221 名前: ◆5yGS6snSLSFg [] 投稿日:2010/12/04(土) 19:06:42.14 ID:ckuC63na0 [6/15]
ちょっと今までとは書き方変えてみた
もし読みにくかったらごめんさなさい
一応5巻の頭くらい想像してます
いつものように二人そろって下校する最中、俺はこう切り出した。
「そういえば、お前もうすぐ誕生日だよな」
「うん、そうだよ~」
いつもの間延びした、しかし聞くだけで不思議と落ち着く返事。
「何か欲しいもんとかねえの?今年は受験勉強とかで世話になりそうだから奮発してもいいぞ」
そう、俺はがらにもなく麻奈実に誕生日プレゼントを買ってやろうとしているのだ。
今まではあまり気にしなかったし、本人曰く「そんな気遣わなくていいよ~。気持ちだけで十分」
とのことだったので、一言おめでとうと言っておしまいだったわけだ。
「そんな気遣わなくていいよ~。気持ちだけで十分」
今年も変わらない予定調和。
今までの俺ならこのまま引き下がるわけだが、今年は…少し違う。
俺が望んだ凡庸で普通な人生ってのは、他人の好意に甘え続けたり、毎日をだらだらとすごしていただけでは手に入らない。
桐乃達と接することでそれがわかった。
桐乃のおかげでそう思えるようになったんだ。
これに関しては感謝しないとな。
「お前こそ気遣うなよ。なんでもいいからとりあえず言ってみろって」
222 名前: ◆5yGS6snSLSFg [] 投稿日:2010/12/04(土) 19:12:02.31 ID:ckuC63na0 [7/15]
こうは言ったものの、麻奈実にこう言ったところで高価なプレゼントは絶対に要求しない。
もちろんわかってて言ったわけだけどね。
そうでなきゃ俺もあんな大口はたたかないよ。
もし桐乃に同じことを言った場合、きっととんでもないものを要求されるだろうな。
「う~ん、ほんとになんでもいいの?」
「おう」
「じゃあ、私、『きょうちゃん』が欲しいなぁ」
「はぁ!?な、何言ってんのお前!?」
こんな人通りの多いところでなんてことを言うんだお前は!
お隣の奥さんとかいたらどうするんだ!?
「え?あ、そっ、そういう意味じゃないよ!?きょうちゃんとは一緒に寝ただけでまだそんな…」
「お願い!それ以上傷口を広げないで!!」
こいつの天然っぷりは普段こそ俺の心を落ち着かせてくれるわけだが、たまにこういうことがあるから恐ろしい。
「くっ……じゃあどういう意味なんだ?」
「あ、あのね。前にきょうちゃんから枕もらったでしょ?」
ああ、あれね。
そういえばそんなこともあったな。
こいつの言う枕ってのは、以前俺が麻奈実に避けられていると誤解した際に、詫び状がわりとしてプレゼントしたうさぎの抱き枕のことだろう。
なんでもアニメキャラらしいのだが、俺も詳しくは知らない。
223 名前: ◆5yGS6snSLSFg [] 投稿日:2010/12/04(土) 19:16:24.77 ID:ckuC63na0 [8/15]
「…実はあっちの『きょうちゃん』、使い過ぎたせいか、最近くたびれてきちゃって…」
申し訳なさそうにうつむく麻奈実。
そういえばあの抱き枕をきょうちゃんって呼んでたっけ。
って言うか枕が使い過ぎでくたびれるって……一体どういう使い方をしてるんだお前は。
枕愛しすぎだろ。
まぁ、一応使ってくれてるみたいだし、プレゼントした側からすると喜ばしいことだけどさ。
「そうなのか。で、新しいのが欲しいと」
「うん。あ、でも今の『きょうちゃん』もちゃんと一緒に寝るよ?『きょうちゃん』が二つあれば今の『きょうちゃん』の負担も軽くなるかなぁと思って」
色々とカオスな台詞だな。
俺多すぎだろ、一体どこのファーストチルドレンだよ。
っていうか次もきょうちゃんと名付けるのは決定済みなの?
