沙織「タイが曲がっていてよ」:202

202 : 以下、名無しにか - 2010/11/12(金) 14:20:24.54 ID:MjI6d/rI0
どうしてこうなった。

どうしてどうしてこうなった。

昨日、親父とお袋は子ども達を残して
2泊3日の温泉旅行へと連れ立っていった。

事の発端は桐乃。
2週間前くらいに夕食の席で突然こうぶち上げたのだ。

「お父さんとお母さんに、旅行をプレゼントさせてください」

贈り物をする人間の言葉としては些か下手に出ている感もあるが
これはウチでは仕方ない。子は親に敬語。特に父親のいる前では。
それが我が家の侵されざる不文律なのだ。

「急になんだ」
「そ、そうよ、どうしたの、桐乃ったら」

動揺しているように見えるが母親は興奮を隠し切れていない。
ここらへん、親父とは違いがありすぎる。

203 : 以下、名無しにか - 2010/11/12(金) 14:21:17.24 ID:MjI6d/rI0
「仕事で稼いだお金を自分のためだけに使う事に少し気が引けるというか……
 要は、親孝行しておきたいなって思ったの」

まぁこの子は、なんつって。お父さん聞きました?なんつって。
母親は1人舞い上がっている。
それに引き替えアンタは、と俺に一瞥くれるのも忘れない。

「あんまりすごい所は厳しいけど……お父さんが2日ぐらいお休み取れるなら
 どうかなって思ったんですが、どうですか?」

乗り気の母親は親父に熱い視線を注ぐ。

「……検討してみよう」

母さんの歓声が上がったのは言うまでもなかった。

そして翌日の夜には早くも有給休暇を取得してくるあたり、
親父は親父で内心喜んでいるのだろう。
可愛い娘の親孝行だからな。受け取ってやるのも愛情だ。

え、俺? いや、まぁ今はそれは置いとこうぜ。

そんな訳で、早速宿に連絡して予約完了。
(桐乃はすでにネットの評判などで宿を決めていたらしい。)

そして冒頭。2人は水入らずで出かけていった。

204 : 以下、名無しにか - 2010/11/12(金) 14:22:05.31 ID:MjI6d/rI0
平日だから俺も桐乃も学校がある。
朝食を食べ、それぞれ登校し、学校では麻奈実や赤城と話し、
放課後には部活に顔を出して黒猫や瀬菜たちと次の企画について論じ、
帰宅した頃には時計は19時を回ろうとしていた。

「ただいまー、っと」

いつものように靴を脱ぎ、麦茶を飲もうとダイニングキッチンのドアを開けると

「お、おかえり……」

台所にはエプロンを付けた桐乃が立っていた。

「お前、何してんの?」

状況を理解できず空っぽになった頭ではそんな言葉が限界で。

「は、はぁ? 夕食の準備に決まってんじゃん。それとも何?
 アンタが作るってーの? 何が入ってるか分かんなくて怖いっつーの!」

いやまぁね。確かにね。俺の質問も悪かったよ。
そりゃあそうだよ。台所でエプロンつけて、包丁で野菜切ってて
何してんのって、見りゃ分かるよね。うん、俺が馬鹿だった。

でもさ。桐乃だぜ? ウチは専業主婦のお袋がいたからってせいもあるけど
桐乃が料理してるところなんて見たことなかったし、想像もできなかったんだよ。

じゃあお前自分で作るのかって言われたら多分カップ麺だったと思うけどさ。

205 : 以下、名無しにか - 2010/11/12(金) 14:23:17.34 ID:MjI6d/rI0
「何よ。じゃあアンタの分はいらないのね」
「いや、いる、いるよ!食べますって!」
「ふ、ふーん。食べたいんだ……アタシの手料理……ふーん……」

なんだよ。食べて良いのか悪いのか分かりづらいヤツだな。
ただ、料理している桐乃の邪魔をするのも悪いかなと思ったんで麦茶はキャンセルした。

「じゃあ、部屋にいるからな」
「う、うん。出来たら、呼ぶから」
「おう」

……桐乃の手料理、か。完璧人間のアイツの事だし。
結構上手なのかもしんねえな。
まぁあんまり期待してそうでもなかった時が辛いし。
毎日20年近く作り続ける母親と比べるのも酷だし。
あんまり上を望むのは止めておこうか。

