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SS15いつもの毎日。

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yuiritsu

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SS15


いつもの毎日。いつもの夕暮れ。いつもの私の部屋。
私はギターをいじっていた手を止めて、背を預けていたベッドの上に視線をやった。
そこにはりっちゃんが当たり前のように陣取っている。部屋の一部みたいに溶け込んでいる風景だった。
制服が皺になるのも構わず仰向けになって真剣な表情で漫画を読むその姿に、私はふとため息をついた。
彼女の家に遊びに来ておいて、ひたすら漫画読む人いるかなぁ、普通。
「?」
「……」
突然投げかけられた溜息に反応したりっちゃんと、ぴたりと目が合う。
つまらない気持ちを視線に乗せてにこりと微笑むけれど、まるで気が付かなかったとばかりに漫画へと意識を戻すりっちゃん。
あ、無視された。今のは流石にちょっとかちんときたよ。
私は静かにギターを置いて、寝転ぶりっちゃんの上へと自らの身を投げ出した。
「ぐふおっ」
飛び込んだ先がちょうどお腹の辺りだったので、たまらず身体を丸めるりっちゃんの手から、単行本がぐしゃりと情けない音を立ててこぼれおちる。
りっちゃんの薄いお腹に頭を乗せて、私は唇を尖らせた。
「あーあ、くしゃくしゃになっちゃった。その本買ったばっかりだったのにぃ」
「お前のせいだろーが!何すんだ急に」
「だってりっちゃんずっと漫画読んでるんだもん。つまんなーい」
「私は漫画読む為に唯んちきてんの!」
「ひどっ、何それー!」
「うっせ、文句あんのかこらー!」
上半身を起こしたりっちゃんが、私の肩に噛みついて、何度か甘噛みを繰り返す。
痛くはないけれどシャツを通して伝わる湿った吐息が、なんとなく変な感じ。
「きゃー噛みつかれたー!うい助けてー!」
「へっへっへ、叫んでも誰もこねえぜお嬢ちゃん」
「よだれついちゃうよー」
身をよじって逃れようとする私の脇腹に、りっちゃんは噛みついた口もそのままに手を差し込んで揉みしだく。
「あはは、りっちゃんやめて、それくすぐったい!」
「じゃあもう邪魔しない?」
「しないしない。だから離してよぅ」
「絶対だな」
「ん、ぜったい」
「よし、良い子にしてろよ。りっちゃんはこれから読書タイムだからな」
息も絶え絶えに頷く。勝利を確信したりっちゃんが、無残に転がっている本へと手を伸ばした。
その無防備な背中に、またもや飛びついてベッドへ押し潰す。カエルのような呻き声。
今度こそ非難めいたりっちゃんの視線。
「こんにゃろ、よくもやったな!背後から襲撃とは卑怯なり!」
「だってりっちゃんが悪いんだもーん」
「もう許さん!」
「ひゃあ」
逃げようと身を捩る私の腕を掴んでベッドへ引き倒し、再びくすぐり攻撃。りっちゃんの腰ごと抱え込んで、私もそれに応戦した。
なんだかもうシーツも制服も髪もぐちゃぐちゃになって、お互いがいい加減疲れてきた頃、ふとほっぺにりっちゃんの唇が掠った。
羽根の触れるような、それは軽いものだったけれど、思わずぴたりと二人の動きが止まる。
「……りっちゃんがほっぺにチューしたぁあ」
きょとんとするりっちゃんにちょっとだけ意地悪したくなって、頬に手の甲を当てながら私はわざとらしく騒いでみせる。
「ああん?ちょっと掠っただけだろー。そんなのチューって言わないんだよ」
「へんたいーえっちー!」
「なんだとぅ、そういう事いう奴には口にしてやる。ぶっちゅーってしてやる!」
「やだやだ」
枕に顔を押し付けて、りっちゃんの魔の手から逃れる。ちょっと息苦しいけれど、我慢。
何十分も私を放っておいたりっちゃんへの、ささやかな復讐なのだ。
「あ、こいつ。顔見せろ」
「や」
りっちゃんが、私の背中に体重を預ける。二人の距離が、これでもかっていうくらいにゼロになる。
「またくすぐるぞ」
「やだもん」
「おい」
「いや」
くぐもった声で拒否を示すと、りっちゃんは小さく溜息をついて黙り込んだ。きっと、子供のような仕草に呆れているんだろうと思う。
構ってくれなかった事が寂しくて、構ってくれた事が嬉しくて楽しくて、枕と唇の間に籠る熱が私の体温を持ち上げて、訳も分からず泣きたくなった。
悲しいなんて微塵も感じていないのに、一体どうしてなんだろう。
「ゆい」
ふと、低い声が私の耳元にぽつりと落ちる。あまりに熱い吐息が耳朶を掠ったので、思わず身体がぴくりと震えた。
「こっち向いて」
「……なんで?」
頭の中でかちりと音がする。
「ほんとにしたくなった」
手の平で口を覆い無言で振り返ると、間近にりっちゃんの真剣な顔があって、小さく息をのむ。
りっちゃんの潤む瞳。笑ったり怒ったり泣いたりしている時も、決して消えないりっちゃんの光が、ちらりと揺れる。
私たちのスイッチが入る。その瞬間が、私はお気に入りだった。
「りっちゃんのえっち」
「そんなこと、とっくに知ってるだろ」
りっちゃんが、唇を塞いだ私の手を乱暴に掴んでにやりと笑った。

おわり

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