Air

266 : ◆36m41V4qpU [sage saga]:2012/12/31(月) 23:07:19.82 ID:AWayVSAp0


今日は12月24じゃなくて×31日


だからこれはちょうど一週間前の俺のクロニクルと言うことになる



               ***

"プロローグ"


例えば俺が子供の頃の話

クリスマスケーキとアイスケーキなら断然アイスケーキの方が食べやすいし
好きだとか
あの極道面の親父がサンタの格好してたのがクリスマスって言うよりコント
みたいだったとか
例の冷戦で疎遠だった時ですら、 桐乃はクリスマスは何となく楽しそうだったとか


またクリスマスが別の大きな意味を持つのはやっぱ思春期からであって

バレンタインデーとならんで、世の中の男共が一喜一憂するイベント
希望を頂いて期待した結果、別に何も起こらず
絶望して意気消沈するイベント

『俺たち別にキリスト教徒じゃねぇからwwwww
ってか本場の奴らは家族で過ごすもんだろ?
日本人なのに、 愚かな西洋被れのにわか乙wwww』
とうそぶいてみる奴とか

色々拗らせちゃった結果 どこぞの死ね死ね団に所属して、
クリスマスを滅ぼそうと画策してる奴とかもいる。


この俺はと言うと、 まともな彼女が居た時期なんて
夏場のキリギリスの命みたいに本当の短期間だったし、
その前はずっと、 クリスマスの天敵と思われる和菓子屋の
娘の幼馴染みとパーティーなんかをやってて
恋人と○○やりましたー的な思い出は正直ひとつもない。

あ、そういやひとつだけ思い出が有ったっけか
去年の今頃 妹とラブホテルに入っていたんだ
でも間違ってもあの時は、 ラブラブ in ラブホテルじゃなかったよな?


今年はそもそも俺は受験生なんだからクリスマスなんて関係ないんだ
――――――――――――なんてことも実は無かったりする。


今日、 出かける前にテレビで見た天気予報じゃ、
関東一円大荒れの模様なんて言ってたが電車の窓から見上げる空は、
俺の内心と一緒で馬鹿がつくほどのいい天気だった。

流石に真っ昼間だからネオンの灯なんてものは見えなかったけど
町中至る所、見渡す限り赤と緑と白のクリスマスカラーの仕様で彩られ
四方八方から催眠音波よろしく流れてくるクリスマスキャロル

『たまにもこういうのも悪くねぇな』なんて結局 思ってる俺。
こんなコトを考えちゃう俺はもちろん 浮かれちゃってるわけだ。


――――――――――本当は色々な意味で浮かれちゃダメなんだ。


でも結局、 俺の浮ついた気分は消えることがなく
自然と早足になった俺が約束の待ち合わせの場所に到着した時には
すでに"彼女"はそこに立っていた。

そして彼女を見た途端、 さっきまでの考えをすっかり忘れる俺


燃える(萌える)ような紅いコートに
雪のようにフワフワ透き通った袖口と襟の白いファーを纏い

コートの下から微かに覗かせるデニムのショーパンに
大胆に出した長い足の黒いストッキング 
足下には空でも飛べそうなコットンのショートブーツ

それはまるで絵本から飛び出てきた妖精のようで、
もちろん一㍉の文句もつけようがなく、 俺にとって(おそらく誰にとっても)
100%な美少女だった。

もちろん服装だけじゃない
本当は見慣れた筈の―――――――――
今日の服装によく馴染んだ均整の取れた身体と、
最近少し大人っぽくしたアッシュ入りの明るめのブラウンの髪と、
プロ顔負けなシックな化粧と
そんな完全武装の強襲型にも関わらず、
隊長機のアンテナみたいなトレードマークである
例のヘアピンはちゃんと装備されていた。

しかも何か すげぇ真っ赤だし……………今日は通常の三割増くらい
可愛い気がする。

ああ、 やっぱ俺の妹はこんなにも可愛いわけである


「よっ! 桐乃、 待った…………………か?
ちょっぉ―――――――――――――――じゃなかったあぁぁっ」

ってぇ何でおまえがあの場所にいるんだよ?!
あっヤベ こっちに気付いた。

―――――――――そもそも今日の俺の待ち合わせの相手は
妹では無かった。

今日の俺の妹は

『ちぇっ、、あたし、、クリスマスなのに仕事あるんだよねぇ。
それにさ、今日は、、ちょっと遅くなるかもしんないしさぁ。
あんたが、、もし暇なら迎えに来ることを許可してあげても良いケド?』

とか言ってたわけで

俺だって
『受験生には盆も正月もクリスマスもねぇんだよ』
とか言ってたわけで

会話の最後は妹の

『あっそ、、じゃぁさ ちゃんと家で勉強しときなよ?
真面目に頑張ってたら、、、、あたしがお土産買ってきてあげる』

で終わっていた。


妹の許可がなきゃ、 クリスマスに出かけちゃいけないわけじゃないが
(それだと奴隷だ)これはどう考えても相当にバツが悪い。
と言うか妹に嘘吐くのって何でこんなに罪悪感あるんだろう……………?
俺にとって永遠の謎である。

何とか隠れようとしたが、 真っ正面で仁王立ちしていた妹に見据えられてちゃ
もう全てが手遅れだった。

案の定、 俺は妹にメチャクチャ怖い顔で睨め付けられていた。

「あ、あのさ………………えっと、あの………………その」

桐乃は怒った表情の顔を ますます赤らめて、
最後には目にたくさんの涙を溜めてうつむいてしまった。

これはどう考えても相当ヤバイ
まさかこの日、この場所で、こんな形で
俺の究極奥義を披露することになるなんて思ってみなかったね 

はい――――――――でましたよ 必殺★クリスマス土下座 


周りに居たカップルや家族連れは何事かとこちらを眺めている。

おい! おまえら携帯広げて写メ撮ったり、 つぶやくんじゃねぇ!
み、見せ物じゃねぇんだぞ……………と内心思いつつ

しかし今はそんなコトを気にしてる場合ではないんだ

地面から見上げると桐乃は身体を前後に振るわさんばかり震えていて
何かに耐えた様な本当に苦しそうな声で俺に訊いてきた。

「わ、、あたしのコト・・・すき?」

「え?」

「・・・・き、きらいなの?」

俺らの周りの野次馬は、 この一連の流れの結末を
固唾を飲んで見守っていた。

「お、俺は………………」

「フ、、ぷっ・・・・・アハっハハハ」と突然堰を切ったように笑い出す妹

「ぇ?へ?」

桐乃以外の人間 
俺と俺を含めた周りの人間は頭に『?』マークを載せて一瞬固まった。

桐乃はそんな周りの空気などまるで気にする様子もなく
ゆっくり俺に近づくと腰を下ろして

「・・・・・行きましょう?」 と言った。

俺らは 円陣になっていた黒山の人だかりを突っ切ると
そのまま街中に紛れるまでただ、 ひたすらに全力走った。

お互いに全力で走ってるように感じるのに、
この俺でも妹の足取りに追い付けてるのは
かなり奇妙で不思議な感覚だった。

「………………おまえ足遅くなった?」

「・・・・いいえ、 ぜんぜん」



「俺はてっきり、 てっきり――――――――――ってっきり あやせ!?」

「ハァー・・・・やっとですか。まったく お兄さん ちょっと気付くの遅過ぎ」

「どっ、どうして!?」

「それは・・・・・わたしがデートのお誘いして、
お兄さんがOKしてくれて、 あの場所で待ち合わのお約束をしたからですよね?」

俺が言ってるのはそういう意味じゃないんだが


「あのさ……………質問して良いか?」 「はい どうぞ」 

「何、 その格好っ?」  「趣味・・・・です」

「あ~なるほど、 なるほど
桐乃のコスプレするのが あやせの趣味なんだなぁって
…………納得出来るかよ!」

「普段から わたしと桐乃でお揃いのお洋服買ったりだとか
時々 お互いに色々交換したりもしてるし・・・・・だから別に普通だと思います」

「だったらその髪は何だよ?」

そりゃそうだ
『黒髪の美少女』ってのが俺があやせを形容する時の言葉なんだ。
『茶髪の美少女』じゃ本当に、 あいつと区別が付かなくなっちまう。


「気になります?」 「気になる」 「本当に?」 「もちろん」

「これは・・・・」  「こ、これは……………?」

「あなたには教えたくないです」  「―――――っんだよっ、それ」


「どうしてそこまで、 わたしの髪の色が気になるンです?
あなたは――――お兄さんは、 別にわたしの彼・氏・で・も・な・い・・・のに」

「そう…………だったな」

何であやせはこんな格好してるんだろうな?

