変奏曲

356 : ◆36m41V4qpU [sage saga]:2013/01/13(日) 01:07:23.56 ID:iI4haO2p0



――――――――――――あの日の、 すべての子供たちへ





これは、物語が終曲へ導かれる直前で 奏でられることになった

"変奏曲"




           "<Da Capo>"


「ごめん、 あやせ 俺好きなやつがいる」


「それは桐乃のこと・・・・ですか?」


「………………………………」


「答えてっ・・・・・お兄さん、 ちゃんと答えてください」


「桐乃には告白するつもりだ――――――でもきっと俺は振られちまうかもな」


だったら、その時はわたしのこと考えてくれますか?
・・・・・・・・・・・・・なんて死んでも絶対に言えない

その誰かが わ・た・し・ じゃないこと だけは分かっていた・・・から
たとえ桐乃じゃなくても 別の誰かということだけはもう知っていたから

だから最後に、 わたしは自分の為じゃなく・・・・友人のために訊ねる



『だったら・・・・・・・もし桐乃がそのつもりだったら?』



「その時は世界中を敵に回しても――――――――――――」



『世界中を敵に回しても――――――――――――』


                 ***


<数年前>


「世界中を敵に回しても、君とデートしてあげるから」

「お兄ちゃんのうそつきー!」

「お兄ちゃんじゃなくて先生だよ、新垣さん」

「新垣さんじゃなくてあやせだよ、お兄ちゃん」

「あのね、あやせさん」

「あのね、あやせだよ」

「あのね、あやせちゃん」

「あのね、それでいいよ」


「あのね、 あやせちゃん。
先生はね、 あやせちゃんがピアノのレッスンを真面目にやってくれないと
君のパパとママからクビにされて路頭に迷っちゃうんだよ」

「路頭に迷ったら、うちの おうちにお婿さんに来たらいいよ
 結構お金持ちだよ」

「悪いけど、 僕はまだ結婚したくないんだよ」

「お兄ちゃん、 ちょっとわがままだよ」

「あのね、 こうやってレッスンする様になって結構経つけど、
ビックリすることに僕は君がまともにピアノに触れてるのを
まだ見たことがないんだけどな」


「レッスンなんて必要ないもん」

「わかった わかった。
だったらこの楽譜の曲を――――僕が最初に会ったとき君に聞かせた曲を
あやせちゃんが完璧に弾きこなしたら、次のレッスンの時にでも
君のパパとママに結婚のお願いをすることにしよう。
これでどうかな?」


                 ♪♪♪


「…………か、完璧」

「うちのパパって礼儀正しい人が好きだから、挨拶する時はちゃんと正装してきてね
お兄ちゃん♪」

「驚いたな。もしかして、 他の人にもレッスン受けてる?」

「ぶぅ~! あやせ、お兄ちゃんひとすじだよ! 浮気なんてしないもんっ」 

「………………参ったね。 僕、 自信なくしそうだよ」

「お兄ちゃん、 すごく自信持って良いと思うよッ!
それと・・・・・あやせは、 新婚旅行は国内でいいからぁ」


「と、取り合えず結婚の前に、もっとお互いを知り合う為にデートしよう?」




「ぶぅ~! これのどこがデートなの!
お兄ちゃん、 今日はクリスマスだよ、 恋人がホテルでお泊まりする日なんだよ?」

「僕はここでデートしたかったのさ。
どうしても、 あやせちゃんにここを見て欲しかったからね」

「ぶぅ~~!
しかも、 何であやせが子供達相手にピアノなんて演奏しなくちゃいけないのぉ?」

「あやせちゃん、それ ピアノのペダルじゃなく僕の足だから踏まないで。
と、とにかくさ そう言わずに、 これが夫婦の初めての共同作業みたいな
ものって言うじゃない?」

「ゼンゼン意味わかんなーい」


「僕は小さな子供たちが音に触れて楽しんでくれると嬉しい。
だから…………時々こんな風にして、 みんなの前で演奏してるんだ。
あやせちゃんがお手伝いしてくれると、 僕としても助かるんだけどな」

「ふぅーん、でもこの子達ってだぁれ? 何でパパとママが居ないの?」


「この子達は僕の家族。そしてここは僕の育った家」

「家族ってなぁに?」


「あやせちゃんにはまだ…………ちょっと難しいかな
とにかく、 僕はこの子達のことが大好きなんだ
もちろん、 あやせちゃんのことも同じくらい大好きだよ」

「お兄ちゃんって、 ろりこんさん?
あやせ、 子供じゃないよ! もう大人のれでぃだよぉ」

「そうか…………そうだったね、ごめん。
でもね、 僕はどうしてもこの子達に君の音を聴かせてあげたかったのさ
だって………………僕は君の弾くピアノが大好きだから」


ちょっと前まで、 わたしはピアノなんて大大大嫌ッいだった。

わたしの両親はその当時忙しくて、わたしの演奏をちゃんと
聴いてくれることはただの一度もなかった。

本当に聴かせたい人に聴かせることが出来ないピアノは
わたしにとって、自分は孤独だと確認させるだけの
冷たい黒い箱でしかなかった。

次々にレッスンにやって来た家庭教師のピアノの先生たちは、
生意気で心を開こうとしないわたしに、 ピアノを心から憎んでいるわたしに、
最初は戸惑い 最後は苛立って結局やがて来なくなった。



