Cry for the Moon > Luna


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440 : ◆36m41V4qpU [sage]:2012/04/21(土) 05:23:53.42 ID:R1d3Hpy/0



    「そんなあなたのことが好きです」

    泣きながら そして優しい笑顔のまま あやせは言った。





    "Cry for the Moon/Luna"




    「お、俺……………」

    「―――こ、答えは言わなくて・・・・・良いですから」

    「え、えっと……」

    「い、言わないでっ!今はまだ・・・・・・聞きたくないから」
    
  「わ、わかった………」

    あやせの真剣な言葉は、俺にそれ以上言わせる事を許さないほど……
    俺を押しとどめるのに充分過ぎるくらい力強く、迫力があるものだった。

    「ふふ・・・お兄さんでもちゃんと真剣な顔が出来る時ってあるんですね」

    告白(告白だよな……これ、それ以外の言葉が思い浮かばない)した直後に
    あやせは突然そう言った。


    「お、おまえな……」

    「わたし、今、お兄さんと初めて会った時のこと、思い出してました。」


    「この前話した………桐乃とドタバタやってた時のことだよな?」

    あやせの考えてる事がさっぱり分からなかった。
    あやせの気持ちは分かる
    今更、誤解や勘違いは、流石の鈍い俺でもしない。


    「あの時、桐乃の為に真剣なお兄さんの顔がわたし、一生懸命に頑張ってる
    あなたの事がずっと気になってました」

    「だって……前におまえの家に俺が来た時、
    それは違うって言ってた……よな?」

    「『優しそうなお兄さんで良いなぁ、仲良くしたいなぁ。
    でも今は全然違うっ!幻滅して――大っ嫌いッ!!』のことですか?」

    俺は何度か首をコクコクとして肯く。

    「ハァーわたし、お兄さんに嘘ついちゃってて―――ちょっぴり本当に
    ちょっぴりだけ悪いと思ってたんですけど、その必要ないのかも?」

    「だ、だからさ……その事は気にしなくて良いって」

    「そういう意味で悪いって言ったんじゃありませんっ!
    やっぱりお兄さんが全部、全部、全部、悪いんですっ!!」

    「な、何で?」

    「うっ、うるさいっ!
    馬鹿、鈍感、愚鈍、俗物―――スケベ、変態、シスコン、鈍感っ!!」


    「で、でも俺のこと………す、好きなんだよな?」


    「ぅっ・・・・・」

    あやせは顔を上気させ、息は激しく吐きながら、
    両手で空気を抱きしめる様にして肩を小さくしながら丸くなった。


    あ~やっぱ、こいつメチャクチャ可愛い。
    嫌われてる、嫌悪されてるって思われてても綺麗とは思ってたのだが、
    俺はMじゃねぇから(やっと分かって頂けたかと思う)
    それよりも…あやせに好きって言われて、その上照れちゃってる時の表情を
    見せられる方が何倍も何十倍も可愛いって事がやっとわかったよ
    (当然の事だけどな)


    「俺はさぁ………やっと近親相姦上等の変態兄貴のレッテルだけは
    矧がれたけど、色々セクハラはしまくったしさ………
    だから、やっと普通かなって思ってたんだが」


    暫くあやせは、不思議な表情を浮かべていたかと思うと、
    目を閉じて深呼吸した。
    そしてその後、決心したかの様に口を開いた。

    「加奈子のライブの時に控え室で、わたしがお兄さんに顔を近づけた事に
    何の意味があるか?
    ―――ってあなた、聞きましたよね?」

    「う、うん………………」

    あやせの真剣な表情と熱い視線に威圧されて、上手く二の句が続かない


    「あの時のこと、わたしには、ちゃんと―――ちゃんと意味があります」

    「どんな意味が…………あ、あ、あったんだよ?」


    あやせは桐乃に貰ったヘアピンを右手で触れながら
    (この後、あやせは何かある度に、この動作をやるようになった)


