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SS31家に帰りドアを開けると唯が倒れていたんだ。

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yuiritsu

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SS31


家に帰りドアを開けると唯が倒れていたんだ。

最初は驚いたけど、毎日やるから数日後には「ほら起きろって」と流すようになった。
すると翌日は口から血を流してて、1週間後は白いTシャツが血まみれだったり、どんどん酷くなってきたよ。

最近ではネタがなくなったのか、または煮詰まりすぎて思考が狂ってきたのか。
頭に弓矢が突き抜けていたり、ビニール袋を被っていたり(息してるので思いっきり袋が伸縮している)、昨日は軍服を着て銃を抱えたまま名誉の戦死を遂げていた。
軍服はアーミーショップで揃えたみたいでな。まあ一応無駄遣いしないようにと注意しておいたよ。

「どう思う?」
「どうって言われても……」

昼休み。
私は会社の食堂で梓と昼食を食べながら、ここ数年毎日起きている出来事を話した。

家に帰ると必ず唯が死んだふりをしている。と。

当然梓は驚いてるし話し終わった今でも弁当の卵焼きをつつきながら黙っている。私は唯の手作りの弁当を食べながら梓のリアクションを待つ。

「確かに唯先輩なら気紛れでやりそうですけど」

一旦区切って卵焼きを口に放り込む。

「何年も、となると、何か理由がありそうですよね」

そうなんだよ。
でも訊いても毎回笑ってごまかされるというか話を逸らされるというか、とにかく答えてくれないんだ。

「理由ね…」

考えても何一つ浮かばない。
毎日、何年も、必ず。
私が仕事が終わって家に帰り、ドアを開けたら唯が死んだふりをしている。
理由は私もあると思うけど、それが何なのかわからない。

「面白いから、とか?」

この間なんて、頭に弓矢が貫通したまま夕飯を作っていた。
鼻歌を歌いながら上機嫌で。
顔には血のりがついていたから、少し、怖かった。

「面白いだけじゃ何年も続かないですよ、普通」

じゃあ唯は普通じゃないのか。

と言おうと思ったけど、いつの間にか昼休みの残り時間が少なくなっていたから、私たちは慌てて弁当をかき込んで職場に戻った。
それからなかなか話す時間がなくて、次にゆっくり話せたのは仕事が終わってからだった。
お互い疲れていたし眠かったから話の続きはまた時間があるときに、ということで私は家に帰ることに。



そういえば、春先にダイイングメッセージで「かつお」と書かれていた日があり、今日はかつおのたたきとわかったことがあった。
だから食事中今日のは機能的でいいと褒めた。
しかし翌日ピエロ(ドナ○ド)が倒れていた。唯はすぐ調子に乗るからな。
メイクを落とすの大変だった。

唯は仕事から帰ってきて家に一人でいる間、洗濯や掃除をしてくれている。料理も上手くなってるから勉強もちゃんとしてると思う。

ただ、それ以外の自由な時間は不明だ。
唯の仕事が終わる午後6時から、私が家に帰ってくる午後10時までの間は、約4時間。
家事をしながらでも30分くらいは暇な時間がある。
だからもしかしたら、その時に「今日はどんな死に方をしようか」と考えているのかもしれない。
自分だって疲れてるはずなのに。

唯は老人ホームで介護の仕事をしている。

たまに入居している年寄りの人たちのデータみたいなやつを家で作っているくらい熱心に働いているようだ。
愚痴もたまに聞く。

あの人は数分置きに体の位置を変えないと痛いって怒るから大変だとか、ボケてきた人がもう亡くなったはずの息子の名前を叫びながらうろつくから困るとか、お風呂に入れてあげるときにやたら屈むから腰と腕と太ももが筋肉痛だとか、色々。

夜勤のときは特に辛そうだ。夜に何度も何度もコールを鳴らす人がいるらしくて、定期的に眠気を吹き飛ばされるらしい。
でも最終的には、やりがいがあっていいよ、と笑う。

そんな唯を私は凄いと思う。
唯は昨日夜勤だったから、今日の朝帰ってきて弁当を作った後すぐに眠った。
昼過ぎには目覚めているはず。つまり今日は時間がたくさんあった。
だから、多分。
今日のは力が入ってんだろうな。




ドアを前にして立ち尽くしている私。
さて、今日はどんな死に方をしているのか。少しだけこれを毎日の楽しみにしている私がいる。
よし、開けるか。

「帰ったぞー」

ガチャリ。私はドアを開けた。
目の前にはお手製のワニと思われる生き物に食べられている唯。
なんか面白かったから思わず笑いそうになった。

お金はあまり使ってなさそうだなと確認すると、唯の横を素通りする。

「腹減ったー」
「今日は酢豚に挑戦してみたよー」

振り向くとワニに食べられたまま起き上がる唯と目が合った。なんだこの違和感。

「お、酢豚か」

酢豚とワニの関係は何だ?
いや関係ないか。

「先にご飯食べる?」
「うん、腹減った」
「わかった、じゃあ準備するね」

唯は私の横を通ってリビングに向かう。
その後ろ姿は緑色だった。

唯は私にどうして欲しいのか、そしてこの先どこに行きたいのか、全く分からん。

でも仕事帰りにそれを見たらちょっと和んだり安心したりしているのも事実。
精神的な疲れは家に帰った瞬間に吹き飛ぶ。

「いただきます」

ニコニコと笑う唯を見ていると、私まであったかい気持ちになるんだ。
帰ってこの笑顔を見るために、私は仕事を頑張れる。家で私を待ってくれている人がいると思うと、帰り道の足取りも自然と軽くなる。