―――――そして最後にやって来た先生が彼だった。


「おまえは可哀想なやつだな、 よしよし」

彼は最初に来た時から変な人だった。
わたしへの挨拶も そこそこにピアノを撫でて一人で喋り始めた。


「ピアノに話しかけても、 お返事が返ってくるわけないよ」

「そうかな?
 僕にはピアノが君に嫌われて悲しいって言ってるように聞こえるよ」

「バカみたい」

「バカかどうかはやってみれば分かるさ。いくよ、 相棒」


「・・・・・それで本当に先生?」

彼の演奏は小学生のわたしが聴いても(多分誰が聴いても)酷くて
おまけに、 ところどころ音まで外していた


「実はさ……………僕って褒められて伸びるタイプなんだ」

「・・・・・・頑張って、 おじさん」

「こ、これでも……………ギリギリ10代なんだけどなぁ」

今度は間違えなかったけれど、全く心のこもってない演奏だった。
しかもそれはさっきの間違った音よりも、 わたしを何倍も不快にさせた。


「もう良いよ、 辞めてっ!」

「う~ん、 やっぱりダメだな。
これは僕よりも相棒が原因かもしれないな」


「・・・・なぁにそれ」

「君はどうしてピアノを両手で弾くか知っている?」


「・・・・旋律と伴奏で色々な和音やリズムを作るため」


「残念、 それだと半分しか正解じゃない」

「ふ~ん・・・じゃぁ、なぁに?
きゃぁ――――」

おもむろに近づくと、 彼はわたしの手を片手でギュっと握ってきた。

「――――――なにするのぉ! ママに言いつけるからっ!!!!」


「こうすると…………暖かいよね?」


「だ、だからっ?!」


「こうすると…………もっと温かいよね?」

更に彼はわたしの手に両手を重ねて撫でた。
彼の触り方があまりに自然だったから、
わたしは彼の手を振り払うことが出来なかった。

「・・・・・(ぷい)」


「僕の知ってるピアノ達は、 みんな寒がりで寂しがり屋ばっかり」


「・・・ピアノはピアノだもん」


「そんなことないさ…………ピアノにだって心がある。
だから僕じゃなく、 やっぱり君が撫でてくれた方がこいつの機嫌が直ると思うな」

「・・・・・・・」



「………………ピアノが怖いかい?」


「別に・・・・・・どうでも良いだけだよ」

でもわたしは、 結局・・・彼の挑発に乗って撫でた。



不思議な音色だった。
本当にピアノが喜んで笑っているような音だった。

とても優しい音色だった。
今思えば(おそらくその時だって)彼の演技だということは分かる。
でもそんな下手なお芝居ですら、
信じてしまいそうになるくらい素敵な調だった。


そして何より彼が楽しそうに弾いている姿は、
あれほど憎かったピアノへのわたしの中の憎しみをきれいに消してしまった。



本当はピアノだって、 ずっとずっと一人で練習してたんだ・・・・・
誰かにちゃんと聴いて欲しかっただけ

―――――寒がりで寂しがり屋なのは、 本当はピ・ア・ノ・じゃなかった。



そして・・・その時を境にして苦痛でしかないレッスンの時間が
いつの間にか本当に待ち遠しくなった。

わたしが一番嫌だった時間が、 一番愛しい時間に変わった。


先生の演奏をずっと聴いていたくて、色々理由をつけてはほとんどの時間を
彼の演奏を聴く時間にした。

先生が帰った後は先生が弾いてくれた曲を何度も何度も練習した


先生と過ごす時間は、 ずっと幸せな夢を見ている気分だった。

ピアノとちゃんと仲直りして、 好きになれた自分が誇らしく思えた。
そう思わせてくれた先生がもっと好きになっていた。


彼がわたしの初恋の人だった。


        彼とずっと一緒にピアノを奏でいたい


―――――――――結局、 それが叶えられなかったわたしの夢だった


                 ***


「―――――――――ゆめ?
あなたはこの反転した高次元の存在であるわたしの夢を
訊きたいと言うのね?」

ダメ・・・ですか?


「人間の分際でまったく……………身の程知らずも甚だしいわね。
でも良いでしょう、 これをお読みなさい。そして感想を聞かせなさいな」

え? わ、わたしの感想ですか?


「そうよ、私は率直なあなたの意見を必要としているの」

そうですね・・・う~ん、 さっぱり意味が分からなかったです


「っぐ、
よくお聞きなさい…………スイーツのあなたは日本語の記号としての
表層の文だけしか追ってないから、 私の高位な文脈の流れと
高等な行間との相克する意味がまだ素直に受け止められてないのよ」

えー?・・・・わたしは率直に意見を言っただけなンですけどぉ


「ふっ ま、まぁ良いでしょう、 スイーツ向けに甘ったるい内容も
書いてみたから、こっちもお読みなさいな」

アハッハハ・・・・黒猫さん わ、わたし・・・・お腹痛いです


「あらあら、 そんなに顔を歪ませて笑ったら可愛いお顔が台無しよ」

すみませんでした、 わたし 黒猫さんのコトを見くびってました


「まだ頭は下げなくて良いわよ。 だってそれは未完成の不完全品なのだから」

え? こんなに面白いのに・・・?


