無題:13スレ目84


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「ではよろしくお願いします」

そういうと加奈子は親父とおふくろに抱いていた娘を差し出した。
昇進祝いの豪勢な食事の後、加奈子の提案で俺達3人は久しぶりに水入らずで飲むことにしていた。
勿論今から飲みになど出るわけはない。
リビングでの家飲みである。

『「或る結末の続き」の続き』

「飲みすぎるなよ?」
「わぁーってるよ」
「ばいば~い」
「おやすみ~か~なみちゅあ~ん」
「ご迷惑おかけします」
「なに他人行儀なこと言ってるの。好きでやってるんだからいいのよ」

三者三様に挨拶を交わす俺たち。
それから二言三言話して親父たちは自分たちの寝室へと向かった。
パタンとリビングの扉が閉まるのが合図。

「さてそんじゃ始めますか」

そう声を掛けて俺たちはささやかな酒宴の用意を始めた。


「さて俺はそのままビール続行でいいが・・・っと」
がさごそと冷蔵庫の中身を物色しながら、俺はキッチンでつまみの用意をしてる二人に声を掛けた。
「なー、桐乃と加奈子はなに飲むー?」
「シンガポールスリング」
「私はジンフィズでお願いします」
「はいよっと・・・シンガポールスリングにジンフィズっと・・・は?」

おい待て。
今こいつらなんてった?

「す、すまん聞き違えたみたいだ。なに飲むかも一回言ってくれ」
「シンガポールスリング」
「私はジンフィズで・・・」
「いや、さらっと同じこと繰り返してんじゃねぇよ!?」

立ち上がりながらツッコむ俺。
なにその洒落た名前の飲み物!?
ほぼ聞いたことすらないんですけど!?
しかしその俺の激しいツッコみに、本当に、ほんとーに面倒くさそうに桐乃がじろりと目を向けた。

「・・・は?なにが?」

うおお・・・視線が氷点下だ。
しかもドM大喜びの視線に加え、吐き出す言葉も怖いくらいに冷たい。
お兄ちゃん、ちょっぴりあの頃のこと思い出しちゃったよ。

「や・・・あのほら、家に、カクテルなんてもんないじゃないッスか?」
「うん。それで?」
「そりゃあのつまり・・・俺に今から買った来いって事ッスか?」
「はあ?ばかじゃん?」

      • 言い方まで当時と一緒ですか。
桐乃はふんっと鼻を鳴らすと、腰に手を当てて俺に向き直った。

「今更お店行ったって閉まってるし、大体シンガポールスリングなんてその辺じゃ売ってないっつーの」
「んじゃそのありえない無理難題を、なんで今俺に言ったんですかねぇ!?」
「決まってんじゃん、あんたが作るから」
「・・・は?」
「聞こえなかった?あんたが、作るの」

さも当然のように言われた、明らかに異常な言葉に俺は混乱する。
数瞬間を置き、頭の中で言葉を吟味しこねくり回して、口から出たのはこの一言だった。

「あー・・・桐乃?お前何言ってんの?」
「はあ!?なに言ってんのじゃないでしょ!?あんたが作るんだって言ってんじゃない!!」

予想通りというかなんというか・・・お前ってほんと変わんねーのな。
そのまったく説明になってない説明はよっ!!

「いやそもそもその言葉の意味がわかんねんだっつの!!なんで俺が作るの!?つか俺つくれねーよ!?」
「はあ?その程度のスキルもないわけ?はあまったく、これだから万年平社員は・・・」
「いや俺出世したし!てかそーゆーこっちゃねーよ!!道具もなしにどうやって・・・!?」
「道具ならありますよ?」

白熱した言い合いに発展しかけたところで、傍らから声がかけられた。

「加奈子?」

頭一つ小さい俺の嫁は、にっこりと笑いながらすっと人差し指を自分の唇に添えた。

「とりあえず二人とも声が大きいです。お義父様たちに迷惑ですからもう少し静かにしましょうね?」

その仕草は愛らしい外見にとてもよく似合っていて、俺は思わずこう思った。
俺の嫁はこんなにもかわい・・・。

「見惚れてんな。キモッ」

繰り出された右拳は、見事に俺のこめかみを打ち抜いていた。
      • あやせといいお前といい、その的確に急所を狙う癖やめねーか?



