないっつーの」
ただでさえその時が来たら桐乃を“バツイチ”にしてしまうのだ、他ならぬ俺が。
大事な妹にそれ以上の傷をつけるわけにはいかないだろう?

「つまり“そーゆーコト”以外はすると!いやーさすが京介氏!なかなかマニアックですな!」
ブーッ!!っと派手にジュースを噴き出してしまった。さっきからなんなんだ沙織は!
妙なことばっかり言いやがって、本当は何が言いたい!

「沙織てめぇいい加減にしろよ、さっきから何なんだ!?」
「むぅ、どうやら黒猫氏ときりりん氏は京介氏のことばかりで拙者のことが眼中に無い様子」
「「そ、そんなこと無いわよ!?」」
ひょっとして図星だったのだろうか、桐乃と黒猫が少し慌てる――

「ですので拙者も京介氏にアタックしてみようかと!」
「なんでそうなるっ!?」
「さすれば、お二人も拙者を無視するわけにはいかないでござろう?」
ニンッ!と口をω←こんな風にして胸を張る――

このぐるぐるメガネに隠されたこいつの本当の顔が見えない。まさか本気じゃないだろな?





「ヤバい、これはヤバいぞ」
落ち着きなく部屋をうろうろと徘徊する。何か手を打った方がいいような気がする。
この前の自分の失言を思い出しながら思案にふけっていた――

 『桐乃の趣味は俺の影響じゃなくてあいつ自身がそれを好いてるからなんだよ』

うっかりにも程がある。十中八九、あやせはわかってたと思う。だから口が滑ったんだ。
それに、最近の桐乃は以前のようにはエロゲをやっていない。
時間と金の問題だとしても、やっていない事実があればとりあえずあやせは満足だろう。
しかし、“エロゲ趣味は俺の影響”ということにしていたから、
桐乃とあやせは今まで親友で居られたのだ。その前提を俺が自分でぶち壊してしまった――

え?なぜ今更焦っているかって?その理由は簡単だ。

本文:やっぱりあのいかがわしい趣味の元凶はお兄さんだったんですね。覚悟して下さい。

このメールの意味を考えろ――元凶が俺だと?何故だ?
考えられるのはあやせが桐乃に問い詰めた時に、桐乃が誤魔化す為にそう言った場合――
この場合、俺は嘘をついただけでなく、桐乃を不当に貶めたことになる。
そして『覚悟しておけ』――。一体何を覚悟しろというのだ?
考えたくないが、山に埋まるのが良いか海に沈むのが良いかという意味だろうか――

prrrrrr… prrrrrr… prrrrrr…
突然の着信に怯えながらディスプレイを見る。
――『ラブリーマイエンジェルあやせたん』――
腹を括るしかない。知っているだろう?大魔王からは逃げられない――
ここで出るのを拒否しても無駄な努力だ・・・

「はい、もしもし」
『あ、お兄さん。今どちらですか?』
「自宅だよ、悪いけど今日は公園にまで出かける余裕は・・・」
『それなら玄関を開けていただけませんか?』
俺がギャグ漫画のキャラクターなら、この時目が飛び出してアゴが外れてたに違いない――

「どうぞ」
「お邪魔します」
おそるおそるリビングへと案内する――。自宅だというのにこれから何が始まるんだ?

「さて、いくつか質問があります」
「はい」
取調べを受ける罪人のようにあやせの前に正座する。なんか桐乃っぽいよあやせたん・・・

「まず確認しますけど、お兄さんは桐乃の気持ちをご存知なんですよね?」
「あ、ああ・・・前にも言った通りだよ。本人に言われたからな」
「では、逆にお兄さんは桐乃のことをどう思っているんですか?」
「どう・・・って、妹だよ。それ以外に言いようがない」
「でもお付き合いしていた彼女さんと別れたんですよね?桐乃の為に」
「うぐ、そんなことまで聞いてるのか?」
「いいから答えてください」
「・・・・・そうだよ、桐乃の為に別れた」
ここで嘘をつこうものなら俺は本当に明日は海か山にいるかもしれない。
正直に答え、次の質問を待つ。おそらく次は詳しい理由や事情を聞いてくるだろう。
だが黒猫のことを説明すると必然的に桐乃のオタク趣味を説明するハメになる――どうすりゃいい?

「離婚の予定があるというのは本当ですか?」
「え?あ、ああ、そうだ。桐乃が二十歳になったら互いにひとり立ちする為に離婚する予定だ」
予想外の質問にホッとしつつも困惑する。あやせは何を聞こうとしているのだろう?

「ぶち殺しますよ?」
「なんでっ!?」
いきなり処刑宣言ってどういうことだよ!?