    その動作は、まるで頭の中に浮かんでる言葉を必死に探してるみたいで

    左手は胸の前で軽く握られ、その言葉が段々形になるにつれ自然にその
    握られた左手が強くギュっと(本当に音がしそうなくらい)強く結ばれた

    「意味ならあります。あの時も―――今も、ちゃんとした意味が」

    俺の質問はスルーで、あやせはあの時みたいに
   ……いや、明らかにあの時よりも近く自分の顔を近づけてきた。

    「………(ゴクっ)」

    思わず、呑み込んだ生唾の音が不自然なくらい大きな音を出した。
    でもあやせは特に気にする風もなく


    「―――ねぇ、あの時、お兄さんは本当は何考えてました?」

    「だ、だからおまえの胸をだな………」

    言ってシマッタとも思ったが、あやせに嘘つく事がどうしても
    セクハラ以上に悪い気がしたから、正直に言う。


    「ブチ殺し―――」  「ひぃ……(思わず目を閉じる)」

    「―――ブチ殺し・・・・・ません。ぶち殺しはしないけど。
    でも、でも、でもっ胸だけって答えは・・・・・今はもう絶対嫌ですっ、わたし」

    「すんません。
    緊張してたから……あんときの事はマジでよく覚えてないんだ」

    「忘れてるなら―――今思い出してくださいっ!
   これなら思い出せるでしょう?」

    マジで顔近っ!
    と言うか、逆に新たな緊張のせいで余計に記憶が飛ぶだろ、コレ


    「俺は…………」

    言いかけた所で、目の前にいるあやせの姿に目を奪われる。
    あやせの顔と切ったばっかりのサラサラの黒髪が黄昏時の夕日に
    照らされて朱くキラキラと輝いていた。


    そして突然………初冬の太陽の不確かで、刹那的な光の気まぐれで
    あやせの髪が朱色から色を失い……褐色になる。

    あやせの整った顔とうまく馴染んだ髪とダッフルコートと見慣れた筈の
    例のヘアピン。

    更に、夕日の悪戯は一瞬―――本当に瞬きするくらいの一瞬だけ、
    その色を眩いほど輝く―――黄色がかった赤銅色に変えさせた。

    俺は息を呑む
    ………俺の目の前で告白していたのは、本当は誰だったのか?

    あやせに告白されてるってのに、なんつー錯覚起こしてるんだ、ったく。
    こんな時にあいつの事なんて……どうして考えてるんだ、俺は。

    気付くと…………重苦しい罪悪感。



    俺はほぼ無意識のうちにあやせに

    「…………わ、わからない」 

    と言っていた。


    「わ、わたしって・・・・・お兄さんにとっては、そんなに魅力ないですか?」

    あやせは泣き顔のまま、怒ってるって言うよりも悲しそうな………。
    そうだ、俺は相も変わらずの大馬鹿野郎だ………
    告白されて、気が動転してたが………ずっと、あやせは泣き顔だったんだ。

    年下の女の子が勇気を出して、目に涙を溜めて、告白してるってのに、
    俺は気の利かない間抜けさのまま………ぼぉーとしてて、てめぇの事しか
    考えてなかった。


    あやせはヘアピンに触れてずっと、何か言おうとしてたが……
    結局何も言葉は出てこず………代わりに、潤んでいた双眼からとめどもなく
    涙が溢れだした。

    声こそださなかったが……口は

                                                   『ワァー』

    と言う形のまま音も無く、ただただ泣いていた。


    「………す、すまん」

    気が付くと土下座してたね、俺。

    「もう良いですっ!!!
    謝られたら・・・・・・わたし、謝られる方が余計に惨めだからっ!!!
    もう良いからっ―――」


    と言いつつ、土下座してる俺の頭をガンガン本ぃ気(ほんいき)で踏みつける。

    『危険なあやせ』の足音(フットスタンプ)だけが辺りに響いた

    ドォ ドォ ドォ ドォ ドーン

    「うぐ……うッ…………ち、違う…そ、そ、そう意味じゃ……グハッ」

    「
    早くッ頭上げてくださいっ!(ドン) ヘラヘラすんなッ! (ドンドン)
    わたしの告白断った 癖にっ! わたしに 踏まれて 喜ぶ癖にっ! (ドン)
    ブチ殺しますよ? 変態 変態 ど変態っ!(ドン)
    お兄さん の 嘘 嘘つき 大嘘つき 裏切り者ッ!!  (ドーン)
    もう 死ねっ すぐ死ねぇ 早く死んじゃぇ !!! (ドスン)
    」

    「……………ぐ」


    ヤバイ、意識が……どうしてこうなった?
    さっき、部屋を出る前に過去の自分と対話したのを思い出す。

    過去の自分が語りかけてくる

    『おい、おい大丈夫か?』 

    イヤ、大丈夫じゃねぇだろ……確実に


    『きょうちゃん』

    麻奈実が優しい顔で笑みを浮かべている
    ふぅ~、まったく……おまえの顔を見てると本当に落ち着くよ、麻奈実。


    アレ?と言うかこれって走馬燈じゃねぇ?