「それはあの女との合作なのよ」

でもでも、 これは桐乃だけの力じゃないですよね?
それに桐乃は親友なんだし・・・・・・・だったら、 気にする必要なんて


「そうね……………例えば、新垣あやせは 高坂桐乃とセットじゃなければ
モデルとして成立しないと言われたら、あなたはどう思うかしら?」



「私は決めているのよ。
私を認めないこの世界の愚鈍な奴らに必ず私の実力を見せつけて、
完膚無きまでに叩きつぶし鉄槌も下し、 最後は必ずひれ伏せさせる事を、 ね。
そして………………これがあなたが私に訊ねた質問の答えよ」


「そして………………この夢は友情とは関係ない。
いいえ、違うわ―――――――全然(ぜ・ん・ぜ・ん・)違うわね。
私が一番認めさせたいのは他の誰・で・も・な・い・高坂桐乃という
存在なのだから。
友だからこそ譲れないことが、 何があっても絶対に譲ってはいけないことがある」


黒猫さん、 ごめんなさい 


「フフ 本当に良いのかしら、 オタクや中二病患者は嫌いだったのではなくて?」


本当に、 本当にごめんなさい


「こちらこそ…………わ、悪かったわ。
これで引き分けということにしておきましょう。
……………それに私の方こそ、 あなたを少しだけ見直したわよ。
個人的にはモデルなどには何の興味はないのだけど、滅多に他人を褒めない
あの女が珍しく、 あなたの事を自分に匹敵するモデルだと褒めていたわ」



  それが・・・ "わたしに唯一残った夢"



「う~ん………………夢かぁ 夢だよね。
そうだねぇ…………難しいことはよく分からないけど
わたしはね、 わたしが作ったお菓子を食べてくれた人が喜んでくれて
それで笑顔になってくれたら嬉しいなぁって思ってるよ。
こんな答えだとダメだったかな?」


「―――――――これは誰にも話したことなかったんだけど
実はね、 きょうちゃんなんだ…………………。
わたしに お菓子屋の娘に生まれて本当に良かったって思わせてくれたのって
わたしに そのことを分からせてくれたのって、 きょうちゃんだったの。
ああ……わたしって本当はお菓子が 自分の家族が大好きなんだってこと。」


「小さいときは、 わたしって『お菓子なんて大嫌いッ!』
て言ってたんだけどねぇ。
あやせちゃんには想像出来ないかも知れないけど………………
昔のわたしってすごくおてんばで女の子らしいことよりも、
男の子に混じって外で遊んで身体を動かすことの方が好きなような子だったんだ」


「でもある日、 わたしが親と大喧嘩して家出した時
わたしのことを一生懸命に探してくれて、 一晩中ずっと一緒に居てくれて、
それから一緒に親にも謝ってくれて………そして、こんな風に言ってくれたの
『麻奈実はお菓子みたいだって、 派手じゃないし目立たないけど
一緒に居るとホッとして温かい気持ちになれる』って」

「だから わたしはきょうちゃんがヒーローなんかじゃなくっても
ダメな男の子でも別に全然良かったんだと思うな………ううん、そうじゃないね 
ずっと ずっと、きょうちゃんはわたしのヒーローだったんだね、 きっと」


「でも もうそんなこと
きょうちゃんは忘れちゃってるかも知れないけどね…………ふふ」



あのね・・・・・桐乃にお願いされたら、 お兄さんの為なら
モデルのお仕事のことなんて・・・・自分の夢のことなんて
本当にすっかり忘れちゃう、 わたしって本当にダメな子なんだ


桐乃にお兄さんのお世話をお願いされた時だってそうだったんだよ?


でもね、 これからは桐乃を目標にして頑張るから、
桐乃がちょっぴりでもライバルと思ってくれるように
認めてくれるように一生懸命に頑張るからさ

それにね わたしは黒猫さんと違って桐乃とセットでもすごく嬉しいんだ
全然イヤじゃないの

だから、 これからは精一杯頑張るからさ 桐乃に負けないように頑張るからさ 
だから桐乃が海外に行ってもわたしのこと忘れないでね



・・・・・・・これがわたしの大切な夢だから


"それに・・・・・・"

"わたしが桐乃とお兄さんのことを応援してあげる"

"だってお兄さんは―――――――――――――"



