沙織「タイが曲がっていてよ」:30の桐乃サイド
115 : 以下、名無しにか - 2010/11/11(木) 17:28:42.09 ID:vLAorgNV0
桐乃サイド
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自棄酒、なんて生まれて初めてだった。
お兄ちゃんと沙織の新居。
どれだけ飲んでもいつもみたいに酔えない。
ワインを飲んでも、ビールを飲んでも、焼酎を飲んでも
いつもなら飲まない大吟醸にも口をつけたけどちっとも酔えやしない。
ただ頭の中は車のアクセルを踏みっぱなしにしてるみたいで
なんだかもう訳わかんなくて。
気がついた時には、私はお兄ちゃんの腕に包まれていた。
えっ、やだ、なんで!?
これって、お姫様だっこってヤツ?
私、今、お兄ちゃんにお姫様だっこされてるの!?
なんでなんでなんで!?う、嘘みたい。これって夢?
ううん、夢でも良い。
お兄ちゃんがこんな近くにいるなんて夢、幸せすぎるもん。
ああー……お兄ちゃんって意外と筋肉質なんだぁ。
それに胸板もほどよくボリュームあって……。
「ん? なんだ、起こしちまったか?」
116 : 以下、名無しにか - 2010/11/11(木) 17:29:27.33 ID:vLAorgNV0
「あ……」
「おっと、変態だのキモいだのというのはナシだぞ。
あんだけ酒を呷って潰れる人間が悪いんだからな」
「な、なによ……兄貴面しちゃって……」
ばかばか。またいつもみたいに、お兄ちゃんの前で素直になれない。
そうやってお兄ちゃんに冷たくしてるから、沙織に取られちゃったのに。
でもお兄ちゃんは、態度の悪い私に向かって
兄貴だからな、って笑って言ってくれた。
なんでこんなに優しいの?バカなの?死んじゃうよ?
「ほら」
「あう」
優しく、壊れ物を扱うみたいにそっとベッドの上に私を寝かせてくれるお兄ちゃん。
やだ。ここってもしかして、毎日お兄ちゃんと沙織が寝てるベッド……だよね?
「あ、アンタが寝てるベッドで寝るなんて……サイテー」
「文句言うなよ。ここより上等な寝床はウチにはねーんだ」
また。私ってなんでいつもこうなんだろう。
117 : 以下、名無しにか - 2010/11/11(木) 17:30:16.42 ID:vLAorgNV0
「……桐乃?」
「なによ」
「お前、なんで泣いてるんだよ」
「えっ……」
涙が頬を伝って、熱い。
「み、みん……見ないで……」
「……」
「……ごめん。いきなり」
「うんにゃ、別に」
なんでいきなり泣いちゃったんだろう?訳わかんないなぁ。我ながら。
でも、そんなに長い時間泣いた訳じゃないのに、なんかスッキリした。
「あのさ」
「おう」
「昔、人生相談とかしたの、覚えてる?」
私は、あの頃を思い出しながら喋った。
「懐かしいな」
「あの頃は……いろいろ、ありがとね」
「気にすんなよ。あれはあれで、今となっちゃ楽しかったしな」
「うん」
いつ聞いても不思議な気持ちになる、お兄ちゃんの声。
どきどきしたり、ざわざわしたり、めそめそしたり、いらいらしたり、ふわふわしたり。
男の人は大学にも職場にもいっぱいいるのに、そんなのお兄ちゃんだけ。
118 : 以下、名無しにか - 2010/11/11(木) 17:31:00.96 ID:vLAorgNV0
「ねえ」
「あいよ」
「……お願い、しても良いかな」
「なんだよ?」
「……キスして」
「は?」
恥ずかしい。きっと私、今顔真っ赤だ。
お兄ちゃんはどんな顔してるんだろう。
こんな事言い出す妹に引いてるかもしれない。
目を開けるのが怖い。
けど、すっと空気が動いて、顔の近くに何かが来たのが分かる。
え、うそ、ほんとに……?
ちゅ、と。頬に触れたお兄ちゃんの唇は想像していたよりずっと熱くて、
私は顔だけじゃなくて、体全部がきっと真っ赤になった。
「お、おやすみ」
それだけ言ってお兄ちゃんは足早に部屋から出て行っちゃった。
声を押し殺そうとして、でもちょっと失敗してどもってたけど。
ここのところ、あんまり眠れない日がずっと続いていたけれど。
今日はぐっすり眠れそう。
ありがとう、お兄ちゃん。大好き。
終わり
最終更新:2010年12月10日 02:26