俺だってあやせの行動理由に確固たる確信を持ってるわけじゃない
何故なら思い当たる節が有りすぎて、逆に何が本当の原因かが
もう分からなくなっちまってるからだ。

それはヒントが多すぎて余計に答えが分からなくなって
解けなくなっちまってる 『なぞなぞ』 を出されてる気分に似てた。


単純に言っちまえば

俺はあやせに告白された。 

でも俺らは付き合ってない。

あやせのお願いで、俺らは最後にクリスマスにデートすることになった。

その場所へ桐乃みたいなあやせがやって来た。

つーことだが、 俺らがこの先どんな『↓』へ続くのかなんて検討もつかない。


「とにかく・・・今日のわたしの気分はこうなんですっ」

「そ、そうか」

「せっかくだから、 どっか誰かのシスコンさんの好みに
合わせてみちゃいました。
今日のわたしって・・・・・お兄さん的にはいかがです?」

俺は何と言って良いのか分からず黙ってしまった。
今日のあやせが特別可愛いのか? もしくは別の理由によるものなのか?
俺の好みって結局どういうものなのかって自分で分からなくなってた。


「ねぇ、 こういう質問された時って答えはもう決まってるって思いません?」


「俺はあやせならどんな服や髪型でも、 そんなのに関係なく可愛いと………思う」


「あーあ、 女の子のお洒落を全否定とか・・・・・
これからデートしようする男の風上にも置けませんねっ。
ってことで、 相変わらず全然ダメ・・・・だから0点」

でも大して怒った風もなくあやせが言った。

「ふむ」


「ねぇ・・・お兄さん、 お手々を出してください」

「手錠か?」

「っふ・・・もちろん用意してますけど どうします?」

あやせは、 おそらく今日の服装に合わせたであろう 
これまたサンタの袋の様な真っ白のバックから
金属特有のピカピカと光った物体を俺に見せた。


「あ、あるのかよっ! つーか、 それも俺に解答権があんのか?」


「もちろん そんなのある・・・・・と思ってます?
でも・・・・・今日はもう一度だけ特別にチャンスあげても良いですよ」


「では……………これで宜しかったですか? お嬢さん」


今までならこういう場合は

『刑事さん わたしがやりました』って両手を突き出すの一択だった

でもさ、 好きと言われた後で、 警察24時ごっごなんてやってたらコントだからな


「ふ、ふ~ん、 そうなんだ・・・これで本当に合ってるって思ってます?」 


「ああ、 もちろん」



「うん・・・・よろしい♪」

そう言った時の 俺の妹を格好した 妹の友達はやっぱり可愛かったよ。




一応、 俺は受験勉強で忙しい(と言いつつこんな時期にデートしてっけどな)
ってことで今日のデートコースはあやせにお任せだった。



「・・・・見える、 わたしにも敵が見える!」

「え? どこ どこ?」

「数は10 10時の方向  あの丘陵地帯  距離は150 右から左に移動
装備 AK 8 いや7 SVD 2 RPG 1
お兄さん! よそ見しないでちゃんと狙ってっ!!!」

「あ?はっはいぃ。あれ、弾が出ねぇぞ」

「リロード!」

「よっしゃっ! げっ………………や…………られた」


「甘く見てるからそうなる・・・・だから油断するなと言った
ここは自然の摂理だけ支配する世界 弱い者から死んでいくそれが戦場の唯一の掟」

って おまえは誰だよ………………


「ごめんね――――――そして、バイバイ
あなた達もわたしの前にさえ出てこなければ死なずに済んだのに」

あやせは芝居じみた台詞を呟きながら
的確なヘッドショットを連発していき、 どんどん脅威を排除していった。



「あ~マジで惜しかったな」

あやせに案内された最初のデートコースは意外にもアミューズメントパーク
の中のゲーセンだった。


俺らはそこで開催されていたクリスマス カップル限定のアーケード FPSゲーム

『二人で駆けめぐる 愛と勇気・戦場のクリスマス』

って相当に意味不明な組み合わせのイベント大会に参加していた


「俺が下手だから足ひっぱっちまったな。すまん」

あやせは獅子奮迅の活躍だったが、
カップル限定である以上ペアで戦うので最後は多勢に無勢、
それでも準優勝はしたのだから俺は素直に感心した。


「でもあやせがこんなにゲーム上手いなんて知らなかったぜ」

「驚きました? 実は黒猫さんが教えてくれたんです♪」

あ、だから一々所作が芝居じみててキャラぽかったわけだ。


「でも……………いつのまにか おまえら仲良くなってたんだな」

「色々誤解してしまったけど・・・わたし、 黒猫さんのこと好きですよ」

「そうか」

「・・・・・・はい。 わたしの大切なお友達です」

なんだか、それを聞いて俺も嬉しくなったよ。



準優勝の商品は俺らがやったFPSに登場してるマッチョな軍曹のフィギュアだった。
ひげ面の巨大なおっさんで半裸な上に 胸毛から腹毛まで繋がっていた。

「あやせ………………これ非売品のレアモノらしいけどいる?」

「・・・・い、いいえ」

ったくよ
こんなの誰が欲しがるんだよ、ってかクリスマスもカップルぜんぜん関係ねぇし
何の嫌がらせだ、コレ?

俺らが軍曹の扱いに困惑していた時、 後ろから声が聞こえてきた


「………………ちょっと や、辞めましょう」

「何を言ってるんですか、 せんぱい!
どうしてこのイベントに参加したのか分かってますかっ?
わたしが欲しかったのはアレキサンダー軍曹だったんですよ!
家に居るゴルードバーグ少佐だけじゃカップルが成立しないじゃないですか!」


あれ?
この声、この内容………………つーかこの腐臭はどこかで

「すいませーん、 あなた達って準優勝した人達ですよね?
もし良かったらなんですけどぉ………………優勝賞品と交換って出来ま
あっ あれ? あなたはセクハラ先輩じゃないですか?」

「だれがセクハラ先輩だ、 こら」

「あれ? 高坂先輩じゃないですか?お久しぶりです」

俺に話しかけてきたのは なんと赤城瀬菜と真壁くんだった。
そうか、 真壁くん…………………頑張ったんだな。

「よぉーす、 真壁くん―――――――」

俺は何だか嬉しくなって真壁くんの肩を抱くとヒソヒソ話をする要領で

「"――――――――でかしたぜっ、 おまえは大した男だよ
ついに瀬菜とデート出来たんだな! おめでとう
今度から真壁くんのコトを腐海を救った伝説の英雄と呼んで良いか?"」


「アハハ………………やめてくださいよ、僕 照れるじゃないですかぁ~」

でもまんざらでも無い様子の真壁くんだった。


「ちょっと、 真壁せんぱい! 高坂先輩とイチャイチャしたら部長が泣きますよ!」

ぜんぜん救えてませんでした


「高坂先輩もまさかクリスマスにデートですか?
うちのお兄ちゃんが泣きますよ。」

俺の方が泣きそうだよ


すると瀬菜はあやせに気付くと

「あっーひさしぶり」と言った。

し、しまった……………知り合いに遭遇する可能性考えてなかった。


「・・・・?」

声を出さずにニコニコしてる桐乃(あやせ)を不思議そうに見ている瀬菜
今度はあやせに、ヒソヒソ話の要領で言った。

「"こいつら桐乃の知り合いなんだ"」

あやせは、 『コホコホ』と大げさに咳をするとペコリと頭を下げた。
風邪で声が出ないってポーズなんだろう。

でも何故か次の瞬間、 あやせは俺の肩に身を寄せて
俺の腕に自分の手を回した。
そりゃ何のアピールなんだよ?!

………………あやせが何をしているのか まったく意味が分からん俺

「え?
あ゛――――――――桐乃ちょっと風邪気味で調子悪いんだ」



「そうなんだ。桐乃ちゃん……………お大事に」

真壁くんは若干引き気味だったが、瀬菜は多少の心配の感情以外は
別段何の感慨も抱いてない様子だった。


「確か…………な、何か用が有ったんだよな? おまえら」

「あ~忘れてた。
そうなんですよー 先輩達がゲットしたアレキサンダー軍曹とこのチケット
交換してくださいよぉー」

「でも、 高坂先輩達もアレキサンダー軍曹が欲しいかも知れないですから
無理を言ったらダメですよ、 瀬菜さん」

いや アレキサンダー軍曹はどう考えてもいらないんですけど


「で優勝賞品って何だったんだ?」


ババーン★

『カップルで過ごす 真夜中の戦場(の)メリークリスマス!
高級ホテル 夜景の美しいスイートルーム ご宿泊券』

な……………んだと


「いやでも、 高坂先輩ってアレキサンダー軍曹のファンでしたよね? ね?」

真壁くんの必死な説得、 あ~そういうことか
でもいくらなんでも腐海の女王様が一回デートしたくらいで
落ちるわけないけどな。
と言うか、 そんなことしたら赤城に ぶっ殺されるだろう
間違いなく


っつーても、 もちろん俺が使う予定も全くねぇんだけどさ


「――――――――――やった♪」

結局、 瀬菜に押し切られる形で物々交換をした俺。
別れ際に 真壁くんの恨めしそうな顔を見た時はちょっと悪い気がした。


「ちょっとそれ見せてください。
―――――――ふーん、素敵そうな場所・・・みたい」

あやせに引ったくられる様にチケットを渡した。




「と、ところで……………さっきのアレはちょっとビックリしたぜ」

「あ・・あれはですね・・・・・えっと作戦? ですから」


何の作戦?
って聞いても結局、秘密って言われちまった。

でもあんな事したって、 事情を知らない奴には
イチャイチャしてる兄妹の痛いガチカップルにしか見えないと思うんだが、
あやせの極秘作戦は俺にはしっかり隠匿されていた。



次に俺らはクレーンゲームコーナーに居た。

あやせはディープな深夜アニメキャラには全く興味がない様だが
メジャーなアニメの 『例のネズミ』や 『ビーグル犬』や 『魔女の黒ネコ(黒猫!)』の ぬいぐるみは好きらしく まぁ、そこら辺は普通の女の子って言うコトだな。

あやせは取らなくて良いと言ったのだが、 男なら格好いい所を見せたいと思うの
当然だよな?