『世界中を敵に回しても――――――――――――』


                 ***


「・・・・分かりました。 お兄さんに好きな人がいることは」

「本当にすまない」

「謝らないでください。
 ・・・・・その代わり最後に、 わたしのお願いひとつ聞いて欲しい」

「言ってみてくれ。俺に出来ることなら何でもするからさ」


「お兄さんがお時間取れる時で良いから・・・・わたしに一日付き合ってください」


「………………分かった」


「そんな顔しないで・・・・・ください。
わたしはお兄さんと出会えて本当に良かったって思ってますから、 ねっ♪
本当に――――――心から本当にそう思ってますから」

「………………あ、ありがとう」

「ハァー、まったく・・・何で振ってる方のお兄さんが泣いちゃうんです?」

「ごめん」


その時は 不思議ともう わたしの瞳から涙が流れることはなかった。
もっと泣いて、 号泣して、 慟哭してしまうかもしれないなんて考えていたけど
こんな風に振られることに覚悟が無かったわけじゃないから・・・



「おはよう、 桐乃」

「おはよう、 あやせ。あっれ~嬉しそうだね、、、なんか良いことあった?」

「ううん・・・・そんなことないよ」

「、、、そ、そっか」


だから、
わたしはこの泣き虫のお兄さんとあの素直になれない妹の為に
何かしてあげたいと思った。

この優しくてお節介な・・・わたしの大切な兄妹に、
わたしが叶えられなかった『あの時』と『この時』 の夢を託そうと思った。


「あのね・・・・・わたし 桐乃に贈り―――――」

「ちーす、 桐乃に、 あやせ。
 加奈子さぁ………………宿題してねぇから写させてくれョ」

「こらっ、 加奈子っ!
わたしはちゃんとお勉強しないとダメだよって言ってるよね?
中学3年生を2回するつもりなの・・・・・・? あなたはっ!」

「あやせ様……………どうか加奈子にお慈悲をォ、
ってかさ、 あやせ おまえ……………ソレどぉったの?
あーもしかして失恋でもし―――ぁった(パチン)痛ってぇな!
なんで………………桐乃が加奈子を殴るんだよ?!」

「加奈子、、余計なこと言わなくて良いから勉強するよ。
このあたしが直々に、 あんたにレクチャーしてあげるからさ。
感謝しなさいよね、、わかった?」


「加奈子の夢は最強のアイドルだっつーの。
アイドルは、 ちょっとくらいお馬鹿な方がキモヲタ共には受けが良い――――――」


「加゛・奈゛・子゛!
夢があることは・・・・すごく良いことだよ。でもお勉強は別だからねっ!」

「ひぃ…………でも加奈子勉強したくないでござる 勉強したくないでござる」

「「あっ―――逃げた」」


「桐乃追っかけてっ!」

「おっけ!」

「ハァハァ…………こ、こっち来んナ!!」


「「アハハ」」


これが―――――お兄さんに告白して断られた後、
桐乃達と過ごした何気ない日常で――――同時に、
わたしにとっては大切な日々。

『わたしは・・・・もう大丈夫』そう心の中で何度も自分に言い聞かせたんだ。



お兄さんは受験生だから、もちろんスケジュールを
合わせなきゃいけいないのはわたしの方だった。


だから深い意味なんてないつもりだった、
単にお兄さんの予定を聞くだけの電話のつもりだった。


なのに――――――それなのに


『もしもし、 あやせ』

「こんばんは、 お兄さん・・・・ちゃんとお勉強して――――――――」

涙はこの時、 溢れる様にとめどもなく出た。
カッコつけても、 平気なふりしても、 わたしってやっぱりダメな子なんだ。


『ど、どした?』

「・・・・・・ゴホゴホ、 ご、ごめんなさい、、咳で」

滑稽にも涙声を誤魔化す為に大げさに咳き込んでから一旦電話を切った。
メールしようとしたら画面に涙が落ちてきて、 手間取ってわたしが送信する前に


『後で、こっちからかけ直すから』

とメールが届いた。
しばらく経ってからまたメール


『今、 かけても良いかな?』

―――――――――この人は気付いてるんだと直感的に分かった。


本当にいつもは超がつくくらいに鈍い癖に、
こんな時は誰よりも優しくて思いやりのある人なんだ。


結局、 その日はとりとめの無いお話をして、
お互いに少し笑って電話を切った後、 またわたしは泣いた。


<次の日>


「Whatever fate may befall all I know is
that the gift of love is the greatest gift of all」