…もはや俺の突っ込みスキルでは対応できない。諦めよう、そうしよう。
「今度はどんなのがいいんだ?」
「きょうちゃんが選んでくれたのなら何でもいいよ?」
「わかった、なんか適当に探しとくよ。でも後で文句言うなよ?」
「うんっ。ありがとう、きょうちゃん」
いつものゆるい笑顔を向けてくる麻奈実。
この笑顔のためなら抱き枕くらいいくらでもプレゼントしてやるよ。
224 名前: ◆5yGS6snSLSFg [] 投稿日:2010/12/04(土) 19:21:26.80 ID:ckuC63na0 [9/15]
俺は自宅へ帰ると、早速プレゼントする抱き枕を選ぶべく自室のPCを立ち上げる。
実は、先日、沙織からPCが送られてきて二人で一日かけてセッティングしたところだったのだ。
俺が今日、誕生日プレゼントの話を持ち出したのもネット環境が整ったからである。
桐乃が留学中の今、ネットが使えるようになるのは非常にありがたい。
やっぱり自分専用のPCがあるって素晴らしいな。色んな意味で。
「さて、今度はどんなのがいいかねぇ」
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「…今回はどれもびりっと来ねぇ」
以前プレゼントを選んだときは『きょうちゃん』を見た瞬間に麻奈実が喜んでくれそうだと直感できた。
しかし、今回はなかなかそういうブツに巡り合えない。
「あ~、駄目だ。ちょっと休憩」
226 名前: ◆5yGS6snSLSFg [] 投稿日:2010/12/04(土) 19:27:32.80 ID:ckuC63na0 [10/15]
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「………来た。びりっと来てしまった。くそっ、なぜこんなので……」
休憩がてらニュースサイトを巡回していたところ、俺はいかにもあいつが喜んでくれそうな抱き枕を発見した。
しかし、これは……
PCの画面には、半裸のメルルがプリントされた抱き枕のサンプル画像が写し出されていた。
このメルル、誘惑するような表情をしているせいか妙にエロい。
なぜこんなものにリンクしているページを見ていたかは秘密だ。
「期間限定……か」
普段ならこういったものはあいつが勝手に自分で買うので、目にも留まらないか留まっても放置する。
しかし、その桐乃は今アメリカにいる。
まさか留学先で受け取るわけはないだろうし、かといって自分がいない間に自宅宛てで注文なんてこともしないだろう。
そして俺がメールで聞いたところで、読まずに削除されるのが関の山である。
桐乃の人生相談のおかげで、俺の人生は大きく変わった。
ヘンテコな、だけど気のいい連中と知り合ったり、コミケに連れて行かされたり。
あげく人生観まで変わっちまった。
でも、おかげで俺の人生には楽しいことが増えた。
だから俺は桐乃に感謝している。
「仕方ねぇ…今回だけだぞ」
俺は海の向こうで頑張っているであろう妹に向けてそう呟いた。
229 名前: ◆5yGS6snSLSFg [] 投稿日:2010/12/04(土) 19:31:48.26 ID:ckuC63na0 [11/15]
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「さて、問題は麻奈実の方だな」
再び麻奈実の方のプレゼントを探し始める。
「お?これは…」
俺が見つけたのは、色こそ違うが『きょうちゃん』にそっくりな抱き枕だった。
調べてみると、どうやら同じアニメのキャラクターのようで、原作では『きょうちゃん』をつけ狙う悪役らしい。
しかし、その実、「きょうちゃん」を溺愛しているというぶっとんだ設定のキャラクターだ。
「なんだこの設定!?子供向けアニメのくせになんて設定してるんだ。…でもまぁ、これならあいつも喜んでくれそうだし、これにするかな」
桐乃へのプレゼントとともに注文する。
あそこの家は我が家と違って、娘や息子宛てに送られてきたものを勝手に開けはしないはずだ。
誕生日当日、学校から帰宅した麻奈実が「わくわく」と言いながら開けることになるだろう。
問題は桐乃へのプレゼントだな。
桐乃宛てに関しては我が家でも開けられずにとっておかれるのだが、俺宛てに関してはその限りではない。
「二つともあいつの家に送って片方だけ回収すればいいか。箱の大きさでわかるだろ」
230 名前: ◆5yGS6snSLSFg [] 投稿日:2010/12/04(土) 19:37:08.20 ID:ckuC63na0 [12/15]