「はあ・・・なるほどねえ」

俺は桐乃が楽しそうにテーブルの上に並べていくブツ達を見ながら、大きく息を吐いた。。
むろん溜息なわけだが。

「ちょっと何よそのリアクション?もっと驚きなさいよ」
「驚くっつーかむしろ呆れたわ」

そう言って俺は、今一度テーブル上のカクテル製造用具一式に目を向けた。
あのシャカシャカと振る銀色のコップやら、何やらおかしな形状のスプーンらしきもの、それを注ぐための高価そうなグラスが詰まった箱。
それにカクテルに使うであろう数種類の酒とリキュール。
本格的なやり方などもちろん知らないが、家で飲む分には十分なように見えた。

「どこで手に入れたんだこんなもん?」

当然の疑問を口にすると、桐乃が嬉しそうに答えてくる。

「撮影の小道具。使用後に欲しいって言ったら格安で譲ってくれたの」
「ほー、モデルってそういうメリットもあるのか」
なるほど、ギブアンドテイクとはよく言ったものである。
「へへん。凄いでしょ?」

得意げに鼻を鳴らす妹に、少なからず感心したのも事実で。

「ああスゲーな。お前が頑張ったからこその特典だもんな。大したもんだ」

素直に賞賛の言葉を贈る俺。
      • だったのだが・・・。

「フ、フンッ!」
「?桐乃?」
「こ、心にもないこと言ったってわかってんだからねっ!どーせ、コネで貰ったーとかそんな風に思ってんでしょ!?」
「んなっ!?」

吐き捨てるようにしてそっぽを向く桐乃に絶句する。
なんだってこいつは素直に褒めると怒りやがんだ!?いつもいつも!

「い、言ってねーじゃねーかそんなこと!」
「い、言ってなくても、か、顔見りゃわ、わかるし・・・」
なんっだそりゃ!?
「おまっ・・!被害妄想も大概にしろよ!人が心底感心していったセリフを・・・」
「う、うっさいっ!!」
「うっさいじゃねーよ手前ぇ!大体俺がいつ・・・」
「二人とも・・・」
「「はいっ!」」

小さくかけられた声に背筋をピンと伸ばす俺と桐乃。
恐る恐る目を向けた先には、ニコニコと微笑む加奈子がいた。
その口が再び開く。

「同じことを・・・何度も言わせないでくださいね?静かにしてくださいと言いましたよね・・・私?」

微笑みの表情はそのままだが、妙な迫力がありやがる・・・やべえ。

「だ、だってこいつがさ・・・っ!」
「桐乃」
「はいっ!!」
「いい加減にしないと・・・おこるよ?」
「す、すいませんでした!!」

なおも食い下がろうとした桐乃が、冷や汗を浮かべて頭を下げる。
そのお辞儀は、腰の角度が完璧な理想的なお辞儀だった。
よっぽど怖かったんだな・・・バカな奴め。



加奈子は結婚する前から、俺の幼馴染である田村麻奈実に家事一般の指導を受けていた。
当時は『師匠』と呼んでいたから、軽い弟子入りみたいなものだったのかもしれない。
その関係は、呼び方が麻奈実さんに変わった今も続いており、嫁の家事スキルは日々上昇を続けている。
まことにもってありがたい話しなのだが・・・一つだけ困ったというか、迷惑なものがある。
それが先ほどの『おこるよ?』である。
麻奈実は決して本気で怒ることなどない奴だが、同時に本気で怒らせてはいけないという、稀有な特性の持ち主である。
本気で怒らせたが最後、死よりも嫌な体験をさせられる羽目になることを、身をもって知っている俺である。
その迷惑極まりないスキルを・・・あろうことか加奈子に伝授してしまったわけだ。
師匠・・・やりすぎッスよ。

「あー・・・スマン加奈子。久し振りの水入らずだもんな。折角なら楽しく飲みたいよな」
「わかって下さったならいいんです」

ニコニコと微笑む嫁は、先ほどの迫力などどこへやら、楽しそうに飲み会の準備に取り掛かる。

「ほら桐乃、あれ」
「あ、うん」

どうにか落ち着いたらしい桐乃が、加奈子に促されて先のカクテルセットが入ってたバックをゴソゴソと漁る。

「ん、しょっと」

取り出したのは何枚かの紙の束。
それを「ん」と俺に差し出してくる。
訝しみながら受け取った俺だったが、表面に目を走らせた途端なるほどと腑に落ちた。

「用意周到だな」
苦笑交じりの俺の言葉に、へへっと二人が笑った。
それは、カクテルのレシピだった。
ネットで調べてプリントアウトしてあるそれは、素人でも一応は作れるように細かく書かれていた。