部屋に入り、着替えを済ませて適当に本なんぞ読んでいると
唐突にドアがノックされた。

「できたよ」

それだけ言って桐乃は1階に降りてしまったようだ。
さてさて。鬼が出るか蛇が出るか。

……ん? これじゃどっちが出てもダメじゃん。
そんな事を思いながら階段を降りるとなんとも良い香りが鼻腔をくすぐる。
そして食欲はドアを開けると嗅覚だけじゃなく、視覚によっても加速した。

206 : 以下、名無しにか - 2010/11/12(金) 14:24:24.21 ID:MjI6d/rI0
「お、おぉっ……」

桐乃は先に椅子に座ってこちらを見ている。

「は、早く席ついたら?」
「あ、ああ」

テーブルに並んでいるのはどれも美味そうだ。
魚の煮付け、おひたし、根野菜の煮物に厚焼き玉子、味噌汁まで完備されている。
ちらりと桐乃を見ると、ジッとこちらを見ている。
これは、先に食べろという事なのか?

「い、いただき、ます……」
「……召し上がれ」

やはり俺が先に食べるようだ。ええい、ままよ!
まず味噌汁。口元に近づけるとふわりと出汁と味噌の良い香り。
具は豆腐とわかめか。ちゃんと綺麗に小さく切り揃えられている。

「美味い」
「ほ、ほん……ゴホン。お味噌汁だけじゃなくて他のも食べなさいよ」

言われるまでもない。
俺は魚の煮付けに箸を伸ばした。
そっと箸を入れると身はほろりと解けるように切れた。
断面から新しく立ち上る湯気がまた食欲をそそるねえ。

207 : 以下、名無しにか - 2010/11/12(金) 14:25:25.14 ID:MjI6d/rI0
「これも美味い」
「え、あ、あの……ほんと?」
「嘘言ってどーすんだよ。すげーうめぇっての。お袋より美味いかもしんねーぞ」

桐乃は顔を光り輝かせて喜んでいるように見えた。

そんなバカな。

桐乃が、俺の妹が、こんなに可愛いわけがない……!

安心したのかようやく桐乃もご飯を食べ始めたのだが、
先ほどの顔を見て何故か顔が熱を帯びているのを感じた俺は
急いで桐乃の手料理をかっ込んだ。

「そんな慌てなくても……」
「う、うるせえ。美味いから食が進むんだよ!悪いか!」
「わ、わるくない……」

食事を食べきって、俺は自分の部屋のベッドに逃げるように飛び込んだ。

208 : 以下、名無しにか - 2010/11/12(金) 14:26:31.79 ID:MjI6d/rI0
あれ以上はヤバイ。桐乃ヤバイ。まじでヤバイよ、マジヤバイ。
まず可愛い。もう可愛いなんてもんじゃない。超可愛い。
可愛いとかっても「あやせと同じくらい?」
とか、もう、そういうレベルじゃない。

そこまで暴走しかけた俺は先ほどの事を思い出した。
あんまり美味くて、良い嫁になれるみたいな事を口走りそうになって
でも咄嗟に急ブレーキを踏んだ。

嫁って。誰のだよ、畜生。って訳だ。
そりゃ兄妹で結婚なんてできる訳ないしさ。
いや、何考えてるんだよ俺は。これじゃあ本当に変態じゃねえか!

でも意識しないようって考えれば考えるほど意識しちまうんだよ。
長い睫毛とか、柔らかそうな赤い頬っぺたとか、滑らかな肌とか、
ふっくらした口唇とか、さらさらした髪とか、すらりと伸びた手足とか、
陸上やって引き締まったお尻とか、キュッとくびれた腰とか、
その割にちゃっかり出てる胸とかさ!

イカン。イカンぞ。これでは妹の身体に発情する変態と罵られても言い返せない!
どうすんだよ。どうすんのよ。どうすんだよコレ!
あーもう、ヌくにも今ヌいたら妹でヌいたみたいな事になって、
そんな事になったら自己嫌悪ハンパねぇぞ!?