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そして麻奈実の誕生日である五月四日がやって来た。
実は麻奈実にはもう事情を説明してある。
俺にはサプライズとかいう洒落たことはできないし、そもそも「プレゼントに何が欲しいか」
なんて聞いてしまっている時点で、サプライズもへったくれもあったもんじゃない。
案の定麻奈実は今朝からそわそわしっぱなしだった。
帰るころには少し落ち着いてきたようだったのだが、いざ学校が終わると早足で下駄箱へと向かう。
「そんな焦らなくてもプレゼントは逃げねえぞ?」
「うん、でもきょうちゃんからのプレゼント、早く開けたくって」
そんなに期待されるとちょっと困るな。
一応喜んでくれそうな物を選んだつもりなんだが、実のところ前のプレゼントと変わり映えしないわけだし。
今更だけどちょっと不安になってきた。
田村家に到着すると、プレゼントはもう届いていたようで、テーブルの上に未開封で置かれていた。
さすが田村家。
お袋、これが家族というものの本来あるべき姿だと思うんだ。
231 名前: ◆5yGS6snSLSFg [] 投稿日:2010/12/04(土) 19:41:23.02 ID:ckuC63na0 [13/15]
「あ、届いてる。えへへ~、ありがときょうちゃん。早速開けていい?」
「おう」
期待に目を輝かせて開封する麻奈実。
「わくわく……わぁ!『きょうちゃん』そっくりだぁ」
「なんでも、あれのライバルらしいぞ。あれのこと溺愛してるのに付け狙う変なやつなんだよ」
こいつの設定をおばあちゃんにもわかるように説明してやる。
「へぇ~、じゃあこの子は『桐乃ちゃん」って名づけよう!」
「なんでそこで桐乃が出て来る!?」
「あれ?もう一個何か入ってるよ?」
「え?」
ここで俺はようやくあることに気付く。
箱が…一つしかない。
ちょっと待って、ということはあの中に…
「ま、待て!麻奈実!それ以上はストップだ!!」
俺は慌てて叫んだが全ては手遅れだった。
「わ、わわ……」
麻奈実の目には扇情的なメルルがしっかりと映りこんでいた。
当然、俺の秘蔵のエロ本を見てしまった時と同じリアクションをとっていらっしゃる。
くそう、なんでよりにもよってメルルの顔が表になるようなたたみ方で送られてくるんだ!
235 名前: ◆5yGS6snSLSFg [] 投稿日:2010/12/04(土) 19:47:27.18 ID:ckuC63na0 [14/15]
「ち…違うんだ…これには深いわけがあってな?」
言い訳にもならない言い訳を始める俺。
まさか「妹のために買った」なんて言えるわけもないしね。
そんな俺を見た麻奈実は、あの時と同じ様に、菩薩のような微笑みで恥らいながら俺にこう言った。
「……ありがとう。お兄ちゃん」
もう二度と開くまいと誓い、記憶の奥底へと封印したトラウマの扉が音を立てて崩れていく。
俺はその場で号泣したよ。
あれから数週間たち、なんとか立ち直った俺は今日も麻奈実と一緒に登校していた。
「はぁ~」
「朝からどうしたんだ?」
「実は最近、『きょうちゃん』が前にも増してくたびれてて……」
実にわかりにくい台詞だ。
まるで俺への悪口のように聞こえるが、麻奈実はそんなことを言うようなやつではない。
ここでの『きょうちゃん』ってのは枕の方のことだろう。
236 名前: ◆5yGS6snSLSFg [] 投稿日:2010/12/04(土) 19:51:40.65 ID:ckuC63na0 [15/15]
「前からくたびれてたんだろ?それに二つになったらましになるんじゃなかったのか?」
「うん…そのはずだったんだけど、『きょうちゃん』を私と『桐乃ちゃん』で挟んで寝るようになってからは、
くたびれる速さが上がってる気がするの」
だからどんな寝方をしてるんだお前は。
なんだか『きょうちゃん』にとてつもない親近感がわいてきた。
お前も苦労してるんだな…。
「だ、だから……あっ、あのね」
「ん?どうした?」
「今は私も『きょうちゃん』も我慢するから、いつかはきょうちゃんと一緒に…ね、寝るようになりたいなぁ…なんて」
あいかわらずややこしい台詞である。
もはや何を言いたいのかわからない。
「…もう一個新しいのが欲しいってことか?」
「ち、違うもん!もう、きょうちゃんのばか!」
「?」
おわり
最終更新:2010年12月04日 21:59