    確か、走馬燈ってのは人間が死ぬ時に一番思い出したい記憶なんだっけ?
    あ~あ、俺………死


    じゃなかった、走馬燈ってのは人間が死にそうな時に、どうにかして
    助かる為に……その方法が無いか、脳が過去の記憶を高速で
    再生する事らしい(って説もある)


    『きょうちゃん、おといれに行って、ちゃんと手を洗った?』


    『きょうちゃん、男の子でも……ちゃんとはんかちは持ってないとダメだよ~?』

    そうだ、ハンカチ!
    麻奈実、おまえ………走馬燈の中でも俺を助けてくれるんだな。

    それとも?
    死ぬ時に一番見たい顔ってやっぱ―――まぁそれはいいや

    まだ、取り合えず今は死ぬべき時ではない(筈)、(多分)。


    って事で半分地面に顔がめり込みつつも、俺は何とかポケットからハンカチを
    取りだして言った。

    「あ、あ、あやせ………これで……涙……ふ、ふ……拭いて」



    その後、俺とあやせは空っぽになった部屋に戻って、
    ぽつんと並んで座っていた。
    あやせはあの通りだし、俺もこの様(ザマ)だし……取り合えず落ち着く為には
    屋根がある場所が良いだろう。

    まぁカギは今日中に大家に返せば良いわけだから、まだ時間の余裕はある。

    べ、別に空き部屋にあやせを連れ込んで、何かしようなんて
    す、少しも考えてないぜ。

    実際(100パー)そういう雰囲気でも全くない。


    「ご、ごめんなさい。お兄さん、わたし―――」

    「い、いや……全然平気」


    あやせは泣きやんだ様子だが、顔をこちらには向けてなかったので
    どんな顔をしているのかを伺い知る事は(想像すら)出来なかった。


    何もない部屋に夕日だけが差し込んでいた。

    この部屋にあやせと二人で居ると、こいつが甲斐甲斐しく世話をしてくれた
    光景が自然と思い浮かんだ。

    それは……この部屋での様々な場面の―――様々な表情の
    あやせが写真みたいに、アルバムみたいに俺の頭の中に
    焼き付いてるってことだろう。

    ほんのちょっと前の記憶の筈なのに、黄昏色の光に着色されて、
    セピア色になったあやせのイメージは、不思議と随分大昔の
    出来事だった様な感慨を俺に与えた。


    その"懐かしさ"は多分、愛おしさって言い換えても良いものだ。


    そうだ、あやせは乱暴だが、優しくて思いやりのある女の子ってことは

    もう(十二分に)知ってる筈なんだ、。
    もう(考えるまでもない)分かりきった事実だよな。


    なのに、また昔みたいに感情の行き違いのせいで
    ―――この部屋の最後に残る思い出があやせの泣き顔になる
   なんてのは………ぜってぇにダメだと思う。

    「あの………あやせさ……さっきの話」

    「もう・・・・・良いんです。
    何も聞きたくないっ!わたし、全部分かってますからっ」

    「ちょっと、お願いだから…………もう一回こっち向いてくれよ。
    本当にこの通り……お願いだから、な?」

    俺の躊躇がない必死なお願いで、ようやくあやせは泣き腫らした目を
    こちらに向けた。

    泣き顔の(極・超弩級美少女)女の子睨め付けられるって、すごくドキドキ
    (ついでにゾクゾクも)するな、しかし

    俺ってやっぱ変態なんだろうか?
    あやせの前だと色々な意味で理性が揺らぐ気がする。


    俺は内心の動揺を何とか隠しつつ、さっきあやせがしたみたいに
    思いっきり距離を縮める。

    「あの時って言うか、今の俺の気持ち言うわ……やっぱ、あやせは可愛い」

    「―――嘘つき、うそつき、ウソツキ―――嘘つくな―――-嘘ばっかり。
    それは全部―――ぜんぶっ嘘っ! うそっ!! ウソっ!!!」


    あ~あ、あやせがバーサーク(狂戦士)化しちゃってる。
    桐乃の件以外で、こんなにぶち切れてるあやせを見たのは
    久し振り………だな。

    もしも、俺があやせの彼氏やら旦那さんになって喧嘩とかしたら
    どうなるんだろう?
    ふと、そんなイメージが頭に浮かんで身震いした。

    ってか………今はそんな妄想をしてる場合じゃないんだよ、
    本当に俺は馬鹿か?
    俺はどうも、あやせみたいな美人を目の前にすると色々余計な事を
    考えちまうタチらしい。

