それはある家庭教師の日のこと。
「ねえねえ高坂くん?」
「ん?どした?」
「これどう?」
「ん?」
なん・・・だと?
言われて顔を上げた視線の先。
そこには眼鏡をかけた美少女が座っていた。
『日向に眼鏡が届いたら』
「ねーねーどうかな?」
日向はクイクイッと、つるの部分を弄くりながら楽しそうに聞いてくる。
無邪気に笑いながら聞いてくるんじゃねえ・・・。
「あ、か、可愛いよ」
「ほんとに?えへへ」
うおお照れた!
やべえ・・・可愛いなんてもんじゃねえ。
元々日向の小さい顔には眼鏡は似合うだろうと思っていたが、これは予想のはるか上をいくクオリティーだ。
正直今まで見たどの眼鏡っ娘よりも可愛いかもしれん・・・。
い、いかん。見惚れてる場合じゃない。
と、とりあえず疑問点を晴らさないと。
「きゅ、急に眼鏡とか、どうしたのそれ日向ちゃん?」
「ん?これ?こないだあたし宛に送られてきた」
「だ、誰から?」
「んーと・・・『スレ住人』さん?」
なんで疑問形なんだよ?
それにスレ住人?HNかなんかか?
「だ、誰なのそれ?」
「知らない人」
「受け取ってんじゃねーよ!」
思いっきりツッコんじまったじゃねーか!
危なっかしいなお前!!
「いやー軽かったしさ。危ないもいんじゃないと思って」
アハハと笑いながら答えてくる日向。
笑いごっちゃねーよ。
「だとしてもだ。不用意に過ぎるぞお前。今後はやめとけよ?」
「はーい」
悪びれた様子もなく、軽く返事する日向。
大丈夫かこいつ・・・。
しかし内心ではこう思いつつも、あえて俺はこう言わせてもらおう。
スレ住人さん、GJ!
「でもさ、実際のところどう?嬉しい?ねえねえ嬉しい?」
うりうりと俺の頬を指でクリクリしながら、日向が悪戯っぽい笑顔で聞いてくる。
相変わらず聞き方うざいなお前。
あと顔近い!
- ま、まあ実際?嬉しくないと言ったら嘘になりますけどね!!
- ん?嬉しい?
「・・・日向ちゃん?」
「ん?なに?」
日向はかくんと首を傾げて答えてくる。
だからお願いだからそれやめて。
いつも可愛いのに、今日は眼鏡の破壊力が付与されてんだぞ?
はっきりいって心臓に悪い。
いかん。冷静に冷静に・・・。
「・・・なんで、『似合う?』でも『可愛い?』でもなく・・・俺に嬉しいか、聞いてくるのかな?」
「え?だって高坂くん眼鏡フェチなんでしょう?」
ばれてるーーーーーーーーーーーーーーっ!?
え!?なんで!?どうして!?
なんで俺の秘密の嗜好が小学生女子にダダ漏れになってんの!?
ちょ、ま、これどんな罠な訳!?
お、落ち着け俺。
まずは息を整えろ。
そして素数を数えろ。
クールだ。クールになれ高坂京介。
「だ、大丈夫高坂くん?なんかすごい汗だよ?」
日向が驚いたような顔で俺に声をかけてきた。
だからそのままで顔を覗き込むなー!!
可愛すぎるんだよ!
俺の心臓はもうさっきから臨界点突破してんだよ!
お前俺を萌え[ピーーー]気か!?
「ひ、日向ちゃん・・・お、お願いだから、その眼鏡外してくれるかな・・・?」
「なんで?気に入らなかった?」
「い、いや大いに気に入ったんだけど・・・その、正直俺の身がもうあんまし保ちそうにない・・・」
息も絶え絶えにそれだけをお願いしてみる。
下手すると理性も保たねーかもだしね・・・。
「ふーんそっか。なんかよくわかんないけど、高坂くんがそういうならもう掛けないよ」
日向は残念そうな声で眼鏡をはずそうとする。
慌ててフォローに入る。
「あ、いや・・・か、掛けないでくれとは言ってないんだけど・・・」
「?」
「あー・・・つ、次来たときは・・・掛けててくれていい」
俺も心の準備をしてくるしね。
って何言ってんだ俺は小学生相手に。
「うーんやっぱりよくわかんないけどわかった。次は最初から掛けてるね」
首を捻らせながらも、なんとか理解してくれたようだ。
よかった。
この眼鏡美少女を二度と見れないのは、正直勿体無いからな。
「あ、ああ。ありがとね日向ちゃ・・・」
ちゅ
「じゃ次までのマーキング」
ペロッと舌を出して、はにかむように微笑む眼鏡日向。
はい俺死んだー。今死んだー。
油断したところにメガネ美少女のドアップktkr。
日向ちゃん。俺のライフはもう0よ・・・。
その後数分間気を失った俺を、日向ちゃんが真っ青になって介抱してくれたとかなんとか。
※
「じゃ、帰るな。悪かったな気絶なんかしちゃって」
「ほんとだよ。あたし気が動転してルリ姉に電話するとこだったもん」
ふうっ、と苦笑いを浮かべて日向が言う。
だって黒猫とか来てたら、気絶の理由話さなくちゃいけねーじゃん。
ちなみに今日向はもう眼鏡は掛けていない。
「っとそうだ、日向ちゃん」
「ん?なに?」
そうそう。
帰る前にこれだけは聞いておかねばなるまい。
「えっとさ、その、日向ちゃんに教えたの誰?」
「へ?なにが?」
頭にはてなを浮かべて聞き返す日向。
あーやっぱはっきり言わなくちゃダメかー・・・。
「俺がその・・・メガネ好きって・・・」
「ああ。キリ姉」
「やっぱりかあの野郎!!」
※
その後家に帰り、早速桐乃を問い質したところ、『いろいろ葛藤はあったけど、リアル妹ができるならって納得した』とのこと。
なんのこっちゃ。
後日、俺のもとに少女物の薄い本が届いたりしたのだが、それはまた別のお話。
最終更新:2012年11月19日 00:36