………………いくらやっても と、取れない。
あーあ、情けないな俺って、 こういうのくらいスマートに出来たら良いのにな。

するとあやせは近くに居た男の店員に何事か話しかけた。
両手を合わせ 片目を閉じてウインクして 首を傾げ、ブラウンの髪を振るわせて
(息が詰まりそうなくらい)コケティッシュに笑った。
その姿があまりにも可愛くて店員だけじゃなくて、
見ていた俺まで赤くなってしまった。

店員はあやせの魅惑の魔法 チャームやらテンプテーションでもかけられた様に
クレーンゲームの中を開けると、 取りやすいように
落ちるか落ちないかの位置にぬいぐるみを置いてくれた(しかも3回ほど)。

あやせは例の白いバックにぬいぐるみを入れる。

そんなにバックは大きく無いのに、 その3匹のぬいぐるみはちゃんと
あやせのバックに収まった。

女の子のバックってどういう構造なんだろう?
女の子って色々と謎である


「お兄さん・・・ありがとございます♪」

「ほとんど、 あやせが自分で取った様なもんだけど…………な」

せっかくあやせが礼を言ってくれてるってのに……………
俺ときたら、 さっき店員へ笑いかけてるあやせに対して
変にモヤモヤって気がして素直に喜べずにぶっきらぼうに言った。


「まさか・・・・・・・・ゼンゼンですよぉ」

「そうか? 俺はやっぱ女の武器って強力だなって思うぜ」

「だから・・・・そんなことないですってばっ」


「でもさ―――――――」

「あのね―――――――お兄さん、知ってました?
今のあなたって、 まるで駄々こねてる子供みたいに見えるって・・・こと」

あやせはクスクス笑いながら言った。


「……………………………」

何となく俺の真意を言い当てられた気がして俺は黙ってしまった。



「・・・・・・こっち来て」

握ってる手を引っ張られて連れて行かれた先は

「……………プリクラ?」


そういや、本物の桐乃とデートした時もプリクラ撮ったっけ?
今日のあやせの見た目が見た目なだけに、 俺は強烈な既視感に
襲われる


「フレームは何にします?」

「……………………ああ」

さっきのコトを思い出して急に気恥ずかしくなって気の無い返事を返す。


「ハァー まったく、 あーんもうっ!
本当にお世話の焼きがいがある・・・・・・・・・・しょうのない人。
ほら これ―――――――だったら?」

「…へ?………え?!」

あやせはプリクラの仕切りの中で周りから隠れるようにして
さっき瀬菜達の前でやったように、否 もっと強く身体を密着させた。
 
そしてプリクラのカメラがある正面じゃなく、 俺の方に身体全体を向けると
俺の顔には自分の顔を、俺の目には瞳を、俺の感情には意識を
――――――パズルのピース同士がカチって音を立ててハマったみたいに重ねて
俺の記憶にその後ずっと焼き付くくらい魅惑的な表情で微笑んでみせた。

「……………ぁ、 あやせさん?」

「これで少しは機嫌直りました?」


「な、何でこんな………」


「だ・か・ら・ ・・・ご機嫌いかがです?って聞いてるンですけどぉ、 わたし」

あやせは俺の質問はスルーで更にたたみ掛けてくる

「もう…………(かなり)な、直った」


「彼氏でもないのに―――――――普段はフラフラしてる癖に
こういう時だけ、 すごく独占欲が強くて 嫉妬しちゃう本当にお子様・・・ですね。
困った僕(ぼく)ちゃんは、 少しは反省してます?」

「は、はい」

もう完全にガキ扱いされてる俺である


「お兄さんの大切な人が相手の場合は、 今のわたしみたいなコトに
ならないように・・・・・絶対にそうならないように――――――
お兄さんがその人のことを、ちゃんとしっかり掴まえててあげてください。
ねっ?
――――――こんな風につまらない嫉妬なんてしなくて良いように」

あやせの何かを諭すような台詞は、
さっきの表情とシンクロして俺の心に刺さった。


「お、おい………………プリクラは良いのか?」

あやせはそれだけ言い終わると、 振り向いて歩き出した。


「もし撮りたいなら、 また――――――」

「え? 何か言ったか?」

「――――――・・・・いいえ、 なにも。さぁ行きましょう」

手を引かれてる俺には、 前を歩いている あやせが
その時どんな表情だったか窺い知ることは出来なかった。



あやせに連れられて電車に乗り移動して 俺らは池袋にやってきた。


「こっちに何かあんのか?
つーか お兄ちゃん、 お腹が空いたよ…………あやせたん」

そろそろデートにも馴れた俺は、 段々楽しくなって
何となく親密な気持ちにもなって、 あやせにちょっとおどけてみせた。


「あと少しでお昼にしますから・・・良い子にしててくださいね。
あっ そう言えば―――――――」


「どうした?」

俺の右手を左手で引っ張って、 ついでに注意も引く
俺があやせを見た時、 あやせも下から見上げる格好で言った。


「―――さっき交換したチケットのホテルってこの近くにある・・・
みたい」

あやせは右手で例のチケットを、 俺の目の前でひらひらさせて言った。

「う、うん?!」


「な~んてね、 言ってみただけだよ・・・・お兄ちゃん♪」

「グハっ」

あやせに見事に一本取られた俺

あれ? あやせってこんな子だっけ?

冗談って分かっちゃいるが 今日の色々(俺得)な累積で何か
俺自身も変なスイッチが入りかけてないか自分で自分が心配になってきた。

今まであやせが可愛いってのはデフォルトの事実として頭の隅には有った。
でも『セクハラ』とか『通報』とか言われ続けて萎縮してたんだが
今日はその台詞をまったく一回も言われてない事によって、
俺のアレな気分は確実に助長し拍車をもかけさせていた。


俺らは大きなビルの開放されている中庭のベンチに座って
食事することにした。
もう真冬も良いところだが、 ポカポカ陽気の小春日和で幸い
それほど寒くなかった。
天気予報じゃ、 今日は大荒れとか言ってたのに
良い方に外れて良かったよ。

あやせは例のバックからランチパック、水筒、ぬいぐるみ3匹を
順番に出した。
俺は不思議な気分でその様子を眺めていた。

「あやせのバックって四次元ポケットみてぇだな」

「そ、そうですか?」

「だって沢山もの入ってるしさ。
相当に重いんだろ、それってさ? 他にどんなモノ入ってるんだ?」

俺は本当に無意識で(と言うか、 今日は何しても怒られない気がしてて油断して)
あやせのバックの口を広げて覗き込もうとした。

             ―――――ピッシャっ!

「あっ痛ッ」

「―――――な、何をやってるんですか、 あなたは!」


「いや……………あの」

あ、ヤバ 調子に乗りすぎてマジ怒りさせちまったのかも
せっかく良い雰囲気だったってのに、 ぶち壊すなんて間抜け過ぎんぞ、 俺

普通なら必殺 THE 土下座のところだが、 何だか今日だけは
―――今だけは
平身低頭で謝罪したり、 あやせに『ブチ殺す』と言わせるのは
どうしてもイヤだった。

「いい加減にしないと、 ぶち――――――」


俺はぬいぐるみの中で、 白黒のネズミのやつを取ると身振り手振りを交えて

ネズミ『――――――やぁ ぼく ミッ○ーだよ。』

「・・・え?」

ネズミ『あやせちゃん、 あんまり怒ると可愛いお顔が台無しだよ』


一種の賭け………否、 はっきり言って単なる悪ふざけである。
火に油を注いで、 油田火災からの大災害にならないとも限らなかった。

「・・・・・・・・」

あやせは思いっきり拳を振り上げた――――――や、やってもうった。
俺は目を瞑って歯を食いしばり衝撃に備えて―――――――たのだが


イヌ『お兄ちゃんが悪いんだよ。女の子の持ち物を勝手に見るなんて最低だよ』

あやせは振り上げた手を俺の頬じゃなく、 ビーグル犬の方に伸ばして
手に取ってから俺と同じように動かした。


ネズミ『………………お兄ちゃんも悪気は無かったんだよ、 きっと』

イヌ『でもバックが重そうって思うのに持ってもくれないんだワン』

ネズミ『………………そ、それは悪かったチュウ』


「ちょっとぉ、 ○ッキーの語尾が『チュウ』なんて・・・・絶対におかしいです!」

「俺だってさ、 このネズミ野郎がどうやって話すのなんか知らねぇんだよ!
いや、それ言うならさ………ス○ーピだってワンって語尾じゃねぇだろう、
確実に!」


一瞬顔を見合わせて あやせに背中を叩かれた

             ―――――パッしっ!