    あやせに、いつもセクハラと言う名前のちょっかいをかけてたのって
    こういうのが原因だよな、やっぱ。


    「嘘じゃねぇよ。ほれ」


    俺は携帯に保存していたあやせの写真を開いて見せた。
    この写真はあの沙也佳ちゃんのサイトから保存したものだ。

    「これ、筧さんのサイトの写真じゃないですか?
  本当に全部保存してたんですか?」


    「ああ、マジで俺の宝物だ」


    「いかがわしい事に―――・・・・つ、使ってないでしょうね?」

    「ま、まだしてない」

    「まだ―――って言いました?」

    あやせ、顔怖いって


    「じょ、冗談だから……そういうんじゃないんだ」

    あやせが突然立ち上がって、「うごくせいぞう」みたいに足をあげたので
    必死に弁明した。
    次踏まれたら、ガチで『もう俺のライフは0よ』って話になりかねない。

    あやせは俺と、俺の携帯を交互に何度か見ていたが………

    「削除っと」 ピ♪

    「ちょ、おま…………な、な、何て酷いことをぉ!!!」

    「あ~あ、簡単に騙されて、取り乱しちゃってみっともないですね。
    いくら、わたしでも勝手に他人の携帯のデータ弄るわけないでしょうが・・・」

    俺の動揺に対して―――呆れる7割、軽蔑2割、謎1割の顔で
    携帯を手渡してきたあやせ。

    「おいっ!マジで消してるんじゃねーか!!!」

    パソコンとUSBメモリーに二重に保管してるとかって言うのは辞めておこう。

    「―――お兄さんって
    言う事は基本的にかなり適当で―――シスコンで
    性格もすごく優柔不断だし―――エッチで
    発言は超いい加減だし―――変態だから、
    だから―――わたし、やっぱり信用出来ませんっ」

    なかなか鋭くキツイ事をサラリを言ってのける、あやせ。
    何かさっき、こいつ俺のこと好きとか言ってなかったっけ?

    まぁしょうがねぇ……まったくもって、その通りなんだから。

    あやせの胸チラばっかり気にしてた罰みたいなもんだろう、結局
    信用して貰う為には、俺自らが本音でぶつかって、胸襟を開かないとな


    「と、とにかく、勉強の合間に……これを見て息抜きしたし
    あやせが俺の家に来る様になったら、おまえの可愛い顔を直接見て
    癒されたんだ。
    も、もちろん……それだけじゃなくて、桐乃のお願いとは言っても
    あやせが俺の為に一生懸命にお世話してくれたのもメチャクチャ感謝してる。
    だから、改めて礼を言わせてくれ。
    本当に有り難うな、あやせ。」

    謝罪じゃなくて、本当に100%感謝のつもりで頭を下げた。

    「ど、どうも致しまして。
    でもその事については、本当にお礼なんて言わなくても大丈夫です。
    だってわたしが好きで、勝手にしたことですし――――あっ」

    「え?」


    あやせの『あっ』って顔を、『え?』って顔になった俺が暫く眺めていた。


    「それは―――それとして
    ゴホン(咳払いしつつ)
    と、とにかくお兄さん、わたしのこと―――可愛いと仰いましたね?」

    「い、言いました」

    「本当にウソ―――偽りは無いですか?」

    「…………ないよ、全然」


    「あの・・・・・・・・その、えっと」

    あやせがまたヘアピンを触って、恥ずかしそうにモジモジしている。


    包丁を俺に突き付けていたホラーあやせと同じ人物にはとても見えないな。
    俺はこいつの事をどれだけ分かってやれてるんだろう?

    あやせだけじゃない、妹の事も、後輩の事も、幼馴染みの事も…………。


    「ど、どうした?」

    「わ、わ、わたし――――」

    「焦らなくても大丈夫だよ。待っててやるから……ゆっくり落ち着いて」

    「!」

    「わ、わりぃ………」

    俺は無意識に、本当に何の意識もせず………気付くと、
    あやせの頭に手をのせていた。
    これじゃ、まるで桐乃に接してるみたいじゃねぇか?