『う~ん、 愛の運命は過酷な贈り物ってこと?』


「あーあ、お兄さん、 英語は嫌いでもちゃんとお勉強してくれないと困ります。
って言うか、 この時期になっても この程度も分からないなんて絶望的ですよ」

『さーせん』


「お兄さん、 覚えてますか?
わたしがお仕事を休んで、お世話したことを・・・・・。
わたしの時間を無意味になんかしたら――――――――」

本当は全然違う
お世話することが、 お仕事よりも何よりも楽しかったんだ。

もしもわたし達が一緒に暮らしたら・・・・こんな感じなのかな? なんて
自分でも滑稽で笑ってしまう妄想をしてた

お兄さんのアパートへ行く時は、いつも小躍りしてスキップしながら歩いていた。
帰る時は、 いつも後ろ髪引かれる思いだった。


用事もないのにアパートの前で、
お兄さんの部屋の灯りをずっと見ていたこともある。


絶対に無理だと分かっていた。
でもずっとずっと この日々が続けば良いと思っていた・・・・願っていたんだ



―――――――――でもそんなわたしがお仕事を休んでる間に桐乃は

留学していたブランクなんか全く感じさせず、 この時期に海外へ行く話が
持ち上がること自体がもちろんその証拠でもあるのだけど・・・・

桐乃が陸上だけに打ち込んでた間、
こんなわたしでも、 自分のお仕事に多少の自負はしてたつもりだった。
桐乃の分まで、 密かにわたしが頑張るという決心もしていた。


だけど、 そんな決心なんて おこがましい・・・
わたしの独りよがりでしかなかったと認めざるを得ないほど
たった一ヶ月の間で周りを納得させ、 わたしも納得させ

―――――――わたしの本当の目標が誰だったのかを否が応で思い出せた


たとえ絶対に桐乃には勝てなくても、 本当はわたしの方こそ
今の残された時間を・・・・・全力で頑張らなくちゃいけなかったんだ


"でも・・ね"


<また次の日>


『どうだ?』

「―――――――全問正解です」

『やったぜ!』


"お兄さんに取っては、 こんなこと受験勉強の息抜き以外の
意味はないことなんて、 他には何の意味もないことなんて
・・・誰よりもわたし自身が一番よく知ってるよ"


「頑張ったお兄さんに・・・・・・ご褒美あげる」

『あやせ………………この写メ?』


「わたしは推薦でもう高校は決まってるし、 今の時期は比較的時間も取れるし
だから・・・・しょうがないから時々相手してあげます。
お兄さんのお世話したことが無駄になっちゃったら、 わたしが一番イヤだから」


"でも今はまだ良い・・・・・・よね?
こんなことしても、 わたしだって何処にも行けないのは、 
ちゃんと分かってるから"


                 ***


お父さん、 お母さん・・・・お話があります

こういうものが全部悪いもの・・・じゃないの

これはわたしのお友達にとっては、 すごく すごく大切なものなんだ

だから、 わたしにとっても・・・これはもう汚いものじゃない


わたしの話・・・・ちゃんと聞いて

ねぇ、 お父さんとお母さんは覚えてる?

わたしがピアノを弾けなくなったときのこと

わたしが笑えなくなったときのこと

わたしがずっとずっと泣いていたときのこと

あの時、 わたしを助けてくれたのは・・・・わたしを笑顔にさせてくれたのは
このお友達なんだ


わたしが尊敬する・・・わたしの何よりも大切なお友達なの


                 ***


<再び 過去>


「コンクールってなぁに?」

「ピアノの上手な子の天下一武道会みたいなこと」

「お兄ちゃんってオタクさんなんだ。
お父さんが大人にもなって漫画やアニメを見てる人には
近づいちゃダメって言ってた」

「それは す、すごい偏見だな。
まぁ…………と、とにかく出てみない?」

「あやせ、 興味なーい」

「う~ん……………残念だな。
僕のツテでもう一人くらい予選を受けさせてあげることも出来たんだけどね」


「ほかの人ってだぁれ?」「え?」「・・・・女でしょう?」 「え゛?」

「お兄ちゃんのうわきものっ!ぶぅ~!」

「違う、違う………………僕の妹だよ」




「ふぅ~ん、この子がお兄ちゃんが教えている子供?」

紹介された女の子も先生のことを"お兄ちゃん"と呼んでいた。
そして ひと目見た時からこの人も先生が好きなことはすぐに分かった。

「・・・・・」

「でもこんな小さい子が、 本当にコンクール出る意味あるのかな?」

「新垣さ………あやせさ…………あやせちゃんは
僕が教えてる子の中で一番弾ける子だと思ってるけどねっ、
ね? あやせちゃん」


わたしは黙ったままピアノの前に座ると、
いつものように優しくピアノを撫でてから
自分が弾ける曲で一番難しいものを選んで一気に演奏した。

先生の妹が驚いた顔を見て、 わたしはとても愉快だった。
わたしの先生への思いが、 今日会ったばかりの彼女に負けているとは
その時のわたしは微塵も考えてなかった、 きっと思いつきもしなかった。