「ぷっ!――――――――ッアハハハ」 

あやせは俺の背中に背中を合わせて、肩を振るわせて



                 「………………………」

      ああ、そっか  こいつって やっぱ笑ってたほうが―――何倍も



「どうかしましたか? ちょっと顔が赤いみたい」

「………………な、何でもねぇから。
せっかくあやせが作ってきてくれたんだ。食べようぜ! いただきますー」

俺は誤魔化すように、 あやせの作ってきてくれたおにぎりを口に入れた。
これはあやせが世話を焼いて作ってくれた時に作ってくれた
あの料理の味だ。
俺は懐かしい気持ちになりながら舌鼓をうった。

考えてみれば、 俺はあやせの世話になりっぱなしだった。

お袋に理不尽な理由でいきなり追い出されてアパートで暮らした時も、
身の回りの世話から 今食べてるみたいな美味しい料理まで
至れり尽くせりで、 そのお陰で、
あの大切な時期に何とか勉強に集中する事が出来て、
路頭に迷わずに済みそうなんだ。
(もちろん、 他のみんなにも感謝してもしきれない)


「これ美味しいな。――――――ってあやせ、 どうした?」

何故か、 あやせはビルに囲まれた周りの狭い空を遠いを目をしながら
眺めていた。


「そう言えば―――――わたし 昔はこんな風に 一人でよく人形遊びしてた
のを思い出して」

あやせはさっきのイヌを抱き締めながら言った。


そういや、 桐乃が今よりずっと小さい時は人形遊び とかままごと
とかに付き合ってやったことも有ったっけな………………。

『あたし、 将来 ぜったいにお兄ちゃんのお嫁さんになるもん』

みたいな萌アニメのテンプレな台詞だって聞いたことが有った気がする


「その当時はお父さんもお母さんも忙しくって、
わたしも人見知りだったからあんまりお友達も出来なくて―――」

「なんか少し意外だな」

「そう?」

「うん」

俺は肯く
俺の中のあやせのイメージは優等生で
クラス委員的な美少女だったからだ。

「・・・・・お兄さん、 筧さんって覚えてますか?」

「あやせのスト(ーカー)じゃなくて、 ファンだったよな」

「見てください」

そう言うと、あやせは携帯を俺に見せた。
そこには仲の良い姉妹のような表情のあやせと沙也佳ちゃんが笑顔で写っていた。

「あの後、 何度か会ってお話をして
・・・ちゃんと仲直りすることが出来ました」

「そっか…………本当に良かったな」

俺も階段から落とされたり、スネを蹴られた甲斐が有ったよ。


「わたしって――――――この前の時はすっかり忘れちゃっていたけど
小学校の卒業文集では、 保母さんになりたいって書いてたんですよ」

「いが………いや、何でもない」

「意外ですよね・・・ふふ、 確かに自分でもそう思います。
でも自分が一人っ子で淋しかった分、
あの頃のわたしは小さな子に優しくしたり親切にしたいって
思ってたのかも知れませんね」


「そっか………あやせは小学生の時からちゃんと考えていたんだな。
俺なんか小学校の時は『世界皇帝になる!』とか言ってたぜ」

死にも至りそうな勢いの若気の至りである


「世界皇帝・・・・なれると良いですね♪」

「……………いや、い、今は流石に思ってないから」

本当だよ?


「わたしも今はもう・・・思ってないですよ」

確かに…………小さい時の夢と今の夢が違うなんてよくあることだ。
俺の妹だって陸上から目標を変えて 今はモデルを一生懸命に頑張っている。

黒猫や麻奈実もちゃんとした夢があるみたいだ。

考えてみたら俺の周りの人々は、 これって結構 凄い奴らって
言えないだろうか?
俺なんか今は受験のことで精一杯で、アワワってなってるもんな。
そして何にも増して、 こいつらに俺は世話になりっぱなしなわけだ。

でもさ

そんな俺でも、 こいつらが夢を叶えたり、 望む道を進んで行けるように

――――――――ずっと応援してやりたいって思うのは
――――それが俺の一生の夢だって心の中で勝手に決心してるのは

世界皇帝の夢は諦めて 自分の受験勉強で凹んだりする残念な俺だけど
こんな俺にしちゃ 結構悪くねぇな って最近思うようになったんだ。


「まぁそうだよな、今のあやせは
泣く子も黙る超A級美少女モデルだからな。
でもさ――――」

「?」

「―――――案外、 似合ってるんじゃねぇの?
幼稚園とか保育園のあやせ先生」

「♪」

俺が正直に思ったことをあやせに言った時、
あやせは…………ただ微笑むだけで、 結局何も言わなかった。


「あやせさ…………―――!」

俺があやせに何事か言いかけた時にメール。
妹からだった。
添付されている写メには、 ここからそう遠くない場所にある会場で
煌びやかな衣装を纏った俺の妹のバッチリな絶品ショット。

俺はついメール と目の前にいるあやせ を何度か交互に見比べたりした。
そして着信 当然、桐乃からだった。

『写メ見た?』

「ああ…………見た」

『感想、、聞いてあげるから言ってみぃ』

「へ?」

『感想早く言えっての』

「……………か、可愛いんじゃねぇの」

『、、、、そんなの知ってるしぃ♪』

でも何故かご機嫌な様子の桐乃
あやせとも目が有ったが普通に、 口元を押さえてくすくすと笑っていた。


「最近忙しいみたいだし、 身体に気を付けて無理はしないで頑張れよな」

『うん、、年末のはすごい大きいイベントでさ。
人も全然足りないみたい。
しょうがないからあたしが無双してんの、 だからアンタもさ―――――――』

桐乃はここ何日か朝早くに出かけて、 門限ギリギリに帰ってきていた。
モデルの仕事を頑張ると決めた桐乃の面目躍如って所だろう。
 
またあやせと目が合う
あれ…………何かすごく大事な事を忘れてないか、 俺?


『――――――――でね、、聞いてんの?』

「聞いてる、聞いてる」

『そか、、あんたも勉強頑張ってるんだ、、、うん』


ごめんな、桐乃 実はサボってる。
でも俺は桐乃に対して嘘を吐いている罪悪感は有っても、
あやせの為に"最後に"時間を作ってやることに対しては
一㍉の後悔もなかった。


桐乃との電話を切った後、 俺はまたあやせを見た

ってか俺が嘘を吐いてる以上は、
あやせのこの行動も桐乃には秘密なのだろう。
別にあいつが俺の彼女で、 浮気してるってわけじゃないのに
急にドキドキしてきちまった。

でもさ、 このドキドキも もう少しで終わりなんだ。
今日だけの話じゃない、 もう二度とあやせとこんな風に過ごすことは無い。

今日だけが特別、 俺たちは賞味期限が一日だけの恋人みたいなもの。

残り少ない時間が――――そう考えれば考えるほどに
余計にその時間そのものを俺にとって愛しいものに感じさせていた。



でも同時に俺は訝しくもを感じる―――――――――

「桐乃は何て言ってました?」

「大きなイベントで頑張ってるらしい」

「そっか・・・・うん。やっぱり桐乃は凄いですね」


―――――――俺はこいつの"今の夢"をちゃんと応援出来てるのかな?
ってさ



「あやせは忙しく――――っつーか じ、時間は大丈夫なのか?」

「あっ―――――――なんですゥ?
桐乃とお話したから、もうお家に帰りたくなっちゃったんですねっ?」


「ち、ちげぇ…………そういう意味じゃなくてだな」

「そんなに心配しなくても・・・・きっと、 すぐに会えますよ」


「へ?」

そりゃ、今日帰ったら会えるだろうけどさ


「それにしても、 ちょっと肌寒くなってきましたね」

「そうだな」

確かにさっきまで雲一つ無かった空は、
いつのまにか冬特有の重くて分厚い雲が
これまた冬特有の弱々しい太陽の光を幾分遮り始めていた。


そして あやせは後片づけをして立ち上がったのにも関わらず
俺を見つめたまま微動だにしない。

「………………あやせ?」

ぬいぐるみ「・・・・・・」

バックのわずかな隙間から 例のヤツらが顔出していて、
つぶらな目でこちらを見ていた。

ぬいぐるみってよく見ると ちょっと怖いんだよ


「あやせ、 俺がバック持つぜ―――っ」

お、重っ。
何が入ってるんだ、これ?


そして俺がバックを持ったにもかかわらず、 首を傾げて佇んだままで
あやせは歩きだそうとしなかった。

「どうした?」


あやせは両手で水を掬うみたいな形を作ると、
自分の白くなった息を吐きかけて
俺を ジィー(音が出てそうなくらい)と見た。

「うん?」


イヌ「・・・・きっと、 あやせちゃんは寒いんじゃないか?ワン」

(追加攻撃/小声で)『本当に鈍くて救いがたいヤツだワン』


ネコ「この人・・・デートしてるのにすぐ帰りたがるし最低だニャン」

(追加攻撃/小声で)『デリカシーがないヤツは死ねばイイニャン』


ネズミ「まったくぅ・・・・これだからシスコンの童てっぅう゛――――――」



「――――――だぁぁ……………よし行くぜ!!!!」


色々な意味でこの状況に恐怖した俺は、
これ以上の追加攻撃を避けるべく
あやせから『セクハラ』とか言われることなど
もはやまったく意に介さずに
あやせを自分で両手でガッシリ抱くとそのまま歩きだした。


「…………………………」

半ば予想していたことだが、 あやせに正義の鉄槌を下されたりはしなかった。


「・・・・・暖かい(ワン)」

実は―――――――色々な意味で俺の方が熱くなってたのは内緒な



暫く歩いていて、 ビルの大きな吹き抜けになっている屋内へ

周りはカップルで溢れてるとは言っても、
彼女を挟み込んで抱きつきながら歩いてる痛い奴なんて
流石に誰一人居なかった。

「も、もう・・・・大丈夫」

「お、おう。 それで次は何処に行くんだ?」

抱きつくのを辞めて、 自然にあやせと手を繋ぎ直しながら俺は訊いた。


「・・・・・一緒にお星様を見に行きしょう♪」


俺たちが進んだ先に有ったのはプラネタリウム

そっか、 デートって普通はこういう場所に行くもんなんだ。
俺の中のデータベースにそういうクエリ(発想)は皆無だった。

デートって言葉を思い浮かべて "あいつ"とこんな場所に来たら
どうなるのかな?
なんて妄想するのは、今日のあやせ相手じゃやっぱ失礼かも知れない。


当然、 男と女 男と女 男と女 男女♪って歌えるくらいの規則的な並び
カップルじゃなきゃ入場資格なぞ無いとばかりの構成の集団の中で
暫く並ばされる。

ふと見た時 男女 男★! 男女
野郎がポツンと立っていた

ってか、 ちょぉwwww あれ部長じゃねぇーかっ!

