無題:12スレ目895


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 わたし、新垣あやせは、現在桐乃のお兄さんのアパートに通って家事などのお世話をする日々を送っていた。
 桐乃からは、ちゃんと勉強しているかどうかの監視役、という名目でお願いされたのだけど、正直かなり苦痛。
 だって、あのお兄さんですよ?
 少なくとも最近はセクハラとかはしてきてないけど、今までのお兄さんのやってきたことを考えたら、まだまだ全然信用できません。
 でも、勉強の監視役を任命された以上、必殺ハイキックは出せないですよね、試験が受けれなくなったら大変ですから。
 もちろん、セクハラした方が悪い、試験が受けれなくなっても自業自得だという論理もあるんだけど、先日の加奈子のライブのClariSさんに対してのアレのような冤罪で、お兄さんを試験前日に病院送りとかしてしまったら、桐乃に会わせる顔が無くなってしまう。
 本当の本当にセクハラだと見極めた上なら容赦する必要は無いけど、見極める前にわたしが汚されるなんて事があったらどうしよう──
 これがわたしが感じている苦痛の理由。

 お兄さんの前ではできるだけ自然に振舞ってはいるけど、いまこの瞬間も心臓が飛び出しそうなくらいわたしはドキドキしている。
 いつセクハラしてくるか、セクハラされたらどうしよう、そんな事ばかり考えていたので──

「痛っ」

 包丁(色々調べて買ったよく切れるもの)で指を切ってしまった。
 誤解の無いよう言っておきますが、指を切り落としたという意味じゃありませんからね!

「どうした、あやせ?」
「だ、大丈夫です。ちょっと包丁を滑らせてしまっただけで……」

 お兄さんが勉強を中断して、キッチンにやってきた。
 そして、わたしの手を取って、

「ちょっと見せてみろよ」
「な、ななな、何当たり前のように触ってくるんですかっ、通報しますよ!」

 ばか! ばかばか! これじゃあただの自意識過剰女じゃない!
 お兄さんは本気で心配してるんだって分かってるくせに!

「あやせに何かあったら俺が桐乃に殺されるわ。いいから見せろよ」
「ほ、本当に大丈夫ですから……。私のことなんて放っといて勉強に戻ってください……」

 だからなんでこんな突き放した言い方になってしまうの?
 いまのわたし、自意識過剰どころかイヤな女だ……。

 お兄さんはしぶしぶといった感じでキッチンから出て行く。

 ──ごめんなさい。

 わたしは誰もいなくなったキッチンの入口に小さく呟いた。

 こんなわたしにお兄さんの世話を任せた桐乃も罪作りですよね。
 お兄さんの事を嫌いだと“表明している”人よりも、お兄さんに対する好意を“表に出してる”人のほうが良かったんじゃないかと時々ふっと思います。


 それから数日後。
 今日のわたしの“任務”も無事終了した帰り道、お兄さんを呼び出すのに何度か利用した公園に差し掛かったところで、携帯に着信が入った。
 誰? ああ、桐乃か。……あっ!
 わたしの携帯電話、ストラップが無くなってる。

「もしもし」
『あ、あやせ? あのバカちゃんと勉強してる?』
「うん。それはだいじょうぶだよ」

 それから一言二言、何気ないいつもの桐乃との会話を終えて、通話を切る。
 無理して桐乃に対して普通に振舞っていたわけじゃなく、本当にたいしたショックもわたしは感じてなかった。
 だって、どこにでも売っている普通のストラップだったから。
 でも、無くした場所、お兄さんのアパートかも知れないから一応メールしておこうかな。

『わたしの携帯のストラップ、部屋に忘れてませんか? いま例の公園にいます。』

 っと、送信。

 …………。
 し、しまった……、なんて文面で送ってるの……?
 公園にいる、なんて余計じゃない。
 これじゃストラップ届けろって呼び出してるみたいじゃない……。
 あったら保管しておいてくださいって言えばいいものを──

「あやせ、これか!?」

 ──って、早っ!

 あ……ありのまま今起こったことを話します。
 この公園からかなり離れたアパートにいるお兄さんが、いつのまにか目の前に立っていました。
 な……何を言っているのか分からないと思いますが、わたしも何を言っているのか分かりません……。

「な、ななな、なんでこんなに早く!? メールしてから一分も経ってませんよ!? はっ! わたしをこっそり尾行してひと気の無いところで襲うつもりだったんですね!?」

 わたしは完全にパニックに陥っていた。

「ちげーよ! 落ち着け!」
「落ち着いていられるわけないでしょう!? 通報しますよ!」
「誤解だ! とりあえずそのブザーのヒモから手を離してくれ! マジでお願い!」

 言いながら、お兄さんはその場で正座する。

 お兄さんの言い分によると、

 わたしがアパートから出て行ってしばらくした後で、見慣れないストラップを見つけた。
 おそらくわたしのものだろう、と思ったお兄さんは、コンビニに飲み物を買いに行くついでに家まで届けようとアパートを出た。
 ジュースにしようかお茶にしようかコーヒーにしようかなんて考えながらブラブラゆっくり歩いていた。
 わたしからのメールを着信した。
 ダッシュ。

 ということらしい。
 もちろん、全面的に信用は出来ないけど──

「じゃあ、そういう事にしておきます。でも、また同じような事があったら今度は本当に通報しますよ?」

 ……なんで余計な一言が出てしまうんだろう。
 ここは「ありがとうございます」っていうべき場面でしょ、本当に救いようの無いばか女だ。

 お兄さんはわたしの失礼すぎる言葉には何も言わず、ただ苦笑いを浮かべている。
 そんなお兄さんの顔を見ていると、混乱していた頭がなぜか不思議と静まってくる。
 そして、無意識のうちにわたしも笑みを浮かべていた。

「あれ? 急に笑い出してどうしたの? 俺の顔に何か付いてる?」
「いえ、ただ──」

 わたしとお兄さんって、本当に変で本当に奇妙な関係だなって自嘲しているだけです。

「ただ、なに?」
「なんでもありませんよー」

 結局最後にはお兄さんのペースにはまってしまうんだなと思いながら、今更だけどわたしは素直な言葉を口にした。

「わざわざ届けてくださってありがとうございます」
「い、いや、どういたしまして……」

 ……あれ? お礼言っただけなのになんでお兄さんは急に笑顔が引きつって冷や汗かいてるんだろう?


 本当に奇妙な関係だ。
 以前黒猫さんにお兄さんとの関係を問い立たされたとき返答に困ってしまったのも仕方ありませんね。
 だってこの変な関係、どう言葉に置き換えて説明したらいいんですか?

<了>
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