わたし達はこうしてコンクールの予選に出ることになった。
コンクールに出場出来る年齢制限の中で、 わたしが最年少で
彼女は最年長だった。

彼女は何年も連続でコンクールに出ていて、それでも本選へ通過出来たのは
一番最初に出場した年の時だけだった。


先生の前で二人が課題曲を練習している時、 彼女だけがよく詰まった。
わたしが器用に演奏すればするほど彼女は初歩的なコードで躓いた。


ある日、先生が用事で居なくなって二人っきりになった時に言われた

「アンタには夢があるんでしょ?」

「あたしから全部取らないで!」

「あたしからお兄ちゃんまで取らないでっ!」


後で分かったことは
先生がいずれ海外の音楽学校に留学する予定であること
彼女も同じ道を歩けるように一生懸命に努力していたこと

彼女はその奨学金を得る為に、 コンクールで全国大会まで
勝ち進んだ上で入賞するする必要があったこと
そして、 その年が彼女の最後のチャンスだったということ


あの時、
彼女がピアノを弾いている時の顔は先生に出会う前のわたしの顔に似ていた。

先生が側に居るのにそんな顔になってしまう彼女を見て
わたしは子供ながらに気の毒に思い始めていた。


「お、お姉ちゃん・・・ピアノ撫でてあげたら、 ピアノはちゃんと応えてくれるよっ」


「………………アンタって、 良い子なんだね。
あやせちゃん………………初めて会った日のこと、ごめんね」


「ううん・・・あやせ 気にしてないから、 だいじょうぶだよ」


先生の妹は本当はすごく優しくて、 そして・・・とても繊細な人だった。

だからわたしは、 いつの間にか先生のことを"お兄ちゃん"と呼ぶのを辞めた


「お姉ちゃんって・・・お(兄)、 先生の妹なんだよねぇ」

「うん…………そう」

「でも でも 兄妹は結婚できないよぉ?」

「ふふっ……………あたし達は出来るの。
あやせちゃんの方こそ お子様は結婚出来ないんだよ?」


「で、出来るもん あと、4ねん か5ねん後には・・・・」


「おいおい君達、 お願いだから真面目に練習してくれよ? 
頼むから……………ちょっとは推薦してる僕の身にもなって欲しい」


「「……………アハハ」」



ある日、 先生の"家族"の前で演奏した帰り

「先生、 わたし・・・・・わたしね
わたしと同じ子供なんて嫌いだっだけど、今は好きになれたよ」

「あの子達も、 あやせちゃんのことが大好きだよ」


「・・・・だからわたし、将来 保母さんになりたい。
淋しそうな子が居たら、 わたしが笑顔にしてあげるつもり!」


「あやせちゃんなら、絶対に素敵な保母さんになるさ。
だって…………僕がもし子供なら君に教えて貰いたいくらいだもの」

・・・・きっと、 筧沙也佳さんが好きだった『新垣あやせ』はこの頃のわたし



「あっ、
 でもその前にお兄ち・・・ ダーリンのお嫁さんになるんだけど、ねぇー♪」

「だ、ダーリン?
 は、はは……………確かに そ、そうだったね」


本当はもう"お嫁さん"の夢は半分以上諦めていた。


彼と同じくらい彼の妹が凄く好きになっていたから・・・・・・・
だからどんな関係でも"この兄妹"の側にずっと居られるなら
それだけで良いと思っていたんだ。



<そして数ヶ月後>


「おめでとう! 二人共予選通過してたよ」

「やったね! お姉ちゃんっ♪」

「………………うん、 あやせちゃんもおめでとう」

本選に彼女が選ばれたと聞いた時は、 自分が選ばれたと聞いた時よりも
何倍も嬉しかった。

きっと その頃のわたしはピアノそのものよりも、
ピアノを通して出逢ったこの兄妹の方が大切になっていたから。

だからハッキリ言えば初めから、自・分・の・結・果・には興味が無かった。

自分よりも他人のことを思いやる・・・言葉にすれば、美しいことだった。
でもわたしのそれは結局、美徳であるのと同時に彼女への
同情であり優越感だった。

今考えればよく分かる、でも子供だったわたしにその区別なんて無かった。


大して思い入れの無いコンクールに適当な気持ちで出場して
簡単に予選を通ったわたしは、 もうピアノを撫でることはなく
一人で黙々と練習することに対して煩わしさを感じていた。



そんな傲慢だったわたしに、神様は一番残酷なやり方で罰を与えた



<コンクールの本選当日>


確か・・・・あの日もこんな風に雨が降っていたクリスマスだった。


その選考の厳しさと格式の高さで名を馳せていた
コンクールのジュニアの部で本選に選ばれたのはわたしを含めわずかに数人。
もちろん、その中の一人がお姉ちゃんだった。

本選は予選の成績順らしく演奏の順番は一番最後がわたし、
その直前が彼女だった。

技術と言う点ではきっとわたしは彼女の足下にも及ばなかったに違いない。
わたしと彼女の年齢の差はもちろんのこと、 普段の練習だって
彼女は命を削る様に、 真摯にピアノの前に向かっていた。


――――――それでも超えられない何かがあるとすれば・・・・・・


コンクールでの彼女の演奏が終わったとき、 このままなら彼女の優勝に
違いないと確信出来るほど、 その日の彼女の演奏は鬼気迫るものがあった。
今までわたしが彼女の演奏を聞いた中で、一番上手く完璧に弾きこなしていた。


そして最後に、 わたしの演奏の順番になった。
馴れないドレスに身を包んで、 会場の最前列にいる両親を一瞥すると
久し振りに、 ピアノをゆっくり撫でてから演奏を始めた。