    "姉妹"なんて冗談を言ってたが、別に瓜二つってわけじゃないのに

    慌てて、手を引っ込めようとしたが……あやせは手を引っ込めた距離の分
    だけ俺に近づくと、有無も言わさずに俺の手に自分の手を重ねた。


    「桐乃に・・・・・・―――そんなに似てましたか、わたし?」

    俺は、絶対にしてはならない間違いを起こしたことに気付く……。

    あやせの声には一切の抑揚が無かった……。

    あやせはもう恥ずかしがってなかった。
    笑ってもいなかった。
    泣いてもいない。
    ほんとうに何もしてなかった。
    表情も感情も消えていた。


    …………ただ冷たい視線を俺に向けていた。
    そして俺は、そんなあやせの顔を見て……身も心も凍てついた。



    何故か、その時……随分前に黒猫に言われた言葉を思い出していた。

    『私が女で、年下で悩みを抱えてそうだから。自分を頼ってくれそうだから、
    気になってる。ただそれだけ』


    『――――――私はあなたの妹の代用品ではないわ』


    今度は麻奈実の言葉

    『あやせちゃんなら、みんなが笑って暮らせる様な家庭を――――――』



    お兄さん

    ねえ、お兄さんってば


    「お・に・い・さ・んっ!!!!」


    「ぎゃぁっぁぁぁ、こ、殺さないで…………い、命ばかりはお、お助けを」


    「何で、あなたは一人で妄想して!どうして、いつも―――いつも
    わたしを冤罪被害者にしちゃうんですかっ?」

    「あ、アレ?おまえ、いつの間に正気を取り戻したんだ?」

    「失礼ですね―――なんなら続きしてあげても良いですよ?
    『兄貴、、、あたしのこと好き?』(桐乃の声真似)
    とか耳元で囁いてあげましょうか?」

    「ま、マジで勘弁してください……」

    「ハァ、お兄さんがシスコンなのはしょうがないですもんね。
    まさか―――告白してる女の子を妹扱いするとか鬼畜にもほどが
    ありますけどっ」


    「だ、だから………ごめん」

    「ねぇ、お兄さん・・・・・わ、わたしと仲直りしたいですか?」

    「へ?え、………あ、ああ……もちろん」


    「お詫びしてください。―――目を閉じて」

    「…………………」

    あやせは真剣な表情のまま……俺と握っていた筈の手をいつのまにか離し
    今度は思いっきり、斜め上45度に振り上げていた。

    この状態は、明らかに殴られるパターンなのだが、今回ばかりは
    どうしても、あやせの言う通りにして良いものか?どうか迷う

    「全然反省してないんですか?
    わたしには別に、許して欲しくない―――とか?」

    「反省は…………してる」

    「―――――だったら、早く目を閉じて」

    しょうがない………素直に目を閉じた。
    別に殴られるのは、馴れてる。
    殴られる事自体は………今はどうでも良い。
    本当にぜんぜん……良い。




                         それよりも―――――そんなことよりも



    「今だけ、わたし――――」


    不意に気配が近づいて通り過ぎる感覚が肌に触れる、刹那
    ―――女の子らしい良い匂いがした

    「お姉さんよりも、黒猫さんよりも―――あなたの事が好きです」


    そして息遣いの囁きを聞き、不意に暖かい、濡れた
    ―――――何かを(が)俺に……

    「き、桐乃よりも―――世界の中の誰よりも、あなたのことを愛しています」




                               『「!」』



    「………え?」

    俺は自分(あやせ)自身の声が、まるで(あやせ)自分の声じゃない様な
    錯覚に襲われながら何とか次の言葉を出そうとしたが………



    「これで・・・・・・・今日のところは許してあげます。
    今はまだ、黒猫さんに踏み返されるのはわたしのプライドが許さないから。
    桐乃やお姉さんのこともあるし―――だから、これで仲直りです」