そう言えば、受験どころか卒業が危うくて
『高坂よ、 もう一度 俺と一緒にハイスクールライフを
満喫してみる気はないか?』とか言ってたな


その原因も
ようやく出来た彼女(沙織)と遊びまくったのが原因らしく

『兄弟よ、 ALL I need is Love(愛こそすべてだ) 
俺はクリスマスに世界の中心でアイを叫ぶつもりだからな!
ついでに夜はビースト・モードになるのだ!フハッハッハッ』とか言ってたし

でもアレじゃ世界の中心で"哀"を叫んでる、 まるで"哀戦士"じゃねぇか

多分、沙織と喧嘩でもしたんだろう
沙織もああみえて、 意外に強情な所があるからな


本当ならこんな厄介には首を突っ込んでる場合じゃないんだが
それでもいつもの癖で俺は部長に沙織との首尾をメールして聞いてみた。

返信メール
――――――――――――――――――――――――――
件名 兄弟よ マヤの予言を知っているか?(死)

本文
クリスマスなぞ、 俺が滅ぼす(呪)
明日のニュースを楽しみにしておくことだ (髑髏マーク)
――――――――――――――――――――――――――

ってか部長、テロでも起こさんばかりの形相じゃねぇか!?
しょうがなく、俺は沙織に電話してみる

挨拶もそこそこに 部長の名前を出したら、速攻で切られちまった。

沙織のあまりの拒絶ぶりに
まさかと思うが部長がストーカーとかにでもなってるのかと危惧して、
その旨をメールで聞いたら『そうではござらぬ』から『ですの』で締められた返信。
そっか、やっぱ要するに単なる痴話喧嘩ってわけだ。


興味深そうに俺の無謀な努力を眺めていたあやせは

「まったく・・・お兄さんって本当にお節介な人」

「自分でもそう思う」

「でも・・・お兄さんに色恋の問題なんてどう考えても荷が重いようですね」

「自分でもかなり…………そう思う」

そりゃそうだ
俺なんか他人どころか 自分自身のコトだってちゃんと出来ないんだからさ。


あやせは つかつか と部長の前まで俺と二人で歩いて行くと

「あなたに大切なお話があります」

「ど、どちら様ですか?
あっ! 兄弟じゃないか!
し、しかも兄妹そろってクリスマスデートとは、 この俺を笑いにでも来たのか!」

兄弟と兄妹で韻を踏みつつ、 その内容は被害妄想に溢れた素敵な台詞の部長である。
そして…………ここでもぱっと見で桐乃と思われているあやせ。

「ちょっと落ちつこうぜ、 なっ 部長」


「良いか 高坂よ、 よく聞くんだ!
リアルの女なんて苦労するだけだぞ。

整合性のある選択肢が出るわけでもない。
分かり易いフラグがあるわけでもない。

そのくせ、 オチのない無い話を延々聞かされたあげく、
こちらが善意で一生懸命に考えた内容をアドバイスでもしようものなら、
そんな意見は必要無い、 だだ自分の話を聞いてくれたら良い、
あなたの意見なぞ聞きたくはない―――――とくるんだ。

あれならゲームの方がよっぽどインタラクティブだぞ、
冗談抜きでそうなんだ。
だから敢えて言おう、
リアル恋愛など不毛なカスゲーをやってるようなモンである
と」

「そ、そんなことねぇと思う………………けど」

俺は意外に思った。
俺の知ってる沙織はどっからどう見てもエンターテイナーのそれで
"普通"の女の子みたいな我が侭な部分がどうしても上手く想像出来なかったからだ。


        ――――――――パチンっ!


「「え?」」

殴られた部長も それを見ていた俺も状況が飲み込めずに
間抜けな声が漏れる。


「あっ―――――(やせ)、おまえ何やってんだよっ!!!」


「説明………あるんだろうな?
年下の女だから手こそ出さなかったが、 兄弟と違って俺は叩かれて喜ぶMでもなければ
笑って済ますほど人間も出来ちゃいない」

部長がメチャクチャ キレてるのが分かる。
そりゃそうだ、知り合いの(一応ここでは)妹とは言えほぼ初対面の女に
いきなり理不尽に殴られたら、 俺だってMじゃねぇから普通怒るよ。


    『わ・た・し・は・こ・の・人・が・好・きぃい! ! ! !』


その声はきっと、俺が桐乃とあやせを仲直りさせようとして芝居した時の声
――――――"あの時の声"よりも、 ずっと大きかった。



「……………え? マジで?」

部長はさっきの勢いは何処にやら完全に戦意を失っていた。
俺だって息をするのも忘れて茫然とあやせを見ていた。

もちろんそれは俺らだけじゃない、
クリスマスに素敵なプラネタリウムデートをしようとしていた
無関係の善良なカップルのみなさんもドン引きである。


あやせの周りで 静寂で、清浄で、神聖な空間が
いつのまにか展開されていた。


               『わたし達は・・・・誰にも祝福されない』


あやせは さきほどとは うって変わって
とても静かに優しい声で言った―――――――――――――


            ・・・・・でもあなた達は違うでしょう?


お互いに好き同士で、 みんなに祝福されてるなら何の問題があるの?

あなたは知ってますか?
本物の神様は、 あなたが思ってるほど優しくも無ければ 慈悲深くもないってこと


でも今はすごく――――――す・ご・く・幸運なことに

あなたの愛する人は、 あなたの大切な友達が 好きな人 なわけではない。

あなたの愛する人は、 あなたが尊敬してやまない人が 好きな人 なわけでもない。

あなたの愛する人は、 あなたが自分自身よりも大切と思う人が 好きな人
なわけじゃない。


自分の心の中だけが敵なら・・・・そんな下らない心 ぶっ飛ばして、ぶち殺して、
ちゃんとその人を掴まえて、 今のその好きって気持ちを大切にして


残酷で、 きまぐれな神様が、 そんな神様が あなたに与えてくれた 奇蹟が

絶対に 壊れないように
絶対に 無くしてしてしまわないように
絶対に 消えてしまわないように
絶対に 失わないように

―――――――――――――と


「ね、わかりましたか?」

あやせは、 優しく母親が子供を諭すように言った。


「………………う、うん………………う゛ぅうん」

部長は奇蹟を体験した人が、 神様の御使いの天使の前で跪くように泣き崩れていた。


「だったら・・・・・・・さぁ 早くお行きなさい」

「うぉぉ――――――――――」

泣きながら、 明日へ走り出す部長

         ―――――パチッパチッパチッパチ!

まわりから拍手喝采されている俺たち


「おまえさ………………」

「何です?」

「い、いや………………何でもねぇよ
――――――――――――うぉっとぉ ビックリした!」

俺が何と言って良いか分からなくなっていた所
号泣しながらの部長が戻ってきた。


「高坂 貴様に良いモノをくれてやろう! 妹殿を大切にしておけよ
では御免」

と言って部長は全速力で、 視界から明後日の方向へ消えた。

これはまた完全に……………誤解されちまったな。
でも全然悪い気分じゃなかった つーか、 悪いどころの話ではない。
色々なコトが起きってけど、 俺はこのクリスマスデートを結構満喫してるよ。


「今日のお兄さんとわたしって、 何だか色々なアイテムを
ゲットする日みたい♪」

確かに、 さっきの赤城瀬菜と真壁くんとは わらしべ長者的に
どう考えても いらん『アレキサンダー軍曹』と、
どう考えても使い道がない『ホテル宿泊券』を交換した。

今回のは、 あの部長だからロクでもない可能性もあるが、 何の変哲もない小さな包み。
俺は 取り合えず爆弾解体でもやってるつもりで、用心しながらその包みを開いた。


ババーン★

『恋人達に永遠の愛を ペアリング 引換券』

な……………んだと
って他人のペアリングなんか要るわけねぇだろ、 部長の野郎 トチ狂ってやがるっ!


さっそく、 部長に抗議のメールをすると――――――――――――

ペアリングは御鏡(御鏡がゲーム部に訪ねた以来の懇意の仲らしい)
に頼み込んだ友情価格なので、 その辺 心配ご無用とのこと

部長はアホなので、 ペアリング(まさか ペアの意味を理解していなかった)
を一組じゃなく、 二組頼んだので(御鏡もさぞ困惑したことだろう)
沙織へのクリスマスプレゼントについても 懸念ご無用とのこと 
 
リング自体は真っ新の状態なので、
奇文、珍文、猥文、呪文、ヒエログラフ、ルーン文字、ポエムetc etcを
このビルの内にある受け取りの店で、 自由に刻印すれば良いとのこと 

可愛い妹と宜しくやれとのこと  (`・ω・´)キリ


兄弟よ、 ALL I need is Love(愛こそすべてだ)とのこと (`・ω・´)b


敬具(クリスマスのツリーっぽい記号) 

―――――――――――――だった。

「どうするよ?これ」

「ねぇ、 お兄さん・・・桐乃に何かプレゼント用意してます?」

俺は『みんな! オラに元気を分けてくれ』って言うポーズから
ラジオ体操みたいに両手を思いっきり横に広げつつ
首を絶妙に、 斜め四十五度に捻った


「あの人って意外に、 ちゃんと女の子が欲しいものを理解してるみたい。
クリスマスデートするのに手ぶらの誰かさんなんかよりも、 ずぅーと」

「………………」

どうやら俺の男子力って、 あの部長未満らしいですよ?