両親が聴いてくれていると思うとやっぱり嬉しかったし、
ホールで多くの観客の前で――――生まれて初めての晴れ舞台で弾く状況は
わたしの気分を高揚させた。

純粋に楽しんで、 何も考えずに演奏が出来た―――――その筈だった。


だってこの曲を間違える筈がない、 なぜならこの時わたしが弾いていた曲は
先生が初めてわたしに弾いてくれた曲だったから。



でも、 彼女に同情していたわたしは・・・・・傲慢にも――――――――
曲の最後の最後 "<Coda>"の部分で、 一瞬だけ分かり易く故意に
テンポをずらした。



ずっと一緒にレッスンしていた先生とお姉ちゃんはわたしの行動に気付いていた。
それでも彼女が優勝出来れば、 全て丸く収まるとわたしは思っていた。

子供だったわたしは、 自分の行動がどんなに残酷なことなのか、
どんなに相手を傷つけることなのか・・・最初から全く考えもしなかった。



そして
コンクール本選の最優秀賞受賞者発表と全国大会への出場資格者が
発表された時、わたしの名前が呼ばれ、 彼女の名前は呼ばれなかった。

両親は心から喜んでくれて、 名前もよく知らない親戚の人たちも褒めてくれた。
でも、 その時のわたしにはもう何の意味も無いことだった。


彼女の完璧な演奏よりも、 わたしの手心を加えた中途半端な演奏の方が
勝っていたという現実を前にして、 わたしはようやく自分の愚かな
行動に気付いた―――――――でもその時には全てが手遅れだった。


会場でわたしが彼女を最後に見た時

『もう………………ピアノの声聞こえないんだ』

と人目も憚らず泣いていた。


先生は泣きやまない彼女をずっと抱擁していた。

結局、 わたしが何を望んでも―――――何を望まなくても、
わたしが何をしても―――――何をしなくても
最初からずっと・・・先生はお姉ちゃんのものだった。

先生にとって彼女こそが

『――――――世界中を敵に回しても』守るべき存在だった

最初から、 わたしにはピアノしか残されていなかったんだ。



先生との最後のレッスンの時

先生は一言もわたしを責めず
ただお姉ちゃんの分まで、わたしに頑張って欲しいと言った。

『あやせちゃんの手は、 色々な人の思いと心で繋がっているんだよ。』


『だから――――優しい今の君のまま、 これからもピアノを続けて欲しい』



ずっと―――ずっと後で、彼女がピアノを捨てたことを知った。

・・・・・そして先生が彼女の為に留学を取りやめたことも



ピアノさえあれば、またあの楽しい気分を思い出せると、わたしは思っていた

でもダメだった。

いくらピアノを撫でても、もうそれは前以上の冷たい箱でしかなくなっていた。

そして・・・あの親密で優しい音色を二度と取り戻すことはなかった。

それがわたしの才能の限界だったのかもしれない


でも たとえ、 どんな結果になろうと、 わたしがあんなことさえしなければ


先生が自分の夢を諦めることも

彼女が永遠にピアノを失うことも

わたしが永遠にピアノとあの兄妹失うことだって


この出来事が、 本当にわたしの行動が原因かどうか・・・それは問題じゃない。

―――――わたしは、 わたし自身の欺瞞がどうしても許せなかった


                 ***


結局、わたしはどうしようもない子供だったんだ。

何かを、 誰かを好きと言う気持ちを、 ちゃんとした形で
持ち続けることが出来ない

簡単に周りの状況に流されて、 自分のしっかりとした強い意思が持てない。

本当に自分の大切な物を最後まで理解出来ない・・・そして守ることも出来ない

――――――――だから平気で誰かの大切な物を傷つけることが出来る



この時から自分が子供であることを、 わたしは何よりも呪うようになった。


そしてわたしは・・・笑えなくなった。

いつも、 いつも・・・・泣いていた。


そんな時 桐乃に・・・・そしてお兄さんに出逢ったんだ。


あれから・・・・色々なことがあった。
楽しいこと、 辛いこと、 葛藤したこと、 笑ったこと、 泣いたこと
でもそのひとつ――――ひとつが、 今のわたしには愛しい大切な記憶。

だから今度こそ、 わたしの大切なものを失わないように
余計なお節介ということは分かっていても、
何かわたしに出来ることをしてあげたい。


桐乃が本当にお兄さんのことが好きなのは分かっている。
だから今度こそ間違えない―――――間違える筈がない。


今度こそ、誰かの大切なものを守れるように
今度こそ、誰も傷つけずに済むように


                 ***





そして
――――――――あの時の、桐乃との電話


            "<Vide>"


―――――――――――――――――――――――――――――――――――
あのね、、あやせにだけは本当のことを言っとくね
あたし、 今のまま負けたままだと悔しい、、、だからリベンジするつもり
もう一度だけ陸上を真剣に頑張ってみる。
今度はあ・い・つ・の為じゃなくて、自分自身の為に自分の夢の為に挑戦する。
だからあやせは、、あたしの分までちゃんとモデルの仕事を頑張ってね
―――――――――――――――――――――――――――――――――――