「桐乃の気持ちを知っているのに・・・!!知っていながら・・・!!」
 ――やっぱり桐乃がおかしくなったのはお兄さんのせいです!!」
「俺が何をしたっていうんだよ!?」
「とぼけないで下さいっ!!
 桐乃はお兄さんを慕っていたせいでああいういかがわしいゲームに手を出したんですよ!!」
                    • なんてこった、桐乃がそう言ったのか?元凶ってそういう意味か?
あやせの言葉に色々な光景がフラッシュバックする――初の人生相談――その時のセリフ――
桐乃に告白されてから薄々思っていたことだが、やはり『他意』は『あった』のだ――

「いや、だからってどうすりゃいいんだよ!?」
「私が確かめてあげます!!あなたが本当に桐乃が想いを寄せるのに相応しいのかどうかを!」
「確かめるって、何するつもりだよ!?」
覚悟ってこれか?そういうことなのか?

「色々ですっ!!」
「色々って何っ!?」

この日からあやせは、俺が桐乃に相応しい男かどうかをチェックしに頻繁に家に来るようになった――






「ごちそうさま、美味かったよ」
夕飯を食べ終えて感想を告げる。桐乃の料理の上達ぶりは目を見張るものがある。
こういう学習能力の高さというか努力を惜しまないのは流石と言う他にない。

「じゃ、洗っとくわ」
「あたしも手伝うよ」
「そ、そうか?」
食事は作ってもらった方が後片付け――それが現在の我が家のルールだが、
最近桐乃は分担していたにもかかわらず俺の担当している家事も手伝うようになってる。
だがそれが少々気にかかる今日この頃・・・

「・・・・・あの~桐乃さん?」
「なに?」
「近くないっすか?」
やけに体の位置が近いのでそう言ったのに、
桐乃はきょとんとした顔をした後、さらに一歩体を寄せてきた――

「おい!」
「へへー、ドキドキした?」
「し、しねーよ!」
すぐこれだ。沙織の『京介争奪レース参加宣言』以来、桐乃はしょっちゅうこういう事をしてくる。
まあ実は、沙織のあの発言とその後の行動には救われている部分が多々ある――
黒猫との関係や桐乃の告白でどう接すればいいか戸惑っていたところに、
沙織が冗談めかした雰囲気で色々とちょっかいを出してくれるおかげで、
桐乃の態度も『からかう妹とからかわれる兄』という形に持ち込むことが出来た。
それは黒猫と付き合いだす少し前の雰囲気にもよく似ていて、対応に困るような事はない。
――例え桐乃の気持ちを聞いてからは内心ドギマギすることが多かったとしても、だ。

「あやせにはすぐデレデレするくせに・・・」
「あ、あれは絶対違うぞ!?それにあやせはそういうつもりでやってるわけじゃないだろ!?」
だが沙織にも誤算があった――そう、新垣あやせの存在である。
俺は桐乃があやせに何を言ったのか詳しくは知らない――
だが桐乃が俺を慕っていることや、既に婚姻届けまで出してしまっていること。
それらを桐乃に並々ならぬ思いを寄せるあやせが知ってる状況で、
桐乃を煽るような行動をすることが、いかに危険なことか――

「じゃあ、なんで今日二人で仲良く洗濯物たたんでたの?」
「駄目出しくらってただけだろ。服のセンスが悪いとか、たたみ方が粗いとか」
桐乃が心配なあやせはちょくちょくこの家に顔を見せる。今日も学校帰りに寄っていった。
家事を手伝ってくれるのはありがたいし桐乃と二人きりにならずに済むのもありがたい。だが――

「いちゃついてる様にしか見えなかったんですケド?あやせも帰り際にそう言ってたし」
「何て言ってたんだよ?」
「『お兄さんがやらしい眼で見てくる』って」
「ないない!誓ってそんなことはしてない!!」
要するにあやせは桐乃が俺に好意を寄せていることが気に入らないわけだ。
俺が桐乃に手を出さないように監視したり、桐乃が俺に幻滅するように仕向けてくる。
『俺が桐乃にふさわしい男なのかあやせが確かめる』って言ってたがバレバレだっつーの!
それに黒猫と沙織に加えあやせまで妙に俺の周りにまとわりついてくる状況は火に油を注ぐだけだ。

「あたしというものがありながら、なんで他の女ばっかりやらしい眼で見るかなぁ・・・」
「だからしてねーって!!」
「あれ?それってあたしだけ見てくれてるってこと?」
あ、しまった。ちくしょう、最近どうあがいても泥沼にハマってしまうパターンが多い。

「だ、だからそれとこれとは別っていうか、そもそもお前は妹だし!」
「・・・ふーん、妹にはこういう事とかされてもドキドキしないんだ?」
「あ、当たり前だろ」
「これでも?」
皿洗いそっちのけにして、ぎゅうっと俺にしがみついてくる。

「だーっ!!もう勘弁しろよ!」
この、もがけばもがくほど悪化する蟻地獄から抜け出せない。
素直に認めようものならそこで終わり。だが強がれば強がるほど桐乃の攻撃は激しくなり、
それが他の連中の行動を煽り、それらがまた桐乃を煽る無限ループ――

「勘弁しない。あんた前からあやせのこと気に入ってたみたいだし」
「あやせはお前が心配なだけなんだから変なこと考えるなって」
方法がどうであれ、あやせは桐乃の為を思って行動しているのに、
それが原因でまたこの二人が喧嘩にでもなったら意味がない――