「ねえ、兄貴?」
「きっ、桐乃!?」

気がつくと、そこにはドアを開けた桐乃の姿があった。

209 : 以下、名無しにか - 2010/11/12(金) 14:27:31.38 ID:MjI6d/rI0
「どうかしたの……?」
「えっ、あ……いや……」

言えるか。お前に発情しちまったなんてよ。

「ほ、ホントはアタシの作ったご飯、美味しくなかった?」
「な、なんでそうなるんだよ」
「だって……食べ終わるなり部屋に戻ってさ、ちょっと心配になって来てみても返事はないし
 ドア開けたらなんか苦しそうに悶えてるし……」

桐乃の表情は珍しくも本当に俺を心配しているように見えて。
余計罪悪感でいっぱいになった。

「薬持ってこようか?」
「い、いや」

そこまで言いかけて気がついた。
桐乃が、すぐ側に、立っていた。

「桐乃……?」

なんてこった。俺、どんだけ動揺してんだよ。
こんなに側に来るまで接近に気づかないなんてよ。

「あ、兄貴……それ……」
「っ……!」

そう。罪悪感とか自己嫌悪とか関係なく。
俺のそれはギンギンにいきり立っていたのだ。

210 : 以下、名無しにか - 2010/11/12(金) 14:28:13.42 ID:MjI6d/rI0
「え、えっ?」

恥ずかしくて死にそうだ。

「あ、兄貴……」

実の兄が勃起してるところを見せちまうとは……どんだけ気まずいんだよ。
あーあ。これでまた変態兄貴に逆戻りか。つーかもう2度と口きかなくなるかもな……。ははは……。

というか。いつもの桐乃なら変態とか何とか叫んで一撃かましてさっさと退散するだろうに
なんで今日に限ってそういう反応がないんだ?
そんな事を考えていると、何故か桐乃は俺の横に座った。

「き、桐乃? お前何して……」
「あ、あのさ。もしかしてそれ……」

生唾を飲み込む音は、果たしてどちらのものだったのか。

「アタシに、興奮してくれたの?」
「な、あ……」
「そうだとしたら、……嬉しいよ」

そして、桐乃は、俺の口唇に、柔らかい口唇を優しく押し付けてきた。

もう、限界だった。


俺は、桐乃と、そのままベッドに倒れこんだ。

212 : 以下、名無しにか - 2010/11/12(金) 14:29:14.37 ID:MjI6d/rI0
すーすーと可愛い寝息を立てて寝ている桐乃を見る。
コイツってばホントに端整な顔立ちしてるよな。
同じ両親から生まれてどうしてこうも違うかねえ……。

2人とも生まれたままの姿。
2人とも同じ両親から生まれた子ども。

これは決して叶わない、叶ってはいけない想いだったはずだ。
もしかして、桐乃は、昔から俺の事を……。

そんな事を考えながら、俺もまた、深い眠りへとつくのだった。

朝。目覚ましの音と共に起きると、目の前には桐乃の顔があった。

「おはよう、兄貴」
「ああ、おはよう。桐乃。つか起きてたのかよ」
「まあね。でも、ベッドの中で好きな人とおはようって挨拶したかったんだ」

言ってから真っ赤になる桐乃。言われた俺ももちろん真っ赤なんだが。
くすぐったいような、甘ったるい空気が俺の部屋に満ちている。

「学校行かないとな」
「うん。本当は、兄貴と一日ずっと一緒にいたいけど。ダメだよね」
「……それも悪くないけど、親が不在でもきちっとしないとな」

お互いに軽くシャワーして身支度を整え、桐乃の用意した朝食を取る。
やっぱり桐乃の作ったご飯は美味かった。

昼休み。一通のメールはあやせから。
放課後公園で会えますか、という文面だった。

216 : 以下、名無しにか - 2010/11/12(金) 15:12:23.02 ID:MjI6d/rI0
……話の内容が目に見えている気がしたが、だがいつかは通らなきゃいけないだろう。
話せばあやせも分かってくれる、と、良いな。という超希望的観測を胸に。

公園に着いた時にはまだあやせは到着していなかったようだが、
代わりにメールを1通受信した。

『ちょっとだけ遅くなります』

律儀なヤツだ。俺はどのぐらいかだけ聞いておこうと返信メールを

「遅くなりました」

そんな声が、俺の背後から聞こえて。
なんだか背中が熱くて。ぬるぬるしている。
肩が何かに強くぶつかった。

「手を出したら殺しますって、言いましたよね。

 ああ、ごめんなさい」



「もう、聞こえていませんよね」


終わり

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最終更新:2010年12月10日 02:46
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