    「…………あ、ありがとう」

    ずっと俺の手とギュッと握られた、次は大きく振り上げた手を、
    最後にまた俺に差し出してきた。


    戸惑いながら、あやせの手を握り握手する。


    「―――でも」

    「で、でも?」

    あやせは握手した手に力を入れる………男の俺でも痛いくらい強く

    「次にこんな事が起きたら―――」

    そして、手の力に比例して語気も強める

    「…………お、(起きたら)?」

    あやせは俺に最後まで言わせず、今度は自分の人差し指を唇に立てる



                      『・・・・しぃ』



    そして今度は、その指を俺の唇に優しく当てた


    「お兄さんがその口で二度と言い訳を言えないように・・・・します。
    わたし、何があっても、絶対にっ-----絶対にッ許すつもりはありません」

    「……………………」

    あやせの人差し指は、まだ俺の唇の当たったままだったが
    ……そんなもの無くても、俺はきっと口が聞けなかっただろう

    「もう嘘つきたくないからあなたにも―――わたし自身にも。
    だから―――黒猫さんに踏まれても構わないから、そうします
    誰・に・何・さ・れ・て・も・良・い・か・ら・そうします―――必ず」

    「……………………」


    「――――そんな顔しないでくださいっ」

    「い、いや………………驚いた………だけだから」

    「だったら今だけ・・・・・嘘でも良い、誤魔化しでも良い、同情でも、
    憐れみでも良いから、わたしの質問に答(応)えてください」

    「あ、あ、あやせ?」





        「お兄さんは―――わたしのこの気持ちって迷惑ですか?」



         

                          ***




    お兄さんの困った顔
    いつもなら―――こんな時じゃなかったら、わたしの嫌いじゃない顔。


    嫌・い・じ・ゃ・な・い―――じゃない。
    わたしの好きな顔。

    でもあなたを困らせた、わたし自身は嫌い―――大嫌い。


    本当は

    こんな事 言うつもりじゃなかった。
    こんな事 するつもりじゃなかった。


    今日、家から出かける時に鏡の前で何度も-----何度も繰り返した

               『好き』という言葉

    本当は、ただ聞いて欲しいだけだった・・・・願いが叶えられなくても良かった。

    ―――それなのに
    その筈だったのに、わたしはあなたの顔を見ていると、
    あなたの声を聞いているとあなたの事を想うと・・・・・・
  自分でも愚かなほど―――滑稽なほどに欲張りになる。


    わたしの嘘を受け止めて、ダメな兄を演じてくれたあなたが好きだった。
    いつも優しくて、わたしの事を見守ってくれた、あなたが愛しかった。

    時々いい加減で、調子よくセクハラしてきても、あなたを嫌いになれなかった。

    わたしの方を振り向いてくれなくても良い、他の人に夢中でも構わない……
    ただ側に居て欲しかった・・・・・・ずっと隣に並んで居たかった。


    お兄さん、わたしは最近よく "もしも"を考えます。
    考えたくないのに、考えてしまうとてもイヤな―――『もしも』です。

    もしも、わたし達が偶然、街で出会って運命的に恋に落ちていたら?
    あなたが桐乃のお兄さんじゃなくて、わたしも桐乃の親友じゃなかったら?

    お姉さんも黒猫さんも知り合いじゃなくて
    ただあなたと二人っきりだったら?と。
    そして最後にいつも自己嫌悪になります。

    桐乃はわたしの目標で大好きな親友。
    お姉さんはわたしの憧れで大切な人。
    黒猫さんは尊敬出来て、きっと今よりも分かり合える人。

    でも、わたしはあなたと何か(どんな大切なものでも)を天秤にかけたら
    どんな理屈を掲げても、きっとお兄さんを選んでしまう。

    自分で分かる
    ―――――これが今日初めて、想いを伝えて確信したこと。
    周りをどんなに傷つけても、わたしは必ずあなたを選ぶ。


    だから、今日あなたに嫌われて良かった・・・・・・・・。

    誰も傷つかずに、終われて良かった・・・・・・・・・。

    もう無意味で悲しい『もしも』を考える必要がなくなって良かった・・・・・・。

    『つもりじゃなかった』 『筈じゃなかった』 
    そんな"嘘"をこれ以上重ねなくて済む様になって
    本当に―――本当に良かった。


    さよなら





    『お~い、あやせ……何勝手に帰ってるんだよ?
    こっちは待ってろって言っただろ?』

    「……………」

    『おまえ、今日……。えっと、あ………あ~分かった、分かった。変わるよ』

    『きゃー変態ロリコン男に犯されるー。あやせちゃん助けてーーー』

    『こら、てめぇ!本当に最近の小学生は………なんつー台詞吐くんだよ。
    ってことであやせ早く来てくれよ?
    俺がややこしい何か(条例)に巻き込まれる前に』


