無題:12スレ目830

 あたしは、馬鹿だ。

 自分の部屋に戻ってきて、そして耳を塞ぐ。
 隣の部屋からの声なんて聞きたくない。なら何故、あたしは家を出ていかないのか。
 元々予定した遊びを断ってまで、あたしはこの部屋に居るのか。

 黒いのが告白する事を許可したのはあたしだ。
 京介に真剣に考えてあげてと助言したのもあたしだ。
 そう、あたしは何でもない、全然嫌じゃないし好きにやればいい。

 そう思っていた筈なのに。
 そう思っていたかったのに。

 耳を塞ぎながらも隣から聞こえてくる声に聞き耳を立ててしまう。
 さっきもそうだ。聞きたくなかったのに、聞く気なんてなかったのに。
 隣からあいつと黒猫の声が聞こえて、それがいかがわしいものに聞こえた時、あたしは居ても立っても居られなくなって。

 あいつの部屋の扉を開けてしまった。

 ……実際、別に変な事はしてなかった。ほっとした。けど。けどけど。
 もし変なことをしていたら……あたしはどうするつもりだったのだろう。

 止める? 怒る? それはなんで? あの二人はもう付き合っていて、怒る理由もないし、止める理由だってない。
 でも。でもでもでもでも。

 我慢出来ない。とても耐えられない。そんな事。絶対嫌だ。絶対駄目。
 だって、だって、だって。

 あ、あたしの部屋の隣でやるなんて……!
 そ、そう、あたしの部屋の隣だから、その、聞こえてきたらウザいでしょ?
 ほ、ホテルにでも行けばいい。そ、そうして声が聞こえない所で、あたしの目の届かない場所で。

 嫌。嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌! そんなのもっと嫌! やるならあたしの近くでやって! あたしに声を聞かせて聞かせないで……!

 思考がぐちゃぐちゃだ。正直、ここまでキツいなんて思ってなかった。
 耐えられる? 無理。だって、こんなに苦しいなんて。
 キモいキモいキモいキモい……ッ! なんてこんなにキモいの!
 駄目、駄目駄目駄目、あの人は……たしのものなのっ! 取ってかないで!
 今直ぐ返してよっ! あたしの側に居てよ! あたしを見ててよっ!

 なんでなんでなんでなんで! あたしが、こんなに頑張ってるのにあんたは!
 なんであたしを見てくれないの? 約束したじゃん、あたしを見てくれるって言ったじゃん!

 ……分かってる、分かってる、こんなのは駄目、あたしは妹で、あいつは兄なんだから……ッ!
 だからあたしは、あいつに恋人が出来る事を許した、今ならまだ許せると思って。
 まだどうしようもなくないって思ってた。

 けど、けどけどけど!
 なんで、なんで、なんで、なんで……。

 馬鹿っ! 馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿ッ! 分かってたの、もう手遅れだって!
 気付いてたの、もうどうしようもないって!
 遅いって、遅いって……!

 偽彼氏を連れてきて、あいつが、あんな事を言うから……っ!
 遅い、もう遅い……気付いちゃったのは、あんたじゃなくて、……あたし……!!

 あいつの言葉に馬鹿みたいに心が高鳴って……!
 あいつがあたしを幸せにするって言って凄く嬉しくなって……!
 同時に気付いた、自分の気持ちとあいつの気持ち。
 あたしはあいつに幸せにしてほしくて、
 あいつはあたしに幸せになって欲しくて……っ!

 似た気持ちなのに、どこまでも違う気持ちだって事に……気付いた。

 遅い……本当に遅い……なんで……。
 大……嫌いッ……!

 いつまでも……傍に居てよ……。
 頭を撫でてくれる時みたいに、優しくして、よ。
 あたしの為に、真剣になってよ……。
 あたしの事だけを、ずっと見ていてよ……。

 ねぇ、……京介?
 あんたが、一回でもあたしを選んでくれたら……。
 次こそちゃんといい妹になるから……この気持ちを奥底にしまいこんで……。
 ずっと一緒に居られる……兄妹になろう?

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最終更新:2012年12月05日 15:56
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