「桐乃にちゃんとしたクリスマスプレゼントが用意出来て
良かったじゃないですか?
――――――きっと喜びますよ、 女の子だったら誰でも」


誰でも………………か


「…………なぁ プラネタリウムが始まるまでに 後 どれくらい並ぶんだ?」

「まだ、30分くらいはあると思いますけど・・・・」


あやせはなるべく良い席で見たいらしく、 俺らは最前列の前から2番目に
ならんでいた。
そしてさっきの部長と遭遇したってわけだ。


「ちょっと、トイレ行ってくるっ!」


―――――――――俺は必死で走った


「ぜぇぜぇぜぇ…………勉強ばっかしてるから完全に運動不足だな、
こりゃ」


「何処までおトイレ行ってたんです?」


「はい、これっ!」

俺はあやせに、 御鏡製のペアリングの片割れを渡した。

そのリングは 俺が考えるアクセサリの漠然としたイメージと違って
パッと見はシンプルそのものな形なのだが、 よく目を凝らしてみると
細かい細工が、 至る所細部にまで施されていた。

実際に買おうと思ったら洒落にならないくらい高いらしい。
御鏡って本当に良いヤツなんだなとしみじみ思う俺だった。


「あーペアリング取りに行ってたんですね
・・・・後で、 ゆっくりでも良かったのに。
『K・K』、 うんとっても素敵」


「あ、 それ俺のだ―――――あやせのはこっち な、 ほい」

俺は『A・A』と刻印されたリングをあやせに渡す


「・・・・え?」

「だ、だってさ………イニシャルだと『あやせ・新垣』だろ?
普通に『新垣・あやせ』でも一緒で、 ってそれは俺も同じなんだけどさ」


「・・・・・・・」


「これはイニシャルだけじゃなくて、 実は俺的なダブル・ミーニングで
『あやせたん・Angel』(キリッ) これってどうよ?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・ナンデ」


「……………もしかして気に入らなかった?」


「わ、わたし―――――ってスカスカじゃないですか これ!」


「そりゃ、 部長が沙織専用に作ってるからそうなるわな」

男子用のは部長サイズだから俺もほぼピッタリなのだが
女子用はあやせにはどう考えても装備不可 規格外の大きさだった。


「あーあ・・・やっぱり結果
すごくお兄さんらしいプレゼントですね、これって」

あやせに苦笑される俺。
確かに これだといつもの勝手知ったる残念でアレな俺で終わっていたかも知れない。
しかし、 今日の俺は ちょっぴりだけ違ってたりする
(聖なる夜の奇蹟的な意味で)。

「まぁまぁ そう言わないで ちょっと貸してみぃ
 …………………………これをこうして、こうしたら。
はい、 あやせ―――――」

下着やら、ぬいぐるみやら、アクセサリやら、アクセサリやら色々
色々な女の子に色々なモノを送ってきた俺だけど
そいつらの人生相談にものってきた俺だけど
それは全部、 相手に喜んで欲しくて、 笑顔になって欲しくてやってきたことだった。

そして今の俺は、 どうしてもあやせに喜んで欲しいと思っていたんだ。


「―――――え? キャァー-ー な、何をするんです?!
お兄さんっ ひ、人前ですよ・・・待ってっ みんな見てるからっ ダメェだからっ!」


「―――痛てて。 あやせたん、 ハッピー メリー★クリスマスつーことで」

俺はあやせに抱きついて(流石に今回は衆人監視の下だったから
結構殴られましたよ)、
あやせの首筋に手を回すと、 ネックレスに通したリングを着けてやった。

「これって・・・?」

「さっきのぬいぐるみ件も このペアリングも――これは部長の好意だけど
俺自身は、 結局 今日あやせの為に何もしてやれなかったからさ。
だから、せめてチェーンくらいは 俺が買ってプレゼントしたいって
思ったんだ。ペンダントにしたら リングの大きさも関係ないだろ?」


ペアリングの主な素材らしいパラジウム(レアメタル/貴金属)ってのは
単なる(しがない)受験生である俺には全然買えず

タングステン(レアメタル/何とか語で重い石って意味)のチェーンを
急遽 間に合わせで買った。

俺にしちゃ、 なかなか悪くないアイデアだと思うんだが…………
どうだろう?


「お兄さん・・・・」


「"ペアリング"ならぬ、 "ペア?のリングとリング・ネックレス"になっちまったけど、
どうかな?」

「わたし・・・・お化粧直してきます」

あやせは顔は下に向けると、 そのまま いそいそと歩いていった。
喜んでくれるって期待してたのに……………ちぇ ダメだったか。


暫く経って、 そろそろプラネタリウムが開演しそうなのにもかかわらず
あやせはなかなか戻ってこなかった。
俺は心配になってメールしようと思っていたところ


「ハァハァハア・・・・・・」

美少女が息を切らせて走ってきた。

「あやせ………随分遅かったけど、 大(だい)――――痛って。
おまえ、 何すんだよっ!?」

「お兄さんの馬鹿 バカっ! もうっせっかくの気分が台無しじゃないですか!
女の子に 何てことを聞いてるンですかっ!?
この変態ッ! へんたいっ!ドォ へ・ん・た・いッ!」

「意味分かんねぇよ! 『大丈夫だった?』 って言おうとしただけだろ?」

そもそも気分って何だよ?って話だが


「?――――っ!」

「え? なになに?」


「だ、大丈夫じゃないですっ・・・・・」

「お、おい……………あやせ? 人前だぜ、 良いのかよ?」

つーか、"人前"じゃなきゃ俺とあやせは抱きつく仲ってわけでも無かったよな?多分
今日、 散々抱きつき 抱きつかれて…………段々感覚が麻痺してきていた。

「指輪・・・・・してないんですね?」

「ああ………そうだな」

考えてみたら俺がアクセサリなんてどう考えても柄じゃないし
装備したら追加アビリティーが無いどころか、 逆に能力値まで下がりそうな気がする。


「あーあ、 お兄さんがどうせ身に着け無いンだったら
わたしは 桐乃とお揃いの方が嬉しかったのになぁ・・・・・・このリング」

あやせはペンダントヘッドのようになったリングを触りながら言った。

「そう…………そっか、 そうだよな ハハハ」

そりゃそうだ、 あやせは桐乃の格好で出掛けるくらいに桐乃好きだもんな。
確かにイニシャルが『K・K』なら桐乃にプレゼントしても良いわけか



      いいや 違う―――――――そうじゃねぇだろ 俺



今のあやせの言葉の内容をそのまま100パー真に受けて
曲がりなりにも『好き』って告白されたコト 抱きつかれた今の状況を
コロっと忘れるとか
―――――俺って『本当に鈍くて救いがたいヤツだワン』だぜ。


「桐乃には 何か別のモン買おうかって思ってるから、
これは………………このままで良いんじゃねぇの?」

「だ、 だったら、 これは本当に お兄さんとわたしのペアリングってことで
本当に良いンです・・・ね?」

「もちろん」


「うん・・・・・・・そっか、
ねぇ だったら、 これからはちゃんと身に着けててください」

あやせはそう言うとニッコリ笑って、 自分がしていた『あやせたん・Angel』
のペンダントを首から外して、 何故か俺が買ったタングステンのチェーンも
同時にリングから外して抜いた。

そしてポケットから真新しい高そうな別のチェーンを
リングに通してペンダント型にすると俺に身に着けさせた。


「へ? おまえ、一体何を………………」

「ほら、 次はあなたのリングをかして」

「あ、うん」

「・・・・・これをこうして、こうしたら。
――――――――はい、 お兄さん」

あやせは、 もう一方の『K・K』と刻印された方のリングに
さっき外した(俺が買った)タングステンのチェーンを通して
ペンダントにする。

そのリングをあやせから渡された俺は――――――――――
あやせが一体全体何をしたいのかさっぱり分からなかったが、
一連の流れから想像して俺はその『K・K』のリング・ペンダントを
あやせの首にかけてやった。

「このリングに刻印されている『K・K』は・・・・・・・・
桐乃じゃなくて、 お兄さんのイニシャル『京介・高坂』ですよね?
わたしの言ってるコト、 ちゃんと合ってます?