    「あっあやせちゃん、本当に来てくれたんだぁー。
    えへへ………こんばんは♪」

    筧沙也佳さんは首から一眼レフを構えて、お兄さんと部屋で待っていた。

    「あの、これって一体どういう?」


    「えっと、その前にこれ………受け取ってくれよ」

    お兄さんはおもむろに、高級な作りの少し大きめの箱をわたしに渡す。
    "EBS"と言うロゴ……これは確か御鏡さんのブランドだった。

    「これは俺個人からの感謝の印つーか。
    おまえにはよく切れる包丁も貰ったしさ。
    家事やら何やらもしてくれたしさ。だから気持ちだよ、気持ち」

    照れくさそうに、頬をかきながら、目も合わせずにお兄さんは
    ぶっきらぼうに言った。


    「あ~あ、物で釣るとか、どんだけ低俗な人なんだろうねーー。
    あやせちゃん、この男には気を付けた方がイイよ、この人ってさ……」

    「おいコラ!そこのストーカー小学生っ!」

    「そのキーワード辞めてよ!
    あたし……正式にあやせちゃんにモデルになって
    貰うんだから、今日もその為に門限破って出かけて来たしぃ」


    この人は誰とでも仲良くなれるんですね
    わたしが有無も言わさずに、問答無用で警察に付きだそうとしたのを制止して
    自分の模試の直前に説教までして、仲直りまでさせて・・・・・・・・・
    今は昔からの友だちだったみたいに接している。

    「だからさ、ちゃんと役割を果たしてくれよ?頼んだぜ!未来のカメラマン」

    「そ、それは喜んでするし、超楽しみだけど………。
    でもぉーあたしが、せっかく初めてする記念の撮影会が……何で、
    あやせちゃんとあんたのツーショット写真撮影する話ってなってるのよぉ?」

    「わ、わたしの質問に答えてくださいっ!!
   ―――何の話をしてるんですかッ?」

    わたしの剣幕に押されて、沙也佳さんはお兄さんの背中に隠れた。


    「あ~悪い、悪い……。
    えっと………何かさ、この部屋は、ちょっとの間でも俺が住んだ家な
    わけじゃん?
    一国一城の主って言うと古くさぇけどさ。
    ここで俺は一生懸命に頑張って勉強した、色々な事を考えた!
    それで、その時の気持ちをぜってぇ忘れたくねぇーなと思って。
    自分を戒める意味でも記念に何か残しておきたいと思ったんだ。
    あやせには世話になったから、ついでに一緒に写って欲しいなって
    思ってよ」


    「それってさぁ、単にあやせちゃんと写真撮りたいってだけでしょーに。
    女の子と一緒に写真に写りたいからって、よくそんなご大層な
    自分語り出来るよねぇ?」

    「おまえと言う奴はっ!俺だけの理由じゃねぇーだろ?
    イヤなら撮影係は即刻、解雇すんぞ?」

    「ご、ごめんなさーい。
    あんたがちょっとだけ良い人って認めてあげるから解雇は辞めてよー!
    ぶっちゃけ邪魔でしかないけどぉ。
    しょーがないからぁ、一緒に写してあげるよぉ」