「お、美味い」
「本当?良かったー」

一緒に暮らし始めてからは料理の勉強を始めた唯。
毎日頑張って作ってくれていたから、今では私より上手くなっている。
幸せ者だよな、私。こんなに優しくて一生懸命で素直な子が、私だけを愛してくれているんだから。

「いつもありがとな、唯」

日頃の感謝の気持ちを伝える。
唯は手を振って「ありがとうは私の台詞だよ」と笑う。

「私も、いつも律に支えられてるから」

大学の二年生くらいから、唯は私を「りっちゃん」とは呼ばなくなった。
それは私が名前で呼んでほしいと言ったから。
一年くらいは恥ずかしがったりつい癖で、という感じで間違えたりしたけど、今では「律」と呼ぶのが当たり前になった。私ももう呼ばれ慣れた。

「じゃあ、お互いがお互いを支えてんだな」

なんかいいな、夫婦みたいで。
一緒に暮らしているけど入籍はしていない私たちだからこそ、そういう関係に憧れている。

「一心同体なんだね、私たち!」

それはちょっと違うんじゃないか?
って言ったら、唯は笑った。つられて私も笑う。

あー、癒される……。


それからお風呂に入って明日のこととかチェックしてから、布団の中に潜る。隣で唯もモゾモゾとしている。
前に部屋を同じにするか別にするか、という話になったとき、数分間の話し合いの後、同じ部屋ということになった。
同じ部屋がいいと言ったのは唯である。
私は毎日唯と一緒に寝るのが照れくさくて別々にしたかったけど、何年も続けば慣れた。
むしろ隣に唯がいないと落ち着いて寝れなくなった。

「今日も1日、お疲れ様でした」
「お疲れ様でした」

寝る前には必ず、お互いに「お疲れ様」と言う。
そうしたら、明日も頑張ろうって思えるから。
…ちょっとだけ、久しぶりに唯の手を握ってみる。

「どうしたの?」

眠そうな目で微笑む唯は、色っぽい。
いつからかな。唯が大人の顔をするようになったのは。

「どうもしないよ。何となく、触りたかっただけ」
「いやーん」

甘ったるい声が私の耳をくすぐる。
明日は私は休みだから、今日はゆっくり眠ろう。

「唯」

私は上半身だけ体を起こして唯の上にかぶさり、頬にキスをする。
くすぐったいと笑う唯の髪を撫で、今度は抱きしめる。
唯は私の腕の中で満足そうな顔をしていて、もう眠ってしまいそうな感じだ。
でも一つだけ訊きたいことがあるから、我慢してほしい。

「何で毎日、死んだふりなんてしてるんだ?」
「んー…」

私の胸に顔をうずめて目を閉じている唯。
半分夢の中って感じだな、これは。

「律に…ね……」

途切れ途切れの言葉で私に伝える。

「笑って……ほしく、て」

いつも朝早くから夜遅くまで毎日お仕事頑張ってるから、お家にいる間くらいは気を抜いてリラックスしてほしい。
だから毎日死んだふりしてお出迎えしたら、気が抜けるんじゃないかなって。
それと、なんか毎日考えるのが楽しくなってきて、止められなくなったの。

私はね、律の笑顔が大好きだから。
「頑張れ」って言ってくれるから、お仕事を頑張れる。
「お疲れ様」って言ってくれるから、頑張って良かったって思える。
その気持ちを律にも知ってほしいから、私は……。

「………」

そこまで言って眠りに落ちた唯。
私は唯を抱きしめたまま唯の頭を私の腕の付け根あたりのとこに乗せ、目を閉じる。


唯の考えていたことや、唯に想われていることがちゃんとわかった。
伝わったよ、唯。
私も唯の笑顔が大好きだ。
唯がいつも私の背中を押してくれてるんだ。
…惚れ直したっていうか、もっと好きになった。
こんなにも唯が愛しいよ。

「お休み、唯」

明日は何をして過ごそうか。
どこかに出かけるのもいいけど、家でのんびり過ごすのもいい。

……あ、閃いた。
いつも私が仕事で唯が休みってパターンか、どっちも仕事かどっちも休みってパターンが多いから、私だけ休みの明日は貴重な日なんだ。
だから、ちょっとした仕返しをしてみよう。

「愛してるよ」

明日は、私が死んだふりをして唯を驚かしてやろう。

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