「お、おう。 それで正解」

「そしてあなたの首にあるのは―――――」

「『あやせ・新垣』(あやせたん、天使 マジで)だよな?」


「お兄さん、 ご存知でしたか?
ペアリングって、 相手の名前を刻印した物を自分が身に着けるって・・こと」

「…………………え?え゛ぇぇ?」

自分用のペアリングの刻印って自分の名前じゃないのかよ!?
……………あっ 考えてみれば、 そりゃそうだ。
もし自分の持ち物に自分の名前を刻印するんだったら、
それは小学生が自分の玩具に名前をマジックで書いてるのと
変わんねぇもんな

俺って全く部長のこと笑えない
しかも間抜けにも女子用のリングに自分の名前を刻印してるとか
しかも沙織(の指のサイズ)のお陰で、 大きさ的にはむしろ男子用で
合ってるってまったく、 変な気分だぜ。


「お兄さんのプレゼント・・・・・わたし すごく大切にします」

俺がさっきからずっと待ち望んでいた、あやせの喜んでる顔
…………やっと見れたよ。
それはもちろん嬉しかったけど、 何か色々な意味で複雑な
気分でもあった。

「あやせがペンダントにしたこのチェーンって………………」

まさかの"パラジウム素材"である。

「はい、 わたしのプレゼントです♪」

「あやせの気持ちは、すげぇ有り難いんだが…………なんつーか」

俺の男のプライド的なアレである。


「どうしても、 わたしのプレゼントがそんなに気になるンだったら、
来年のクリスマスには、 同じモノ
その次の年には、 プラチナ
その次の年は、 純金のチェーンを改めてプレゼントしてください」

「あやせさん…………ま、マジですか?」

「ふふ・・・・冗談ですよ、 冗談♪」



その時、 俺がふと想像したことは――――――――――

もし あやせに(冗談じゃなく)本気でおねだりされたら、
俺は一体どうするんだろう?

――――――――――ってことだった。



抱きつき状態がデフォルトなった俺らはやっと、 プラネタリウムの中に通された。

その時、
俺らより前に並んでいた最前列の感じの良さそうな初老の夫婦の人達が
俺らの身の上(さっきのあやせの演説と俺らのやり取り)を観察してて

『いや………若いって良いですね。君たち頑張ってください』と言って

握手を求められ 最前列を譲ってくれた。


「ここ・・・座りましょうっ!」

「お、おう」

俺らが座った席は入り口から一番遠い奥の隅っこで何故か
他のシートは横並びで青いのに、 俺らの席だけが赤くて2席だけ独立していた。

なんつー The カップルシートなんだ、これ………………。

しかしクリスマスのプラネタリウム 、ビックリっすよ。
満天の星空そっちのけで、 目の前のカップルはイチャイチャ
抱擁し始めてるし

「あ、あやせ…………何かすごいな、ここ」

「お兄さん、 綺麗ですねぇ・・・・ねっ♪」

「確かに、 綺麗な子だとは思うが――――」

「―――――ふふ、 お兄さんが綺麗なキラキラお星様になっちゃいますぅ?」

あっ、 北斗七星の隣に見えるあの星は…………死兆星!


「すんません、 軽い冗談のつもりだったんです。
だから………………どうか命だけは」

「って言うか・・・・と、隣に居る子は可愛くないンですかァ?」

「隣の可愛い子ってよく見えないじゃん」

俺らの真っ正面の真ん前でチュッチュしてるカップルの
隣の子は位置的に暗くて見えなかった。

「あー確かに、 ここからは死角になって見えません――――って正気ですかっ?!」

「うほえす、 じぉふうじゃんでふ はよせはぁまぅ
(嘘です、 冗談です。 あやせさま)――――痛てて」

思いっきし両方の頬を抓られ引っ張られちまった。

「良いですか、 お兄さんっ!
まず第一に、 デート中に他の女の子を見てるなんて
万死に値するってコト、 ちゃんと肝に銘じておくようにっ!」

「は、はい」

「大体、 お兄さんは色々気が多くて色々目移りするし 浮気性のエッチで――――」

「悪かった、悪かった。
つーかさ、 どう考えても…………今、 俺の隣・に・座・って・る・子・が
今日 俺が会ったり見た中で断トツに可愛かったぜ」


「ふぅ~ん、 ふふ――――だったら 桐乃に言いつけちゃおうっかな?」

「………………く」

「う・そ・――――お兄さん、 なんて顔してるンですか・・・もう」

「………………」

俺は一体どんな顔をしてたんだろう?


「だ、だからデートする時はその相手だけを見てあげてくださいね、
 わかりました? 」

「へーい。
ってかさ 何か今日のあやせって本当に先生みてぇだな」

つーか、 今の俺ってデート指南受けてる幼稚園児の悪ガキの気分だぜ


「・・・・アハハ、 案外当たってるかも知れませんよ?」


「なぁ、 あやせのその格好ってさ………………もしかしたら」

こんな俺でも そろそろあやせの極秘『作戦』の全容が
何となくだけど分かっちまってきていた。
同時に、 そのせいで罪悪感やら何やらが一気に
俺の心の中を占領しようとしていた。

俺は何とかあやせの表情を読み取ろうと、 あやせの方に向こうとした時

「せっかく、 プラネタリウムに来たんだから ちゃんと見ましょうよ」

「…………確かに、 そうだな」

俺はしょうがなく言われたとおりにする。

「・・・星ってやっぱり綺麗」

「うん」

「わたし、 冬の空って大好きですよ。
オリオンのベテルギウスとリゲル それに一番キラキラしてる、おおいぬ座のシリウス」

「あやせって若いのに物知りだな」

「小さい時は絵本、 小学生になったら本を読むの好きだったから」

その頃は、 『世界皇帝』とか言ってた男 高坂京介


「俺なんか自慢じゃねぇけど 中学になるまでサンタを信じてたし
どう考えても天動説の方が説得力があると思ってたし
それに雪だるまって―――――いや」

「・・・・雪だるまって?」

「いや、恥ずいから…………やっぱ良いって」


「わたし聞きたいです。 お兄さん・・・教えてください。 ね?」

プラネタリウムでカップルシートに座った時点で
かなりの密着状態だったのに、
今は、真っ正面のイチャついてるバッカプルと比較しても遜色ないほど
―――お互いの服がシワになるくらい、俺はあやせにくっつかれていた。


「ゆ、雪だるまって 当たり前の話だけど雪転がして作るだろ?
そしてバケツを帽子にしたり、 ほうきで手を作って………………
外国のだったら、 鼻はにんじん刺したりして」

「・・・うん」

「で、 目は丸い炭で 口は木炭とかだよな……………?」

「そうですね、 わたしもお父さんに作って貰ったことありますよ」

「俺ってさ、 ああいうのって全部空から降ってくると思ってたんだわ」

「雪だるまの目と鼻とか手のパーツが、 ってことがですか?」

「そう、 だから冬の空って すげぇ良い奴だなって思っててさ。
そりゃ、 みんな当然の如く雪だるま作るよなって考えてた。
――――日本と外国の雪だるまの違いも空とか気候の違いみてぇな話」

そういや、『冬将軍』ってアレキサンダー軍曹みたいな見た目の
実在の将軍もガチで居ると思ってたよ、 俺

『世界皇帝』VS『冬将軍』……………とかね

不思議なんだけど、 今日のあやせと話していると忘れていた過去を
よく思い出した。


「ふぅん・・・お兄さんって凄くロマンティストだったんだ」

「桐乃にもドヤ顔で言ってたなぁ…………ああ、恥ずい」

多分、麻奈実やロックにも言ってたな。


「わたし――――そういうお兄さん 嫌いじゃないから・・・・・
わたしの前だったら、 そんな風に恥ずかしがらなくても全然 大丈夫ですってば」

あやせは 俺の黒歴史を、一生懸命に元気づけてくれてるような
でも同時にそんな俺の過去を、本当に受け入れてくれてるような
まるで愛しいって(何か色々恥ずくて俺には判断出来ない)感じで
言ってくれた。


「あ、ありがとう…………あやせがちゃんと聞いてくれて、
そんな風に言ってくれたから、 何か昔の俺もそんなに悪くない気がしてきたぜ」

幼馴染みの家で 俺と桐乃と麻奈実と鼎談してた時には話すことが無かったけど
これもやっぱり 紛れもない俺の過去だった。
――――――高坂京介って言う名前の遠い遠い昔の話。

そして俺は気付くと、 三年前の――――"櫻井秋美"との過去の出来事も
結局、 あやせに話していた。

そんな俺の話をあやせは ただ黙って聞いてくれた。


「お兄さんがせっかく過去のお話してくれたから
わたしも特別に、 昔話しちゃいますね

わたしの初恋のお話―――――――――――――」


その話は…………あやせも俺と同じように、今 突然思いついたのか
それとも今日………俺と会う前からずっと考えていたことなのかは
今の俺には分からなかった。

あやせの話は 初めての『恋』の話であるのと同時に、
初めての『夢』の話でもあった。

そして、
あやせの失った恋と夢の話は淋しくて、 切なくて、 救いがない話のように
俺には聞こえた。


『本物の神様は、 あなたが思ってるほど優しくも無ければ 慈悲深くもないってこと』


それでも結局俺も あやせの話を ただ黙って聞いていることしか
出来なかった。



桐乃はわたしが初めて会った時から、今の桐乃で・・・優しくて 親切で、
一生懸命な努力家でわたしは、 そんな桐乃をすぐに好きになって 同時に憧れました。

―――――桐乃のお陰でちょっぴりだけモデルとして自信が出てきた時に
・・・・そんな時に、 わたしはお兄さんと出会ったんです。

桐乃に大好きなお兄さんが居ると分かった時、
すごく羨ましくて ちょっぴり嫉妬して
わたしにも、 あなたみたいなお兄さんが居たら
もしかしたら桐乃みたいになれるのかな? なんて考えたりもして