    「―――あ、あの?」

    本当に、お兄さんと沙也佳ちゃんは馴染んでいた。
    わたしは取り残された気がして、少し淋しい気分になる。


    「まぁ、とにかくその箱開けてくれよ。気に入って貰えると良いんだが」

    わたしはまだ状況をよく把握出来ないまま、箱を開けた。
    その中には"エタナーブルー・シスター"の最新作と思われる
    へアアクセサリの数々


       コーム バンス シュシュ バレッタ カチューシャ


    それは一目見れば分かる高級品であり、値段に負けないくらい素敵な作りの
    全て"月"の形を象った『luna』というものだった。


    「太陽(ソラリス)やら木星(ジュピター)やら色々あったんだが、
    俺はあやせのイメージで月にしたんだ」

    「申し訳ないですけど、こんな高価なものを頂くわけには―――
    第一、わたしが貰う理由が無いですし」

    「あやせに似合うって俺が考えるのが理由じゃダメかな?」

    「い、意味が分かりません―――と、とにかくわたしは頂けませんっ!」

    「悪いが、沙也佳ちゃん……ちょっと席外してくれるか?」


    「…………良いけどぉさぁ、早くしてよね?」

    沙也佳ちゃんは不満そうな顔をしながら外に出て行った。



    「あやせ、ごめん…………この通りだ」

    また"あの"顔をするお兄さん。

    「・・・・・な、何の話です?」

    「まだおまえの言葉に……俺は肯定も否定も出来ない。
    理由は分かると思うけど」

    理由なら知ってる、違う
    ――――そうじゃない、一年間前からずっと知ってた。
    そしてそういう返事をされるのも納得した上で、告白した。

    でも途中で気持ちが抑えられなくなった。
    ―――――だから全部わたしの我が侭なんだ。
    お兄さんが謝る必要なんて全然―――ぜんぜん、その必要なんて無いのに。

    この人はまた・・・・・・・優しい顔、情けない顔、わたしの大好きな顔で、
    わたしを諭してくる。

    「は、話が終わったなら――――わ、わたし帰ります。さような(ら)」



    「おまえの気持ち…………すげぇ嬉しかった」

    そうやってわたしが踵を返して、歩きだそうとした時に手を握られた。


    「この答えじゃダメか? 今はこれ以上………何の約束も出来ない。
    それでも…………おまえには、もう嘘は絶対につきたくはないと
    俺は思ってるんだ。
    おまえに誤解されたり、嫌われるのはぜってぇイヤだ!」



    やっぱり――――――狡い人



    でも――――――やっぱり優しくて、愛しい人




    「ちょっとぉ…………お二人さん、並んでくれないと写真にならないじゃん。
    特に、そこの地味顔の君…………笑いなさい!」

    沙也佳さんが真剣にカメラを構えて指示している。
    この子……技術は稚拙でも、すごく情熱を注いでるのがよく分かる。


    「へいへい(汗) 地味顔で悪かったな!
    あやせさぁ…………け、結局………そのヘアピンで良いのかよ?」

    「ふふっ、お兄さんに一番魅力的に映えるのが、この格好なんですよね?」

    「本当にごめんな……。だからもういい加減に、勘弁してくれその話は………」


    「お兄さんが送ってくれたのって"月"を象った『luna』と言う名前の
    ヘアアクセですよね―――わたし、他意があると理解しても良いです?」


    「伊達に受験で、英語を勉強してるわけじゃないんだぜ………俺も。
    これが月を象ってるのに『moon』じゃなくて『luna』と言うのは
    月の狂気を表現してるわけだな。
    ―――ってぇ痛っ」

    「もうぉ!プレゼントした癖に、よくそんな非道い知識を披露しましたねッ?
    やっぱり却下ですっ!」

    「俺なんかから…………物は貰いたくないってこと?」

    「ちっ、違いますッ!
    わたしが納得出来ないから―――こ、今度はちゃんと二人で選ぶって
    意味です」

    「そ、それってデートって意味?」

    「―――せっかくだから、本当にわたしに似合うものを 
    あなたにちゃんと決めて欲しいんです」




    「はぁ……やっぱ結局、二人って付き合ってたりするのぉ?」


    「「付き合ってない」」



    「ふぅ~ん。
    でも―――今の表情のあやせちゃんってさ。
    ハァ………もう、、まっいいか。ほら撮りますよぉ」



    「ねぇ、お兄さん。
    わたしにとっては、このヘアピンもやっぱり好きだし大切なものなんです。
    今日、その事が分かって、本当に良かったと思ってます」



    「あのさ……俺があやせが可愛いって言ったのは嘘じゃないんだぜ?」


    「お兄さんに嬉しい言葉言って貰えたから、わたしも正直に良いこ・と・
    ――――特別に教えてあげちゃいます。
    あのライブの時に、こ・ん・な・風・に・お兄さんに顔を近づけたのは、
    あなたの気をどうしても引きたかったから―――」


    「―――えっ?お、おまえ…………」


    沙也佳さんがシャッターを切る直前、
    わたしはお兄さんの手を、わたしの手と指つなぎして同時に腕も絡ませた。


    どんなに、お兄さんが動いても離れないように、強く―――強く、抱きしめた。


    決して離さないように、で・き・る・だ・け・―――壊れるくらい、強く抱きしめた。



    「――――わたし」




              
             

         『な・い・も・の・ね・だ・り・(Cry For The Moon)』 

                なんて 自分の心に 二度と 嘘 吐かない

           
             もう  絶対に  あなたを諦めない
















    おわり
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