「どうせカクテルなんて洒落たもの知らないあんたのために用意してやったのよ」
あーめんどくさかったー。
ふんと鼻を鳴らして恩着せがましく言う桐乃。
      • ホントに一言一言がムカつくなこいつは。
ひくひくと頬をひきつらせてる俺の耳に、クスクスと楽しそうな笑い声が届いた。

「そんなこと言って。『兄貴にカクテル作ってもらうんだー』って嬉々としてネットで調べてたのは誰だっけ?」
「・・・おいおいマジかよ?素直じゃないねぇ、うちの妹は」

さっき、チラリと加奈子が俺に視線をくれた。
なるほど。
明らかにからかう為の加奈子の言葉。
それを敏感に察知して俺は乗っかった。
案の定、桐乃は真っ赤になって否定し始める。

「ちょっ、加奈子!やめてよそんな言い方するの!勘違いされたら迷惑じゃん!あんたも納得すんなっ!!」
「そう?『なにこのサイト不親切ー!!もっとわかりやすく書きなさいよねー!?兄貴が悩んじゃうじゃん!』」
「うっわ泣きそう俺」
「わああああっ!!」
「『よっしこれでOK!加奈子、兄貴のカクテル楽しみだね!!』」
「おまえ・・・そんなこと思って・・・」
「きゃーーーーーーーーーっ!!」

でっかい声出すなよ。
面白そうだから加奈子に乗っただけだって。
お前がそんなこと、死んでも言うはずないもんなぁ・・・。
そう心で呟いて、ちらりと傍らの嫁を見る。
ひとしきり桐乃をからかった気が済んだのだろう、加奈子は満足そうな笑みを浮かべていた。
実はこの辺、若い頃と同じで加奈子の悪い癖であったりする。
今でも俺、たまにからかわれるもんな・・・。



「かかかか加奈子?」
「ん?なに?」
「あ、秋物の新作バッグ、今度貰えるんだけどさ・・・いらない?」
「?え?」

すると突然桐乃が、加奈子に向かってプレゼントの提案をしだした。
しかも真っ赤になって必死に。
おいおい桐乃のやつ。
もしかして口止めしようとしてんのか?
誰もマジにしないってのに言われたくないとか・・・そんなに俺が嫌いかね?
      • ちょっとへこむな。

「あ、あと!肌に超いい化粧水があるんだ!そ、それも、どう!?」
「・・・あ。もしかして私、脅してるとか思われてる?」

ようやく思い至ったらしい加奈子が、パンと両手を打ち鳴らす。

「そ、そんなことないよ?」

完全にひくついた笑いを浮かべている桐乃。
相変わらずわかりやすい奴だ。

「あはは桐乃。そんなものいらないよ。言われたくないなら言わないって」

ケタケタと笑いながら加奈子が両手を振る。
加奈子の言葉に桐乃がほっとした表情を浮かべる。
だが次の瞬間、桐乃は胡乱な目で加奈子を見つめて言う。ちょっと芝居がかった言い方で。