お兄さんのことを"お兄さん"って呼んだり、 こんな風に好きになったのも
きっとそういう理由もあったのかも知れません

だから わたしなんかが もう二度と お兄さんをシスコン呼ばわりなんて
出来ないですよね ふふ

そしてだからこそ、 わたしには 桐乃の気持ちってよく分かるんです


今まで色々なことがあったけど

桐乃や加奈子に出会えて、 今のお仕事を始めるようになって
そして お兄さんやお姉さん、 黒猫さんや沙織さん
―――――――――沢山の素敵なみんなと知り合えて

たかだか中学生の分際で 大げさって言われるかも知れないけど、
わたしが生きてきた中で、 一番大切で 一番幸せな時間だって思ってるから


だから――――――――――わたし・・・・・・・



俺はあやせの言葉の続きを ずっと待っていた。
でも………………いつまで待ってもあやせの言葉は出てこなかった。
そして……………あやせが泣いてるのは分かっていた。


同時に、 俺は思った
―――――――――――――人と人との思いの差って、 何なのか? 
ってことを


それは俺の無自覚で派手だった あやせへの好意と、
対照的な、 あやせの静かで確かだった 俺への好意のことだ。

例のストーカー騒動の時
沙也佳ちゃんは 過去のあやせのイメージを、
無理矢理 現在のあやせに押しつけてあんな騒ぎを起こした。
確かに、 あれは沙也佳ちゃんの思いこみって部分が大きかった。

それでも、 あやせの昔の沙也佳ちゃんへの優しさが全部嘘で勘違いとは
きっと言えないと思う。

みんながみんな、 他人を自分の思いこみや願望で見ているから
誤解したり勘違いしたりすることはしょうがないって、
あの時の俺は一応納得していたんだ。


でもさ………………俺とあやせの場合もそれと一緒と言えるのかな?


俺がふざけて『好きだ』とか『結婚しよう』なんて、 ちょっかいをかけなけりゃ
あんな風に散々煽って 勘違いさせなければ…………
あやせに思いこませなければ
こんな風に、 あやせを泣かすことも きっとなかった。

そして、何よりも―――――俺はあやせが桐乃に遠慮して、
板挟みになり苦しんでた事にすら、今の今まで気付いてなかった。

そして今更――――――今頃、 それは櫻井の時も同じだったと気付く
これじゃ、 俺の頭と心はまるで 石ころみたいに からっぽじゃねぇか


後輩を泣かせ、 同級生も泣かせ、 幼馴染みを心配させ、
妹をも不安にさせた挙げ句周りを散々振り回して、
今は妹の親友を悲しませてる

告白してきた女の子を
――――――結果的に俺が振ってしまったその女の子と
今日みたいに楽しく一日デートして、 二人の間に良い思い出さえ作れば
その後は笑って友達になれるなんて思うのは、
100%俺の欺瞞と偽善だった。

俺ってヤツは みんなに良い人と思われたいだけだったんだ。
誰にも嫌われたくなくて、 必死でみんなに良い顔をしていただけだったんだ。


俺は身勝手な最低の………………―――・・・・・・わたし、 お兄さんのそういう所も大好きだったから



        ―――――あやせは俺の頭を優しく撫でた



わたしも同じ  桐乃にも、 お兄さんにも、 誰にも嫌われたくなかった

だから お兄さんは悪くない ぜんぜん 悪くない

わたし お兄さんに出逢えただけで 嬉しかったから すごく すごく嬉しかったから

だから もう良い 

わたし、 お兄さんのこと ちゃんと 分かってるから

だから 全部 全部 もう・・・良いから 

わたしは大丈夫・・・だから 

だから・・・お兄さんも ほら

・・・ね? 


結局、 俺は自分が振った泣いてる妹の親友の胸の中で
優しく抱き締められて、 ただ――ただ、泣きじゃくった。

そんな俺のせいで、 あやせは泣きながら こんな俺の為に微笑んでくれた。


               ***


"Air"


俺達がプラネタリウムを見終えて、 外に出た時の 心の晴れ晴れしさとは
対照的に どんよりと重い雲が完全に、 冬の早い黄昏の空を覆っていた。

俺とあやせのデートも、 もうすぐ終わろうとしていた。
多分、 時間的に考えると次が最後だろう。
でもあやせが望むなら、 門限だろうが何だろうが今日の俺は気にしないつもりだった。

「あやせ、 次はどうする?」


「もう少しだけ・・・・お時間大丈夫ですか?」


「もちろん。 良いに決まってんだろ」


あやせと過ごす一分、 一秒がもの凄く短く感じて、 時間は止まらなくても
せめて 時間が遅く進めば良いのになんて――――無駄なことを
誰に頼んで良いのかも分からずに、 願いたい気持ちになったり
何度も何度も、 携帯で時刻を確認してみたり

考えてみれば
俺とあやせは もう二度と会えない運命の遠距離恋愛中のカップル
と同じだ。

少なくとも 俺達は お互いのことを憎からず想っている。

このデートの瞬間を、 その一瞬一瞬を愛おしく思いながら 過ごしている。

でもこのデートが最初で最後 

賞味期限が一日の恋人の俺たちはこのデートが終わったら……………
恋人として再会することは、 二度ない。


「・・・すごく綺麗」

辺りが暗くなった分、 駅前のクリスマスツリーや 通りのイルミネーションは
輝きを増して 俺たちに幻想的な風景を見せていた。

でも、 そんな風景すら 引き立て役のおまけに思えるほどに…………………
今のあやせは 俺の目には美しく見えた。


「あやせ、 二人で写メ撮らない?」

「良いですよ・・・・もちろん」

時間を遅くすることも、 ましてや止めることも出来ないなら
せめて、 この瞬間を切り取って何かの形に残しておきたかった。

俺って女々しいよな、 本当にそう思うよ

通行人にお願いして撮って貰う。
そして、 あやせが受験勉強中の俺へ 息抜きになるようにと
送ってくれた写メが何枚もファイルされているフォルダに保存した。

女々しい上に―――――節操もない俺

「こんなお願いしてごめんな、 あやせ」

「わたし 言いましたよね? お兄さんのコトはちゃーんと分かってるって。
乗りかかった船ですし、 だから最後までしっかり応援します。
お兄さんがダメって言っても、 それがダ・メ・ですよ?」

「マジで有り難う……………色々とさ」

「気にして頂かなくても結構です、 だって わたしがイヤなんだから。 
どうしても お兄さんのコト、 やっぱりほっとけないですし
やっぱり駄目な子を相手している・・・幼稚園のあやせ先生みたいな?
感じです・・・・ふふ」

そう言ってあやせは笑った。


そんな笑顔のあやせを見ていて、 言葉に出来ない葛藤が
俺の心を駆けた。

いっそ、このままあやせと逃避行…………なんて
(女々しい上に,節操もなく)、ついでに勇気も度胸もまったく無い俺には
…………絶対に無理な話だった。


「ほらっ・・・・そんな顔しないの!
今日はせっかくのクリスマスなんですよ、 お兄さん」

「うん、 そうだな」


「わたしが お兄さんの為に 特別なクリスマスプレゼント、
この後に用意してますから・・・・・ものすごぉ~く 期待してて良いですよ♪」


「マジか…………何だよ?
滅茶苦茶気になるから、 俺にあやせのプレゼント 早く教えてくれよ」

でもあやせは

『ふふ――――――今はダ~メ、絶対に教えてあげない』 と言った。

いくら、 頭が悪くて鈍いアレな俺でも もう分かっていたよ。
あやせの言うプレゼントが 何―――――誰(だ・れ・か・)かってことは、
とっくの昔にさ。


『あーあ、 俺って本当に駄目なヤツだ』――――――って後ろ向きな事を
考えるのは もうこれで辞めにしよう

おそらく 俺と待ち合わせる前から…………あやせが決めていた企みに
まんまと乗って驚いたフリをして………………あやせに礼の一つでも
言えば 今日のことは全て終わる。

こんな俺でも、 あやせは出会って良かったって言ってくれたんだ。

だから 明日からは 俺はあやせのことを今までみたいに、
いいや 今まで以上に応援してやろう

それが、 このお節介で心優しい美少女に 俺がしてやれる唯一のことなんだ。


               ***


でも
その日 俺が あやせのクリスマスプレゼントを受け取ることはなかった。

そして、 結局 また俺はずっと一晩考えることになる
――――――――――――人と人との思いの差って、 何だろう?
ってことを



それは……………おそらくあやせが 俺のプレゼントの為に
妹と電話して 何事か話終えた直後に起きた。
なぜか あやせは全ての表情を無くして 突然 崩れるように
俺の肩に寄りかかってきた。


            『――――――わたしの夢・・・・消えちゃった』


あやせがそう呟いた時、 あやせの頬に大きな雨粒が落ちてきた。
俺は無意識にあやせを身体を抱き締めながら、
暗い色だけの絵の具で塗り潰したような どす黒い空をずっと見ていた。

雨が音もなく、 あやせの髪やコートを濡らしていった。
俺の首筋も雨粒を感じたと思ったら、 それはあやせの涙だった。


さっきあやせがプラネタリウムで 俺にしてくれたみたいに………………

…………俺があやせの濡れた髪をいくら撫でても、
…………赤く上気して潤んだ頬をいくら撫でても、



あやせは、 (二人でホテルに行くまで)絶対に 泣き止まなかったし




降り出した冬の冷たい雨も、 (俺たちが 朝、帰り道の路地裏を歩くまで)
一瞬も止むことはなかった。









おわり

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最終更新:2013年01月13日 03:22
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