・・・・わたしの夢――――わたしと桐乃の夢・・・・




           ち が う        




これは・・・・・・違う、 これは桐乃の・・桐乃だけの夢だ



わたしの夢なんて別に・・・・・最初から桐乃は
はじめから・・・・これはわたしの夢じゃなかったんだ


ああ、そうか・・・・・・・そうだった


桐乃はわたしとは・・・違う。 
桐乃はどんな逆境も困難も必ず乗り越えていく。
いくら挫折してもいくら落ち込んでも、 最後には必ず自分の力で立ち上がる。


自分の夢や未来のことを、 誰・か・の・せ・い・にしたりなんかしない


わたしなんかじゃ
―――――絶対に敵わない
―――――隣に並ぶことはおろか、 同じ道にすら立てない
―――――最初から居る場所も、 見ている場所だって違ったんだ



『友だからこそ譲れないことが、何があっても絶対に譲ってはいけないことがある』

そしてわたしは、 きっと黒猫さんともお姉さんとも・・・・違う。


わたしは独りよがりに勝手に空想して・・・また自分の夢を他人に重ねて
他人の夢の中へ逃げようとしていただけ

自分の絶対に叶・え・ら・れ・な・い・夢に、 体良く言い訳を予め作っていただけ

『あの時』の自分と結局、 何ひとつ変わってなかった。



――――――わたしの夢・・

『――――――わたしの夢・・・・消え』

「――――――わたしの夢・・・・消えちゃった」


「――――――………………やせ、あやせ?、おい! あ・や・せ・!」

「・・・・・」


「………………あやせ?」




わたしのゆ・め・――――――そうだった

―――――――わたしだけ・・・・・わたしだけの本当の夢は



『お兄さんを諦めず、 桐乃の友達であることも辞めない・・・諦めない』


アハハハ

何て・・・なんて、 わたしは傲慢で
どうして、 いつも―――いつも・・・・・こんなにも愚かなんだろう? 

だったら、
わたしはお兄さんを失っても、 今まで通り都合の良い友達のままで居られた?


ニコニコ笑って、 わたしじゃない別の誰かとお兄さんを心から祝福出来たの?


―――――わたしの思いはその程度だったの?


そして―――――――桐乃の・・・・黒猫さんの・・・・お姉さんの
――――――他のみんなの思いは、その程度(と思っていたの?)



嘘が嫌いだった、 何よりも・・・・・・

でも

『嘘』と言うなら・・・・・自分にもう嘘は吐けない 絶対に吐きたくない



ねぇ 先生――――・・・・お兄ちゃん 

  『この二つの手は何の為にあるの?』

メロディとコードで、和音と倍音を紡ぐため?

誰かの左手と自分の右手を繋いで、違う誰かの右手と自分の左手を繋いで
みんなで仲良くお手々を繋いで、 お友達になるため?

自分が繋いだ誰かの手―――――その誰かが果たせなかった夢を繋ぐため?



ちがう――――――自分の大切な夢がこぼれ落ちないように
何が遭っても・・・・しっかり抱き締めて守るため

気まぐれで残酷な神様から―――――わたし以外の誰か(だ・れ・か・)から
絶対に奪われないようにするためだったんだ



だから・・・・・・ もう、 わたしの手に

あなた以外の何も(な・に・も・) 誰も (だ・れ・も・)

触れられなくなってしまってもいい


これから先、 ずっと 誰かに卑怯者だと蔑まれ続けても良い

これから先、 一生 誰かに嘘吐きだと罵倒され続けても構わない

これから先、 全ての人に軽蔑されて・・・二度と誰からも相手にされなくても

そんな些細(さ・さ・い・)なことなんて、 最初からどうでも良かったんだ



「もっと・・・・・ギュってして」

「…………………………」

"お兄さんは、 何も言わなかった。"

"でもちゃんと、 わたしのことをしっかり抱き寄せて抱擁してくれる"


"そして・・・優しくわたしの髪を撫でてくれる"



わたしの ふ・た・つ・の・手・は ・・・指先は―――――
わたしの髪の毛からつま先まで わたしの身体のすべて・・・ あなたに捧げる

"彼の気を引くために、 イヤイヤするように何度も首を振って甘える"



もっと あなたに・・・触れたい  わたしに、いっぱい触れてほしい

"わざと泣き顔をジッと見せて困らせて、 もっとわたしの言いなりにさせる"


"彼は泣きやまない・・涙で濡れたわたしの頬を、
温かい手でゆっくり優しく触れた"


              だから
          他には・・・・・もう何もいらない 



わたしの心は・・・・今までの――――これからの記憶も、感情も、意識も
ぜんぶ・・・・・あなたに献げる

"わたしは彼の掌を取ると、 コートを開いて
無理矢理その手を・・・わたしの胸に押しつける"



もっと あなたを知りたい わたしのことだけ見て欲しい   

"どんなに手を動かしても、 手を振り払おうとしても・・絶対に許してあげない"


              だから
         もう・・・絶対にこの手を離さない




            "<Coda>"  



「ねぇ――――お兄さん、 ホテル・・・・行きましょう?」


「―――――あや………………」



「プレゼント・・・・お兄さんへのクリスマスプレゼントに―――――」


「………………せ?」



『―――――――・・・ わ・た・し・を・あ・げ・る・』






            "<Fine>"




   たとえ、 ―――――世界中を敵に回すことになったとしても








おわり

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最終更新:2013年01月13日 05:06
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