「・・・そう?・・・昔の加奈子なら絶対脅してたでしょ?ねえ?私本気にしていいのかなぁ・・・?」
「あー・・・黒歴史は勘弁してもらいたいかなー?」

心底イヤそうに苦笑いを浮かべる加奈子。
それを見て笑う桐乃。
その顔にふとあのころの面影が重なる。

「・・・ああいいな、それ」
「兄貴?」
「あなた?」

思わず零した俺の言葉に二人が顔を向ける。
そんな二人に向かって、俺は思いついたことをそのまま口にした。

「なあ、折角3人で久しぶりに飲むんだからよ。どうせなら学生時代に戻ってみないか?」
「は?」
「どういうことですか?」

頭にはてなを浮かべたような顔で聞いてくる二人。
すかさず俺は加奈子を指差した。

「ほらそれだ加奈子」
「え?」

いきなり指摘された加奈子は、訳がわからずはてなを3つほど増やしている。
そこですかさず答えを出してやる。

「お前が昔俺にそんな口をきいてたか?学生時代を思い出してみろ」
「・・・あ」
「・・・なるほど」

得心がいったと頷く桐乃と加奈子。
頭の回転の早いことで。
実に助かる。

「な?どうせだからさ・・・面白そうだろ?」

ニッと口の端を上げて笑うと、二人とも悪戯っぽい顔になって笑い返してきた。


「なーるほどねえ・・・フン。ま『京介』にしちゃ割とマシな提案なんじゃない?」
つんと顎を逸らせ不敵に笑いながら、まずは妹様の降臨だ。
「てゆってもぉ?『京介』は他にとりえなんてないわけだしぃ?せめて企画くらいはやってもらわないとねえ?」
「おーおー久しぶりだなぁ呼び捨て」

水を得た魚のように、遠慮なく俺を呼び捨てにする桐乃に知らず笑みがこぼれる。
俺と加奈子がつきあい始めてから桐乃は、俺のことを『兄貴』と呼び方を固定していた。
それまで『京介』と併用していたのに、だ。
当時、一度だけ理由を聞いたことがあるが「ケジメつけないと」とだけ言われた。
正直・・・少し寂しくも感じたもんさ。

「兄貴一辺倒だったからなお前。さぞや嬉しいんじゃねーの?」

そんなことはおくびにも出さず、俺は桐乃をからかってやる。

「ばばばばかじゃん!?あんたのこと呼び捨てんのなんか嬉しくもなんともないっつーの?」
「そうか?なんなら『お兄ちゃん』って呼んでもいいんだぜ?」

俺の言葉に真っ赤になって桐乃が怒鳴りつけてくる。
相変わらず煽り耐性ねーなお前。

「き、キモッ!おおおお兄ちゃんなんて一回も呼んだことないし!」
「そーか?俺、何度かお前の寝言で聞いたことあんだけど?」
「!?ねねね寝言なんてどどどどこで聞いたのよっ!?」

嘘に決まってんだろバカ。

「あー、そーいや聞いたことねーな。やー勘違い勘違い」
「なっ!?ああああんたねえ・・・!」
「・・・ひひっ」

俺達が当時(今も大して変わらんが)の口論をしていると、それこそ悪戯好きな小娘の声が耳朶を打つ。
俺と桐乃は一瞬顔を見合わせると、プッと噴き出してから声の主にゆっくりと目を向ける。

「よう」
「・・・あのぉ?シスコンにブラコンとかぁ、まじキメーんですけどー?」
「・・・初っ端っから全開だな『クソガキ』」

俺の言葉に、目の前の『クソガキ』は目を細め、意地の悪そうな笑顔を浮かべた。

「はあ?なにゆってんの『セクハラマネージャーさん』?オメーがやろーって言い出したんだべ?」
「・・・一瞬で後悔したぜ」

視線の先加奈子は、あろうことかソファーの上に胡坐をかいてニカッと歯を剥いた笑顔で座っていた。

「スッゲー当時のままだなお前・・・」

髪の色を除けばまったく当時の出で立ちの我が嫁に、少なからず俺は驚いた。
こいつ成長とかマジしてんのか?

「あんだよ『京介』ぇ?この成長しきった加奈子様の、どこが当時のままなんだヨ?」
「主に胸」
「なっ!?」

さらっと本当のことを言ってやると、加奈子は真っ赤になって両手で自分の胸を隠した。

「て、てめーっ!?い、今、一番触れちゃいけねー部分に触れたぞっ!?」
「そーかそーかー気にしてたのかー。加奈子様はかわいいなあ」

頭を撫でながら、俺は、はっはっはとわざとらしく大声で笑ってやった。
心配すんな。俺はその小さい胸が好きだから。

「て、てめー調子乗ってんじゃ・・・」
「加奈子」
「え?」

不意に名前を呼ばれて、加奈子が桐乃に向き直る。
なんだおい桐乃?その真剣な表情は?

「加奈子」
「な、なんだよ?」
「・・・カナカナちゃん、て呼んでいい?」
「いや、それまじキメエからかんべん」
「あううう・・・」

玉砕し、目の前でorz←こんな感じになってる我が妹に俺は声をかけた。

「・・・お前って、良くも悪くも成長しないよな・・・」

――――俺の妹がこんなに残念なわけがない・・・。

俺がそう思ったかどうかはともかく、俺たちの『なりきり』飲み会はこうして幕を開けた。
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