「やっぱり気に入ってたってところは否定しないんだ!?」
「なんでそこに食いつくんだよ!?」
「だ、だって!やっぱ気になるじゃん!!」
「もーさっきからなんなんだよお前は!焼き餅やいてんのか?」
失言だった――。
顔を赤くしてうつむきながら小声で「うん」とつぶやく桐乃につられ俺の顔も赤くなる――

「――好きな人の好みって気になるじゃん・・・」
黒猫の時もそうだったんだが、俺はこういう風に率直に伝えられる好意にめっぽう弱いようだ。








「で?なんだよ相談って」
俺、高坂京介19歳は、最近の家庭の事情から非常に深い悩みを抱えている。
恥ずかしながらそれを相談できるのが現在この赤城浩平だけなのだ――

「例えばなんだけど仮に妹からガチで告白されたらどうする?」
「押し倒す」
「まじめに答えろっ!!」
あ~ヤダヤダ、やっぱりこの超ド級のシスコンにこんな質問しても無駄だったか。
しかしだからと言って他に相談できそうな相手がいないのが悔しい――

「まじめに答えてほしけりゃまじめな質問しろっつーの」
「・・・・・大真面目だよ」
「・・・・・マジ?」
「マジ」
赤城はまだ詳しい事情は知らない、だが知らないからこそ聞けるのだ。
もはや当事者達ではまともな答えなど出せやしない。

「その・・・、お前の妹が?」
「最初に言っただろう、“仮に”だ」
「そうか・・・」
「そうだ」
だが桐乃の名誉のこともある。あくまで仮の話として進める。

「ん、まぁ仮に俺が瀬奈ちゃんから告白されたとしたらだ」
「そしたら?」
「たぶん断る」
「断るのか?」
「だって兄妹だぜ?いくら仲良くても限度ってものがあるだろ、それに」
「それに?」
「――両親が悲しむだろ」
ああ、そうだよな。普通はそうだ。
ってゆーか今一瞬躊躇したのは親の話題になるからなのか?

「兄貴の役目ってのは妹が選んだ相手がちゃんと妹を幸せにしてくれるか、
 それを見極めてやって、そんでその二人が喧嘩したりしたら仲裁してやって、
 そうやって妹の幸せを守ってやることだろ」
「自分が幸せにしてやるって選択肢は無しか?」
「無しじゃなくて無理だろ。さっきも言ったけど兄妹だからな」
「・・・じゃあ、兄妹じゃなかったら?」
「――質問の前提が破たんしてないか?」
「いいから聞かせろ。たとえばその・・・お前と妹の瀬奈が従兄妹だったとしたら?」
こいつならどうするんだろうか、妹思いの赤城なら――

「・・・・・断る理由はねえなぁ」
「なんでだ?」
「俺は瀬奈ちゃんには幸せになって欲しい、これは変わらない事実だからな。
 そして瀬奈ちゃんが俺と一緒にいることが幸せと言うなら、断る理由はない」
「なるほどな」
「だけどさ、俺が自分の手で瀬奈ちゃんを幸せにしてやりたいと思うかどうかは別問題だ」
「どういう意味だよ?」
「仮に俺と瀬奈ちゃんが従兄妹だったとして、
 “俺から瀬奈ちゃんに告白することがありえるか?”と聞かれても正直わからん」
瀬奈が望めばそうする――だけど自分がそれを望むかというのは別問題ということか。

「――いやまあ小難しいことは抜きにしてさ、要は自分が誰と居たいかってことだろ?」
「自分が誰と、か・・・」
「妹とか幼馴染とか彼女とか、そういう括りじゃなくてさ、
 そういうの全部含めて自分が誰と一番一緒に居たいかって考えればいいんじゃねーの?」
「・・・まあ正論だな」
「なんだよ歯切れが悪いな」
悪くもなるさ、冷静に考えてみろ。俺は既に一度桐乃を選んでしまったんだぞ?
桐乃の為に黒猫と別れた瞬間――あの時俺は黒猫じゃなく桐乃と居ることを選んだんだ――

「・・・・・なぁ、高坂。お前将来どうするつもりなんだ?」
「な、なんだよいきなり」
「誰と一緒に居たいかってのは、今だけじゃなく将来も含めて考えなきゃ意味ないだろ?」
「そうだけどさ、俺は今の生活だけでいっぱいいっぱいなんだよ!」
「なんでだよ?前にもうだいぶ慣れたって言ってただろ?」
「それはそうなんだが慣れない出来事も増えてきてな・・・」
「なんだよ」
「妹が一緒に寝ようとか言ってきたり・・・」
「―っ!?」
「俺が洗濯当番の時には下着まで洗わせるし・・・」
「なん・・・だと・・・?」
「風呂に入ってると『背中流してあげよっかー?』とか聞いてくるし・・・」
「おい高坂」
「なんだ?」
「歯ぁ喰いしばれ」

友人のさわやかな笑顔に浮かぶこめかみの血管がとても印象的だった――

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最終更新:2012年01月08日 16:11
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