SS45
ロミオとジュリエット
「お~、梓来たか」
「あ~ずにゃ~ん」
「ちょっと、やめてくださいよ唯先輩。律先輩も見てないで止めてください」
部室に入ると唯先輩が私に抱きついてきた。
私が2年生になってからは、このやりとりもなんだかお約束になってしまっていた。
力いっぱい抵抗すれば唯先輩を振りほどくことができる…それくらいの力加減で私は抱きしめられる。
「もう、私は練習しますから先輩達は勉強してください」
「あ~ん、あずにゃんのいけずぅ~」
ある程度力を入れて振りほどこうとすると案の定唯先輩は私を解放した。
「りっちゃ~ん、今日家で流し焼きそば祭りやるんだけど来ない?」
「流し焼きそば祭りって何だよ?わけがわからん。私は遠慮する」
「そんな事言わないでよ。今日は憂が純ちゃん家にお泊りで寂しいんだよ」
「だ~、離れろ~…」
私に振りほどかれた後、唯先輩はすかさず律先輩に抱きついて得体の知れない祭りに誘っていた。
律先輩は唯先輩を引きはがそうと必死でもがいているが、唯先輩の腕は律先輩の腰から離れない。
「イタタタ…お前どこにそんな力あるんだよ。行くから。祭りでも何でもするから離してくれ」
「えへへ、約束だよ?」
律先輩が苦しそうに頷くのを確認してから唯先輩は律先輩から離れる。
唯先輩から解放された律先輩は私の居る方向によろけてきた。
「うぇえ、ムギや澪が力強いのはわかってたけど、加減を知らない唯が一番厄介だ。梓はよく毎日耐えてるな」
「私は…」
「あずにゃんには手加減してるよ」
私が答えようとすると唯先輩が割って入ってきて律先輩に再び抱きついた。
自分でも気が付いていたけど、やっぱり唯先輩は手加減をしてくれていたのだ。
「なら私にも加減してくれ~。何で私だけフルパワーなんだよ?澪…いや、ムギならこのくらいのスキンシップは平気かもしれないけど、りっちゃん隊員はもうダメだぁ」
「澪ちゃんは冗談が通じなかった時困るし、ムギちゃんは柔らかい感じがして力いっぱい抱きしめたら壊れちゃいそうだし、あずにゃんは後輩だし…やっぱり、りっちゃんだからだよ」
後半は意味が解らない理由を述べながら唯先輩はさらにきつく律先輩を抱きしめる。
「梓ぁぁ、唯がいじめる~助けてくれぇ」
律先輩が私に助けを求めている。
「嫌ですよ。私にとばっちりが来たらどうするんです」
ここで私が律先輩を助けても唯先輩はおそらく私に何もしない。
それはわかっているけど、律先輩を抱きしめて幸せそうな唯先輩を見ていると、申し訳ない気がしてきて律先輩の手を振り払ってしまう。
「中野ォ…覚えとけよ…くっ」
律先輩を唯先輩から救えるのは結局あの人しか居ないのだから仕方ない。
ロミオが来るまでの辛抱ですから、それまで我慢してください…ジュリエット。
end